ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ   作:十二の子

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 ありふレコード 前回の3つの出来事!

 1つ、王都大乱の末、ホーリーマミがハジメを倒してしまう寸前に、みふゆの良心によって王都は守られた!

 2つ、天乃河光輝は反省した!

 そして3つ、ウワサの撃破で魂魄魔法を手に入れていたハジメたち、ほむらたち、いろはたちは、マギウスと対峙し、次なる迷宮、次なるウワサへ動き出す!


19 帝国行き滅亡前夜

―*―

 

 ヘルシャー帝国。それは、実力・武力至上主義を掲げる帝国。

 

 故に力なき者の怨嗟に満ち溢れ。

 

 それらがうずまく混沌は、ウワサが魔力を得るのに最適過ぎた。

 

 「鉄火塚のうわさ」「覗き見城下町のうわさ」「クビナシ珍走団のうわさ」「パズルタイルロックのうわさ」「おしゃれモンスターのうわさ」etcetc…

 

 先に神浜の東に入ったいろは、やちよ、十七夜は、そこから「ミラーズの代わりにミラーズの分身であるミラーズコインを使ってトータスと行き来できる」ことを活用し、ヘルシャー帝国帝都と行き来しながら自力でつぶせるウワサから倒していった。

 

 途中、フェリシアとさなが、羽根から表替えってチームみかづき荘に帰ってきてくれたりもした。しかし、鶴乃はダメだったらしい…マギウスのあまりのやり方に見かねたみふゆが、2人だけでも逃がしたと言うことだった。

 

 そして、そんな中で、大型のウワサの話が帝都に広まっているのを察知していた。

 

 名前は「キレートビッグフェリスのウワサ」。永遠に苦しみから解放されるウワサであるらしい。

 

 夜8時開園だというその「ウワサ遊園地」について調べているちょうどその朝。

 

 待望の、南雲ハジメら一行が帝都に到着した。

 

ー*―

 

 ハジメたちはハジメたちで。

 

 帝都のウワサを消すツアーの話をしたところ、ハウリアは大喜びで乗ってきた。

 

 「ついでに帝都にいる亜人の仲間たちを助け出したい」とすら、カム・ハウリアは言ったのだ。

 

 ハジメは「奴隷解放はそっちで好きにやってくれ。そこまでやってられん」と言った。万年桜のウワサも|守るのは任されたけど、攻めるのは無理|と難色を示し大樹に引きこもった。

 

 しかし。

 

 帝都にたどり着いて、そうは言っていられなくなってきたのである。

 

―*―

 

 ーアラもう聞いた?誰から聞いた?

 

 キレートビッグフェリスのそのウワサ

 

 グルグルまわる大きなゴンドラ、その中身は一体なーに?

 

 モチロン中身は、疲れや痛みに苦しみ、こだわりみたいな、人間のゴミででイッパイイッパイ

 

 ヒトタビ乗ると降りれなくて後悔するから近付こうとするのも絶対禁止!

 

 この観覧車でみんな弱肉強食から解放されるって帝都の亜人奴隷と民の間ではもっぱらのウワサ

 

 ゼイ、ウォント、ハッピー!!ー

 

―*―

 

 「これが、現時点で『ウワサさん』が話している内容です。」

 

 「相変わらずわけわからんな…

 

 だけどわかってるのは、このウワサの標的が亜人奴隷ってことか。」

 

 「む…自分はこのウワサの意味は、『苦しみから死によって亜人奴隷を解放する代わりに、ウワサは成長を得る』ということに思えるが、トータスのみなや八雲はどう思う?」

 

 「俺も、大筋は十七夜の言っている通りだろうと思う。

 

 しかし、ってことは…」

 

 「ただただウワサを倒すのもまた、亜人を苦しめる道ねぇ~。」

 

 「ハジメさん、その…」

 

 「シア、わかってる。

 

 チームみかづき荘のみんなも、俺に協力してくれないか?

 

 今晩、ウワサが出現する瞬間に、亜人奴隷を解放する。」

 

 「もちろん。そう言ってくれるのを待っていました。」

 

 「俺たちはそういうことでちょっと帝宮を見てくるが」

 

 「その間に自分は、環くんと七海と二葉くんと狂犬とともに、このハウリア族と手を組み小さなウワサをつぶして回ればいいのだろう?

 

 任されよう。」

 

 「それなんだが、ちょっとばかし人手を貸してほしい。」

 

―*―

 

 帝城謁見室。

 

 リリアーナやハジメたちとの謁見を控え、先にいろいろとチェックしておこうと考えたガハルド皇帝は、リリアーナたちが入ってくる予定の向こう側の扉にもたれかかる学士風の少女の姿を見て目を細めた。

 

 周りでは、ハジメたちの対策に配置したはずの刺客が倒れ伏している。

 

 「バケモノが来るって聞いてはいたが、こりゃ1人増えたな。」

 

 クックと笑いつつ、皇帝は剣を抜いた。

 

 「姫様たちが御越しになるまで時間もないし、そもそも僕に戦う元気がないんだ。よしてくれるかな?ガハルド陛下。」

 

 そう言いながらも少女は本を手に取り、開こうとしている。その周りでは魔力がツバメのカタチを成して飛び回っていた。

 

 「とりあえず、このツバメ、さっきから俺の魔力を吸ってねえか?」

 

 「その通りだよ。イヴの使い魔は魔女や魔物をさらい、イヴへの献呈品にしているからね。普通の人間では意識を保てなくなってしまう。

 

 むふっ、陛下は、どれくらいの時間、イブに耐えられるかな?」

 

 「おいおい戦えるじゃねえかよ…おっと立てない…

 

 お前さん、何者だ?」

 

 「僕はマギウス、柊ねむ。」

 

 「マギウス?ああ、報告にあった、魔人族組織か。」

 

 「その理解でも別にいいんだけどね。

 

 ここにはお礼と警告を添えてお願いに来たんだ。

 

 まず、今までの亜人族への数々の非礼に、そしてそれを許すこの国の旧弊に、僕は感謝の念でいっぱいなんだ。おかげで想像をはるかに上回るだけの穢れをエンブリオ・イヴに集めることができたからね。もし僕たちがエヒトに勝てるとするならば、それは正しく、イヴに多くの穢れをくれた帝国の歴史のおかげだよ。

 

 だから、それと引き換えにキミたちが自滅への道を歩むのは見るに堪えないんだ。

 

 特別に、僕たちマギウスに与するのならば…と言っても、聞かないだろうけどね。去就について考えておいた方がいい、という話だよ。」

 

 「何が言いたい。」

 

 「そうだね…環いろはと七海やちよ、和泉十七夜に深月フェリシアと二葉さな。以上を排除してくれると僕はとっても助かるんだ。次から次へと命を消されるのは困るからね。」

 

 「ふん、俺たちのことを道具としてしか見てやがらねえやつの言うことなんざ聞くかよ。」

 

 「そう応えると思ったよ。あまり期待はしていなかったからね。

 

 では、僕はそろそろ、無垢なる亜人族に希望を与えて解放するための最期の仕込みをしなければいけないんだ。お邪魔したね。

 

 『界穿』」

 

―*―

 

 「…なんてことを言うやつが尋ねてきたんだが、どう思う?なあ、環いろは。」

 

 「ねむちゃんが…

 

 …灯花ちゃんも、何を考えてるんだろう…

 

 …それでも、私たちのすることは変わりません。陛下こそ、由比鶴乃、環うい…ご存じありませんか?」

 

 「俺を倒したら教えてやる、と言ったら?」

 

 「へんし「冗談冗談。そっちのハーレム野郎に比べてどうも気迫にかける気がしてからかってみただけだ。残念ながら俺も知らん。」すみませんでした。」

 

 「おい、ハーレム野郎って…」

 

 「そう言えば、お前らは、南雲ハジメとは関係ないんだよな?

 

 どうだ、そこの青い…「七海やちよよ。」そうだやちよ、俺の女にならないか?」

 

 「断るわ。フェリシア、こういう人に『お金あげるから』とか言われても、ほいほいOKしちゃダメよ。」「やちよ、オレそんなばかじゃないぞ!」「む、違うのか?」

 

 「…さんざんな言われようだな…まあいいさ。

 

 そうだ、今夜のリリアーナ姫とウチの皇子の婚約パーティー、お前らも出るのか?」

 

 「タダよね?」

 

 「…貧乏性だな。タダだ。」

 

 「出ましょういろは。」「うむ、出るしかないな環君。」「うまいもの食えるんだろ!いこーぜいろは!」

 

 「…はい。」

 

 「その、なんだ、いろは。」

 

 「なんですか?南雲さん。」

 

 「リーダー、頑張れよ?」

 

―*―

 

 はわわ、私みたいな人間が、王族の警護だなんていいのでしょうか…

 

 だ、誰か入ってきます…

 

 「ほぉ、今夜のドレスか…まぁまぁだな。」

 

 この方が、皇子様、でしょうか…思ったよりも粗暴というか馬鹿っぽいって言うか…す、すみません、さしでがましいですよね…

 

 「…バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ。」

 

 でも、いろはさんからお守りするように言われたこの王女様に似合う方とは思えません…

 

 「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ?何、口答えしてんだ?」

 

 ら、乱暴されて…どうなってしまうのでしょうか…

 

 服も、破り捨てられてしまって…

 

 こういう時、いろはさんなら…

 

 …もう、このままだと後戻りできないところまで王女様が…

 

 「ダメです!」

 

 「「えっ」」

 

 ひっ…

 

 「す、すみません、えと、あの…私、魔法少女以外には見えないんです…」

 

 そ、そうだ、王女様を…

 

 「え、えっと、私と手をつないでいれば見えませんから…」「は、はい…」

 

 「おい!どこに隠れやがったぁ!おい!」

 

 このままではらちがあきません…どうしたら…

 

 私、もう、誰にも頼れなくて、でも、何とかしないと…

 

 お願い…

 

 「出 て き て ・ ・ ・」

 

 「何だこれは!ひっ、く、来るなぁぁ!!!」

 

 っ、うわぁぁぁーーーっ!

 

 「はあ、はあ…」

 

 「あの…二葉さん、ドッペルってこんなにグロいんですか…」

 

 「えへへ、やり過ぎちゃいました…」

 

 えっと、当分起きて来そうにないけど…ケガしてないみたいですし外に放り出しておけばいいですよね?

 

―*―

 

 帝城でのパーティーが始まった時、出席者の誰もが驚いていた。

 

 婚約したはずの2人の様子が、あまりにも場に不釣り合いだったのである。

 

 皇子バイアスと言えば、表情が真っ暗。初めて戦場に行った人に心を完全に折られて立ち直れなくなる人がいて帝国では大いに軽蔑されるが、それ(PTSD)に似ている。

 

 王女リリアーナも、そんなバイアスの様子に気を払うそぶりすらなく、真っ黒な喪服同然のドレスに身を包んでいる。

 

 あまりに場違い過ぎて、場は白けてしまった。

 

 「いろはさん、これで良かったんでしょうか…」

 

 「うん。私もこの国嫌いかも。

 

 踊ろ、さなちゃん!」

 

 「見えなくなっちゃいますけど、それでよければ…はい!」

 

 「まどか、私も、いいかしら。」

 

 「うん、ほむらちゃん。」

 

 「七海、似合っているだろうか。バイト先から持ってきたのだが。」

 

 「十七夜…ダメね、はあ…まあいいわ。踊りましょう。踊らされましょう。」

 

 おかげで、場の雰囲気は魔法少女たちに乗っ取られてしまって、ハジメは「百合百合しいな…」などとぼやいている。

 

 しかし、それはすべて、策略のうち。ウワサの遊園地の開園時間が夜8時という情報があるからには、タイミングを合わせるために皇帝のあいさつの時間を遅らせなければならない。

 

 やがて、ハジメたちも踊り出した。

 

 (お前ら、覚悟はいいな?)

 

 (イエス、ボス!)

 

 ー「やちよさん、フェリシアちゃん、さなちゃん、十七夜さん、ほむらさん、まどかちゃん、さやかちゃん、準備は?」ー

 

 ー「ええ!」「おう!」「はい。」「無論だ」「ええ」「うん」「任せてよ」ー

 

 皇帝はいよいよ、いったん仕切るかと手を叩いた。

 

 「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

 みたまが掲げた杯の水面が、微風に揺らぐ。

 

 「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない! 我等、人間族に栄光あれ!」

 

 そして、その栄光が。

 

 「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」

 

 多くの亜人族に引き続き苦難を強いるものであるのならば。

 

 (8時まで、4,3,2,1)

 

 (((((((ゼロ。ご武運を!!)))))))

 

 ー「8時です、来ます!」ー

 

 そこに必ず、救いは現れる。

 

―*―

 

 ーアラもう聞いた?誰から聞いた?

 

 キレートビッグフェリスのそのウワサ

 

 グルグルまわる大きなゴンドラ、その中身は一体なーに?

 

 モチロン中身は、疲れや痛みに苦しみ、こだわりみたいな、人間のゴミででイッパイイッパイ

 

 ヒトタビ乗ると降りれなくて後悔するから近付こうとするのも絶対禁止!

 

 この観覧車でみんな弱肉強食から解放されるって帝都の亜人奴隷と民の間ではもっぱらのウワサ

 

 ゼイ、ウォント、ハッピー!!ー

 

―*―

 

 すべての光が消滅し、帝都が真っ暗になる。

 

 亜人を鞭打つ家の壁に、亜人を縛り付ける牢屋の天井に、亜人をもてあそぶ娼館の床に、難読漢字がつらつらと出現する。

 

 ピョンピョン無数に帝都を跳ねまわり、人間族を蹴飛ばし踏みつけ、生気のない亜人族たちを背中に乗せて次々と運び出していくメリーゴーランドの白馬。

 

 帝城には、覆いかぶさるようにして巨大な観覧車。9つのゴンドラへ、帝国中からスミのように黒い「人間のゴミ」が吸い込まれていく。

 

 「なんだ!?なにが起こった!?」

 

 「いやぁ!なに、なんなのぉ!?」

 

 物が割れる音が響くブラックアウト下の帝城内部では、ハウリアたちが暴れまわり、敵国貴族や将校の腱を斬って抵抗力を奪い、ハジメはリリアーナを壁際に連れ去り、魔法少女たちは窓を割って外にいる白馬「キレートマスコットのウワサ」へ攻撃を開始する。

 

 あっという間に、ハウリアたちは場を制圧していく。魔法を使おうとした者、夜目が効いて反撃を始めた者が帝国側に出たので、ついには生首が飛び始めた。その中でも、弓矢を駆使するカムの立ち回りは驚くべきものがあり、皇帝護衛が次々地に伏す。

 

 「ほーら、だから、ノンビリしていれば良かったのにー。」

 

 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、その声はやけに大きく響いた。

 

 「「「「鶴乃(ちゃん/さん)!?」」」」

 

 その扇子は緑の光を放ち。

 

 「もー、みんなも、疲れたよね?

 

 いっしょにノンビリしよーよ。」

 

 緑色の由比鶴乃は、エメラルドグリーンの波動を放射した。

 

 片手を失いながらも剣を振ろうとしていた帝国軍人が、ばたっと倒れる。

 

 今度は、波動がカムをかすめた。

 

 「むっ、力が奪われ…だが!」

 

 「ほっ、やる気あり過ぎだよー。

 

 そんなに頑張って帝国から解放されても、その皇帝さんはあきらめないよー?」

 

 「ならば何度でも我らは戦う!」

 

 「頑張り過ぎだよー。それより、ノンビリして、遊園地で永遠に解放されよーよ。」

 

 「我らは、我らの力で生きていく!どんなに苦労しようと!」

 

 「つ、鶴乃ちゃん何してるの!?」

 

 「私、ずっと頑張ってきたんだー。だから、頑張ってる人を見てると、ノンビリさせたくなっちゃうのー。

 

 ほら、永遠に、亜人族を苦しみから解放しよーよ。」

 

 「ダメ鶴乃ちゃん!死なせることは救いにならないよ!」

 

 いろはがなんとか鶴乃を羽交い絞めにし、そしてまた、カムはガハルドの元へ。

 

 「なぜ、誰も戦おうとしない!おい、バイアス!立て!」

 

 「無駄だよー。みんな、強くなることに疲れてるんだからー。みんなゆっくり休めるんだよー。」

 

 帝国の皆は、すっかり動くことができない。半数は物理的に動けず、後半数はその場でだらけ切っている。

 

 「ほら、皇帝もノンビリしよーよ。誰よりも強くなるの、疲れたよねー?」

 

 「くそっ、ならばなぜ、兎人族は立っている!?」

 

 「それだけ我らが強いと言うことですな!

 

 我らは、自分たちの手で、自由をつかみ取る!もう誰にも奪わせない!

 

 それだけのことを、我らハウリアは絶対に疑わない!」

 

 意思なき強さは、意思を伴う強さに敗北していた。

 

 そして、みたまが掲げたままにしていた杯が割れ、鏡になっていた水面から人影が飛び出す。

 

 「まったく、南雲ハジメ、酷い邪魔をしてくれたね。」

 

 すたっと立つのは、柊ねむ。

 

 「ね、む、ちゃん…」

 

 「挨拶が遅れてしまったね環いろは。

 

 警告したとおりだよガハルド陛下。

 

 強さを求めることに疲れ切った帝国臣民と、強さの下で虐げられる弱者である亜人族奴隷。帝国の滅亡と亜人族永遠の解放と引き換えにイヴを孵化させるための穢れを得る計画だったけど、まさか、亜人族が僕たちの助けなく解放を求めて行動するとは、まさしく驚天動地だね。

 

 どのみち帝国は滅亡するからもう興味はないし、亜人族は解放されてしまうから穢れもこれ以上集まらない。

 

 退こうか、『ウワサの鶴乃』。」

 

 「うん、またノンビーリするね。」

 

 「待って!待ってねむちゃん!

 

 私のこと、覚えてないの!?」

 

 「?僕はキミと初対面だよ。」

 

 「そんな…ういのことも!?」

 

 「…うい?誰かなそれは。

 

 『界穿』」

 

 「そんな…」

 

 ウワサの鶴乃がゲートの向こうへ去るのと同時に、帝都全域を覆うウワサ結界も消滅した。キレートマスコットにより連れ出された亜人奴隷たちが路上に放り出される。

 

 カムが、窓のない窓際へガハルドを押さえつける。ガハルドはどうやってもカムを振りほどくことができない。

 

 「さて、さっきの魔法少女の言葉には一つ真実かどうかお前によって決まるものがある。」

 

 「な、なんだ…」

 

 「今すぐ、すべての亜人族を解放すると言え。

 

 さもなくば、『帝国は滅亡する』、ウワサに頼らずとも、な。」

 

 「なんだ、と…」

 

 「判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この帝国で生き残っている者たちの命はお前の言動一つにかかっている。」

 

 「まさか、亜人族たちを苦しめてきたせいで、強さばかり妄信してきたせいで、ウワサに滅ぼされかけたのをもう忘れたのかしらぁ~?」

 

 「…くそ、『強さ』が、こんなにもろいだと…」

 

 ガハルドは崩れ落ちた。

 

 実力至上主義の帝国は、この日、あらゆる膿をマギウスに喰われてから傷口の大き過ぎたことに気づき、トータスから滅亡したのである。

 

 「我々ヘルシャーは、弱い者たちを、守ろう…

 

 …亜人族はすべて、解放する。」

 

―*―

 

 翌日、帝国全土に、「亜人族を解放すること。亜人族のように弱い者をいつくしむこと」という勅令が発表された。

 

 勅令の実施には困難を極めたー一般人にはキレーションランドの結界に耐えることはできないので、帝都中に無気力が蔓延していたからである。

 

 路上に放置されていた亜人族たちは、夜の間にハウリアによって迅速に回収され、フェアベルゲンへ空輸される手はずになっていたーが、そうもいかず、ひとまず帝都にとどまることになった。もちろん、「もう強い弱いにこだわらなくていいんだ」と人生の支えすら失った帝都民に、元奴隷に何かする気力など、残っていやしなかった。

 

 あいつづく恐怖に廃人となってしまったバイアス皇子はじめ、この国がどうなっていくのか…十七夜は「きっと心のつかえをウワサにとられたのだろう。神浜もまた、こうしてすべてを失ってから1から立て直せばうまく行くのかもしれないな。」とコメントしたと言う。

 

 さて、なぜ亜人たちが故郷に戻れなくなったのか?

 

 それは、大樹迷宮を守る万年桜のウワサから|大樹がキレーションランドに占領された。迫害に疲れた亜人族が引き寄せられてるから、霧が晴れたら一番乗りして倒さないと犠牲者が出る。|と連絡があったからである。




 皮肉で殴るねむ。

 所帯くさいやちよと、根っからの貧乏の十七夜。

 …ところで原作ではハウリアの帝都襲撃は「帝国のフェアベルゲン襲撃→反撃侵攻したカムらハウリア捕まる→ハジメ救出→カム決意して帝都襲撃」の雪崩式ですが、こちらでは「亜人が辛いままの状況を放っておくとウワサを利する→よしカムも亜人解放したがってるしマギウスに付け込まれる前にこっちでやろう」の仕掛けです。こうなった理由は、原作世界では「魔人族が人間族に勝つために王都と帝都に襲撃、帝都は弱ったので奴隷集め」だったけれど、こちらでは魔人族の上にマギウスがいて、マギウスは別に人間族を滅ぼすつもりはない、むしろウワサが穢れを収集できる帝都には残っていてほしかったからです。
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