例えばこんなホロライブALT【hololive alternative-bibliography】   作:ちゃんどらー

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百花繚乱花吹雪  14

「あーあ、こんなしんどいこともう二度とやんないから……魔力また貯め直しになっちゃったじゃん」

 

 バチバチと紫電を迸らせて冷めた目を向ける少女は、指で手慰みに魔力弾をくるくると回しながら大地に倒れる自分に告げる。

 

「うーん。久しぶりに運動したからちょこ、ちょびっとだけ疲れちゃったかなぁ」

 

 パタパタと羽を揺らして伸びをする白衣を着た悪魔は、桃色の魔力を自分と少女に向けながら微笑んでいた。

 

「で、でも、るしあの時よりは間違いなく安定してましたし……」

 

 碧色の魔力を不死蝶の羽のようにはためかせるネクロマンサーの少女は、おどおどしながらも二人に対して先ほどまでの感想を述べていた。

 見上げた魔界の空は透き通るように晴れていて、思い切りチカラを使いきったことによる倦怠感と相まり、不思議と爽やかな心持ちを認めて口元が緩む。

 

「にしし、さすがに負けちゃったかー」

「ま、多対一だった中であれだけやれればいい線行ってるんじゃない? るしあちゃんとちょこせんのチカラを取り込んだ時よりはいい動きしてたと思う」

「確かに、魔力の親和性……ううん、相性の問題?」

「るしあのは……その……浸食率が高いので、あやめ先輩のお身体の負担になってしまいますから」

「ちょこのもねぇ……攻撃系の術式じゃなくてあっちの方を吸い取っちゃってるわけだし、超速回復とかでのごり押しにはいいかもだけど、その戦い方がクセになっちゃうと後々困るし。それに鬼火への付与効果もあんまり……うーん」

「単純な身体強化への適正かなー。鬼っていう種族の特性上、自分の身体で戦うことこそが概念武装として強いわけだから、シオンの雷が一番合ってたんでしょ」

 

 差し伸べられた手を取って立ち上がり、服についた土を払うとシオンちゃんがいつになく真剣な眼差しでこちらを見ていた。

 

「……鬼神のチカラが暴走してもどれかが発動してシオンの所まで帰ってこれるように術式を編み込んである。ただ、三つともが残ってる場合と違ってどれかを使った後だと治癒が出来なかったりニンゲンの魂固定が出来なかったりしちゃうから気を付けてよ?

 シオンの魔力を使い終わった場合はるしあちゃんのふぁんでっどの集合場所での霊安保管か、ちょこせんの魔界ゲートでの固定凍結を経由することになるから暴走したままだとちょっと危ないけど……ま、大丈夫でしょ」

 

 自分が胸に下げていた、色の薄くなった紫の勾玉をひょいとつまんだ彼女は、器用に勾玉だけを転移させて小さな掌で包み込んだ。

 

「あやめちゃんが一人で、それも鬼神の暴走まで予測の範囲に込めて戦うようになることなんてまずないだろうけど、保険は掛けといて上げる。込められた誰かの魔力が使われたのなら位置把握と転移補助のマーキング術式の追加と……周囲の呪いを魔力に変換して供給する術式も付けて鬼神化の負担軽減と。あとは……」

 

 やれやれといったようにため息を吐く。

 

「いちいちコレに魔力込め直すのも面倒だからシオンが一緒にいる時はパスを直接繋いで雷神モードの練習ってとこ。ま、シオンは術式の研究と鬼神とかいう魔界の中でも特異な例外(イレギュラー)の解析が捗るからいいけど……感謝してよね?」

 

 悪戯っぽく笑うトモダチと、その後ろでくすくすと楽しそうに微笑むトモダチ達。

 

 最後に一つ、と紫の少女が指を一つ立てて自分に続けるその内容に。

 

「大丈夫! この大魔導士のシオン様と一緒に特訓するんだから、カミサマだろうが魔王だろうが魔神だろうが邪神だろうが、あやめちゃんがぶっ飛ばしてやれるようにしてあげる。

 どうせさ、きっとぶっ飛ばしたその後にはそいつらと―――」

 

 彼女は本当に、自分のことを分かってくれる友達だと感じて頬が緩んだ。

 

 

―――笑って盃でも酌み交わしてはしゃぎたい、なんていうんだろうからね。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

「あー、これは……」

 

 

 すごいな、と。

 稚拙ながらも単純にして明快な感嘆の言葉を述べた黒上は、目の前で構えを取った二人を明確な敵として認識する。

 

 見知った存在である狼の少女が放つ破魔の炎は、自分にとって猛毒と分かる別次元からの力を融合していて、大地に粘りついているモノも大気中に分散しているモノも、全てのケガレが彼女の周りに近寄るだけでイワレに似た別の力へと変換されて中空へと還されていく。

 穏やかささえ感じさせる彼女の炎に、己の心がズクリと疼く。

 分かっている。これは帰巣本能のようなモノだ。

 カミから堕ちた存在であるケガレガミは、カミへと戻りたいが為に己の破滅を求めることもある。

 故にその炎は毒だ。きっと包み込まれれば暖かくて、充足を与えてくれて……まるで母の腕の中にいるような満足感と安らぎを与えてくれるのだろう。

 その証拠に……胸の内に封じたはずの愛しい姉の存在が、微睡から目覚めようとしているのが分かった。分かってしまった。

 トモダチの想いが炎に乗って、熱となってこの胸に響き始めているのだ。

 

 そしてもう一つ。

 自分にとって、このミヤコにとって、そして姉やミオ達を含めたこのヤマトにとっての異物であり、排除したいと考えていた鬼は……紫電を纏いて不敵に笑い、破魔の炎すら揺蕩わせてこちらをじっと見つめている。

 鬼神の暴走に呑まれることなどもはやないことを、黒上の瞳はその確率事象を読み取ってしまった。

 

 友と長い時間をかけて練り上げてきた術式の到達点であり、鬼神の能力を完全制御するネクロマンサーの能力とは別個の……百鬼あやめという魔界の鬼族が戦う為に極めたチカラ。

 つまり彼女は今、鬼神の概念武装を使うことは無く。

 否……古くから受け継がれ、呪いが凝縮され、取り込んだ鬼神ではなく……百鬼あやめという鬼が友と繋いで得た、新たな鬼神としての概念武装とでもいうべきかもしれない。

 

 もともとその兆候はあった。

 あやめは鬼火というトモダチの力を使うことも含めて戦っていたのだから、彼女は単一での強者ではなく、他者と繋がることで無限大にチカラを広げられる稀有な鬼だったのだろう。

 人懐っこい彼女が作ったつながりは、いつもいつでも一つ足りとて無駄になることはない。

 魔界の鬼族の根幹たる餓鬼の能力で吸った対象能力の単純消費とは違い、術式である纏いとも違う。今のあやめは鬼でありながら鬼に在らず。鬼神でありながら鬼神ではない。これは……魔を取り込み神と至ったモノ。

 

 ああ、そうか―――と黒上は気づく。

 あやめによって悪魔の力を取り込んだミオも、あやめと似た変化を示し始めている。カクリヨのアヤカシをカミとして引き上げるのは他者との繋がりという名の(イワレ)だ。人間からの信仰、想念……想いの力が彼女達をカミに引き上げ、そしてカミとして固定し、カミとしての生を与えている。

 ならばこの変化はそれをさらに深くしたモノ。あやめの能力は他者にすら想念を届け得て、ミオはしっかりと受け取った。ミオの神をも喰らう魔狼とも呼べる変化は、悪神としての黒上自身にとっては特攻となるだろう。

 

 イワレとは別種の力と同調しているあやめとミオが静かに浮かべた笑みは絶対の自負から。

 彼女達が互いに声を掛け合って構えたと同時に、黒上は大地からのケガレとイワレをより深く取り込み始めた。

 

「っ!」

 

 ほんの数秒の見合い。開戦は一瞬。

 バチッと爆ぜるような音が聴こえたかと思うと、黒上の身体は下からの衝撃によって宙へと吹き飛ぶ。

 先ほどまでの戦闘とは別次元の速度の一撃は雷の如く。めり込んだ拳からほとばしる破魔の炎が彼女のケガレを蝕む。

 刀で斬ることよりも、まずはケガレの防御を突破する為の攻撃だとはすぐわかった。

 

 遅れて宙に飛んでいたのはミオ。其処に向けてあやめが殴り飛ばしたのだと気づくも、認識したと同時にその振りあげられた拳を避けること適わず。

 暖かな炎を纏った拳は、黒上の肉体には傷を与えることはなかった。しかしてまた、彼女のケガレの衣が剥がされる。

 大地を蹴って激突を回避すると、雷光の速度で回り込んだあやめの刀の煌めきが見え、どうにか刀で迎え受ける。

 衝撃で風が乱れた。ケガレで操るはずの風が、あやめの放つ雷の魔力にの干渉によって上手くいかない。

 

 膂力は変わらない。しかし纏う破魔の炎が悉く黒上のケガレを燃やし散らせていく。

 ギシリ、と彼女は歯を噛みしめてあやめを睨み……大きく一歩、足を踏み鳴らした。

 

 それだけでめくれ上がる大地は、土の術式によるもの。

 雷を受け止めるその術式は、魔力干渉を受けずにあやめを包もうと寄るが、彼女の速度には追いつけない。

 超高速で動くあやめを大地へと縛り付けようとしても、術式ではもはや遅すぎて対処しきれない。

 

 ミオの炎がまた、黒上に迫る。

 接敵は刹那。地を這うような下段攻撃を起点に、連撃の動作に入ったミオに舌打ちを一つ。

 宙へと逃げるのが最適解だが、見通しているように其処には鬼が居る。宙へ飛べば、一寸でその刀の餌食となるだろう。切り裂かれはしないだろうし、両断されることもまだないだろうが、それでも多くのケガレを祓われるのは間違いない。

 

 甘んじてミオの連撃を防御する。下からのアッパーを、廻し上段蹴りを、振り下ろしの拳を、中段の三段突きを、手刀からの壁拳を、そして最後の崩拳を……なんとか受けきった。

 だが、その見通しはやはり甘かった。

 黒上に襲い来るのは一人ではないのだから。

 

 背後からの一閃。赤の刀で受け止めるしかない。

 次はあやめの番だと、引き裂かれた口が良く見えた。

 袈裟斬りから始まり、龍すら叩き切るであろう上段、嵐のような三連の斬り返し、燕をも落とすであろう二連閃、下段からの切り上げは双刃により凶悪で、まるで舞のようにつながる回転剣舞。

 

 防戦一方な己に舌打ちを一つ。

 連撃の速さが尋常ではない。刀での防御も、回避すらも間に合わない。

 ただし、黒上はその程度(・・・・)ではまだやられることはない。此処は、このミヤコは大神と白上を祀り続けたイワレと、マガツガミである彼女を顕現させた悪意とが満ち満ちているのだから。

 

「いい加減……うぜぇ!!」

 

 纏うのは風と水。纏わりつく梅雨ではなく、暴風のような夏の雨を。台風のような暴虐を、と。

 風の衣はイワレをベースに混ぜ込まれ、ケガレによって生み出される水は水剋火の陰陽道によって僅かに破魔の炎の効果を薄くさせる。

 白と黒の混じる暴風で二人の猛攻を弾き、彼女の手に収束した風が竜巻をカタチ作った。

 片方は掌から、もう片方は刀に渦を巻いて。

 

「来るよミオちゃん!」

「おっけーあやめ!」

 

 二人はそれぞれが炎と雷をより大きく纏い黒上の攻撃に備える。

 風の衣で宙へ浮かぶマガツガミは、犬歯を剥きだしにして唸るように呟いた。

 

「四季廻陣:龍牙風月」

 

 荒れ狂う竜巻が龍をカタチ作って黒上の手より放たれる。ただのアヤカシでは一瞬でコマ切れになるほどの鋭さを纏った風の暴力を、二人はそれぞれ真正面から受け止めた。

 しかし追加で五芒星を切った黒上から二つの龍に術式が付与される。

 

「重ねて昇華せよ、“炎天の夏”・“夕の雷劫”」

 

 一つは炎を取り込み龍を加速させ回転を速め、一つは雷を取り入れ龍の牙に撃滅の威力を持たせた。

 

 迫る風の龍が大きく咢を開き……喰らいつく。

 両の手と両の刃で受け止めるあやめとミオに、宙で刀と掌を向けて睨む黒上。

 互いに膨大なチカラを宿している為、空間が悲鳴を上げている。龍の雄たけびにも似たその音は、神社に張られた結界を大きく振動させていた。

 

 ぽう、と大地が光る。莫大なチカラの衝突がミヤコに与える影響は計り知れない。故にこの大地が自動的にイワレを消費して結界の維持を行っているのだ。

 それはまだ、この大地が黒上のモノとなっていない証左であり、フブキが豊穣の担い手としてかけている術式が途切れていない証拠でもあった。

 

 ちっと舌打ちを一つ。黒上は拮抗しているように見えるこの衝突がもうすぐ破られることを悟った。

 自動で結界を補修する為にイワレが流れることで、自身へのイワレの供給パスに乱れが生じてしまったのだ。

 イワレの風とケガレの水を巻いている竜巻のバランスが崩れてしまえば、いや、ケガレだけの力ではミオとあやめが流している破魔の力には抗えない。

 もってあと数十秒……なればと彼女は次の術式を同時に組み上げた。

 

「“掛けまくも畏きヤマトの禍よ、祓ひよ……オオエの深山の降りたる天桜原に、禊ぎ堕ち給いひし時に、生り坐せる祓ひ穢れ両相為す禍神等……諸々の罪、浄、願ふならば、祓へ給ひ堕ち給へと、陰と陽交わりて聞こし召せと……畏み畏み、もまをせ”」

 

 ヒトから捧げられるはずの祝詞を逆に詠んだ彼女が行った術式により、彼女を祖とする大量の眷属を召還した。

 陰陽の入り混じる黒白の狐達は、それぞれがケガレとイワレどちらかの刃を口に咥えて顕現されていた。その数……百余はくだらない。

 まだ龍が消える前に発動した強大な術式にミオもあやめも驚愕に目を見開く、しかしまだ動けない。

 

「ちょ、やばっ」

「まだこいつがいるのにっ」

「はっ……待ってなんてやるかよ。やれ、狐共」

 

 ケガレだけならば破魔の炎でなんとか出来る。しかして混ぜられているイワレの狐は消すことは出来ない。

 陰と陽どちらも扱える黒上だからこその術式は、彼女達を追い詰めるには最適解であろう。

 

 殺到する眷属達にミオは多少のダメージは仕方ないと覚悟を決める。

 ただ……あやめが攻撃を受ける僅かな時間にハッと気付き口の端を釣り上げた。

 

「なら……こうだっ。“魔の雷が貫くは中空のみに非ず。大地をも走りて迫りくる敵を撃滅せしめん”」

 

 阿修羅に破魔の炎が大きく移り片手で龍を受けたまま……もう片方に持っていた羅刹を大地に突き刺した。

 

「“魔鬼両式……地雷矢(ジライヤ)”」

 

 瞬間、バチバチと雷が大地を走る。放射状に広がっていく雷撃で、黒上の召還した眷属にイワレでもケガレでもない純粋な魔力をぶつけたのだ。

 大地全てが攻撃判定となっているが、あやめの放った雷撃はミオだけ綺麗に避けて走っていた。まるで意思をもっているかのように。

 じゃじゃ馬のようなその雷は、黒上の眷属達を焦がした後に収束し、敵に向けて一本の矢となりて宙へと飛んだ。

 赤い刀が一閃。振り切られることでその矢は霧散する。

 眷属への攻撃で少なからず魔力を消費していた為、威力は低かったが……それでも敵意は彼女に届いた。雷本来の持ち主も、黒上を敵として見做しているのだと彼女は理解する。

 黒上の術式はまだ途切れていない。祝詞の完全詠唱での眷属召還は途切れることはなく、降りしきる黒きケガレの雪が集まり烏をカタチづくって行く。狐火を宿した烏達の空からの急襲に、今度はミオが震脚にて術式を展開する。

 

「今度はウチに任せて。“燃えいづる魔狼の炎に、祓ひ給へ清め給えと大神が諸々の禍転じて浄を齎す”」

 

 溢れ出たイワレが形づくったのは狼。召還された眷属はまるで月を写し込んだかのような輝きを放っていた。

 

「“魔狼両式……月狼之牙(ゲツロウノキバ)”」

 

 衝突と同時に狐火と破魔の炎が燃え上がる。牙を以って烏を喰らう狼は、その炎を喰らってより大きくなり、次第に集まることによって大きな太陽のように一塊の焔として中空へと浮かんだ。

 その光に照らされて、ケガレの雪は蒸発し始める。

 炎球は高度を上げて黒上へと向かっていく。ミオとあやめはソレを見上げながら、同時に目の前で自分達を邪魔する龍に対してチカラを開放した。

 

「そろそろ……邪魔ァ!」

「どっかいけぇ!」

 

 掌底と切り上げで跳ね返された二対の龍は、ミオの作り出した炎へと昇っていく。

 おまけとばかりにあやめがバチバチと雷を両の刀へと集め……炎球に龍がぶつかるタイミングで、同時に極大の雷柱を打ち込んだ。

 爆発は大きく、ケガレとイワレと魔力の三重の力が混ざり合ったソレは空間すらも圧縮するように最後は収束してその場に何も残さなかった。

 

 黒上の影も形も、其処にはない。だが二人が騙されることはない。

 あの一瞬で座標をずらして空間を移動していた黒上が、神社の鳥居の上に立っていた。

 なんでもないことのようにふわりと降り立った彼女は、忌々し気に二人を睨みつけながら赤の瞳を輝かせた。

 

 結界の安定化が為され、再びイワレをも使えるようになった彼女は両の掌に黒と白の光を生み出した。くるくる、くるくると彼女はそれらを宙で廻していく。

 黒と白が混ざり合う。陰と陽が溶け合うようにくるくると。

 

「混ざれ、溶けよと黒上が掻き混ぜる。眼前に来る敵を地に伏せるは己。双つの敵意が来るならば、この地を護りし大神と白上の名に連ねて撃滅す」

 

 この大地に寄る辺を持つカミであるからこそ出来る術式を。

 黒上は白上から成ったマガツガミであり、此処から受ける恩恵は計り知れない。

 長い期間をフブキの中で雌伏の時として過ごしてきた黒上は相応の準備を怠ることなどなく、そして彼女自体の起こりからありとあらゆる可能性への対処を余儀なくされていた。

 

 例えばそれは……フブキとミオの二人を同時に相手取って戦うという確率事象であったり。

 

 大地に空間のひずみが出来上がり、あやめとミオの前に現れたのは黒上と背格好も全てが同一のヒトガタ。

 フブキと同一の衣装、フブキと同一の背丈、フブキのイロだけを反転させたような姿。今目の前にいる黒上と全くの瓜二つ。

 

 外法による錬成とケガレによって紡がれたその身体は、マガツガミを宿す為に創られたスペアだった。ただし、そのスペアが放つ気は禍々しさよりもどこか清廉さを思わせるモノで……

 

 ミオがはっと息を呑んだ。

 そしてその瞳に、あらんばかりの怒りを宿して黒上を睨みつける。

 

「あんた……それは……」

「そうだ。この人形は破魔の能力への抵抗力を持つ極上の素体。お前が察した通りに……先々代の大神の血と肉が含まれてる」

 

 ギシリ、と拳が音を立てた。それは、それだけは看過できない。

 ミオにとって先々代とは、この地を護り、この地の為に殉じた敬うべき先達にして、始まりの大神だ。マガツガミに使われるなんて耐えられなかった。

 すぐに自身の破魔の炎にて、その身の開放をせんとチカラを高めるも……

 

「マガツケガレを封じた先々代をあんたが操るなんて―――」

「許されないってか? はっ……バカが。許す許さないなんて関係ないね。この身体は大神の意思であり、白上の遺志でもあるんだからなぁ。この素体はあたしの母の……先代の血と肉すら混ざってんだぜ」

「なっ……」

 

 絶句したミオに対して、呆れのような吐息を漏らした黒上はあやめをちらりと見て、またミオに視線を戻した。

 

「部外者に聴かせる話じゃないが……まあいい。これの素材は大神、そして先代白上、最後に赤子だったあたしの血と肉だ」

 

 眉をひそめたあやめと、更に驚愕に支配されたミオを見て続けられる。

 

「先代白上の能力は未来視。そんで見ちまった未来ってのが、フブキがニンゲンのマガツケガレに飲み込まれて堕ち、ヤマトを滅ぼす未来だったってわけだ。あたしは持ち主じゃないから制限付きでしか使えないが、フブキの確率事象観測の能力ってのはマガツガミとして成長すると時空さえ壊しちまうんだと。

 だから先代白上はフブキがマガツガミに堕ちてカクリヨ自体を壊さない為に、邪法を使ってあたしの魂をフブキの肉体に封じ込めたのさ。カクリヨを、ひいてはこの豊穣の大地を護る白上の責務としてな」

 

 語られる過去に、ミオは信じられないというように首を振る。

 

「お前の慕っていた大神は、この土地に生まれたマガツケガレの中で生きてはいた。ニンゲン達の怨嗟が生み出すケガレはそれこそ千年単位で浄化に時間のかかるモノだったんだから長い時を虚数空間で戦い続けるはずだった。それじゃまずいと気づいたあたしの母は、マガツケガレへと飛び込み長い戦いに身を投じた大神と、豊穣を通じて繋がっていた意識を通してある提案をした。

 生まれたばかりのあたしを次代の白上に封印憑依させ、未来に溢れるだろうマガツケガレへの抑止力にするってな。

 フブキは白上の眷属の中でも特殊個体だった。黒が混ざっちまってたからケガレに染められやすく、そうしなけりゃ誰も守れない未来が来ることは確定だった。そりゃあもう大神はぶちぎれたらしいが、我が子を捧げる白上の覚悟とそれしか方法がないって事実に最後は了承したんだ」

 

 だらりと両手を垂らして立ちすくむ同一の素体を横目で見て、黒上は寂しそうに笑った。

 

「だからこれはな、あたしの身体だ。大神と白上が、外法輪廻転生の術式を改変してその身すら捧げて用意した特別性。くそったれなニンゲン共のケガレの受け皿として創られたあたし本来の、な。はは……ホントはさ、真っ白だったんだ、あたしも」

 

 純白だったその身体が黒に染まってしまう寂しさなどミオとあやめには分からない。振り切るように首を振った黒上が続ける。

 

「まだ、まだこいつは使わない。フブキの身体もコレと同じだけのスペックは出せるんだ。それに使っちまったら……フブキもあたしを止めようとするだろう。フブキまで加わられるとさすがのあたしでもお前らには勝てない。あいつの確率事象観測と反転術式は厄介極まりない。

 安心しろよ。全てが終わったらあたしはコレに魂を映して、フブキにこの肉体はちゃんと返すさ。でもお前達のその破魔の炎は厄介だから、あたしとしても対策の一つくらいはさせて貰う……こいつを使って。

 お前みたいな鬼がこの土地にこなかった時はフブキとミオ相手に戦うことも考慮してたから、厄介な大神の能力対策は万全にしてたのさ」

 

 轟、と黒上の身に破魔の炎が宿る。

 ケガレと相反するはずのその炎は、まるで黒上を護るかのように優しくその身に纏われた。身体ではなく魂に、原初の大神が持っていた炎が黒上に宿る。どぷりと、彼女本来の身体が役目を終えて異空間へと沈み込む。

 狐火と混ぜ込まれた炎を瞳に宿して、同情とも哀しみとも取れる色を浮かべたミオとあやめの眼を射抜いた。

 

「あたしは母を恨んでない。憎んでもいない。身体が欲しかったとも思ってないし、フブキになり替わろうなんて考えたこともない。

 白くなくなったことは、確かに寂しいけど……でもこの“黒”こそがあたしの誇りだ。ニンゲンのケガレじゃねぇ、あたしの黒はお前と、ミオと同じ。白上フブキを、そしてこの世界を護る為の黒なんだから」

「それなら―――」

 

 言いかけたあやめを彼女はジトリと睨む。

 

「協力して、とか皆で一緒に、とか反吐が出る。この街のニンゲン共のことがあたしは大嫌いなんだよ。あたしはあたしのしたいようにやる。あたしはこのミヤコをぶっ壊す。ニンゲンから、奴らの汚いケガレから、フブキを……守るんだ。あいつにこのカクリヨを滅ぼさせたりしない為に」

 

 すっと上げた腕が二人に向けられる。

 

――だってあいつはきっと、あいつが大好きなニンゲン達を傷つけた自分を許せなくて泣いてしまう。あたしはあいつを……あのバカ姉を泣かせたりなんかしない。

 

 天に反された掌をぎゅっと握って、彼女は苦しみを吐き出すように声を流した。

 

「あたしは……その為に、生まれてきたんだっ」

 

 風が、水が、火が、土が、雷が……五行を以ってして黒上の術式が発動する。

 じわりじわりと広がるケガレは、ミオとあやめの破魔の炎によって抑えられはしても消滅までは至らない。

 ひらりと宙へと飛んだ黒上は、天に手を掲げて五行の全てをイワレとケガレに込めて集め始めた。

 集っていくチカラは別の天体を創りだすかのように荘厳さを纏いて。

 

「四季廻陣―――終式……“狐月”」

 

 片手の上に浮かぶのは月。

 惑星を廻るたった一つの天体は、その引力によって母なる海をも引き付ける。

 四季折々の姿を見せる月は季節全てに等しく現れ、人々の想いを多く受け止める媒体となりうる。

 イワレとケガレがより多く集っていく。人々の想念が其処に吸い寄せられるように。

 集った想念の力は誰彼を滅びへと向かわせるモノ。このミヤコの多くを壊してでもいいと、そう願って紡いだチカラ。

 

 

 

 ビシリ……と黒上の頭にノイズが走った。

 

 

 

 四角く切り取られた液晶。

 

 流れる大量の文字に込められた、ニンゲンの意思と想念。

 

 入力機器に向かって語れば自分達の想いも彼らに届き。

 

 二十を超える自分達と同じ仲間。

 

 与えられたステージに上がる彼女達とは自分は違うが……それでもいい。

 

 目の前ではしゃぐ姉と。

 

 めんどくさいと思いながらも口元が綻んでしまっている自分は……確かに、彼らから……

 

 

 

 読み取った確率事象を受けてか、ズクリと黒上の尻尾が疼いた。

 共鳴するように、共感するように、同調するように、姉が今の確率事象を認識してしまった……否、と歯を噛みしめる。

 

「……現世とのシンクロが強くなりすぎてるから、わざわざ見せて(・・・)きやがったのか……ばーか」

 

 それは内側からの抵抗だったのかもしれない。いや、そうなのだろう。

 心の内側に封じたフブキが、彼女の意思で黒上を止めようとしたのだ。

 

 しかして黒上は出し惜しみすることなく膨大なケガレとイワレを注ぎ込む。

 眼に宿らせたケガレの炎が煌々と燃える。 

 

「バカ姉が……此処は違う。違うんだよ。此処は正史でもなくて、ウツシヨでもなくて、ましてやまともなカクリヨ……“クロニクルのセカイ”でもない。此処にはお前を見てくれるとうもろこし共も子狐もいない、お前が三千回愛を伝えたいトモダチもいない。お前が愛してやまない仲間達……時空の歌姫、界極の開拓者、流星のアイドル達を筆頭とする先輩や同期や後輩もいない。小さな箱を通して世界の想念を一身に受けることも、セカイへの愛を、想いへの愛を届けることは出来ない。出来ないんだよ。そう(・・)はならなかった……ならなかったんだよフブキ……。

 だから……おとなしく寝てろォ!」

 

 二重に重なる五芒星が尻尾を包み、ケガレが更に色濃くなった。

 ノイズも消えた。姉の覚醒も封じ込めた。術式の準備も万全。

 

 あとは、明確な殺意をもって放つだけ。

 其処に待つのは鬼と狼。

 

「今のあたしが放てる最大火力の術式だ……ニンゲンを護るなら逃げるなんて出来ねぇよなぁ? 喰らって堕ちろ、バカ共」

 

 見下ろす眼に映る彼女達に向けて、黒上は苛立たし気な声と共にその手を振り下ろした。

 

 

 

 藍色が映ろい染まる空に月が降る。

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 させない、と呟いたのはあやめだった。

 黒上の成り立ちを聞いて悲痛を感じたミオは、どうにか呆然とならずにその攻撃を受け止めようとしていたが……あやめの呟きにそちらを見やる。

 

「ミオちゃん」

「……」

「余は確かに部外者だから、ミオちゃんたちに何があったのかは分からない」

「……」

「あの黒い子がどれだけの絶望を呑み込んで此処を壊そうとしてるのかも分からないし、白上がどれだけの厄介事を抱えてるのかも分からない」

「……うん」

「あの子にとっての此処はきっと苦しくて辛くて悲しい場所。でも余は、あの子の想いを間違ってるって否定しながら戦いたくない」

「うん」

 

 ぎゅっと、二人で手を繋いだ。

 

「余はわがままだから、自分勝手だから、あの子が好きなように世界を壊して創ろうとしてるんなら、全力でそれをぶち壊して、こっちのほうがいいんだぞって押し付けて、無理やり手を繋いでやろうと思う」

 

 ミオちゃんは? と微笑みを向けられた。

 

「ウチも……何も知らないままあの子とフブキと過ごすなんてもう出来ない。だから……うん、ぶち壊そう」

 

 柔らかな笑みを浮かべてミオもあやめに頷く。

 

「一緒に、ね?」

「うんっ。余とミオちゃんと……皆で!」

 

 繋いだ手を前に、互いに紡ぐのは二人の力と預かったチカラ。

 桜のような桃色に金糸が絡み赤が咲く。紫電に紅が寄り添い互いに結んだ手に宿る。

 

 大丈夫だよ、と囁くような悪魔の声が聴こえた気がした。

 しょうがないなぁ、と呆れながらも楽し気に魔女の笑い声が聞こえた気がした。

 繋がるのは……癒し月に微笑む狼の声、紫電に揺蕩う鬼の声。

 

 紡ぐのは祝詞ではない。

 彼女達が心を繋いで共に往くのなら、二人で紡ぐなら……歌を。

 

 

――暁……交わした約束は……

――本物だってきっと……

 

 

 混ざり合う彼女達の想いが、繋いだ手から身体へと流れて溢れていく。

 

 

『信じてる―――』

 

 

 唇から重ねて鳴り響いた旋律が風に乗って世界へと流れ出た。

 

 ミオとあやめから堕ち来る月へと突き出されるのは刀と拳。

 二人の想いと、彼女達にチカラを貸しているモノ達の想いが乗った一撃が、ミヤコすら滅ぼさんとする悪意の術式へと放たれる。

 大きく、鋭く、速く、そして暖かく……。

 

『―――っ』

 

 重なる声と共に、刀が、拳が、月へと突き刺さる。

 受け止めた一寸で世界が止まる。拮抗していたのは一瞬……そうしてから徐々に、徐々に月に亀裂が走っていく。

 まるでガラス玉を落としたように、黒上が創り上げたケガレによる月はひび割れていった。

 

 ピシリ、ピシリと音がする。何かが乖離するかのような音に、ミオとあやめは更にネガイを乗せた。

 

 どうか、どうかニンゲン達を傷つけぬように、と。

 

 業と、轟と、炎が噴き出す。あやめの刀から、ミオの拳から破魔の炎が月へと浸食していく。

 亀裂を覆うようにして広がる炎は、月の欠片が大地へと降り立つ前にケガレを浄化し始めた。

 

 それは降り注ぐ花びらのように美しく、舞い散る雪のように儚げに。

 

 大地へと注がれる白きイワレは、ケガレを祓いて反転したヒトの想いのカタチ。

 

 黒上は遥か上空で己の術式が敗れたことに目を見開き……宙を蹴る。

 

「まだっ」

「終わりじゃあっ」

『ないっ』

 

 弾け飛んだ月の欠片、その中から飛び出してきた二つの影を認識してすぐ、空間をずらして後ろへと……

 

「……バカなっ」

 

 虚数式による空間管理は、あやめから放たれる紫電の雷に阻まれて出来ず。紫の魔法陣が鏡合わせとなって術式の妨害を行って。

 距離をおく為にと、構えた赤い刀を振れば狐火と破魔の炎が渦を巻く……が、

 

「それもダメ、逃がさないよ」

 

 溢れるミオの大神による業火が、月光の如き優しき魔力と混ぜ合わされて黒上の炎を中和する。意思を持った羽持つ炎が、黒上の炎を抱きしめる。

 次いでの攻撃に、あやめの刀を赤刀で、ミオの拳を掌でどうにか受け止めた。

 ぎりぎりと歯を鳴らす。

 憎らしいと、恨めしいと、疎ましいと……羨ましい、と。

 

「てめぇら……いい加減に―――っ」

「いい加減にするのはそっちだ! 黒上ぃ!」

「あんたの一人よがりで救われるほど! ウチとフブキは弱くないっ!」

 

 一つ二つと攻撃が連なる。

 宙を蹴りながら駆け上がっていくあやめとミオの連携を、黒上はどうにかいなしていた。

 伝えられる言の葉に、苛立ちからの反論を投げ返しながら。

 

「はぁ!? ニンゲン如きのケガレに呑まれそうだったのにどの口がいいやがる!」

「それはそう! ごめん!」

「えぇ!? ちょ、ミオちゃん!?」

「いやぁ、ほら……そこはウチも悪いし?」

 

 あはは、とチカラなく苦笑しながらの言葉に黒上はまた苛立ちが一つ。

 態度は緩くとも手は抜かないのも相まって。

 

「そんなんであたしにお説教してんじゃねぇぞぉ!」

「ふん! でも大丈夫だし! 余が気付いて止めに来てたもんねー!」

「ああ? クソ鬼が来ても溢れたからあたしが居るんだろうが!」

「お前が邪魔しなきゃ余は白上にも勝ってたんだ! バーカ! バーカ!」

「お前はそもそも世界の異変がなきゃ来てない部外者だぞ! 介入してくるんじゃ―――」

「部外者だからこそ!」

 

 ガキリと、大きく鍔ぜりあいになった。

 紅と赤の瞳が交差する一瞬、ニッと笑ったあやめにミオもまた微笑む。

 

「余はお前と同じく自分勝手に救うことにした! お前の望みなんて! 存在理由なんて! 生まれた意味なんて……知ったことか! 余は余のしたいようにする! だからおとなしく……余とミオちゃんに救われろ!」

 

 あまりの横暴さに、傲慢さに言葉の詰まった黒上が弾かれる。

 構えから一瞬、追撃の連打に移ったミオがそれに続く。

 

「あんたの過去はあんたのもんだ。先々代と前の白上が何をしたかもウチは知らなかったけど……間違ってるなんて言わないし、肯定もしない。ウチもあやめと同じく、自分勝手にすることにしたんだからっ」

 

 炎が宿る拳の攻撃は、打撃を与える傍から黒上のケガレを癒していく。一つ、二つと拳が打たれる度に、胸の奥に眠らせた彼女に響いてくる。

 

「寂しがらなくても、もういいんだよ。ウチはもう……ううん、フブキもきっと、これからは変わっていく。変わることのないのがカミだと思ってたけど、きっともっと、ウチ達は……あんたも、わがままに生きていいんだっ」

 

 また、黒上が弾かれる。

 既に神木の中頃までの高さに到達した彼女達には、ミオとフブキの住まう神社がよく見えた。

 ドクリ、と黒上の尻尾が胎動を打つ。内側からこじ開けようとするように、彼女の愛する姉が、まるで彼女を止めようとしているように。

 

 ギシリ、と歯が噛み鳴らされる。

 

 もういい、と声を出した堕ちたカミは、泣きそうな眼をしながら鬼と狼を見やった。

 

「うるせぇ……うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!

 あたしにはこれしかないんだ。母さんが死んだのも、あたしがずっと隠れてたのも、この時の為なのにっ! そんなことっ……」

 

 此処で自分が負けてしまっては、過去からの繋がりが全て無駄になる。

 彼女の、黒上の胸に宿る二つの大きな想いがあった。

 先代の白上と、先々代の大神が残した想い(イワレ)が、彼女の心をとらえて離さない。

 

「あたしはマガツガミになって、フブキを護るんだ。そうじゃなきゃ、ダメなんだ!

 ……そうじゃなきゃ……なんのために……」

 

 全てが徒労となってしまうのならば……この想いは何処へいくのだ、と。

 

 苦しいよ、と声が聴こえた気がした。

 救われる為には、彼女自身が彼女として望みを叶えるしかないのだろう。

 それでも……あやめとミオは真っすぐに彼女の瞳を射抜いていた。

 

「過去は確かに大切だ」

「思い出が詰まってて、形作られた全てが詰まってる」

「その過去があんたのイワレとして手放せないモノだとしても」

「きっとその……イワレっていうのはお前の持つ二つだけじゃなくて、他にもお前を作ってくれると思うんだ」

 

 例えば、とミオが続ける。

 

「ウチはあんたを知って、もっと知りたいと思った」

 

 例えば、とあやめも続ける。

 

「余はお前を知って、手を繋いでみたいと思った」

 

 だから、と続く。

 

 

『おいでよ、一緒に遊ぼう』

 

 

 三人の頭に、ジジ……とノイズが走った。

 

 フブキの身体を借りているからか、黒上もその光景を見てしまった。

 

 余りにも黒上にとって残酷な。

 

 あやめと、ミオと、フブキが……三人で舞い踊る光景。

 暁に交わした約束を、彼女達は笑い合いながら確かめ合う。

 

 うたかたの夢は弾けていく。

 

 

「ほら……結局、あたしはいない」

 

 寂しそうな声を零して、黒上は宙で停止した。

 

「は……勝手なことばっか言いやがって……なら、それでいい」

 

 あやめとミオは、自分勝手を貫き通して来るのだから。ほら、あの黄金と紅の瞳は、与えられたノイズにさえ心揺るがず、自分を救えると、心を掬えると信じている。

 だから黒上は、真っ直ぐに、ただ真っすぐに自分を貫くことを決めた。

 

「最後だ……一撃で決めよう。

 小細工も、術式も、想いも、未来も、過去も全部全部を! 何もかもをあたしはあたしに込める!」

 

 ふっと二人から更に離れて手を天に翳す。

 雪と花と……月の光すら黒上を祝福するようにチカラを与えていくよう。

 このミヤコに溜められていたケガレの全てが濃縮されたような、千年を超えて無機質と化した全ての信仰が集まったような……哀しいチカラが彼女に集まっていった。

 彼女の想い(イワレ)は、奇しくも赤に染められたフブキの刀へと集っていく。

 

 遠く、あやめとミオも出し惜しみはもうしない。

 紫電が空に響き渡り、焔が天の暁を重ねて焦がしていく。

 幾重も現れる魔法陣が、黒上へと続く道筋でチカラを増してくれるだろう。

 

「ミオちゃん」

「ありがとね……あやめ」

「こちらこそっ」

 

 それ以上言葉はもういらない。

 

 霞構えを取ったマガツガミへと、二人は一歩、二歩と。

 

 魔法陣を踏んで距離を詰めていく。

 

 踏み出す度に加速していく二人は、決してずれることなく進んでいく。

 

 どちらもが、声にならない叫びを上げていた。

 

 黒の狐娘も、気づかぬうちに叫んでいた。

 

 お互いの全てを込めて……暁の空を切り拓く。

 

 

 

 衝突。

 

 

 

 瞳が捉えたのは、ようやっと顔を出した日輪。

 

 散り来る花吹雪。想いの華は百花繚乱。

 

 はらりはらりと落ちる花弁と舞い踊るように。

 

 ふと、声を聴いた気がした。

 

 ばーか、と呟いたその声は……前までは寂しそうだったはずなのに、少しだけ照れたような声音をしていた。

 

 精一杯の想いを、言の葉に込めてみた。

 

 

 色づく想ひは刹那、風に舞い、少女達の純情と咲き誇る。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。



次回、エピローグ。
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