俺は種泥棒にはならない   作:ひさなぽぴー

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作業用BGMに7聞いてたらふと思いついてしまったので、つい。


1.エデンの朝

 みんな、ドラゴンクエストは好きか? 俺は好きだ。

 日本が誇る、和製RPGの金字塔。日本にRPGという概念を定着させた立役者であり、ドラクエがなかったら日本のゲーム史がどうなっていたかわからない。言いすぎと言われるかもしれないが、少なくとも俺はそう思っている。

 

 だからそんなドラクエの世界に転生したと気づいたとき、多少複雑な気持ちはあれど何より嬉しさが勝ったものだ。

 モンスターに襲われる危険性や、現代日本ほどは発達していない文明度合いなどを差し引いても、憧れの世界に来れたこと。それはやはり嬉しかったからだ。

 

 だが、そんな高揚感は比較的すぐにしぼんだ。

 

 なぜって?

 簡単な話だ。

 

「キーファ王子! お見事です!」

「――フゥー……」

 

 俺の前で、剣を取り落とした兵士長が驚愕しながらも嬉しそうに声を上げる。

 俺はそれに応じて、剣を引きながら深く息を整える。

 

「また腕を上げられましたな……もう我々では王子の相手は務まりそうもありませぬ」

 

 ははは、とやはり嬉しそうに笑う兵士長に向けて、俺は素直に「いや、まだまだ」と答えながら彼に手を差し出す。

 彼をはじめ、周囲でやり取りを見ていた兵士たちは口々に「またご謙遜を」「さすが王子、謙虚な方だ」などと言ってくれるが、俺としてはマジでマジの本心だ。

 

 だって、そう。

 俺の今の名前はキーファ。キーファ・グラン。

 

 ドラゴンクエスト、そのナンバリングタイトル七つ目の作品、「エデンの戦士たち」の主要人物なのだから。

 

***

 

 ドラクエ7。歴代シリーズにおいて、初めて媒体をプレステに変えて発売された作品。

 発売延期を繰り返しながらも、満を持して発売された7は400万本以上の売り上げを達成。プレステのゲームソフトとしては販売本数一位を記録したメガヒット作品だ。3DSで発売されたリメイクですら125万本の売り上げを達成しているのだから、いかに人気の作品かは推して知るべし。

 

 だがその売り上げ数に反して、批判がなかったわけではない。いやまあ、どんな作品でも必ず悪いところはあるものだが、それはさておき。

 

 ドラクエ7の問題点としてまず挙げられるのは、クリアまでに必要な時間の長さ。メインシナリオの長さは、歴代のナンバリングタイトルの中でもトップクラス。実に60時間は必要とも言われる長大なストーリーは、多くのプレイヤーをじわじわと疲弊させた。

 

 そしてそんな中でぶち込まれ続ける、シリーズ屈指の鬱シナリオの数々。滅ぶことの重苦しさだけでなく、人間の負の部分も折り込んだ7のシナリオは、歴代のナンバリングタイトルの中でもやはりトップクラスの暗さ。

 それでいてシナリオ自体の完成度はどの部分で見てもかなり完成度が高いせいで、なお心をえぐるという……おかげで途中でプレイを投げたプレイヤーもそれなりにいたらしい。

 

 俺はそんな暗い部分も含めて、7という作品が好きだ。批判もあれど、面白いRPGであることは間違いないと断言できるくらいには。

 

 だが、そんな俺でも許せないものが7にもある。

 それがずばり、「キーファ・グラン」という男だ。つまり、今の俺自身である。

 

 キーファの何が許せないかと言えば、何も言わずともドラクエフリークの皆さんにはご理解いただけるはずだ。

 

 だがあえて説明すると、彼の許されざる所業は「種泥棒」である。

 わりと有名な話としてネット界隈にはミームよろしく流布されているので、7を知らずともご存知の方は多いかもしれないが、それでも説明するとだ。

 

 キーファという男は、さも「物語の重要なメインプレイアブルキャラクター」という顔であらゆる媒体に登場するにも関わらず、物語の序盤で永久に、しかもわりと前振りも少ないまま離脱する。それが問題なのである。

 

 ではこれの何が問題かと言えば、キーファという存在はゲームキャラとして見たとき、かなり優秀なキャラなのだ。作中トップクラスのHPと力を持ち、重装備が可能なため戦闘中の選択肢が少ない序盤においてはとても頼りになる。

 そんなやつが、ほとんど前振りを描写されることなく(ないとは言わないが少ない)いきなり永久離脱するのだ。プレイヤーの心境は察して余りある。

 

 これだけならまだいいのだが、ドラクエには命の木の実や力の種と言った、いわゆる使い捨てのドーピングアイテムが存在する。使えば使うだけキャラクターを強化できるアイテムで、使わない手はないという代物だが、当然入手手段は限られる。

 そして前情報がない中、当時のプレイヤーはこれら使い切りのドーピングアイテムを、強くて頼りになるキーファに使用し……そいつが永久離脱するのだ。誰だってこう思うだろう。

 

「種返せ」

 

 と……。

 

 当時まだネットはあまり普及していなかったが、多くのプレイヤーは「これは一時的な離脱で、きっと帰ってくる」とか「あとあと仲間になるキーファの子孫にデータが引き継がれる」とか考えたものだが、そんなものはなく。

 本当に何もないまま、キーファというキャラクターは永久に離脱。冒険から消えるのみならず物語からもフェードアウトし、最後の最後、エンディングのラストシーンに手紙が登場するだけでドラクエ7という作品は終わるのだ。これに愕然としたプレイヤーがどれほどいたことか。

 

 かくしてキーファという男は、「種泥棒」という愛称を与えられるに至った。この愛称は消えることなく脈々と受け継がれ、リメイク版が発売されたときも結構話題になったものだ。なんなら事情を知らない初心者に「キーファに種使うといいよ!」とか言って騙すなんて流れも起きたくらいで、間違いなくドラクエを語る上で外せないミームとして残っているのだが……。

 

 ともかく、俺はそんな「種泥棒」ことキーファ・グランに転生してしまったのだ。何の因果かわからないが。

 

 そして俺はキーファであることを受け入れて早々に、決意した。

 

 ――俺は種泥棒にはならない、と……!

 

***

 

 そう決意したのはいいが、実のところキーファという男のやらかしで最大のものは他にある。

 種泥棒がプレイヤー視点から見たやらかし、システム的な問題だとすれば、こちらはキャラクター視点から見たやらかし。ストーリー的な問題である。

 

 それはずばり、「アフターフォローのクソさ」だ。

 

 先にも述べたが、キーファというキャラはわりと唐突に永久離脱する。一応それまでの端々で、彼の心境の変化を示すものがないわけではないのだが、控えめな描写なのでわかりづらい。

 

 そして彼の離脱方法は、「死亡」ではなく「過去への残留」。つまり、彼が本来存在すべき時間軸からいなくなったのだ。

 しかもその理由は、「主人公を生かすために仕方なく」とか「この時代にやらなければならないことがある」わけではなく、単に「女に惚れたから」「その女を助けたかったから」。批判されないほうがおかしい。

 

 彼が取ったこの行動によってのちのち主人公たちに益が出てくることもあるが、それは結果論だ。あの段階で彼がしたことはあまりにもずさんだった。

 これで彼が8のチャゴスみたいなクソ野郎だったらまだしも、キーファは家族や家臣、何より国民からもそれなりに慕われていた。やんちゃな王子様ではあったが、間違いなく多くの人から愛されていたのだ。

 

 にも拘らずキーファと来たら、この離脱についての謝罪を主人公たちにしかしていない。キーファという男を信頼して旅に出ることを許可していた父親や、彼を純粋に慕っていた妹など、家族に対するメッセージは何一つないのだ。

 そしてキーファという男は、一国の王子で嫡男、跡取りだ。彼が唐突にいなくなったことで、王国が動揺したことも間違いない。

 

 これで何が起こるか、ある程度歳を重ねた人間ならわりとすぐに思いつくだろう。

 そう、家族や親友たちを思いっきり悲しませたのである。特にキーファを強く慕っていた妹のリーサ姫など、鬱を発症するほど重篤な衝撃を受けた。これを「アフターフォローがクソ」と言わずして、「最大のやらかし」と言わずしてなんと言うのか。

 

 だからこそ、俺は種泥棒にはならない。

 もちろんその手のアイテムを持ち逃げなんてしたくないというのもあるが、何より俺がそうすることによって起こる様々な問題を避けたかったから。

 

 まあ、最後まで冒険についていきたいという気持ちも、ないわけじゃないけどな。

 

***

 

 さてそういうわけで、種泥棒にならないと決意した俺は、幼少の頃からやれることをコツコツとやっていくことにした。

 いずれ冒険の旅に出ることを考えて、剣をはじめとした戦闘向けの技術を身に着けるところから始めて。崖っぷちのじいさんからルーン文字を教えてもらったり、夜営など旅をする上で必要な技術もできる限り身に着けるべく努力した。

 

 もちろん、国を継ぐうえで必要な知識も身に着けた。何せ種泥棒にはならないのだ。俺はこの国に帰ってきて、しっかりと国を継ぐ。そのつもりでがんばった。しんどかったが、前世の記憶と知識のおかげでなんとかなった。

 

 反面、ゲームにおいてパーティメンバーとなるメンツとの交流を取る時間はあまり取れなかったのだが、これは意外にも妹……リーサが取り持ってくれたので何とかなったと思う。

 

 ……俺の地球由来の知識が原因なのか、この世界のリーサは原作に比べると元気だ。原作では身体が弱くて内向的な性格をしていたのだが、病気をあまりやらなかったからか結構快活で好奇心旺盛な性格に育った。原作のようなドレスや帽子を好まず、動きやすい格好でいるのは大きな違いだろう。

 

 おかげで彼女はたびたび城を抜け出し、主人公――この世界でも名前はアルス――を引っ張りまわしてエスタード島を探検して回るなど、色んな意味で原作のキーファみたいなことをしている。

 そのせいかバーンズ王のアルスへの心証はめちゃくちゃ複雑そうだが、俺としてはアルスが悪い男ではないことは理解しているので、怪我さえさせなきゃ構わない。何せ世界を救う未来の英雄だし、どっちみち今のエスタード島にモンスターはいないし。クマは出るけど。

 

 ともあれ原作のリーサもあれはあれでかわいいのだが、この世界のリーサももちろんかわいい。そんな彼女を構いながら、城下町やフィッシュベルを歩き回ったので、俺もアルスたちと繋がることができた。妹様様である。

 

 ただ、彼女がブラコンであるというのは原作とは変わりない。父親が忙しく、母親は早逝していて、兄しか家族がかまってくれないという家庭環境だ。そうなるのも無理はないだろう。

 

 そして俺がキーファとして転生してから十八年……アルスが十六歳となったある日。物語は遂に動き始めた。

 

「お兄様! これをご覧になって!」

 

 剣の鍛錬を終え、着替えも済ませた俺のところにリーサが駆け込んできた。手にしていたのは、とても時代を感じさせる古文書。緑色の装丁に、ルーン文字が刻まれた表紙。またそこには不思議な人物の絵も描かれていて……。

 

 俺はこれを見て、すぐに察した。ああ、遂に物語が始まるのだ、と。

 やることが多すぎるせいで俺がそこまで積極的に島を探検や冒険をできていないから、あるいは物語は始まらない可能性もあるとも思っていたが……どうやらこの世界は、世界に島がただ一つという現状を良しとしなかったらしい。

 あるいは、それを信じまいとする人間の意思がそうさせたのか。

 

「……随分と古いのを持ってきたな。どうしたんだ、これ?」

「宝物庫の奥のほうで見つけたの! でも、何が書かれてるかちっともわからなくて……お兄様、お兄様ならこれ解読できるかしら?」

「どうかな……ちょっと貸してみな」

「はい!」

 

 リーサから古文書を受け取る。本自体は、作中で描写されていた通りかなり重い。十歳の女の子が持つにはかなりしんどいだろう。だが原作よりも元気なリーサだ。根性でここまで持ち込んできたらしい。

 受け取った俺としても、物語の重要なファクターであるこの本は同じサイズのそれよりも重く感じる気がする。

 

 とりあえず表紙を開く……と、そこに現れたのは、杖を持って佇む一人の賢者の絵。杖の先には輝く太陽の光が描かれている。ページをめくればその先には、石版のようなものがたくさん描かれている。

 うむ、原作で見たものと一致するな。いやあ、これは感慨深いものだ。

 

「お兄様、わたくし書かれてることはわからないのだけど……この石版とか周りの景色って、()()遺跡になんだか似てる気がしませんか? この賢者? の絵なんて、遺跡にある像とほとんど一緒ですし……」

「……いや、俺はそれがわかるほどあそこには行ってないんだが、リーサ? もしかしてまた行ったのか?」

「あ、その、ええと……えへへ」

「笑ってもごまかされないぞ……まったく、父上が聞いたらまたなんて言うか」

「うー、お願いお兄様、お父様には内緒にしてくださらない?」

「俺が言わなくても、狭い島の話だ。誰かがバラすだろうよ。諦めろ」

「う、うううー……」

「そんなことより」

 

 俺は視線を本に戻して、軽く咳払いをする。

 

 読める、読めるぞ。幼少期から崖っぷちのじいさんのスパルタな言語学をがんばってきたかいがあるってもんだ。

 

「大体わかる。読み上げるぞ」

「本当!? なんて書かれているのかしら!」

「おう……そうだな、大雑把にまとめると、『選ばれし者よ。扉を護る賢者の前に立ち、強く祈るがよい。大いなる意思が心清き、熱き想いを受け入れたとき、そなたの進むべき道が必ずや示されるであろう』……と言ったところか」

「すごい! さすがお兄様ね!」

 

 内容も、どうやら原作通りなようだ。

 しかし……原作では崖っぷちのじいさんが色々と略していたのだが、読めるからにはと思って色々見るに、これ。迂遠だったり湾曲な表現が多く使われているものの、7のシナリオの根幹を担う石版とそこに端を発する世界の真実がある程度書かれてるっぽいな? ドラクエ7という物語を知っていないと、そうだとはわからないだろうが……。

 

「よぉし、それじゃあ早速アルスさんのお宅まで行って……」

 

 しかしそんなことより、今は飛び出していこうとしたリーサをとめるほうが先だろうな。

 俺は彼女の首根っこをむんずとつかむと、駆けだそうとしていた彼女を引き留める。

 

「ひゃあ!? お、お兄様、いきなり何をなさって……」

「ダメだぞ、リーサ。お前、また勝手に城を抜け出そうとしてるだろう」

「……な、なんのことかしら?」

「目がめっちゃ泳いでるぞ」

 

 俺がそう指摘すると、リーサは顔ごと背けて俺の視線から逃れた。俺はため息しか出ない。

 

 普段は彼女のやりたいことを尊重して、わりと自由にさせている俺だが今回はちょっと許可できない。何せあの遺跡の封印を解いたとなると、その先に待っているのは命を賭けなければ戻ってこれない危険な空間なのだ。そんなところにまだ十歳の、しかも一国の王女を行かせるなんてできるはずがない。

 

「で、でもでも、お兄様だって気にならない? あの遺跡がどんなものか、何があるのか」

「それを否定できないのは事実だが、もし危険な場所だったらどうするんだ。あの辺はクマだって出るんだぞ? 俺はお前に何かあったら一か月は泣くからな」

「はう」

 

 真顔で言い返したら、リーサは顔を赤くして手で覆った。こうかはばつぐんだ。

 

 まあ俺のこういう物言いが、彼女をブラコンにしているのかもだが……実際かわいい妹なのは事実だし、俺の言い分はほぼ間違いなく本心だ。何もやましいことはない。

 

「……わかりました。()()()諦めます……」

 

 ということで、リーサはしずしずと下がっていったのだが……俺にはわかる。あれで引き留めていられるのは、長くても一週間くらいだろう。

 

「……アルスには先に伝えとくか」

 

 あいつには悪いが、どう転んでも結局最後は振り回されることになるのだ。それなら、最初から心構えができていたほうがマシだろう。

 

***

 

「……まあこんなことだろうとは思ったよ」

「お兄様!?」

「キーファ」

 

 数日後。俺は島の北東に位置する遺跡……復活の神殿の入り口で、リーサとアルスの前に立ちはだかっていた。神殿の扉は既に開かれ、中には選ばれしものを待っていた復活の間が出番を今か今かと待ち望んでいるところ。

 

 島北部の遺跡からそうだとは感じていたが、神殿内にも石版案内人がいたので、この世界はリメイク版に準拠しているようだ。しっぺ返しでげはげは笑いながら武器を振り回すマリベルは見れないらしい。

 

 それはともかく、俺はリーサをじろりと軽くにらむ。

 彼女は目を白黒させて驚いているが、俺にとっては完全に想定内である。そう、予想通りアルスは連れ出され、しばらく島内の冒険をした挙句に見事遺跡を開けることに成功したのだ。

 そしてアミット漁が終わったと聞いた俺は、ピースがすべて揃ったと判断してここに先回りしたというわけだな。

 

 リーサに対してアルスは、苦笑いしている。俺から事前に聞いていたんだから、彼にとっても想定内だろう。

 

「まったく、悪い子だなリーサは」

「うう、お兄様、わたくし、わたくしは……」

「だがここまで来たならもうしょうがないだろう。扉も開いてるみたいだし、かくなる上は俺も行くぞ。ここまで来て仲間外れはやめてもらおうじゃないか」

「……さすがお兄様、大好き!」

 

 しかし俺の言葉に、リーサは顔をぱああと輝かせて俺に抱き着いた。まったく現金なものである。

 

 ただ、そんな彼女もすぐに気がついたようだ。俺が兵士に支給されている鋼鉄の剣を身に着けていることに。

 

「お兄様、それ……」

「念のためだ。もし遺跡の中に危険なものがあったら……ないとは思うが、もしモンスターがいたら、とか……そう思ったらな。あったほうがいいと判断した。アルスの分もあるぞ」

「え、僕キーファみたく剣を使える自信ないんだけど……」

「そう言うと思って、お前のは銅の剣だ。これならいけるだろ?」

「あ、うん、それくらいならなんとか。……相変わらず準備いいなぁ」

 

 ただし城から無断で持ち出しているので、あとでリーサと一緒に父上には怒られる予定だ。

 そう告げたら、リーサはますます顔を紅潮させて俺の胸倉に頬を摺り寄せてきた。

 

 そんな様子を見ながら、アルスは「本当に妹には甘いんだから」と苦笑していた。

 

「話はまとまったかしら?」

「マリベル(さん)!?」

 

 と、そこにさらなる人物が姿を現した。アルス、キーファに次ぐドラクエ7のメインキャラクター。マリベルその人である。

 俺は彼女がアルスたちを尾行していることに気がついていたし、何ならゲームの知識で来ているだろうとはわかっていたので驚かない。

 

 そんな見透かしたような俺が気に食わないのか、マリベルはちらと俺を一瞥すると鼻を鳴らしてアルスを軽くにらんだ。

 

「……ひどいじゃないのアルス! こんな面白そうなことをあたしに教えてくれないなんて! あたしも一緒に行くわ!」

 

 取り付く島もない、とはこのことか。

 しかしマリベルもまた、アルスたちと同じくエスタード島の取り巻く状況を快く思っていなかった若者の一人だ。この世界に島が一つしかないなんていう状況を認めたくない、と……。

 

 何より、俺は原作を通じて、マリベルが口調や態度に反して根は優しい少女だということを知っている。そして彼女がこういうきつめの言い方をするのは、アルスに対してが圧倒的に多いということも。

 

 だから俺は思わずにやにやとしてしまうのだが……そういうのも含めて、マリベルは俺をあまり気に入らないんだろうな。これについてはわかっていてもついやってしまう俺が悪い。

 

「キーファ……どうする?」

「どうもこうも……ここまで来たら一蓮托生だろ。マリベルの言いたいこともわかるし」

「……ま、だよね。リーサ様もいいかな?」

「もちろん! マリベルさんもわたくしにとってはお姉様みたいな方ですもの!」

 

 俺とリーサの承諾を得て、アルスはどこか嬉しそうに笑って頷く。

 そしてマリベルに面と向かうと、誘うように手を差し出した。

 

「オッケー。一緒に行こう、マリベル」

「うふ、ありがとアルス!」

 

 そんなアルスに、マリベルもまた嬉しそうににこりと笑うと、俺たちの中に加わる。

 

 ……かくして、ドラゴンクエスト7の物語は幕を開ける。不思議な石版を用いて、時空を超える物語。魔王によって絶望の楔を打ち込まれ、世界から切り離された過去を救う物語。

 なぜか原作とはメンツが一人多いというイレギュラーもあるが……それでも確かに、アルスという少年の物語は幕を開けたのだ。

 

 まあ……そうして迎える一発目の冒険が、7のシナリオの中でも上位に位置する鬱シナリオのウッドパルナ編であるのは、口が裂けても言えないのだが。




キーファだけでなくリーサまでメンバー入りしたのは、ただの趣味です(その目は澄み切っていた
ちなみに作者はマリベル×アルス派なので本作もそうなります(その目は澄み切っていた
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