柱島泊地備忘録   作:まちた

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十一話 評価【提督side】

 泣き出したゴーヤを宥めようとした俺だったが、それよりも早く「待ってて欲しいでち! すぐに皆を呼んでくるから!」と執務室から出て行かれてしまって、取り残されてしまった。

 泣きたいのは俺でち。

 

「……泣くくらいなら断れよぉ」

 

 誰もいなくなった執務室で呟く。

 既に色々と投げ出したい気持ちになってきているが、俺の双肩には人類の存亡がかかっているのだ。ブラックな営業で鍛えられたゴマすりで機嫌を取ってやろうじゃないか。大丈夫……まだ、戦える……!

 

 まだ、というか着任初日だから序盤も序盤なのだが。

 

「それにしても、艦娘、なぁ……」

 

 無意識に零れ落ちる独り言。

 

 大淀と夕立が集めた艦娘はざっと見ただけで百隻以上。講堂に詰め込まれていた艦娘を見て思い出に浸ったりしてしまったが、冷静になって考えると、先程執務室を出て行ったゴーヤも、ゴーヤの仲間たちも、ほかの皆も――この世界の他の提督によって傷ついた艦娘なのか。

 同人などでよく見かけた《ブラック鎮守府》と呼ばれるような場所で過酷な労働に従事させられていたのは想像に難くないが、現実の女性があそこまで怯えたり、敵意をむき出しにしたりするなんてよっぽどではないか?

 

 ゴーヤが言っていた潜水艦たちの扱いも、オリョールクルージングと呼ばれる資材集めの一環としては良くあるものに聞こえたが、補給無しというところが引っかかる。

 

 《艦隊これくしょん》において補給とは艦娘にとっての食事であると認識している。とすれば、ゴーヤたちがいた鎮守府では食事を一切させずに仕事をさせていたに等しい。艦娘は頑丈であるのは何となく理解できるが、人間ならば数日もしないうちに倒れてしまう。

 

「飯……そうだな、やっぱ、飯だよな」

 

 案内してもらいながら、機嫌を取って、食事をさせてゆっくり休ませる。それが先決だろう。

 

「さて、そうと決まれば話は早いな。っと……その前に」

 

 鎮守府に到着してすぐに電話がかかってきたり講堂で挨拶する羽目になったりして、執務室を見回ることすら出来なかったのを思い出す。

 俺はデスクに戻り椅子に座ると、デスクにいくつか備え付けられた引き出しをひとつひとつ開けていく。何も入ってないとは思うが、一応な。今後は色々と詰め込まれるだろうし――

 

 上段中央に一つ、右手に三段引き出しがある。右手の一番上の引き出しは鍵付きで、開けばそこには鍵が入っていた。

 ポケットに突っ込んだままの紅紙を取り出して鍵と入れ替わりにしまい込み、そのまま閉じる。

 

 その他の引き出しには、やはり何も入っていなかった。当たり前か。

 

「さ、て、さ、て……他には……」

 

 おっさんになると独り言が増える。悲しい。

 それはさておき。

 座った状態でキコキコと椅子を左右に回しつつ部屋にあるキャビネットやら本棚やらを眺めてゴーヤたちが来るのを待つが……流石にすぐには来な……

 

「お待たせでちぃー!」

 

 バターン! と盛大に扉を開けるゴーヤに驚いて、椅子から滑り落ちそうになる。

 ゴーヤに背を向ける形で椅子が半回転したお陰で情けない姿は見られていないと思うが、万が一にもダサい恰好を見られてしまうわけにはいかないので威厳スイッチオン。

 背もたれを向けた状態のまま、静かに「うむ」と答えておく。威厳スイッチ《う》である。

 

 ちなみに、威厳スイッチは五十音あり……いやそれはいいか。

 

 ゆっくりと振り向き、入室してきたゴーヤと、連れてこられた潜水艦たちを見る。

 

 そこには、ゴーヤの外、伊八、伊二十六、伊四十七、そしてリーダーらしい伊百六十八の姿があった。

 伊十九はいないのか……。あ、いや、別にだからどうこうでは無いんだけど。

 

 不埒な考えが浮かぶ前に咳払いを一つして、俺は伊百六十八――イムヤに声をかける。

 

「お前がイムヤだな」

 

「は、はいっ」

 

「ふむ……」

 

 上から下までまじまじと見る。うーん、スクール水着にセーラー服。何度見ても危ない感じがする。

 まぁ、それを言ったら潜水艦は全員スクール水着なので、執務室にスク水少女が五人いるというだけで危うい雰囲気がたっぷりなのだが。

 

 イムヤを見終われば、次にニム、ヨナ、はっちゃんと見て、損傷が無いのを確認し、一息。

 

「ふぅ……安心した。損傷が残っていたら先に入渠に行かせるところだった」

 

「安心……ですか?」

 

 訝し気に声を上げたイムヤに、俺は軍帽を脱ぎ、デスクに置きながら答える。

 

「ゴーヤから話を聞いて心配していたんだ。イムヤに無理はさせたくない、と」

 

 そう言うと、イムヤは目を丸くしてゴーヤを見る。

 ゴーヤは「提督なら、お話を聞いてもらえると思ったんでち……勝手に、ごめんね」と申し訳なさそうに謝罪していた。

 

「そっか……ありがとう、ゴーヤ。でも、私は資材を集めることくらいしか役に立てないから……もう、大丈――」

 

「聞き捨てならんな、イムヤ」

 

「えっ」

 

 思わず口を挟んでしまった……仲間内の話に他人が首を突っ込んでくること程疎ましいことはないだろうが、艦これプレイヤーの性である……。

 ご機嫌取りをするどころか、嫌われてしまいかねない行動であると自覚もあるものの、言わずにはいられない。

 

 資材を集めることくらいしか役に立てない?

 この世界はどうなってるんだ。おかしい。おかしすぎるッ!

 

「潜水艦は確かに資材収集に大いに役立つが、くらい、とは何だ」

 

「あっ、え、っと……そのぉ……」

 

 艦隊これくしょんで潜水艦は扱いにくい艦種だった。資材を集めながらレベリングが出来る反面、活躍できる場所は限られる。オリョールクルージングやバシークルージング、キスクルージングやカレークルージングと呼ばれる資材周回ばかりに出撃させる提督が多いのも事実。

 だが、潜水艦はそれ以上に有用性が高い艦娘だ。

 

「対潜装備を備えた艦に対しては被弾率が倍増し、中破大破しやすいのは事実だが、それは逆を言えば『対潜能力を有していない艦』からの攻撃は一切受け付けないという事だ。分かるか? 恐ろしい火力を持つ戦艦であろうが、針穴に糸を通すような精密な砲撃を行う重巡であろうが、潜水艦にとってはただの的に過ぎん」

 

「ぇ、あ……」

 

「空母の夥しい数の艦載機が空を埋め尽くしたとしても、お前たちには攻撃が届くことはほぼ無い。駆逐艦や軽巡洋艦、雷巡はお前たちのような潜水艦がいると分かれば最大限の警戒をもってお前たちを先に攻撃するだろう。デコイと言えば聞こえは悪いが、お前たちにはそれだけの力があるのだ。その駆逐艦や軽巡、雷巡もお前たちの先制雷撃の餌食になってしまえば……言わずとも、分かるな?」

 

「……」

 

 扱いにくいと言えばそれまでだが、言い換えれば繊細な扱いを必要とする艦なのだ。

 その繊細さに面倒を感じて放置することもあろうが、潜水艦に〝くらい〟などという表現は似合わない。

 艦隊これくしょんにおいて最凶最悪とまで呼ばれた《第二次サーモン海域》では、潜水艦の存在が勝利を分けたと言っても過言ではない。

 今でこそ弾着観測射撃や夜戦装備などを駆使すれば突破できる海域となっているが、それでも潜水艦は強いのだ! 凄いのだ!

 

 入渠時間が短いというのも魅力である。周回をする際の入渠時間の管理というのは、それはもう手間だった。所持艦娘が少なかった俺は出来る限り入渠時間が長くならないよう、高速修復材を無駄遣いしないよう注意を払ってプレイしていたものだ……。

 

 ――っは……!

 

 何をやっているんだ俺は……案内してもらって飯を食うだけのはずが、潜水艦を呼びつけて無駄なことをだらだらと……!

 これでは説教している面倒なおっさんではないか……くそ、やってしまった……ッ!

 あ、謝らねば……人類が亡ぶ……ッ!

 

「す、すまない。つい、変な話をしてしまった……気を悪くしただろう――」

 

「ひっ……ひぐっ……う、うわぁぁぁん! あぁぁああん!」

「でちぃぃ……! うぇぇぇん……!」

「そ、そんなっ、こと、い、言って、もら……うえぇぇえん!」

「うぅっ……ぐすっ、ぐすっ……」

「っ……」

 

 あ艦これェェッ! 五人も一気に泣かせてしまったァァァッ!

 人類破滅待った無し! ワレアオバ! ワレアオバァァァァッ!

 

 褒めろ! なんでもいいから褒められる所を思い出せ俺! 艦これ知識をフル稼働しろォッ!

 

「あっ、まっ、な、泣くな! マテ! そ、そうだ、お前たちの資材収集能力は凄いものがある! 否定したかった訳ではないのだ! お前たちの働きは鎮守府の運営に大きく貢献していたことだろう!」

 

 ダメだッ! 俺も潜水艦を酷使して資材周回ばっかしてたから褒めるとこがそこしか無ェッ!

 ごめん、井之上さん……人類は終わったよ……。

 

 諦めの境地である。

 俺は静かに立ち上がり、軍帽を深くかぶりなおして潜水艦たちへ歩み寄る。

 

 胸板にも届かない小さな潜水艦たちの前までやってくると、土下座すべく右膝から地面に――

 

「し、しれい、かんっ……うぐっ、うっうっ……うぅぅぅぅっっ!」

 

 片膝をついた状態の俺に、何故かイムヤが抱き着いてきた。

 えっ、ナニコレ、このまま俺の頭、潰されちゃうのか……?

 艦娘パワーで、ぷちゅんってされるのか……?

 

 イムヤだけではなく、右から左から、回り込んで背後からもニムやヨナ、はっちゃんにゴーヤまで手を回してきた。

 俺はまたいつか、皆さんに会える日を夢見て……深く潜る……あっ……やぁらかい……。

 

 数秒、十数秒としても潰される気配は無い。

 潰される事を恐れて腕を広げ、全員に手を回した格好のまま、数分。

 四方八方から聞こえ続ける泣き声に頭はパンク寸前である。大淀助けて。

 

 それからもう数分経つ頃、疲れと緊張はピークに達し――俺は考える事をやめた。

 

 もうだめだ、なるようになる。人類が滅亡しても俺は悪くない。

 こうなったら死ぬ前に一回くらいは間宮の飯を食ってやる。絶対に……絶対にだ!

 

 

 

「……全員、落ち着いたか」

 

 俺の声に、未だにすんすんと鼻を鳴らしながらではあったが、全員が離れてくれた。

 

「ごめんなさい、司令官、その、つい」

 

 イムヤの謝罪に対し、俺は首を緩く横に振って見せた。

 

「私は何も見ていないとも」

 

 そう、俺は何も見ていないし思い出したくない。覚えてないことにしておく。

 着任初日に潜水艦を五人も泣かせた挙句に頭を潰されかけたなど記憶しておきたくない。怖い。

 

 膝をつきっぱなしだったので足も痺れかけている。

 俺は立ち上がり、膝をぱっぱっと払うと、現実逃避すべく「さて……仕事を頼む」と言った。

 潜水艦たちの意識を少しでも俺から逸らすのだ。何としてもッ……!

 現実逃避の方法が仕事というあたり、未だにブラック企業で戦っていた精鋭たる精神が抜けていない俺も俺だが、今はいいか……。

 

「ぐすっ……うん、よしっ! もう大丈夫でち!」

「ヨナも、大丈夫」

「うんっ! ね、はっちゃん?」

「……ん」

 

「それじゃあ司令官、私たちが鎮守府を案内してあげる! さぁ出撃よ。伊号潜水艦の力、見ててよね!」

 

「うむ。期待しているぞ」

 

 もう伊号潜水艦の力の波動は感じたから緩めにお願いしたいが、ここは黙っておく。

 おれはかしこいんだ。

 

 かくして、伊号潜水艦たちの鎮守府案内が始まった。

 

 

* * *

 

 

 鎮守府は俺が想像していたよりもはるかに大きく、広大な敷地を有していた。

 俺の職場の中でもメインとなる執務室がある赤レンガの建造物は《中央棟》として独立しており、それを囲むような形で倉庫区が広がっていた。資材を管理するための倉庫ということらしいが、それにしても数が多いのが印象的だった。全てに資材が詰め込まれている訳ではないだろうが、後日大淀に確認を手伝ってもらおう。俺が生きてたら。

 

 倉庫区を抜ければ、工廠区画があった。渡り廊下のようなものがあり、入渠施設と繋がっているらしい。

 流石の潜水艦。どの艦娘よりも短い入渠時間だが、入渠回数は比にならないだろうから、先に確認していたのかもしれない。

 

 そして、工廠区画と入渠施設の向こう側に艦娘たちの住まう寮があった。

 いくつかの棟に分けられており、空母と戦艦、重巡と軽巡、駆逐艦、そして自分たち潜水艦や明石などの工作艦の部屋がある四棟があるのだと説明してくれた。

 駆逐艦で丸々一棟使うとは……なんという数だ……と思ったが、講堂の出来事を思い出せば、半分に迫る数いたのだから、あれくらいは必要か、と素朴な感想を抱く。

 

 それから、一周する形で中央棟に戻ってきた俺達一行。

 簡単な案内だったが、これで迷子になるという珍事件を起こさずに済む。

 

「案内、ご苦労だった。これで安心して執務に励める」

 

 ちゃんとお礼も忘れない。

 お礼を忘れようものなら、海のスナイパーイムヤに今度こそ頭をぶち抜かれてしまうだろう。

 

「まだ終わってないよ司令官?」

「そうでち!」

 

 イムヤとゴーヤの言葉に背筋が凍りつく。

 まだ、終わってない……? 残業ですか……? それともやっぱり俺を――

 

「ご飯、食べるんだよね……?」

 

「あ、あぁ、そうだ、そうだったな。忘れていた……仕事のことばかり考えてしまって、すまない」

 

 はっちゃんの声にはっとする。はっちゃんだけに。

 おっさんだから許されるギャグである。おっさん以外がやったら空母の群れに放り込まれるから気を付けた方がいいだろう。

 いやそうじゃない。俺はいつまで混乱しているんだ。

 

 いつのまにやら元気になった潜水艦たちに「ごっはん~! ごっはん~!」と腕を引っ張られながら中央棟の中へ。それは夕立の専売特許じゃないのかという疑念も呑み込む。おれはかしこいので。

 

 どうやら食堂は中央棟にあったらしく、案内されたのは執務室のある方向とは真逆の場所だった。

 近づくにつれ、ふわりと良い匂いが漂ってくる。

 スライド式の扉の前まで来れば、その上にはしっかりと【食堂】という看板があった。

 おぉ……やっと……飯が食える……死ぬ前に間宮の飯が……。

 

 がらがらと音を立てて扉を滑らせれば、良い匂いは一層濃くなって鼻腔をくすぐった。

 

「あら、提督。早速来ていただけたのですね」

「一番乗りですねっ」

 

 室内には長卓と椅子がずらりと並び、社員食堂のような雰囲気である。

 入口から見て右手が調理場となっており、カウンターで仕切ってあり、中からは間宮と伊良湖の姿が窺えた。割烹着と相まって風景に馴染んでいる姿に、ほぉ、と息が漏れてしまう。

 

「司令官、何食べる?」

「ゴーヤは提督と同じメニューにするでち!」

「ヨナも……同じのがいい。同じ、メニュー」

「シュトーレン……」

「はっちゃん、それはご飯では無いでち……」

 

 一気に話しかけないで。お願い。俺の耳は二つしかないんだ。

 

「ふむ……間宮、メニューは何がある?」

 

「コンロの火を馴染ませるために魚を焼いていたんですが、焼き魚定食、なんてどうでしょう? それ以外でも、少し待っていただければ――」

 

「魚か……いいな。海の幸を鎮守府で、とは、粋じゃないか」

 

「っふふ、提督は何でも褒めてくださるのですね」

 

 なんでも褒めなきゃ人類が滅ぶだろうがッ!

 まあ、言った事は嘘などではない。

 

 適当な席に腰を落ち着けると、イムヤ達は俺を囲むように座った。

 右手にイムヤ、左手にゴーヤ、正面にヨナとニムとはっちゃん。もちろん、全員スクール水着だ。

 絶望的に食堂に合わない光景だが、艦これでは日常茶飯事である。

 

「出来ましたよ、提督。熱いうちにどうぞ」

 

 早いな!? 座って一分くらいしか経ってないぞ!?

 驚きは顔に出さず、クールに言葉だけで表す。威厳スイッチ《す》である。

 

「素晴らしい早さだな。流石、給糧艦だ」

 

「私と伊良湖ちゃんの戦場、ですからね」

 

 ニッコリと微笑んで六人分の焼き魚定食を並べた間宮は、再び調理場へ戻っていく。

 それを見届け、俺は早速両手を合わせた。

 

「いただきます」

 

「「「「「いただきま~すっ」」」」」

 

 こういう場での食事こそマナーを見られる――かもしれないので、一応気を付けて箸を運ぶ。

 まずは汁物を一口。ありふれた味噌汁だが、一口含むと、程よい塩気と味噌の甘味が口いっぱいに広がり、じんわりと舌を温める。飲み込めば、温かさが食道を通っていくのが分かった。

 そしてご飯。白米ではなく玄米だった。柔らかく炊かれた白飯も悪くないが、しっかりとした歯ごたえのある玄米も味噌汁の後味に合う。

 主菜の魚も絶妙な焼き加減で、箸が触れるだけでほろほろと身が骨から外れていく。

 なんと幸福な時間か……簡単かつ単純な料理とは言え、人の作った食事は荒んだ心をどこまでも優しく癒してくれる……。

 

 感動しながら食事を噛みしめる事に集中する俺。なんだか騒がしくなってきているが、気にする余裕は一切無かった。

 腹も減ってたからな……。

 

「司令官、凄く綺麗に食べるのね……お魚そんなに好きなの?」

 

 イムヤの問いに「あぁ、好きだぞ」と短く答えつつ、漬物もいただく。美味い、美味いぞッ……!

 間宮と伊良湖に仕事を任せて大正解だった。

 

「間宮~、飯ぃ~」

 

 がらら、っと扉が開く音。続く「げぇっ!?」という声。

 その後も続々と「て、提督っ……」などと聞こえ、何なんだと顔を上げれば、入口からなだれ込んでくる艦娘の群れ。戦艦、空母、重巡に軽巡、駆逐艦も勢ぞろいである。

 そうか、皆も食事をしていなかったのだな、と一人納得し「先にいただいてるぞ」と一言。

 何人も俺の食事の邪魔はさせるつもり無いがな――!

 

 と、食事を再開しかけた矢先に、また扉の開く音。

 今度は誰が来たのだろうかと見てみれば、大淀と夕立だった。

 

 あっ、一緒に食べようって言ってたのに忘れてた……。ま、いいか。

 

 もう執務室でイムヤたちを泣かせてしまった俺に未来は無い。今ある幸福を最大限に噛みしめて、後悔の無いように生きると決めたのだ。すまんな人類。

 

「おぉ、遅かったな。先にいただいてるぞ」

 

「てっ、提督!」

「提督さん!」

 

 人はこれを開き直りと言うのである。

 

「間宮たちは凄いな。この食事を一瞬で用意したんだ。大淀も夕立も早く来い、美味いぞ」

 

「え、あっ、あの、はぁ……」

 

 大淀はどうやら信じていない様子だった。

 嘘じゃないんだぞ。一分もしないうちに六人分の定食を運んできたんだからな。本当だぞ。

 

 にしても、想像しか出来なかった艦これ世界が目の前に広がっているというのは、何度見ても面白いものだ。

 百を超える艦娘が大きな食堂を埋め尽くし、ああだこうだと言いながら食事をする――未だに夢を見ているようだと思ってしまう。

 

「てーとく! ゴーヤのおかずを分けてあげるでち!」

「あっ、ゴーヤずるいよ! はい、提督、ニムのもあげる!」

「ヨナのも食べる~?」

「はっちゃんのも……」

「皆! 司令官が困っちゃうでしょ! ごめんね司令官、こうやって食事を一緒にとるなんて無いから、皆はしゃいじゃって……」

 

 魚が好きと言ったのが悪かったのか、イムヤたちがこぞって俺の皿に焼き魚を置こうとする。

 賑やかな食事は嫌いじゃないが、焼き魚はそんなにいらない。美味いけども。

 

「構わん。これからも同じ釜の飯を食うんだからな。私のことはいいから、ほら、皆食べなさい」

 

「「「「「は~い!」」」」」

 

 適当にあしらってから、改めて自分の焼き魚を食べる。

 

「この焼き魚、美味いな……間宮にまた作ってもらえるよう頼んでみるか」

 

 ぽつりと呟き、俺は食事を楽しんだ。

 

 何やら龍驤から話しかけられたが、全て適当に受け答えしておいた。

 ごちそうさま、と俺が顔を上げた時には、俺が適当に受け答えしてしまったからか、全員が泣いていた。

 泣き止んだと思ったイムヤたちまで箸を止めて泣いていたし、調理場の方を見たら間宮も伊良湖も泣いていた。

 

 ヤバイ。食事に集中し過ぎて何を言ったか覚えていないが、また泣かせてしまった。

 

 人類は終わった――――――ッ! 完ッ!

 

 俺は胸中で井之上さんに全力で土下座しまくった。

 

 ごめん井之上さん、来世で会おう、と。




日刊ランキングという、縁の無いと思っていたものに載っていて驚きました……。
この作品を読んでくださっている皆様に感謝を……本当にありがとうございます!

(今更タグが妙な事になっていたのに気づいたのでアンチ・ヘイトを外しました。大変失礼いたしました)

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