エスタード島の北に、島が現れた。それは世界に陸地はエスタード島ただ一つ、という今までの常識を根本から覆した。
おかげでエスタード島ではどこもかしこも大騒ぎであり、王子である俺は城に戻るや否や、説教もおざなりに会議室に連れ込まれた。
これでもまじめに王子していたので、この流れは予測できていた。なので、アルスたちには原作の流れで先行してくれて構わないと告げてある。どうせ未知の島に継承権一位の王子を派遣するはずがないから、俺は留守番だ。
リーサは説教と同時に自室に軽く軟禁される形になったが、まあ、きっと黙ってはいないだろう。どうせ抜け出す。行く先はアルスのところだろう。
そして折れたアルスが動けば、マリベルもほぼ間違いなく動く。俺が何もせずとも、話は進んでいくはずだ。
そう考えながら、親父……バーンズ王や重臣たちと会議を進める。
で、案の定、アルスたちはリーサに流される形で新しい島に先行した。リーサの立ち位置が完全に原作キーファのそれで、喜んでいいんだか悪いんだか。
ともあれ誰よりも先行して新しい島……ウッドパルナ地方に乗り込んだ彼らは、必要な情報を集めて戻ってきてくれた。そして、新たな石版も。
「おかえり、リーサ。アルス、マリベルも。新しい島はどうだった?」
そんな彼らを、俺は親父たちと共に出迎える。その言葉に、同席していた彼らの親……バーンズ王、ボルカノ、アミットは心底驚いて心配そうにして、最後には怒ってしまったが、それを制して島の説明をしてもらう。
はからずも調査隊の仕事をこなしたアルスたちの話を聞いて、会議はそれまでとは違う方向に行き始めたのだった。
そしてその夜。俺はリーサを伴い、親父の下を訪ねた。
「なんだ、二人揃ってどうした? まあ、座りなさい」
晩酌をしていたらしい親父に従って正面に腰かける。
そうして、俺はリーサと共にウッドパルナでの出来事を話した。できるだけ詳細に。
もちろん、最初は信じてもらえなかった。しかし、それでにべなく話を切るほど親父は暗愚ではない。説明を重ね、仮に真実だとしようと言ってもらうことには成功した。
まあ、仮に真実だとしたら説教せねばとも返されたので、それについては甘んじて受け入れなければならないだろうが。
しかし、である。
「父上、俺は今回現れた島と、俺たちが行った謎の場所が無関係とは思っていません。事実、リーサたちは同じ名前の、ほぼ同じ構造の村があると確認してきました」
「……お前たちの冒険が、世界に島を呼び込んだと?」
「そう考えています。そして……恐らく、今後この流れは続くだろう、とも」
「根拠は?」
「俺たちは、不思議な石版を用いて謎の場所へ飛びました。そしてそれと同様のものが、新しく現れた島でも見つかったというのです。であれば……さらにまた新しい場所へ行ける。行って、何かしらの条件を満たすことで、また新しい島が現れる。そう考えます」
「…………」
親父はここで考え込んだ。最初はその様子に、俺もリーサも静観を選んだが……それなりに長い間黙り込んでしまったので、俺は切り札を出すことにした。
「父上、こちらをご覧ください」
取り出したのは地図だ。ただし、多くの陸地が描かれた地図。この世界の、本来の姿が描かれたものである。
「これは……」
「宝物庫で昔発見されたもの、と聞いております。水路の先にある地下の倉庫から見つけました。空想で描かれたもの、と言われていたそうですが……」
言いながら俺が指差した場所。そこには、エスタード島に寄り添うウッドパルナ地方がはっきりと描かれている。
「俺は、この地図がもはや空想の産物とは思えません。理由はわかりせんが、きっとこれこそが本当の世界地図なのだと思っています。そして……この地図の傍らには、こんなものも見つかっておりまして」
「……! おっ、お兄様、これって!」
「そうさ。俺たちが使った謎の石版と……あまりにもそっくりじゃないか?」
「それは、確か、父上が彼から取り上げた……そうか、地下にあったのか……」
そう、俺が追加で取り出したものは、封印の石版。その一ピースだ。
赤いので、ウッドパルナへの道を開いたものとは色が違うが……しかしそれ以外の雰囲気は、完全に一致する。
「父上。俺たちはこの石版のかけらを用いて、再び謎の場所に向かいたく思います。そして……そこで俺たちがなにがしかをなしたとき、再び新しい島がどこかに現れるはず」
ここで俺は頭を下げる。
「だからこそ父上、どうか俺たちに旅立ちの許可をいただきたいのです!」
その意図に気がついたリーサもまた、俺に続く。
「お父様! わたくしからもお願いいたします! どうか!」
親父は、しばらく返事をしなかった。しかし、ここは根比べだと思って頭を下げ続ける。
やがて、頭上から特大のため息とともに「おもてを上げよ」という言葉が降ってきた。
しかし、俺はなおも頭を下げ続けた。それに根負けしたのか、親父はどこか思い出すような口調で語り始めた。
「……仮にも我が国の後継者を、モンスターがいるという危険な場所に送り込むなど、到底認められん。しかし……もし、もしもお前たちの言うことが正しかったとしたら……ここでお前たちを引き止めることは、世界の損失となろう……それに」
親父が一度言葉を切った。その流れで、俺たちは親父の手でゆっくり顔を上げさせられる。
いつの間にか、親父が床に片膝をついていた。そうして、俺たち……特にリーサの視線に合わせている。
「……わしとて子供の頃は、この島以外の陸地を信じていたものだ。それが正しかったと、他ならぬ我が子の手で証明されるのであれば……一人の親としては誇らしい」
そして彼は、暖かく微笑んだ。
「父上……」
「お父様……」
「……キーファ・グラン、ならびにリーサ・グラン! グランエスタードが王、バーンズ・グランの名において命ずる!」
しかし次の瞬間、彼は表情を引き締めまとう気配を一変させた。一国を背負う君主のそれにだ。
だから俺たちも、居住まいを正して再度こうべを垂れる。
「世界の謎を説き明かせ。世界のあるべき姿を取り戻すのだ!」
「はっ!」
「はいっ!」
「うむ! 必ず生きて戻ってくるのだぞ。アルスやマリベルもだ!」
「もちろんです!」
「はい!」
かくして、俺たちのクエストは始まったのだった。
***
それからの冒険は、おおむね順調だったと言えるだろう。
もちろんモンスターの群れや強力なボスと戦ったし、それなりの時間を必要とする長旅もして、相応の苦労や負傷もあった。
比較的穏当なシナリオのエンゴウや、穏当ではないにせよ終わり方がわかりやすく尾を引かないオルフィーはまだしも。
石化した人が風化していく様を目の前で見せつけられるダイアラックや、終わりのない機械との戦争が続くフォロッド、人間の心の闇をこれでもかと見せつけられるグリンフレークの物語は精神的にも死ぬほどキツかった。
だがそれでも俺たちは誰一人欠けることなく過去を旅し、ときにはガボという新しい仲間を迎えたり、大きな宴に羽目を外したりと、エスタード島しかない世界では絶対にできないことをたくさんした。
ちなみに道中で稀に入手できた力の種とかは、みんなで分けた。俺は種泥棒にはならないが、しかし独り占めするのも色んな意味で心苦しかったからな。
ともあれそうやって俺たちが旅をすればするほど、世界は少しずつ元の姿を取り戻していった。あちらこちらに現れる陸地の数々は、俺たちが魔王から人々を救った足跡そのものでもある。
やりがいのある、楽しい旅。そう言って差し支えない旅だった。
だからそこに踏み込んだとき、俺はいよいよ来たかと思いながらもなんとかなると思っていた。ユバール族を前にして、ここを絶対に乗り越えるのだと意気込みもした。
確かにユバールの踊り手であるライラは、俺の好みドストライクな少女だったが、それでも自制はできたのだ。
だから何事もなく冒険が進み、ジャンの演奏とライラの踊りをしても神の復活がならず、再訪を決意したユバール族から、掟を破ったからと離脱するジャンを見送ったとき、俺は終わったのだと思った。
俺だけでなく、みんなもそう思った。今回も万々歳なハッピーエンドではなかったなと、渋い表情をしながら現代に戻ったのだ。
だが、そこに新たな陸地はなかった。直前までと変わらない世界があるだけで。
「どういうことだ……?」
「まだあの場所でやらなきゃいけないことがあるってことなのかな?」
「かもしれませんわ。もう一度行ってみましょう!」
「えー、めんどくさ……まあ、しょうがないけどさぁ」
そうして改めて、過去に向かった俺たちは驚愕した。
なぜなら、そこには俺たちが関わった事実など綺麗さっぱり消え失せて、今まさにこの地に到着したばかりだと言わんばかりのユバール族がいたのだから。
そこには一族を抜けたはずのジャンもいて、彼らは神を復活させるために湖を目指している、と言う。
そう、時間が巻き戻っていたのだ。さながら、リートルードの繰り返す一日のように。
「こ、これって一体どういうことよ? なんで最初に戻ってるわけ?」
「たぶん……たぶん、だが……俺たちは何かを間違えたんだ。間違えたから、時間が巻き戻った……」
「何かって何よ?あたしたち、そんなおかしなことした!?」
「わからない……わからないが……とにかく、前回とは違う結果になるよう動いてみるしかないだろう」
「……では、ジャンさんが一族を去ってしまわないよう、お引止めするとかどうでしょう?」
「そうだね。ジャンさん、絶対に意見は曲げないって顔だったけど……辛そうだったもの」
「……まあ、アルスにしてはいい案なんじゃない?」
「確かに、愛し合ってる二人が掟で離れ離れにならざるを得ないってのは、後味悪いしな。よし、それじゃあハッピーエンドを目指すとしようぜ!」
……しかし、それでも世界は変わらなかった。
ジャンの引止めに成功し、ライラとの祝言を見届けたにもかかわらず、新たな陸地は現れなかった。
そして過去に戻ってみれば、またしても時間が戻ったユバール族の姿が。
「これ……正解を引くまで繰り返される気がするぞ……」
そう、俺たちはループにはまったのだった。
最初はウッドパルナみたく、各地方で1話使う形で書こうとは思ってたんですよ。
軽く流すにしても、1話で1エピソードのほうがいいだろうと。
でもね、ウッドパルナでいっぱいいっぱいだったのにね、ダイアラックを描写するのがしんどすぎてね・・・。
あと、グリンフレークのドロドロ昼ドラ展開も描写できる自信がなかった・・・いや小説と言う媒体が最も輝くであろう展開が続く話ですけどね?(げっそり
という経緯でこうなったわけですが、ガッチガチのダークファンタジーとかガッチガチの復讐もの書いてる方、すごいなって・・・。
ボクにはとてもできない・・・つらくて・・・。