乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
しかし、エーリッヒってヘルツォークとアトリー、それにリオン以外とは、そこまで主要な人物と直接まだ関わっていないんですよね。
若しくは関わり出したかな? ぐらいのタイミングですか。
学園祭いれてもミレーヌ様と言葉を交わしたのだって二回。ローランド込みで三回か。
一回目は描写すらないですから。ヘルツォークの屋敷で軽く触れただけ。
ですので、エーリッヒの評価というよりも背景含めた印象を、ピックアップした人達による語り口調で書いて見ました。
評価は戦果が雄弁に物語ると思いますので。
■アトリー伯爵家、バーナード大臣
リッテル商会の仲介で最初に会ったが、当時はまだ少年だというのに、初対面した時の呑み込まれるような第一印象の感覚は、未だに忘れられないね。
そして、手垢の付いていないヘルツォーク子爵領との貿易許可は、アトリー家にも実はそれなりの財源にもなった。
そう、商取引利権の足掛かりになったというわけだ。私は個人的にもリック君には感謝している。
彼に実子証明を王宮に通して欲しいと頼まれた時は、何故と疑問だったがね。リック君にも内緒で入念に裏取りをして、彼の本当の父親をほぼ絞れた時には驚愕した。
クラリスは当時、王太子ユリウスの乳兄弟であるジルクと婚約していた。ヴィンス殿とは将来的に轡を密に並べるとはいえ、使いどころは難しいが、鬼札を手に入れたとほくそ笑んだものだね。
紆余曲折合ったが、アトリー家にとってはクラリスとリック君が婚約、関係を結んだ事は望外の幸運だった。
アトリーにとって王太子の失脚後における、一番ダメージの少ないファインプレーと言える。
私自身は、リック君は軍閥でも政治でも才覚を放てると確信しているし、さらには鬼札、彼は血筋すらある。
ジルクなどとは、比べるのも烏滸がましい程の人物をアトリー家に組み入れる事が出来たと言える。
私はもしかしたら、アトリーの歴史でも有数の功績を残せたのかもしれない。
後はクラリスが、彼との子供を最低2人は産んで欲しいものだね。
■レッドグレイブ公爵家、ヴィンス
私が、エーリッヒ・フォウ・ヘルツォークについて語るというのか…… それは彼等に対して屈辱と侮辱を与えかねん。
しかし、ここが語る場というのであれば、私が持つエーリッヒという男の印象に付いて、一度だけ語って見るのも一興かも知れぬな。
いや、私が語るというのであれば、彼の母親であるザナと当時の流れその物を語ってみるとしよう。
さて、私がザナからエーリッヒが息子であると聞いたのは、彼が6歳になったばかりの頃だったろう。
勿論、私自身は半信半疑だった。
何故なら、当時のザナは、既婚者であるにも関わらず、ホルファート国王ローランドから王都の大商人まで、無数の交遊関係があったと見ていた。
事実としてあった事だろう。
ローランドはザナにあしらわれていたようだが、懲りずにちょっかいを出していたそうだ。
ザナが結婚する前は、パトロン共のお陰でラーファンの財政もかなり改善していたらしい。
結婚と共にパトロンも離れ、結局ラーファンは散財して今に至るらしいがな。
話を戻そう。
ザナと結婚した頃のヘルツォークのエルザリオ子爵は、当時20代後半。
これはヘルツォーク子爵領が忌避されていたせいもあり、貴族の男子としては、異例中の異例と言える程の結婚の遅さだな。
しかし、ファンオース侵攻戦からまだ数年、男の薫るような色香と凄みを湛えた精悍なエルザリオ子爵は、王都に巣食い、毒網を張り巡らせる傾国の女郎蜘蛛の心を、あっという間に鷲掴みにしていた。
私も国王もその他有力貴族も、皆が呆気に取られたものだった。
しかし、結局ザナは王都に巣食う女郎蜘蛛のまま、死ぬまで影のサロンに君臨したわけだがな。
情けない事に私もザナとの関係を引き摺ったというわけだよ。其れほどの女であった……
私がザナの琴線に触れたのは、レッドグレイブ公爵という立場とそれに付随する力だろう。
ザナは気付いていた。
王宮の予算に左右される一国の王よりも、レッドグレイブ公爵家のほうが、個人的に動かせる金額も軍も強力だと言う事に。
現在のホルファート王国は、国王の強権は驚く程少ないからな。
ザナは力に惹かれる…… いや、力ある物を吸い寄せるような女であった。その力も財力に政治力、武力など多岐に渡った。
ここだけの話、あの女が長年に渡って貢がせた財産は、未だに見つかっておらん。今も王宮のマル秘徴税部門が動いているというのにだ。
死んでも恐ろしい女だな。
ただ、そんな女が個人の強さ、力量と器量のみで惚れた唯一の男が、エルザリオ・フォウ・ヘルツォークという男だったのだ。
私自身戦場で彼とは轡を並べた事があるため、妙に納得してしまったものだが、あの時のローランドの得も言われぬ表情は、未だに酒の肴になるのが笑えるよ。
ここだけの話、ローランドは一度もザナに相手をして貰えなかったようだからな。
ザナがローランドを語る時の口癖だが、「有能は、使わなければ無能と同義」だそうだ。
「使って見せてから、私に甘えにくればいい」本当に横暴な女だよ……
当たり前ではあるが、ローランドにはピッタリの言葉だろう。
このぐらいにしてエーリッヒという男についての私の印象を語ろうか。
先ずは前提として、私の子供として彼が産まれたのは偶然である。だからこそザナも私に会わせないように隠していたのだ。ザナ自身も認めたくなかったのだろう。
それだけあの女はエルザリオ子爵を愛していたのだ。
毒蜘蛛のような女だというのに、何とも度し難いものだな。
正直に言うと彼の存在が公の場合、レッドグレイブ家は割れただろう。ギルバートとは歳が離れているとはいえ、彼の器量は恐ろしい。
レッドグレイブのような歴史ある大家に、彼のような次男の存在は劇薬にしかならん。ギルバートで十分優秀なのだ。だからこそお家騒動どころか戦争になる。
レッドグレイブ公爵家は、エーリッヒに対しては静観するしか道はないのだよ。
無駄に関わるのは、彼の神経にも障るだろう。
仮に言うのであれば、お互いアトリー家を間に挟んだ付き合いが丁度良い。
アンジェリカの件では世話になったし、バルトファルト卿と友人である彼とは、間接的な付き合いがお互いにとって理想的な筈だ。
私とてエルザリオ子爵に対して後ろめたい。
しかし、エルザリオ子爵は既にそのような些事は気にしていないだろう。
彼は私よりも少し年下だが、我々の世代では偉大な大騎士だ。
私が彼に謝罪するのも無礼であろう。
ヘルツォークに何かがあった時に、レッドグレイブだとわからないように支援するぐらいが、私に許される範囲だろうな。
■レッドグレイブ公爵家、ギルバート
私に彼の評価を聞く意味はわからないが、敢えてエーリッヒ卿の印象を言うのであれば、それほど長くはないが述べて見ようか。
伝え聞く武勇に関しては、私も皆と同様に一般的な意見しか持ち合わせていない。
ただ、彼がリオン君と友達と言うのが、レッドグレイブにとっては非常に良い。
そもそも我がレッドグレイブ公爵家は、ヘルツォーク家に対して忌避感は無いのだ。ファンオースとの戦いで昔から戦場を共にするからね。
リオン君と共にアンジェリカには、彼や彼の妹とも仲良くして欲しいと思っているよ。何よりエーリッヒ卿はアトリー家のご令嬢と懇意だからね。
レッドグレイブ公爵家としては、ヘルツォーク家と仲違いしては、絶対にいけない貴族家になったというわけだ。
アトリーが関わるので、王宮内で面倒臭い事になってしまう。
しかし、式典で見たエーリッヒ卿の姿を思い出すに、私も髪の長さをミディアムぐらいにしたほうがいいのかと、何故か考えてしまうね。不思議だよ。
■レッドグレイブ公爵家、アンジェリカ
エーリッヒ?
リオンの事ではなくてエーリッヒの印象を私に聞くのか?
奴も功績のある騎士だから、どうしても功績のあるリオンと比べてしまうが…… どうしたリビア?
お前も私のエーリッヒに対する印象が聞きたいのか? リビアも聞きたいというならば、そうだな……
リオンもそうなのだが、英雄らしからぬ奴だという印象を、学園では最初に持ったのが本心だな。
まぁ、王国の政策や学園そのものが原因だとはわかってはいるつもりだが。
私は、男性の見た目という物にはあまり拘りは無いのだが、それでもエーリッヒは、殿下達に劣らない目立つ容姿だとは思ったぞ。
彼の戦績は勿論知っていたが、学園の最初の頃の印象など、このぐらいのものだ。
それよりも私は、同じ女として、そして女傑としてのティナのほうに興味が強かった。
学園入学前に艦隊戦を経験、更に乗艦した艦の指揮に関わった女性など聞いた事がなかったからな。
私は彼女を純粋に尊敬しているよ。専属使用人を毛嫌いしているのも素晴らしい。
ブラコンを拗らせた只の女性だと知った時は愕然としたが、あのエーリッヒであれば仕方がないとも思ったよ。
私のエーリッヒの印象が変化していったのは、やはりファンオース公国不意遭遇戦からだろうな。
正直に言って、あのゲラットの前に身を出した時は、脚が震えて立っているのがやっとだったが、40℃の熱を推して共に来てくれたエーリッヒとティナのお陰で、心の不安が拭えた事には感謝している。
そして、公国の旗艦でヘルトルーデと話をして知った王家とヘルツォークの密約。
まるでエーリッヒとティナは、私達とは異なる国の人物なのではないかと思わされたよ。
ラファとして慚愧の念に堪えない。
何? そもそも私がエーリッヒをどう思っているかだと? 何故リビアはそんなことが知りたいのだ? 別に男女云々の感情なぞ持っていないぞ。
それでも単純に人物としての印象を知りたいのか…… まぁ、リビアが聞きたいのなら……
うぅむ…… あいつを見ていると、昔ギルバートお兄様の髪の長さがミディアムだった頃を、何故か何回も思い出すな。
あれはギルバートお兄様が学園に入学する頃だな。ギルバートお兄様はその頃から、ずっと髪を伸ばし続けてい――
な!? 何で笑うんだリビア! おい、もう……
■ホルファート王家、ローランド
私にヘルツォークの小僧の印象を語れと。不愉快だな。
まぁ、あいつは人並みに出世欲があるから、私の能力を駆使して、現状程度で停滞させてやろう。
逆にバルトファルトの小僧は出世欲が無く、怠惰に暮らしたいのが在々としている。
ならば私の能力を駆使して、バルトファルトの小僧は出世させてやろう。
そうすれば、あの2人の嫌がる顔が同時に見れるというものだ。
はーはっはっはっはっは!
しかし、マルティーナ嬢は男の理性を失わせる程の良い女だな。
ん? 懐かしい感覚だ……
■ホルファート王家、ミレーヌ
リック君の印象?
ふふふ、初めて会った時は、まだ私よりも背が少し小さい可愛らしい男の子だったわね。
そんな男の子が、ラーシェル神聖王国との壁を担うなんて便宜を図りたくもなるじゃない。
陛下がヘルツォークにはあまり関わるなって言うから調べてみたら…… 絶句したわ。
まるで完全服従させた敵国への無条件降伏のような密約ね。直接的な監視役人を置いていないだけ……
私もレパルト連合王国のためにホルファート王国に身売りしたわけだけど、ここまで酷い国だとは思わなかったわ。
ある意味、厚顔無恥だけど強大な国……
王家のせいとはいえ、浮島の貴族連は忠誠心のかけらもない日和見者ばかり。
ラーシェルへの牽制力を維持するためには、フレーザーではなくヘルツォークに便宜を図るほうが、即効性があったわね。
何よりリック君は素直で従順だったから。
本来ならユリウスと友達になって欲しかったのに、ままならないわね…… あの子がアンジェとそのまま婚約状態であれば、事実を知ったばかりとはいえ、今では必ずヘルツォークも付いてきたというのに。
でもリオン君とリック君が仲が良いのは嬉しいわ。
うふふ、2人ともやんちゃだけど素直で可愛らしいわ。
うふふ、うふふふふふ!
う~ん、こんな感じかなぁ。
お茶紳士先生のリックの印象は、何処かの後書きで書いて見ようっと。
ふと、書いてて思いました。語り口調ですが、彼等に対する聞き手がいるとしたら、この面子だと誰なのだろう? 謎だ。
次話より本編が再開します。