例えばこんなホロライブALT【hololive alternative-bibliography】   作:ちゃんどらー

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百花繚乱花吹雪  7

 ひたりひたりと、大通りを真っ直ぐに歩みを進め、辿り着いたのは大きな赤い門だった。

 二つの巨大な大きな狼の石像が見下ろす其処の空気は澄んでいて、散る気配のない桜の花びらが美しく輝いている。

 一歩……二歩……とその門に近づけば、触れることなく木が軋み、内側へと誘うように開かれた。

 

 まだ春の訪れを感じさせる冷たい風が吹き込んでいく。

 流れ込む一陣の風によって灯されていくように、石畳の際に並ぶ灯篭に炎が灯っていった。

 

 神社、と呼ばれる建物であることを百鬼あやめは知らない。魔界で神を祀る社など見たことがなかったのだから仕方のないこと。

 しかしてあやめはその清く整えられた場所そのモノに魅せられる。

 

 なるほど、此処は確かに神が居るべき場所だ―――と。

 

 荘厳にして凛とした空気は無意識のうちに背筋を伸ばさせるような張りを含み、礼式を知らぬ己でさえソレに従うべきだと思わされるほど。

 気圧されている。自分らしくない。そう思って彼女は、クッと視線を上へ。

 

 天をも貫いているのではないかと思われる神木の中腹に見える建物の屋根の上、月を背にこちらを見下ろす少女が一人。黄金の双眸が月明りと共にこちらに注がれていた。

 自然と口角が吊り上がる。

 

 楽しい?

 そんなわけない。

 嬉しい?

 ありえない。

 歓喜? 陶酔? 愉悦? 

 否、否、断じて―――否。

 

 元来、生物にとって笑うという所作は捕食行動や威嚇に通ずるモノがあるという。獲物を見つけた肉食獣が牙を見せるように、敵を前にして唸るように。

 同じように、あやめの心中にあるのは享楽的な感情ではなく。

 

「ははっ、高いところからえらっそうに……信仰に膨らまされただけの空っぽのカミサマ如きが」

 

 内からあふれ出る暴力的感情と、その存在に対する嫌悪感が混ざった怒気。

 同調するかのように、ゆらりと揺らめく昏いもやが、あやめの身体の周りに漂い始めた。

 

 対して、屋根の上の少女―――大神ミオはあやめに視線を送りながらその威圧を受け止める。

 身体の周りに溢れだしたケガレと、先ほど発された言の葉によって胸から沸きだした苛立ちを吐き出すように犬歯を剥いた。

 

「……貴女によって呑み込まれた可哀想な想念(ケガレ)を……ウチが清めてあげる。好き勝手に生きてきただけの無責任なアヤカシのカミ風情がさ……粋がるな」

 

 外行き用の敬語など投げ捨てて言う。

 トン、と神社の瓦を蹴って重力のままに堕ちていく。ミヤコの街並みがよく見えた。落ちながら考えるのは、もう一人のカミのこと。

 

―――フブキが戻るまでに終わらせる。会わせたら……ダメな気がする。

 

 嫌な予感がした。カミとしての勘であるのか、それとも長く連れ添ってきた間柄の理解故か。

 

 地面にぶつかる直前に行った宙返りで勢いを殺し、ふわりと音もなく着地したミオはゆっくり面を上げて相対する鬼神を睨んだ。

 

「こんばんは、カミサマ」

「ごきげんよう、カミサマ」

 

 片目を細めて、肩に羅刹を担いで、あやめは笑みを浮かべたままでミオを視やる。

 両目を細めて、片手に己のチカラである破魔の炎を顕現させて、ミオは口角を下げてあやめを見据える。

 今すぐにでも二人とも飛びかからんばかりの張り詰めた空気。しかしてどちらも動くことはない。

 

「腹立たしい」

 

 先に沈黙を破ったのはあやめだった。

 

「むかむかするんだ、おまえを見てると。おまえの在り方が、生き方が、考え方が……気に食わないっ」

 

 笑みが崩れ、牙を見せて紡がれる言葉。苛立たし気にとんとんと肩を鳴らす刀が赤い光を映し込む。

 ミオはそんな彼女を上から睨みつけながら口を開いた。

 

「知らないよそんなの。あんたの気持ちも、苛立ちも、むかつきも、ウチにはなんの関係もない」

 

 歯をむいて紡がれる言葉にあやめは舌打ちを一つ。

 

「ちっ……じゃあなんでそんな目をしてる」

「……」

 

 紅が黄金をまっすぐに射抜く。通信越しではない、あまりにも直線的な感情の発露。ミオの心の臓がドクリと大きく脈打った。

 

「分かれ、自分のことだろ。他のカミがどうかは知らないけれど、余から見えるおまえはあまりにも窮屈で、苦しそうで、辛そうだ」

 

 細めて見つめられて、心の奥底まで見透かされそうで、ミオは目を反らしたくなった。しかしどうしても逸らせない。

 

「大神ミオ。おまえが間違ってるなんて余は言わない。言ってなんかやらない。それでおまえが救われると思えないから。だから―――」

 

 肩で一定のリズムを刻んでいた刀を、チャキリ、とミオに向けた。

 

「余がおまえの在り方を、生き方を……この世界風にいうのなら……歴史(イワレ)を……鬼神のチカラを使ってでも否定してやる。おまえだけじゃない……もう一人が現れようとも、余はおまえたちの歴史(イワレ)をぶち壊す!」

 

 ミオの胸がまた、ジクリと痛む。

 心の中にまた一陣の風が吹き抜けた。

 

 目を瞑る。分かっている。そんなことは不可能だ。自分達の現状をぶち壊して、ミオ自身の欲望(ねがい)を叶えることなど。

 それにミオは負けられないのだ。

 満たしてきた想念(イワレ)はヒトの願いで、過去から繋がるオオカミの呪い(イワレ)でもあるのだから。

 ケガレを祓い、魔を破るモノであるオオカミとしての存在証明を成す為に、彼女が負けることは許されない。

 故にこそもう、

 

―――言葉は不要

 

 すっと、ミオは構えを取った。左手を前に、右手を胸元へ。

 

「――オンカミが現すは魔を討つ焔。纏え、纏えと謡て揺らげや――」

 

 祝詞と同時、業、と燃え上がる拳に宿る炎は破魔のチカラを孕み。

 重ねていくつもイワレを紡いでいく。身体強化と高速並列思考、視野拡充や循環の効率化を幾つも、幾つも。

 

 大きく息を吸い込んだ。ぴたりと止まった彼女は、後にゆっくりと息を吐き出す。

 黄金の眼差しはもはやぶれることなく、目の前の鬼神の紅を射止める。

 

「……っ」

 

 その時、ミオの頭にノイズが走った。目の前のあやめも同時に、頭痛に苛まれたように表情を曇らせる。

 

 ジジッという音と共に脳髄に流れる映像があった。

 

 其処は神社だった。ただし此処よりも古びたモノで。

 神社の前に立っていたのはミオではなくあやめの方で。来訪者だったのはミオともう一人の方で。

 お互いに嫌悪感を持って相対したのではなく、それは何処か勘違いのようなモノではなかったか。

 場面が切り替わる。

 一昼夜に及ぶ戦闘の末、暁の空を見上げながら笑い合っていた三人の少女が居た。

 喧嘩をした後の仲直りのような、これから何かが始まるかのような中、一人は……

 

 パチリ、と弱い電流が流れたような感覚と共に映像が途切れた。

 あやめはうっとうしそうに頭をかく。

 

「……そっか」

 

 一言。彼女の方は何かを理解したかのよう。

 

「“そういう事象もあったんだろうなぁ”」

 

 その言葉の意味を、ミオは間違うはずもない。

 この異変の始まりは歌だった。鬼の少女と、自分と、狐の少女が三人で奏でる歌。

 その声が楽しそうで、満たされていて、輝いていて……誰もが幸せなのではないかと思える世界だったから。

 もしかしたら今のも、“そんな世界”に繋がる可能性だったのではないかと。

 しかし―――

 

「でも関係ない、よね。だって此処にいるおまえは……泣いてるんだもん」

 

 頬をナニカが伝っていた。

 言われて気づいた。何百年も前の、いや、もう記憶では忘れてしまったこの行為。

 

―――○○○しい。

 

 心に吹き抜ける風は止まらない。

 

 また彼女は舌打ちを一つ。

 心底から気に入らないと怒気を張り上げて、また膨れ上がったチカラの暴風が吹き荒れる。

 

「おまえを泣かせるうざったいしがらみなんて……余がぶち壊してあげるよ」

 

 どうして、と疑問を零す間もなく、脳髄が戦闘用に切り替わっていく。

 

 どうして、と聞きたかった言葉は心に沈み込んでしまった。

 

―――どうして……貴女も泣きそうなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 ポトリ、と。それは静かに、されど大きなうねりを伴って始まった。

 大神ミオの涙が石畳に落ちたのが開戦の合図。互いに開放されたイワレにより空間が歪む。

 ミオの式達が張った結界によって外部に与える影響が少なくなりはするだろうが、共にカミ同士の戦いともなれば其処に渦巻くチカラは計り知れない。

 

 斜めに刀を構えたあやめは切っ先越しにミオを見据え、拳に破魔の炎を燻らせたミオは腰を低く落として大地を踏んだ。

 

 動いたのは同時。

 ヒトであれば瞬きの刹那、ミオの爪とあやめの刀が交差し、金属同士がぶつかり合ったような音が鳴り響く。

 ミオの破魔の炎が刀に纏わりつき。あやめの斬撃がミオの爪を衝撃で震わせた。

 互いに振り抜くも傷がつくことはなく、二撃目をと身体を翻した。

 

 一歩早く、あやめの上段からの袈裟切りがミオへと迫った。武器によるリーチの差がものをいう。

 しかして、ミオが上げた片手その掌からほとばしる炎が、まるで意思を持っているかのようにあやめの刀を受け止めた。音はなく、ゆらり……と火の粉が舞う。

 互いに硬直。

 黄金と紅の視線が交わり、刀と炎が交差したまま。単純な膂力でも拮抗しているらしく、どちらかが押されることはないままにらみ合う。

 初めてお互いの顔をこれほど近くで見た。牙をのぞかせる二人が覗き込んだ瞳のイロが深まっていく。

 

 何かを言ってしまいそうだった。今度はミオがあやめに感情をぶつけてしまいそうだった。

 ギリ、と歯を噛みしめたミオがその膠着を打破するべく、あやめの死角にて、空いている片手の炎を高めた。

 

「……ぶっ飛べ」

「―――っ」

 

 その言葉に目を見開くも、もう遅い。

 下方から斜めに突き出された掌底は炎を纏い、あやめの腹部に突き刺さる。打撃と同時にその炎が一転に集まり、盛大な爆発を伴ってあやめを吹き飛ばした。

 爆破の衝撃で飛ばされるあやめが向かうは結界で、このままいけば叩きつけられるであろう。しかし……ミオはそれを許さなかった。

 ヒト型になろうとも、彼女は狼のカミである。その瞬発力と脚力はさしものあやめでも見抜けるはずもなく。

 爆破と同時に地を蹴っていたミオは、回転により遠心力を付けながらあやめに追随し、結界へと衝突する寸前にあやめの腹へとかかとを叩き込んだ。

 

「あ……がっ」

 

 声にならない声を上げ、そのままあやめは下へと叩きつけられる。

 強化してある石畳すら破壊して舞う土埃。離れて着地したミオは警戒を解かず、放った炎よりも多くを全身に纏って臨戦態勢を整えて見据えていた。

 

「きひっ」

 

 ひたひたと、ゆるりとした足音が耳を打った。こぼれた笑みは先ほどまでの怒気だけではなく、少しだけすっきりとしたような表情を伴っていた。

 

「いひひ……効いたぁ……ひっさしぶりに肉弾戦でダメージ受けたかも。いいねぇ」

 

 口から一滴の血を垂らし、片方の手でおなかをさするあやめを見て、やはりかとミオはため息を吐いた。

 

「……一応、ウチの炎は破魔のイワレを纏ってるんだけど」

「ああ、ソレ? 黒魔導士とかネクロマンサーとか悪魔が居る学校で生徒会長張ってる余が、アンチマジックだとか白魔術だとか鬼斬りだとか退魔のチカラだとか、そういうのの対策をしてないとでも?」

 

 零したため息は感嘆だ。彼女への攻撃の手ごたえがあまりにも薄すぎた。この調子なら先ほどの攻撃の純粋な物理ダメージすら衝撃吸収されているのだろう。

 誤算だった、とミオは思った。経験の差が違いすぎる。ミヤコを護り続けたミオと、切磋琢磨を繰り返してきたあやめではそこの差は埋められない。

 

「まあ今まで見てきた中でもその炎は……ちょっと怖いかな」

 

 さすっていた手を除けたあやめの腹部を見て、ミオはすっと目を細めた。

 焦げた衣服の下。確かに、僅かだがあやめの肌が焦げていた。否―――焦げていたのが、修復されて行っていた。

 

「破魔の炎って言うんだよね? 余が見てきた炎の中で分類として分けるなら、悪滅の焔、メギドの火、終末の炎。カミが堕落したヒトを裁く為に落とした火と同質だ」

 

 それに、と続ける。もう焦げ跡のなくなったお腹から離した掌に、ぽう、と怪しく揺らめく火が生まれた。

 

「火自体には耐性持ってるんだよね。だからそんなに効かない。元々鬼族は再生能力と防御力が強みなのもあるけど」

 

 指を鳴らせば一つ二つと、あやめの周りに鬼火が増える。紅の瞳がより一層輝いていた。

 ミオから視線をそらさぬままに紡ぐは短い祝詞。

 

「“揺らぎ、昇り、断ち消えぬ鬼の焔よ。斯くあれかし纏わり踊れ”」

 

 十か二十か、彼女が生み出した炎が渦巻く。衣服を燃やさぬその炎は、彼女の髪まで揺蕩わせるかのように。

 ミオが纏っているのと同じように、あやめも紅色をした炎を纏ったのだった。

 

「百鬼流―――鬼神術式。壱式・纏焔(マトイホムラ)

 

 お揃いだ、と悪戯っぽく笑うあやめは片手を振るう。羅刹の刃へと満ちた炎が美しい円を描いた。

 

「ホントは業(カルマ)と不知火(シラヌイ)も纏えるんだけど、今日はおまえのお友達と遊ばせてるから八割ってとこ」

「なるほどね……じゃあ全部を見せる前に終わらせてあげるよ」

 

 いつも侍らせている意思を持つ鬼火のことを考えながら、あやめの呼吸は深く、重くなっていく。応えるミオも腰を落として構え直した。

 

 先ほどのような合図はない。唐突にふっとかき消えた姿。強化された視力から両者はお互いを見失わず、交差の度に火の粉が舞い散る。

 鬼火を纏ったことで速度の増したあやめに、ミオは一つギアを上げてついて行く。

 

 ミオは―――逆袈裟の斬り上げを刃を逸らせる回転でいなし、一文字の薙ぎ払いは大地に伏せることで躱し、両袈裟を狙う斬り下ろしに拳を合わせて弾き合う。

 あやめは―――いなし後の零距離反撃を膝を抜いた縮地ですり抜け、伏せたと同時に飛んでくるアッパーをぎりぎりで捻り避け、弾き合う度に狙われる獲物の違いでの隙を鬼火の発火で無理やりに合わせていく。

 

 離れればすぐに接敵し、斬り結び膠着したかと思えば弾き合う。幾重も繰り返す衝突の度に響く打撃音や金属音。一撃一撃がアヤカシ程度相手なら必殺の威力を持つモノであろうとも、互いの高めたイワレの防御力を上回ることもなく、両者共に炎への耐性をもっているために爛れることも燃え崩れることもない。

 

 踏み込みが石畳を砕く。

 衝突の衝撃の波が暴風となって舞う。

 斬撃と打撃の有りえないはずの応酬が大気を震わす。

 

 無尽蔵のような体力をもって動き回る二人に、神社の境内が耐えられないのではと、ふとあやめは無駄な思考を巡らせる。

 ただ、此処は強大なチカラを持ったカミ二人の本拠地その入り口で、彼女達がなんの対策もしていないわけがない。壊れる度に修復されていく境内の石畳があることに気付く。その度に神木から流れてくるチカラが働いているのだと気づくと同時、修復に使われた残りのようなチカラの欠片が僅かにだがミオにも補充されていく。

 

 はっ、と楽しそうに嗤った。

 

―――そういうバックアップありなんだ。

 

 卑怯とは言うまい。此処がミオ達のホームグラウンドであるのだから恩恵は受けてしかるべき。それならば神木自体からチカラを取り込むこともできるはず。

 どういったチカラで、どれだけ補充出来て、どれだけミオに影響を与えるのかはあやめには分からない。

 ただ一つ分かることは……この後に二人目が来ることを別としても、ミオただ一人と戦うのだとしても、持久戦という方向にもっていっては確実にあやめが不利だということ。

 

 何合も、何十合も刀と拳がぶつかり合う。一刻一刻と時間を重ねていく。

 当人たちにとっては長くとも短いとも感じられる戦いにおいて、ゆっくりと落ちる月の位置だけが時間の経過を確かめる術。

 

 ガギリ、とひと際大きな音を立ててまたつばぜり合いのようなカタチとなった。

 絡み合う視線。混じり合う炎。

 押し切ることも押されることもなく、互いの大きなチカラを推し合って震えながら彼女達は牙を見せ合う。

 

 あやめにとって、戦闘とはそれほど珍しいことでもない。

 魔界学校では喧嘩など日常茶飯事であったし、友達である黒魔導士のシオンなどは率先してあやめにちょっかいをかけてきていた。

 だた、今回のことはソレとは比べるべくもない案件で、浮ついた考えなど微塵もなくなってしまっていたが、笑みを浮かべるあやめの心は弾んでいた。

 

「ちょっとだけ楽しくなってきた」

「……楽しい?」

 

 訝しげに聞き返すミオ。あやめの紅瞳に陰りは見えない。

 

「鬼の血ってやつかなぁ。強い存在と戦うことに歓びを覚えて、ソレを力づくで征服することに愉悦を感じて、闘争っていう単純明快な優越の証明行動に満たされちゃう」

「ああ、それならウチにも分かるよ」

 

 あやめは真っ直ぐ見つめてくる黄金を覗き込む。

 

「ウチらみたいなカミはね、この身に宿す歴史(イワレ)を証明することで存在を保つんだ。だからこそ、闘争っていう手段は一番の存在証明になりうる。フブキ―――此処にいるもう一人のカミとウチはしょっちゅうチカラクラベをして争ってるし、それを楽しいとも思ってる。鬼の血だけじゃなくてカミとしてそういう感覚を持ってるのなら」

 

 確かにウチも、とミオは続けた。

 

「あんたと戦うの―――ちょっとは楽しくなってきたかもしれない」

 

 言いながら、初めてミオの口角が吊り上がる。大きく引き裂かれた口はまるで狼のように。

 それを見てあやめも笑みが深まった。

 

「なぁんだ……あるんじゃん。おまえにもそういうの」

「失礼な子だなぁ。このウチがニンゲンの言いなりなだけのお人形みたいなカミだとでも?」

「さっきまではそう思ってた。まじめに願いを叶えるだけのつまんないヤツなんだろうなって」

「はは、ほんっと好き放題言ってくれるねぇ」

 

 苦笑が零れる。

 どうしてだろう。戦い始める前までは彼女に不快感を感じていたのに、拳と刀を合わせる度にミオの胸の内にナニカが満ちていた。

 ふっと、二人は同時に笑った。

 

「気持ちがお揃いになったなら……余も本気でイケそうだ」

「本気を出して戦うのはフブキ以外初めてだから……死なないでね」

 

 ぐ、とチカラを入れようとしたが、あやめが悪戯っぽく舌を出す。

 

「ね、ミオちゃんって呼んでいい?」

「戦いの最中に聞くことじゃなくない?」

「余はね、自由だからいーの! 余のこともあやめって呼んでいいんだよ?」

「……どうせ勝手に呼ぶんでしょうに」

 

 大きく、それは大きくミオはため息を吐いた。

 

 ばれたか、と笑うあやめに対して、ミオはこれ以上ペースを乱されまいと心に決める。

 真剣な表情に戻った彼女を見て、あやめは両の腕にチカラを集中させた。

 

「じゃ、壊れないでね……ミオちゃん」

 

 鬼火が集まり、爆発的な膂力を以って振られた腕。勢いのままに大地を滑るあやめは、ミオに視線を向けたままチカラを更に開放していき、伴って瞳の紅が輝きを増す。

 止まると同時、両手で持っていた羅刹を片手持ちに変えて、懐から取り出すのは一枚の符だった。

 

「“召しませ、召しませ、契りし同胞(はらから)。呼び水を起こすは業に不知火”」

 

 祝詞を紡ぐとその符は淡い光を放ち、空間に僅かな歪みを起こした。

 式の召還。あやめが行ったのはそれだけだが、現れた二つの鬼火を見て、ミオは眉を寄せた。

 事情は知らないが、その鬼火二つは傷ついているように見えたのだ。

 

「お疲れさま、業に不知火。呼び出せたってことはあっちは後少しなんだね。連続で悪いけど、本気でやるから纏うよ」

 

 意思持つ鬼火は問題ないというようにファイティングポーズを取った後、あやめの中へと溶け込んでいった。

 瞬間、一回りあやめの威圧と炎の火力が増した。

 符をしまって空いた片手を腰にやる。据えられていた阿修羅をゆっくりと引き抜き、あやめはミオへと笑みを向けた。

 

 ここからが本番だ、とミオは思う。本気でやれと言うのなら、とミオはフブキとのチカラクラベと同じように神木へとパスを繋ぐ。

 個人の持つイワレで底上げされた身体能力に加えて、神木からのバックアップで更に身体能力を高めていく。流れ込んでくるミオへの信仰の想念に、また……心に風が吹きそうになった。

 

 ただ、今の彼女はソレがあまり気にならなかった。

 目の前にいる鬼の少女と同じ笑みを自分は浮かべているのだろう。

 

 嗚呼、と思う。

 ドクリと脈打つ心臓も、額から流れる冷や汗も、弓弦の如く張り詰めた心も……全てが堪らなく心地よかった。

 

 はやく、はやくと逸る心を押さえつけて、ミオとあやめは見つめ合う。

 

 この戦いを再び切り開いたのは、静謐を両断するような鬼の一撃だった。

 

 

 

「百鬼流―――鬼神術式。弐式・繚乱剣舞……序―――玲瓏一閃(レイロウイッセン)っ」




読んでいただきありがとうございます。


物語を作るにあたって、ホロメンに必殺技を叫んでほしい・詠唱してほしい、という想いが大きかった為にこんなカタチに

日曜まで仕事と私用がある為、更新遅れるかもしれませんがご容赦を。
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