例えばこんなホロライブALT【hololive alternative-bibliography】   作:ちゃんどらー

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サブタイトル【hololive alternative-bibliography】の追加。

意味は「hololive可能性代替関係書誌」
並行宇宙や平行世界、恋姫でいう外史の記録といったところ

イワレやケガレなどの名称はフブミオ世界のモノ
あやめちゃんの世界では呼び方は別

世界が混ざってるとは言い得て妙


百花繚乱花吹雪  4

 遠い、遠い過去を想っていた。

 

 初めは森と草原と山に溢れていたこの土地で、自分の家族達は野を駆けまわり、絆を育み、子を育て、ケモノを狩り、アヤカシを狩り、自然と共に生きて暮らしていた。

 まだヒトが群れていない頃。自分が感じていたのは日の光と新緑を含んだ柔らかい風と土の優しい匂いだったはずだ。

 華を愛でて、緑を慈しみ、紅葉に想いを馳せ、白雪と共に眠っていた。

 

――華が咲いて――緑が溢れて――紅が舞い散って――白が降り積もって――繰り返しの日々だとしても。

 

 四季の彩りを感じるたびに、この世界の美しさに胸打たれていたのだろう。

 だって、未だにその彩りを忘れることなどないのだから。

 このヤマトのクニに生まれ落ちた奇跡に感謝して、一族みんなでこのままゆるりと暮らしていくのだと昔は思っていた。

 

 あの頃のことで一つ、脳髄に残って離れない記憶があった。

 それは確か……先々代のこの土地の守護者からの言の葉だった。

 

『我らが使命はただ一つ。この地に現れる澱みを祓うこと也』

 

 大地も、森も、山も、海も、川も、空も……其処に息づくモノある限り澱みを溜める。

 澱みはその地にある生物非生物を問わずに蓄積されていき、ある臨界点を超えた時にソレは周りに害を産み落とす。

 腐り果てた果実のような腐臭を放つソレは、大地をも穢していくのだ。

 

 自分達の一族はそういった澱みを祓う力をいつからか持っていた。

 きっと、大地が、自然がそう望んで自分達にこの力を与えたのだろう。祓えば澱みは名も分からないチカラに戻って更に自分達の一族を高めてくれた。

 邪なる澱みを祓い、大地と共に生きていく。それが自分達“オオカミ”の一族に与えられた使命。

 

『そして豊穣を齎すモノを護り、並び、共に在れ』

 

 ただ、この地にはもう一つ大地と暮らす一族が居た。

 “シラカミ”と名乗るその一族は、大地の声を聴き、恵みをより大きく育むことのできるモノ達だった。

 他所の大地では確かに、実りが細くなって飢餓に喘ぐことなどざらにあると聞いていたが……此処ではそれがない。

 彼の一族の力によって、この地は枯れ果てることはないのだ。

 

 互いの縄張りの関係上、自分がその一族に会うことはなく、その一族と交流を持てるのは土地の守護者と一族のまとめの長老くらい。

 好奇心はあった。

 でも自分は少し臆病だったから、言いつけを守って守護者が引き継がれるその時までその一族に会うことはなかった。

 

 

 何十と季節を重ねた頃……この土地に転機が訪れた。

 

 知識としては知っていたし、森や山を駆けている時に見たことはあった。

 ニンゲンと呼ばれる生物が、この豊かな土地に目を付けたのだ。

 

 当然、初めの頃は一族の誰もその生物に近づこうとせず、森に入るも追い返すのが日常として扱われていた。護りし大地に異物が混入することを嫌って。

 しかしその生物は賢く、器用で、忍耐強かった。

 

 森に入れないと分かるとニンゲン達は群れとして周りに住処を築いた。

 洞窟や大木の洞、枯れ木を集めて固めて作った巣のように天候に左右されることのないニンゲン達の住処に、自分含め一族は少しばかりの羨ましさを感じた。

 次に、ニンゲン達は毎日のように森に頭を垂れた。

 言の葉は分からず、意思も伝わらない。ただ、願い請う姿は彼らの小ささを教えた。

 

 自分達はそれを毎日見ていた。

 だから、彼らが話す言葉を覚え、彼らが何を語り掛けているかを理解し、彼らが何を望んでいるかを知ってしまった。

 

 森を守護する一族の自分達は、森の深部に暮らす“シラカミ”と違い、ニンゲンという種とより多く接することとなった。

 礼を尽くすというのなら、少しくらいは土地の恵みを分けるのはいいだろう、と。

 踏み荒らすことがないのなら、こちらから危害を加えることはせずともよい、と。

 

 何より……ニンゲンが自分達に捧げるその“信仰”と“想念”が……“オオカミ”の一族にチカラと充足を与えてしまっていたから。

 春のように暖かく、芽吹きのようにこそばゆい想いの一方通行。赤子に戻ったころのような、ただナニカを与えられるだけのその充実感。澱みも混ざらぬその純粋な敬い。

 ニンゲンはそれを“イワレ”と呼んだ。

 “イワレ”にも種類はあるらしいが、物体一つ一つに蓄えられる歴史や想念というのが通説だという。

 そこで気づく。自分達一族のチカラもイワレであったのだ、と。

 心を介することでより強くなるというその力は、他者からの認識の具合によって変化するらしい。

 彼らニンゲンから向けられるモノは……

 

 “オオカミ”は、その時にきっとニンゲンの心を覚えてしまったのだろう。

 

 それが幾年続いたかは分からない。

 その間にたくさんのことがあったが……転換期はあれだろう。。

 “オオカミ”が行っていた澱みを祓う行いは、ニンゲンにとっては信仰をさらに深める所業らしく、長い年月の中でそれを見られた時より、ニンゲンは自分達の一族をカミと呼び、だいぶと数の増えた集落に祠を建てて祀り始めた。

 

 そうしてより大きな“イワレ”が、自分達に注がれる。

 

 ただし、ニンゲンがもたらすのは何もいいことだけではなかった。

 この土地の豊穣が尽きないと噂は年月の内に広まり、時には我が物にせんとして押し寄せてくる集団も居たのだ。

 その頃には、自分達とニンゲンの間には奇妙な協力関係が出来ていた為、共に並び立ってその暴力を押し返した。

 

 その時に気付いたのだ。ニンゲンが集まると澱みが出来るのも早いのだと。

 幸いなことに、初めに住み始めてから増えていったニンゲン達は、自分達一族への信仰を深めていっていたからか澱みを小さな諍いでしか出しはしなかった。

 しかし外部から攻められた時は違う。

 大量のニンゲン達の妬みや嫉み、憎しみと怨恨によって膨れ上がった澱みと、大地に染み込んだ血や臓物が腐りを促進させていた。大地が穢れていき……悍ましいナニカが宿ったようだった。

 “ケガレ”と、ニンゲン達はそれを呼んでいた。後で知ったことだが、自分達が祓っていた澱みも、その規模こそ小さいモノの“ケガレ”であったのだと。

 その時の“ケガレ”は微細に発生するだけの澱みとは違い、祓う為には“イワレ”を十全に用いなければならなかった。“オオカミ”一族全てをもってしても祓いきることは出来なかった。

 通常に自然発生する澱みの上位互換、いつも一族が祓ってきたモノとはわけが違う。祓おうとも祓おうとも、ソレは大地にこびり付いて全てが離れることは無く、また日月を置けばそのケガレは元に戻っていく。

 自分達は、戦の噂を聞いて尋ねてきた旅人からの語りにてソレの正体を知る。

 

 曰く、ケガレが重なり交わり消せぬその時はマガツケガレとなり、モノかヒトかアヤカシか……ナニカに宿ってマガツカミが生まれるという。

 曰く、ケガレもイワレをも喰らうそのカミは、ヒトの心を乱し、大地を穢し、多くの邪悪なアヤカシやカミを生み出すのだという。

 曰く、マガツカミを生んだその土地は、二度と実りを宿すことはないという。

 

 ニンゲンという生物を恐ろしく感じたのはその時だったと思う。呪い、と言っていいそのマガツケガレと呼ばれるモノの醜悪さに、いったいどれほどの想いをその矮小な身と魂に宿していたのか、と。

 

 そして、より多くのイワレを受けていた先々代の守護者の存在を他のニンゲンから聞き、集落の現状を理解した旅人は一つの提案を行った。

 

『御カミ……守護者、オオカミサマ。ケガレを祓う為、ヒトにしてイワレを操る巫女を一人人柱として捧げねばなりませぬ。その清純たる魂は必ずやケガレを祓い続けることでしょう。

 しかし……それだけではこのマガツケガレを祓い清めきることは出来ませぬ。この土地は……“豊穣”を宿しているが故に』

 

 その時の守護者の眼を、自分は今でも覚えている。

 烈火のごとく猛った炎を宿したその瞳は、旅人を今にも噛み殺さんとするかのようで。

 しかしそれに怯むことなく旅人は続きを語った。

 

『“豊穣”を捧げよというわけではございませぬ。それこそ、そうしてしまえばこのヤマト自体が崩壊することすらありましょう。違うのです、違うのです。

 貴女様が守護者たる所以は、其処にありましょうや。オオカミサマ……豊穣の守護者たる貴女が……イワレを操る巫女を喰らいてイワレを重ね、マガツケガレの根源へと至り、内から滅ぼして閉じるしか、このマガツケガレを祓う術はないのでございまする』

 

 唖然。

 ニンゲンも一族の皆も、その旅人の語りに言葉を失った。一寸、何を言っているかも分からなかった。

 一族は守護者とは老いに伴い継承するモノであると聞かされていたし、守護者を失う事などないと、ニンゲンも思っていたはずなのだから。

 ゆるりと膨れ上がりそうになる周りの怒気を感じてか、先々代の守護者はトンと前脚で大地を叩いた。

 

『……他に方法はないのだな?』

 

 いけません、と声を張り上げるモノばかりであった。やめてくれ、と希うモノばかりであった。ならば自分がと、誰もが願った。

 それほど守護者は皆から好かれていたのだ。当然、自分も。

 

『現状ではこれ以上の方法をわたくしめは存じておりませぬ』

『そうか……そうか。ならばよい。これも天命』

『不甲斐なく……ニンゲンの不始末をカミに押し付ける無礼を――』

『よいと言った。その物言いは命を捧げる無垢なる巫女に無礼ぞ。そして我が命を捧げるは我が使命ゆえ、これ以上の踏み込みは禁ずる』

『は……失礼いたしました』

 

 守護者が決めたことに自分達は何もいう事は出来ない。

 自分には“シラカミ”が守護者にとってどれほど大切な存在だったのかは分からなかった。

 旅人の説明を受けて準備を着々と始めるニンゲン達の集落の端で、守護者が森の深部の方角をずっと見つめていたのを自分は知っている。

 その瞳が優しい優しい色を映していたことも。ぼそりと零した言の葉を、自分は自慢の耳で聞いてしまった。

 

『……子は無事に生まれたか……きっと美しい真白なのであろうな。

 大丈夫……この首一つになろうともこの大地は守るから……大丈夫……私がその子を護るから……これからは貴女の居る其処が、其処こそが……私の魂の場所となる』

 

 嗚呼、と思った。

 彼女のソレは無常に訪れる“シ”と同義であるとは思えなかった。

 気づいていたのだろう、自分の方を見て彼女は優しく微笑む。

 

 知れ、と言われた気がした。

 識れ、と言われた気がした。

 詞れ、と言われた気がした。

 

―――誇り高き“オオカミ”の守護者はそうして、一族の他の誰でもなく、ウチにだけ彼女の大切な大切な“イワレ”を刻んだのだ。

 

 

 

 

 

 喰らわれる巫女は美しい少女だった。

 癖のある黒髪に柔和な表情。暖かい眼差しは誰もに安心感を与え、纏う空気は誰もを許し包み込む、そんな少女だった。ウチはきっとその少女に見惚れていた。

 喰われる前に、ニンゲンとウチの一族に向けて少女は言った。

 

『オオカミサマの血肉となりて、この美しきヤマトのクニを救えるというのなら何の悲哀がありましょうや。

 ただ、願わくば……オオカミサマと私が皆と共に在ることを覚えていてほしい』

 

 たった一つだけの願いを零して、気丈に振る舞った彼女の頬を流れる涙をウチは見た。

 喰らい、魂を取り込み、気高きイワレを受け取った守護者の瞳からも涙がこぼれていた。

 

 一つ吠えたその声は天を割り、大地を震わせる。

 少女の願いを叶えるかのように、守護者は見た目を少女と似たものに変えて、されど瞳を黄金に輝かせて皆を見やった。

 

『紡げ、繋げ、語り継げ。それが我らの歴史(イワレ)となろう。新たなケガレが出ぬように、出でても必ず祓えるように、我らが楔となりて、破魔の歴史(イワレ)の祖とならん。

 オオカミとシラカミが護りし大地が重ねる悠久を、カクリヨの一部となりて我らは見届けん』

 

 彼女がマガツケガレへと消える最後の時、願わくは、とウチにだけ聞こえた。その想い(イワレ)の一端を知るウチにだけ。

 

(この魂の欠片だけでも……シラカミが愛した世界をも見届けられますように、あの寂しがりなシラカミと共に在れますように)

 

 

 マガツケガレはゆっくりと閉じていき

 

 其処に溢れた大量のイワレは一本の木を育んだ。

 

 大きく、大きく育ったその木はまるでこの大地に住まうモノを見守るように。

 

 自分の一族はその時よりカミとなり、自分の一族が守護するシラカミも豊穣としてカミとなった。

 

 あの時、溢れたイワレの一つは森の奥へ。

 

 今ではそのイワレの向く先は、神木の上に住まうという。

 

 幾年月の後に守護者を継いだウチが出会った白は、それはそれは美しかった。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 

 暗い暗い夜のこと。

 漆黒でふわふわな髪を揺らし、黄金色の美しい瞳を持つ少女はいつものようにオツトメを終えてミヤコへと歩みを進めていた。

 友人の屋敷へ向かう途中、自慢の狼耳がナニカを捉える。

 

〈描いた世界へ―――〉

 

「……歌?」

 

 一小節にも満たないその歌は、なぜか続きが気になった。

 僅かに聞こえた声の方角を頼りに茂みを通り、外れた場所へと足が進む。

 その場所は、その位置は、その大地はどこであるのか。

 

 森の深く、奥深く。

 かつて誰かが願っていた安息の居場所。今は“あの子”こそがその場所だと言えるが……。

 

 声の主は見つからず、虫の音と風が揺らす葉の音だけが彼女の狼耳を擽っていた。

 

「気のせい……じゃないと思うけど」

 

 刹那。

 世界から音が消え去った。

 五感全てが聴覚だけに研ぎ澄まされるような異質な感覚が彼女を襲う。

 

 そして聞こえてくるのは再び誰かの歌声――

 

〈色づく―――せつ―――りょうら―――〉

 

―――それは祭囃子のような音で。

 

―――その少女達の声は華が咲き誇るような声で。

 

―――それは彼女の心を暁に連れていってくれるような歌で。

 

―――多くの輝くような美しいイワレを含んでいた。

 

 全ては聞こえなかった。

 五感が全て戻ったミオは、多くの冷や汗を気にすることなく周囲へと最大限の警戒を向ける。

 カミとなってから終ぞなかったその危機感に、彼女は尻尾を逆立てた

 

 しかし幾分経っても彼女の身に何か危険がぶつけられることはなかった。

 

 ふぅ、と小さくため息を一つ。小首を傾げ、彼女―――大神ミオは再び友人の屋敷へと向かい始める。

 

 

 

 まだ遠くの屋敷では、もうすぐまんまるになるお月様の下でお茶を啜る少女が一人。

 

 見上げる翡翠色の瞳は、いくつもの(セカイ)を映していた




読んでいただきありがとうございます。

少し過去の出来事。
ミオちゃんの成り立ちと“オオカミ”について。

まだミオちゃんがアヤカシだった頃のおはなし


これからも楽しんでいただけたら幸い。
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