麦わらの一味殲滅RTA〜夢を閉ざす者〜   作:敗北者

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幕間 宴の夜・月下の姉妹

 

 

「ホムラとシアの昇進を祝して! 乾杯!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

 わたしは休暇を使って久しぶりにフーシャ村へと帰ってきていた。もちろんシアも一緒。名目としては、マキノお姉ちゃんへのわたしとシアの昇進の報告だ。

 

「それにしてもすげーよな、タイヤとチュウニだっけ? よくわかんねぇけどすげー!」

 

「大佐と中佐よ、ルフィ。本当にすごいのよ? わかってるのかしら……」

 

 わたしが大佐、シアが中佐。それを祝ってマキノお姉ちゃんがたくさんの料理を用意してくれて、お兄ちゃんとエースにダダンさんたち、それに村長さんや村の人たちも来てくれた。これだけ多くの人が祝ってくれるのは、とても嬉しい。思わず頬が緩みそうになるけれど、我慢する。わたしはクール系を目指しているのだ。

 部下のみんなやおじいちゃんも祝ってくれたけど、部下たちは遠慮して船に残り、おじいちゃんは仕事でこの場には来れなかった。

 残念。

 

 新兵を卒業して海軍に正式入隊してからかれこれ一年。とんでもないスピード昇進だとおじいちゃんは喜んだけど、わたしはあまり実感がわかなかった。

 わたしもシアも、ただ航海のいく先々で悪さをする海賊を片っ端から捕まえていただけだ。そしたら、階級が勝手に上がっていった。

 

 今は、大海賊時代とかいう時代だ。この時代に生まれたわたしにはよくわからないけれど、昔に比べると海賊が何倍も多いという。その分だけ、無辜の一般市民が危険に晒されていて多くの海兵が必要とされる時代。

 だからこそ、わたしたちはすぐに階級を上げられたのだろう。海軍は実力主義だ。強ければ強いほどその強さに相応しい階級が付いてくる。掃いて捨てるほどたくさんいる海賊を捕まえれば捕まえるほど階級は上がるのだ。大海賊時代だからこそのスピード昇進だろう。

 

 別にわたしは誰よりも強いとかうぬぼれる訳ではない。現にゼファー先生やおじいちゃんには、模擬戦で良いところまではいってもまだ勝てたことはないのだ。

 中将のおじいちゃんや教官のゼファー先生に勝てないのだから、それより上の海軍大将にはもっと遠く及ばないと思う。それでも、多分それなりには強いのだろう。でなきゃ大佐になんてなれっこない。

 最強の海兵になるという夢は果てし無く遠いけど、なんだかんだでわたしはまだ12歳。まだまだ強くなれるはず。「よし」と目標を再確認して気合を入れ直す。

 

 とはいえ、今はご飯だ。給料をもらうようになっていろいろな美味しいものを食べて来たけど、なんだかんだでやっぱりマキノお姉ちゃんの手料理が一番好き。特に、シチューは絶品だ。

 

「たくさん食べてね」

 

「ん」

 

「りんごジュースもあるわよ」

 

「のむ」

 

 マキノお姉ちゃんがりんごジュースを持ってきてくれた。りんごジュースは好きだ。とても美味しい。オレンジジュースも捨てがたいけれど、わたしはこっちの方が好き。

 お酒は嫌いだ。苦くて、まずい。良いところなんて何もない。

 

「アップルパイもあるわよ」

 

「たべる」

 

 アップルパイもとても好き。美味しいものに囲まれて幸せ。

 

 お兄ちゃんやエースみたいにたくさん食べることができないのが、とても悔しい。マキノお姉ちゃんの料理をたくさん食べたいのに、このままだとすぐにお腹がいっぱいになってしまいそうだった。

 二人はなんであんなに食べられるのだろうか? 羨ましい。

 

 そんなことを考えながら黙々とご飯を食べていると、エースが口を開いた。

 

「ホムラが大佐で、シアが中佐か。早いもんだな。おれも早く海賊になりてぇよ」

 

「エース君とルフィ君が出航するのは17歳になってからだっけ?」

 

「ああ、そのよて……ぐがー」

 

「エース君が急に死んだー!?」

 

「……!?」

 

「ふふ……眠ってるだけよ」

 

 エースが急に頭を皿に沈めてびっくりした。死んだかと思ったけど、マキノお姉ちゃんが言うには眠っているようだ。マキノお姉ちゃんが知っているということは、今までにも何度も同じことがあったのだろう。……変な癖。

 

 それにしても、エースとルフィは相変わらず海賊を目指しているらしい。できれば海賊になるのはやめてほしいのだけど……もうこれは無理だな、と今となっては完全に諦めてしまった。なにせ、もう五年前からずっとこれを言ってるのだ。どうしようもない。もはや病気である。

 

「ねぇ、シアはどうするの?」

 

「ん? 何のこと?」

 

「お兄ちゃんたちが、海賊になったら」

 

「……捕まえるよ。悪いことしたら止めなきゃ。友達だもん」

 

「そっか」

 

 まっすぐな瞳で答えるシアは、やっぱりすごい。わたしがまだ幼かった頃の、シャンクスとの約束。その答えは今になってもまだまだ、わたしには出せそうにはない。だけど、シアはしっかりと自分の答えを持っている。

 

「……友達だからこそ……」

 

 わたしはお兄ちゃんやエースを捕まえることができるのだろうか。お兄ちゃんは家族だし、エースもまぁ……家族みたいなものだ。そんな二人を、わたしは他の海賊たちと同じようにインペルダウンに放りこめるのだろうか。

 

 今まで出会ってきた海賊は全てが間違いなく悪だった。だから何の葛藤もなく捕らえてきた。

 だけど、もし完全に悪と言い切れない……シャンクスのような良い海賊がいたとしたら、わたしはその時どうするのだろうか。シャンクスだけが例外だったのかもしれないけれど、他にも良い海賊がいる可能性はある。

 

 もしかしたら、海賊になったお兄ちゃんやエースと相対することになるかもしれない。もし仮に、二人が間違いなく悪と言える海賊になっていたら、迷うことはきっとないと思う。わたしだって、大佐にもなった海兵だ。相手が悪人なら家族や友達でも毅然と対応できる……はず。

 

 だけどこの二人が今まで見てきたような悪い海賊になるとは、家族としての贔屓目なしに考えてありえないと思う。果たしてそれは、悪なのだろうか。海賊だからと、悪と決めつけていい理由になるのだろうか。

 

 シャンクスと再会するのが先か……それとも、海兵と海賊として二人と出会うのが先か。

 

 どちらにせよ、その日はそれほど遠くない未来になる気がする。

 

「何が悪で何が正義か……自分で決める……」

 

 そのときにわたしは答えが出せるのだろうか。

 

「はぁ……やっぱり難しい」

 

 今はまだ、無理かもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ホムラ、悩みごと?」

 

「マキノお姉ちゃん……?」

 

 宴会が終わって、お兄ちゃんたちがコルボ山に帰り、村長さんたちもそれぞれの家に帰った。マキノお姉ちゃんの家に残ったのはわたしとシアだけで、すでにシアも眠りについた。

 

 だけどわたしは何となく眠れなくて、ぼうっと夜空に浮かぶ月を眺めていた。そしたら、心配そうな顔をしたマキノお姉ちゃんが部屋を訪ねて来た。

 

「何かあるなら、話して? 悩みでも、困っていることでも、何でもいいわ。ホムラの力になりたいの」

 

「……」

 

 マキノお姉ちゃんになら、話してもいいかな……。相談できるのなら、したい。一人で考え続けるのは苦しい。

 でも、これに関しては自分で考えなくちゃいけないってシャンクスも言ってたことだし……。

 

「……話せない?」

 

 マキノお姉ちゃんの顔が悲しそうに曇る。そんな顔をさせたくないのに。心が痛い。

 

「……」

 

 わたしが黙っていると、マキノお姉ちゃんがベッドに腰掛けるわたしの後ろに回って抱き締めてくれる。この歳になってこんな子どもみたいな扱いは恥ずかしいけれど、マキノお姉ちゃんの側はどうしようもなく落ち着く。この匂いに包まれると、リラックスできるのだ。懐かしさとか、マキノお姉ちゃんの優しい人柄によるものだと思うけど……やっぱりとても恥ずかしくて顔に熱が集まってくるのを感じる。

 

 抜け出そうとすると、抱きしめる力を強くされた。逃げられない。

 

「いいのよ。話せないこともあると思うわ」

 

「ごめん。……自分で考えなくちゃいけないことなの」

 

「そうなのね……大切なことなの?」

 

「……ん」

 

「そっか」

 

 マキノお姉ちゃんが離れていく。怒らせてしまっただろうか。喧嘩とか、絶対にいやだ。謝ったら許してくれるかな……。

 

「……怒った?」

 

「え? ふふ……そんなことないわ。大丈夫よ」

 

 どうやら怒っていないみたいだ。よかった。すごくホッとした。もしマキノお姉ちゃんと喧嘩になったら辛すぎて死んでしまうかもしれない。

 

 マキノお姉ちゃんは部屋の隅の棚から、瓶に入ったお酒を取って戻ってきた。

 

「……お酒?」

 

「そうよ」

 

「飲むの?」

 

「ええ……はい、ホムラのぶん」

 

 瓶と一緒に持ってきた二つの盃に、それぞれお酒が注がれる。マキノお姉ちゃんは片方の盃をわたしの方に差し出すと、もう一つの盃を手に取った。

 

「作法は詳しくはわからないけど……」

 

「もしかして、兄弟盃?」

 

「あたり。一緒にどうかしら?」

 

 もちろん嫌なわけがない。むしろ、マキノお姉ちゃんとこの盃を交わすのはとても嬉しい。だけど……。

 

「……なんで急に?」

 

「理由なんていらないわ。私とホムラの仲でしょ?」

 

「それは、そうだけど……」

 

「嫌なの?」

 

「……! 嫌じゃないよ!」

 

「ふふ……意地悪だったかしら? そうね……理由を付けるとしたら、ホムラが悩んでいるからよ」

 

 わたしが悩んでいるから……? 

 

「ホムラが何を悩んでいるのかはわからないけど……私はずっとホムラの味方。何があっても。この盃は、その証よ」

 

 どうしてマキノお姉ちゃんはこんなに優しいのだろうか。こんなに素敵なお姉ちゃんがいて、わたしは幸せ者だ。なんだか、涙が出てしまいそうだった。

 でも、わたしはもしかしたらそんなマキノお姉ちゃんのことを裏切ってしまうかもしれない。わたしと同じぐらい、マキノお姉ちゃんにとってもお兄ちゃんのことは大切なはずなのだ。

 

「……もしわたしがお兄ちゃんのことを捕まえちゃっても……? 恨んだりしない?」

 

 マキノお姉ちゃんが納得したような表情をする。わたしが何に悩んでいたのか、なんとなく察しはついていたらしい。

 

「ええ、もしそうなっても……私はホムラの味方よ、恨んだりもしないわ」

 

「……本当に?」

 

「もちろん。……あ、でも。一応、私はルフィの味方でもあるわ」

 

「どっちなの……?」

 

「それは当然……どっちもよ!」

 

「ふふ……何それ」

 

「あ、やっと笑ったわね。元気出たかしら?」

 

「ん、ありがと。励ましてくれて」

 

「いいのよ。お姉ちゃんだもの!」

 

 マキノお姉ちゃんにひっつく。やっぱり、この匂いがわたしはとても好きだ。

 

「ねえ、お姉ちゃん。今日は一緒に寝よ?」

 

「あら、甘えん坊な妹ね」

 

「だめ?」

 

「ふふ……一緒に寝ましょう、ホムラ」

 

「やった」

 

 マキノお姉ちゃんと一緒に月を眺めながら飲んだお酒は、苦かったけど、なんだかとても美味しく感じた。

 

 大嫌いなお酒が、少しだけ好きになった。

 

 

 

 

 

 

 




こういう真面目な話を書くのが、中二病を曝け出すのより恥ずかしいのは何故なのか……これがわからない。
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