柱島泊地備忘録   作:まちた

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二話 飯を食おう【提督side】

 転生直後に記憶を整理して云々。せせら笑うどころか白ける云々。

 撤回する。全部。

 

 名前も知らない男に顔面を殴られた次には、大淀と名乗るコスプレ女と共に船に乗って柱島泊地に向かっている俺。

 

 いや、コスプレ女は失礼だな……。

 

 とはいえ、薄々コスプレ女などでは無いというのに気付いている俺もいる。

 船を難なく操縦する彼女の服装は俺の記憶にある艦これの大淀と同じだし、現実感が無くて立ち絵などでは見られない大淀の後ろ姿に感動さえした。

 

 それも数分で白けてしまい、船の後方まで行ってざあざあと波の音を聞きながらぼーっと来た道を眺めた。夢なら覚めろと念じても、覚めるわけもなく。

 

「はぁぁぁ……マジかよ……」

 

 自答しちゃう。マジである。

 辺りを埋め尽くす潮の匂いも、時折顔に当たる水しぶきも全てマジである。びっくりするぐらいマジである。

 とすれば、船でたそがれる俺の周りをくるくると飛んでいる〝何か〟もマジなのであろう。

 

『大丈夫? 泣いてるの?』

 

「泣いてないけど泣きそうだ」

 

『泣かないでー! えーん!』

 

 えーん、て。お前が泣いてるじゃん。

 気づけば俺の周りを飛んでいたそれは、奇しくも艦これに出てくる妖精にそっくりだった。服装なんて覚えてないが、それっぽい作業着を着た二頭身の女の子のような見た目は紛う事なき人外だ。

 実際に目にすると二頭身なんて気持ち悪いだけだと勝手な想像をしていたが、不思議な力で浮遊している妖精に嫌悪感は生まれず、ただ、可愛いなあくらいの認識となった。

 

「ここがどこだか分かるか?」

 

 妖精は俺の言葉に頷く。

 

『船の上だよ』

 

「それは分かってんだよなあ」

 

『?』

 

 不思議そうに首をかしげる妖精に手を伸ばし、人差し指でお腹のあたりをつついてやる。すると、くすぐったそうにコロコロと笑い声をあげ、それから俺に問うてきた。

 

『お名前は?』

 

「俺の? 海原だよ」

 

『うみはら……うみ!』

 

「そうそう、うなばら、って書いて海原だ。海原鎮」

 

『まもるの字は?』

 

「珍しい漢字でなあ……かねへんに、まことって書いて……」

 

 空中に字を書くように指を動かすと、妖精は指先を追って顔を動かす。

 それが面白くて、まもる、と書き終わった後に、くるくると指を動かして見せた。トンボなどを捕まえる時にやるアレだ。

 

『あぅあぅあぅ……まもるの字、くるくる……』

 

「ごめん、後半は嘘だ」

 

『もー!』

 

 むきー! という風に怒って見せるも、妖精はすぐに表情をほころばせてふよふよっと俺の肩に止まった。まるで蝶々だ。

 

『まもるは、艦娘って知ってる?』

 

「ああ、知ってるよ」

 

『艦娘は好き?』

 

「嫌いではないかな。可愛いし、綺麗だし、何より強い」

 

 無意識に、強い、という言葉に力がこもる。

 よく職場の上司に「お前は弱いから疲れたと言うんだ」とどやされたものだ。強ければどれだけの残業をしても体調など崩さないし、もっと会社の為に働けると。

 あの時は職を失う事が怖いのと、暴力的な上司に胸倉を掴まれて気が動転してしまっていたのとで反論さえ出来なかった。

 

 今なら出来る。強さ関係ねえだろそれ、と。

 

 絵に描いたようなブラック企業だったと今になって思う。それから解放されたという安堵を味わう前に、今度は顔も知らない上司面した男に顔面を殴られて海へ放り出されたわけだが。

 

 あ、凄い腹立ってきた。

 

『まもるは艦娘が好きなのに、どうして――』

 

 妖精の声に耳を傾けていた俺は、胃のあたりがぎゅっと掴まれたような感覚を覚えた。

 

『――いなくなっちゃったの?』

 

「ぇ、ぁ……それは……」

 

 

 確か、俺が艦これというゲームに手を出したのは十年も経たない頃の昔だった。パソコンで出来るブラウザゲームというのに手軽さを感じて、社会人になりたてだった俺は気休め程度の遊びとして楽しんでいた。

 戦艦が少女となって敵と戦う……擬人化というジャンルを広く世に知らしめるのに貢献した有名なゲームの一つで、アニメや漫画に熱を上げることも無かった俺をオタクなんていう世界に引き込んだ原因の一つでもある。

 

 艦これは俺にとっての救いでもあった。

 慣れない仕事に疲れて帰ってきた日や、初めて失敗をして上司に怒鳴られた日には艦これを起動しては艦娘達を見て癒されたものだ。アレがあったからこそ、俺は辛い仕事にも耐えられたと言っても過言じゃない。

 

 あらゆる最新ゲームが派手なアクションやグラフィックに力を入れる中で、シンプルかつただ絵があって声があるだけのゲームにどうして入れ込めたのかは分からないが、俺は艦これが魅力的に思えた。

 もちろん、やりこめば戦闘だって奥深いのは知っていた。ブラウザの裏でやり取りされる数値などで勝敗が決まるだけと言えば簡単だが、そこに至るまでに様々な要素がある。艦娘の練度や装備、鎮守府というホーム画面に表示される資材もそうだし、開発や建造だってシンプルな見た目に反して奥深さがあった。

 

 ならば俺はどうして艦これをプレイしなくなったのか。

 答えは簡単だ。忙しくなったから。

 

 時間も経てば仕事にも慣れる。仕事に慣れたら怒られるのにも慣れる。怒られないようにどうすればいいのかという要領だって掴む。

 そうして、プライベートな時間は仕事の時間とバランスが保てなくなり、俺の場合はそれが仕事へと傾いた。結果が、艦これから離れるというものになったわけだ。

 

 というか、家に戻ってもパソコンを起動する前に寝てしまう。疲れで。

 

「忙しかったんだよ。仕事とか、慣れなくて」

 

 そう返すと、妖精は続ける。

 

『それで、なにかよくなった?』

 

「良くなったかって……そりゃあ……」

 

 良くならなかった。何も。

 俺の手元に残ったのは多くない貯金だけで、仕事を辞めた両手には何も残ってなかった。

 

『まもるがいなくなってね、みんなもいなくなっちゃったんだよ』

 

「なんだよ、それ……?」

 

 俺がいなくなって、皆もいなくなった?

 

『でも、大丈夫。まもるが戻ってきたから――今度こそ、大丈夫』

 

「いや、だから、何が大丈夫なんだよ、なあ」

 

 夢なのに不思議な奴だと頭で考えるものの、本能では理解し始めていた。

 

 多分、俺は――自宅で眠ってしまったのだ。二度と目覚めることのない、深い眠りについてしまったのだ。

 自覚はある。日頃の無理が祟って、ふと開放されたあの時がピークだったんだろう。自宅に戻った俺は昔のように艦これを起動して癒しを求めた。そこで、ぱったり、と。

 

『まもる。助けてほしい』

 

「……あー」

 

 ならば、この船はあの世にでも向かっているのか?

 あれだけ会社の為に働いて、ちょっと自分これ以上は無理ッスと意見しただけで唾を散らして怒鳴られるような環境から、こんなにあっさり?

 

 いや、ふざけるなよと。なめんじゃねえよと。

 

 今の今までは言う事を聞くだけだったが、今度は違う。それに向かう先があの世でも何でも、見てみろ、俺に助けて欲しいと言う妖精の顔を。

 

 今にも泣きそうな――

 

『助けてよー、まもるー、えーん!』

 

 ――めっちゃ号泣している妖精を放っておけるか?

 答えは否。否である。

 

 でもね妖精さんよ。俺だって泣きたいよ。だって俺死んだんだよ? 多分。

 しかも目が覚めたら知らないおっさんに怒鳴られた挙句に殴られたんだよ。鼻血とか何年振りに出たか分からないレベルだよ。

 

 そしたら今度は大淀って名乗る女に船に乗せられて柱島泊地に向かってるんだよ。

 どこぞのインキュベーターじゃないが、訳が分からないよ。

 

『お話聞いてくれる? ねえ、まもる、聞いて?』

 

 目のハイライトを消して迫ってくる妖精。

 怖いよ。聞くから。ちゃんと聞くから。

 

『この世界はね、深海棲艦っていう敵がね、世界をね、襲ってね』

 

 うんうん、と相槌をうちながら聞く。

 艦これにおける世界観とでも言おうか、それは何となく知ってはいるものの、あのゲームでは詳しい描写はされていなかったはずだが……。

 

 まるで子どもが一生懸命に説明しようとするかのような口調に口元が緩む。

 

『人間を滅ぼそうとしてるの』

 

「ヤバイじゃん」

 

『ヤバイよ』

 

 人間を滅ぼそうとしてるの、の所だけ流暢に言うのやめてほしい。怖い。

 

 それにしても本当に俺は変なところで目が覚めたんだな、とようやくもって実感する。

 漫画で見たことがある――これは、異世界転生だ。間違いない。おれはくわしいんだ。

 

 

 とは言え、異世界転生にありがちな中世ヨーロッパ風の街並みも無ければ乗っている船も違和感のない漁船だ。いや、乗ったのは初めてだけども。

 俺が転生したのは艦隊これくしょんの世界で、どうやら俺は提督として再び生を受けたようだ。どうせなら赤ん坊からやり直したかったが、言っても仕方がないため良しとしよう。だが、待って欲しい。

 

「でも、のっけから殴るこたぁ無いだろ……」

 

『殴られたの? ひどい!』

 

「酷いよなぁ? 俺は何もしてないってのに……」

 

『何もしてないのに殴られたの?』

 

「そうなんだよ。何もしなかったからだって殴られたんだ。理不尽の塊かよあいつ……」

 

『ひどいね! ひどいや! まもる、よしよしする?』

 

「お前……優しいなぁ……」

 

『お前じゃないよ! 私はむつまる!』

 

「むつまる……? あぁ、名前。ありがとうな、むつまる」

 

 むつまると名乗った妖精の頭を人差し指でぐりぐりと撫でてやる。お前は俺の味方だ。優しい。

 でも、なぁ……。

 

 胸中で吐き続けていた溜息、とうとう口から洩れた。

 

「どうして、こうなった……」

 

「提督。どうしてこうなった、とおっしゃいますのは……?」

 

 背後からの声に驚いて振り向くと、大淀が気まずそうな顔をして立っていた。

 どうやら俺の愚痴を聞かれていたらしい。とすれば、彼女は俺がぶつくさ言っている情けない姿の一部始終も見ているわけで……。

 

 隠したって仕方がないか。どうせいつかはバレるんだ。

 

 だから、どうしてこうなったの意味をそのままに伝えた。

 

「全部だ」 

 

「全部……?」

 

 この大淀、もしや察しが悪いのか?

 艦これ世界では任務娘として小難しい任務も全て統括していた(という設定をどこかで見た気がする)あの大淀が首を傾げるとは、また珍しい。

 

 俺の知っている設定とは違う世界なのかもしれない。

 どうすんだよこれ……と頭を抱えるも、説明し始めたのだから隠し立ても申し訳なく、ありのままに吐露する。

 

「俺はな、大淀、俺はな? 働いていただけだ。本当に、ただ働いていたんだ。良かれと思って。それがどうしてこんな事になる?」

 

 ブラック企業に勤めて粉骨砕身していた俺にどんな落ち度があったというんだ。艦娘の不知火が聞いたらぶち切れながら「不知火に何か落ち度でも?(圧)」って言うに違いない。

 

「提督……」

 

 憐みの目を向けてくる大淀。ブラウザ越しに見るにはアニメ絵だったから可愛い程度で済んだが、今や眼前にいる彼女は本物の人間にしか見えない。正直くっそ美人だが、それさえも吹き飛んでしまうくらいに落ち込む俺には余裕は無い。

 

「業績だって悪くなかった。残業だっていくらでもした。休みが無くても従った。でも、変わらなかった……」

 

 初めて出会ったにもかかわらず、記憶の中にある艦これをプレイしていた頃の俺と同じように、ブラウザの彼女達に向かって語り掛けるかのようにあふれ出す言葉。

 あぁ、だいぶ前にも同じように言ってたなぁ、とどこか冷静な頭の隅で思う。

 

「だから見限ったんだ、やってられるかって……適当に次の仕事を見つけるまでは休んで、それからのんびり働けばいいだろって……それが、なんでこうなったんだ……」

 

 言い切ると、俺は現状を再認識して頭を抱え込んでしまった。

 

「心中お察し申し上げます……」

 

「大淀……」

 

 形だけの言葉なのかもしれないが、それでも俺は少しだけ救われるような気持ちになった。

 肩に乗ったむつまるも『まもるはえらい! がんばったんだよ!』と声を上げてくれている。やはり妖精は味方だ。

 

 と、その時。大淀がむつまるを見つけて声を荒げた。

 

「こんな所に、何故妖精が!? ここに来るまで、いなかったのに、なんで……!」

 

 いなかった? そんなわけないだろ。妖精って艦娘とニコイチ的な存在だし、何なら大本営勤めしてたんだから妖精のこと俺より詳しいだろ。

 まあ俺もそこまでガチガチのプレイヤーじゃなかったし、妖精のいる場所いない場所とやらもあるのかもしれない、と俺はむつまるを紹介するように手のひらに乗せて差し出す。

 

「こいつは話が分かるんだ」

 

 そして俺に優しい。今でさえ『むつまるだって言ってるのに! あ、まもる、血、拭く? きづかなくてごめんね?』とハンカチを差し出してくれる。

 でもごめんな、そんな米粒みたいな大きさだと拭えないと思う。

 

「こいつはこんなにも優しいのに……」

 

 どうしてあいつは優しくないんでしょうか。艦これですか? いいえ、現実です。

 

「提督、あの、その妖精はどこから……!?」

 

「この船に乗ってたんじゃないのか?」

 

「そんなの見てませ――」

 

 見てないわけ無いだろ。この子ずっといたよここに。

 俺が言い出す前に、大淀は突然船のへりまで走り出し、身を乗り出す。

 あっと声を上げそうになるも、飛び込む様子はなさそうで一安心。

 

 艦娘やっぱり少し怖いな。海を見たら自然と飛び込んじゃおうとするの? 元は船だから?

 

「こんな漁船から妖精が……い、意味が……」

 

 すぐに戻ってきた大淀はまじまじとむつまるを見つめる。

 むつまるも不思議そうに大淀を見つめ返すという光景に、俺は自然と艦これで幾度も聞いたセリフを口にしていた。

 

「暁の水平線に、勝利を刻みましょう……か」

 

 勝利を刻む――良い響きだと改めて思う。

 苦楽を共にした艦娘達と難しい海域を突破した時などは心が躍ったものだ。

 何度も敗退し、中破、大破した艦娘を入渠させ、最後には攻略サイトを頼ってしまった俺だが……それでも、暁の水平線に勝利を刻むという言葉は好きだった。

 

 仕事に明け暮れて時間が取れずとも、艦隊これくしょん関連の同人誌などを見るほどに俺を支え続けてくれた言葉でもある。

 

 まぁ、勝利を刻む前に過労で死んだが。

 

 はぁぁぁぁ……テンション下がってきた。泣きたい。

 

「うっ……ぐすっ……ひっ……」

 

「えっ」

 

 俺が泣く前に大淀が泣いた。なんで。

 

 いや、ほんと、なんで?

 

「お、大淀、どうしてお前が泣くんだ!?」

 

「もっ、しわけ、ありまっ……せん……! し、かし、提督……!」

 

 申し訳なくない。大丈夫。俺何も気にしてないし見てないから。やめて泣かないで。

 だめだ。女性の扱いとか分からないし泣いてる理由さえも分からん。

 とにかくこんな何もない海の中でぽつんとしてる状態で俺だって不安なんだから泣き止んでくれ、と手を振ってアピールする。

 はたから見たら泣いてる女性に向かって手を振ってるやべえ奴である。

 

「泣くな大淀、あー、た、頼むよ……」

 

「いいえ、提督、頼むのはこちらです……!」

 

「ぁ、え……?」

 

 何を頼むんだ? 見ての通り俺は着の身着のままどころか、着たこともない軍服に身を包んで所持品は無いぞ。財布すらないからお金を要求されてもどうにもできないぞ。

 

 俺がくだらない事を考えているあいだに、大淀は両膝をついて頭を下げた。

 

「どうか……どうか、この海を……守ってください……! 艦娘の指揮を……!」

 

 俺どころかむつまるも驚いて大淀を見下ろしている。

 それから――むつまるは俺に言った。

 

『まもる。助けてあげる?』

 

 数秒だけ黙り込む俺。

 助けてあげる? 助けないという選択肢があると思う? 無いよそんなものは。

 

 形は違えど、彼女は間違いなく大淀なのだ。

 俺を救ってくれた艦娘の一人なのだ。ならば、助けない理由など一つとして無い。

 

 しかし……艦娘の指揮を執るにも、どうすればいいか分からない。

 ゲームの頃のようにブラウザをかちかちクリックしていればいいのならば楽なのでいくらでも助けてあげられるのだが、現実となると話は変わってくる。

 それに、まだ鎮守府にだって到着していない。

 

「わかった。善処しよう」

 

 何とかそれだけを答えると、大淀は顔を上げて目を輝かせた。

 

 やっべえ……勢いだけで言い切ったけど、確実に助けられるか不安になってきた。

 

 そ、そうだ、俺だって着の身着のまま、右も左も分からずに船に乗せられた被害者なんだから言い訳くらいしておかねば。

 厳しい道のりになるだろう。その時は周りの目など気にせず諦めてしまえばいい。おススメこそしないが、諦めたって悪い事じゃない。出来ない事は仕方がない。

 

「厳しいかもしれないが――」

 

「どのようなご命令でも、必ずやこの大淀が遂行致します!」

 

 ……いやいやいや。別に俺は大淀にそんな命令するつもりは無いよ。

 厳しいかもしれないが、頑張りたいという意味かな? 働き始めたばかりの頃、俺も同じ事を言っていた気がする……まぁ、それはね、そういう気合でって意味だもんな。きっとな。

 

 でも、俺は艦これプレイヤーではあったが軍人ではない。

 出来る事なんてマウスをかちっとするくらいだ。あとちょっとしたパソコン操作なら出来る。書類作成なら問題無いが、軍人らしい事を求められるとちょっとつらい。

 

「俺の出来る事も多くは無い――」

 

「その時は、私や他の艦娘をお使いください!」

 

 はっはぁん、なるほど分かったぞ。

 お前、話聞かない系の大淀だな? 俺には分かる。そういう同人誌もあったからな。

 しかしこれでは埒が明かないし話も進まない。

 

 兎にも角にもいったん落ち着かねばと、俺は大淀に提案した。

 

「まずは……大淀」

 

「はっ!」

 

 びりびりと鼓膜を揺らす声。

 お前さっきまでの大淀と同一人物か? どこからそんな大声出してるの。

 落ち着こう、ね。まずは落ち着こうよ。

 

「一緒に飯を食おう」

 

 そういえば船に乗って一時間かそこら。目覚めてから何も食べていないと思った俺は食事を提案する。

 すると何故か大淀がまた泣き出した。だから何でだ。


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