乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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読者の1人様、誤字報告ありがとうございます。遅れて申し訳ございません。

お茶紳士先生は、原作様内でも作中トップクラスの格好良い大人だと私は思っています。書いていても楽しいです。
人気のあるキャラですので、少しセリフは足しましたが、基本的には変えていません。

そして原作様3巻、web版3章でリオンの最も格好がいいセリフの場面です。
しかし進行上、多少変更してあります。
受け入れて頂ければいいのですが、ここは人気のある場面。不安が拭えません。


第86話 リオンの決意、友達との在り様

 リオンは別室へと移される事となり、その他のメンバーは未だに会議を行っている。

 素直に待機命令に従いながら、リオンは思考を巡らせていると、いつもの肩の上にルクシオンが姿を現した。

 

 『聖女を騙ったマリエは火炙りか、それとも(はりつけ)ですか。新人類の末裔も醜いものですね。この期に及んで無意味な事をします』

 

 (前世が旧人類だというなら、新人類も旧人類も同じという事になるな)

 

 リオンは表情を変えずに心中で自嘲気味に苦笑する。

 聖女のアイテムがマリエそのものを認めたというのに、本人が偽物だと暴露したから処刑ではあるのだが、結局は責任の擦り付け合いの結果だ。

 実際、戦闘の最中に役目を放棄し、尚且つ偽物だと宣言してしまったマリエは処刑が妥当である。軍人でも現場裁量で、上官に刑が執行されても文句は言えない。

 神殿側と侯爵派閥も誰かに責任を取らせたかったのだろうが、組織の責任問題ではなくともマリエに関しては、処刑一択が個人的立場上の責任として妥当といえる。

 

 「しかし、本家ヘルツォーク子爵軍二十隻が全滅とは…… リックは相当堪えてるんじゃないのか」

 

 『あれはマスターが心配なさらずともエーリッヒの策略です。ヘルツォーク領の人員の死者は皆無ですよ。これでヘルツォークは規定通りのダミー艦数を出陣させて密約を遵守。全滅させて同情を誘い、そして人員損失無しに、この公国戦の参戦義務を果たしたのです』

 

 「おぉ、船の数が合っていれば安心するものっていう某赤い人戦法、律儀な甘い水でのやつか! だからあいつはこの3学期、学園に来ないで色々とやっていたのか…… あっ、それとその密約は聞きたくないからな! 王家が関わってるんだから絶対に言うなよ」

 

 リオンはすっかり感心してしまったが、元ネタを自分も知っているので嬉しく感じてしまった。

 

 『……何を言っているのかよくわかりませんが、聞きたくないというのであれば報告はしませんよ。それにしても、待機命令とはおめでたい人達です。マスターがまだ忠誠心を抱き、王国のために働くと考えているのですから。パルトナーもアロガンツも返してやる、みたいな態度がいただけませんね。滅ぼしますか?』

 

 リオンは即座に首を横に振って否定した。

 

 『……残念です』

 

 (ルクシオンが手を下さずともこのままいけば、王国は勝手に滅ぶようなものだろうな…… ヴィンスさんとは派閥が違うとはいえ、俺は処刑されそうになるし、話し合いの場からは追い出される始末。もう好きにしろよとは思うんだけど……)

 

 リオンの心中は様々な葛藤で塗り潰されていた。

 

 『マスター、何をお考えなのですか?』

 

 「ルクシオン、お前ならこの状況で勝てるか?」

 

 ルクシオンはまるで、人間の脳が思考するかのようにリオンの周囲を回り始めた。

 

 『勝利条件は?』

 

 「大地を沈ませない。超大型を王都に来る前に倒す」

 

 超大型と呼称する事になった山のような大きなモンスターが、ゲーム知識通りであれば王都を目指すとリオンは考えており、事実としてファンオース公国艦隊は王都に向かって直進している。

 ルクシオンもその通りであると報告をした。

 

 『不可能です。マスターが言ったように、私は負けなくとも相手が倒しても復活するなら、時間稼ぎしか出来ません。それから、超大型の反応は二つ。浮かんだ大地を挟み込むように空と海から王都を目指して進行してきています』

 

 「二体もいるのか!? 最悪だな……」

 

 (ゲームよりもハードモードじゃないか。大地に大穴を開けてルクシオンに利用させるか? いや、大陸が大変なことになりそうだ。ルクシオンが相手に出来るのは一体のみか……)

 

 『もしも勝利を目指すのであれば、王国全ての戦力をマスターが従える立場にいなければなりません。王家の船が必要なのでしょう? ただ、国王の様子を見るに王家の船を預かるとすれば、それはつまり、全権を委任された総司令官になるしかありません。マスターでは難しいと判断します』

 

 王家の船を預かるには、最低でも大将クラスか元帥の地位が必要だろう。元帥は現場に出ないとはいえ、王都にまで攻め込まれる状況である。

 リオンには、地位も信用も実績すら足りていないのが実情だ。

 

 (リックを立てる・・・・・・ いや、准将に任官されてしまっている。種々の事情もあったのだろう。今更変更できることが可能なのか? 無理か…… このどさくさに紛れて一足飛びでその立場に納まるしか……)

 

 『この大陸から逃げることをお勧めします』

 

 そんなことはリオンとて誰に言われずともわかっている。そもそもリオンは、このような歪な王国に未練など無かった。

 しかし胸中にリオンを留めようとする()()が存在しているのも事実であった。

 

 『おや、マスターの大好きな師匠ですよ』

 

 部屋にノック音が丁寧な上品さで以て響かせている。

 

 (師匠はノックですら気品に満ち溢れているな)

 

 ルクシオンが姿を消した後に返事をすると、リオンが師匠と呼ぶお茶紳士先生が、サービスワゴンを押して入室してくるのだった。

 

 「失礼しますよ、ミスタリオン」

 

 「……師匠」

 

 失礼だとリオンは思ったが、普段のような表情を取り繕うことが出来ないでいた。

 王国本土端防衛戦の敗北を聞いた貴族や王都詰めの軍人までも逃げ出す者がいるというのに、お茶紳士先生は普段と変わらない落ち着き払った紳士を体現している。

 学園での普段通りのお茶を用意する姿、そして差し出された紅茶を飲んだリオンは、少し落ち着きを取り戻すことが出来た。

 

 「ミスタリオン、悩んでいますね」

 

 「あははは…… そう見えますか?」

 

 逃げるべきか戦うべきか。リオンは自身の優柔不断さに苦悩していた。誤魔化そうにも今はもう、笑顔すら上手く作れなくなっている。

 

 「事情は王妃様から聞いています。何やら陛下を怒らせて退席させられた、と」

 

 いきなり直接的に王家の船を貸せ、などと言ったのは良くなかったのだ。

 レッドグレイブ公爵が出した流れに引き摺られてしまったとも言えるが、それでも王家が極秘管理している飛行船、言い方、交渉にそれを行うタイミングは重要であっただろう。リオンは引き摺られて勢いだけで切り出してしまったのが不味かった。

 

 「王妃様が心配していましたよ。ミスタリオンは女性の心を掴むのが私よりも上手い。今度ご教授して頂きましょう」

 

 「リックのほうが断然上手いと思いますよ」

 

 心に一息を入れさせてくれる香り豊かな紅茶のおかげで、リオンも軽口を口に出せるようになっていた。

 

 「ミスタリックですか…… 彼は女性の心を掴むのが上手いのではなく、彼自身を女性が放って置けなくなるのでしょう。女性の心の本能の部分でしょうか。私にもまだまだ女性の心は深く、より複雑でわからないものです」

 

 遠い目をするお茶紳士先生を見つめながら、リオンは思い切って聞いてみるのであった。

 

 「師匠…… 王国から逃げないのですか?」

 

 「私はこれでも王国の爵位と階位を持った騎士ですからね。私に出来ることをするつもりです。ただ、出来ることは限られていますが」

 

 リオンは取り繕っていた表情を歪め、落ち着いた精神がかき乱される。

 これなのだ。胸中にリオンを留めようとする()()

 リオンが救いたいと願う人々も、譲れない、捨てられないものがあって王国に残るかもしれないという事だ。

 

 「……逃げませんか?」

 

 「ミスタリオン。貴方が逃げることを私は責めません。ですが、私は残ると決めています。紳士として、そして騎士としての判断です」

 

 騎士としてという部分にリオンは首を傾げてしまった。そんなリオンにお茶紳士先生は、大人が子供に向ける優しい笑顔を見せた。

 

 「昨今は女性に優しいのが騎士と思われていますが、私の騎士道は、大切な人々を守ること。それを曲げるつもりはありません」

 

 それは、王国にとって都合が良い騎士でも、ましてや乙女ゲーの求める優しい騎士でもなかった。

 

 (ゲームには登場せず、同じモブなのに…… 何て格好の良い人だろう。思えば、領でも学園でもゲームにすら登場しないモブのほうが、格好良かったかもしれないな……)

 

 「騎士道、ですか」

 

 「ミスタリオンの騎士道をお伺いしてもよろしいですかな?」

 

 リオンは紅茶を飲み干し立ち上がった。その表情は吹っ切れたような晴れやかな表情だ。

 

 「俺はこれでも建前が好きでしてね。民を守る騎士道が大好きなんですよ」

 

 学園女子に優しい騎士道も、国に都合の良い騎士道もリオンは嫌いだが、民を守るという部分は、純粋に格好が良い。前世で子供の時にテレビで見たヒーローのようだ、などとリオンの中にある男の子の部分が大いに刺激される。

 アンジェリカを鎧の単機ですらないエアバイクで助けた時を思い出してしまう。

 

 「ごちそうさまでした。俺は行きます」

 

 「どちらへ?」

 

 リオンもお茶紳士先生もこの状況で、お互いに学園にいた時のような笑顔を浮かべている。

 

 「この状況を打開するために、総司令官になってみたいと思いましてね。陛下を説得しようと考えています」

 

 リオンの想像を超える突拍子も無い言葉を受け、お茶紳士先生は目を見開くが先程とは打って変わり、まるで対等の人物に向けるような笑顔に変わった。そして、真剣な顔付きに変化させる。

 お茶紳士先生は対等の男へ笑顔を向けたとはいえ、人生の先輩としてリオンにアドバイスを送った。

 

 「ならば王妃様を頼りなさい。ミスタリオン、あの方は王宮内でもかなり融通が利くお方です。きっと、助けになってくれるでしょう」

 

 「陛下よりも、ですか?」

 

 「えぇ、そうです。ただ、私に手伝えるのはこの程度です。総司令官になりたいのなら、自分の言葉で王妃様を説得して見せなさい」

 

 「そうします。師匠、ありがとうございました」

 

 リオンは、礼を述べ、そして部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 廊下を足早に歩くとルクシオンがリオンに付いてくる。

 

 『逃げないのですか?』

 

 「止めた。公国と戦う」

 

 『出世したくないのでは? 総司令官など、マスターが望む地位ではありませんよ。マスターの方針から外れます』

 

 リオンには、出世をせずに田舎でのんびり暮らしたいという希望があるというのに、総司令官になるなど矛盾もいいところである。誰もが正気を疑うだろう。

 

 「悪いけど一度くらいは経験したいのが男の子だ。リックは准将だろ? 絶対にあいつはエレガント閣下なんて呼ばれて喜んでいるからな」

 

 『……マスターが言うエーリッヒに関しては意味不明ですが、建前で戦うつもりですか? 理解できません』

 

 (民のために戦う? 確かに俺が言うと嘘っぽい)

 

 しかしリオンは本気だった。前世が一般人であった事にも起因したのかもしれない。

 戦争に無関係な王国の民が死んでいくのは、リオンにとってどうしても気分が悪くなる事柄だ。毎日を細々と堅実に生きているが、そのような幸せを噛み締めて生活している人々が大勢死ぬ。

 この世界はリオンにとって、マリエのせいでグチャグチャにされたと考えており、最大の被害者は日々の生活を営んでいる彼等なのだ。

 このまま放置しているのは、リオンの胸中に靄がかかり非常に胸糞が悪くなる。それを晴らすための行動をする十分な理由となっていた。

 

 「何千万人と人が死ぬのを黙って見ている趣味はないね」 

 

 『逃げても問題ありません。マスターの責任ではありません。……その決断は理解不能です』

 

 「俺だって理解できないよ。今だって逃げ出したいさ。でも、ここで逃げても絶対に後で考えるんだよ。ベッドに横になった時に、アレで良かったのかと悩む人生とか絶対に嫌だわ」

 

 リオンの性格上、絶対に悩む事案となるのは明白でもあった。そこの部分、当のリオンですら自分の性格を把握している。

 最早、リオンの意志は決定していた。

 

 (それに、そもそも俺って騎士なのよ。爵位云々はともかく、前世で言うなら非常時の軍人の立場。そんな人間が真っ先に逃げ出したら、俺なら恨むね。それに学園では人から散々恨まれてる。これ以上恨まれるのも嫌だね)

 

 『出世するつもりですか? 成功したとしても、マスターは面倒事に巻き込まれますよ』

 

 「そういうの勝ってから悩めばいいから。この状況で、出世とか悩むだけ無駄だから。それに――」

 

 普段の調子に戻っていたリオンの表情にふと影が差し、そのまま窓ガラスに映った自分の目を見つめだす。

 

 「――あいつの目さ、時折黒く見えるんだ…… 最初は前世が同じ日本人だから錯覚かな、なんて思ったんだけど。違ったんだ…… 淡く綺麗なスカイブルーの虹彩に少しそれを濃くした爽やかな海のような瞳。イケメン死ね! とか最初見たときは思ったけどな。でもその瞳が昏いんだ…… 昏過ぎて黒く見えるんだ。友達にいつまでもあんな目をさせていちゃ駄目だろう」

 

 『……エーリッヒにはエーリッヒの理由があります。マスターが気に病む必要はありません』

 

 「あいつが戦う。既にもう理由はどうあれ戦っていた。確かにリックには色々とあるんだろうが、それでも誰か、ヘルツォークの為なんだろうけど戦うんだ。友達が戦うのに俺が逃げていちゃ、もう友達は名乗れない」

 

 『……』

 

 「頼りにならない王国なんかどうでもいい。だから俺がやる。それに、同郷の友達を戦場で一人に出来るか! 手伝え、ルクシオン」

 

 『仕方がないマスターですね』




リック
「何だ? 僕の次の扉を叩いてくる音がする」
BOY♂NEXT♂DOOR

ナルニア
「あ!? ティナ姐さんからその扉は開けちゃダメって聞いてます。無視してください」

リック
「けっこう五月蠅いよ。開けて確認した方が良くない?」

ナルニア
「止めてください! 私が総入れ歯にされてしまいますっ!」
ナルニアはトラウマが刺激されてガクガクと震え出した。

リック
「そ、それは怖いね。止めておくよ。ニアも大変だね」
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