ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ   作:十二の子

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 ありふレコード 前回の3つの出来事!

 1つ、弱肉強食社会のために穢れ渦巻く帝都に、ウワサ遊園地キレーションランドが出現した!

 2つ、ハウリアが帝宮を占領、亜人奴隷解放を迫った!

 そして3つ、亜人からネガティブな感情を吸い取れないと悟り、キレーションランドは大樹迷宮へ逼塞した!


20 「第2回フェアベルゲン杯。スポンサーはウワサの鶴乃がノンビリお送りするよー」

―*―

 

 「まるでゾンビだな…」

 

 大樹を包む濃い霧。その周りを徘徊する亜人たちを見て、ハジメは呟いた。

 

 「それだけ、迫害の被害を受けて、死んででも解放されたい者がいるということです…」

 

 フェアベルゲンの長アルフレリック・ハイピストが沈鬱に呟く。

 

 そして、霧が晴れた。

 

 のそのそ大樹を目指す亜人たちを尻目にー

 

 ーハジメたちは、シアを先頭に駆けだした。

 

―*―

 

 大樹の前にいたのは、里見灯花、柊ねむ、アリナ・グレイのマギウス3人、そして梓みふゆ、天音姉妹を筆頭に十数人の黒羽根・白羽根の魔法少女。

 

 「これ以上、僕と灯花が作ったウワサを消して、マギウスの邪魔をしないと約束してもらえるかな?真の勇者君。」

 

 「そうしたら、大迷宮に入れてあげなくもないんだけどにゃー。」

 

 「選択の権利があるだなんて思わないでヨネ。」

 

 ハジメは、威圧込みで睨み返した。

 

 「アホ言え。

 

 俺たちは、俺たちの前に立ちふさがるなら皆敵だって決めてんだ。

 

 そもそも、とっくの昔にマギウスは俺たちの敵だ。今さら俺たちの前に立ちふさがって許されると思ってないだろうな?」

 

 「うーん、奈落に落ちるウワサのことかにゃー?」

 

 「あれはすぐに飛び降りない勇者が悪いよ。まさか僕もあそこまで話にならないとは思わなかった。」

 

 「とにかく、解放を邪魔するワケ?」

 

 「当たり前だ次から次へと要らん手間かけさせやがって。」

 

 「これも君たちのためなんだけどにゃー。」

 

 「まあ、僕らにだって考えがあるさ。この迷宮は僕たちにとってもいい環境だ。」

 

 「ダメ、ねむちゃん!」

 

 何かを察したいろはが叫ぶが、時すでに遅し。

 

 『アラもう聞いた?誰から聞いた?フラワースピーカーのそのウワサ。受信と発信が一体になったチョーコーセーノーなスゴイやつ!してほしいコトも襲ってほしいアイツの名前もなんでも喋ってみてごらん!みんなの本能にビビンッと響く、素敵なフィールに変換してくれて、意のままに操れるようにしてくれるって、魔物たちの間ではもっぱらのウワサ。イノママヨー!』

 

 むふっ。」

 

 フラワースピーカーのウワサが出現し、鳴き声(?)とともに、無数の魔物が木々の隙間から現れた。

 

 「南雲さんたちとほむらさんたちは、大迷宮へ行ってください!

 

 私たちみかづき荘は、ここでマギウスを食い止めます!」

 

 「おう。」「気を付けて。」

 

 ほむらが時間を停止し。

 

 ハジメが、大樹根元の石板に大迷宮攻略の証を差し込んでいく。香織が再生魔法を注ぎ込むと、大樹は瑞々しさを取り戻して復活し、幹に洞が開く。

 

 洞にハジメ、香織、ユエ、雫、優花、シア、ティオ、みたま、ほむら、まどか、さやかが入ると洞は閉じ、時間停止も解除された。

 

 魔物が、一斉に、いろは、やちよ、フェリシア、十七夜に襲い掛かった。さなが相手に見えないことを活かして必死に防御を助けるが、ついに、ヒグマの魔物の牙がいろはにかみつこうと迫る。

 

  ーアラもう聞いた?誰から聞いた?

 

 万年桜のそのウワサ

 

 4人の女の子がいつか元気になる力を得て再開した時にみんなで走り回れるようにってずっと健気に守ってる!

 

 だけどもだけどもその4人が傷つけられちゃうとアラタイヘン!

 

 激怒のあまりに何もかも傷つけてでもうわさの内容を守ろうとしちゃう!

 

 女の子たちを攻撃することは誰にも許されないって、神浜市とトータスではもっぱらのウワサ!

 

 ゼッタイフカシンー!ー

 

 |いろはは、やらせない。|

 

 万年桜のウワサが、魔物を袈裟懸けに斬り飛ばす。

 

 「どうして!万年桜!?」

 

 灯花が叫んだ。

 

 「万年桜のウワサ…」

 

 一方のいろはも、呆然と呟く。

 

 「いろは、どうかしたの?」

 

 「思い出したんです。

 

 …『万年桜の下で4人の女の子が揃った時に、満開の花を咲かせる…』私が作ったウワサです!」

 

 「何を言うんだい環いろは。

 

 ウワサはすべて、僕が創作したウワサだよ。」

 

 「違うよねむちゃん。

 

 私、思い出した。

 

 ウワサの元になってるうわさは、最初、異世界なんか関係なくって…

 

 いつか、うい、灯花ちゃん、ねむちゃんが元気になって、私と4人で神浜を回れたらって、4人でその時のために作ったんだよ!」

 

 「そんな!そんなはず…

 

 だって、ウワサは全部わたくしとねむが…!」

 

 |いろはの言う通り。

 

 私は、いろはたちに作られた。

 

 私はウワサとして内容を守らなくてはいけない。灯花も、ねむも、ういも。そして、いろはも。いつか4人が集うために。

 

 だから、いろはを傷つけさせることはできない。|

 

 「でも、だって…」

 

 「教えて、万年桜のウワサ。

 

 ういは、どこにいるの?」

 

 |どこにいるのかはわからない。だけど、私の花…この大樹の枝の花が咲いた時、4人はそろってる。|

 

 「…驚いたよ灯花。僕が、ウワサを書き換えられないだなんて。

 

 万年桜のウワサのルーツは、確かに僕が思うのとは違うようだね。」

 

 「でも…

 

 …わかんにゃい!ぜーんぜんわかんにゃい!」

 

 「灯花さんねむさんアリナさん、ここは退きましょう。まだウワサはいくつか残っていますし、それでエヒトを倒すのに充分なはずです。」

 

 「みふゆの言うことにも一理あるワケ。はっきりしてほしいんだヨネ。」

 

 「うう…『界穿』」

 

 マギウスたちが去っていく。

 

 「今よいろは。

 

 まず、この先の迷宮の中、キレーションランドから、鶴乃を救い出すわよ!」

 

―*―

 

 大樹大迷宮の中に広がる樹海で。

 

 みたまはため息をついた。

 

 どうみてもゴブリンにしか見えないものから、魔法少女や人間の魔力を感じる。それはつまり、なんらかのトラップによって姿を変化させていると言うこと。

 

 「本当はパーティーの絆を試させたかったのよねきっと…でも、混成3パーティーだからきずなもへったくれもないのよぉ~。

 

 …調整でどうにかなるのかしらねぇ…」

 

 実は、魂魄魔法と一番相性がいいのはみたまである。他の神代魔法はただでさえ魔法少女の魔力でのトータス魔法の燃費がすこぶる悪い上にみたまならではの「呪い」補正があるためまったく使い物にならないが、ソウルジェム=他人の魂を「調整」し続けてきたみたまにとって魂魄魔法だけは日常の延長として使えるものなのだ。

 

 みたまは、魂魄魔法を使って調整を半径数十メートルに拡張してみた。

 

 ゴブリンの姿が、ユエに戻る。

 

 「あらぁ~?」

 

 魔法を解いた瞬間、また、ゴブリンに逆戻り。そして困ったことに、魔力を放射したせいで魔物が集まっている気配がある。完全に逆効果。

 

 「姿が変えられていると戦えないみたいだし、困ったわねぇ…」

 

 ー「みたまよぉ~。

 

 ほむらちゃんたちもいろはちゃんたちも、この迷宮で姿がかわいくなくなっちゃうことがあるのは気づいているかしらぁ?」ー

 

 ー「ええ。でもまどかは姿が変わってもかわいいわ。」ー

 

 ー「フェリシアちゃんが犬にされて、『なんで牛じゃねえんだ』って怒ってます…」ー

 

 ー「ああ、そう…

 

 それで、余計なもめ事になる前に、とっととこのフロアをクリアしてくれないかしらぁ~?魔法少女同士ならテレパシーで確認できるし。」ー

 

 ー「目下の問題は南雲ハジメたちのほうが速いことね。」ー

 

 ー「せっかく魔法少女なんだからそれくらいなんとかできるんじゃないかしらぁ?」ー

 

 みたまの煽りに、魔法少女たちは乗った。

 

 そしてまた、ハジメたちも、魔法少女たちが猛然と追いすがるのを感じ、負けてなるかと本気を出した。もとより、パーティー内では姿変化トラップの影響をものともしないだけの絆がある。

 

 「すごいものだな八雲。」

 

 自分だけ置いて行かれ、戦うこともできず座り込んでいたみたまは、回収に来た十七夜とともに、前方を舞う3つの砂塵を見やって感心のため息をついた。

 

 「八雲、これほどの力があってなお、魔法少女をもとの人間に戻す魔法は創れないのか。」

 

 「魂魄魔法と調整ではどうあっても無理よ。それが、神代魔法の限界だったわ。

 

 さらに上の概念魔法ならばどうにかと思わないではないではないけれど…」

 

 「ソウルジェムの仕組みはまだ全くわかっていなかったか。それでは、難しいのかもしれんな。

 

 しかし、マギウスとやらの『魔法少女の呪縛からの解放』も、突き詰めて言えば、自分たちが魔法少女であることに端を発している。そう思えば…」

 

 「十七夜、私は、どうやってもトータスの力でソウルジェムを解き明かすことはできないと思ってるわ。」

 

 「そうか。

 

 行くぞ八雲。そろそろ追い付かなければ。」

 

 「ありがと。」

 

 先を行くハジメたち、見滝原組、みかづき荘は、後から圧倒的スピードで迫る和泉十七夜の姿を見てしばし呆然とした。

 

 樹海を飛び交い迫るハチやトレントと言った魔物をすいすい避け、ムチではたき落とし、結局十七夜とみたまは一番手で次の転移陣に到着してしまった。

 

―*―

 

 …ここは…確か、メルが死んでみんなが落ち込んでいた時に、前を向こうって行った遊園地…

 

 ってことは、これは、鶴乃の視点?

 

 でも、どうして、鶴乃の…そう、つまり、この迷宮にウワサの浸食が進んでいるのね。それで、もしかして鶴乃はウワサを剝がしてほしくて…

 

 「はあ…疲れた…」

 

 そう、確か、あの時鶴乃は一日遊び倒して気が抜けて…

 

 …え?

 

 今、鏡に映った鶴乃の顔…目…

 

 …帝城に入ってきた時の「ウワサの鶴乃」と、同じ…!?

 

 じゃあ、疲れてたんじゃなくて…

 

 のんびり、安心して、解放されて…

 

 …うそ、それじゃあ…

 

 「鶴乃、あなた、いつも無理して…」

 

 まったく、ほんと、最強の魔法少女ね…

 

―*―

 

 「いろは、今の幻覚。」

 

 「ええ、やちよさん、行きましょう。鶴乃ちゃんも、きっと待ってます!」

 

―*―

 

 スライムの雨が降る中を、ハジメたちは行く。

 

 「御主人様、この魔物、催淫成分を含んでおるようじゃ。」

 

 「ティオ、マジか?なんも感じないんだが。」

 

 お前が変態なだけじゃないのか?とハジメは目で語った。

 

 しかしティオも首を振る。

 

 「魂魄魔法に近い魔法が、妾らにかかっておる。」

 

 「それが、催淫作用を打ち消しているってわけね…」

 

 「みたまちゃん、なんかした?」

 

 「あいにく、これはバフじゃないみたいよぉ…」

 

 「は?媚薬効果を打ち消すのがデバフ?いやいやそんなわけ…

 

 まさか。」

 

 「ん…ハジメ、やる気をなくさせる魔法がかかってる。」

 

 「ユエ、解除できそうか?」

 

 「難しくはない。直接解除はできないけど、逆効果の魔法を自分にかければいい。

 

 ほら。」

 

 そう言ってユエがハジメに手をかざしたその瞬間に、スライムに切れ目が入った。

 

 難読漢字があふれ出した。

 

 「ウワサ…来たか!」

 

 「ねえ。

 

 なんで、頑張っちゃうのかな?

 

 頑張らなくても、誰かが代わりに全部やってくれるよ?

 

 全部ひとりでやろうと無理しなくても、いいんだよ?」

 

 「おあいにくさまだが由比鶴乃、そういうわけにはいかないんだよ。

 

 俺たちは自分の力だけで道を切り開いて俺たちの世界へ帰る。あの時奈落で、そう決めたんだ。」

 

 「そーなんだー。

 

 やる気を吸い取り足りなかったのかなあ…

 

 みんながノンビリ安心して楽しめるためのキレーションランドだもんね。荒らす人はねじ伏せて、ノンビリさせてあげないと。

 

 この、最強の魔法少女、由比鶴乃が、ノンビーリさせてあげる。

 

 ウワサの炎扇斬舞。」

 

 無数に湧き出した緑の火炎弾が、火の玉のように巡り、ハジメたちへ降り注いだ。

 

―*―

 

 ヒヒーン。

 

 いろはたちチームみかづき荘と、ほむら、まどか、さやかの見滝原組を待ち伏せていたのは、無数のウマーキレートマスコットのウワサだった。

 

 奥にある大迷宮最後の試練は、そのままキレートビッグフェリスのウワサともなっている。主を倒されまいと、マスコットたちはビームを発射して必死にあらがった。

 

 ただ、ウワサにとって不幸だったのは、自分たちが馬型(=ワルプルギスの夜の手下型)であったこと。暁美ほむらにしてみれば何百回も戦ったことある相手で、しかも、トータスで鍛えられた今ではものの数に入らない。

 

 瞬く間に、ウワサは駆除され。

 

 その向こうに、キレーションランドの管理人として侵入者であるハジメたちを苦戦させる由比鶴乃の姿が目に入ってきた。

 

 「さすが鶴乃…と言いたいところだけど、ウワサで無理やり強化しているのだとしたらじり貧よ。」

 

 「そうですね。せめて一瞬でもお話しできたら…」

 

 「いろはさん、私が、こっそり忍びよれば見えません…」

 

 「さなちゃん、でも、魔力は隠せないよ?」

 

 「オレがズバーン!ってごまかしたらなんとかなるんじゃないのか?」

 

 「そうねフェリシア。私も表に回ったほうが良さそう。」

 

 「はい。私はさなちゃんと姿を消して裏から押さえます!」

 

 そして、やちよとフェリシアが走り出し、いろはとさなの姿が消えた時。

 

 「全員身を守れっ!」

 

 ハジメの声が響いた。

 

 鶴乃から黒い穢れがあふれ出し、金色の豚が頭上に出現する。

 

 「お 願 い だ か ら 見 な い で …」

 

 金色の豚が鶴乃をぶら下げ、鼻先から緑のオーラが噴き出した。

 

 吊り下げられた鶴乃が、扇子を仰ぐ。

 

 あたりを埋め尽くしていく緑の油霧が引火しー

 

 ーすべてが燃え尽きた。

 

―*―

 

 「まだまだ、最強には程遠いんじゃないのか?」

 

 「えっ」

 

 ウワサの鶴乃を羽交い絞めにするのは、ハジメ。その全身は黒くすすけ髪の毛はチリチリとまだ燃えている。

 

 「どうして?バリアのやる気も、吸い取ったはずだよ?」

 

 「みたいだな。でもあいにく、お前を押さえるベストタイミングはドッペルの直後、だから捕まえるにはどのみち生身で耐える必要があるんだよ。

 

 だからちょっと限界だ。こいつは貸しだぞ。」

 

 そう言って倒れこんだハジメを、遠くから走ってきた香織が抱え込んで再生魔法をかけていく。

 

 「はい、ありがとうございます。」

 

 そしてまた、鶴乃が振り向くまでもなく、背後の虚空から無数の鎖が飛び出して鶴乃を縛り上げた。

 

 鎖の根元では、半ば焦げた盾の後ろから、いろはとさなが出てくる。

 

 「鶴乃ちゃん、メッセージ、ちゃんと届いたよ。」

 

 「めっせー…じ?」

 

 「鶴乃ちゃん、私たちのために、頑張ってたんだね。」

 

 ただ、最強の魔法少女というだけではない。

 

 「鶴乃ちゃんがいつも笑顔なのは、そういう性格だからだ、私、ずっとそう思っちゃってた。

 

 だけど鶴乃ちゃんだって、辛い時、泣きたい時、あるよね。ごめん。」

 

 それでも、由比鶴乃はムードメーカーとして、役割を果たそうとしてきた。だから、安心できる、もう強がらなくていい安住の地としてマギウス、ウワサが与えられた時、鶴乃は飛びついてしまった。

 

 「でも、私は、私たちは鶴乃ちゃんの仲間だから。」「はい、私も、です…!」

 

 今まで鶴乃の明るさに助けられて、笑顔の裏で傷ついている彼女の心に気づいてこなかった、そんないろはたちが言うべきことは。

 

 「鶴乃ちゃん、我慢しなくていい、強がらなくていい、気を張らなくてもいい、もう一人で頑張らなくていいから、これからは私たちを頼ってよ!」

 

 「い、ろ、は、ちゃん…」

 

 鶴乃の目に、ハイライトが戻っていく。

 

 緑のオーラが空気に溶け。

 

 キレートマスコットのウワサが背中から抜けて逃げ出していくのを、唯一この場で手すきである見滝原組が追いかけていった。

 

―*―

 

 キレートマスコットのウワサを追った先は、洞の奥、巨大な木の枝が道になっている空中回廊だった。少し先では、真っ黒であやふやな形をした観覧車「キレートビッグフェリスのウワサ」が、帝城の上を覆った時そのままのサイズでグルグル回っている。

 

 「ねえほむら、なんか、ザワザワ聞こえない?」

 

 「うん、私も聞こえる…また魔物かな?」

 

 「おそらく、ここが迷宮の最深部、最後の試練よ。まどか、さやか、気を付けなさい。」

 

 ほむらは、そう言いながら盾の中からミサイルを取り出しー

 

 ーそして、その表情がストンと落ちた。

 

 まどかとさやかが、思わずほむらにしがみつく。

 

 「そう、そういうことね。

 

 消毒の時間よ。」

 

 盾の中から出てきたのは、数台のタンクローリー。中ではガソリンがチャプチャプ言っている。

 

 無人で走り出して、キレートビッグフェリスのゴンドラから飛んでくる黒い塊に突っ込んだタンクローリーは、轟然爆発して黒い塊を燃やし尽くした。

 

 その後ろからさらなる黒い塊が湧き出して、ほむらたちに迫るーその正体は、無数のゴキブリの群れ。

 

 「ひっ、ほむら、なんとかしてよ…」

 

 「あのね、美樹さやか…私、心臓が悪くて入院してたの知ってるわよね?

 

 …清潔な病室のベッドに帰っていい?」

 

 「ほむらちゃん…怖いよ…」

 

 「まどか、任せなさい。」「おい転校生どういうことだこら!」

 

 青筋を浮かべるさやかと、顔色が健康へと戻ってきたほむらが、それぞれに武器を構えた。

 

 ーそして3人は、あっという間にゴキブリの雲霞へ呑まれた。

 

―*―

 

 ハジメたちといろはたちは、到着して即、叫びあがりそうになった。

 

 空間を埋め尽くす、黒い悪魔の群れ。数億匹はいそうである。

 

 思考停止から最初に復活したのは、チームみかづき荘に戻ってきたばかりの由比鶴乃だった。

 

 「こらっ、太郎さんこんなに増やしちゃダメじゃん!

 

 炎!扇!斬!舞!ちゃっっちゃっちゃっちゃらあーっ!!!」

 

 扇子の先から噴き出す業火が舞い踊る。

 

 そしてまた、その業界用語の意味が分かる者1人。

 

 「50点の万々歳に、私たちが負けてなるものか!

 

 見てなさいウィステリアの本気!」

 

 園部優花も、巨大な炎の渦を発生させ、お手玉のごとく投げていく。

 

 2人の様子を見て、やっと全員が再起動した。

 

 「急いで調整をかけるわぁ!そしたら一斉に重力魔法で押しつぶしてちょうだい!まだ本体は向こうよぉ!」

 

 みたまが叫び、魂魄魔法を混ぜて効率アップした調整を使って手早くステータスアップを行う。

 

 「八雲、群れの中にも魔法少女がいるようだ。自分ではあそこまで行けん。」

 

 「大丈夫ですぅ!」「うむ、みたま殿は妾が運ぼう。」

 

 「みんな、気を付けて!ウワサが憑いてた頃にキレートビッグフェリスから聞いたんだけど、どっかのタイミングで感情反転をかけてくる!」

 

 「わかったよ鶴乃ちゃん!

 

 フェリシアちゃん、ゴキブリがかわいく見えてきたら全員の頭をハンマーで叩いて!」

 

 「は?いろはバッカじゃねえの?こいつらがかわいく見えるなんて…おおすげえ!めっちゃかわいい!

 

 いろはに言われっててのはイヤだ…」

 

 フェリシアはそう言いながらハンマーで自分の頭を叩いたー固有魔法「忘却」により、感情反転が生み出していた気持ちが忘れさせられる。それでフェリシアは納得して、好き嫌いが反転してゴキブリを愛でようとしている仲間たちを手当たり次第に殴りに行った。

 

 「ハジメくんのことなんかだいっきらい!…って誰今殴ったの…あ、あれ?私、なんで嫌いなんて言ったんだろ…」「ん…ハジメへの気持ちが足りないから。」

 

 「御主人様を殴ってみたい…って痛っ!はあはあ、やっぱり妾は殴るより殴られる方が好きなのじゃ…」

 

 「…痛いよ…

 

 ねえほむらちゃん、なんで嫌いって言ってくれなかったの?もともと私のこと嫌い?」

 

 「私が感情反転ごときでまどかを嫌いになるわけないじゃない。私の感情は好きでも嫌いでもないー

 

 ー愛よ。」

 

 「おや、どうして自分は、神浜の町を愛すべきふるさとなどと思ったのだろう?」「十七夜、私もよぉ。…やっぱり神浜は恨まれるためだけの存在よねぇ~。」

 

 …一部、そのまま反転してもらっていたほうが良かった人たちもいたような気がするがともかく。

 

 「行くわよみんな!せーの…」

 

 3,2,1、ゼロ!

 

 そして、ライセン大迷宮に挑戦していないチームみかづき荘を除く11人の重力魔法が、重ねがけされた。

 

 一匹一匹は弱っちいゴキブリに過ぎない。とっさに魔法陣を形成して防御しようとしたようだが、いかんせん本体がしょぼいのでは数も当てにならず、黒い悪魔たちが地に落ちる。

 

 「行くよ、やちよさん、鶴乃ちゃん、フェリシアちゃん、さなちゃん、十七夜さん!」

 

 ゴキブリたちが落下していくその向こう側で、回転を停止したキレートビッグフェリスのウワサが「グル…」とうなりながら追加の群れを放出しようとした。

 

 「ストラーダ・フトゥーロ!」「アブソリュート・レイン!」「炎扇斬舞!」「フォルターゲフェングニス…です!」「ええと、技名なんだっけ…まいいや、ウルトラグレートビッグハンマー!」「断罪の光芒だ。逝け!」

 

 そこへ、重力魔法を使っていないチームみかづき荘の必殺技が襲い掛かるー弓矢と三叉槍と炎弾と拷問鋏の雨、そしてそれらを叩きつけるハンマー、ダメ押しの天罰極光。さすがの大迷宮級ウワサと言えど、耐えきれずに崩れていった。

 

ー*ー

 

 試練を終えて「すべての魔法を一段階進化させる神代魔法」昇華魔法を手に入れた一同は、リュ―ティリス・ハルツィナからの概念魔法に関する説明も受けて(もっとも大まかなことは既に万年桜のウワサがハジメたちとほむらたちに伝えていたのだが)、最後の大迷宮である「氷雪洞窟」を目指そうと大樹から出てきた。

 

 後は、変成魔法を手に入れて概念魔法にたどり着き、「究極の意思」で、世界を創り変えることすらできる「概念を造り出す魔法」を以て元の世界に戻るだけー

 

 ー一息つこうとした一同は、しかし、立ち止まる。

 

 そこには、後光を伴って、巴マミが浮かんでいた。

 

 誰もが身構える。

 

 「マミさん…戻ってきて!」「そうだよ!」「巴マミ!目を覚ましなさい!」

 

 「私はね、決めたのよ。

 

 魔法少女を救い、世界を救うため、マギウスがもたらす奇跡。それを邪魔して灯花様とねむ様の御気持ちを揺るがすあなたを、赦しては置けないの。」

 

 マミの慈悲深い視線が、いろはを捉える。

 

 「フフッ、誇りなさい環いろは。あなたはイヴの餌として、解放の役に立てるのだから!

 

 ティロ・フィナーレ・セントドッペリオン!」

 

 閃光が奔り、しかし今回のハジメは真正面からそれを受けとめた。

 

 2つの魔砲から噴き出す膨大な魔力がまっこう衝突する。

 

 爆発。

 

 粉塵。

 

 視界が戻ってきた時、マミも、そしていろはも、忽然と消え失せていた…




 こうして、次回から一気に、物語はクライマックスへ!
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