柱島泊地備忘録   作:まちた

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三十話 訪問②【提督side】

「ひぐっ……ごめ、なさい……長門さん……私たちが、いながら……っ」

 

「僕たちを逃がすために、も、もう、うっ、ぐ……」

 

「……辛かったな。神風、松風」

 

 俺の目の前でしゃがみ、駆逐艦二人を正面から抱きしめ先輩風を吹かしているのか圧をかけているのか分からない長門を見ながら――

 

「――……少し待て」

 

 ――必死に神風と松風の情報を把握しようと、あきつ丸の集めた情報が書き込まれた書類を見ていた。

 いかん、くそっ……! 訪問直後に長門の戦艦パワーで駆逐艦を泣かせたとあらば山元大佐に何を言われるか分かったものではない! こいつは俺の仕事を手伝いに来たのか邪魔しに来たのかどっちなんだよ!? 大淀も長門を見ながらなんてことをしてくれてんだという風に目尻に涙を浮かべているし、どうあがいても叱責を免れることは出来なくなった状況である。

 あきつ丸と川内は後ろでぶつぶつと会話をしているし、ほんと何なんだ……これ以上俺の胃腸を虐めないでくれ……痛い……!

 

 きゅう、と妙な音を立てる胃を無視し、書類をがさがさと見つめる。

 

 どこかにこの子達の情報があれば……泣き止ませるための好物とか書いてたりすれば……!

 

「神風――竣工時期から鳳翔に近しいと思えば、まだ幼さの残る雰囲気……」

 

 うーむ……神風と言えばイベントで手に入れた艦娘だったな。懐かしい。司令部レベルも低い頃に着手したイベントだった故に印象深い思い出だ。基地航空隊の設営だったろうか。連合艦隊を率いての攻略ともあって、艦娘全体のレベルがそこまで高くなくて苦労した……。

 艦隊これくしょんにおけるイベント――いわゆる大規模作戦というのは初心者向けの難易度も用意されている優しい仕様であるが、甲乙丙と三つに分けられた難易度には大きな隔たりがある。端的に言えば、一つ上になるだけで倍以上強くなるのだ。細かく言えば違うのかもしれないが、体感的には倍だ。そして俺は神風を手に入れたイベントで難易度選択を間違えた。丙、という一番低難易度でさっくりクリアして――それでも当時は相当にきつかったが――ステージクリア報酬である神風を手に入れられさえすれば、後は有志たちがクリア動画でも上げるだろうと軽い気持ちでマウスをカチカチしていた。

 その時、新規のイベント艦娘が手に入るかもしれないと慢心していた俺は動画サイトで作業用に垂れ流せる動画を探しながら操作をしていたのだが、それが悲劇を生んだ。

 

 そう、操作ミスである。

 

 丙作戦を攻略するつもりが乙作戦を選択してしまい、初心者だった俺は苦戦を強いられたのだ。

 

 イベント海域を高難易度で突破すれば、突破報酬は相当うまみのあるものが手に入るが、その時俺が参加したイベントでは目ぼしい報酬も無く、結局、貯め込んでいた資材を枯渇させて手に入れたのは改修資材数個と勲章のみであった。今思い出しても泣けてくる。って違う。二人の好物を探すつもりが悲しい思い出が……。

 

「……悲しいな」

 

 ぽつりと洩れてしまった言葉に、長門たちが振り向いた。

 

「提督……?」

 

 怪訝そうに呼ぶ長門に対して、俺は『お前のせいで悲しい思い出が蘇ったやろがい!』と言いかけるも、喉元まであがったそれをのみ込む。普通に考えて長門のせいじゃないうえに司令部レベルが低いのに油断していた俺のせいで苦戦を強いられただけなのである。すみませんでした今度からよそ見操作はしません。

 

「神風と松風は思い出深くてな。二人が泣いているのを見ると、私まで悲しくなってしまったのだ」

 

 神風、松風ともにイベントの報酬艦娘で、神風の次に実装されたのが松風だ。

 一年越しで実装された松風を手に入れる時、俺はきちんと、油断せずにはいすみませんよそ見操作でまたも乙作戦を選び苦戦しました。白状します。

 ――……とは言え、とは言えだ! 一年も経てばエンジョイ勢でガチガチに育てているわけでは無い俺の艦隊とてかなり成長していたので、神風を手に入れた時ほどの苦労はしなかった。けどもう輸送作戦は嫌いになった。そういや、分解した彩雲を運んだなぁ……。

 

「神風に初めて出会ったのは基地航空隊の設営に携わった頃だったかな……」

 

 言いながら、書類を小脇に抱えて長門と神風、松風の傍にしゃがみ込む俺。

 間近で見る神風たちの姿は艦隊これくしょんに出てきた時の立ち絵とは程遠く、かわいらしさはそのままだが、目元は赤く、服はところどころ煤けているのが窺えた。この世界に来て艦娘が大破している姿は見たことないが、立ち絵では嫌と言うほど見てきた俺は、小破しているのか? というような印象を受けつつ、とりあえず泣き止ませるために適当に話題を考える。

 

「基地航空隊とは、提督――いつの……」

 

 神風と松風の頭を交互に撫で、意識せずに長門の問いに返す。

 

「五年前、くらいか。その頃は多くの仲間がいたが、私は日陰者でな……艦隊運営に携わる強者達の後ろで、零れ落ちてくる情報ばかりを集めるしか能の無い男だった。その次の年も成長など全くしてなくて、同じように、作戦に参加していたのだが、やはり零れ落ちてくる情報を得るだけの日陰者であるのは変わらず……まぁ、その情報で海域を突破する糸口を掴んで輸送作戦は成功した訳だが、その頃に見た神風と松風はとても凛々しくてなぁ……」

 

「五年前、四年前と言えば、まだ提督は……い、や……待て……提督、その話は、本当か……? 誰からか彩雲を分解して輸送するなどという、無茶な作戦が出たとは、聞いていたが……!」

 

「あぁ、あったな……防衛強化に、分解輸送で偵察戦力を緊急展開し、戦略偵察……懐かしいものだ」

 

「戦略偵察は、成功してからやっと事後通達されたような機密作戦だぞ……!?」

 

 長門の問いに続き、背後で大淀が唖然とした表情で俺を見て続ける。

 

「提督は、あの『基地航空隊開設作戦』に、『友軍救援作戦』と『光作戦』に従事していらっしゃったのですか……!?」

 

 俺は思わず、あっ、と洩らし慌てて「ただの冗談だ、すまん」と首を振って見せた。

 艦これ世界に来たのは昨日今日の話で、イベントの話など艦娘を混乱させるだけだ。ましてやこの世界で俺は初めて働いていて海軍の何たるかなど知るわけも無いので、思い出話は禁句も禁句……やっちまった……! 井之上さんに素人とバレるなと言われておきながら思いっきり大淀たちにはバレているし、これ以上無能とバレたらこの場で跡形も無く消されたっておかしくねェッ……!

 

「じょ、冗談って……いや、提督……あの作戦は海軍上層の多数の関係者が殺――」

 

「冗談だと言っているだろう。昔の話だ、俺は知らん」

 

「……そう、仰るのでしたら」

 

 ご、強引過ぎたか……? いやしかし、突っ込まれるよりはマシだ、ポジティブシンキングでいこう。

 気を取り直し、俺は神風と松風に言う。

 

「あー……その、なんだ。私が知っているお前たちは、凛々しく、とても気高く、仕事で心が歪みはじめた私を大いに救ってくれた思い出深い艦娘なのだ。だから、泣かないで欲しい。お前たちが泣いていると、私まで悲しくなってしまう。どうして泣いているのか、理由を教えてはくれないだろうか」

 

 まあ長門がいきなり圧かけて泣かせたのは明白なんだが……ここでちらりとでも長門を見てくれたら、俺はそれを理由に『ほーらお前! 怖がらせるからぁ! 下がれ下がれ!』と危険を遠ざけてやるポーズがとれる。後から長門に殴られる可能性は高いが、山元大佐にぶん殴られるよりマシである。

 艦娘に殴られて死ぬなら本望なのだ、俺は――

 

「し、司令官、に……私たちは、雑用でも、していろ、と、言われ……ひっく……」

 

「姉貴……! だ、だめだ、何で言うんだ! こんな事がバレたら、今度こそ沈められちゃうかもしれないんだぞ!?」

 

「沈められる? どういうことだ」

 

 俺の問いに、二人は押し黙る。

 代わりにというようにして、あきつ丸が俺の小脇にある書類をちょいちょいと引っ張り示した。

 

「少佐殿。詳細は、そちらに」

 

「うむ?」

 

 示された通り書類をもう一度よく見て見れば、神風、松風とある情報の中に――轟沈、という報告書があった。

 

「……既に沈んでいるじゃないか」

 

 さらりと口から出た言葉に、神風と松風はびくっと肩を震わせた。俺はきょとんとして二人を見る。

 

「そ、れは……っ」

「もう僕たちは……」

 

「沈んでいるのに、ここにいる。あきつ丸、何だこれは?」

 

 問えば、あきつ丸は暫し俺を見つめて目を丸めていたが、突然大笑いし始める。

 

「何だこれは、とは……っふ……っくく、あははははっ! 少佐殿、ひっどいお方でありますなぁ! あっはっはっはっは!」

 

「えっ? えぇっ?」

 

 えっ、あきつ丸何で笑ってんの? なにこれ? 怖いんですけど?

 俺もしかして変な事言った? いや言ってないよね? 報告書には轟沈って書かれてるけど、でも目の前にいるもんね? 轟沈してないよね?

 あっ……いや、待て、もしかしてこれ、別の神風と松風が轟沈したっていう報告書で、この二人は違う艦娘ということか? いやでも、イベント艦娘だから建造じゃ手に入らんしな……。

 

 混乱している俺を追撃する、大淀と長門の声。

 

「提督……あの、提督の物差しを多少なりとも理解している私たちであればよろしいですが、流石に、その方たちには早いかと……」

 

「そうだぞ提督。混乱してしまうだろう」

 

 混乱してるの俺なんですけど? え? なにこれ、いじめ……?

 

 あきつ丸が大淀たちの二の句を継ぐようにして、神風と松風に話しかける。

 

「あっはっはっは! あー……いやはや、神風殿、松風殿、ご安心ください。少佐殿はお二人を虐めている訳ではありません。寧ろ本当に不思議に思っているのでしょうな。轟沈報告書があるのに、その艦娘が目の前にいるのがおかしい、と……」

 

 そうですけど? という顔であきつ丸を見るのだが、俺の顔を見たあきつ丸は再び笑いの波に襲われ、数秒笑い倒した。隣の川内が「やめなってあきつ丸……っぷ、くく」と笑いをこらえているのも見えた。お前マジ、覚えとけよ川内。夜戦させてやらねえからな。

 

「はぁぁ……少佐殿もユーモアのあるお方でありましたか。このあきつ丸、安心しました」

 

「ふ、ふむ……そうか……」

 

 なんか自尊心すごく傷つけられた気がするが、逆らえないので頷いておく。

 

「しかし、このお二方には説明しておいた方がよろしいのではありませんか? 流石の我々とて少佐殿についていくのが精一杯でありますから、お二方に同じように把握しろというのは、聊か厳しすぎるかと」

 

「いや、私は別に――」

 

「あーあー、分かってるであります。少佐殿の中では優しい方なのかもしれませんが、ねぇ、大淀殿?」

 

「……ですね」

 

 大淀まで!? いやちゃんと頭撫でてあげてるじゃん! 大人として泣き止ませようと対応頑張ってるじゃん!? 褒めろよ! 俺を、褒めろよ!?

 

 俺の気持ちは声には出ず。うーむ、という唸り声に変換されて喉を通り過ぎる。

 それを見かねたように小さくため息をつき、大淀は眼鏡をくいくいと指で押し上げながら言った。

 

「神風さんに松風さん、お二人の轟沈報告は想定内です」

 

 それから「提督、そちらを」と俺の小脇にある書類を示したので渡す。すると、書類をぱらぱらとめくりながら「やはり……もう、提督ったら」とまた溜息。

 もう許して……いじめないで……俺に分かるように説明して……。

 

「お二人の轟沈報告書は、言うまでも無く虚偽の報告書ですよね? お二人はここにいるのですから。他にも二人轟沈報告がされているようですが……まぁ、こちらもすぐに解決するでしょう」

 

 長門は大淀の言葉に一瞬だけ目を閉じ、それから言った。

 

「……提督。これで、止められるのか?」

 

「何をだ?」

 

「っ……分かっているだろう。何故、言わせようとするんだ」

 

 えぇ……わけがわからないよ……。俺は何を止めたらいいの……。

 もちろん、止める必要があったり、止めて欲しいものがあるのなら聞くつもりだ。艦娘が求めているのだから、よほどの事が無い限り俺は承認するだろう。

 しかし長門たちが言っている意味が分からないのだ。勘弁して。

 

「これで、山元大佐を止められるのかと聞いているんだ」

 

 あ……あぁ! なるほどな!?

 虚偽の報告書を書いたり、街の人から色々と搾取している山元大佐を止めろと、そういうな!?

 い、いやいや分かってたし……それくらい余裕で把握してたし……。

 

 俺は力強く頷き、情けない事を言う。

 

「いざとなれば井之上さんにも動いてもらうさ」

 

 はい。最高権力に縋ります。当然も当然である。

 俺はただの素人軍人で、今ある柱島鎮守府の運営さえ右も左も分かっていないのだ。資材が枯渇しているために遠征艦隊を組んだは良いものの、そこから得られる資材がどれほどのものかさえ予想出来ていない。多くの提督ならば遠征に出せばおおよそどれくらい持って帰るだろうと考えられるのかもしれないが、数値で完全に管理されていた艦隊これくしょんならばいざ知らず、ここは現実なのである。

 もしも微量の資材しか得られずに艦娘一人の補給もままならなかった場合など、目も当てられない。

 

「そっ……それは……! 提督は、本当に極端と言いますか、本気ですか……?」

 

 そう言う大淀に俺は大まじめに頷いた。

 既に俺が無能なのは知られているのだから、これ以上醜態を晒すくらいならば上のものに投げた方が幾分も建設的であるのは大淀だって理解出来るだろう、と。

 

「少佐殿は厳しいのか優しいのか……。ま、そういう事であります。神風殿も松風殿も、あとは少佐殿に任せておけば良いのでありますよ」

 

「僕たちは……僕と、姉貴は、助かる、のか……?」

 

「助かるも何も! 少佐殿がこの呉鎮守府に来た時点で話は終了しているようなものであります。ほら、少佐殿、お二方を撫でて甘やかすのも良いですが、大佐がお待ちでありますよ」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 混乱し過ぎて神風と松風を無意識に撫でていた……何を言っているか分からねえと思うが、俺も良く分からねえ……。これから俺は山元大佐に怒られに行くわけだが、あきつ丸に早く怒られてこいと急かされたのか……? そうだね、仕事しろってことだね。はい。

 

「……気が進まんが、行くほかないか」

 

 神風たちの頭から手を離し、重い重い腰を上げて立ち上がる。そして――俺は叱責されに――。

 

 

* * *

 

 

 呉鎮守府、執務室前。

 神風たちを連れた俺は、柱島鎮守府の執務室と似たような扉の前に立つ。

 

 松風が恐る恐る扉をノックすれば、太い声が返ってきた。

 

「入れ」

 

「し、失礼、します……! 司令官へ、お客様、が……」

 

「随分と早い到着だなぁ?」

 

 あ、ぁあぁああ……! やはり怒っていらっしゃる……!

 しかしここで足踏みしていてはさらに怒りを買うだけ……死なばもろとも、ここには柱島鎮守府四天王もいる……いざとなれば一緒に頭を下げてもらうのだ……!

 

 勢いをつけて「失礼します!」と入ろうとした俺だが、緊張し過ぎて松風が前にいることを忘れており、押しのけるような形での入室となる。

 それだけでもかなり印象が悪いだろうに、あろうことか威厳スイッチを入れたままの俺の口は失礼します! を自動翻訳。

 

「入るぞ」

 

「っ……!」

 

 や、やっべぇぇえええぇえ!? あ、謝れ、すぐ謝れ俺ェッ!

 とととととにかく落ち着いて、ままだあわ、あわわ慌てる時間じゃない……!

 

 

 呉鎮守府の執務室内も、柱島の鎮守府と殆ど変わらず、細かな内装は違えど、置いてある家具の種類が変わっているくらいだった。

 俺はさっさと部屋に入り、応接用のソファーに腰を下ろしてしまったのだった。

 これが面接ならば即追い返されていただろう。が、山元大佐は俺を見て驚きこそすれ、咳払いを一つしただけで帰れとは言わなかった。

 

 この機を逃せば謝罪の余地は無くなってしまう、と俺は開口一番、山元大佐を見て言った。

 もちろん、叱責を逃れるためにさらりと話題も添える。俺は出来る社畜なのである。

 

「挨拶に伺うのが遅くなって申し訳ない。が、その前に聞きたいことがいくつかある」

 

 俺の声の間に、ごそごそと入室してくる大淀たち。

 

「聞きたいこと? はて、元大将閣下が何を聞きたいのですかな。それに大勢の艦娘までつれて」

 

 元大将閣下、という言葉を聞いて頭の中で無意識に柱島へと送られた日を思い浮かべた。

 状況が把握できないままに鼻っ柱を殴られた日の怒りが浮かんだ時、それに触発されたかのように宇品の街で聞いた話が思い出される。

 

 人の怒りにはたくさんのパターンがあるらしいが、その中でも大きく分けて四つあるという。

 一つ目は、強度の高い怒りだ。一度怒ると気が済むまで怒鳴り散らしてしまうもの。

 二つ目は、長く続く怒り。いわゆる根に持つ、というものだ。思い出して怒る、などもある。

 三つ目は、頻度の高い怒りで、年中怒っているなどがこれに当てはまる。

 そして最後が、攻撃性のある怒りだ。これは何も他人を攻撃するだけではなく、自分を責めることも当てはまるのだとか。

 

 俺はその全てに当てはまった、全力の怒りが胸を焼く感覚を初めて覚えた。

 

 この世界に来る前から、延々と怒鳴られ続けて憔悴しながらも理不尽に対して暗い暗い怒りを抱えていたし、思い出しただけでも胃が熱くなる。

 そしてこの世界に来てからは、艦娘に出会えたことで一時癒されはしたものの、現実を知り、三つの怒りが同時に生まれた。主に、俺の目の前にデスクに肘をついてどっかりと座る山元大佐に関する事で。

 

 人はこれを逆切れと言います。良い子はマネしちゃだめだぞ。

 

「どうにも、海軍から街へ物資を要求する行為があったと、ある市民から聞いたのだ。その事実確認をしたい」

 

 はん、と大佐の笑い声が嫌に鼓膜を揺らした。

 

「っは、何を聞くかと思えば……我々呉鎮守府は日本国を守る大義をもって艦隊指揮をしているのだ。貴様のようなぽっと出が噂話に振り回されるなど笑い話にもならん。そんな事実は――」

 

 俺は大人気なく大佐の話を遮る。

 

「あきつ丸」

 

「っは、こちらであります、少佐殿」

 

 書類を、と言おうとしたのだが、あきつ丸は瞬時に俺の意図を読み取り書類を横から差し出してきた。

 さっき笑ったのは許す。俺は艦娘に対してはチョロインなのである。

 

 俺は書類を一枚一枚捲りながら、書いてある内容を読み上げる。

 あきつ丸が細かくメモをとっていたようで、達筆な字で書いてあるそれを声に出すだけで詳しく見ずとも内容が把握出来た。それと同時に、山元大佐があまりに杜撰な艦隊運営をしている実態を知る。

 

「報告と差異の激しい艦娘所属数。遠征で得られた資材の増減幅、取得海域と近隣を哨戒していたはずの通常艦船からの報告が違うようだが、これはどういう事だ。資料には通常艦船は憲兵が主となって運用しているもののようだが。そのほかにも、宇品、五日市、呉と港町に絞って物資を得ているようだな。食料のほか、金品も受け取っていると証言を得ている。まず、私と山元大佐が話すには――これらの問題を解決してからとは思わんか」

 

「そ、そんな証言、なんの証拠になるというのだ。食料や金品など大本営から送られてきているもの以外、この鎮守府には無いが? 正式な書類でも持ってこい。昨日のことは水に流してやろうと思っていたが――」

 

 デスクに肘をついていた山元大佐が、ぎっ、と椅子を鳴らして座りなおす。

 昨日の事は水に流す? それはありがたいが、それとこれとは別である。

 俺が悪かったところは謝るべきだが、街の人々がやられていることが事実であれば――事実なのだろうが――大問題なのだから。

 

「失態は謝罪しよう。初日に挨拶に行くという職務に重要なことを失念していたのは私の落ち度だ。しかし、それとこれとは別で……」

 

 ダンッ! と大きな音を立ててデスクに拳を叩きつけた大佐に身体が跳ねそうになった。

 こういう時、社畜時代に得たポーカーフェイスは役に立つ。切ない。

 

「我々は深海棲艦という化け物と戦争をしているのだ! 挨拶に伺うということがどれだけ重要なことなのか、貴様は今自らで言ったな? なぁ!? そうだ、連携が無ければ怪物に勝利など出来ないのだ! それを差し置いて重要なことなど他に――」

 

 こいつも話題を逸らすかッ……俺と同じ匂いがプンプンするぜェッ……!

 山元大佐は社畜は社畜でも、社畜を使う方――俺の大嫌いな上司たちにそっくりだぜ……!

 

 しかし残念ながら俺はもう、社畜ではない。嫌味な上司に従う必要も無いのだ。

 何故ならば――俺には井之上さんという素晴らしい上司が既にいるのだからな……!

 

 なので何度でも話を遮る。井之上さんも電話で呉を気にかけている様子があったし、宇品で寄ったお好み焼き屋のお婆ちゃんも井之上さんの知り合いだった。アオサぶっかけられたけど、それはさておき、上司の知り合いが苦しむようなことを部下である山元大佐がしてよいはずがない。

 それに加えて艦娘を泣かせるような仕事をしているなど言語道断。俺も泣かしてるけど、まぁ、俺はね、新人だからね、ノーカンでね。

 

 俺は! 堂々と責め立てるぜ! 屑って呼んでくれよな!

 

「ほう、連携が大事……提督たるもの、重要も重要だな。その通りだ。私も、そのように艦娘には指示している。手を取り合え、と」

 

「そっそうだろう。分かっているではないか……。ならば、それに従事する艦娘も、守られている国民も協力するべきだ、違うか?」

 

「違うな」

 

「なっ……」

 

 勢いで否定しておきながらも、頭は空っぽだった。しかし、言葉は自然と口からすらすらと出てきた。

 

「挨拶など形に過ぎん。挨拶をしたら戦争に勝てるのか?」

 

「……」

 

「艦娘を轟沈させ、街から搾取し、連携が大事だと口にしながらお前は何をしたのだ。言ってみろ」

 

 正直、自分が嫌いになるくらいの八つ当たりが含まれているのは否めない。

 が――俺は言うぜ! 屑って呼んでく……もう呼ばれてそう。

 

「戦争に犠牲はつきものだろう。それを減らし先を見据えるのが軍人の仕事であり、ただただ暴れるだけが仕事では無い。勘違いするな。街の人がなんと言っているか聞いたことはあるか? 苦しい、つらい、もう嫌だ……軍人の仕事は人々を苦しめることなのか? 艦娘を苦しめ、沈める事が仕事なのか?」

 

「言わせておけば――」

 

「質問に答えろ」

 

 その時、俺の耳に神風と松風であろう、鼻をすする音が聞こえた。

 山元大佐がそちらに向いて「何を言った、貴様らァッ……!」と低い声を出した時、目の前がふと、真っ白になった。

 

「――彼女らはお前の部下だろうがッ!」

 

「っ!?」

 

 きぃん、と耳鳴りがするほどの静寂が部屋を包む。その静寂さえも腹立たしく、俺は子どもの癇癪のように怒鳴り散らしていた。

 やはり、艦これプレイヤーの俺はどうしても艦娘を第一に考えてしまって、軍だとか、平和だとかも大事なのだろうが、二の次になってしまう。

 

 立ち上がり、ずかずかとデスクの前まで行くと、座っている山元大佐の前に、ばん、と手をつく。

 

「お前は前線に立ったことがあるのか!? 恐ろしい深海棲艦とやらを目の前にして戦ったのか!?」

 

「それは、艦娘の仕事で――!」

 

「それを指揮しているのが我々提督だろう、甘ったれるな馬鹿者がッ! 言わんと分からんか? 我々は彼女らの命を抱えているのだ、この手に、腕にッ! 見ろ、お前の部下を! 傷ついてもなお鎮守府に帰って来たのだ、平和のためにッ!」

 

 しかし、いや、と口ごもる山元大佐の顔を見て、どんどんと体の熱が上がっていくのを感じながら、俺は資料をばしばしとデスクに叩きつける。

 

「何故轟沈報告が上がっている! 言ってみろ! 彼女らの目の前で、ここで!」

 

「し、ずんだと、思って……――」

 

「ならば訂正するのか!?」

 

「いやっ、もう、大本営に提出して……訂正すれば、その……」

 

 如何に弱弱しい者でも、ひとたび怒れば言い返したり出来ないものである。山元大佐はまさにそれだったのだろう。

 訂正すれば問題無いのか、はたまた問題なのか口にしない山元大佐にもう一度問おうとした時、大淀の声が聞こえた。

 

「提督……轟沈報告は、基本的に訂正される事がありません。前例が、無いので……」

 

「なに……?」

 

 俺が振り返ると、大淀はビクリとして目を伏せ、早口で言った。

 

「ごっ轟沈報告があれば艦娘は所属を失います。ですので、神風と松風は未所属の艦娘として、敵意が無い限りは保護される対象となりますが、ほ、殆どは雷撃処分を――」

 

「もういい」

 

「――は、はっ、しかし」

 

「もう、いいと言っているんだ。嫌なことを言わせたな。すまない」

 

「……」

 

 熱がほんの少しだけ冷め、再び山元大佐に顔を向ける。

 

「……どうするのだ」

 

「どっどうする、とは、なんだ……?」

 

「彼女らは未所属の艦娘となったようだが、お前は彼女らをどうするのかと聞いている」

 

「そ、れは……そ、そうだ、私の所で保護しよう! これでいいだろう? そうすればまた使ってやれる! な!?」

 

 が、再び、倍以上の熱を帯び、目の前を白く染める。

 

「使って、やれる、だと……? お前は、艦娘を何だと、思っている……?」

 

 内臓が全て痛むような怒りだった。聞きたくも無いのに聞いてしまったのは、ほんの少しでも山元大佐から優しい言葉が出てきてほしかった願望が現れたのかもしれない。だがそれは叶わず。

 

「艦娘は我々人類を救う兵器だ! 深海棲艦に唯一対抗出来る……!」

 

「そう、だな……兵器だ。彼女らは、間違いなく兵器だろう」

 

「だろう!? ならば――」

 

「それは一面だ。『兵器でもある』という、ただの性質に過ぎん」

 

「え、ぁ……?」

 

「兵器だから何をしても良いのか? 沈んだらそれで、仕方がない、と。そうか、そうか……」

 

 俺は最低な事をする。そう誰に言うともなく心の中でのちの懺悔を想いつつ、

 

「お、おい、海原、何――ガッ……は、ぉ……!?」

 

 資料を握りしめた右手を、振り抜いていた。

 運動などろくにしてこなかった俺の拳は山元大佐からすれば痛くもかゆくも無いだろう。さりとて、成人に本気で殴られたら、如何に鍛えていたとしても鼻血くらいは出る。

 さらに言えば、油断しているところを殴ったのだから、混乱もするだろう。

 

 山元大佐はぼたぼたと鼻血を流しながら、目を白黒させて俺を見る。

 

「これは私怨だ。裁きたくばどうとでもするといい。だがな、私は認めんぞ。お前のような提督がいるなど、絶対に認めん。神風と松風は私が保護する。異論は」

 

 山元大佐は首をぶんぶんと横に振るも、声は出さない。

 

「――ならば、以上だ。街のこと、憲兵のこと、艦娘のこと……もう答える気はないのだろう?」

 

 数秒、十数秒、大佐は俺を見つめたまま固まっていたが、数十秒経ち、ぽつりと言った。

 

 

 

「……憲兵を、呼んで、いただきたい」

 

「なに……?」

 

「五日市と宇品、呉に駐在している憲兵は、ダメだ……私の息がかかっている。他の駐屯地から呼んでいただけない、だろうか……」

 

 鼻血を止めるように押さえながら、俯いて言った大佐。

 俺が大淀に「呼べるか」と問えば、小さく「っは」と声が返ってくる。

 

「……海原、少佐。何故、そのような」

 

「……」

 

 声を待つように沈黙を返せば、山元大佐は両手を血で染めた状態で顔を上げた。

 

「絶望しないのか……? 深海棲艦が衰える気配は、無いというのに……もう、残された時間を生きるだけの人類に、我々に何が出来るというのだ……? 艦娘を鍛えて戦地へ送っても、微々たる戦果で毛ほども勝機は見えんではないか……なら、いっそのこと……」

 

 艦隊これくしょんをしている時とは重みが違う。これは戦争だ。

 一緒にしてはいけないと分かっていても、どうしても俺はそこを基準に考えてしまって、ふむ、と吐息を洩らす。

 

「無限に湧き続け、危険ばかりだな。だが、それがどうした」

 

「だ、だから、勝てぬ戦争に挑むなど愚かな真似……!」

 

「――なら、勝てぬ未来を変えたら良いだろう? 鍛え続け、戦略を変え、何度でも挑めばいい」

 

 山元大佐はきょとんとした顔で俺を見る。

 

「勝てないから諦める、では何も始まらん。お前は諦めているのかもしれんが、艦娘は諦めていない。だから戻ってきたのではないのか。この世界へ」

 

「……っ!」

 

「敵は多いだろう、我々の想像をはるかに超えて。しかし我々には艦娘がおり、指揮する者がいる。それも一人では無い。三人寄らばなんとやら……それが、倍以上だ」

 

 俺の背後ですすり泣く声。神風か松風だろうか。

 これ以上ぐだぐだと話をしても仕方がない――何より叱責を回避しようとしただけなのに、感情任せに上司までぶん殴ってしまった。

 すすり泣く声に完全に冷静になってしまった俺は、胸中で『感情に振り回される情けない男ですまん……』と謝罪しつつ、話を切った。

 

「ん、んんっ……挨拶をしに来たと言うのに、申し訳なかったな。っと、そうだ」

 

 上着の内ポケットから書類を一枚取り出し、山元大佐に差し出した。

 

「これは……」

 

「演習の申し込みだ。出来ればここの鎮守府にいる艦娘の練度や装備などを参考にしたかったのだが……まあ、いつでもいい」

 

「い、つでも、いいって……海原、少佐……」

 

「憲兵を呼ぶのだろう? 忙しくなるだろうから、また次の機会で良いと言っているのだ。話題作りになれば、あわよくば勉強させてもらえたらと思っていたのだがな」

 

「……っ……ぐ、ぅっ……ぐぅぅぅっ……!」

 

「えっ」

 

 突然、山元大佐が歯を食いしばって泣き始めた。

 

 えっまって。待って待って。ちょっと、えっ? 何で?

 ごめんごめんごめん! 殴ったのはやり過ぎたな!? そうだよな完全に八つ当たりだもんな!?

 

 そ、そりゃあ山元大佐は悪いことをしたのかもしれない。街の人からあれだけの不満が噴出してたのだから、言い逃れは出来ないだろう。艦娘が轟沈した訳でもないのに、轟沈報告を上げるような適当な仕事をしているのも悪い。けど仕事に関して俺は部下であって書類については妖精に手伝ってもらわなきゃ出来ない俺が口出しなんてもってのほかだ。

 あ、そ、それに挨拶な! 挨拶しなかったのは確かに俺が悪い! なのに突然やってきて怒鳴り散らして殴るとか頭おかしいんじゃねえのってな!? はい、すみませんでした! 調子乗りました! 許して!

 

「な、泣くな。軍人だろう! 男だろう!? 泣いて何になるというんだ!」

 

 泣きたいのは俺だ! クソァッ! まーた面倒なこと起こしやがって!

 はい。面倒ごとを起こしたのは俺ですね。すみません。

 

「うぐっ、ぐぅぅっ……! は、はいっ……!」

 

 敬語になるなよぉぉ……。

 

「過去は変えられん、故に我々は未来を変えるのだ」

 

 艦娘に慰められたら元気も出るから! な!?

 という風に慰めるのだが、山元大佐は泣き止む気配などなく――椅子から勢いよく立ち上がり、軍帽を脱ぎ、ずんずんと大淀たちが控える場所まで行くと――その場で勢いよく土下座した。勢いが強すぎて、がつん、と鈍い音が響く。

 

 いやだから何で?

 

「山元勲(やまもと いさお)、この場で腹を切って詫び――」

 

 待て待て待て! 切るなよ!?

 慌てて止めようと口を挟む俺。

 

「切って何になる。それよりも、やることがあるだろう」

 

 仕事とか仕事とか、仕事とかな!? くっそ社畜だから仕事しか浮かばねェッ!

 

「海原少佐……! し、しかし、私は軍人ながらに国に、艦娘に唾を吐くような真似をしたのであります! 腹を切って詫びねば示しがつきません! 憲兵に射殺されようとも、構いません!」

 

 であります口調はあきつ丸の特権だろうが! いや違う、そうじゃない。

 射殺!? いやいやダメだよ! せめて俺の目の届かないところでお願いします! いやこれも違う!

 死ななくていいよぉ……それよりも仕事してよぉ……。

 

 どうすれば――あっ。

 

「あきつ丸。井之上さんに繋げられるか」

 

「は、はっ……!」

 

 混乱した様子であきつ丸はポケットから携帯電話を取り出し――いやお前携帯電話持ってるじゃん!?

 俺に井之上さんの番号教えられないなら、せめてそっちの番号は教えろよ……!

 

 ポーカーフェイスのまましばし待てば、あきつ丸は電話を耳に当てて喋りはじめる。

 

「あっ、元帥閣下、あきつ丸であります。あ、あのっ……」

 

 山元大佐は頭を上げないまま固まってるし、神風と松風は怯えて長門の後ろに隠れてしまっているし、大淀と川内は俺から目をそらしてしまうしで、滅茶苦茶である。泣きたい。

 あきつ丸が「海原少佐殿が、はい、はい……代わりますので……」と言って、電話を差し出す。

 

「井之上さん、何度も申し訳ありません。海原です」

 

『どうしたと言うんだ。何かあったのかね?』

 

「……山元大佐の件についてですが、憲兵に連絡をしてくれと言っておりまして」

 

『そ、そんなこと、出来るわけないだろう! 憲兵の一部さえ操っておるという情報があるというのに……う、うん? 言って、おりまして?』

 

「はい。ですので既に憲兵を呼んでいるのですが、腹を切って詫びるなどと無茶を言う始末で……どうか一言いただけませんか」

 

『海原、お前……何を、した……?』

 

「……えーと」

 

 正直に言えば怒鳴って殴っただけである。言えない。井之上さんマジごめん。

 俺はそのまま電話を山元大佐に差し出しながら、頭を上げるようにと背を叩く。

 

「――井之上元帥閣下だ」

 

「は、はっ……! ――山元で、あります……元帥閣下。お久しぶりです」

 

 井之上さんの声は大きく、やはり少し離れていても会話が聞こえてくる。

 

『何があった。簡潔に話せ。何故海原少佐がワシに連絡を寄こしたのか』

 

「……呉鎮守府における数々の不正、及び、艦娘の私的利用、轟沈報告書類の偽造等について、言及されました。私はすべて認め、憲兵を呼んでいただけるよう、お願いを」

 

『なっ……に、が……山元、一体どうして、手のひらを返すような……』

 

「――真の軍人を、私は初めて見ました……如何に己が矮小か、思い知った所であります……此度の責任は全て私にあります。如何様にしていただいても構いません。せめて、最後は軍の規律に殉じようと思います」

 

『死ぬぞ。構わんのだな……?』

 

「……はい――」

 

 いやいやだから待てってぇ!?

 山元大佐から電話をひったくり、いっぱいいっぱいになりながら言い訳を紡ぐ俺。

 どのような理由であれ俺が関係していることで人が死ぬとか勘弁して欲しかった。

 

「い、井之上さん! 少し待ってください! 確かに山元大佐は様々なことをしたのかもしれません! しかし、彼の知識やノウハウを切り捨てるなど愚の骨頂! せめて……そ、その知識を残す時間をいただけませんか!? 出来れば、あ、あー……えーと、か、艦娘に! 謝罪する機会をお与えいただけませんか!?」

 

『海原!? お前、本当に何を言っているんだ! そやつは虚偽の轟沈報告をしたのだぞ! 言うなれば、艦娘を殺――』

 

「あ、あー……手元の資料によりますと、えー……! 長門型戦艦の二番艦、陸奥、神風型駆逐艦の一番艦、四番艦である神風と松風、天龍型軽巡洋艦の二番艦、龍田の虚偽報告、ですよね!? その他に報告は上がっておりますか!?」

 

『う、む……待っておれ』

 

 沈黙が数分。

 

『呉鎮守府から上がっている報告は、その四隻のみだ。呉鎮守府以外からの轟沈報告は多いが……』

 

「そ、そうですか! あー、えーと……!」

 

 思わず山元大佐の傍にしゃがみ込んで、背中をばしばし叩く。

 お前も言い訳考えろってぇ!

 

「その艦娘は――」

 

 と、言いかけた時、何故か電話も持っていないのに大淀の声が入り込んだ。目の前の大淀は口を開いておらず、ただ俺を見つめている。お前……腹話術できたの……? 何で今するの……?

 

『お話の途中、失礼いたします元帥閣下。軽巡洋艦大淀です。轟沈報告のあげられている四隻については、既に柱島鎮守府の遠征部隊が保護しております。ですので、轟沈報告では無く――異動報告に変更をお願いいたします』

 

 えっ? なんで?

 

『な、んと……そうか……海原が……っくく……そうか……! 大淀、お前は柱島に所属している大淀か?』

 

『っは。海原提督のご指示で、全て問題無くサルベージが済んでおります』

 

『っくくく、海原に代われ、大淀』

 

 大淀は俺を見て、どうぞ、という風に頷く。いやお前、いや、どうすんのこれ!?

 

「か、代わりました、海原です……」

 

『こんの――馬鹿者がぁッ!! あれだけ無茶をするなと言ったのに、舌の根の乾かぬ内にお前はァッ!』

 

「ひぃぇっ!?」

 

『大馬鹿者が……全く、心配をかけるんじゃない……本当に。だが、山元大佐を押さえたのは大きい。よくやった。のちの処理はこちらに任せておけ』

 

「えっ、あ、はぁ……」

 

 

 

 

 

『老体に鞭を打つような真似してくれよって……くっくっく……仕事が増えたわい』

 

「すみません……」

 

 山元大佐だけじゃなく、井之上さんからも怒られた……ショック……。

 というか、遠征隊に資材持って帰ってこいって言ったのに……何で消費する方向で動くの……? バカなの……?




長くなってしまいました……。
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