ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ 作:十二の子
1つ、ハジメたちは愛子先生たちと再会した!
2つ、ウワサに操られていた龍人族のティオ・クラルスがドMに目覚めた!
そして3つ、フラワースピーカーのウワサに操られた数十万の魔物が、ウルの町へ迫る!
―*―
「南雲君…
…八雲さんが、あなたは、裏切られて、変わってしまったのだと言っていました。
そんなあなたには、私も、敵にすら見えるのかもしれません。
それでも、私は先生です。生徒たちがより良い決断ができるように、手伝うことが仕事なんです。
聞いてくれますか?」
「なんだ?魔物を迎撃しろって話ならできない。俺たちはウィルをフューレンまで連れて行かなくちゃならないし、関係もない奴らを助けてる余裕なんかないんだ。それにこの世界は一寸先は闇、良かれと思ってしたことで突き落とされるのはもうごめんだ。」
「南雲君。君は昨夜、日本に帰ると言いましたよね?
では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか?そんな生き方が日本で出来ますか?日本に帰った途端、生き方を変えられますか?先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。力を振るうことに慣れて欲しくないのです。
君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は…とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから…他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを…捨てないで下さい。」
「…はあ。
香織に言われたな。俺は優しさを捨てられないって。まったく…
…先生は、俺がどんな決断をしたとしても俺の先生でいてくれるか?」
「当然です。」
「…意地悪に時間を使い過ぎたな。
試すようなことをして悪かった。でも、みたまに言われたんだよ。
なんで、先生なのに、生徒に戦うように頼むのかって。生徒の安全を優先してくれないのかって。
でもまあ、納得した。」
―*―
ウルの町は、数時間前には存在しなかった高い城壁に囲まれている。
巴マミは、城壁の下で、列車砲かというくらい巨大な魔砲を用意している。
「さあ、行くわよ…」
北から迫りくるのは、20万を優に超える魔物の群れ―北山脈の生態系はいったいどうなっているのだろう?
「ティロ…」
慌てて、城壁の上にいた全員が城壁の反対側に飛び降りた。
「フィナ――――――――――――レ!!!」
ーその「究極の一撃」は、実に、46センチ砲の一射に匹敵した。
城壁がグラグラ揺れ、マミが物理的な威力を持つにいたるほどの魔力爆風で吹き飛ばされて城壁から転がり落ちほむらに抱き留められる。
魔力の塊は、空高く舞い上がり、そして、空飛ぶ魔物たちの上に炎の網をかぶせた。
「三式弾かよ…」「13周前のワルプルギス戦以来ね…」
ハジメとほむらが呆れる。
火傷した魔物たちが下降していき、それを追い越す無数の火の玉は地上で爆発、魔物の群れは爆野の中を突っ切ることを要求されることになった。
「俺たちも始めるか。魔法少女には負けられないぞ!」
「うん!」「ん!」「そうね!」「任せなさい!」「ですぅ!」「妾も、加えてもらったからには力の限り尽くすのじゃ!」
「気合十分ねぇ~。」
「そうだな。
自分は首謀者の心を読んでみたい。あのペンダントの出どころなど、な。行ってくるぞ八雲。」
「3時のおやつを準備して待って「要らん」」
―*―
やじ馬に紛れつつ戦場を眺め、それでも、美国織莉子は驚かなかった。
魔法少女勢もハジメハーレム勢も、むちゃくちゃしている。
もっとも目立つのは、やはりハジメ。無数の迫撃砲を並べ、その火線は宙をなぞり魔物を爆発と共に血しぶきに変換していく。
ほむらもまた、同じようなことをしているーが、規模は製造者には及ばない。もっとも今までのどのループでも果たせなかったほどの火力がハジメのおかげで達成されるのだから文句はない。
香織の光の鎖が安全圏を生み出し、雫の刀と優花のナイフでそれが前進していくのを、誰も止められない。
ユエが、長方形に伸ばした重力魔法で魔物を地面にしみこませている。
シアは、ハンマー「ドリュッケン」でどこまでも進んでいく。
ティオも人間態で手のひらから炎のブレスを撃ち、それはまどかの魔矢に引き込まれ、遠くで炎の散弾を成す。
魔物たちの中には反撃を試みる者もあるが、さやかの剣の雨と十七夜のムチの前には通過を許されない。
織莉子は魔物の数を20万から30万と推定したが、戦略的に、10000匹/分の速度で削られている。
「それで、私は何をすればいい?」
「もうすぐでカタがつくから、私のことを守っていてちょうだい。」
「それは責任重大だ。」
漆黒の服装の魔法少女呉キリカが、ツメのような形状の武器を手入れしながら織莉子に応えた。
―*―
「おい、貴様か?コレをばらまいているのは。
素直に答えてくれるのなら、お尻ペンペンで許してやらんでもないぞ?」
白フードマントの男は、いつの間にか囲まれていたという事実に愕然とした。
「な、なんで…くそっ、くそっ!
どいつもこいつも役に立たないわ訳が分からないわ…何なんだよいったい!」
「む、不平を叫ぶより先にすべきことがあるのではないか?」
雫が後ろから風のように駆け抜けて来たかと思うと、男が乗る四つ目狼の魔物は上下に両断された。男が転がり落ちて尻もちをつく。
「このペンダントの作り主について、聞かせてもらおうか?ん?」
「悪いが先生に首謀者を連れてくるように言われてるんでな…って清水?まあいいか。」
前門の十七夜、後門のハジメ。
「くそお!もうこうなったら、やってやれ!」
清水が叫んで、ベルのカタチのペンダントを握りつぶしたその瞬間。
ーアラもう聞いた?誰から聞いた?
フラワースピーカーのそのウワサ
受信と発信が一体になったチョーコーセーノーなスゴイやつ!
してほしいコトも襲ってほしいアイツの名前もなんでも喋ってみてごらん!
みんなの本能にビビンッと響く、素敵なフィールに変換してくれて、
意のままに操れるようにしてくれるって、魔物たちの間ではもっぱらのウワサ
イノママヨー!ー
プロジェクションマッピングされたかのように、戦場である荒野に文字化けのような難読漢字が散らばって、辺りを埋め尽くす。絵具を10色ほどでたらめに混ぜてみたかのような毒色の結界が、ウルの観客と戦場を隔絶する。
ペンダント持ちの魔物は皆手下。
荒野の奥、結界の最深部に、スピーカーの頭にワイヤーの手足を持つ怪物が顕現していた。
雑魚魔物数万に、まず、ペンダント持ちの魔物のボスが襲い掛かり、あっという間に雑魚たちは消滅する。あれよあれよという間に、結界の中にいるのは「受信ペンダントのウワサ」にとりつかれたボス級の魔物数百と清水、そしてハジメたち5人とほむらたち4人と十七夜だけとなった。
気が滅入るような結界の中で、魔物たちが一斉に人間たちに襲い掛かる。
ハジメが、宝物庫の指輪から、見るからに物騒な6砲身の黒光りする火砲を持ち出した。
20ミリ多銃身機銃Mk61バルカン。ほむらがどこからコレをパクってきたのか、ハジメですら怖くて聞けないが、しかしそのおかげで錬成によるコピー品が3つもある。
ガーーーーーーーーーーーーーーー!
炎がその銃身から立ち上ったかと思うと、あらゆる魔物が肉片へと引き裂かれた。オリジナルからして金属製のミサイルを引きちぎり、魔法的な改造で毎秒20発の炸裂弾を吐き出すようになっている機関砲の火線の前では、魔物などただのタンパク質。
脅威に感じたのか、それとも激怒したのか、フラワースピーカーのウワサが吠える。
ピー、ガガッ、ザーッ!
たまげたことにそのうなり声は爆風となって直接圧力を持ち襲い掛かる。バルカン砲弾ですら吹き飛ばされた。
ピザー!ザザー!ピッガァー!
香織とマミが、吹き飛ばされないように光の鎖と魔法のリボンで仲間たちを地面に縫い留める。
「うるせえよ!ユエ、あそこに俺を飛ばせ!」
「ん!」
重力魔法の力でむりやり宙を飛ばされてウワサの下にたどり着いたハジメが、手で触れて錬成を行使する。スピーカーがふさがれたウワサはガガガッと震えて不平を訴えながら、結界とともに姿を消した。
―*―
ウルの町外れの小屋で、連行されてきた清水を、ハジメたちと愛子たちとほむらたちが取り囲んでいた。
十七夜が、縛られた清水に、ムチを触れさせる。
「どうですか、和泉さん。
清水君が何を考えてこのようなことをしたのか、わかりますか?」
「いや、これは本人の口から話してもらう方がいいだろう。
少なくとも自分のような大東の人間には言うことがない。東の人間が無能呼ばわりされていることは、彼に同情する理由にはならん。」
「そ、そうだ!
どいつもこいつも、俺のほうがうまくできるっつうのに、勇者勇者ってうるさいんだよ。
…気付きもしないで、モブ扱いしやがって…ホント、馬鹿ばっかりだ…
だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが…」
「価値を、示す?どうやってさ!」
「作農師を害すれば魔人族に貸しを作れる。それ以外に何だと言うの美樹さやか?少しは自分で考えなさい。じゃないと早死にするわよ。」
またも場外でほむらとさやかが揉めているが、全員華麗に無視(さやかが考えなしに行動して早死にしているのはほむらが今までのループで体験したまぎれもない事実であるが、皆、知る由もない)。
愛子がなんとか清水を説得しようとするが、聞く耳もないようである。
一方、召喚組のクラス事情に興味のない魔法少女たちは、今のうちにとテレパシーで情報共有していた。
ー「それで和泉さん、ウワサの出どころは?」ー
ー「それなのだが暁美君、彼は魔人族の使いを名乗る『マギウス』という魔法少女2人組にウワサを内包したベルとペンダントをもらっていたらしい。
八雲は話すわけにいかないだろう。」ー
ー「そうねぇ~」ー
ー「マギウスの内情などについてはわからなかった。あまりに彼の心を覗くのが健康に悪かったのでな。」ー
ー「それでも、大迷宮にも1つあるかないかのウワサが2つってことは、それなりに彼の才能が評価されていたってことかしら?」ー
ー「なんとも言えんだろう。直接聞いてみないことにはな。」ー
ー「でも、その前にやるべきことがあるみたいねぇ~」ー
「動くなぁ!ぶっさすぞぉ!」
清水幸利は、ひきつった表情で、全長10センチほどにして中間に緑のキューブのようなモノを抱え込む太い針を、羽交い絞めにした愛子に突き付けていた。
「いいかぁ、この針はマギウスかくれた毒針だっ!刺せば数分も持たずに苦しんでアートになって死ぬらしいぞ!わかったら、全員、武器を捨てて変身も解除して手を上げろ!」
「ええ…なんでこうなるの?」
「し、清水君…」
しかし、誰一人として武装解除に応じない…どころか、十七夜に至っては針をにらみつけている。
「痴れ者がっ!」
「なんだと…どいつもこいつも、本当なら俺が、俺が!」
「そう言うことは自分が持っているモノがなんであるかわかるようになってから「俺が勇者になるはずだったのに!」馬鹿っ!」
瞬間。
清水は、毒を注入しようと緑のキューブをつぶした。
いかにも猛毒が入っていそうなそのキューブはー
ーなんと一瞬で広がり、清水を取り込んで再び収縮、コロンと転がった。
―*―
「い、いったい何が…と、とにかく、生徒を助けないと!」
愛子が、キューブに触れるーと、愛子までも、吸い込まれるようにして、手のひら大のキューブに消える。
「…おい、魔法少女ども、ありゃなんだ?『宝物庫』の親戚か?」
「守秘義務ギリギリなんだけどぉ~「追加料金」わかったわ。
アレはマギウスが1人、アリナ・グレイの固有魔法で作る結界よ。あの中でアリナは魔女を飼ってる。
早くしないと、2人は魔女の餌よ!」
「暁美さん、もしかしてそれって、マギウスは最初からいざという時は彼を使い捨てにするつもりで…」
「でしょうね。どうして魔女を飼っていたか…優木紗々とか知ってるから今さらね…」「ほむらちゃん、誰それ?」
「ちっ、面倒なことしやがって…」
「ハジメくん、いこ、助けに。」
「あなたが止めても、私と香織は行くわよ。」「ちょっと、あたしを入れなさいよ。」
「ん…ハジメ?」「ハジメさん…」
「後味悪いしな。魔女とやらと戦ったことはないが…
俺たちの力が合わされば、世界最強だったな!」
―*―
ギー↑ガー↓ゴー→グー←
形容できない、壊れたマシンサウンドを立てて、木の根のような触手を伸ばす振り子時計が本来自分が収まっているはずのガラス板を振り回している。
「な、なんだよコイツ!『弱魂』『侵魄』!
なんで、なんで俺の魔法が効かないんだよっ!俺は、俺は特別で、勇者で…なのになんで!」
ー振子の魔女
その性質は右往左往
この魔女の振子の音を聴いた者は同じ場所をぐるぐると回るばかりで先へ進めなくなってしまう。ー
清水もまた、魔女と同じく、過去の自分の存在を拒否して誰かに認められている今に拘泥し、身動きが取れなくなっている。
その周りへぞろぞろと、さび付いた枠にいくつものネジと1つのゼンマイを持つ手下が、蛾のような羽根をヒラヒラ、時計の針を使ってやじろべえのように身体を揺らし集まってきた。
ー振子の魔女の手下
その役割はリストア
魔女の壊れた部分を自らの体で修繕する奉仕精神の塊。
ただ、魔女のためというよりも純粋に修繕行為が趣味であるらしく、
魔女以外の壊れた物にも目がないらしい。ー
だから、完全に心が壊れた清水も、針を頭に刺しネジを入れ替え歯車を突っ込めば治るかと、手下たちは飛び上がり。
「清水君っ!」
愛子先生が、清水を突き飛ばした。
「何すんだっ…って、先生!?」
倒れたまま、背中を何十ヶ所も貫かれ、愛子はぐったりとして動かない。
「なんで、なんでだよ!俺が何したかわかってないわけじゃ…」
「それでも、私はあなたの、先生、ですから…」
「ちくしょうちくしょうちくしょうっ!」
その時清水は初めて、「自分が何をすべきでなかったか」を悟り、そして気づけば、叫んでいた。
「誰か、誰か!」
ー誰が勇者だって?俺は確かに守られたが、何もできてねぇ!
「誰でもいいから、誰でもいいから、先生を助けてくれっ!」
清水は、拳を、布かワカメのごとくフワフワつかみどころのない結界の床にたたきつけた。
「それが、あなたの願いなのね?
聞き届けましょう。
その代わり、『本当の勇者』として世界を救うため、私に力を貸しなさい。」
「…お前、は…?」
顔を上げれば、神々しく輝くガラス玉の向こうに、少女の顔。
「救世の魔法少女、美国織莉子よ。」
しかしてその少女の目はまるでー
ー虫を見るようだった。
―*―
「お前、なんだ?」
脇を駆け抜けた気配に、ハジメが義手を振るい、殴りつける。
相手は、ツメのような手甲で受け止めた。
「私かい?
私は呉キリカ。織莉子の忠実なしもべさ!」
そして、時の流れが低下する。
繰り出される、ツメによる斬撃のラッシュ。ハジメと雫とシアの近接要員3人がかりでもしのぎきるどころか押されている。
「悪いが織莉子の計画のためにこの先には通せないんだ。」
「なら無理にでも通させてもらう!」
「自分も加勢しよう。」
動きにくい身体を無理に動かし、十七夜が加わる。さらに香織やユエや優花やティオも魔法攻撃を繰り出す。離れていたほむらたちはまるで戦力にならないー指呼の間にいるハジメが放った銃弾ですら、キリカにとっては蚊ほどの飛行速度しかないのだから、攻撃が届かないのだ。
キリカの後ろを、眠る愛子をお姫様抱っこし、清水幸利を従え悠然、白いドレスの魔法少女が通過していく。
その時、ハジメの義手が、キリカのツメをつかみ取った。
拘束から抜け出そうとキリカが速度低下を義手に集中させたその隙に、ハジメが義手を外してドンナーをドレスの少女―織莉子に向ける。
「ウワァァァァァ!」
キリカが、吠えながら殴りかかった。
「愛は無限に有限だ!
きさまぁ、織莉子の邪魔をするつもりなら、地獄に落としてやるぅ!」
ツメで、ハジメを突き刺そうとがむしゃらに両腕を振るう。しかし速度低下から抜け出したハジメはゆらりゆらりと避けていく。
「そこまでにしておきなさい、キリカ。
それとね?」
織莉子はスッスッと、「まるで最初から攻撃の軌道が見えているかのように」数々の攻撃を避けながら歩いてきて、雫の目の前に立った。
「私ね、八重樫って苗字が」
寝息を立てる愛子をその場に降ろしながら。
「とっても嫌いなのよ。
またいつか、世界の終局の日に会いましょう。」
呆気にとられる一同を虫を見るかのように無機質な目で眺め、織莉子はキリカと清水幸利を従えて去っていく。
まもなくして、振り子の魔女の結界は崩壊した。
Q:和泉十七夜ってどんな人ですか?
A:電話しながら片手間で魔法少女数人を倒してしまうチートです。このころの原作ハジメくんになら勝てるかもレベルのヤバい人ですが、「東西2つに割れる神浜をまとめるためにはいったんまっさらにしなければならない」と思ってるヤバい人でもあります。いつもはメイドやってるなぎたん。