乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
まぁ、ピンクアッシュか。
ゴールド系や亜麻色のキャラが多いから変更したいと思ったのと、ゴージャス感を備えさせたかったのが理由です。
43話と登場人物紹介も変更しました。
大した変更じゃないのですが、すいません。
王宮のご立派な扉が備えてある一室に案内されようとしているが、軍務上呼び出されたためなのか、今回はナルニアも入室していいとの事。
糞陛下とはいえ、大国の国王から呼び出された会議なのに本当にいいのだろうか?
あの糞ランドなら、確かに気にしなさそうだが。
「あ…… あの…… 会議って、国王陛下とですよね……」
可哀想にナルニアは、怯えた表現を顔に張り付けながら、ガクガクと足腰が震えているじゃないか。
何かエロい。
軍事演習場ではかなり泰然としていたが、国王陛下と打ち合わせする一室に同席するなんて、気弱な人間ならマッハで胃に穴が開くかもしれない。
後でフォローしてあげるか。
ミレーヌ様がいたら、一度改めてオフリー嬢との件、ナルニアも同席していたから謝罪を入れておこう。当時ナルニアは一言も発しなかったから、すっかり忘れてしまっていたよ。
「大丈夫、書記か若しくは僕が、王国軍、強いては王宮依頼からの軍務中だったからのようなものだろう。ただし、出席者の顔と名前は今後のためにも、この一度で一致させるように。後で改めて教えもするから」
はてさて、誰が中で待っているのやら。
案内された使者が扉をノックした後、入室を許可され扉を開け放つ。
おやおや、バーナード大臣の声じゃないか。
最近、王宮の一室でお義父さんと会うのは、正直嫌な予感しかしないな。
厭らしい笑みを浮かべながら、糞ランド陛下が話し掛けてきた。
挨拶からだろうが!
「軍務中済まんなヘルツォーク准将、暫くしたらバルトファルト子爵も出席する。今は余の息子達を別室に待機、まぁ拘束させ、牢屋にいたバルトファルト子爵の身支度を整えさせている」
ちっ、軍務上の階級呼びかよ。ニヤニヤと嫌味にしか聞こえないな糞陛下め。
「陛下の御気遣いに感謝を。陛下におかれましてはこの度の件、
ミレーヌ様もいるからな。しっかりアピールしてやるさ。
おぉ! 心なしか少しミレーヌ様の頬が赤くなったような気がする!
光の加減だろう。まぁ、俺の気のせいだな。
「だからお前のその言葉遣いは嫌味ったらしい。貴族と騎士の皮を被っているだけの小僧めが。この面子を見ろ。お前の言葉遣いなんか誰も気にせん。今度そんな言葉遣いをしたら、本家ヘルツォーク子爵家の下の娘を1年間、王宮の行儀見習いにしてやる」
ちょ!? 待てよ!
「てんめぇ、マルガリータに手ぇ出すつもりじゃねぇだろうな!」
ここにいる面子、ミレーヌ様もレッドグレイブ公爵も、そしてお義父さんであるバーナード大臣もギョッとしながら、俺達2人を交互に見出した。
「フワハハハハハ! そうそう、お前はそういう奴だ。公の場以外ではそれで構わん」
ちぃ、普通の貴族感覚なら、王宮の行儀見習いは喉から手が出る程有難い話だろう。
しかもムカツク事にこいつに手を出されるのも、諸手を挙げて喜ぶ貴族家が多いのだろうが…… しかし、俺は絶対に許さんし認めん。
「……陛下とリック君は、いつ接点があったのかしら?」
ミレーヌ様は小首を傾げて、その下の頬に人差し指を添えて考えている。
あぁ、プニプニだ。可愛い。
「まぁ、良いではないか。特に気にするようなものではないしな…… なぁヴィンス」
ミレーヌ様が未だに小首を傾げている。可愛い。
「何故そこで私に話を振るのか解りませぬな陛下。まだバーナード大臣に振るほうが、話が解りそうな気がしますがね」
「ザナの小僧とそっくりな物言いをしおってからに。本当の父親のくせに冷たい…… あぁ、それが贖罪のような物だったな。いや済まんなヴィンス」
ちょ!? おまっ!
「「は?」」
ミレーヌ様とナルニアの声が被った。
バーナード大臣は天井を仰ぎながら、大きく息を吐き出している。
本家ヘルツォークと王家の密約を知っていたミレーヌ様は、もしかしてとは思ったが、流石に知らなかったのか。
ドゴッ!
大きな衝撃音が、それなりに広い豪勢な打ち合わせ室中に響き渡る。
ミレーヌ様とナルニアがビクりとしながら、音がした方向に振り向くと、レッドグレイブ公爵が、テーブルに拳を振り下ろしていた。
「お戯れが過ぎますな、陛下」
「昔のお前もな」
戯れで産まれた本人の目の前で、お前らがやりあうなよ。
「ちょ、ちょっと待って!? リオン君が来る前に聞きます。リ、リック君の父親って……」
ミレーヌ様は驚いて俺とレッドグレイブ公爵を交互に見ているが、ナルニアは小首を傾げながら、ポカンとして思考停止している。
この場にいるのは、糞ランド陛下にミレーヌ様、レッドグレイブ公爵にバーナード大臣というかなり閉じられたメンバーだ。
ミレーヌ様が知らなかったのは、何故かちょっと意外で、さらに何故か気落ちしてしまう。しかし、今ここにはナルニアもいるんだが、糞ランドは気にしなさそうだ。
おい、俺を見てニヤリと笑うんじゃない。しかもニアまで見ていやがる! お前だけには、ニアもやらんからな。俺の秘書官で副官だ。
「何だ? お前が知らないのが意外だが、バーナードが知っていたのは流石だな」
「私が実子証明を通したのです。入念な裏取りをせざるを得ないのはご理解頂ける筈です」
俺を態々気遣うように眉を八の字にさせるバーナード大臣。もちろんバーナード大臣とはアトリー邸で話していたので気にしない。
俺は微笑みながら首を振って、気にしていないと改めて伝えておく。
「じゃ、じゃぁアンジェとは……」
「母親違いの兄妹となりましょうな」
ヴィンス・ラファ・レッドグレイブが、眉根に力を籠めつつも、深奥に詰まった空気を吐き出すように、重く答えを口から零れ落ちさせた。
「漸く認めたか。長きに渡る沈黙であったな。だがヴィンス…… お前ほど、こやつは既に大して気にも留めておらんぞ…… 恐らくな」
「えぇ、血が繋がら無かろうとも、私は骨の髄まで既にヘルツォークの人間ですよ」
実際は業火に燃やし尽くされて、その俺の遺灰と代々当主の遺灰が混ぜ合わさり、ヘルツォークを形作っているのだろう。
「リック君……」
ミレーヌ様がご心痛をその表情に乗せて、身を少し乗り出すような恰好をする。
谷間とご表情がエロ可愛い。
「ミレーヌ様…… あぁ、そういえば、今僕の副官としているナルニアですが、例の学園祭でのオフリー伯爵令嬢の時にオフリー嬢と一緒にいたんですよね。ナルニアは一言も発しなかったので、御目溢しを下さいませんか?」
折角、ミレーヌ様にお声がけ頂いたんで、ナルニアの件を謝罪しておこう。
「え!? もうそんなのどうでもいいわよ! 今はほら、ね」
ミレーヌ様は気にすらしていないらしい。何と寛大な御心の御方なのだろうか。
「良かったなニア。ミレーヌ様は全く気にしていないって」
言質は取ったので、もうナルニアに関する多少の後ろめたさは無くなったな。すっかり忘れてしまっていたけど。
ごめんね、ミレーヌ様とナルニア。
「え!? えぇ…… あ! お、王妃様におかれましては、誠に申し訳ございませんでした。ありがとうございます」
ほら、ナルニアも驚いてしまうほど、ミレーヌ様の大海原のような包容力に感謝している。糞陛下も100万分の1でも良いので、さっさと見習って改めろ!
「あ、貴女も大変そうね…… じゃなくて、もう! リックく――」
ミレーヌ様の言葉を遮るかのようにノックが室内に響き渡った。
随分と無礼だな。
「バルトファルト子爵がお見えになりました」
無礼なのはリオンだったか。
☆
リオンは入室して辺りを警戒するように見回し、最後に俺に気が付きギョッとしている。
手でも振って挨拶しておこう。もうこの場はほとんど無礼講の場になり下がっただろうから、周囲の人物など俺は気にしない。
「よっ、お互いに散々だなリオン」
「おまっ!? この方々達の前でそんな態度…… それにナルニアさんも」
ちなみにナルニアは未だ混乱気味だが、咄嗟に入室してきたリオンに黙礼していた。
リオンの疑問も
だが、ここにいる人物達はリオンを擁護するメンバーなので、長々と牢屋に押し込められたリオンは、文句の一つでも叩き付けてやりたいだろう。
「元気そうだな子爵」
「な、何とか……」
よく見るとリオンの口元が引き攣りそうになっているのを必死に堪えている。やはり、疑念や不信感は抱いてしまっているだろうな。
「ユリウス達は別室で待機している。いや、拘束したと言った方がいいかな」
お馬鹿ファイブ?
リオンを出すために動かしたのはあいつらという事かな。
「勘違いしないでねリオン君、あの子達を守るために匿っているのよ。リオン君と同じという事ね」
もうお馬鹿ファイブとマリエは、王宮内でずっと匿っていればいいんじゃないかな?
あれ? そういえばマリエって生きているのだろうか? それとも戦死したのかな?
「俺を呼び出した理由を伺っても?」
あら? リオンの口調が普段通りのままだ。面倒臭くなったか、相当腹に据えかねているのかね。
「そのつもりだ」
レッドグレイブ公爵はリオンに即答したが、説明を始めだしたのはバーナード大臣だった。
「公国の艦隊が王国本土に上陸した。先ずは上陸先周辺の偵察艦や監視用軍事施設の防衛部隊、それらの艦艇十隻以上が失われたよ。鎧に関しては100機近くが撃墜させられた」
本格的に各浮島群を抜けてくるような敵に対して、通常時の防衛部隊では歯が立たないだろう。当然過ぎる王国本土のオープニング被害だな。
「敵の艦艇はおおよそ百五十隻。鎧の数は不明。率いるモンスターの数は数えきれないと報告が来ている。空を覆い尽くす数だったそうだ」
リオンが俺を見てきたので頷いておく。
艦艇の数は当時は不明だったが、リオンには既に牢屋で伝えてあるので、リオンも艦艇の数の件で俺を見てきたのだろう。
「あぁ、ヘルツォーク准将はバルトファルト子爵の牢屋に訪れていたか。なるほど、ヘルツォークの偵察情報を伝えていたという事かな?」
「えぇ、艦艇の数までは当時知りませんでしたが、リックからは粗方の概要ぐらいは…… え!? 准将?」
リオンが公国の情報よりも遥かに驚いている。
「名誉階級とかいうやつでね。招集されて任官されちゃったんだよ。エトも臨時野戦任官で大佐だ」
苦笑しながらリオンに俺達の状況を伝える。
「エト君が大佐…… え、じゃぁ、お前は赤い人じゃなくなっちゃったじゃん。元々全然違うけど」
「エレガントになったと言ってくれ。あれも嫌いじゃないんだよ」
俺達2人のやり取りを会議メンバー全員に不思議そうに眺められてしまった。
「状況を知っているのであれば早い。それにな、公国以外の国も動いている。毎度の事ではあるが、国境を任せている軍や領主貴族達からも救援要請が来た。四方八方から攻め込まれているのが現状だ。奴らに本家ヘルツォーク子爵領軍の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだな」
チラチラと俺を見やがって! 一番に飲ませてやりたいのはお前なんだよ糞ランドが!
「王都にも戦力はあるでしょう? かき集めればかなりの数になる筈では?」
「ではその先はリック君に説明してもらいましょうか。現場にも出陣して全てを見てきていますからね。お願いできる」
「もちろんですミレーヌ様。では僕から5日前の王国本土端防衛戦の結末を説明しよう」
そうしてリオンの疑問に答えるような形で、王国本土端防衛戦の顛末を伝えるのであった。
☆
俺の詳細な報告が終わり、会議室は静まり返っている。
顛末を知るこのメンバー達も改めて、あの戦いの理不尽な敗北の事実が腹に落ちたのだろう。
別同部隊であった俺は戦場全体を上から見渡せていたので、客観的にもあの戦いを一番詳細に知り得ている人間だと言えた。
「まるで悪夢だな」
糞陛下が素で呟く。
「撤退を束ねた新ヘルツォーク子爵領軍、撤退させるために突貫した本家ヘルツォーク子爵領軍がいなければ、間違いなく全滅だったな。数を揃えたぐらいではどうにもならない。それにこの地震だ」
レッドグレイブ公爵は飲み干したコップをテーブルの上に寝かせる。するとゆっくりだがコップが転がっていった。
そう、王国本土端防衛戦以降、恐らくだが超大型が出現してから地震が多発しているのだ。
「バルトファルト子爵、率直に尋ねよう。君と君のロストアイテムなら、公国の超大型に勝てるだろうか?」
バーナード大臣はこの会議の本題を切り出す。
なるほど、俺は王国本土端防衛戦の説明に呼ばれて、リオンにはこの核心的質問を答えさせるために、態々この会議に呼ばれたというわけか。
リオンも眉根を寄せながら、眼光険しく必死に考えている。
あ!? 一瞬目線を右横少し上にすらした。あいつ、詰んだ詰んだとか思考がぴょんぴょんしてるんじゃないだろうな?
「……正直に言ってわかりません」
「だろうな。だが、我々はバルトファルト子爵に期待するしかない。君にしか動かせないロストアイテムで倒せないというのであれば…… 王家の船を動かすことになる」
まだ詳細が不明な超大型に対して、「やれます! 出来ます! 任せてください!」なんて
俺はリオンから聞いただけだが、リオンが言うゲームと同じであれば、リオンが超大型に対して王国内では圧倒的に詳しい人物という事だ。しかし、リオン自身が生身で感じる印象はゲームとは異なるだろう。
無難で逆に安心する答えだな。
「公爵、その話をこの場でするとはどういうつもりですか?」
ミレーヌ様が、王家の秘匿しているロストアイテムの名前を出したレッドグレイブ公爵を睨みつけている。
カッコ可愛い。
オリヴィアさんの秘められた聖女パワーを発揮する愛の船だっけ。
あれ? 確かリオンの説明って、あのホルファート王国建国始祖5家のメンバーと知られていない6人目の聖女だった子孫のオリヴィアさんの間で、愛し合っていないと動かないんじゃなかったっけ?
あっ!? ぶっちゃけ詰んだんじゃね? 俺はよく知らんけども。
まぁ、ゲームなら良いとしても、現実問題になると、そもそも愛で動くとか意味不明過ぎる。魔法とかあるから、この世界ではそういう魔法的な何かなのだろうか?
「今動かさずにいつ動かすと? この状況で出し惜しみは感心しませんな」
「っ!?」
そうか、レッドグレイブ公爵家は貴族内で王家寄り筆頭、王家の船の存在を知っていたからこそ、ロストアイテムを発見したとはいえ、情報不足のリオンとの距離感を測っていた。……いや、測りかねていたという事か。
ミレーヌ様が言い返そうとした所を糞陛下が止めた。
「止めよ。ヴィンス、お前も知っている筈だ。王家の船は資格を持つ者が揃わなければ動かない。そして、私とミレーヌでは動かせなかった」
ざまぁ! やばい、笑いを堪えるのが大変だ。
要は糞陛下とミレーヌ様との間には愛が無かったという事だ。魔法とかじゃなくて、もう愛で動く船でいいよ! そっちのほうが良さそうだ。
あれぇ? でも他国から嫁いできたミレーヌ様でも動くの? よくわからなくなってきた。
俺が疑問を頭に複数浮かべていると、意を決した声色でリオンが糞陛下に進言した。
「陛下、お願いがあります。王家の船を使わせてください。それと、マリエとあの5人の力が必要です」
あの5人はわかるけど…… マリエ?
ホルファート王国建国始祖5家というか6家の一人がいるだけでいいのだろうか? たぶんそういうことなのかな。
6家の内の誰かとその他の愛で良し、そんな感じのニュアンスなのだろうか?
「その意味がわかっているのか? そしてそれは無理な話だ」
ミレーヌ様が首を横に振っている。
「残念ながら不可能よ。リオン君、王家の船は貸せないわ。それに、聖女マリエは神殿が処刑すると発表しました」
マリエ…… ラーファンは嫌いだ。
だけど、あいつ自身は逞しくて生き汚いのに、おバカなところが憎めない奴だった。でも流石に悪運尽きたみたいだな。同じ血筋だ、墓参りぐらいはしてやろう。
ウェイン準男爵家のカーラさんのフォローは、今後は俺がしていこうかね。
ナルニアは超秘密を知ってしまった。
胃痛がマッハ。可哀想。