ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ 作:十二の子
1つ、因果の収束した先に、暁美ほむらに悪魔の双翼が顕現し、7人の解放者が復活した!
2つ、魔法少女たちの連携の末、舞台装置の魔神を神山に縛り付けることに成功した!
そして3つ、「解放の災厄」へとワルプルギスの夜が進化を遂げ、ありとあらゆる世界の終末が始まった!
―*―
その巨体は、トータス全土から見えた。
それに、トータスに天文台が存在しないのは、万民の精神的健康に良かっただろう。
今までずっと雲だと思っていた物は、いつの間にか、王都上空に存在する巨大な球体になっていた。その大きさはすでに冥王星のそれに迫りつつある。
あらゆるあまねくすべての解放を願い乞う山のごとき巨体は、天に届いて祈りをささげ、その身を反り返らせて今日ぞ人類の願いを実現しようと両手を広げて地獄を迎える。
祈りの力は惑星トータスをー否ートータスに相当する平行世界のあらゆる惑星をー結界へと吸い上げ、すでにトータスの惑星軌道、自転公転速度は数%以上の変化を見せているが、トータス中の穢れを同時に吸い上げて自らの力とすることでヒューム値を低下させ事象改変を行いごまかしていた。
すべての世界を歪め、全ての世界を救う、それゆえに最悪の災厄。
遊戯と破壊によって解放を行う舞台装置の影響が、最初に目に見える形で現れたのは、ウワサの結界だった。
万年桜のウワサ結界が引き剝がされ、消滅し、大樹に満開に咲いていた桜が散ってしまったのだ。
対ワルプルギス戦に参加する全員の一時退避場所になっていただけに、ショックは大きい。
ハウリア、そして羽根の魔法少女や魔人族が、気配を削除して俊足で動き、あまりのことに呆然としている人々を安全そうなところへ移動させていく。もっともその安全も、どれほど続くのか。
暁美ほむらは、腕の中に抱く鹿目まどかがまだ健在であるにもかかわらずクリームヒルト・グレートヒェンにそっくりな存在が現れたことに愕然としつつも、ソウルジェムを濁らせた。
数周束ね続けた因果で生まれたクリームヒルト・グレートヒェンは、10日で地球を滅ぼせる。では、数百周あるいは数千周であれば?創世神を名乗るエヒトの力を持っていれば?その実力は想像もつかない。
周りで、天秤のような外見の手下が動いている。ほむらには、自分、そしてこの絶望への路を善意で舗装し続けたあらゆる人間の罪科を測ろうとしているかに思えた。
「ほむらちゃん?」
「大丈夫、大丈夫よまどか。
私は、私たちは、あきらめたりなんかしない。
だって、ここまで来たんだから。」
「うん、そうだね。
本当に、そうだね。」
「ま、まどか…?」
ほむらは、えっ?と、まどかの目を覗き込んだ。
ー目が、金色?そんなはずはない。
「ごめんね、今まで、何もしてあげられなくて。
そして、世界の向こうから、私を見出してくれて、ありがとう。」
因果というパンドラの箱から、最後の中身が取り出される。
「あなたは…あなたも…『まどか』なの?」
「ねえ、ほむらちゃん。
希望も、奇跡も、確かに、あるんだよ?」
ほむらの「侵食する黒き翼」に対比するようにして、まどかの背中から純白の翼が生えていく。
トータス全土を覆う翼を、ほむらは幻視した。
その翼の名は「救済する白き翼」。
純白の羽、降り注ぐ。
神々しき唄、響く。
「鹿目まどかの名において命じるよー『希望を』!」
―*―
雲の中から降り注ぐ、ピンクの光、純白の翼。
「ご都合主義と言うべきか、まだ、希望はあったか…!」
ハジメは呵呵と大笑した。
手を振り仰ぐー見えない糸を束ねるように。
「そろそろ、決着をつける時だ。」
ハジメの周りに、純白の羽が、見えない糸で集められていく。
―*―
清水幸利は、座り込んだ。
「ははっ…
…ま、俺は俺だったってこった…」
もう、何もやることはない。そう悟った顔は、とても晴れ晴れとしていた。
―*―
天乃河光輝は、それまで、不安と後悔にさいなまれていた。
結局、中村恵理ー自分を一番、愛してくれる人ーすら助けられていなかった。それなのに、自分が世界を救いたいというエゴだけで、世界を救えるわけがない。
だけど、それでも彼は、力を借り、なんとかここまでやってきた。
しかし、今ならば。
羽に背中を押されている今ならば。
「俺を、最後に一度だけ、勇者にしてくれよ…神様!
行くぞ、恵理、龍太郎、鈴!
頼みます、タルト、リズ、メリッサ、エリザ!」
返事など、聞く必要もない。
誰も期待していなくても、自分が自分に期待し、希求するのだ。
だから。
4人の後ろの影が変形し、立ち上がるー護国の魔法少女と、その3人の仲間に。
光輝、恵理、龍太郎、鈴は、お互い手をつないだ。そして、中央の聖剣が浮かび上がる。
そして、魔法少女の霊が、口を開く。
「聖女ジャンヌダルクの名において命じますー『光よ』!」
その一言とともに、天高く、聖剣からの光が伸びていく。
雲の中に突き刺さる切っ先。
光輝、恵理、龍太郎、鈴は、聖剣に手を伸ばし、そして、力の限りに90度回転させた。
ガチャリと、開錠の音。
そして、地獄に、天国への門が開かれる。
「「「「「「「「ラ・ポルトゥ・ドゥ・パラディ!!!!!!!!」」」」」」」」
―*―
キュゥべえと話し、キュゥべえを滅ぼした香織だからこそ、それを視認できたのかもしれない。
「見えるよ…」
「何がだ?」
「ハジメくんが手繰ってる因果の糸の先。
神様。
白い、無数の輪っか。
たくさんの、笑顔…」
「ん…香織、大丈夫?」「ユエ、失礼よ。」
「ハジメくん、それはきっと、この宇宙の外側にあって重なろうとしてる。
そっと、引き寄せよ?」
「…ちなみに、思い切り引き寄せると?」
香織が、握った手を開くジェスチャーをする。
「そりゃ大変だ。」
冷や汗をかきつつも、ハジメは、クリスタルキーを虚空に刺して回転させると同時に、目に見えない糸を握る手を香織とつないだ。
「おいで。
もう、独りで頑張らなくてもいいから。
私が、ハジメくんと、大事なみんなと、『解放』するから。
だから、おいで…
…『円環の理』」
―*―
今なら、なんでもできそうな気がする。
魔法少女たちは、立ち上がった。
「うい、頑張って。」「うん、お姉ちゃん!」
環ういの掲げる両手の上に、色とりどりの光が、どこからともなくあふれ出す。
それは、世界を超えて「回収」される、今を生きる人々の、絶望を希望に変える力。
「ベテランさん、しっかり受け止めてね…」
里見灯花の「変換」と柊ねむの「具現」で、それは1つにまとめられる。
「ええ、任せなさい。」
七海やちよの固有魔法は「リーダーとして生き残る」ではなかった。「リーダーとしてみんなの希望を受け継ぐ」だった。
巨大な神槍が、やちよの上に斜め、砲身のように生成され、青く透き通って輝く。どこかそれは細長いグリーフシードのカタチに似ていたが、だとしたら球体部分にあるのは、太陽系第三惑星、だろうか。
「お姉さまも!」
そう言って灯花は、集まった力の一部を、いろはに「変換」して授けた。
そして、いろはの固有魔法は「治癒」ー
ーあらゆる願いには、その根底に、哀しみがある。
妹の病気が無くなること。
友達を運命から救うこと。
絶体絶命の中で生き抜くこと。
交わったすべての物語のすべての願いには、その根底に、哀しみ「こうでなければよかった」があり、だからこそ願い「こうであってくれ」がある。
解放の災厄とてそれは同じ。
邪神にもてあそばれる世界。
地球外生命にもてあそばれる少女の運命。
星から消えない哀しみの数だけ解放への願いがあり、それこそが「明日なんか来るな」という災厄を生んだ。
だから今放たれるのはー
ー「明日は、必ず来る。」という、希望。どんなことがあっても、明日は必ず来て、幸せはいつか訪れるという賛歌。
ありとあらゆるすべての哀しみの、治癒。
哀しみを癒す切なる希望の祈りは、いろはが弓を引いて手を離した瞬間、まっすぐ、飛び出した。
―*―
地獄は、天国へと呑み込まれていく。
哀しみは、希望に突き破られ、照らされている。
そしてハジメと香織は、つながれた右手と左手の中に輝くそれを、「錬成」で別のモノへ変質させ、汎次元平面の向こう側へと突き出した。
その概念魔法の名はー
―*―
雲が、光の門の向こうへと放逐された。
青空を仰ぐ災厄の上に、いろはの足場になっているのと同じピンクの魔法陣が咲き、希望を降らす。
天秤が、全世界へ散って行った。
妖精のようなシルエットが、災厄から分離して、消滅していく。
どこかに吸い込まれるように薄れゆき、暖かな光に包まれ、災厄の姿は遠くへ。
いつ災厄が無くなったのか、誰も気づくことはできなかった。
―*―
ーきっと、ありふれていて、ゆえに失われないものはある。
願う限り、それは最強にして、永遠だ。
契約の必要なんかない。
神の慈悲も要らない。
だから、あらゆるあまねく世界を、奇跡と希望と言う名の「愛情」が照らした。