ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ   作:十二の子

35 / 38
 ありふレコード 前回の3つの出来事!

 1つ、ワルプルギスの夜がエヒトを捕食、魔女の枠をはみ出し、魔神と言える存在になりつめた!

 2つ、3人の「勇者」による、世界を守る戦いが始まった!

 そして3つ、南雲ハジメに「魔王」の称号が与えられた!

 


29 LastGod

―*―

 

―アラもう聞いた?誰から聞いた?

 

 最強の魔王のそのウワサ

 

 ありふれた無能のその少年も、知恵と勇気と仲間でビフォアフター!

 

 名前を聞いただけで魔女も魔物も逃げ出しちゃう!

 

 だけどもだけどもご安心、内に秘めた優しさは今もまだあるって、あらゆる人々のもっぱらのキボウ

 

 オニニカナボー!ー

 

―*―

 

 ねむはもともと「風の伝道師のウワサ」こと魔法少女の頑張りを世間に伝えるウワサを隠していた。

 

 破り捨てた本で、最後に残った表紙裏。そこに記されたこのウワサの内容を「魔王ハジメのはたらきをトータスに広める」にする。そしてまた、ウワサを「南雲ハジメと彼が仲間だと思うすべての人間」という存在に憑依させる。

 

 結果、「ハジメたちが戦えば戦うほどトータスからの声援が集まりそれによって刃の切れ味が増す」正のフィードバックが得られる。

 

 「ははっ、クソエヒトがこの世界に連れて来やがった時より、よっぽど力にあふれていやがる。」

 

 ハジメはニヤリ笑った。それは、純粋に力を得たことへの歓喜であるのか、それとも、エヒトの「信仰により増大する力」と相似の力を得たことへの皮肉か。

 

 ワルプルギスの夜は徐々に大きくなり、雲は全天を覆い、吹きすさぶ暴風の中で王都の建物が次々と地面から引っぺがされていく。

 

 ハジメは、王宮の訓練施設ーいつか檜山にリンチされた辺りーの屋根に乗り、施設が浮かびあがるのを利用して、飛び上がった。

 

 香織、ユエ、雫、優花も、ステータスに任せ、浮かぶ家屋から飛び上がる。

 

 重力魔法を使えば良かったと思うかもしれないが、浮かび上がりハンマーのごとく地上にたたきつけられる建物を見ればわかるように、ワルプルギスの夜が現界してしまえば万有引力の法則は何の意味も持たない。この魔女は秩序を無秩序へ引き戻すのだ。

 

 空中を足場に飛びあがることで、5人はワルプルギスの夜を中心に五芒星の布陣を完成させた。

 

 「死にさらせ、ワルプルギスの夜!」

 

 5人同時に取り出したのは、巨大な十字架杭アーティファクト「天罰の楔」。概念魔法は効かない恐れがあるため、込められているのはいくつもの神代魔法である。

 

 まさしく、それは絆のなせる業ー寸秒たがわず5本の十字架が5方からワルプルギスの夜の胸に突き刺さった。

 

 重力魔法で奥深くへ押し込み、魂魄魔法と再生魔法を存在に刻み付ける。

 

 昇華魔法を発動させることで、内部的にワルプルギスの夜の魂的な情報を書き換え、縒り集められている因果を巻き戻す。

 

 光り輝く十字架が明滅し、ワルプルギスの夜が身もだえた。歯車が逆回転し始める。

 

 ーやったか、と誰もが思った。

 

 直後、ワルプルギスの夜の首が消滅し、十字架が落下、そして、雲から漏斗のような竜巻が降下して胸に触れたかと思うと、首、頭が再び復活した。歯車が、元の回転方向で急速回転する。

 

 その段になって、無軌道に王都を耕していたワルプルギスの夜は、初めて、ハジメたちを脅威と判定した。

 

 カマキリのように首が180度回り、ハジメを見据え、口から虹色の火炎が放たれる。

 

 高層ビルですら巻き上げるであろう暴風の中で飛来した黒龍ーティオが真正面からブレスで受けた。

 

 ー「くぅ…うくっ…」ー

 

 たいていの相手なら骨も残らない龍人族のブレスの中でも最強のティオのブレスだが、相手が悪すぎた。だんだん、ティオが後方へ押し戻されていく。

 

 ー「姫、我らも!」ー

 

 100を超える黒龍がなんとか暴風の中で飛んできて、ブレスで加勢しようとするーが、ワルプルギスの夜は「ちょこざいな」と言わんばかりに腕を振り、その瞬間に「ナニカ」が起きて黒龍たちが地表へ叩きつけられる。

 

 いよいよ、虹色の火炎はブレスを押しやり、ティオの口元にまで達しようとしていた。

 

 「忘れるな!ですぅ!」

 

 そこで、ティオの背中全てを使って助走していたそのウサ耳が、ドリュッケンを思い切り振りかぶる!

 

 虹色の火炎は、わずかに右へそらされて、大気圏を突き抜けていった。

 

 ハジメが親指を立てるー2人の助けがなければ死んでいた。

 

 「いったん地上へ戻るぞ!もう王都が更地になっちまったなら遠慮はいらないから、攻撃を考え直す!」

 

―*―

 

 私には、懸念があった。

 

 今まで誰よりワルプルギスの夜と戦ってきた私だけれど、アレは魔女ではなく魔神、それだけに「歯車が弱点」「回避行動をとらない」「手下は反撃しかしないから素通りできる」などの法則は通用しないと見たほうがいい。

 

 でも、それより。

 

 ー最初から不思議だった。

 

 どうして、エヒトが手を下したわけでもないのに私の世界とトータスがつながり。

 

 最初にトータスとつながる世界に南雲ハジメの世界ではなく私の世界が選ばれ。

 

 そしてまた、ミラーズと何の関与もない私たち見滝原の魔法少女がこの世界へ飛ばされたのか。

 

 さらに、ループのたび、ワルプルギスの夜も、まどかも、まどかの魔女も強くなっていく。

 

 極め付きは、ワルプルギスの夜が倒されることで散った穢れがまどかに集まり魔女化させる、何度も見た光景。

 

 でも、「因果」と言うキーワードと、環ういの存在消失。それで、納得はいった。

 

 私は、まどかを助けようと何度もループを繰り返してきた。だけど、それは助からなかった世界がなかったことにはならない。

 

 私は無数の平衡世界を創り出し、それはまどか、マミたち、そしてワルプルギスの夜やまどかの魔女によって死んだ人たちの因果を引っ提げてループを繰り返し、その因果が収束して、新たな世界のワルプルギスの夜やまどかの魔女が強くなり続けていた。

 

 …はっ、お笑い種。

 

 そしてその果てに、私の世界は、あまりの因果に歪んでしまい。

 

 そんな中での柊ねむによる因果の消失が、世界を破断させて、私という重荷を弾き出した。

 

 そうしてすべての因果がエヒトを経由してあの魔神に収束して、今がある。

 

 ーつまり、おそらく、ワルプルギスの夜が倒されれば穢れと因果はまどかに引き寄せられ、何周分もの70億の因果と全知全能の権能を持つ最凶最悪の魔神クリームヒルト・グレートヒェンによりあらゆる世界は瞬時に無に帰すことになる。

 

 だからこそ、南雲ハジメに頼んでみた。

 

 「一瞬だけでも、魔神に集まった因果を巻き戻したい」と。

 

 私のまどかへの献身、愛だけで、止めた時間の間にそれらを集められるか、そして概念魔法でそれを受けとめられるか。

 

 すべては賭けでしかないし、それに、例えそれを奪ったとしても今のワルプルギスの夜は十中八九それを再生させる。それでも。

 

 私はいつか、もういつかまったく忘れてしまったいつか、決意したー「もう誰にも頼らない」と。だから、最後の最後のこの世界で、「今まで頼らないで蓄えてきたすべて」に頼らせてもらっても、まどかならきっと笑って許してくれる。

 

 だから、ワルプルギス。

 

 あなたが持っているそれは、それは、まどかのものよー

 

 「ー返しなさい!」

 

―*―

 

 「こうなるとはな…」

 

 「僕にも予想外だよ。」「熱力学第二法則が破綻してるにゃー。」

 

 柊ねむと里見灯花が作戦を練る「万年桜のウワサ」結界に戻ってきた南雲ハジメは、外のほむらの様子を見て、苦笑いした。

 

 ほむらの盾が剥がれ落ちて、結界の中に落下してくる。ハジメは無造作にそれを叩き割って、あふれ出す一国の軍隊のような砲火器の山を、結界内で待機する王国騎士団に押しやった。

 

 黒い、バレリーナのようなセクシーな衣装。

 

 背中には、宇宙のような不定形渦巻く黒い翼。

 

 「まるで、悪魔だね…」「あなたたちマギウスが想定外因子だとか言って排除しようとしたのも無理ないわ…」

 

 香織も雫も、正直なところ味方と思いたくない禍々しい奇跡が顕現していた。

 

 「うーん、わたくしたちはあくまでエヒトを呼び出す『勇者』を求めていただけで、あんな対極の存在は求めてなかったからね…」「それでも、因果をかき集めるということができることだけは明確になったね。むふっ。」

 

 そう言いながらもねむはペンを手に何かを始めようとして、激しくせき込んだ。

 

 「ちょ、ちょっと、無理したらホントに死んじゃうって!」「ん、無理は禁物。」

 

 優花とユエが慌てて再生魔法をかけるー自らの命を削ってウワサを創っては無理やり魂魄魔法を使って無理やり命を補填してきたツケで、魂そのものにガタが来ており、3日やそこらで何とか出来るような状態ではないのだ。

 

 それでもねむは、車椅子に座り込み、ペンを走らせた。

 

 「『幾千年、解放を願い続けた解放者たちの存在は、紡がれた因果の先で再び舞い戻る』!」

 

 紙片は、紙飛行機となって結界の外へ飛び立つ。

 

 7つの大迷宮を空間を超えて舞った紙飛行機は、今、戦場に顕現した。

 

 「まったく、まだまだ、ミレディちゃんの出番ってことかな☆

 

 …って魔法少女いっぱいいる!?えなにこれ!オー君助け」「「「「「「うるさいミレディ!」」」」」」

 

―*―

 

 「私たちも、戦いましょう、やちよさん!

 

 勝てるか勝てないかじゃない、これだけの人が、これだけの奇跡の中で、『すべての世界を守るために』戦っているんです!

 

 何よりまだ、私たちは、奈落に突き落とされたわけじゃない!まだ、死にかけたわけでも誰かを失ったわけでもないんです!」

 

 いろはは、建物が舞い踊る暴風を背に受け、叫んだ。

 

 「そうね、あきらめるには、まだ早いかもしれないわ。

 

 作戦通り、行くわよ!」

 

 その会話で、魔神登場以来呆然として突っ立ていた神浜の魔法少女たちは、すべきことを思い出した。

 

 たとえ運命からの解放が遠ざかっても。

 

 彼女たちは、正義の魔法少女であることを思い出したのだ。

 

 幸い、ハジメが創り出したアーティファクトの山、みたまがかけてくれた調整(魂魄・昇華魔法込み)、そしてグリーフシード代わりの魔石の山がある。並の魔女ならかすめただけで間違って倒してしまいそうなほど今の彼女らは強い。ーとはいえ、南雲ハジメたちや見滝原組(通称ピュエラマギホーリークインテット、略称PMHQ)ほど圧倒的な力があるわけではない。

 

 「力を合わせましょう!」

 

 それでも、作戦を練って、それぞれの長所(≒固有魔法)を生かすための時間なら、3日もあった。

 

 まずは、2人の魔法少女の応援から始まった。

 

 十咎ももこの「激励」と空穂夏希の「応援」ーどちらにも、魂魄魔法を上掛けしている。さらに、由比鶴乃の「幸運」を魂魄魔法と昇華魔法で全員へ配る。

 

 「チャンス逃してたまるかー!」「ゴーファイウィーーン!」

 

 そして、いよいよ。

 

 名無し人工知能アイが空間ゲートを開き、深月フェリシアがそこからワルプルギスの夜を殴って進行方向を「忘却」させる。

 

 阿見莉愛が、避難人民がいる方向を隠蔽の力で魔神の視界から消去、そして、純美雨の「嘘を現実として認識させる力」で、神山の山頂に強固な文明の存在を誤認させ、綾野梨花の「心変わり」で神山へ魔神を誘導する。

 

 こうして、王都を完全な更地に変えたワルプルギスの夜は、聖教教会が存在する神山へ引き返していく。

 

―*―

 

 聖教教会では、地面から引きはがされそうになっている建物の中で、かつてハジメたちを召喚した魔法陣の上に教皇イシュタルたちエヒトの狂信者が並び、一心に祈っていた。

 

 彼らは頑固にも、エヒトがすでに負けて食べられてしまったことを信じない。そして舞台装置の魔神こそ彼らが創世神の新たな姿だと信じ、その絶対性を、勝利を、祈り続けていた。

 

 空間ゲートが開き、数名の魔法少女たちが飛び込んでくる。

 

 「エヒト様の願う世界を…

 

 …誰だ貴様ら!?ええい、排除してくれる!」

 

 イシュタルと司祭たちが、杖を向けて詠唱を始めた。その瞬間、梢麻友の「攻撃を止める力」が作用する。

 

 「そんなに長く持ちません!」「わかってございます。ねー。」「ウチらに任せてよ。ねー。」

 

 天音姉妹が笛を構え「「笛花共鳴!!」」

 

 笛の音を聞き動けなくなった狂信者たちの前に、竜城明日香が立ち、「規律順守」の固有魔法で「あなたたちはエヒトを信じてはなりません!」と命じる。

 

 狂信から解放された司祭たちは、笛が鳴りやんだ瞬間、空間ゲートの向こう側へ一目散に逃げだした。入れ替わりに美凪ささら、千秋理子、木崎衣美里の3名が祭壇に登って「悪を引き寄せる力」「お客を引き寄せる力」「魅力」でワルプルギスの夜の注目を引き付けた。

 

 エヒトの成れの果ては、いよいよ、長年の信奉者たる教会を破壊する方向へ進撃をはじめ、山肌がべりべりと持ち上げられていく。

 

 空を飛ぶハジメたちとPMHQ、それに加勢した解放者たちは移動中のワルプルギスの夜へと攻撃を続けていた。

 

 ハジメは、空中を飛び交う建物や土砂を錬成してはミサイルにし、適当な位置取りで撃ち込んでいる。

 

 香織は、空飛ぶナース(ナース服ではないが)となって、傷ついた仲間を癒して回る。

 

 ユエは、ミレディを筆頭とする解放者たちと協力し、昇華させた重力魔法・空間魔法で空間を歪め再生魔法で時間を歪め、音速を遥かに超える魔神の速度を無理くり自動車並みにまで下げる。

 

 雫と優花が、光輝たちとの戦いを止めて突っ込んできたりワルプルギスの夜のドレスから分裂したりする影絵少女を華麗な刃物さばきで斬り伏せていく。

 

 ワルプルギスの夜は、虹色の火炎だけではなく、「事象の暴風」「時空の嵐」とでも言うべき不可視の殴打を行ってくるため、シアが「未来視」してティオがブレスで方向をそらしていく。

 

 神代魔法や概念魔法でもソウルジェムだけはどうしようもないので、さやかが無数のサーベルを操り、、PMHQの護衛を担う。

 

 マミの無数の銃ーハジメは「アンリミテッドマスケットワークス、か…」などと言ったーが、イージスシステムのごとく、暴風が巻き上げる全ての脅威を迎撃し、ワルプルギスの夜へ叩き返す。

 

 杏子の幻影が、ワルプルギスの夜の反撃の照準をそらしていく。

 

 しかし、誰よりも目立っているのは、ほむらだった。

 

 まどかを抱え、不定形の時空の裂け目そのものである黒翼で悠然と飛んでいる。

 

 ほむらの髪に結ばれたまどかのリボンから魔力がまどかに伝わり、ピンクよりもなおピンクの破魔矢が、まどかの弓矢から撃ちだされているーそれらはバリアを破りワルプルギスの夜を貫通しており、すぐ再生するとはいえ現状唯一の有効打だった。

 

 ワルプルギスの夜もほむらを最重要脅威とみなし虹色の火炎を吐きかけるが、それらは概念魔法である「因果侵食する黒き翼」に吸い込まれて消失していく。

 

 それ自体が、ほむらが失敗してきたすべての1か月であり、今や破却されるべき過去であり、時空の矛盾に降り積もる因果である翼は、ワルプルギスの夜の全能、エヒトルジュエの宿業と対消滅を起こして、使い捨てられていった。

 

―*―

 

 「だが、どうする八雲?このままではワルプルギスの夜を倒す前に、神山ごと我々が教会もろともミキサーされてしまうぞ。」

 

 「そうなると『神山に魔神を縛り付けてくれ』って言うハジメ君の頼みが通らないわねぇ~。」

 

 「大丈夫です、任せてください!」

 

 眞尾ひみかはそう言いながら、アリナから排出され割れたミラーズコインを引っ付けて見せた。

 

 「なるほど、理解した。

 

 八雲、今一度、自分に最強の調整を施してくれ。」

 

 「ノーギャラでやって見せるわぁ十七夜。

 

 …これで、どう?」

 

 「ステータスプレートを見るのが怖いな八雲。」

 

 和泉十七夜は、そう言いながら、ひみかがコイントスの要領で打ちあげたミラーズコインを、ムチで思い切り打ちだした。

 

 欲望の象徴であるコイン。破壊を目指すアリナとエヒトの欲望が込められ、そして同時に神浜世界とトータス世界をつないできたミラーズの分身でもあるそれは、大気圏を突き抜け燃え尽きるまで、ワルプルギスの夜の注目のすべてを集めた。

 

 ワルプルギスの夜は、攻撃も防御もすべてを止め、世界をつなぐ破壊のコインの行方ばかりを血眼で捜す。

 

 上の空の魔神が神山上空に到達したその瞬間、矢宵かのこの「縫い合わせる」、秋野かえでの「植物を生やし根付かせる」、そして高空を飛んできた巴マミのリボンが、ワルプルギスの夜を神山頂上へ結び付けた。

 

 水波レナがかえでに変身し、4人の力でワルプルギスの夜を束縛。さらにそこへ万年桜のウワサと「解放者」リュ―ティリス・ハルツィナが加わり「大樹・樹海を操る力」で、かえでとレナの伸ばすツルを爆発的に成長させた。

 

 女性型の部分と歯車をつなぐシャフト、それにドレスから伸びる赤黒い無数の触手に絡まった植物が、ワルプルギスの夜を地上へ引きずりおろし、「解放者」ナイズ・グリューエンの規格外サイズの空間ゲートで魔法少女たちが避難した直後に、2000メートル級にまで成長した魔神が標高8000メートルの神山を押しつぶした。

 

 火山の噴火もかくやという土煙がすべてを覆う。

 

 その時、「行動予測」の江利あいみが、「ワルプルギスの夜が空間魔法で拘束から抜け出そうとしてる!」と叫んだ。

 

 詠唱をしない相手の魔法発動を止める方法はほとんどない。だからこそユエがトータスにおいて規格外なのだ。

 

 常盤ななかが、空間魔法の発動を防ぐために「敵を見極める」固有魔法を昇華させてもらい手立てを組み立てる。相野みとが「みんなの心をつなぐ」魔法で、神浜魔法少女の特徴や固有魔法をななかに教える。

 

 遊佐葉月の「体のスキャニング」をする力と、志伸あきらの「魔女を止めるための弱点を探る力」を掛け合わせ、さらに都ひなのの「化学反応」の魔法を組み合わせて発想を膨らませる。

 

 「せいかさん、なんとか、土煙を鎮めてください。雲から雨を降らせないでしょうか?」

 

 「ええ…!」

 

 すっかり押しつぶされた神山の上で、ドレスを地面に縛り付けられたワルプルギスの夜が、光背の魔法陣をいくつも発生させながらもがいているのがあらわになった。

 

 「…では、手はず通りに!」

 

 ななかの号令一下。

 

 空間ゲートによって、ワルプルギスの夜の目の前に転移した魔法少女たち。ハジメなどは「おい、死ぬんじゃないか?」などといぶかしんだがー

 

 春名このみの「花を添える」魔法、胡桃まなかの「名声を伝播させる」魔法を夏目かこの「再現」魔法で増幅し、魔神からタゲを取る。

 

 粟根こころと三栗あやめの「耐える」魔法が発動しているところへ、脱出よりもまず脅威への反撃を優先することにしたワルプルギスの夜から、虹色の火炎が吐き出された。

 

 静海このはの「家族を大事にする」魔法によってあやめを超強化し、本来なら絶対に耐えられない攻撃に数秒だけ耐えた間に。

 

 毬子あやかの「やろうとしていることをジョークにする力」で拘束を解くため空間魔法を使う動きをジョークにし、五十鈴れんの「鎮魂」の魔法でワルプルギスの夜やエヒトが倒された後に穢れが息を吹き返さないようにする。

 

 それだけのことをするので、もう時間は限界。

 

 二葉さなが透明化の固有魔法を使いながら不可視の空間ゲートを開き、加賀見まさらが「消える力」で魔法少女たちをゲートの向こうのウワサ結界へ引きずり戻し、伊吹れいらが「浄化の炎」で全員を癒す。

 

 かくて、おぜん立ては整った。

 

―*―

 

 「解放者」ラウス・バーンは、禿げ頭をこすりながらも、娘くらいの年齢のその少女に近づいた。

 

 その少女の魂が体内にないこと、そして先祖返りと言われるほど強大な魂魄魔法使いであってもどうしようもないことは明白であった。

 

 どうしてかそのような少女が多いようであったので「時代は変わったのう」くらいにしか思わなかった彼だが、それよりずっと気になることは。

 

 「どうして貴様、それほど、『魂の器』が大きい?」

 

 「…はい?」

 

 「まるで、そう…

 

 …誰かから『希望を託される』ために魂が作られたかのようだ。」

 

 七海やちよは首をひねりー

 

 ーそして、「まさか」と呟いた。

 

―*―

 

 ワルプルギスの夜は、今や、神山に縛り付けられていた。

 

 否。

 

 そのドレスによって、神山の中腹から上を覆っていた。

 

 首をグワングワンと回す固定砲台となって、虹色の火炎を放っている。

 

 触手は必死に変形して自らを縛る植物を引きはがそうとするが、ヘルヘイムの森も及ばぬほどの繁茂を見せ第二のハルツィナ樹海と化している植物群を「成長より早く」引きはがすのは不可能。

 

 清水幸利操る魔物たちと拮抗の争いを繰り広げていたシロハナだが、状況は一気に不利になったーというのは、敵が唐突に増えたからである。

 

 八雲みたまは、神浜全域の魔法少女を調整する調整屋。そして歴史に由来する憎悪渦巻く神浜においては魔女が強く、神浜に来訪した魔法少女はほぼすべて調整屋を訪れざるを得なくなる。そのような町はいくつもあり、それぞれで調整屋がいたり、あるいは「移動調整屋」と呼ばれるトレーラーで移動する集団がいる。そう言ったところの魔法少女は調整屋に強く感謝の念を抱いている。

 

 中立を捨てたみたまは、「先生」こと、調整の仕方を広める魔法少女リヴィア・メディロスに頼み込んだ。

 

 ー「異世界の争いを持ち込むのも、私が中立を破るのも、良くないことは理解しているわぁ。それでも、これで、全ての世界の存亡が決まるのだとしたら。」

 

 リヴィアは答えた「二度と中立を破ったらアカンで。」と。そしてみたまは、首を縦ではなく横に振りーリヴィアは「それほどの覚悟やったら応じない訳にいかんなあ。」と、できる範囲で縁をたどり。

 

 1日で、しかもクリスタルキーの力だけでトータスに送り込める魔法少女の数なんてたかが知れていたが。

 

 あすなろ市から訪れた「プレイアデス聖団」、そしてホオズキ市から来た集団はいずれも戦意充分ーとりわけ御崎海香の「記憶改変」魔法によって行動を乱されたシロハナを天乃鈴音が暗殺術で背後から切り裂いていくと、もはや地上の使い魔は狩られるだけの存在でしかない。

 

 奮戦をたたえるために、二木市からやってきた連中のことも覚えておくべきだろう。「キュゥべえは既に全滅した。概念魔法の力を持ってすれば、『自動浄化システム』をあらゆる世界へ広げることはおろか、死んでしまった戦友を生き返らせることもできるかもしれない」と聞かされた彼女らはバーサーカーとなって犠牲を一切顧みずカミカゼ攻撃を始めた。「解放者」メイル・メルジーネが「無駄な仕事を増やして…」とぼやきながら再生魔法をかけて回っている。

 

 唯一自由に動ける影絵少女たち。ドレスから生えて分離していくそれらを、事実ごと破壊するほむらの「因果侵食する黒き翼」を中心としたPMHQが迎え撃ち、少しずつ減少させていく。

 

 ハジメたちは後顧の憂いが無くなったことでいよいよ本体の攻撃をしていた。

 

 ワルプルギスの夜には、確かに強固なバリアがある。概念魔法の次元に引き下げて命名するならば「我、何物にも触れられることを禁ず」とでも言うべきシロモノだ。しかし数々の精神攻撃が響いているように、バリアは完全ではなく、魂を代償とする固有魔法/究極の意思を触媒とする概念魔法であれば破れると判明した(徐々に強化しているらしく今や神代魔法ごときではとても無理。おまけにワルプルギスの夜は「実体」ではなく「存在」なので物理攻撃も無意味)。

 

 優花の投擲術によって飛ばされた無数のダガーが、剣舞を踊り攻性結界を成して赤黒い触手を斬り飛ばす。

 

 雫の刀が、バリアを貫いて傷口をえぐる。

 

 香織の縛光鎖が、傷口からワルプルギスの夜の体内に侵入する。

 

 ユエの「神罰之焔」が、香織の光魔法で作られたチューブを通じてワルプルギスの夜の体内へ注ぎ込まれる。

 

 シアとティオが虹色の火炎を迎撃し、、ハジメはと言えばなんと、錬成魔法で神山それ自体に作用しワルプルギスの夜の動きを封じていた。

 

 アハハ!アハハハハ、アーハッハ!

 

 唐突に、触手攻撃が止む。

 

 赤黒い触手は消え去った。虹色の火炎も、なんとかブレスで拮抗するくらいに弱まっている。

 

 「ハジメくん、どんな感じ?」

 

 「おとなしくなったと思ったら案の定だ。コイツ、触手を地中に伸ばしてやがる。」

 

 「それってつまり、神山を破壊して飛び立とうってことかしら?」

 

 「いや、それならいいんだが…

 

 …ダメだ、だんだん錬成が効かなくなってきた…

 

 …まさか!?」

 

 ハジメは叫ぶなり、地面から手を離した。

 

 錬成が解除されてだいぶ楽になったのに、ワルプルギスの夜は、神山から離れるため暴れる様子が見受けられない。

 

 「…マズいぞ、これは…」

 

 ハジメは、そう言うなり、万年桜のウワサ結界へのゲートを開いた。

 

 「ど、どうしたの!?」

 

 「…落ち着いて聞け。

 

 俺の錬成が、侵食されてる…!」

 

 「ハジメさん、私にも、見えました…

 

 私たちが、雲の中に吸い込まれます!」

 

 「え、えっと、つまり、どういうこと?」

 

 「ん…錬成が効かないのは、神山が、魔神に取り込まれつつある?ここから動くのをあきらめた?」

 

 「じゃあユエ、雲は…?」

 

 「あー、ちょっといいか、南雲。」

 

 「清水?」

 

 結界の向こうから現れた3人組を見て、ハジメは首をひねった。神浜市外の魔法少女たちが使い魔と戦っているのは知っていたが、それに清水幸利が協力していることは感知していなかったのだ。

 

 「ちょ、ちょい待て。別に俺はケンカを売りに来たわけじゃない。」

 

 背後にいる美国織莉子と呉キリカを見て女子たちは明らかに攻撃的な目つきになったが、清水はあわてて制止した。明らかに脅えが見える。

 

 「…ま、お前が善玉になったってんなら今さらなんとも思わんが、なんだ?」

 

 「この自称預言者が言うんだよ。

 

 『終末の日、必ず、因果が結集して、最悪の魔女が両手を仰ぎ君臨することになる』って。」

 

 「…最悪の魔女、だって?」

 

 「そいつを防ぐために、彼女は俺を戦力に勧誘したらしい。本来は鹿目まどかがなるはずの、世界を滅ぼす魔女の出現を防ぐために。」

 

 ハジメたちは、顔を見合わせた。

 

 ーほむらから聞いた通りだ。

 

 山のような胴体。

 

 空へと仰ぐ両腕と歓喜の声。

 

 真っ黒な全身。

 

 そして、上空を覆うのがもし雲ではなくー

 

 ー巨大な結界だとすれば。

 

 そうだ、舞台装置の魔神の意義はワルプルギスの夜の「舞台装置」、エヒトの「遊戯」「破壊」だけではないー

 

 地球と同じ大きさの結界を作り、地球を自分の世界へ吸い上げる魔女。それは、星を喰らうともされるエンブリオ・イヴの意義でもあってー

 

 ー救済解放の災厄。その性質は慈悲最悪。

 

 あらゆる世界の全ての存在を強制的に生き地獄から吸い上げ彼女の作った新しい天国地獄へと導いていく。

 

 森羅万象が滅びへと向かっている以上、「滅びの運命から解放されたい」という願いとの契約を因果に持つこの災厄の呼び声を逃れることはできず、またこの災厄にとっていつか滅びてしまう物が存在するあらゆる世界が生き地獄にしか見えない。

 

 この災厄から隠れるには世界のあらゆる滅びを止めるほかないが、その結果生まれる苦しみが少しでもあるのならばやはり目をつけられてしまうだろうし、すべての苦痛を取り除いた停滞の中の世界がすでに災厄の結界の中に移ってしまっていることは言うまでもない。

 

 もし過去現在未来から悲しみがなくなる永遠の停滞が訪れれば、災厄はここが天国であると錯覚するだろう。その時、災厄は消し去られた文明発展の孵卵器に思いをはせることになる。

 

 とまれ、己が舞台装置たる災厄たる遊戯である以上、あらゆるすべての存在は非存在へと移り逝き弔われることでしかその苦痛を否定できないだろう。ー




 DJサガラによる覚書(「検閲済み」により翻訳)。

 Q:侵食する黒き翼の出所は?

 A:暁美ほむらが紡いできた因果が、本来暁美ほむらに収束した場合のカタチ。その効果はとあるオティヌスの弩のごとく、「今まで回ってきた世界を巻き込んで目の前の事象の因果を破壊」する。なおワルプルギスの夜を強化する因果と同じだが、外宇宙の因果であるため因果律が適用できず二所同時存在できる。

 Q:でも悪魔ほむらは誕生してないよね?

 A:悪魔ほむらは別宇宙存在。外宇宙存在である円環の理や宇宙内存在とは異なり非選択干渉不可、またループの出口が1つでないことに関しては方程式の時間反転対称性を参考。

 Q:つまり同じ別宇宙存在である我がヘルヘイムによるトータス侵食は可能?

 A:不可能。そもそもアナザー「検閲済み」に力を奪われ現在「検閲済み」。さらに近種存在であり汎次元存在であるインキュベーターの滅亡を鑑みるに、ヘルヘイムの存在そのものに脅威で接触不可。

 補足:「検閲済み」の上、この覚書を柊ねむの本に出現させること。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。