乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ちょっと短めですが


第81話 任官

 打ち合わせが終わって退出すると、外には武官の女性が待機していた。

 階級章は中尉、軍部に女性は珍しいが後方、王宮でのデスクワークなのだろうか? それとも作戦参謀本部の誰かの副官か?

 

 「ヘルツォーク子爵、申し訳ございませんが、少々足を運んで頂きたい部屋があります。御同行お願い致します」

 

 何某かの命令なのだろう。時間も特に問題ないし、敬礼付きで言われると断りづらい。参内する手前、略式の騎士服を着用しているから、軍人さんに敬礼されるのだろうか?

 エルンストにはもう暫くヘルトラウダとのお喋りを楽しんで貰おうか。

 

 「わかりました。案内してください」

 

 中尉さんの後ろを付いていくが、そう言えば王宮内をゆっくり歩くのは初めてだな。

 式典の会場は王宮内とはいえまた別だ。

 バロック様式のような巨大な廊下を歩く。採光が計算されつくしたように廊下の中央を強く、サイドを淡く照らしている。

 リオンは結構王宮にお邪魔していた筈だが、そういえば王宮内の様子を聞いたことはなかったな。

 しかも吹きっ晒しではなくガラスが填め込まれているのが恐ろしい。本家ヘルツォークの屋敷も小さな城と呼べる規模だが、外周部の廊下は吹きっ晒しだ。木板で雨風を防ぐぐらいだ。

 ガラスは限られた部屋と、あのテラスに豪華に使用しているぐらいだな。

 小さめだが中尉さんのコツコツという足音が反響するのが、耳心地がいい。環境音楽として楽しんでいると中尉さんが歩きながら振り返った。

 

 「子爵は、足音を立てないんですね。この廊下は足音が立ちやすい構造なのですが?」

 

 「癖のようなものです。逆に気に障りましたか?」

 

 確かに女性の後ろを足音を殺して歩くのは、相手にとって恐怖かな?

 

 「いえ、あまりにも自然で本当に付いてきてくれているのか心配になってしまい…… あ、こちらです。ヘルツォーク卿をお連れしました」

 

 話しながら重厚なドアの前に着くと、中尉さんがノックして俺が来た旨を中に伝えた。

 

 「どうぞ、入りたまえ」

 

 バーナード大臣の声!?

 

 「失礼いたします」

 

 中尉さんに続いて入室すると、声が聞こえた所からも当然の様にバーナード大臣がいる。その手前隣には先程の中将閣下、そして真正面の上座にレッドグレイブ公爵、そしてバーナード大臣の向かいには、あの階級は王国軍の大将閣下。

 入室を後悔してしまった。

 

 「君、お茶を人数分用意してくれたまえ。ヘルツォーク卿、先ずは席に付いてくれ」

 

 中将閣下が中尉さんに指示を出して、俺に自分の向かいの席、大将閣下の隣を指し示す。

 

 「では、失礼いたします」

 

 何だ、何が始まる? 

 バーナード大臣はニコニコしている。中将と大将の両閣下も機嫌は悪くなさそうだ。レッドグレイブ公爵は先程ヘルトラウダに問うた時よりも穏やかだな。

 愛想笑いでも浮かべようかな?

 

 「まぁお茶が来る前の雑談だが、アンジェリカが世話になった。豪華客船でも学園でも。学園で思いつめた表情をして、何やら特待生と何かしようとしていた所を君が諫めてくれたのだろう。護衛から報告を受けている。改めて礼を言おう。今は学園で大人しくしているそうだ」

 

 おまっ!? 護衛がいるんならそいつにやらせろ! 

 まったく、アンジェリカがカッコ可愛いから許してやる!

 実はあの後やっぱり暴走しちゃうかな、などと考えていたが、大人しくしているならいいや。

 

 「いえ、偶々ですよ。もう少し彼女にも事情を話してあげてもいいんではないですか? 思う以上に聡明ですよ」

 

 「ほう、そうか。どうしても子供、娘と考えてしまうが、そういうものか」

 

 十代半ばは、成人しててもやっぱり子供だよなぁ。アンジェリカはそれでも相当しっかりしている方だと思う。お馬鹿ファイブは青春真っ只中だしね。

 しかし、本来は自己紹介などをする筈なのに、それをしないで話を進めてしまうこの異常さが笑えるな。

 バーナード大臣は俺と公爵の関係を知っているから何も言わない。両閣下は俺とレッドグレイブ公爵が、既に知り合いとでも思っているのだろう。

 

 「失礼します。お茶をお持ちしました」

 

 先程の中尉さんが人数分のお茶を用意して、サッと退出してしまった。

 

 「さて、では始めようか。コルテン大将」

 

 コルテン、王国軍の国防参謀長の1人だったかな? 

 大将だと爵位は伯爵か。尉官が騎士爵で佐官が準男爵と一部男爵だっけ。まだ学園でそこは深く習っていないからざっくりとしか知らないんだよな。

 でも結局1代限りだからフォンなんだよな。ややこしいが彼等の爵位は形式上だ。領主貴族が場合によっては王宮から、司令や指揮官に任命される場合があるため、爵位に応じての階級に据えるためだとか。

 王国軍人にとってはいい迷惑だろう。

 普通クラスや上級クラスでも伯爵家の三男以下の男子達は、就職先として仕官が多いから彼等がやたらと詳しい。

 領主貴族合同軍とかだと単純に爵位が序列を決めるし、王国軍との合同だと折り合いが悪い。

 領主達は王国軍の階級を自分達より一段下に見るしね。ティタ○ンズかな?

 王国軍から見ると、寄せ集めの領主軍は意思疎通が鈍く、艦隊の動きもバラバラになりがちなので嫌う。

 だから作戦上、領主軍と王国軍の艦隊を別けることが殆どだ。

 今回ヘルツォークが、王国軍と行動を共にした形となったが、それはかなり珍しいと言える。

 レッドグレイブ公爵から促されてコルテン大将閣下が、咳ばらいを一つしてから本題を切り出した。

 

 「ヘルツォーク卿、貴殿を王国軍国防航空兵所属、名誉准将に任命する」

 

 エレガントだな。

 いやいやいやいやいや、意味不明すぎるが、お義父さんはニコニコしている。

 俺が固まっていると、レッドグレイブ公爵が補足するように説明を始めた。

 

 「浮島出身でまだ学年の1年生だから、名誉階級というのはわからないかもしれないが、上級クラスを卒業する領主達は個人的に言えば強いのだ。王国軍は悔しいだろうがな。そして辺境では王国国境防衛軍と共に戦ったり、独自戦力のみで戦う辺境領主も多い。ヘルツォークやナーダやバロンを想像すれば理解できるだろう――」

 

 確かにナーダやバロンを見ても各当主クラスは、最低でも王国軍における少将以上の力量や知識はあるだろう。あそこは両方とも男爵家なのに異常ではあるが、環境のせいだな。

 

 「――かく言う私も名誉大将の階級だ。レッドグレイブは武門の家柄だからな。話を戻そう。名誉階級は王宮に招聘された場合、階級に応じての王国軍の作戦機密に関与する。領として出陣要請された場合は、あくまで領軍としての参陣で構わないが、同時に招集された場合、その階級によっては王国軍も指揮するという事だ。特に認められた軍事における能力を、王国軍に招き入れるといった理由だな。領主は自領に籠るので、何とかしてその力を活かして欲しいという特例だな」

 

 めんどくさっ!

 俺、もう今度の戦い王家の命令で五隻出すから、後ろでパキュンパキュンしつつ高みの見物をする予定だったのに!

 正直リオンとオリヴィアさん任せで、王都が焼ける炎で芋でも焼いて食ってやろうかと思ってたのに、そんなの任命されたら無理じゃね!?

 

 「今回の防衛戦敗北の件でね、将官や佐官がかなりの数死んでしまってね。王国本土中央軍と言えば聞こえは良いが、今から急いで搔き集める軍人は実戦経験が少ない。国境防衛軍にローテーション配属しているとはいえ、それでもだ。だからこそ君のような経験豊富な英傑が軍は欲しいそうだよ。シュライヒ中将とコルテン大将の推薦だ。名誉階級からは大将であるレッドグレイブ公爵の推薦だね。各部署用の公式書面は全て私が纏めてある」

 

 仕事早いねお義父さん。お義父さんの後押しだと断れないじゃないか。

 そもそもクラリスの家柄の絡みで、伯爵ぐらいまでにはなってみたいと思うが、子爵でも十分なのだ。軍の階級なんか邪魔過ぎて、これっぽっちも要らない。

 しかし、結果論だがあの超大型に対しては、兵士の実戦経験も糞もなかったから、まだ殻が付いたヒヨコ達を投入しておいたほうが王国軍としては良かっただろう。

 兵士の質を充実させたのが裏目に出たか。鎧を出す前に吹き飛ばされて破壊され尽くしたからな。

 

 「私はまだ16歳ですよ。准将ですか……」

 

 経験豊富といっても特殊任務が多いのだ。中尉か大尉でもいいぞ。年齢的には伍長でも問題ない。

 王都の学園卒業後の仕官では、少尉スタートだったか。

 ニンジンいらないよ。

 

 「シュライヒとコルテン大将は戦歴から判断して中将で推してきたのだが、君は鎧乗りでもある。流石に少将以上が鎧に乗って最前線に行かれるのは困るのでね。鎧に乗る立場として最高位の准将に落ち着いたというわけだ。そちらのほうが嬉しかろう。それに小規模だが艦隊指揮も思うが儘だ」

 

 レッドグレイブ公爵が、俺のためにしてやったという風な満足げな笑みを浮かべているが、その髭を抜いてやりたい。

 俺はヘルツォーク内で好き勝手にやるのが好きなだけだ。

 

 「し、しかし領地もまだ得たばかりでこれから大変な――」

 

 「あぁ君の言う通り農政改革が急務だね。こう言っては何だがあそこは特色がない。色々と投資するにしてもまだまだ先。いっそ自給自足体制の確立だけでもいいかもしれないね。アトリーとフュルストで問題なく行える。君のメインはあくまで王都関連の事業だ。真面目に査察しているみたいだが、基本は報告を受けて監査するぐらいだろう。君ならば基本問題ない――」

 

 そう、あの新ヘルツォーク領は、別に鉱山も無ければモンスターが出現するような洞窟も無い。

 強いて言うなら、小麦の質が良さそうな場所と、山間部で蕎麦の質が良さそうな場所があるぐらいだ。輸出するまでには時間が掛かるし、そこまでは全く期待が出来ない。

 本家ヘルツォークに数年後に売れれば良いかな、ぐらいにしか考えることが出来ない浮島だ。

 ドレスデン男爵領が良い参考例で、既に新ヘルツォーク領自体の今のポテンシャルは大体把握している。

 アトリーとフュルストのお陰だが、だからこそバーナード大臣も、あの領自体に投資はしなくてもいいのではないか、と言っているのだろう。

 今のところは俺も似たような意見だ。

 故人だが、旧当代のオフリー伯爵が、中小様々な浮島を集めるのに躍起になっていた気持ちもわかる。

 

 「――領地も問題ないとくれば、今後の事も考えると軍部に在籍するのは良いだろう。何より王国軍もそれを望んでいる」

 

 今後!?

 確かに領地はアトリー、フュルスト、ドレスデン男爵の助力で幸運な事に手離れしているんだよな。

 後は小さな整備工場をもう少し拡大して、ボロでもいいから飛行船五隻の整備メンテと鎧36機の管理。何かあったら、助けてヘルツォークの民間護衛組織に依頼で十分。

 王都で適当に仕事して学園に行って、嫁さん達と寮の自室でイチャラブする予定が崩れそうだ。

 

 「軍部において若さはネックでは?」

 

 俺はまだ逃げることを諦めない!

 

 「シュライヒとコルテン大将、それに私の推薦でそんなものがネックになるわけがないだろう」

 

 レッドグレイブ公爵にばっさり否定された。本当かと思って両閣下を見ても頷いている。

 

 「ではリック君、これとこの書類にサインしてくれ」

 

 ふほっ!?

 お義父さんに回り込まれた! 

 

 「わかりました」

 

 こうして、意味不明ではないが、とてもとても面倒くさい名誉准将とやらに任命されてしまった。




敵機直上急降下する時は、ターニャちゃんの処刑のテーマが頭の中に流れるなぁ。

行け! エレガントスピア!
エレガントスピア! 当たれよ!

リックは現実逃避した。
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