「少将――少将――!」
どんどん、と扉を乱暴に叩く音が無機質な機械の並ぶ部屋に響いた。
その室内にあるガラス張りのプールのようになった機械の前に立っていた男は、顔を顰めながら扉の方を睨みつけ、遊びを邪魔された子どものような声で「入れ」と言う。
扉が開いた先には、息を切らせた憲兵が一人。
手にはいくらかの紙束があり、何度も捲ったかのような跡があった。
「失礼いたします! ご報告が!」
「こんな時間に一体なんだと言うんだ」
男の腕に巻かれた時計の針は頂点を指しており、言う通りとも取れるが――
「は……っは! それにつきましては申し開きもございませんが、火急の用件でありまして――!」
火急の用件? 少将と呼ばれた男はますます顔を顰めた。
「南方海域が、数時間前に、その、開放され、えー……!」
「は……?」
ぽかん、という表現はまさにこの状態を指すのだろう、と男はどこか他人事のように考えてしまう。
南方海域が開放された? それは有り得ない。
何故ならば、南方海域を閉鎖しているのは
「何を馬鹿な事を。大本営からの通達か?」
「はい……それに加え、海原少佐の嫌疑について、証拠不十分にて棄却という話も……」
「待て」
何が、起きている?
男――日本海軍少将、
だがその反応もほんの一瞬で、すぐさま冷静になって仔細を話せと憲兵を促す。
感情こそ押し殺したように見えるものの、ガラス張りのプールへ無意識に伸ばされる手は動揺をあらわしているようだった。
「証拠不十分だと? 事を仕損じたか? 各方面での轟沈としているはずだろう」
「それは間違い、ありません……」
憲兵の男もまた信じられないといった表情で楠木を見ていた。この名もなき憲兵こそ、楠木よりも現実を受け入れられないといった顔をしているのもまた、混乱を加速させていく。
「横須賀へ出向いたのは自分です! 確かにその時、自分が――! 轟沈の報告も全て……」
「息があったまま逃げたのではないのか?」
「それこそあり得ません!」
一際大声を発した憲兵は、すぐさまはっとして頭を下げる。
「しっ失礼いたしました……」
楠木は諫めるわけでもなく「構わん。もう一度近辺の海域の情報を収集しなおせ。実験体諸共この基地を一度放棄する」
こめかみに人差し指を当てながら話す楠木。その思考速度についていけず、憲兵は数度瞬きをした。
「少将、それは……」
言っている事は理解できる。だが、どうしてその結論に至ったのかを理解出来ない、という顔をしていた憲兵に対して、楠木は呆れたような声を発するのだった。
「貴様に説明している間にも、大本営がどのように動いているのか調べられそうなものだが」
「……」
ぐっと言葉を詰まらせる憲兵に、はぁ、と溜息を吐いて楠木は続けた。
「いいか? 六年だ。貴様らに仕事を任せたツケが六年も経った今、まわってきた。確実に仕留めろと言ったにもかかわらず、だ」
「……はっ」
「まぁ、いい。陸しか知らん馬鹿であろうが仕事は確実にこなす貴様らの事だ、間違いなど犯していないのは分かる――大方、大本営が失墜を恐れて別の者を仕立て上げたか……はたまた、居もしない人間の名だけを使っているかだ。関西方面に動きは無い上に、万が一本人であったとしても六年も経った後に見つかった男など使い物にならんだろう。本土から離れていようが私の耳に入らんはずも無い」
質問は、と問う楠木に、いえ、と小さな声。
「中四国、九州と報告書も問題無い。とすれば、反対派を恐れた元帥が代役を放り込んで時間稼ぎをしようとしている……そんなところだろうな。関西をおさえられている人権派の立場からして動きの目立つ反対過激派から目は離せないだろうからな――それにしても、大本営も中々に面白いことをしてくれる」
全てとは言わずとも、楠木の側仕えである憲兵は男のしている事を理解しているつもりである。
楠木は戦争をしている。
――世界と。
「こんなに経って海原が見つかった? それに南方海域を開放? っは、笑わせる。数年越しの大規模作戦を将官にも伝えず実行か。それで、作戦を実行した部隊はどこの所属だ?」
「そ、それが……」
どうして世界と戦争をしているのか、など深い事情は知らない。知りたくもない。
ただ、日本海軍はおろか、世界中がこの男の手のひらの上にある事だけは確かであった。
深海棲艦が出現して何年と経っただろうか。楠木という男はまるで待ち構えていたかのように行動を起こした。
元々海上自衛隊の一等海尉であった楠木は、自衛隊が海軍と名が変わった後も動じることなく職務を遂行し続け、順当に出世し、海将補――現在の少将にまで至った。
それもこれも、献身的な働きによるもの。
海外と早期に連携を取るべきであると進言し、深海棲艦と同時期に現れた艦娘という存在を完全管理することによって統率を図り、同時進行で深海棲艦の研究をするべきであると言った男だ。
軍隊という性質上、発言の一つでも間違えば世論は大きく手のひらを返す。
世は彼を聡明な男として見ている。元帥、ひいては軍全体も、良くも悪くも賢しい男であるという認識なのは間違いない。
海外と連携を取る事によって武力を行使した内戦を避け、前線に出て防衛を担う――どこの誰が見ても、楠木は英雄だった。
ただ一つ、その原動力が何に向けられているのかも分からない憎しみであることを除いて。
「柱島鎮守府であります……」
「――なかなかに賢いな。捨て鉢かと思ったが、違うようだ」
その英雄の正体を知っている憲兵にとっては、賢しいという見方こそ相違無い。
「ならばその代役である海原二号にも頑張ってもらおうでは無いか。その間に我々はシンガポールへ移動する」
「シンガポールへ……?」
「何もかもを説明せねばならんのか? 貴様も随分と私に甘えるようになったのだな」
「いえっ、そのような事は――! 申し訳ありません、自分も、混乱しておりまして……」
楠木の言う通りにしていれば全て上手くいった。男の抱える憲兵の大半は少なからず甘い汁を吸ってきた。どれだけの地獄を目の当たりにしようとも、それを見て後悔しようとも、既に引き返せない場所まで来てしまっている。
「この基地を放棄するのだ。我々の職場が失われるのも困るだろう? だから、シンガポールの基地へ移動する」
「ですが、それはどのように大本営に説明するのです?」
「それこそ聞かずとも分かるだろう。私は、この基地を放棄すると言ったのだ」
「……ッ!」
憲兵の視線がゆっくりと楠木から、その隣にあるプールへと移動する。
ガラス張りのプールには――女性が一人、浮かんでいた。いいや、女性ではあるが、人ではない。
あれは――艦娘だ。艦娘だったものだ。
肌は死人のように白く、土左衛門のように膨れてはいないが、その表情に生気は無い。
ただただ無機質な目を楠木に向けており、ぱくぱくと口を金魚のように開閉している。
何かを言っている? 分からない。声が聞こえるはずもない。
真っ白な髪がクラゲのようで、その生々しさが憲兵に嫌悪感と恐怖、吐き気を与えるようだった。
「
この戦争が起き、楠木と共に仕事をするようになってからずっと見てきた光景だった。
「では、また――」
「……そうだな。有能な指揮官がまた一人、戦火に散る。悲しいことだ」
悲しいなどと嘯く楠木に、憲兵は震えあがる。
一度罪という炎で焼けた手は二度と元通りになることは無いと心底理解させられる。
それは楠木のみならず、己もである事は、言わずもがな。
「――では、そのように」
「今度は行方不明などでは無い。鹿屋と同じだ」
「……っは」
憲兵は無意味と分かっていても、過去を顧みずにはいられなかった。鹿屋基地での出来事を。
あの日は今日の空のように雲一つない天気だった。
憲兵は楠木の密命により鹿屋へと赴いていた。単純かつ、困難な任務を遂行するために。
楠木から預けられた
そして自分は鹿屋基地へ直接乗り込み、そこにいる男を――
「出発は、いつにしましょう」
「先に情報の収集を行いたい。六年も懐にしまっていた作戦が簡単に成功した理由が知りたいのもそうだが……南方海域を開放するのに何故私を通さなかったのかが分からん。呉の山元が移送されたのはついこの間だろう」
――螺旋に陥る思考を無理矢理に引き上げ、楠木の言葉に耳を傾けて頷く。
言葉の通り、呉の山元大佐の不正が関西の憲兵隊隊長に見つかり、軍規に則り移送されたという情報は入っていた。
楠木に言わせれば、それこそ手中の出来事。かの山元大佐はただの隠れ蓑の一つであり、呉どころか、岩川を含めた関西の全体を掌握しているのだ。予備となる不正はいくらでも転がっている。
少将の目論見通りに世間はこう見るのだろう。
南方で必死に前線維持に努めているかたわらで、本土の人間は何をやっているのだ、と。
それこそが楠木の思うつぼであるとも知らず……。
「それにつきましてはこちらを」
憲兵はここにきてようやく手に持った紙束を楠木に手渡した。
察したであろう楠木は紙束をぺらりと捲る。
「大佐の報告書偽造……轟沈無し……元帥承認済……」
紙面に転がるワードを拾い上げるように声に出す楠木。
次の言葉を待つ憲兵だったが、眼前の楠木から段々と表情が失せていくのを見て、額に汗を浮かべた。
「少佐の嫌疑は証拠不十分として棄却……。な、何を、馬鹿な……大将に、据えなおす……!?」
憲兵さえ、何度も紙面を読み直し、疑った。
故に、その紙束は摩擦に歪んでいる。
「元帥が代理に立てたとして、大将に据える理由はなんだ……!? まさか、本当に生きて……――」
「それは、有り得ません……少将」
憲兵が事の重大さを理解したかと言わんばかりに言い含めれば、楠木は顔を上げずに感情を押し殺すように低い声を吐いた。
「作戦を組みなおす……貴様らは大本営の動向を探れ。柱島鎮守府も含めてだ」
「……っは」
「出来る限り急げ。この際だ、動員数は問わん。ここの指揮官は私が適当に処分しておく」
憲兵は返事するや否やキビキビと部屋を出て行く。
楠木はそれを見送った後、数分のあいだ扉をじっと見つめていたかと思えば、今度はプールへと身体ごと向けて、自身より高い位置に浮くそれを見上げるようにして呟いた。
「ここまで来たのだ……失敗は出来ん。海原め……」
「……シズメてやる」
「日本だろうが、世界だろうが、全てシズメてやる。お前を使って……」
「なぁ? ヒトナナヒトフタ……いいや――サラトガ」
楠木がそれの名を呼べば、プールの中にじわりと暗い色が滲んだ。
* * *
あくる日、
都合数日に及ぶ移動となるが、命令は絶対だ。逆らうわけにはいかない。
輸送機にでも乗れたら楽が出来たのにと文句の一つも言いたくなるが、呑み込むしかない。
船を操船しながら南方海域を恐る恐る進んでいたが、通達の通り、深海棲艦の影は一切無かった。
驚くことに、船に積んでいた遠距離索敵用の特殊レーダーには海軍のものとみられる反応もいくつかある。
哨戒の艦娘か、海軍の乗った船か、どちらかは分からないものの、これに見つかるのは面倒だ、と舵を切り進み続ける。
鹿屋に行った時も同じ気持ちだったな、と考えながら晴天の下を進む。こうして心を殺すのも、何度目になろうか。
「傍受出来そうな通信があります、如何しましょう」
船に搭乗でき、かつ迅速に行動できる人数ともなれば限られる。
新見を含め、船に乗っているのはたったの三人だった。予備の燃料が積まれた船内は狭い。
荷物に埋もれるようにして機械を弄る一人の声に、新見は頷いた。
スピーカーの出来が悪いわけではないものの、環境が悪いのか、傍受した通信は非常に音質が悪かった。
『ザッ……ザリリッ……――本隊より、本隊より、そのまま
「……! 音量を上げられるか!?」
新見の声にすぐさまスピーカーからの音が大きくなる。
『ザー……――本土に行く方が安全では――どちらの判断で――』
『ザザッ――大将のご意向である。ザザッ――は――にて対応されたし――』
行き交う男たちの声。艦娘では無かったか、と一安心する。
艦娘の戦闘力は人間の知識を大きく上回っている。演習では軍艦と同じような扱いで問題無い――大きさこそ小さいが――ものの、外海へ出向いた時の艦娘は、あらゆる法則を無視するかのような動きをする。
かつて数度だけ確認されたとされる艦娘の最大出力は、戦闘機さえもかくやというものだったというのだから、化け物と称されても仕方のない事だ。
加えて艦娘の破壊力たるや、いや、考えるまでもない。
そんな艦娘を扱えるような人間など、かつて楠木少将を無意識に追い詰めた海原大将を除き存在しないのだから。
虎視眈々と目的を果たさんとして動く少将に従うしかない自分達に、安全な道など無いのだ。
『了』
傍受が遅かったか、ぷつりと切れた通信に新見は舌打ちをした。
しかし悔いている時間が惜しいと速力をあげる。
通信の内容からするに、哨戒しているのは海軍の人間だ。艦娘が出ていないのならばそれだけ危険度が低いということ。開放されたというのは大本営の見栄などでは無かったということになる。
そこから考えられるのは、いや、考えたくはないが――深海棲艦に侵される側としては考えるべきだろうが……いいや、それはいい。
ぐるぐると回る思考を振り払い、新見は鼻から長く長く息を吐く。
舵を握る手がじっとりと汗で濡れていた。
「……ほかに傍受出来そうな通信があるか探し続けろ」
「っは」
何とかそれだけを口にすると、新見はまた思考の海へ身を浸す。
艦娘ではなく、外洋を遠出しているのが海軍の人間だという事は――南方海域は通達よりもずっと前、少なくとも通達の数時間以上前には完全に制圧された事になる。遠距離まで索敵出来る特殊レーダーと言えど、それに引っかかる距離まで海軍が出張っているのだから、南方海域開放作戦の余波は大きい。
長らく閉鎖されていたのだから、制圧したとなれば人類側の領海がぐっと広がる。通達は即時行われたに違いない。であれば、楠木少将が予想したように何年もかけて練られた大規模作戦が弾丸が如き速さで遂行されたと……それこそ、考えづらい。
閉鎖していた南方海域には楠木少将の《道具》がいくつも転がされていたはずだ。
その道具がそこに転がっていても不思議では無い状況も作り上げられていた。
海外の船が沈められた、という揺ぎ無い事実があった。
そこにどうして戦力を投入しようというのか。
まずは南方海域を任されている楠木少将へと伝達され、然るべき対応ののちにソロモン諸島にある基地全体で制圧を試みるのが妥当。
なのにどうして――どうやって――?
陸軍出身である新見には見当もつかない。知識だけとはいえ海での兵法は頭にある。
どれだけ突飛な作戦であろうが、深海棲艦には通用しない。まずもって戦力が違う。
駆逐、軽巡だけならばまだしも、重巡や戦艦、空母などの深海棲艦が出現したならば、流石の艦娘とて手を焼く。それもたったの数隻を相手にするだけで、だ。
南方海域の周辺には、駆逐や軽巡が多数いたはず。空母だっていたのだから、本土から艦娘が全力で出撃したとしても継続戦闘は望めなかったはずだ。なまじっか補給したところで、被害が多少おさえられるか否か。損害は確実である。
有り得るとすれば――完全に有利な状況で接敵し、戦闘に勝利し続け、航行可能な状態を維持したままに南方海域を周回すれば、あるいは。
そんな夢物語があるわけない。
「新見隊長、レーダーに反応です。針路を変更しましょう」
その声に、新見は声を発さずに舵を切る。
蛇行するようにして進むなか、燃料の残量を気にしつつ、いくつもの中継地点を頭に浮かべた。
ラバウルから出立して、ここからパプアニューギニアの沖合を進み、何度か陸地へ給油しに戻らねばならない。西パプアを越えて北マルク、そしてフィリピンと台湾を経由――軍事行動として乗り切れれば御の字だが、日本海軍の信用がどこまで通用するやら、と新見はまたも溜息を吐くのだった。
その時。
「隊長――艦娘の通信です――!」
「なに!?」
一人の声と共に、スピーカーから女の声が聞こえた。
戦場に場違いとも思える、妙な語尾。それと、間延びした声に、きんきんと響く声。
距離がある程度近かったのか、その音は鮮明だった。
『あーあー……非番かと思ったらすぐに出撃なんて、提督も酷いクマぁ……』
『いいじゃねえか、俺達の本分なんだからよ! つっても……護衛ってのはなぁ……』
『あらぁ、ダメよぉ、ちゃんとお仕事しなきゃ。提督が言ってたでしょう? 天龍ちゃんだから任せられるってぇ』
『そっ、そりゃあ……でも敵はいないんだろ? 俺は戦いたいんだよ! もっと、こう、がつーんと!』
『私は天龍ちゃんが戦ってるのも好きだけどぉ……恰好良く護衛するのも見てみたいなぁ?』
『――ま、龍田が言うなら護衛も悪くねえか!』
『……天龍の扱いに長けてるクマ。見習うクマ。ついでに拝んどくクマ』
『あ、あらぁ……』
天龍――? 軽巡洋艦の艦娘だったろうか……。
レーダーの反応はこれか、と新見は納得して離れるように動こうとするが――
『っと、待て。感ありだ。こりゃお迎えに行く前にもう一仕事……』
――まずい! ここは広域通信で哨戒中とするか? 他にも海軍が出張っているならば……!
高速で回転する新見の脳内だったが、スピーカーからまたも声が響く。
『こちら第一艦隊、扶桑です。護衛艦隊は天龍さん達だったんですね』
なに……? 扶桑、だ……?
新見の手から汗がぶわりと噴き出る。
そうこう考えているうちに、レーダーにはぽんぽんと笑えて来るほどの反応が出始めた。
同乗していた他の者から、さあっと音が聞こえてきそうなほど血の気が失せる。新見も、同じく。
『おー! 扶桑かよ! んだよぉ、敵かと思っちまった……んじゃ、第二艦隊もいんのか』
『こちら第二艦隊、赤城。第一艦隊の後方に――あ、そちらに近い方なので、前方になるんですかね?』
『赤城も扶桑も、任務お疲れクマ。護衛対象はどうしてるクマ?』
『今は船で眠っています。元帥と提督の指示でアロアハに寄港して船をお借りしたのですが……英語が分からなくって大変だったんですよ……』
『クマぁ……それはドンマイだクマ……』
いち、にい、と目だけでレーダーの点を数える。誤動作であることを願いたかった。
映っているだけでも、十隻以上。だめだ。勝てる勝てない、逃げられる逃げられないの次元ではない。
見つかってはだめだ。
自分がしてきた事がどういったものであるのかを理解している新見は、まるで閻魔に裁かれる前の亡者の様相で祈った。祈れど意味無しと分かっていても、祈らずにはいられなかった。
『何とかなったから良かったのですが……また、提督に助けてもらっちゃいました』
『提督は英語も出来るクマ? いよいよやべえ奴クマ』
どこの所属だ、そう考えるまでもなく。
『数日で少佐から大将に戻るようなお方ですから、英語くらい造作もない、という事でしょう。船を借りたい時は、単純にシップ、プリーズ、で伝わると学びました』
『ふふ、加賀さんったら、ずっとそればかりね』
『え、英語を学べたから、復習を兼ねてです……!』
少佐から大将に戻るようなお方――この艦娘達は、柱島の――
『あ、ねね、船の方』
『何かしら五航戦。船の方じゃ分からないわ。英語と日本語は違うのよ。きちんと分かるように――』
『なぁんで加賀さんって私にそうきついのよ!? 船の方でお客さんが目を覚ましたみたいだよ! これでいい!?』
『日本語が上手ね五航戦』
『日本語しか話せないわよ!』
――次に聞こえた異国の言葉に、新見は舵を離して乱暴に通信設備の電源を切った。
同時に、全て読まれているのではないかと震えあがった。大本営などでは無い。
死んだはずの男、海原鎮に。
『I have never seen such a beautiful sea――……』
「隊長……!?」
行動に驚いた全員が新見に顔を向ける。
そうか、ここにいる者達は知っているにしても大体のことだけだったか、と新見は聞かれるわけもないのに声を潜めて言った。
「い、今の、声は……沈んだはずの船に乗っていた、女の声だ……」
「はい……? それ――」
合点がいった各々だったが、そこに加えられた言葉に、息を呑む。
「ソフィア・クルーズ……深海棲艦研究者だ……」
「――!」