ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ 作:十二の子
1つ、八雲みたまが中立を破りマギウスとの敵対を決意!
2つ、神浜魔法少女の連合がパレス・フェントホープこと魔王城へ侵攻!
そして3つ、マギウスは何らかの目的のため、ノイントをどこかへ送り出した!
―*―
天乃河光輝、坂上龍太郎、中村恵理、谷口鈴の4人は、魔人国最深部、「氷雪洞窟」にいた。
吹きすさぶ吹雪はかすめただけで凍傷を起こすような代物だが、光輝と恵理からあふれ出る謎のオーラが、それらを打ち消していた。
明らかに、今の4人の強さは異常である。神代魔法は魂魄魔法しか持っていないし、アーティファクトだってハジメ作のものではなくたかが王国の国宝。「誰かの力を借りて力を増幅しているとしか思えない」のだ。
誰がどう考えても、まるで別人のようであり信じがたく認めがたい強さの4人は、聖剣の火力と出所不明のオーラに頼るカタチで、フロストゾンビやフロストゴーレム、フロストタートルをなぎ倒していった。
普通に考えれば、氷が鏡の役割を果たすミラーラビリンスの中では、正しい方向へ進むのは難しい。ただ、それに関しても、恵理がなんとか解決させていた。
まるで手段を択ばないやり方ーだが、もう、すでに割り切っている。
この期に及んで天乃河光輝は、なおもすべてを救うつもりで、そのためにこそ、あえて「あなたこそが、破滅へ導くために立てられた緻密で完璧な計画に介入しうる『見捨てられたイレギュラー』なのです」と語る怪しげな預言者モドキの女の手配したままに、氷雪洞窟の試練へやってきたのである。愚かにも、今や神代魔法は副目的でしかない。ただ預言のままに動いている。
天乃河光輝という人間の性格からすれば、見ず知らずの人間からのお告げで正義やらなにやら全部ほっぽりだすなどとは信じがたいこと。それだけに、大迷宮の最終試練は、切迫したものとして迫るのだった。
―*―
[おい、俺。]
「なんだ?
…虚像か。そういや、恵理がそんなこと言ってたな。『この迷宮は深層心理を試してくるんじゃないか』って。」
[だいぶ、ささやき声で気持ちは揺らいだか?]
「そんなことはない。」
[嘘つけ。俺はお前、お前は俺だ。
今でも思ってるんだろう?
勇者、英雄に再びなりたい。
南雲がいる場所は、お前がいていい場所だったんだぜ?
すべてを手に入れ、正義を遂行し、誰からも賞賛される。それがお前にはできたかもしれないのに、南雲のせいで…そう思ってるんだろ?]
―*―
「影よ、『ロンブル』」
[おっと、手厳しいね、実像の僕。]
「僕の虚像でしょ?だったらきっと、光輝くんの取り合いになっちゃうからね。」
[そ。
だったら、こちらに負ける道理なんかないよね。
降霊術…『檜山大輔』]
「何を言ってるの?
もう、僕の障害はない。だって、もう、香織も雫も去っていった。
光輝くんと僕を邪魔する者は、どこにもいない。虚像の僕を除いては。
だから、僕は無敵だよ?
影よ、『暗殺しろ』」
[檜山よ『火球』
ねえ、記憶キュレーターのウワサで、実感したんじゃないの?
光輝くんは、僕の方を向いてなかったことに。
無理やり、失意で向けさせてるだけ。違う?
僕はただ、光輝くんを僕の思い通りに育てているだけ。違う?]
「…そうかもね。
でもさ。
それでも、光輝くんは、僕の希望の光だった。そして、これからも。
そうじゃなきゃ、僕が、そうして見せる。
影よ『妄執のドッペル』!」
[そうやって、僕は、いつまでも、誰かに寄りかかり続ける。
助けてくれた時の光輝くん。
はるか昔の英雄。
過去の亡霊にしかすがれない僕は、いつまでも醜いよ?]
「はあ、馬鹿だなあ。
そんなこと、どうでもいい。
光輝くんがかわいいって言ってくれるなら、光輝くんが僕にとってかっこよくあり続けるなら、どんな醜い影にだって、僕はなる。」
[やっぱり、僕はどこまでも、『降霊術師・中村恵理』なんだね…
…行っておいで、王子様の元へ。]
―*―
「…ああ。
だけど、でも。
俺に、正義は、人間族を救うことは、重かった。」
[俺なら、うまくやって見せられる。淫獣に化かされるようなヘマはしない。そうだろ?]
「もう、マギウスに踊らされ、恵理に化かされた。懲りたよ。」
[ふーん、そんな亡霊を引っ付けてまで何を学んだかと思えば、開き直りと諦めか。勇者が聞いてあきれるな。]
「悪いな。さすがに、火あぶりになる勇気はねえよ。
だけど、絶対、俺より、虚像の俺の方が正しい、な。」
[だろ?
望むなら、望むだけの力を与えてやろうか?]
「南雲が投げ出した、すべてを救うこと、か。
それができる力があるのなら。」
[良いだろう。それなら融合だ。お前の望む『力』を与えてやる。
さぁ、俺。ヒーロータイムだ。悪者からヒロインたちを助け出し、世界のすべてを救う勇者に、英雄になろうじゃないか。]
「うるさいな。
お前の指図を受けて、俺が南雲に倒されたり磔で処刑されたりした日には、恵理がまた泣くんだよ。
だから、力だけ使ってやるだけだ。」
「そんなことを言って、その力で何をするつもりかしら?
マギウスのすることを邪魔するつもりなら、もう赦せない。」
「[巴、マミ…]」
「これ以上、解放という奇跡から遠ざかるわけにはいかない。だから決めたのよ。もはや邪魔な異端でしかない偽勇者が私たちを邪魔する前に、消そうって。
ティロ・フィナーレ・セントドッペリオン!」
「[『神威・光』!!]」
―*―
[悪い話じゃないと思わないかい?
概念魔法を使えば、モモも、父さんも母さんも、生き返らせられるかもしれない。それどころか、全部なかったことにすることだって。]
「断るね。だからって手を組むのはあたしには無理だ。」
[ふん。
これじゃ、戦ったって負けか。アンタはあたし、希望なんか信じちゃいないんだから。
巴マミはこの先で、闖入者と戦ってる。]
「マミが?闖入者?なんかややこしいことになってるな…」
―*―
天乃河光輝は、乱入してきた巴マミに押されきっていた。迷宮の虚像を取り込んでなお、であるーステータスが10倍違う上に、相手は概念魔法と7つの神代魔法を備えている。1分生きているのすら加護のおかげなのだ。
介入しようとした龍太郎と鈴は、仲良く吹っ飛ばされた。砲撃を1回耐えたのは、それだけ鈴自身の成長と加護の効果があったということだ。
唯一、恵理だけは、なんとか隅に入って、4人の加護を維持し続けている。
そこへ、佐倉杏子は乱入した。
「おいマミ!何してんだ!?」
「フフ
フフフ!
私ね、決めたの。
魔法少女として、世界を、魔女の呪いとエヒトの遊びから解放するって。
だから、マギウスの邪魔者には、消えて、イヴの餌になってもらうの。」
「マミ…アンタ本当に…」
杏子の手にする槍が、巨大に変化する。それに伴い、魔力を吸われた氷壁がゆっくり解け始めた。
「…無理にでも引きずりおろして話を聞いてもらう。マミじゃなかったら、言って聞かせてわからねえ、殴ってもわからねえバカとなんて、後は殺しちゃうしかないが…
…どうあっても、あたしは…」
無数の砲弾が、ゲリラ豪雨も、バケツをひっくり返した雨も及ばぬほどの密度で、爆雨となって降り注ぐ。
一筋の赤が、濁流に逆らって、天へと突き刺さった。
光輪に突き刺さった長槍。
マミの上に、つぼみがードッペルが出現し、巨大な大砲が槍につかまりマミと正対する杏子を睥睨する。
「…ほむらから聞いたぞ。
マミは魔法少女の真実を知ると暴走するって。
罪悪感、だろ?」
「フフ、そう。
私は魔女の候補を増やした。だから魔女を失くして、マギウスの正義を完遂するの!」
「やっぱり、今回も、まどかやさやかを魔法少女にして後悔してるんだろ?
でも、向こうは、マミを責めたりなんかしないぞ。」
「フフフ、そう!だから!私は解放するの!あの子たちを!」
完全に、マミは狂っている。それは、ウワサがなじみ過ぎたせいか…
「マミ、せっかく再会できたのに…
…あたしだってな、魔法少女として、いくらでも後悔はあるさ。
でも、世界を救えたら、モモだって喜んで天国で迎えてくれるよな?」
だから、杏子は覚悟を決め、ソウルジェムを握りしめた。
「独りぼっちは、さみしいもんな…マミ、いっしょに、連れて逝ってやるよ。」
杏子のソウルジェムが輝きー
「『ラ・リュミエール』!」
光輝の聖剣の切っ先から放たれた光芒が、マミを杏子から突き飛ばした。
マミが、溶けかかった氷壁に激突する。
「何すんだエセ勇者!」
自爆特攻の覚悟を決めていた杏子は、すぐさま、光輝の首根っこをつかんだ。
「俺は、すべてを救うと決めたんだ!」
「まだそんなこと言ってんのかよ!
いいかエセ勇者、奇跡ってのはタダじゃないんだ!希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ!さんざん思い知ったろ?!
他人の都合を知りもせず、勝手な約束をしたせいで、結局誰もを不幸にした。だったら心に誓って、ここにいるんだろ?もう二度と他人のために魔法を使ったりしてはいけない、その力は、全てアンタのため、アンタが信じることのためだけに使い切るって。
あたしは絶対に、勝手な希望でクラスを不幸に叩き込んでるアンタを許さないけど…
これは、あたしとマミの問題だ。アンタの力を、あたしのために使うだなんて、殺すぞ!」
光輝は、恵理を隣に、びしっとたちなおし。
「そんなこと思い知ったさ。
俺は、恵理一人、助けられなかった。救えなかった。
だから、『俺がすべてを助け救える』なんて、二度と思わねえよ。
だけど、俺はそれでも、そうしたい!目の前、手が届く人、手が届く物に、例え自己満足でも手を伸ばしたい!
それだけならできちまう力が、俺にはもうあった!
俺が、俺のために、俺のエゴで、勇者をやるんだよ!
行くぞ恵理、龍太郎、鈴!」
「もちろん。影よ『斬れ』」「ああ、光輝、ついてくぜ。」「防御は、心もとないけど、何とかして見せる!」
「フフ、フフフ!
ティロ・フィナーレ・ホーリーナイト!!!」
無数の閃光が、視界のすべてを奪い去る。
ー天乃河光輝、それは、トータスの全人間族に「世界を救う勇者」として認知された存在。
ならば、千人万人の願いは、一人の「究極の意思」に匹敵し、教会が消滅した今、紡がれた祈りは概念魔法となり彼に注ぎ込まれることもあるのではないか?
それは、勇者という道化と、創られてとっくに失われた英雄が重なり合い、そこで生まれた奇跡だった。
聖剣に、やたら透明感あふれる因果の剣の残像が映りこみ重なる。
「「「「「「「「『エスプリ・ド・リュミエール』!!!!」」」」」」」」
その声が、4重ではなく8重に聞こえたのは、果たして幻聴か、それともー
ー天使たりえるは啓示の光の精、故に神威魅せる光芒なるはあらゆる障壁を貫き万象へ真実を伝える。「せめて、果たせる正義を果たせばいいんだ」と。
マミの背中から、赤い影が弾き飛ばされた。
「フッフフフ…」
ーアラもう聞いた?誰から聞いた?
トータス聖女のそのウワサ
シャイニーなセイントがトータスに、アルヴヘイト様の光と共に大降臨!!
ハートが傷ついた少女は、救いの手を差し伸べられただけで、もーメロメロ
解放に導く聖女様に取り込まれて、手になり足になり頑張っちゃうって
巴マミの間ではもっぱらのウワサ
スクイタマヘー!ー
「おい、てめえか?
マミに憑りついてたウワサってのは…」
浮かび上がる、マミが着ていた白い聖女服と王冠。失われたマミ部分が血のように赤い。
「フ、フッフフフ…ティロ・フィナーレ・ホーリーナイト」
無数のマスケット銃が、氷壁から銃口を突き出して杏子と光輝たちをにらんだ。
「そいつは、『ティロ・フィナーレ』はな!
マミだけの、あたしの師匠だけの必殺技なんだよ!偽者のくせに!」
「フフ…?」
「アンタと馬鹿勇者とマミのおかげで、いろいろあたしも吹っ切れたよ…
『ロッソ・ファンタズマ』」
無数に生まれた「実体を持った赤い幻影」。それが、槍を回転させ、弾幕を弾き飛ばす。
「あ、アレは…
…佐倉さん、恥ずかしがってたのに…」
起き上がったマミを、どこからか駆け寄ってきたまどか、ほむら、さやかが抱き起こした。
「マミさん、大丈夫!?」「しっかりしてマミさん!」「マミ、いい加減、死なないで。」
「みんな…
…私が、魔法少女に誘ってしまったのに…
…お願い、私を、許して…」
「何言ってるんすかマミさん」「そうだよ。許すも許さないもないよ。」
「え…」
「巴マミ、あなたは、私たちの大事な先輩で、友達なの。もう少し、自信を持ちなさい。」
「ほむらちゃんの言う通り。マミさんも、私の、いちばんの、友達だから。」
「鹿目さん、美樹さん、暁美さん…」
マミの瞳から涙がこぼれ、杏子にも、久方ぶりの笑顔。
一方で、マミからはがれた「トータス聖女のウワサ」は、消滅した杏子の幻影の代わりを務めようとした光輝たち4人を圧倒する。
ウワサを剥がした一撃は、誰かを救いたい想いが成した奇跡にリーダーとしての挫折心が上乗せされたモノ。ただの攻撃において同じ現象を引き起こすことなどできはしないし、恵理の降霊術がもたらしている加護だけでは銃弾を弾くので精一杯。
しかし、運命的に、救い主というのはどこにでも予定調和として現れるようにできている。
「…で、虚像まで取り込んで、勝てないのか?天乃河。」
「フ!?」
光輪をわしづかみにされたトータス聖女のウワサが、驚愕しながらも、氷壁の中に無数のマスケット銃の幻影を生み出して、背後に向ける。
「おせえよ勇者。」
光輝は、全ての銃弾を機関小銃によって迎撃していくその男ー南雲ハジメに、座り込みながら声をかけた。
「お前が俺に勇者なんて言ってどうすんだ。呼び名を間違えるのはマギウスだけでいいんだよ。」
香織の縛光鎖が、ウワサを縛り付け。
優花のダガーが、ウワサ頭上のドッペルを斬り飛ばす。
「じゃあ、何て呼べばいい?」
まさか、光輝と軽口をたたきあう日が来るとは思わなかったーそう、ハジメは思った。
「決まってるだろ?」
雫の刀とシアのハンマーが、ウワサの頭の王冠を粉砕する。ティオのブレスとユエの魔法「五天龍」が、氷壁内や空中のマスケット銃を喰い荒らす。
「ありふれた錬成師だー」
ハジメは、ウワサの背中に触れた。
「ー覚えておけ」
「繝医?繧ソ繧ケ閨門・ウ縺ョ繧ヲ繝ッ繧オ!?!」
名状ならぬ叫びとともに、トータス聖女のウワサはグジュグジュになって崩壊し、「シュネー雪原大迷宮」は、クリアされた。
さて、光輝たちを支える魂とは誰のモノでしょう?…いや分かる人にはわかるか。そしてそれほどの教え役がいて失意状態なら、さすがの光輝とて考えを改めることも。