俺は種泥棒にはならない   作:ひさなぽぴー

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6.エデンの戦士たち

 長い……長い冒険の旅だった。

 マジで。まさか五十年近くもさまようことになるとは。

 

 だが、思惑通り現代に戻ってこれたようでホッとしている。アルスたちの度肝を抜くことにも成功したようだし、ガバなくやれたのではないだろうか。

 

「な……っ、なん、なんで……なんで……!?」

「色々あったんだよ。色々と」

 

 驚きすぎて指差したまま硬直しているアルスに苦笑いする。

 

 いや本当に、色々とあった。ありすぎた。おかげで相応の力を持った状態で合流できたが、当然それに見合うだけの苦労をしたので、よかったとは素直に言えない。

 

 さて、過去に留まった俺がなぜ現代まで生き続けることができたのか? これには色々と偶然も絡むが、基本的には狙ってやったことだ。

 

 俺は過去に留まりユバール族の守り手になったあと、当然彼らと一緒に世界を巡り続けた。原作同様にライラと結婚し、子供も設けた。おかげでアイラも現代でちゃんと存在しているようで、何よりである。

 

 だが俺はそうしながらも、現代まで生き残ることを諦めていなかった。なんとかして現代まで生き続けて、もう一度みんなに会おうとあがいたのだ。

 

 そうして俺が狙いをつけたのが、マール・デ・ドラゴーン。海賊である。

 とはいっても、彼らはどちらかと言えばピースメインと言うべき海賊であり、ものの道理をわきまえた存在だ。

 

 そして彼らは遠い昔、コスタールの国で海軍をやっていた海賊でもある。

 コスタール王はそのために直々に交渉し、協力を取りつけたのだからいかに重用されていたかはわかるだろう。実際、それに見合うだけの成果を常に挙げていたという。

 

 しかし彼らは民を護るために魔王との戦いを続け、その戦力、規模から魔王にとっては邪魔な存在となっていった。結果として、彼らは永遠の氷に封印されることになる。氷漬けになり、悠久のときをさまよう羽目になったのだ。

 

 だがすべての陸地が復活し、さらに彼らが封印されていた土地が再度封印を受けた際に呪いは解氷。彼らは閉ざされた世界に漕ぎ出し、主人公たちと遭遇する……ということで今の状況に繋がるのだが。

 

 俺は当然、彼らがどこに封印されていたのか、大雑把にだが知っていた。だからこそ俺はある程度歳を取って守り手を引退し、ライラも寿命で旅立ったあと、一族を再び抜けて世界を単独で旅し始めたのである。

 その過程でダーマ神殿にも寄って、色々な技術を身に着けて……あるいは各地でアルスたちの冒険の足跡を追いつつ。目当ての場所に辿り着いたとき、まだそこにマール・デ・ドラゴーンが封印されていないのを見たときは、もうダメかと思ったものだ。

 

 しかし、それでも己を鼓舞して旅を続けた俺は、辿り着いた先のコスタールで出航直前のマール・デ・ドラゴーンを発見。全力で土下座を敢行し、加入させてもらったのである。

 

 正直、うまくいくかどうかはわからなかった。何せドラクエ7は、作中の時系列がはっきりと明示されていない。なんなら普通に間に合わなかった可能性のほうが高い。ダメだったら、シャークアイの奥さんのように人魚になるしかないかとも思っていた。

 それに、寿命との戦いがかなり差し迫ってきていた。そういう意味でも、完全に博打と言っていいだろう。

 

 だが俺は賭けに勝った。見事マール・デ・ドラゴーンともども封印に巻き込まれることに成功し、彼らの目覚めと共に現代に帰ってきたのである。

 そしてシャークアイに頼み込み、アルスたちの出迎えにちょっとしたサプライズを仕掛けた、というわけだ。

 

「だいぶ歳も食っちまって、体力も落ちたが……それでも今の俺には技があると自負している。改めて……また頼むぜ、アルス?」

「も……もちろんだよ! もちろん!」

 

 かくして俺は、再びアルスたちの仲間に加わったのである。

 

 なお、ここでは初対面のアイラとは、当初わりとぎこちなかった。

 

「まさか……ご先祖様に直接会うことになるなんてね……」

 

 そりゃそうだ。先祖と子孫が同じ場に会するとか、普通にあり得ない。

 だが、俺とて長年ユバール族として生きてきたのだ。溶け込むことには自信がある。彼女とは特殊な関係にあるが、それに関係なくすぐになじむことができた。

 

 そして、親父とリーサ。

 

 リーサはグランエスタードの守りのため、一時的にアルスたちと別行動をしていたようでマール・デ・ドラゴーンには来ていなかった。

 ならばとダーマ地方の現状を確認したあと、彼女と合流するためにもグランエスタードの城へ向かうことになったのだが……。

 

「……!! き……ッ、キーファ!? まさか! 本当にお前なのか!?」

「はい。長らく留守にしてしまい、申し訳ありません……父上」

「お、おお、おおおおおお……!」

 

 先に親父に謁見したら、号泣と共に抱擁された。

 既にこの身は親父より年上になってしまったものだが、実年齢が逆転しようと関係ない。俺も感極まって、親父に抱擁を返したよ。親子の縁って、不思議だよな。

 

 そしてそれを聞き及んでやってきたリーサは、

 

「お兄様! お兄様、お兄様、お兄様ぁ!!」

 

 親父以上の号泣で、俺にしがみついて離れなくなった。

 俺の知らぬ間に彼女もそこそこ大きくなっていたが、しかしこうして久しぶりに見てもやはり、彼女は昔と変わらず小さなかわいい妹だった。

 

 この日は結局、リーサが一切俺から離れようとしなかったので、風呂から飯から何から何までリーサと一緒に居続けることになった。就寝もである。現代日本なら下手しなくとも事案だ。

 とはいえ気持ちはよくわかるので、俺は彼女を目いっぱい甘やかしながら一夜を過ごした。さすがに風呂だけは遠慮させてもらったがな。

 

 なお、俺のことは他の人間には漏らさないようにしてもらうつもりだったのだが、普通に無理だった。

 

 まあ仕方ない。俺の主観ではここを去ってから今日までに五十年近く経っているが、グランエスタードの人間にしてみれば数年も経っていないもんな。俺の顔を覚えている兵士がほとんどで、普通に見抜かれた。

 老け込んでいることに対して、「キーファ王子はそんなに年寄りではない」と信じなかったものもいるが……信じたものも同じくらいいたので、普通に無理だったわけだな。

 

 だが、俺としてはもはや親父の後継はできないと思っている。何せ実年齢は親父より上になってしまったしな。仮に王位を継承したとしても、そう長くはやっていられないだろう。

 だからその問題については相変わらず親父を悩ませることになるだろうが……これについては本当に申し訳ないが、何とかしてもらうしかないだろう。

 俺は魔王討伐に全力を尽くすので、それでどうにか許してもらいたいところだ……。

 

***

 

 さて、俺も復帰しリーサも再加入したところで、物語も大詰めである。

 

 俺たちは砂漠、聖風の谷へ相次いで向かい、それぞれの土地でそれぞれの精霊を目覚めさせた。

 さらにエスタード島にある七色の入り江で水の精霊にもお目覚めいただき、陸地の封印を解き、偽物の神の正体を明らかにしたのである。

 

 ここまで来れば、やることはただ一つ。荘厳で美しいクリスタルパレスから、禍々しく邪悪なダークパレスへ変じたやつの居城へ乗り込み、魔王オルゴ・デミーラを討つのだ。

 

 途中でメルビンとも合流し、総勢七人となった俺たちは飛空石でダークパレスに乗り込んだ。

 そこからの流れは……さほど特筆すべきことはない。原作とほとんど変わらない流れだったと言えよう。

 

 一応、ダークパレス内に眠っている伝説の装備も一通り回収したりもしたが……まあ、それにしてもさほど原作との違いもなかったので、改まって言及するほどのことではなかった。

 せいぜいが、それぞれの装備を誰が使うかで少し揉めたくらいか。

 

 問題の魔王オルゴ・デミーラについては、やはり聞くと見るとでは大違いだったと言える。俺が知っているのはあくまでゲームでのやつなので、実際に面と向かって戦うとなるとものすごいプレッシャーだった。

 

 いやまあ、やつとの戦いで一番やべーなと思ったのはその変身過程なのだが。特に、グロテスクに肉片をまき散らしながら最終形態へ変じていく様は、正直言ってCEROに引っ掛かること請け合いだった。あんなものを目の前で見せられたリーサが心配である。

 

 しかし、そんな魔王も決して完全な存在ではない。最後はマリベルのメラゾーマとリーサのマヒャドがメドローアじみた攻撃となり、体勢を派手に崩したところでアルスのアルテマソードと俺のギガスラッシュが叩き込まれ、無事討伐と相成った。

 

 ……この世界の設定がどうなっているのか、はっきりとはわからない。もしも小説版に近しいのであれば、オルゴ・デミーラは闇の精霊ということになり、不滅の存在だ。だとしたら、またいずれ不穏な時代が来るかもしれないが……正直、そんな遠い未来の話までは責任を持てない。

 俺たちはこの時間、間違いなく魔王オルゴ・デミーラを倒し、世界に平和が戻ってきた。それは間違いないのだから、よしとするべきだろう。

 

 かくして世界は平和となったが、ゲームとは違い世界は続いていく。魔王がいようといまいと世界は存続し、人々の暮らしは絶えることなく続いていく。

 

 そんな中で、俺はグランエスタードに戻った。そして相談役という形で落ち着くことになる。

 やはり俺が後継者となることは不可能であり、こういう形に落ち着いたわけだが……ぶっちゃけ名案はない。だが、少なくとも明日をも知れぬ身というほどガタがきているわけではないので、少しずつ何とかしていくことはできるだろう。

 

 まあ、今のところ後継者の候補であるリーサが、昔に比べてだいぶやる気になっているので、そこまで心配しなくてもいいかなという思いもある。現実ならいざ知らず、この世界ではマーディラスや砂漠の国のように、女王が普通に存在することも珍しくない世界だ。リーサ女王が誕生しても問題はあるまい。

 結婚相手をどうするかという問題もあるにはあるが……それこそ焦る問題でもないだろう。何せ、リーサはまだ十代半ばにようやく差し掛かったところだしな。もちろん、生半可な野郎など俺が許可しないが。

 

 他のメンバーはと言えば、おおむね原作と同じ道を選んだようだ。アイラはグランエスタードに残り、近衛兵としてリーサに仕えることになった。俺としては妹が二人に増えたような感じだ。生真面目なアイラは、かなり恐縮していたようだが。

 

 メルビンは、天空に戻り神の兵として余生を送ることになった。文字通り「老兵は死なず、ただ立ち去るのみ」を地で行く選択をしたのだ。実直な彼らしい選択だが、似たような境遇ということもあって、実は彼とはこっそり手紙のやりとりをしていたりする。目下の悩みは、その手紙を後世に残していいものかだ。

 

 それからガボも、原作同様木こりの爺さんと同居することで決着した。動物と心を通わせる彼の存在が、フィッシュベルの周辺にどういう影響を及ぼすのか、楽しみである。彼自身も未来ある少年なので、その将来をどういう風に選択するのだろうな。

 

 そして、アルスとマリベルだが――まあ、今までの冒険の中でそうだろうなと思っていたので、俺は別に驚きも何もなかったが。

 アルスが最初の漁から戻ってきたあと、マリベルと正式に付き合い始めた。彼女はその漁に同行していたのだが、そのさなかにさて何があったのだろうな。ま、それを聞くのは野暮と言うものだろうが。

 お似合いの二人だと思っているので俺は特に言うことはないのだが、両者の性格が性格なだけに、進みはだいぶ遅そうである。

 

「頼むから、俺が死ぬ前にせめて挙式だけはしてくれよな」

「う、わ、わかってる……よ」

「欲を言えば、子供も見せてほしいところだなぁ」

「そ、それはまだ、早いんじゃないかなぁ……ウン……」

 

 初心なやつめ。まあ、俺も俺ですっかり爺さんなので、そう思うのも仕方ないか。

 

 それに、もはや時代もモンスターに脅かされる時代ではない。少なくとも病気や事故を除けば、いつ死ぬかわからないようなときではないのだから、彼らのペースでやっていけばいいだろう。

 

 城のテラスで、お茶と茶菓子を堪能しながらアルスと話をしながら過ごす日々はとても穏やかで、あの死ぬ気で駆け抜けてきた日々が夢のようだ。

 視線を移せばそこには、ウッドパルナに旅立つ前よりも格段に活気を増したグランエスタードの城下町が見える。そこにモンスターや悲劇の影はなく、人々の未来には希望が溢れていた。

 

 しかし……そんな平和な島の景色を眺めていると、何とはなしにふと思うことがある。この冒険の果てに俺は何になれたのだろうか、と。

 

 ドラクエ7のキャッチコピーは、「人は、誰かになれる」だった。たくさんある職業を経て、キャラクターを成長させていくというシステムとはそれっぽくかみ合っていたなと思う。

 

 しかし、このコピーの裏にはちゃんと設定があるようにも思っている。なぜなら、神は人間に無数の可能性を与えた、ということになっているのだ。

 ゆえに精霊より劣る存在でありながら、人間には無数の可能性がある。それは善悪どちらにでもなりえるという意味でもあるが、それでも人間は自ら選んで好きなものになれるのだ。だからこそ、「人は、誰かになれる」。

 

 だが、俺はそこまで考えて生きてきたわけではない。何の因果か始まったキーファとしての人生で、キーファになりたかったわけでもない。

 最初はそれでも王子として、まっとうな王になろうとも思っていたが……今となってはそれもできない。今も昔も、俺にあったのはただ種泥棒になりたくない、という思いだけだった。

 

 それで結果的に、俺が何になったかと言えば……。

 

「ねえキーファ、知ってる? なんか最近マーディラスのほうで流行ってる歌劇で、僕たちのこと、エデンの戦士たちって言われてるらしいよ」

「ああ。秀逸な言い回しだよな」

「そうなの?」

「エデンってのは楽園のことだ。そしてエスタード島はその昔、無人島ながら楽園と噂された知る人ぞ知る場所だった。あるいは、この世界で唯一残っていた人類の生存圏でもあったから、そういう意味でも楽園と呼べただろう。そこで生まれ育った俺たちが、魔王を倒したんだから……」

「なるほど! 確かにぴったりだね」

 

 それからアルスは、「やっぱりキーファは物知りだなぁ」とうっすらとほほ笑んだ。

 しかしすぐに、

 

「でもさ。僕たち、別にそんな大層なものじゃないよね。そりゃ、僕もキーファもちょっと普通じゃないけど」

 

 そう言って、困ったように頬をかいた。

 こいつのこういう謙虚なところは、いつもながら好感が持てる。そして俺も同感だ。

 

 だが、もしも俺が何に、誰になったのかという問いが成立するならば、答えはまさに「エデンの戦士」なのだろう。

 アルスが言うように、そんな御大層なものだとは思っていないが……それでも、この世界で俺たちがしたことに対して、そう称賛されることは悪い気分ではない。

 

 そう、俺は種泥棒ではないのだ。ならなかった。

 

 俺は、エデンの戦士。

 キーファ・グランである――。

 

 

 

 ――――完




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
以上を持ちまして本作はおしまいです。

いやその・・・正直、「キーファに転生して頑張るも、過去に残らないと先に進めないからループの果てに残る」のと、「マール・デ・ドラゴーンを利用して現代まで戻ってくる」という二つの思い付きを形にしたくて書き始めたので、最初から魔王退治はぶっちゃけ蛇足に近い扱いだったりしましてですね。
おかげで最後は本当に駆け足になっちゃいましたが、ひとまずやりたいことは全部やれたので大体満足です。
ちょっと前の作品ですが、これを読んだDQ7に触れるきっかけになりましたら幸い。

それと、よろしければボクの他の作品もよろしくお願いします・・・とか言ってみたりして。
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