キーファは僕にとって、友達で、幼馴染で、頼れる兄貴分だった。
キーファは何でも知っていたし、何でもできた。呪文は苦手だったみたいだけど、でも子供の頃の僕にとっては、父さんと同じくらいすごい人で。
だから憧れていたし、彼に置いてかれないようにと思って、色々がんばったのを覚えてる。
そして彼は、冒険を始めてもやっぱりなんでもできた。僕たちが戸惑ってばかりだった野営だって、ちゃんと何をどうしたらいいのかわかってた。
難しい謎解きみたいな洞窟も、言い回しが難しい古い文章も、石版のかけらを見つけるのも、キーファにはお茶の子さいさい。
フォロッドで初めて外国の王様と顔を合わせるときも、本当に惚れ惚れする王子様ぶりだった。恐ろしい敵と戦うときも、ひるまずに立ち向かっていける勇気も、一番で。
彼にちょっとは追いつけたと思ってたけど、全然で。もしもおとぎ話みたいに、僕たちの目指しているのが魔王退治なら……きっと勇者は、主人公は、キーファに違いない。僕はそう疑っていなかった。
そのキーファが、僕たちのためにいなくなった。それは僕にとって――いやもちろんみんなにとってだけど――ものすごくショックだった。
考えても、誰かが悪いわけじゃない。それはわかってる。
でもだからって、簡単に受け入れられるわけ、ないじゃないか。それだけ僕たちにとって、キーファは大事な友達で、なくてはならない人だったんだ。
キーファと別れて、謎の神殿に戻ってきて。それを認識した瞬間、僕たちは泣き崩れた。リーサは特にだけど、僕やガボだって似たようなものだ。
マリベルはがんばって堪えてたけど、それでも泣いてることは変わらない。
まるで胸にぽっかりと穴が空いてしまったみたいだった。
けれど、いつまでもそうしてるわけにはいかなくて。その日はなんとか家路に着いて、泥のように眠ったけれど……僕たちはしばらく冒険をするような気分にはなれなかった。
でも数日後、リーサがキーファの部屋から見つけたものを持ってきたことで、僕たちは前に進むことにした。
彼女が持ってきたのは、キーファの手帳だった。そんなに大きなものじゃない、旅の途中でも使えるようなもの。王族らしからぬキーファらしい、実用的な品だった。
その中身は、たぶん急いでたんだろうなってことがわかる、乱れた字ばっかりだった。マリベルなんかは、「相変わらず字がヘタクソね!」なんてぷりぷりしてたけど。
けれどそこに書かれていたのは、キーファが聞いただろう神の啓示だった。あるいは、予言と言うべきものかも。
だってそこには、僕たちが今後訪れるだろう未知の場所のことが。あるいは僕たちが今後戦うだろう敵のことが、書き連ねられていたんだもの。
その中に。
いつかのとき、ハーメリアという場所で、僕たちはあのジャンさんに再会すると書かれていたんだ。もちろんこの間会ったジャンさんじゃなくて、もっと歳をとっておじいさんになったジャンさんみたいだけど。
それでも、かつて会った過去の人に、また会う機会がある!
この気づきに、僕たちがどれほど勇気付けられたかわからない。
キーファが残ったのは、流浪の民ユバール族。一つのところに定住はせず、世界のどこかを巡る部族だから、過去で会えるかどうかなんてわからない。はっきり言って、そんな可能性はないも同然だとは思う。
それでも、ゼロじゃないから。
もしかしたら、きっと。
だから、僕たちはもう一度冒険の旅に出た。世界をあるべき姿に戻す。それだけじゃなくて、過去の世界のどこかにいる、キーファにもう一度会うための旅だ。
それでもって、また会えたら、あのバカな王子様を、絶対一発ぶん殴ってやるんだ!
そんな決意を胸に(そんな決意をしてたのは僕とマリベルだけかもだけど)僕たちは、旅を続けた。
色んな職業に就くことで、もっともっと強くなれる聖地のダーマ神殿。
見渡す限り砂ばかりで、大きなスフィンクスに圧倒された砂漠の地。
静かな森の中に、ひときわ大きくそびえる世界樹が印象的なクレージュ。
何度も何度も同じ日をやり直して、時間まで止まった不思議なリートルード。
どれもこれも、生半可な冒険にはならなかった。相変わらず行く先々に待っているのは悪辣なモンスターたちとその罠ばかりで、本当に心が痛んだ。特にクレージュは、何を言えばいいかわからないくらい愕然としたのをよく覚えてる。
逆にダーマ神殿なんかは、キーファがやたら気合い入れてなんとかしてほしいみたいに書いてたから、なんとかしたけど。
いや、まさか大神官様がリーサよりも年下の女の子だなんて思わないよね。キーファは相変わらず女の子に優しいんだなって。
あとは、リートルードでも僕たちが行った時代より進んだ時代のグリンフレークに行けたこともあって、やっぱりキーファにまた会える可能性はゼロじゃないんだって確信できたよ。
そしてそんなリートルードの次に辿り着いたのが、遂にハーメリアだった。僕たちは不安と期待をないまぜにした気分だったけど……キーファの言う通り、本当にそこでジャンさんに再会することができたんだ!
ジャンさんはやっぱりおじいさんになっていて、僕たちのことは顔までは覚えていなかったけど……でも僕たちのこと自体は覚えていた。だから話は弾んで、懐かしいと喜んでくれた。
僕たちも嬉しかった。だって、キーファが受けた啓示が正しいこと……そして、過去の世界でもしかしたら彼に会えるかもしれないって、証明されたから。
そんな再会したジャンさんは、トゥーラの腕前は落ちるどころかますます冴え渡っていて、本当にすごかった。あの演奏を聴けただけでも、ハーメリアに来た価値はあったと思えるくらいだった。
だけど何より驚いたのは、ジャンさんってば短時間だけど旅の扉まで作れるようになってたことだよ。海底に住むグラコスとの戦いにも問題なくついてこれたし、すごく頼りになって……それがなんだかキーファみたいで、複雑な気分にもなったのはここだけの話だ。
そうそう、ハーメリアではもう一つびっくりしたことがあった。それは、僕の腕にあったアザが……水の精霊の紋章が、初めて力を発揮したことだ。
今まで特に何にも起きなかったし、キーファが言うには半分しかないらしい。だから、彼が僕を「選ばれしもの」って言ったの、全然納得できてなかったんだけど……どうやら今まで力を発揮する機会がなかっただけみたい。
だって、今回紋章が働いたのって、海底に潜る手段がない僕たちが海面で右往左往してたときだったんだもの。
ジャンさんはそれを見て驚いてたけど、僕に水の精霊の紋章があるのを知ったら納得してた。
ジャンさんは土の精霊の加護がある人だから、陸地ではわりと何かしら力を発揮してくれてたらしいんだけど、僕のは水だから。きっと、水がたくさんあるところじゃないと、あんまり力を発揮できないんだろう……ってのはジャンさんの推測だけどね。
そうしてハーメリアの事件を解決したあと、ジャンさんは後継者を育てるために旅に戻っていった。
僕たちは知ってる。彼の後継者が、巡り巡って僕たちの時代、マーディラスというまだ見ぬ土地で生きてるって。キーファにそう教えてもらった。
だから僕たちも、すぐに冒険を再開したんだ。
プロビナ、ルーメン、そしてマーディラス!
さらには聖風の谷、レブレサック、コスタールと、その後も冒険の旅は長くて過酷だった。
でもまあ、結果としては頼りになる仲間とも出会えたしね。キーファの手帳のおかげもあって、僕たちは
ちなみにレブレサックについては……なんていうか、過去からの戒めを破壊するなんて普通思わないよね。なんでかダーマ並みにキーファがやたらこだわってたのが不思議だったんだけど、実際そんなことされたら納得しかなかったよ。
なんとかギリギリ阻止できたけど、モンスターに追い詰められてもいないのに、なんであんなにひどいことができるんだろう。
まあレブレサックはともかく。
新しく仲間になってくれたメルビンさんは、神様の兵という伝説の人だ。もうお爺さんなのにもしかしなくてもキーファより強かった。
キーファがホンダラおじさんからホットストーンを言い値で買ったって話を聞いたときは、耳を疑ったのをよく覚えてるけど……まさかそれが、メルビンさんの封じられた由緒あるものだったなんて、本当にびっくりしたよ。
そのメルビンさん。教えるのはキーファほど上手ではなかったけど、とっても頼れる使い手だった。お茶目なところもあるけど、歴戦の勇士ということもあって思慮深いし、率先して敵を引き受ける姿はまさにパラディンだった。父さんみたいな、尊敬できる大人の人だ。
仲間になってくれたのは、もう一人、なんと現代で出会ったユバール族から、キーファの子孫が仲間になってくれたんだ!
これにはみんなびっくりだった。彼女を引き合わせたバーンズ王様も、心底驚いていたのが感慨深かったよね。
キーファの子孫は、アイラっていうすごく美人な踊り子さんだ。だけど彼女は剣も得意で……その剣術が、グランエスタードの兵士の人たちのそれとほとんど変わらなくて。
戦闘中、みんなを守るために最初に突っ込む戦い方まで、キーファにそっくり。
何より、彼女が持ってた「先祖伝来の指輪」は間違いなく、キーファがバーンズ王様から譲り受けた太陽石の指輪だった。おかげで僕たちはすぐに彼女がそうだと気づくことができたんだ。
不思議な縁もあるものだと思ったなぁ。リーサに至っては、キーファと同じくらいに懐いていて、まるでキーファが帰ってきたような感覚だった。
アイラ自身も、エスタード島のあちこちでなぜか懐かしい感じがするって言っていた。これはきっと、神様の導きなんだろう。
だけど、結局僕たちはキーファに再会することはできなかった。彼の情報すらないまま、なんかいつの間にか僕たち、魔王を倒してたから……。
いやもちろん、そんなあっさりとした話ではないんだけどね? でもこう、もっと過去に行く機会がほしかったのにもう終わりなのか、みたいな気持ちになっちゃったのは本当だから……。
もちろん、最初に会ったマチルダさんや、彼女みたく魔王に苦しめられた人たちのためにも倒そうとはみんなで言ってたし、平和のためにがんばろうって決意だってあったのも本当。だからちゃんと達成感とかもあったよ。本当だよ?
ともあれ、これで世界は平和になって、僕たちの冒険は終わった。神様を復活させるためにユバール族に協力する時間はあったけど、それだってキーファのおかげで答えがわかってたから、ほとんど時間はかからなかった。
そうして神様も復活して、めでたしめでたし……。
誰もがそう、思ってた。僕たち以外のみんなは、少なくともそうだったはずだ。
だって、普通わかるはずない。満を持して復活した神様が、魔王オルゴ・デミーラの変装の偽物だ、なんて。
だけど僕たちは、キーファの遺した啓示のおかげで、それが偽物だろうとわかっていた。復活して見せたその場で正体を暴かなかったのは、そうするだけの用意がまだできてなかったのもそうだけど、戦えない人が周りにいっぱいいたから、するわけにはいかなかったんだ。
あと証拠もなかったからね。本当にそうなのか、いまいち信じられなくって……だけど神の兵の長としてクリスタルパレスに入っていたメルビンさんが、色々と調べてその事実を見抜いて教えてくれたことで、僕たちは改めてキーファに与えられた啓示が正しいんだって思った。
だから僕たちはキーファの手帳に従って、備えることにした。きっと偽の神様……魔王オルゴ・デミーラが、精霊様の眠る土地を封印するだろうから、その前に。
でも各地の精霊様を先んじて覚醒させることができていれば一番だったんだけど、精霊様は各地の一番神聖なところ……つまり厳重に警備されてるところにいるから、僕たちにできることはあんまりなかった。そりゃあ、ぱっと見はどこにも問題がないのに神聖なところを開けてくれって言われても、普通は信じてもらえないよね。
だから最低限、すぐに動けるようにするためにエンゴウから聖なる種火を分けてもらった。これでエスタード島が封印されても、種火をともすことで旅の扉を復活させることができる。……らしい。
で、実際その通りになったんだから、本当にキーファってやつは。彼の身体にはどこにも精霊の紋章はなかったと思うけど……やっぱり彼が一番強くてすごいんだよなぁ、なんて僕は思ったりもした。
そこからの流れも、おおむねキーファが遺した記録通りに進んだ。炎の精霊様を起こして、戦って認めさせて。エスタード島に戻ったところで、コスタールの海軍マール・デ・ドラゴーンと接触することになって……。
だけど、ここで僕たちはまったく予期していなかった出会いを果たすことになる。
アミットさんの船の何倍も大きな船に、
彼への細かい説明は、アミットさんがしてくれたから僕たちは黙っていたんだけど……それが終わったところで、シャークアイさんは唸りながら腕を組んだ。
「……うーむ……ここまで完全に一致するか……」
「?」
思わずと言った感じでつぶやいたシャークアイさんに、全員が首を傾げる。
けど、彼は僕たちが何か言うよりも早く、部屋の奥のほうに声をかけた。
「おい爺さん、もういいぞ」
「恩に着るよ、シャークアイ」
「……!!」
すると物陰から、ぬっと大柄なおじいさんが現れた。それなりに戦いを経験して、だいぶ勘がよくなったと思ってたけど、その人には全然気づけなかった。
現れたのは、おじいさんと言うにはかっこいい姿の人だった。髪の毛は全部真っ白だったけど、短めに揃えつつも後ろに一つまとめた髪型はどこか若々しい。背筋はきちんと伸びているし、体幹はまったくブレていない。おまけに背中には大きな剣を一本。どこからどう見ても、メルビンさんに匹敵する歴戦の古強者といういで立ちだ。
けれど、そんなおじいさんの姿に、僕は強い既視感を覚えた。
いや、正確には姿じゃなくて……気になったのは、声だ。なんでか、聞き覚えがある。最近ずっと聞いていなかった、すっかり忘れかけていた声にそっくりで。
そんな風に混乱していたのは、僕だけじゃなかった。マリベルもガボも、アイラも驚いた顔をしておじいさんの顔を見つめている。
対するおじいさんは……そんな僕たちの顔を順繰りに眺めると、ふっと口元に笑みを浮かべた。これも、見覚えのある仕草だった。ここまでの冒険の道中で、彼が何度も見せていた仕草。
「……まさか」
「
「「「
「おう。過去から現代に、戻ってきたぞ」
大声で彼の名前を呼んだ僕たちに、彼は……キーファは。
年老いても変わらない、穏やかな笑みを浮かべて応じたんだ……!
現代レブレサックの町長はキドラントの町長に並ぶクソ野郎だと思う(真顔
もしドラクエ7の物語に介入できるなら、大抵の人がダーマとレブレサックを優先するんじゃないかな・・・。