例えばこんなホロライブALT【hololive alternative-bibliography】   作:ちゃんどらー

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急ぎで書いた為、至らぬ点が多いかもしれませぬ


百花繚乱花吹雪  2

 現れた都が美しいと、一族のモノは言っていた。

 なるほど確かにと、百鬼あやめはのんびりと山頂からその様子を眺めて思う。

 城壁というモノで囲われているわけではなく、しかし街は区画ごとに整備され、街の入り口と思われる場所から一直線に行けば城のような塔のような建物があった。

 遥か昔、魔界にも人間が多く、鬼達がもっと畏怖されていた時代であれば、もしかしたらこのような街並みがあったのではないかと彼女は思った。

 大通りは活気に溢れ、遠目に見ても人々の声が笑みに溢れているであろうと分かる。

 

「はえ~、人間様がいっぱい。シオンちゃんの故郷とか術で見せて貰った別次元の星とかみたい。やっぱりそういうとこと混ざったんかなぁ?」

 

 彼女が生きてきた魔界は、何も妖魔や悪魔などの人外ばかりが暮らす場所ではなく、確かに今も人間も生息はしていた。

 しかしながらその絶対数は少なく、細々と魔のモノから隠れて暮らしているに過ぎなかった。

 

「あれだけの数がいると……呪われたらやばいじゃん。皆に縛り掛けておいてほんと正解だ。人間様は数に比例して呪いを強めてくるし、執着と恨みと憎しみとが増幅されたら信仰と畏怖じゃなくなっちゃうかんなー」

 

 うんうんと頷きながら、おでこに当てていた手を下ろす。

 

「先代まで貯めてきた呪いはまだいい。でもこれ以上集まると大変だ……鬼族自体が変質しちゃう。まだ皆には伝染してないし余も強くなったから抑えられるけどこれ以上はダメ。皆が呪われる。人間様に対してのより悪へ、悪鬼へ、そうあれかし……ってね」

 

 彼女だけが知っている現状を口で確認しながら、どうなるかの予測を回した。

 畏怖などの信仰を受けて強くなるというのならば、受ける感情が憎しみであったならばどうなるのかなど想像に難くない。

 彼らのような生き物に向けられる感情は願いと同義だ。畏怖も、憧憬も、憎悪も。そうあれかしという願いに他ならない。

 紡がれた願いの数に比例してその本質を変化させていっていると言ってもいい。

 

 故に、彼女は間違わなかった。

 

 寂しくなったのか、それとも別のナニカか、おいで、と式である鬼火を二つ召還してから撫で始めた。彼女は言葉を繋いでいく。

 

「余が継いだのは恐怖と憎悪の鬼神。魔界の人間様を壊滅させた鬼族の始祖が受けた始まりの想い。語り継がれて、教え込まれて、捻じ曲げられて、熟成されて、繋がってきた昏い想念」

 

 それはもう、おどろおどろしいモノだ。鬼の彼女でさえ忌避感しかなかったのだから。よく飲み干せたと自分で自分をほめたいくらいに。

 数百年もの間受け継がれなかった鬼神の力を思い出して、うげー、と舌を一つ出す。

 

「そりゃあ、先代も狂っちゃうよねぇ」

 

 まあ、自分は鬼族でも変わり者だから大丈夫だったが、とは言わない。

 自分とは違う皆が同じモノを受けて大丈夫であるとも絶対に言えない。

 一族は人間たちにとっての家族のようなモノだ。彼女も守りたいと思うし、願いを叶えてあげたいと思う。

 

 だからこそ

 

 ゆるりと首を上げて空を見ると透き通るような青空が広がっていた。

 春の始まりであるからこそ山に咲く花も、山を駆け抜けていくまだ冬の気配を残す風も、そして山に生きている生物達も。

 

 ため息を一つ。

 薄暗くなりそうだった気持ちを吐き出してしまえるようにと。

 

 

「世界が変わっても、空とか、花とか、風とか、山とか……増えた分もあるけどこんなにも綺麗」

 

 にへへとだらしなく口を緩めて笑う。

 大変な事態が起きてはいるが、それでも変わらないことはあるのだ。

 大自然という大きなモノを身体全体で感じて、彼女はまた鬼火を軽く撫でやる。

 

「変わったと言っても、綺麗な景色が増えるのはいいことだよね。壊しちゃわないためにも、どうにか余ががんばらないと。魔界流っていうのはほんと……ままなりませんなー」

 

 肩を竦めつつも気合いを入れた。

 相手の情報は調べられた分は整理してある。交渉は出来そうにない。相手も急な異変にピリピリしているのは聞いていて、人間という種族を率いているからには異形との交渉には時間が掛かる。

 あやめが一族を想うなら動かなければならず、彼女自身も動きたい。戦力上の理由を鑑みるとこちらが不利であるならば……大勢が整っていないうちに奇襲を仕掛けて玉を取るのが定石であろう。

 

「……?」

 

 思考に潜っている最中、ふと、彼女は不思議な気配を感じた。

 

(生き物とは違う……シオンがよく使ってる使い魔みたいなのとも別……)

 

 眼だけで二つの式に指示を出し、いつでも迎撃できるように構えた。

 まだ遠い。だが、この速度ならばすぐ此処に到達するだろうことは分かった。

 

 風の音だけが耳に響く。鼓動が数十を数えた頃……カサリ、と低木の枝葉を掻き分けて小さなモノが姿を現した。

 

「……犬?」

 

『狼ですが』

 

「しゃべった!?」

 

 真っ黒い犬が飛び出してきたと思えば狼だと突っ込まれる。そんな稀有な出来事にあやめは一瞬頭が真っ白になった。

 

(あ……紙で出来てるこの犬)

 

 よくよく見ればナニカが創り上げた非生物であるのだと分かる見た目をしていて、興味深々と言ったようすであやめは目を輝かせた。

 

「ほえー、紙に喋らせるって大変じゃない?」

 

『えーっと……言の葉を繋ぐよう施してあるのでそこまでは……』

 

「あーね。術か魔術か他のナニカで繋いでるんだ。ふーん、なるほど」

 

 言いながらもソレには触らない。触らずとも力が流れているのはよくわかる。そしてこういった技術を遠隔で使えるモノが大きな力を持っていることも。

 警戒はしているが、彼女は構えたりしない。

 あくまで自然体のままで、睨みつけもせず、まっすぐに狼を見ていた。

 

(……あれ? でもなんだろ……この声なんか……)

 

『……ウチと同じくらいの力を持ってるんですね』

 

 ナニカ引っかかると思考に潜る前に、相手からの声で中断される。

 

(直接会ってるわけじゃないのに知覚してる相手の能力を探ることもできるのか。便利な術)

 

 互いに力の大きさを見切ったモノの、あやめは相手よりも一歩不利だと言っていい。

 何せ相手にはこちらが見えているが、相手のことを見て確認までは出来ていない。

 

(さすがに此処まで距離が離れてたら余が読み切るのは無理、か)

 

 ふいと、視線を都の塔の方に向ける。

 遠くとも感じる力の大きさと居場所は理解しているため、相手が其処にいることはわかりきっていた。

 きっと相手も視線を感じたことを少しだけひりついた空気で読み取る。

 

『ふむ……世間話をしに来たわけではないのでさっそく本題に入りたいのですがいいですか?』

 

「ん、いいよ。ただその前に――」

 

 ふりふりと片手を振って、待機していた式を消す。そうしてから彼女はにこりと笑う。

 

「余は百鬼あやめ。魔界学校に通う生徒会長にして魔界の鬼一族の鬼神だよ」

 

 すっと細めた瞳が仄かに赤く染まり、鬼の気を感じ取った山の生き物達が途端に騒めきだした。

 自己紹介がてらに少しだけ威圧を含んだ彼女の言に、狼の向こうにいる相手は少しだけ息を呑んだようだった。

 

「お互いの仲間同士で情報交換をしたのは分かってる。でも、余のことはまだ情報がない。謁見とかそういった面倒事を嫌う存在かもしれない。そもそも自分達と同じような力を持っているモノを街に入れたくない。だから余が一人でいる今、此処にわざわざ来た。そうでしょ?」

 

『……ええ、その通りです』

 

 明らかに張り詰めた警戒の空気。

 はいはいはいはいと小さく口ずさんでから唇をぺろりと一つ舐めた。引き込まれるほど艶やかな笑みが際立つ。

 

「余みたいに自由に、直接来ればいいのに、ね? 怖いの? 変わっちゃった世界が? それとも……余のことが?」

 

 ビシリ、と空気が凍った。

 あからさまな挑発に押し黙る紙の狼を見つめつつ、あやめはそれ以上声を上げることなく視線をソレに向けることしかしない。

 

(魔界ならこれでガチンコの殴り合いで済むから楽だし、すっ飛んできてくれるなら向こうの情報もめんどくさいこと抜きの生で手に入るからうれしいんだけど……これは無理かな。やっぱり組織的なしがらみがあって動けないやつの反応だ)

 

 情報から分かってはいたが、トップだけで解決できる望みも掛けて彼女なりに誘ってみた。

 まがりなりにも癖の強い魔界学校で生徒会長を張っているのだ。腹の探り合いの真似事くらいは出来るというもの。

 

 相手も強者とはいえ、一大事の最中である。強者視点の情報は喉から手が出るほど欲しいのはお互いさまで、組織などのしがらみのない状態で話したいのも同じく。

 舐められるのも癪で、交渉による優劣関係を付けさせない為にも必要なことだ。例え彼女自身が上下関係など気にしない性質だとしても。

 

 ふぅ、と彼女は小さく吐息を落とす。これは自分の方が折れてみようかと切り替えて。

 

「んー、どうしても出てこれないなら仕方ない。余もそっちの人間様達に変な目で見られるのもイヤ。ならやっぱり、こうして話すしかないかー。ごめんね挑発して、それにこっちのわがままを押し付けちゃった」

 

 ただし、相手も頭が切れるだろうからと言葉は最低限とした。

 幾分緩めた空気を感じたようで、狼の方からも小さい吐息を漏れた。

 

『……失礼しました。まず、ウチの方から名乗るべきでしたね』

 

「ん? 別にいいのに。余は余が名乗りたいから名乗っただけだよ? それに組織の上の人って名前を知られたくないこともあるでしょ?」

 

『それでも、ですよ。縄張りの外から尋ねる側の礼儀というモノでした』

 

 申し訳ありません、と深い感情を載せた声音が響いた直後、ぱたり。狼の頭にある紙の耳が倒れたと思うと、そこから光が漏れ出て人のカタチを作っていく。

 黒い髪、金色の瞳、大きく立派な黒い耳。柔和な微笑みは母性溢れるよう。

 

『初めまして。ウチの名前は大神ミオ。この都を治める二つの家の片割れ、大神家の当主をしている狼の祀り神です。名乗りが遅れて、そしてちゃんとお話しできなくてごめんなさい』

 

 ほう、とあやめは息をつく。

 爛々と輝く目は、光でカタチづくられた少女に興味津々であった。

 

「……余と同じで神系統? 道理でふつうの気配と違うと思った。狼の神様は初めてだ」

 

『ウチも鬼の神は初めて会いました』

 

 お互いが小さく笑い合う。見た目もさることながら、女の子同士というのも少し気を許させる要因になったのかもしれない。

 

「そっちの世界にはいなかったんだね」

 

『はい。“そっちの世界”ということは貴女もこの異変の大方の予想は立てているというわけですか』

 

「うん。多分あなた達と同じ予測を立ててると思うよ? 情報の擦り合わせする時間ある?」

 

『……幸いなことに日が山に掛かるくらいまでは』

 

「ならそこからかな」

 

 よいしょー、とあやめは小さく呟いて其処に腰を下ろした。

 そうしてじっと狼の上に映る少女を見やる。きっと説明するべき情報を取捨選択しているのだろう、一寸の瞑目にて高速で思考を回していることが分かった。

 

 あ、とあやめから声が漏れる。そういえばと思い出したことがあった。

 

「擦り合わせする前に聞きたいことがあるかも」

 

『……なんでしょう?』

 

 緩いままであるからかそれほど警戒はないが、少しばかりの不安を浮かべた顔で聞き返してくる大神ミオに対して、あやめは眉を潜めながら声を流した。

 

「もしかして……あなたも歌を聞いたりしてない?」

 

 

 さあ―――と、風が一陣大きく吹き抜ける。

 舞い散る花びらと青い空が美しく映えていた。

 

 黄金の瞳を持つ狼の少女が、ほんの少しだけ目を見開いて―――

 

『……そう、ですか。貴女も……なら、もしかしたら貴女こそが―――』

 

―――ぽつりぽつりと語りだした話に、あやめはしばらく聞き入ることとなった。




ミオママ(神だった頃)との邂逅

かっこ余なコミュつよ鬼神生徒会長お嬢

魔界式侵略する気満々でいたけどとりあえずまずは話し合うもよう
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