ありふレコード ー いつかありふれていた魔王と異世界×魔法少女みたま☆マギカ 作:十二の子
1つ、魔物肉を食べたハジメたちは、身体が変化し、新たな技能と大幅なステータスアップに成功した!
2つ、ハジメたちは吸血姫ユエを救出し仲間にした!
そして3つ、神浜の魔女結界「鏡迷宮ミラーズ」を通り魔法少女がトータスに来ることができると判明した!
―*―
トータス/神浜
それからの、ハジメたちの迷宮攻略ペースは、飛躍的に加速した。
魔法について天才的な出力を誇るユエが張り切ったことも大きい。
また、神浜の魔法少女たちに「調整屋がこともあろうに異世界転移に巻き込まれたが、ミラーズの中で魔力を手鏡に込めてから鏡に入れば会える」という話が広められ、数十人いる魔法少女が(特に学校が終わる夕方)いれかわりたちかわり調整を受けに現れて協力していったことも大きい。
神浜では、大勢でトータスへ行き一挙に解決する案も出たが、反対者も多く、また何をどう解決すればいいかもわからないのでボツになった。
そして、そんなこんなで。
6人はついに、第100層にたどりついた。時間を知るすべがあまりないので、魔法少女の増援を求めることはなく、最後と思しき100層の攻略を行うことになった。
「全員分、できる限りの調整はしたわ。
死なないで。」
「ああ」「うん」「んっ」「ええ」「もちろん」
―*―
そのころ、神浜市では。
神浜中の神社を捜したが、「マチビト馬のウワサ」の神社は見つからないーそう思っていた矢先に、やちよが気付いた。
見つからないのは時間帯が悪い。
黄昏時ならば、縁結び伝説の水名神社が、ぴったりだ。
やちよ、いろはは、トータスからいくつかの伝言、そして小さなキュゥべえを確保したという連絡を持って帰ってきた鶴乃とともに、暗い水名神社へ侵入。
そして、絵馬に会いたい人の名前を書く。
「環うい」「梓みふゆ」
2礼。
2拍手。
1礼。
―*―
奈落100層に、転移陣と共に出現したのは、6つのクビを持ち、全長30メートルはあろうかと言う大蛇、つまりはヒュドラである。
ヒーラーの香織を後ろに、優花とユエが遠くから投剣と魔法、ハジメと雫が銃砲と刀で突っ込んでいく。
まず、赤黒い頭が大口を開いて火炎を吐き、黄色い頭が肥大化して赤い頭の前に結界を張る。
雫が火炎を真っ二つにして、ハジメが銃撃を浴びせるーが、銃弾はあわれ弾かれた。
ならばと、黄頭本体へ、魔法が注ぎ込まれる。
即時に黄頭は消滅したーが、白い頭がペカーと得意そうに光ることで、黄頭は気色悪くもグングン生えて再生した。
今度は、黄頭が白頭の前に出ていく。盾役が回復役をかばい続けるようでは厳しい。
「こうなったらまとめて吹き飛ばすか…」
「それは難しそうねぇ~魔力がどこからともなく供給されているわぁ~。」
壁際の目立たないところでソウルジェムをかざすみたまから、声が飛ぶ。
「あと、うわさによればオルクス大迷宮に出るのはナナクビよぉ~」
「まだ1つ、奥の手を隠してるってわけね!」
「いやぁああああ!!!」
ユエが、黒頭ににらまれ、頭を押さえ動けなくなった。
「お、おいどうした!?
香織、頼む!」
「うん!」
空中でお互いジャンプしながら2丁機関銃を投げ渡し、ハジメがユエに駆け寄る。
一方のユエは、幻覚を見させられていた。
ー「やあ、アレーティア」ー
「お、叔父、さま…」
ー「私が間違っていたさ。
さあ、私と一緒に来てくれないか?」ー
「でも、そんな…」
ー「私にも事情があって、アレーティアを封印してでも隠さざるを得なかったんだ。済まなかった。
だが、私たちマギウスに加われば」ー
「おい、ユエ?ユエ!?」
「違う。」
ー「おや?」ー
「私はもうその名前じゃないし、叔父様なんかもう選ばない!」
ー「何と哀しいことを。そうか、後ろの男だな?
その男がいつまでも、お前の支えであり続けられるとでも思っているのか?」ー
「私が好きだった、変わる前の叔父様は、そんなひどいこと、言わなかった!
だから、叔父様…
ううん、魔物、叔父様の姿で誘惑しないで!」
ー「残念だ、アレーティア。
マギウスにも、伝えておこうか?」ー
―*―
「うい…ういなの!?」
誰もいないと言うのに、いろはは、虚空へと必死に声をかけていた。
ー「運命を変えたいなら、神浜の鏡迷宮の向こうの世界へおいで」ー
「うい…?」
ー「運命を変えたいなら、神浜の鏡迷宮の向こうの世界へおいで」ー
いや、おかしい。
今まで魔法少女の幻覚に現れる環ういの言葉は「運命を変えたいなら、神浜市に来て。この町で魔法少女は救われるから」だったはず。
いろはは違和感にさいなまれたが、ともかく。
「違う…ういじゃない!」
一方のやちよもまた。
「本当に、みふゆなのよね?」
「やっちゃん、お久しぶりです。
確認もそこそこにして、ワタシのお願いを、聞いてくれませんか?」
「お願い?」
「ウワサの結界の現出は不安定なんです。手短に済ませましょう。
やっちゃん、あの世界はやっちゃんが思う以上に過酷なんです。ワタシたちがすべてを終わらせるまで、ここにいてくれませんか?」
「…どうして?そうしたら、ウワサがどんな被害を出すかわからない。どうしても?」
「どうしてもです。
ワタシは、もう、やっちゃんのところへ帰ることはできません。この空間に身体がなじみ過ぎてしまったから。
だから…
…来てくれないと、恨みますよ?」
「違う。
みふゆは、恨むなんて言わない。」
「…あら、残念です。
本当に。
でも、やっちゃん、信じていましたよ?」
「えっ…」
―*―
ーアラもう聞いた?誰から聞いた?
マチビト馬のそのウワサ
神社を奈落の底から支えるその神は、ファンシーでナイスなジェントル馬ン!
皆の願いを叶えるために、会いたい人に合わせてくれる粋なヤツ!
だけど残念、それは幻覚。気づいて否定しちゃったら、スバラシイ世界がナナクビに変わっちゃうって、オルクス大迷宮の人の間ではもっぱらのウワサ!
カッテスギー!ー
―*―
その瞬間。
オルクス大迷宮100層の壁が、無数の難読漢字で包まれた。
ユエの叔父の姿がほどけ、無数の水引になり、そして、ぼんやりとあらわになる絵馬を吊るしていく。
ヒュドラの後ろでは、7つ目の頭ー銀色ーががま首をもたげ、そして、その両側にピンクの車輪が生えた。
ガラガラ音を立て、車輪を器用に使い、ヒュドラが走り出す。
そこへ。
「やちよさん!」「ししょー、大丈夫…?」
どこからか現れたいろは、やちよ、鶴乃は、とっさにヒュドラへと戦闘態勢を取った。
「これが、『マチビト馬のウワサ』…?」
「ちげえよ。
アレはあくまで迷宮の魔物だ。どっちかっていうと、そのウワサってやつが魔物にとりついてやがる。」
ハジメが言う間にも、あちこちへ、「口寄せ絵馬のウワサ」が増え、空間を好き勝手に浮遊している。機動性を備えたヒュドラともども、やりたい放題だ。
「なるほど、魔力の供給源は、こっそり取り付いてたウワサだったのねぇ…いろはちゃん、小さなキュゥべえよ!」
「ありがとうございますみたまさん!
それとやちよさん」
「いつの間にかこんなに濁って…って、環さんもかなり濁ってるじゃない!」
「えへへ…でも、やちよさんのほうが濁っていたので…」
「私なんかのために…いえ、ありがとう。」
「さて…ユエ、大丈夫か?」
「うん…
…ハジメ、私を見捨てたり、しないよね?」
「ああ。…どんなことがあっても俺が帰る場所になってやる。」
「ん…もう、大丈夫。」
「よし。
香織、雫、優花、反撃だ!」
―*―
「やちよさんたちも急いで調整してから」
「その前に、事情を教えてくれるかしら?」
「…あなたも魔法少女みたいだけど、誰?」
「私は巴マミ。見滝原の魔法少女よ。」
「同じく見滝原の、暁美ほむらよ。」
「いきなり銃なんてむけて2人とも物騒ねぇ~。
やちよさん、調整は後回しみたい。」
「…仕方なさそうね…」
―*―
依然、戦いは拮抗している。
1000以上は飛来して増え続けている口寄せ絵馬のウワサが、ハジメの銃弾や雫の刀、優花のナイフやユエの魔法弾の前にテレポートのように出現して、身を挺してヒュドラを守り。
ヒュドラは自由に動き回り、マチビト馬のウワサがとりつく銀頭、そして白頭と黄頭が、回復や防御のバフを自らにかけている。
しかも。
「なにこれ…魔法少女側の攻撃が、全然聞いてない!?」
「神社を支えて願いをかなえる神様だからでしょう!願いの力じゃダメなのよ!
まったく、魔力が少なくて攻撃が魔女に通らなかった頃を思い出すわ!」
「そういう転校生はなんで…って、手榴弾!?」
「そいつは負けてられないな!錬成師特製手榴弾だ!」
「み、みたまさんから事情は聞いたけど、魔法少女より強いって…」
「…魔法少女になったばかりの鹿目さんと美樹さんをがっかりさせられないわね。年季なら私の方が長いわ!
ティロ」
「おい、巴マミ、だったか?借りるぞ!」
マミがリボンで作り出そうとした魔力砲を、ハジメが手をつき、錬成でコントロールを奪った。
「ちょっと、南雲君、何を」
マミがあわててリボンでハジメを縛ろうとするが、香織の縛光鎖が迎え撃つ。
「ユエ、力を貸してくれ!」
無数のひもがあたりをうろうろする中、ユエは、マミの砲の後ろへ。
「んっ!」
「やっちまえ!フィナーレだ!」
「それ私のセリフ!」
「『蒼天』!」
そして、青い豪熱が、走り抜けた。
必死に絵馬の数を削っていた雫、優花、いろは、やちよ、鶴乃、まどか、さやかが、一瞬手を止め振り向く。
グォン!
閃光がヒュドラを貫く。
6つの頭と胴体は、トータスの魔力で撃ち抜かれたうえで魔法少女の魔力をくらい、跡形もなかった。
銀色の頭だけが、ころりと転がる。
「やった、かしらぁ…?」
銀色の頭が、首を持ち上げた。
車輪で立ち上がる。
「ダメねぇ…」
マチビト馬のウワサは、胴体から切り離されたヒュドラの7つ目のクビを本体にして、復活した。
そして、天罰のごとき極光が、薙ぎ払うように、ウワサの口(?)から発射された。
―*―
「ハジメくん!?」「ハジメ…!」「南雲君!?「南雲っち!?」
とっさに、極光の射線に入り仲間を守ったハジメは、半身と片目を焼かれていた。
必死に治そうとしても、治りが遅い。神水ですら、だ。
「死なないで、いて…」
香織が、立ち上がった。
「私が、今度は、守る。」
ユエが、機関銃を手に取る。
「恩返しなんかじゃない。
香織、ライバルだから。」
優花が、さらっと爆弾を落としつつ前へ。
「そうね。
彼を失いそうになって、気付いたわ。」
雫までもが、刀を正眼に構えた。
「いくよみんな!」
―*―
同じように極光の直撃を受けた魔法少女組は。
避けることができなかった年季の浅い魔法少女であるいろはとまどかが、身体を真っ黒にされている。燃やされたのだ。
「環さん、返事して環さん!」
「まどか!もう、あなたを失いたくないの!」
やちよとほむらが、抱きしめ、泣きじゃくる。
いろはもまどかも、タイプは回復型。よって、オートヒールだけで魔力を消費し、ソウルジェムは、あっという間に真っ黒になった。
「そんな、これじゃあ、また、救えない…」
ほむらが、拳銃をまどかのソウルジェムに向けた時。
いろはの髪が、伸びた。
宙へと伸びた髪から、鳥のバケモノが姿を現す。
「わ、環さん…?」
「な、なんなの…これ…
…でも、胸の疲れが取れて…とにかく!」
白面顔のいろはを吊るし、鳥型は、一目散に、銀首マチビト馬の上へ。
そしてまた、まどかを包むように、ソウルジェムからあふれ出た黒い穢れが、ピンクの巨大ソウルジェム型に変わった。
巨大ソウルジェムが放つピンクのまばゆい光が当たった瞬間、空中を能天気に飛び回る口寄せ絵馬のウワサが、煙を上げてチリと消えた。
一方で、いろはの鳥形は、無数の髪(?)を上空から銀首マチビト馬に落とし圧殺せんとした。
鳥型が消滅し、やちよがジャンプでいろはを空中キャッチし壁を蹴って戻る。
銀首マチビト馬の両側から、車輪がからころ落ちてどこかへ転がっていった。
動けなくなった銀首は、それでも、神々しい雰囲気で、周囲を睥睨した。
―*―
あれは、魔女…?
鹿目さんから出た巨大なソウルジェムは、異世界だから、かもしれない。
だけど、環さんのアレはどう見たって…
「あなた、人間に化けた魔女だったのね!」
「ちょっ」
後は南雲君たち非魔法少女に任せてよさそうだし…私は、この魔女を、倒す!
「巴さん、あなた、何を…!」
「いろはちゃんが魔女!?何言ってるの!?そんなことはこの最強の魔法少女が」
「鶴乃ちゃん、やちよさん、私に、任せてください。」
「ふーん、なかなか、仲間想いの魔女なのね。
でも魔女は魔女!ここで終わりよ!」
―*―
これ、は…?
香織が、ユエが、雫が、優花が、俺のために、戦っている…
…こんなに、こんなに、みんなが、俺の大切な人たちが頑張っているのに、俺は何をしている?
立て、南雲ハジメ!
なんかしらんが力もあふれてるし、ちょうどいいものもあるじゃないか!
「もういっちょ借りるぞ!」
「またあなた!?」
「な、南雲さん!?」
魔法少女の大砲とクロスボウを、みたまに調整してもらってるときの感覚であわせて錬成、錬成、れんせいっ!!
ビーム?はっ、構うもんか。
「くらええぇぇっ!!」
―*―
ハジメの造り出した魔力砲(?)からの魔力ビームは、極光をものともせずに銀首を呑みこんだ。
これにて、ウワサはヒュドラごと完全に倒され。
ウワサの結界が、トータスから分離していく。
―*―
確実に、魔女になるはずだったのに。
この世界には、魔女にならない条件が隠されているかもしれない。
ならば。
ーこっちか。
私は、時間を止め。
そして、なんとなくこの辺りだと思ったあたりで、神浜の魔法少女たちと私たち+召喚された人たちの間に、爆弾をいくつもセットした。