後半は今しばらくお待ちください……。
医務室に響く那珂の泣き声。それが落ち着いたのは西日がほんの少しだけ強くなった頃だろうか。
那珂を置いてさっさと仕事をしようにも足を動かせず、俺はただじっと待った。
その間、那珂は山元大佐がどれだけ大切だったかを川内に訴えていた。
それを訴える相手は本来ならば俺や松岡、鹿屋から山元大佐に代わりやってきた清水のはずだが、姉妹艦である川内に吐露するところを見るに、飾りのない本心であるとも受け取れ声を挟むことはしなかった。
「ここを出る前にね、提督は那珂ちゃんの目を見てくれたんだよ。ちゃんと、真っすぐ」
「うん」
「久しぶりだったの。ずっとずっと、どうすればいいか分からないって顔をしてて、苦しそうで、辛そうで、だから那珂ちゃんが出来る事なら何でもしてあげたくて」
「……うん」
「提督は、強くならなくちゃいけないって言ったの。そんなの、那珂ちゃんだって同じだよって言ったら、提督が、頑張ろうなって」
「……そっか」
川内の胸に抱かれ、まるで幼子のように頭を撫でられながらぼうっとした表情で語る那珂の赤くなった目元から、やっとのことで止まった涙がまた一粒流れた。
「艦娘は人と一緒にいちゃダメなの? 私達は兵器だから、何も考えちゃダメなの?」
「そんな事……!」
川内は「無い」と言い切れなかったのか、ぐっと奥歯を噛みしめて那珂を強く抱き寄せた。
口を挟むべきではないと理解していながらも俺は我慢できずに言う。
「一緒にいればいいだろう」
「海原さん……」
言った後に、やっぱり俺が口を挟むのは空気読めてなかったよなぁ……! と後悔して俯き、軍帽を目深に被りなおした。
やっべぇこの空気どうすんの。助けて松岡。
空虚な俺の咳払いに、ふとあきつ丸が言った。
「自分も、陸軍には居場所がありませんでしたからなぁ。那珂殿のお気持ち、お察しします」
ぐ、と松岡が妙なうめき声を上げたので、そちらに顔を向けると、松岡も俺を見た。
松岡は申し訳なさそうな顔をしながら、俺とあきつ丸に静かに言った。
「陸軍内部に艦娘を良く思わない者がいるのは事実です。陸の所属であると名乗った数少ない艦娘を受け入れてくれる部隊など指折り数える程度……未知の兵器など扱いきれないと表立って言うものの、それは海軍とて同様であると言うのに、情けない限りであります」
あきつ丸なりの皮肉か嫌味か、と気づくも、事実としてあきつ丸は井之上さんの所に預けられていて、最終的に柱島へやってきた。扱いきれないからと言って大本営に送り返していたらキリがないじゃないか。
というか送り返すという選択がまず無いだろう。これは完全に俺個人の考えだが……。
俺がいた世界の艦娘はコレクションするものだった。もちろん、敵を倒して育てたり、資材を集めたりと様々な遊び方はあるが、目的は艦娘の収集だ。
イベント限定艦娘然り、ある海域で期間限定でしか邂逅出来ない艦娘がいたりと、集めて下さいと言わんばかりのゲームだった。
途中から鬼畜難易度が実装されたり海域突破ギミックが複雑になったりしたが、それはまあ、うん。
……うん。
ともかく! 艦娘を追いやる、なんて考えは無い! それだけは確かだ!
考えてもみて欲しい。ゲームの頃はいざ知らず、艦娘は現在深海棲艦との闘いの主力として海を駆け回っている。素人社畜野郎の俺の鎮守府とて遠征だの警備だので艦娘を運用し、この前なんて勝手に艦娘を拾って帰って来たんだぞ。その上、潜水艦絶対撃滅艦娘こと五十鈴が何十隻という大軍を退け、あまつさえ途中補給を敵補給艦で行って継続戦闘というバーサーカーっぷりを発揮……よくそんな存在に逆らえるもんだ。俺は無理。目の前で戦闘とか見たら失禁する自信がある。
ネタキャラとして名高い天龍でさえ大破しながらも不敵な笑みを浮かべて敵軽巡を刀で両断したというではないか。報告書をあげたのは同行していた雷と電だったが、内容を見た時は冗談かと思った。敵軽巡洋艦を両断、撃滅を確認って書いてあったんだぞ。敵はハムとかバターじゃないんだぞ。
「艦娘を手放すなど有り得ん」
艦娘なんて嫌いだ! どっか行っちゃえー! なんて言ってみろ。人類という種がどっか行く。
それをそのまま伝えるわけにもいかないが、心証を害するわけにもいかない。オブラートに包んでね、丁寧にそれっぽくね。
俺の声に全員の顔がこちらを向いた。
目を合わせるのも気まずかったので、また軍帽を深く被り、目元を隠す俺。
「……平和を得るために艦娘の存在は絶対だ。戦争の鍵は我々軍人では無く、艦娘なのだ」
これじゃあちょっと冷たいよな……うーん……。
人間などどうでもいい、と言いたいわけでは無い。人間も大事、艦娘も大事。
「ただの兵器として心無く火を噴かせるなど愚か者のする事。彼女らはかの大戦より蘇り、未だ人々を守らんと戦う《心》を持っている。それがどういう意味か分かるか?」
「……」
誰も答えず、互いの呼吸音だけが医務室を満たす。
……いや答えてよ! どういう意味なのか俺だって分かんねえよ! クソァッ!
「人と同じ、だと仰りたいのですか、閣下」
松岡の低い声に、同じく低い声で返す。
「そうだ。見たままに艦娘などと呼ばれていると私は思わん。那珂は何故泣いている。川内は何故那珂を抱き、撫でている。あきつ丸は何を察し、声を上げた。そういう機能でもついていたか?」
「機能など、そんな事は……」
「我々も言葉には表せない程に考え、感じ、生きている。それと彼女らの今と、何が違うのだ」
「……」
「確かに人では無かろう。私は海に浮かんで砲を撃つなど出来んからな。そこだけを切り取れば確かに兵器と言って間違いでは無い。だが正しくも無い。故に、艦娘なのだ」
あ、あぁぁ……ダメだ、何言ってるか自分でも分かんなくなってきた……。
初心に立ち返れ俺。艦娘イズジャスティス。可愛いイズジャスティス。これだ。
「艦娘は人々を守るために立ち上がった……では艦娘は誰が守ってやれば良いのだ。軍だ。我々こそが彼女らに寄り添わねばならんのだ。心を侵す脅威や一人ではどうにもできない環境から、理性と規律を以て守るのだ。それに……美人の笑顔を守るのは、男の矜持と呼べんか、松岡」
誰がどう見たってあきつ丸は可愛いだろう? 陸軍は後悔しても遅いぞ。返さないからな。
あきつ丸がいなきゃ仕事出来ないんだから俺。大淀も川内も、というか艦娘がいなきゃ仕事出来ねえんだぞ。どんだけ役立たずだよ俺。本当にすみません。
「閣下……」
もう言葉が浮かばない。ごめんな役立たずで。
俺は仕事に逃げるぜ! 仕事から逃げたかったのに、仕事に逃げるってこれもう何したいのか分かんねえ……社畜な思考を恨んでも、どうしようもないのだが。
すっと背筋を伸ばし、威厳スイッチ(故障中)を殴りつけるかの如く連打して威厳を維持しつつ川内に告げる。
「川内。姉なのだから、しっかりと妹を見ててやってくれ。那珂も少しは落ち着いたろう? 今度こそ執務室に向かう。もう、大丈夫だな?」
「う、ん……はいっ! あ、あの、海原さんっ」
「なんだ」
背を向けて医務室を出ようとした俺の背中に、少しだけ無理をしているような、でもほんの少し持ち直したような那珂の声。
「ありがとうございますっ。提督が戻ったら、ちゃんと、一緒にお礼を――!」
「構わん。そんな時間があるなら、山元をしっかり支えてやってくれ」
「……はいっ!」
うーん……やっぱり大正義那珂ちゃん。あの体育会系は日に十回くらい那珂に手を合わせて感謝の祈りを捧げるべきだ。
俺は山元大佐に若干の羨望の念を抱きながら松岡とあきつ丸を連れて医務室を後にした。
* * *
「少佐殿、その、自分は」
「あきつ丸は私の補佐を頼む。松岡、お前もだ。軍規に反する事があれば私であれ止めろ、良いな」
「っは」
自然と急ぎ足になりながら執務室の道へ進む最中、履きっぱなしなのに一向に柔らかくならない革靴にさえ苛立ちを覚える俺。
胸中にじっとりと広がるストレスの正体は言わずもがな。胃腸にまで鈍痛を感じる。
俺に定められた仕事は艦娘を癒すことであり、通常の軍人とは内容も難度も桁違いなのだろうが、それにしても杜撰。あまりにもおざなりな仕事ではなかろうかと怒りが湧く。
おざなり、と言えば俺も人の事は言えないが、形だけでも警備や遠征を行い規定には従っている……と、思う。恐らく。
艦娘を泣かすなど言語道断だ! とも言いたいが知らず知らずのうちに泣かしていたこともあるので、それも人の事は言えない。主に仕事しっかりしてくれという意味で泣かれる事が多いような気もしないこともないが、今回はそんな俺を超えるおかしい事態だ。
艦これの知識を仕事に持ち込んで良いものかどうかはさておき、遠征の真意も分からないまま遠方にたった二隻を送り込むなど、どういう了見か。
ただそれだけでは誤解を与えかねないので言い方、いや、ここは聞き方か……? には気をつけねばならない。俺が知っている艦これ知識とは違って、この世界での艦娘を用いた遠征は少数で行うものなのかもしれないからだ。
ゲームの頃ならば燃費を考え低練度の駆逐艦を二隻、ないし三隻編成で二艦隊ほど組んで燃料や弾薬を集めさせたりしていたが、現実にもそういった遠征が行われているのかも確認しなければいけない。那珂や潮が泣いてまで拒否反応を示したのも変な話だ。バラバラにされちゃう、などと口にしてまで。
「陸軍は海軍の仕事をどこまで把握している」
道すがらに問えば、松岡はごつごつと重たい足音の中、少しだけ間を置いて答えた。
「海軍の機密規定に抵触する事項以外は、おおよそ共有されております。各拠点の記録なども、戦闘、遠征、またはどのような開発が行われているかなども請求すれば閲覧可能であります。開発に関しましては妖精、というものが関係し……っと、閣下はご存じでありますね。失礼を」
「妖精が関係している開発は軍規に抵触するため、閲覧は不可能か」
「っは、そう定められております」
「ならば問題無い」
「と、言いますと……?」
「私は同じ海軍だ。記録を閲覧するのに階級の問題があるならば、その限りでは無いが」
「そ、そうでありますね……事が事なだけに、失念しておりました……!」
おい頼むぞ松岡。お前が知らん事は俺も知らん。というか何も分からんのだからお前とあきつ丸だけが頼りなんだぞ……!
死ぬ気でサポートしろ!
他力本願は今に始まった事じゃないからスルーで頼むぜ!
「少数での遠征は那珂が泣いてしまう程に困難な作戦なのか、というのが気になる。私も先日遠征任務を行ったのだが、敵艦と遭遇したと報告を受けている。駆逐艦を侮っているのではなく、二隻でも問題無いと判断した理由を知りたい。問題無いのであれば、潮があれほどに取り乱す理由を問わねばならん」
「閣下、お言葉ですが、真正面からそのように問うて大丈夫なのでしょうか」
「なに……?」
聞いちゃだめなの? 那珂ちゃんが泣いてたのに? それこそ何でだよ!
足を止めて軍帽から理由を聞こうと上目遣いに松岡の顔を窺うと、俺と目の合った松岡はその場でひゅっと妙な呼吸をして気を付けの恰好となる。
「どういう意味だ……? 私が分からん事を上官に伺うのは、ダメな事なのか……?」
「い、えっ、そのような! じ、じじ自分が言いたいのは、清水中佐が素直に答えるとは思えないと、そういう――!」
「何故、素直に答えない可能性がある? 間違ったことをしている訳でもあるまい。艦娘を遠征に出す、何らおかしなことは無いだろう。だが、それでは潮が取り乱していた理由が分からんというだけだ」
「ぅ……ぐ……」
え……? もしかして質問するにも軍特有の礼儀があったりするのか?
軍と言えば体育会系――第一に出会った山元大佐も俺と出会った際は先輩風ならぬ上官風を吹かしていたような気がするが、質問者にはそういう風体が必要であると、そういう事か?
しかしあの時は山元大佐が少佐である俺に挨拶という形でやって来たに過ぎない。今回は少佐の俺が中佐に挨拶、もとい視察に来たわけで高圧的な態度をとるわけにも……。
視察前に高圧的な態度を取ってしまったようにも思うが、松岡が俺を咎めることも無かった。類推するに間違っている訳では無かった、という事か?
社畜に必要な能力のうちの一つ……類推からの応用……これしか無い……!
「……承知した。ならばその分、お前の助けが必要になる」
艦これ繋がりで調べたところ、海外について良く学んでいたと知識にある海軍のこと、きっと威圧に近い乱暴さというのも一つのコミュニケーションなのかもしれない。
洋画などで見られるスラングを用いた会話なんていうのも良く目にするしな……ネイビーなんちゃらって映画でも「てめえに心配されるくらいならばあちゃんが作ったパイでも食ってる方がマシだぜ」とか言ってた気がする。意味は知らんが。
郷に入っては郷に従え――自分が知らないからと言って礼を尽くさないのはよろしくない。
一般人かつただの社畜の俺には高いハードルだが、越えて見せようじゃないか……艦娘のために……!
俺がすべき仕事を具体的かつ簡潔に頭に浮かべる。
一つは記録の閲覧。これまでの遠征記録を見せてもらって、少数艦隊での遠征がおかしいか否かを判断する事。これは松岡も一緒に見ることが出来るため、何らかのルールに違反していないかの判断もしやすい。
二つ目は遠征任務の発令に際して、艦娘から反発があったかどうかの確認。潮や那珂の反応を見れば明らかなのだが、清水中佐には見せなかった可能性は否めない。上司の機嫌を損なわないために曖昧な物言いをしていたら、知らず知らずのうちに仕事が決まってしまって泣きを見るというのは良くある話だ。俺もそうだった。
清水中佐が遠征に出した意図を知り、俺が潮達を代弁してバラバラにされるのは困ると言っていたと報告すればいい。もしも軋轢が生まれるようであれば、俺や松岡が間に入れば済む話だ。
山元大佐が戻ってくるまでの間は気まずくなってしまうかもしれないが、嫌な仕事を受け続ける事と気まずい時間を過ごす事とどちらが嫌なのか判断するのは本人だしな。
「閣下がなさる事には協力を惜しんだりはしませんが……何を……」
何をって全部だよ! ちきしょお!
ぐるぐると考えているうちに執務室の前までやってきた俺は、深呼吸する。
あきつ丸が不安そうに俺を見上げた。こうやって艦娘に心配されるのはやぶさかでないが、俺とて提督の端くれ……何千何万といる提督の中の一人なのだ。やってやるとも。
社畜時代の礼儀とは真逆――恥も恐れも捨てされ、まもる――!
「……さて」
仕事を始めようじゃないか!
山元大佐を思い浮かべながら、俺は扉をノック無しに勢いよく開け放った。
「なっ……少佐殿――!」
「閣下――!?」
爆ぜるような勢いで開いた扉の向こうには、驚愕の表情で椅子に座る清水中佐。
俺は重たい革靴の足音を鳴らして応接用ソファまで来ると、どかっと腰をおろして軍帽を脱ぐ。
「なっ、海原、貴様ッ――」
「質問に答えろ中佐――間違った事は言うな」
間違ったことを言われたら俺も混乱するからね。お互いにちゃんと確認し合いながら話そうね。
そんな気持ちで口から飛び出た第一声。
耳鳴りがするほどに室内がしんとした。怒られてないから間違ってないんだと思う。
「呉鎮守府における艦娘の運用は間違っていないか?」
「な、何を言うかと思えば……ん、んんっ……鹿屋基地との運用にそう大差は無い。山元の件で警備範囲の縮小こそあったが、それ以外は問題は――」
「大佐だ」
「あ……?」
威圧的なコミュニケーションでも上司と部下の関係は大事だぞ! あの体育会系でさえ俺の事をちゃんと少佐って呼んでたんだからな! お前がきちんとしていなきゃ俺が礼を尽くしている意味が無いだろうが……!
「山元大佐だ。訂正しろ」
「ぇ……は……?」
「これは陸軍憲兵を交えた正式な視察である。記録の閲覧を含み呉鎮守府の運営に不備が無いかを確認させていただきたい。私が言っている事が分かるな……?」
仕事サボるために来たんだけど、憲兵もいるから適当な仕事は出来んのだ、分かってくれ清水中佐ァッ……!
伝われ、頼む伝わってくれ、と目で訴える俺。松岡と俺を見て顔面蒼白になっていく清水中佐。
急に仕事だって言われて困っているのが手に取るように伝わった。マジでごめんて。俺もこうなるとか思ってなかったから。恨むなら大淀を恨んでくれ。大体あいつが悪――いや俺が悪いな……。
「そんな事聞いていないぞ! 何が正式な視察だ! ならばフダの一つくらい用意して出直せ!」
フダ……ふだ……礼? あ、令状の事!?
清水中佐のもっともな言い分に俺は唸ってしまう。そらそうだよね、と。
「な、なんだ……!」
「いや、なに。その通りだと思ったまでだ。松岡、用意しろ」
ごめん頼らせて松岡。今度からちゃんとまるゆみたいに松岡隊長! って呼ぶから。
「っは。では書類を取り寄せ――」
それじゃ間に合わねえんだよなぁ! 清水中佐の言う通り、視察をするならそういう書類がいるんだろう? 今ここに無きゃ仕事出来ないじゃんかよぉ!
だが俺がここで無茶を言って求めるのは、社畜精神を松岡に押し付けてしまうことに……っぐ、しかしそうせねば俺の仕事が終わらない……社畜時代の俺の上司はこのような板挟みを経験していたという事か……! くそぉ! 横暴野郎とか思っててごめんよぉ!(横暴)
「取り寄せる? 何を言っている。ここで書け」
「か、閣下……しかし……」
「大方、書類に必要なのは承認だろう。ならば、お前がここで承認すれば済む話じゃないのか」
「っ……」
俺の言葉に松岡は険しい表情で考え込み、数十秒して懐に手を入れ、ペンを取り出した。
それから、ずかずかと執務室の棚へ歩み寄って適当な紙を一枚用意すると、その場でがりがりと何かを書き始める。
静かに待っている間にも、清水中佐は顔から色を失っていく。
後でちゃんと謝っておこう。急に仕事させて本当に申し訳ない……あとで余った金平糖あげるから……。
「閣下――こちらを」
松岡が差し出してきた紙には『令状』と書かれており、あぁ、やっぱり軍だからこういうのが必要だったんだぁ……なんて思いつつ内容を流し読みする。
書かれている内容は至ってシンプルなもので、呉鎮守府における不正の有無の確認、といったところ。
仰々しい内容にも見えるが、仕事における契約書も似たようなもんだと俺もペンを取り出し、空いている署名欄にサインする。海原鎮、と。
俺がペンを走らせるのを固唾をのんで見守るあきつ丸の視線に気づき、愛想笑いしておく。ちゃんと仕事するんで大淀にはチクらないでください。
そんな時、目に入った松岡の名前。どうやら松岡忠というらしい。憲兵隊で忠という名前とは、いかにもといった感じだ。間違いは許さないぞ! って伝わってくる。頼もしい限りである。
特徴的な角ばった字体で西日本統括なんとか……と書かれているあたり、憲兵隊は全国に存在しているようだ。西日本に所属している憲兵隊の隊長の署名があるならば、視察をしても問題無いだろうと、俺はサインし終わった紙を清水中佐へ差し出した。
「これでいいか?」
「ぁ……ぅぅ……!」
「これで、問題無いか?」
清水中佐が受け取らないので、何か不備があったかな、と令状を見直すも、あっているかどうかさえ分からない俺が見ても理解出来ず。
そこで、はっと気づいた。俺の所属とか書かなきゃダメだったりする!? と。
「あぁ、失礼した。少し待て」
松岡の署名を真似するように、その下へ付け加える。
《陸軍大臣付西日本統括部隊、大佐、松岡忠》
こいつ、山元大佐と同じ階級かよ……俺の上司じゃん……。なんて考えつつ。
陸軍での一番偉い人は大臣、という事だろうから、海軍ならば井之上さんになるのか。じゃあ……とさらさら書き加える。
《海軍元帥付柱島鎮守府提督、少佐、海原鎮》
よし。完璧である。
何かあれば井之上さんを全力で頼って行こうという気満々だ。
「ほら、これで視察をしても問題は無いな?」
改めて差し出すと、清水中佐は両手でそれを受け取り、内容を見た後にこっくり首を縦に振った。
っしゃぁ……及第点だろぉ……! 見たかよあきつ丸ゥ! 俺だってやるときゃやるんだぜ!
あとは無茶な事してたら松岡に『これはダメだぞ! めっ!』ってしてもらうだけだ。
ルールに従った運用であれば問題無いから、仕事も終わり。非の打ち所がない俺の対応力よ……。
じゃあ仕事だ! 那珂ちゃんが泣いてたわけを聞かせてもらおう! 潮にビンタ貰った理由もなぁ!
「では清水中佐。呉鎮守府所属の軽巡洋艦那珂は知っているな? その艦娘が泣いていたのだが、その理由は分かるか?」
「し、知らん」
「知らん、か……那珂は私に《バラバラにされる》と言っていたのだが、これは《解体される》という解釈をすべきか? それとも、互いに離されてしまうと解釈すべきか?」
これが分からない。那珂は提督が帰ってくる前に皆バラバラにされてしまうと言っていた。
艦これで言う解体が独断で行われてしまうのに恐怖しているのか、はたまた艦娘同士が方々へ飛ばされ、離散させられてしまうのに恐怖しているのか。
それに、提督は戻らない、死ぬだろうとまで那珂に言ったのだ。裏付けが無ければ虚言と同じ、それを国を預かる軍が口にして良いはずがない。
「遠征に向かう事をバラバラにされると、早とちりしたのではないか? 出向で鎮守府を預かっているからと言っても所属している艦娘の建造や解体に関しては裁量が無い」
清水中佐の返しに、あきつ丸が何か言いたげな顔をしたのが目に入った俺は、そちらに声を掛ける。
「なんだあきつ丸。言ってみろ」
「ぇ、は……はっ! な、何でもないであります!」
そういうのが一番気になるだろうが!
「構わん、私が許可する。何が気になっているんだ」
あきつ丸は逡巡し、おろおろと俺と清水中佐を見て言った。
「遠征に際して、バラバラにされるなどと、艦娘が言うでしょうか、と……し、私見であります。申し訳ありま――」
あきつ丸の謝罪に食い気味に声を重ねる清水中佐。
「艦娘の私見で決めつけてもらっては困る。呉鎮守府を預かっているのは私だぞ。艦娘を最大限有効活用するのに分散させるのがおかしい事か!」
清水中佐の言はもっともだ。数がいればその分出来る事は増える。手が多ければ多い程仕事に対して割ける労力は大きくなる。理にかなっている。
しかしあきつ丸の言葉は俺が問いたかった疑問にも直結している事……ナイスアシストだぞあきつ丸ゥ!
やっぱりサポートがなきゃ仕事出来ないんだなぁ俺……と、感謝しつつ落ち込みつつラッキーとテンションが上がる感情のジェットコースターをポーカーフェイスでひた隠し、言葉を紡ぐ。
「清水中佐の言う通りだ。数が多いならば効率良く動かして最大の利益を得る……当然だな」
「だ、だろう!? そう、そうなのだ。艦娘を最大限に活かしてこその海軍であり――」
「では、その効率とやらがどれだけの利益を生んでいるか、記録を拝見させてもらおう」
「っ――!?」
「……なんだ? おかしな事を言ったか? 記録くらい残しているだろう。手書きかデータかは知らんが、清水中佐の運用で軍に有用に働いているのならば私も見習わねばならんからな」
技術を見て盗む、ならぬ記録を見て盗む……仕事とくれば俺は自分の事を優先させてもらう!
ちゃんと運用出来てるなら柱島でもそれやるから、な? 見せてくれよぉ!
「記録は、の、のこ……って、い、ない……」
「……ほう」
こいつ……俺と同じサボり魔か……?
記録に残ってないなら資材の管理も出来ないだろうが! 怒られるぞ!
しかし考えてみれば、急な呼び出しで鹿屋からこちらにやってきたのだろうから、記録の様式も違ったりしていたのかもしれない。それで記録が用意できておらず、とりあえずは別の形で残していたりする可能性もある。
何度も部署異動したりしていた俺もそういう経験があるので強くは責められない。
だが記録が無ければ報告だって上げられない。俺の場合はドチャクソに上司に怒られまくって、記録の無い期間は正直に記録できませんでしたという報告を上げて穴あきとして処理した記憶がある。
俺という部下がいる手前、清水中佐は恥を忍んで上司に怒ってもらうとして……そういう処理をしなければならないだろう。
「では、早急に処理せねばならんな」
「しょっ……!? ま、待ってくれ海原! 記録はある! あるが、実験的運用を兼ねている故に外部には出せんのだ! 憲兵隊がいればなおの事、分かるだろう!?」
「ふむ……海軍の機密という訳だな?」
「そうだ!」
「承知した。松岡、出ろ」
じゃあ出せばいいじゃん。解決である。
「……っは」
松岡はすぐに執務室を出て行き、残される俺とあきつ丸、清水中佐。
清水中佐はぽかんとして松岡の背を見送った後、あきつ丸を見て、俺を見る。
「これでいいか?」
「……か、艦娘にも見せるわけにはいかん! これは指揮官のみが閲覧できる――」
「あぁ、分かった。あきつ丸、お前も出ろ」
「し、しかし少佐殿!」
「出ろ。軍規上の問題ならば仕方あるまい」
「っぐ……」
あきつ丸は軍服の裾にしわが残ってしまうくらい強く握りしめ、清水中佐を睨みつける。
清水中佐はと言えば、口角をほんのり上げていた。軍規とは言え艦娘を蚊帳の外に追いやるのは申し訳ないが、許してくれ。仕事はするんで。
「少佐殿、な、何かあれば、あの、すぐにお呼びを」
「うむ。ありがとう、あきつ丸」
「……」
あきつ丸が出て行った後、いや、あきつ丸が出て行った瞬間の事だった。
ぱたりと音を残して扉が閉まった瞬間、前に向き直った俺の視界に映る――この世界で何度目かになる黒光りする獲物。
カサカサしてるほうではなく、ばーんという音が鳴る方だ。
「何をしている、清水中佐」
「それはこちらのセリフだ……どうやって嗅ぎ付けた……!」
嗅ぎ付けた? 何の話してるんだこいつ。
「仕事の話をしたいのだが――」
「うるさい、動くな……! 殺しはせん……駆逐からの報告があるまでは、邪魔をしないでもらうぞ」
……なるほど分かった。こいつ自分の仕事は絶対に邪魔されたくない系の社畜だな?
はっはぁん、なら話は早い。仕事を邪魔するつもりなど欠片も無いので、邪魔にならない質問をすればいいのだ。
艦娘の運用については遠征中だから邪魔するなという事だろう。
なら、鎮守府の運営については聞ける。
こうして銃口を向けられても混乱しないのは、疲れや緊張を超えて非現実感が勝っているからだろうな、と考えた。何せ痛みを伴わない。
この世界に一番初めにやってきた時に混乱したのは、名も知らぬ軍人に顔面パンチをお見舞いされて怒鳴り散らされたからだ。俺以外でも混乱するだろう。そらそうよ。
顔面を容赦なく殴りつけてくるような男が銃を取り出したのならば、撃ち抜かれるかもしれないという恐怖もより濃くなる。だから逆らわなかった。
だがそれ以外に二度銃口を向けられた時は痛みは無かった。ただ向けられただけだ。
そりゃあ一切の恐怖が無いと言えば嘘になるが、本当に撃てばどうなるかなんて相手が考えていないはずもない。
山元大佐の時はゴーヤ達がいたし、今回はあきつ丸のほか、松岡もすぐ外で待機している。そこで銃声なんて聞こえてこようものなら俺も清水中佐もお叱りなどでは済まないだろう。
「撃つ気はあるまい」
フリじゃないからな。マジで撃つなよ。
言っておきながら自分で怖くなってくるという世紀のアホっぷりを発揮しつつ、俺は抵抗する気は無いので、と両手を胸まで上げてソファの背もたれに寄りかかった。
「き、貴様ァッ……!」
「仕事の話をしたいのだが、続けて構わんな? 遠征について話せないのならば、鎮守府の運営について不備が無いか確認させてもら――」
俺の話の途中、清水中佐は立ち上がって銃を強調するように示し言った。
「少佐の貴様が死のうとも、中佐の私が残っていれば問題はあるまい……! 分からんのか、あぁ……!?」
「いや、だから、仕事の話を――」
ただ俺は仕事を終わらせて鎮守府に帰って休みたいだけなんですぅ……!
「貴様のような偽善者が国民を危険に晒すのだ……! 武力の前では成す術など無いと何故分からん……!」
「武力の話などしていないだろう。落ち着かんか。私はこの呉鎮守府の運営について――」
「我々軍隊は護国のために存在しているのだ……軍規だけでは守れんものが存在しているのを理解しているのか、海原!」
マジでなんの話してるんだよ清水……お前疲れすぎじゃないのか……。
俺は何だか可哀そうになってしまい、大きなため息を吐き出して上げていた両手を下げ、指を組んで肘を膝につき、ふむ、とだけ呟いた。
「仕事は辛いか、清水中佐」
「辛いわけがあるか! 護国のためならば魂を引き裂かれても構わん!」
「ならばどうして職務を全うせんのだ」
「どうしようもないからだ……どう、しようも……!」
「何が、どうして、どうしようもないという考えに至った?」
俺は艦娘のケアで手一杯――出来ているとは言っていない――だと言うのに、上司の愚痴にまで付き合わなきゃいかんのか、と頭痛を感じながら言葉を投げ合う。
「現状を見て分からんのか? 国は疲弊し、艦娘を運用できる者も限られている今、国民の地力さえ発揮できんのだ。軍がどれだけ踏ん張ったところで、残された道は少ないのだぞ」
「運用できる者がいないと、そういう話か?」
「……そうだ」
「いるだろう。ここに」
「は?」
「艦娘を指揮する提督はここにいるだろうと言っているのだ」
そうです。俺です。艦隊運営はお任せください!
すみません調子に乗りました。だが一理も無く言ったわけでは無い。艦娘を指揮するのに俺という存在は微妙かもしれないが、数日とは言え大淀のサポートありきで運営は出来ているし、実績として五十鈴や球磨、天龍達も深海棲艦を撃退だってしている。ちゃんと出来てるだろう? と清水を見る。
まぁそれも全部艦娘達がやってくれた事で、俺がやった事は書類仕事ばっかりなんだけれども。
「貴様の、ような、無能な者が艦娘などというものを、助長し、のさばらせるから……!」
「艦娘に恨みでもある物言いだな」
「当然だ! あのような得体の知れない存在に縋るなど! ふざけるな!」
ふざけるな、だと……!?
おいおいおい、こいつ言っちゃいけねえことを言ったな……。
言ったなァッ!?
全国百二十万を超える提督を侮辱するような事を言ったなァッ!?
「艦娘が、ふざけているだと……?」
「あんな化け物風情がわが物顔で国を歩いて――」
化け物? あの、可愛さの権化の集まりが、化け物?
教育が必要だ、こいつには。
「護国が為に立ち上がった者に対して化け物とは随分だな、清水」
「う、動くな!」
ゆらりと立ち上がった俺に対して照準を合わせる清水だったが、そこに恐怖など微塵も無かった。
あるのは圧倒的怒り――可愛いを否定する者への憤怒――!
「ならば艦娘と関わりのない場所で存分に働けば良いだけの話だ。本当に護国を思うのであれば地の果てだろうが問題は無い。違うか?」
「詭弁を――!」
「詭弁を弄しているのはどちらだ! 答えろ清水ッ!!」
「!?」
俺の怒鳴り声に執務室の扉が開かれる。
あきつ丸や松岡が何やら叫んでいたが、怒りのあまり耳鳴りがしている俺には届かず。
間を置かずに川内や那珂までやってきてしまうも、気にする余裕など無かった。
ただ可愛いを愛でてはだめなのかと。仕事をしているだけではダメなのかと。
まとまりのない癇癪を怒りだと胸中で言い訳しながら、情けなくも、俺はまだ当たり散らすのだった。
「お前は誰のせいだと理由をつけて己が目的を果たせなかった現実から逃げるつもりか! ならば私も言わせてもらおう――そんなもの知ったことかッ! 責務を果たせ! 艦娘を守れ! 護国を思うならばなおのことだッ!」
艦娘を守るのは自分の仕事であるというのに怒鳴り散らすあたり、完全に狂人なのは俺の方である。
だがどうしても否定されたくなかったのだ。艦隊これくしょんは、艦娘は、俺の人生の支えだ。昔も、今も。
「那珂がバラバラにされるかもしれんと、山元はもう戻らないと言われたと泣いていたのだぞ!? 潮など私の頬を張ってまで仲間を返せと言ったのだ! どれだけの想いが内にあったか推し量れんほど私も愚かでは無い……居ても立っても居られないほどの想いが私の頬を打ったのだ! そんな玩具で脅されようが引くわけにはいかんッ!」
一息で言った後、俺は大きく息を吸い込み、渾身の力で勝手な自負を吐き出した。
「――提督をなめるなッ!」
「う、ぅぅぁああああ!」
俺の怒声と、清水中佐の叫びが重なった。そして――ひとつ、轟音が鳴り響く。
時の流れが止まったかと思うほどの静寂に、花火でもした後のような独特な香り、それと……俺の頬に走る、潮に平手打ちされた時とは違う痛み。
清水中佐が銃を撃ったのだと気づくのに、たっぷり数十秒は掛かったように思う。
そこで俺はようやく、銃は本物だったんだなと思うのと同時に、あまり恐怖を感じないことに驚いた。
年端もいかない子どもの癇癪のような怒りが脳みそが浸るほどの興奮剤を出してくれていたのだろう。
これが冷静な時であれば、きっと土下座をして命乞いでもしていたに違いない。
「……ふん。潮の平手の方がよっぽどだったな」
「な、ぁ、ぅぁ……!」
「言え。艦娘をどこへ向かわせた」
俺がそう言うと、清水中佐は銃を取り落としながらぽつりと答えた。
「南方の、海域だ……通信は、切るように言いつけて、ある……」
「この際だ、通信を切るように言いつけた理由は後で聞く。では、何故その海域へ二隻のみで遠征に向かわせたか答えろ」
「……」
「柱島付近でさえ深海棲艦が確認されているのに、二隻のみを送って問題無い海域なのか?」
「わ、私は悪くない……私は……!」
どさりと椅子に座り込んだ清水。それを見下ろす恰好となったまま、俺は嫌な予感しかせず、あきつ丸に海図を探すように言う。
テレビで見たような家宅捜索さながらに棚を中身を引きずり出して海図を持ってきたあきつ丸からそれを取った瞬間の事だった。どこからともなく、大勢の妖精が現れた。
『まもる! まもる!』
『だいじょうぶだよ。わたしたち、ちゃんといるよ』
『手伝う! いっぱい手伝うからね!』
あきつ丸が「よ、妖精が、こんなに――!?」と声を上げるも、俺はすぐにでも漣達を連れ戻さねばと必死に海図を睨みつける。
妖精達が各々自分よりも大きなペンを持ち上げて海図のところどころに印をつけていくのを見ながら、人差し指を這わせどこら辺にいるのかを考える。
「遠征に向かわせてどれだけの時間が経過している」
俺が誰に言うともなく問えば、那珂が「も、もう半日くらいは、経って……」と答えてくれた。
すると、妖精の一人が海図のある地点に印を書いた。
『あの二人のはやさだと、ここらへん! いそげば、まにあう!』
「……ここに向かうまでに、同程度……いや、半分かかるとして、二人はどこまで進む」
『……これ、くらい!』
ペンを重そうに動かし、もっと南を示した妖精。
いくつもつけられた印に、見覚えがある。何度も何度も繰り返し出撃した記憶があった。
この世界ではこれが初めてになるかもしれない、と俺は額を手で押さえ、顔を顰める。
大淀達に任せっぱなしの遠征などでは無い。これこそが俺の初陣になるだろう、と。
「サーモン……いや、ソロモン海か――」
俺の呟きにすらかき消されそうな、清水中佐の声が耳に届いた。
「ぺ、ペンが、浮いて、う、動いて……!? ば、化け物……!」
それに反応さえせず、俺の脳が記憶をかき回す。
百万を超える提督たちが踏み越えた海域を、俺は今ここで、現実で、越えねばならない。
松岡やあきつ丸、川内や那珂の声さえも遠くなるような感覚の中で、肩を揺らされてはっと顔を上げる。
「少佐殿――」
なんだ、と問う間も無く、あきつ丸の唇が動く。
「――元帥閣下から、お電話であります」
井之上さんが? と違和感を抱く一方で、艦娘を癒せと言った張本人たる海軍の長の全てを見透かしたようなタイミングに冷静さを取り戻しつつ、俺は差し出された電話を受け取った。
「お電話かわりました。海原です」