乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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第80話 王国本土端防衛戦敗北

 結局途中からペーターとルドルフに抱えられながら、這々の体で駆逐型高速輸送船に帰艦出来た。

 急降下からの直角ターンで、脚は取れるわ腕は千切れるわで散々だったけど、何とか成功したので安堵と共に疲れてしまった。

 

 「手荒な真似をして申し訳ない。君がヘルトラウダ第二王女殿下だね。ヘルトルーデ殿下とは面識があるから、似ているのが良くわかるよ」

 

 俺が近付くと共にエルンストは、大事に抱き抱えていたヘルトラウダを鎧の腕から優しく解放する。

 そこをすかさず拘束しようとしたが、諦観で青褪めた表情をしているヘルトラウダに躊躇してしまい、言葉を最初に投げ掛けてしまった。

 鎧から降りてきたエルンストも察したように、静かにヘルトラウダの脇を固めるように側に控えている。

 似ているとは言ったが、ヘルトルーデは美人と言える顔立ちだが、ヘルトラウダはまだ幼げで可愛い顔立ちだ。

 胸のボリュームがメグ、下の妹のマルガリータに匹敵しそうだ。ヘロイーゼちゃんより大きいな。

 

 「……」

 

 ヘルトラウダは俺の言葉に答えず、奥歯を噛みしめ眉間に皺を寄せた。

 

 (私が捕まるなんて!? これでは公国の悲願が…… お爺様、お姉様、不甲斐ないこのラウダをお許し下さい)

 

 「先ずはブリッジに行こうか。ベアテを呼んでくれ。世話は同じ女性のほうが良いだろう」

 

 ペーターに指示を出して、俺とエルンストはヘルトラウダを連れてブリッジに向かった。

 すると偶々だろう、ベアテ・フォン・ウーゼがブリッジにいた。

 

 「ベアテ、ちょうど良かった。君にヘルトラウダ殿下の世話役を任せるよ。丁重に扱って欲しい」

 

 「了解しましたエーリッヒ様、では、先ずはお茶でも用意しましょう」

 

 ベアテ・フォン・ウーゼ、普通クラス3年生の騎士爵家出身の本家ヘルツォークの寄子である。

 王国直臣の一代限りの騎士爵であるフォンだが、長年代々男系が仕官して騎士爵として家名が残っている家だ。長年の功績により、退官後に小さい浮島を管理しているが、ラーシェル神聖王国の苛烈な攻撃から浮島を守るために先々代の頃、ヘルツォークの寄子となった経緯の家である。

 本家ヘルツォーク内ではまだまだ新参の家と言えるかもしれない。

 ベアテ自身は、藍色の髪を肩口で丁寧に切り揃えた、スレンダーで高身長な知的美人である。

 3年生の3学期なのに、まだ結婚相手は見つかっておらず、本人の希望はヘルツォークの軍人という困ったちゃんである。艦艇員なら問題ないのだが、本人の希望は鎧乗り。

 正直、男に混じって普通の腕では採用不可、結婚して子供を産んで欲しいのが実情だ。ミンチメーカーに女性を突っ込む趣味はヘルツォークには無い。王国軍でも文官は別としても武官は同じようなものだろう。

 せっかく学園に通った座学の能力や魔法の力を鎧以外で活かして欲しい所だ。

 作戦成功で若干俺の気が緩んだそんな折、軽やかだが物悲しい音色が戦闘空域全体を包み込んだ。

 勘の良い者は、その音色に気づいて辺りを見回していた。

 

 「何だ? 笛の音……」

 

 「魔笛の音!? 何故っ! お姉様以外にはもう私しか公国に奏者はいないというのに!?」

 

 これが魔笛の音、豪華客船の時とはまるで別次元だ。嫌な予感で肌が粟立つ。

 ヘルトラウダは先程の青褪めた表情から一変して、驚愕しながらブリッジの窓に駆け寄って行った。

 

 「エト、殿下を見ておけ」

 

 俺はブリッジから前方甲板に飛び降りて後方を身を乗り出して確認する。

 

 「んなっ!? あれが…… 超大型」

 

 戦場の上空、そこに厚い雲が出現すると、戦闘空域がどんよりと暗く太陽光を遮りだす。そして、その突如として現れた雲の中から目測で測る事すら困難な、とてつもなく大きなモンスターが姿を見せるのだった。

 丸い身体にはいくつもの目が付いており、長い腕も生えている。その空を覆う大きな白い身体には血管のようなものが脈打ち、多眼多腕の異様な姿は本能的な忌避感を(もよお)してしまう。

 最早その大きさは下手な浮島領よりも大きく、本体だけで何千、何万メートルあるかすらもわからないモンスターであった。

 

 「撤退だ。ヘルツォーク艦隊にも僕が撤退信号を出す」

 

 俺は急いでブリッジに戻り、光魔法を操ってヘルツォーク艦隊に撤退及び突撃指示を出した。

 

 「誰だかわからないけど、公国の怒りが出現したわ。これで王国もおしまいね」

 

 ヘルトラウダの呟きが、妙に俺の耳に残ったのが印象的であった。

 

 

 

 

 巨大な手の平が神殿の艦隊に迫ってくる。マリエは恐怖で震えて杖を手放してしまった。

 神殿の飛行船がモンスターの大きな手にぶつかり破壊されていくと、周囲の神官と神殿騎士が大慌てで叫び出した。

 

 「聖女様、シールドを!」

 

 「聖女様のお力で、あの化け物をお倒し下さい!」

 

 「聖女様、早く杖を!」

 

 聖女、聖女と五月蠅い周囲に、マリエは泣き叫んで当たり散らした。

 

 「あ、あんなのどうやって倒せって言うのよ!? あたしは知らないわ! “あいつ”が出てくるなんて聞いてないわよ! そもそもあたしはっ! あたしは本物の聖女じゃないんだからっ!」

 

 何を突然言い出すのかと周囲が唖然としていると、マリエ達の頭上を吹き飛ばされた飛行船が通過していった。飛行船が玩具の様に吹き飛ばされ、破壊されて燃やされていく。

 マリエは目の前の非現実的な光景が恐ろしく、恐怖で足が竦んで動けなかった。

 

 「こんなのどうしようもないじゃない! 誰か、誰か助けてよ!」

 

 マリエは涙を流しながら、モンスターから視線を切る事すら出来ないのであった。

 

 

 

 

 エーリッヒから作戦成功と突撃決行後撤退せよとの命令を、光魔法の点滅で受け取った新ヘルツォーク艦隊旗艦の艦長は、即座に艦隊行動に移した。

 

 「あの気味悪い大型に二十隻を突撃させろ! 向かってくるスピードは亀だ、慌てて脱出を見誤るなと伝えておけ! 王国軍へ公用の撤退信号を上げろ。我々も脱出艇を回収したら即離脱する。新ヘルツォーク艦隊は180°回頭せよ」

 

 号令に合わせて五隻は船首を撤退方向に回頭させる。そして船尾の格納庫ハッチを開けて、二十隻からの脱出艇の受け入れ態勢を整えた。

 この艦長はギュンター・フュルストの次男坊である。

 まだ若いが新ヘルツォーク領にて、オフリー関連の影響で民間護衛業者や運送業を辞めざるを得ず、引き取ってきた行き場のない彼等を、新ヘルツォーク軍における艦艇員として、その訓練をエーリッヒから託されていた人物であった。

 本人は22歳とまだ若いが、フライタール戦も艦長として経験している俊英である。

 突撃する二十隻の艦長も本家ヘルツォークの二十代の人員であり、脱出の引き際は弁えていると皆が確信している。

 そもそも本家ヘルツォーク艦隊の各艦には、数十名しか乗艦させておらず、最低限飛ばせるだけの人員しかいないので、彼等が率いれば脱出に慌てる事は無いだろう。こんな状況でも当初作戦案に変更は無いのだから。

 

 「あんなモンスター群の中からお姫様かっぱらってくるとか、エーリッヒ様も若様も意味不明だな。おら、さっさと王国軍に指示だ! 爆発で目くらまししたら、公用信号で撤退は我に続けと打診しろ! あんな鈍間な腕にヘルツォークが捕まったら恥と知れ!」

 

 前面布陣していた王国軍や神殿の飛行船が、次々に破壊されていく中、その上から爆薬を積んだ二十隻が、次々に大空に浮かぶ、多眼多腕の大型モンスターに突撃していく。

 大爆発が巻き起こり、周囲は煙で視界が悪くなっていった。その隙に王国軍も回頭を始める飛行船も出てきており、脱出艇を収容した新ヘルツォーク領の五隻は、撤退の船頭を取る事となった。

 

 

 

 

 撤退後、王都に戻った俺はエルンストとベアテを伴い、ヘルトラウダを連行するといった形で、王宮に足を運んでいた。

 ヘルツォークも招集されていたので、生き残った王国軍の将官と共に報告も兼ねる手筈である。

 新ヘルツォークの代表は俺で、本家ヘルツォークの代表は、成人まもないがエルンストとなっている。

 

 「神殿側は無視するとして、戻ってきたのは王国軍四十八隻、新ヘルツォーク子爵軍五隻ですか…… 本家ヘルツォーク子爵軍は?」

 

 ミレーヌ様が心痛な面持ちで報告を受け取っていた。

 今この場には、報告を受ける側としてミレーヌ様と国王陛下、バーナード大臣、そしてレッドグレイブ公爵がいる。

 対する報告側は俺にエルンスト、王国軍の艦隊司令官である中将閣下がおり、囚われた敵方の責任者としてヘルトラウダ第二王女殿下がいる。

 ベアテはヘルトラウダの拘束をしており、顔ぶれの豪華さに顔を真っ青にしながら足を震わせつつも、何とか直立姿勢を保っていた。

 

 「本家ヘルツォーク艦隊は全艦隊が突貫し、退路を確保するために凄絶な最期を遂げました」

 

 エルンストが沈痛な面持ちで、俺からのカンペ通りに答えている。

 

 「我々王国軍は、彼等の奮戦により戻って来られた飛行船がほとんどです。ヘルツォーク軍に哀悼と敬意を。王国軍は彼等の壮絶な勇姿を忘れることは無いとここに誓いましょう」

 

 中将閣下が泣き出しそうな程、表情を歪めながら本家ヘルツォークの偉大さを報告してくれる。

 実際は死者ゼロなんだけどね。ごめんね。

 しかし、神殿、それに王国軍艦隊の先頭がモンスター群と接していたため、そこに超大型モンスターが頭上に現れた形となり、超大型モンスターの攻撃が届く範囲であった、艦隊前方と中央から右翼と左翼は、一瞬でほぼ全滅してしまったのだ。

 前面展開していた神殿側も、しぶとく逃げ延びた飛行船もあったみたいだが、精々が一隻から二隻ぐらいだろう。

 ファンオース公国艦隊は遅いが、ゆっくりと確実にこの王都を目指して前進している。あのスピードだと、到着までにかなり時間的余裕はあると言える。

 

 「しかし、公国に魔笛が二つ存在し、操れるものはそこにいるヘルトラウダ殿下だというのは理解したが、超大型は殿下を奪ってから出現したそうだが、どういうことかね?」

 

 レッドグレイブ公爵はギロリと鋭い眼光をヘルトラウダに浴びせた。

 ヘルトラウダはその迫力に気圧されつつも、気丈に振る舞う。

 

 「知らないわ。私とお姉様しか魔笛は扱えないはず。公国の重鎮達もそう信じていた。もちろん私達姉妹も」

 

 ヘルトラウダのあの驚愕を見た俺自身も、それは間違いないと感じている。

 まだ公国には、それこそ自国の中枢メンバーですら知らない秘密があるという事なのだろう。

 

 「折角公国の切り札を奪ったと思ったら、結果として無意味であったという事か。魔笛を奪えなかったのが原因という事だな」

 

 国王陛下ががっかりと溜息を吐きながら、こちらの神経を逆撫でるような物言いをしてくる。

 その物言いにはエルンストも中将閣下も、そしてバーナード大臣も目を見開くが、ミレーヌ様が陛下を窘めてくれた。

 

 「陛下、その物言いはあまりにも酷すぎます。現状出来得る最良の結果と言えます。そもそもヘルツォークがいなければ、艦隊は全滅していてもおかしくなかったのですよ!」

 

 もっと言ってやって! 引っ叩いてやって!

 王国、神殿、ヘルツォーク合同艦隊の顛末を報告した後は、レッドグレイブ公爵とバーナード大臣が、王国軍の更なる編成が可能かどうかの検討のため、一緒に席を外した。

 

 「ヘルトラウダ殿下、今はまだヘルトルーデ殿下には会わせられないけど安心していいわ。思いの外、ヘルトルーデ殿下は()()()()、そして()()に王宮での生活を満喫しているわ。こちらが困ってしまうぐらいにね」

 

 ミレーヌ様は嫌味を付け加えて、ヘルトルーデの近況を話している。

 王国貴族の何某かと会うわ、エルフの里に行ったりと確かに彼女は自由だな。

 

 「ご配慮痛み入ります。王妃陛下」

 

 「さて、ヘルトラウダ殿下を部屋へ案内してあげて頂戴。リック君はまだ話があるそうなので、エルンスト殿とそこの騎士爵家の女性は、暫くの間ヘルトラウダ殿下とお茶でもして待っているといいわ」

 

 ミレーヌ様の差配で女中が全員、ヘルトラウダ達の案内に退出し、ここに残ったのは国王陛下とミレーヌ様、そして俺だけとなった。

 元々、報告以外の話し合いの場を頂けるようバーナード大臣から、事前にミレーヌ様の承諾を得て貰っていたが、まさか国王陛下が同席するのは予想外である。

 しかし返って俺には都合がいいので、このまま話を進めるのであった。

 

 

 

 

 「却下だな。そもそもファンオース公国の王国本土上陸で、毎度の事だが各国境近辺に他国が攻め寄せてきている。王宮への救援要請すら辺境の領主達から出てくる始末だ。そんな戦力が本家ヘルツォークに残っているなら、王都防衛に回して欲しいものだな」

 

 作戦原案書をテーブルに叩きつけられた。本家ヘルツォークによる作戦行動を、国王陛下は認めて下さらない。

 

 「あの密約通りに本家ヘルツォークは義務を果たしています! 全滅までしました。これ以上求められるのは密約に反します。それに本作戦は、王国における公国との戦争目的にも合致する筈、もちろんヘルツォークの目的にも合致致します」

 

 「あぁ、あの王家と本家ヘルツォークの密約ね…… あれは酷い内容だわ」

 

 ミレーヌ様は左手で顔半分を覆いながら、顔を顰めだした。右手では作戦原案書を捲って右目はしっかりと内容を把握している。

 器用だな。

 ミレーヌ様も密約内容を知っていたのは驚きだが、だからこそここ数年、陰ながら便宜を図ってくれていたという事か。

 

 「しかし、ファンオース公国艦隊と超大型モンスターをどうにかするのは専決事項だろう。そのための戦力が欲しいのは事実だ。進攻速度の遅さも聞いている。しかし、国境防衛に当たっている王国軍は動かせんのだ。そのような作戦が行える余力があるなら、ラーシェル神聖王国のちょっかいを、さっさと追い払って欲しいものだな」

 

 「本作戦が成功すれば、公国は停戦する可能性は大です。しかもその後の交渉は、王国の長年の目的を果たせます。同時に本家ヘルツォークの悲願も達成できるのです!」

 

 「密約からの解放か。なるほど、道理は通る。貴公が提示してきた作戦は、王国の目的に適うものだと認めよう。しかし、公国が自暴自棄になったらどうする? 王都を蹂躙されるわけにはいかん。その作戦実行許可の命令は出せんな」

 

 王国の目的に適うことは認めるが、許可は出せないだと! くそっ、あくまで王都手前での迎撃が主眼になるか。それは構わないが、密約を形の上では守った本家ヘルツォークは、この同一の流れによる王都防衛は関係ないんだぞ!

 顔に不満を出さないよう必死に堪える。

 

 「貴公は本家ヘルツォークとは形式上関係がない。軍艦級飛行船が無事だったのだったな。当然、王都防衛には出陣して貰うぞ。これは王家からの正式命令だ」

 

 「もちろん、ご命令とあらば、新ヘルツォーク子爵軍は喜んで参陣致します」

 

 国王陛下は愉快気に口角を片方上げて嘲笑った。

 

 「殊勝だな。他の日和った浮島領主にも貴公を見習って欲しいものだ――」

 

 そう言って国王陛下は立ち上がると、ドアに向かって歩いていく。そしてドアの前で立ち止まり、途切れた話の続きを、さも思い出したかのように話し出した。

 

 「――しかし、その作戦案は、王国の公国戦における最終目的に見事に合致しているな。よく少ない戦力でそこまで練れた物だ。見事と言おうではないか。では、失礼する」

 

 女中すらいなくなったこの場は、慣れた手つきで自らドアを開閉して国王陛下は出ていく。

 くっそあの野郎、独断専行しろってか! 

 そもそも密約を守って、形の上では全滅した本家ヘルツォーク子爵軍は王都防衛には使えない。常識的に考えても残った戦力で、国境防衛で手一杯というのが世間の常識だろう。寧ろ形式上は防衛すら危ういのだ。

 だからこそ糞陛下は、本家ヘルツォークが国境でドンパチやろうが、作戦上でドンパチやろうが本質は構わない。糞陛下の本心としては、大いに作戦遂行して欲しいだろう。だからこそ退出前のあの念押しだ。

 最終的にこちらの処分を、あの野郎の胸三寸でどうにでも調整するためだな。

 

 「あ、あの、リック君、あまり無理しないでね。本家ヘルツォークに無理されると私も困るのよ。対ラーシェル神聖王国防衛の要なんだから。ね、リック君も大変な作戦の後なんだから少し休んで。ね!」

 

 こちらを気遣うように眉が八の字になるミレーヌ様は、ただ、ただ可愛かった。

 

 「ミレーヌ様も作戦原案はお読みになりましたよね。王国の長年の目的達成に適う作戦の筈ですが」

 

 「もちろんそれは認めるわよ。でも王家の意向は、やはり国境の防備を今は固める事と、王都手前で公国を撃破する事が主眼となってしまうわ。怖いのはその作戦が失敗して、尚且つヘルツォークがラーシェルに陥落させられる事が不安なのよ。やはり最悪は想定してしまうでしょう」

 

 ミレーヌ様も本作戦の有用性は認めたか。言質は一応取ったが、正式発令書の起草は俺の名前で行って、最悪本家ヘルツォークは、お咎め無しという体裁だけは整えておこう。

 ミレーヌ様の心配なぞ、最初からこちらは考慮している。

 ファンオース公国製軍艦級飛行船十隻を鹵獲しているので、本家ヘルツォーク子爵領の軍艦級飛行船は補給艦を入れて六十隻にも及んでいる。

 この作戦を行っても国境防衛には問題ないのだ。ナーダ男爵もバロン男爵も併せて十一隻は持っている筈だ。しかしこの内容は絶対秘密なので言えない。ミレーヌ様が心配するのが当然の反応と言えた。

 

 「そうですね。取り敢えず私は新ヘルツォーク領で軍備を整えておきます。お忙しい中時間を割いて頂きありがとうございました」

 

 「ご苦労様でした。リック君もヘルトラウダ殿下の所でお茶でもご馳走になったらいいわ」

 

 「エトもベアテもいるので、顔を出してきます」

 

 俺は一礼して覚悟を胸中に宿しながら、それをおくびにも出さずに退出するのだった。




ティナ:ピキーン! お兄様が苛められている!?

ベルタ:貴女は作戦をちゃんと頭に入れているの? お父様とエーリッヒに怒られるわよ

メグ:ティナ姉様五月蠅いからリック兄様の所に行けば? 私がティナ姉様の代わりに乗艦するから。もちろん作戦の締めは私。リック兄様に一晩掛けて褒めて貰う。

ティナ:駄目に決まっているでしょ! わたくしがお兄様に一晩可愛がって貰うんです!

メグ:だったらお父様の言う事をちゃんと聞かなきゃ。リック兄様も悲しむ。

ティナ:わ、わかってますよ! うぅ、このお兄様の枕も旗艦に持っていきますぅ。

ベルタ:はぁ、もうそれぐらい好きにしたらいいわ。14歳ぐらいまではここまでおかしくなかったのに。

メグ:ティナ姉様はリック兄様の実子証明後に壊れた。もう手遅れ。

ベルタ:メグがまともでよかったわ。

メグ:ティナ姉様を反面教師にした。

ティナ:ピキーン! お兄様が年増と二人きりでいる気がする!

ベルタ、メグ:はぁ……

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