「じゃあ、手始めに――卯月。私達軽巡洋艦や駆逐艦の主兵装である酸素魚雷の優位性を答えてみなさい」
「ぷっぷくぷぅ……ゆーいせい? とか、そんなの分かんないっぴょん……」
「ちっ……酸素魚雷が他の兵装に勝っていたり、便利であったりする点を挙げなさいと言ってるのよ」
アタシは大井っちの横でただ笑みを浮かべる。
悟られないように提督を盗み見ると、提督は部屋の後ろで立ったまま授業を真剣に聞いていた。
「うぅ……どんなものでも、敵に当てられたら十分っぴょん……」
「そういう事じゃないわよ! これは基本的な知識を確認するための質問なの! 使ったことが無いの?」
「な、無いと思う……ぴょん。多分……」
「はぁ……分かったわ。使った事が無いなら、じゃあ……睦月か望月は? 使ったことないの?」
大井っちに視線を向けられた二人は顔を見合わせ、それから望月がそろり、と手を挙げて言った。
「一応、あたしはあるけど……」
「なら、答えられるわね。酸素魚雷の優位性はどういったものかしら」
「ん、んえぇ……? あー……かなり遠い敵に、当てたことがあったかな……進む距離、とか」
「……射程、ね。まあまあ、よしとしましょう」
「おぉっ、さっすがもっちーっぴょん!」
「すごいすごーい!」
「一つ答えられた程度で調子に乗ってるんじゃないわよ駆逐ども!」
「「「ひゃいぃっ!」」」
大井っちは駆逐艦を見回したあと、ちらりと提督を見て不服そうな表情をした。
それもそのはずで、教導を、と命を下したという提督がまさに教室と化したこの場にいる状態で、様子を見に来た、とまで言っているのだから、駆逐艦への教育がどの程度のものかを見極められている状況では下手な教え方は出来ない。
練度の向上を図るための教導――海上で戦うのに必要な知識を身につけるための時間なのだから。
一分一秒とて無駄にするわけにはいかない、と考えていることだろう。
アタシはニコニコとしたまま、もしもアタシや大井っちが目覚めた後にこういった時間があれば、苦しんできた環境も少しは違ったのだろうかと考えていた。
艦娘が二種類に分けられているのを、アタシは知っている。
後へ繋げられる者と、その場で使い捨てられる者。
艦政本部で建造された艦娘は、大本営によって設立された訓練校で様々な知識を身につけ、戦闘訓練を行い、卒業してから鎮守府へ配属される。
各鎮守府で建造された艦娘は、所有権こそ大本営が握っているが、その扱いは鎮守府ごとに一任されている。
一定の基準を満たすまで実戦に投入せず訓練させ、問題無く航行し、輸送を行える程度になった艦娘は練習遠征から始める、というルールを設けているのは横須賀鎮守府だったろうか。
そういった制度が全ての鎮守府にあれば艦娘を
こう考える事は、あの環境では野暮だったのだろうか。
柱島に来る前――アタシ達がいた鎮守府で学んだのは、苦痛を誤魔化す術だけだった気がする。
学んだ、というよりは経験した。それらは海上での戦いとも呼べない我武者羅な砲雷撃戦での経験だ。
いいや、砲雷撃戦でも無かったかもしれない。
兵装を失い、時に深海棲艦に突っ込んで相手の兵装からの誘爆に巻き込まれながら特攻もしたし、大井っちに低速航行しか出来ないほどの被害が出た時なんて、魚雷を敵艦に発射するんじゃなく、手に持って叩きつけた事だってあった。
アタシは艦娘だから、どれだけの怪我を負っても入渠すれば修復が出来る。
それを盾に、なんだってやってきた。
大井っちを――アタシの妹分を守るために。
大井っちは元々が練習艦だったのもあってか、海上に出るたびに色々なことを考えながら動いていたみたいだけど、アタシは目の前の脅威からどう逃れるか、逃れられないのであれば、どう沈めるかだけを考えていたから、ある意味では楽だったのかもしれない。
――前にこんな話をしたら、大井っちに、それは楽なんかじゃないですって泣かれたっけ。
しかしアタシにとっては苦痛を伴ったとしても、楽だった。
ただ、撃ち、沈めて、一緒に居てくれる人を守るためだけに突き進めば良かったんだから。
「こほん……では! 提督……よろしいですか……?」
「む……私か。なんだ」
そういった時間を長く過ごしてきたアタシと大井っちは、外へ多くの感情を向けるのをやめた……はずだった。
「提督でしたら答えられるかと。私や北上さん、駆逐艦の主兵装である酸素魚雷の優位性」
「ふむ……」
「分からないんでしたらご無理なさらず、駆逐艦と一緒に聞いていてくださいな」
――アタシは笑顔を保とうとしていたのだけれど、ゆっくりと、顔から力が抜けていく感覚を覚えた。
大井っちは対抗するような口ぶりで目を細めていたが、どこか楽しそうにも見える。
どうしてアタシ以外に、などという、そんな仄暗い感情じゃないことは分かっていた。
アタシと大井っちに届く提督の声が、その口から出てくる知識が、もっともっと早く届いていれば、苦しまずに済んだのに、という後悔の感情だ。
提督から学べていれば、アタシは痛い思いをせずに済んだかもしれない。
提督が指示してくれていたら、アタシと大井っちが見送って来たあの子達は、まだ、笑っていたかもしれない――
「……望月が答えた圧倒的な射程の他、速度もそうだが……最大の優位性は、熱走式魚雷のように燃料と圧縮空気を利用して進むものと違い、文字通り、酸素を利用しているところにある。従来の熱走式魚雷は発射後に排気ガスによる航跡が残ってしまう。波打ち際ならまだしも、急に一筋の航跡が見えてしまっては敵に魚雷であると知らせるようなものだ。それを辿って発射位置を予測される可能性もあれば、進行方向も分かってしまう。そうなると相手にとって回避は容易だ」
――どうして、もっと早く、ここに来られなかったんだろう。
「酸素は燃焼効率が良い。先に言った射程と速度はこれに起因する。そして何より、酸素を燃焼させて進む魚雷から排出されるのは二酸化炭素だ。海水に溶けやすいために航跡が残りづらく、敵に発見されにくい、というのが優位性だろうな。攻撃に隠密性があれば、敵に発見される前に撃沈も可能であるというわけだ」
「おぉ……提督、す、すごいにゃし……」
「さすがぁ……」
「何言ってるか全然わかんないっぴょん」
「私の知識では無い。ある艦娘からの受け売りだ」
ふぅ、と息を吐く提督は、分かりやすく答えられただろうか? といった顔をして駆逐艦や大井っち、アタシを順番に見た。
「っぐ……ぐぬぬ……!」
アタシの横で悔しそうな声を上げて拳をかたく握りしめる大井っちに気づいて、ああ、ここなら、アタシは無理に笑ってなくてもいいのかもしれないと思った。
少しくらい、自由にしたって、いいのかもって。
「……」
「北上さん、何か提督に出題してやりましょう……艦娘しか分からないような事を――……北上さん?」
大井っちの声に、どうしたの? と笑いかけたつもりだった。
笑顔も崩れていないつもりだったのだが、どうやらアタシは――無表情になっていたらしい。
「あ、あはは」
乾いた笑い声をあげるも、表情が上手く作れず、どうしたものかと腕を抱いてしまう。
そして頭の隅で今の状況とは別に、提督への問いがいくつも浮かんでくる。
「じゃあ……逆に、教えてもらおっかな……」
問いのうちの一つが口から出たのに気づいたのは、提督がアタシに困った顔で言葉を紡いでからだった。
「……提督。艦娘を有効活用する場合。提督ならどうする? どうすれば、敵を効率良く倒せるんだろうね?」
「北上さんっ……?」
大井っちが慌ててアタシの制服の袖を引っ張り意識を向けようとしてきたような気がしたのだが、口をついて出た問いに対する提督の答えに、全てを持っていかれてしまって、反応できず。
「作戦による」
「なら――アタシ達を何人も建造して、資源の限り突っ込ませていけば勝てる?」
「……理論だけで言えば、その可能性はある」
限界を超えて貯蔵された感情という感情が溢れそうになるのを、これでもぎりぎりで耐えている状態だった。
不平、不満、不安――先行きへの期待が裏返った言葉の砲弾となって提督を撃つ。
「だから海軍はそれを実践してるんだ?」
感情は周りを巻き込む。それを何度も見てきたから、アタシは笑い続けるつもりだった。
そうしていれば、不安に涙を浮かべる子を、大井っちを安心させてあげられたから。
「そう、なのか……」
「そうなのかって、提督は大将なんでしょ? ついこの間、大将になったんでしょ? なら、知ってるのにどうしてそんな顔するのさ」
何故、提督が悲しそうな顔をするんだ、と心に生まれる煤けた感情。
「提督のすごい作戦があればアタシと大井っちは、この子達は助かる? 国を救える? こうやって勉強してればどうにかなるの?」
「……分からん」
「分からないってなにさッ!!」
「っ……――! 北上さん、お、落ち着いてくださいっ」
袖を引っ張っていた大井っちが、袖どころか、アタシの腕を強く引いた。
それを振り払い、もう抑えのきかなくなった感情を、皆の前であるというのに吐き出し続けた。
暁の水平線に勝利を刻みたくないかと講堂で啖呵を切った男は、本当に信頼に足る男であるのか。
多くの艦娘は提督の働きを見て、一歩だけ前に進み、彼に近づいた。
アタシは立ち止まったままだ。
大井っちはアタシを守るために疑い続けてくれたのだろう。
それに甘えて笑っていれば、なあなあに毎日を過ごせるのではと楽観視していた。
敵に突っ込めと言われたら、前と同じように突っ込むだろう。
日常は変わらなかった、けれど、少なくとも前よりはマシ。その程度。
提督は困難な作戦を成功へ導き、数日で大将へ返り咲いた。
呉の駆逐艦を救った。柱島にいる戦艦陸奥も、軽巡龍田も、神風や松風という艦娘も救ってみせた。
だが、不安を払拭しきれずにいるアタシがいる。
優しい言葉の裏側なんて誰にも分からない。
一時的な感情で物を言うことの愚かさを私は知っている。今、この場にいるアタシがそうであるように。
だが同時に、一時的に爆ぜるその感情こそが尊いものであることも、知っている。
「仲良くなった子から消えていく――目をかけた子が次の日には鉄くずになって帰ってくる――」
艦娘になったあとのアタシの感情と記憶。
艦娘になる前の、アタシの感情と記憶が混濁し、喉を焼く声となって部屋を劈く。
「守るために戦いたいのに――死ぬために戦わせるなら勉強なんて――くだらないことさせないでよ!」
これ以上、アタシの中にある不安が大きくなったら――今度こそ、沈んでしまう。
「それは、違う」
「何が――」
「違うぞ、北上。死ぬために戦うなどあってたまるものか」
「でもっ、ずっとそうだったじゃんか!」
「……学んで終わりじゃない。あらゆる事を知り、後に続くものへ伝え、繋いでいくために学ぶのだ。少なくとも私は、お前達にたくさんの事を学んだ。諦めず、前に進み続けるということを学んだ」
悲しそうな顔でアタシを見るな。
そんな顔をさせないために戦ったのに。
あの時散ったあの人達は、未来の人達が笑えるようにと戦ったのに。そんな顔をするな――!
大井っちの制止の声を振り切り、座っている三人を押し退け、部屋の後ろにいる提督の前まで大股で歩いていくと、私は提督の胸倉を両手で掴んだ。
これこそが、アタシの一歩。
「――どうしてそんな顔するのさッ」
「無知は罪なり、知は空虚なり、だったか……そんな言葉を、思い出していた。どこの誰が言ったのかも分からん程度には、私は無知で愚かだ」
艦娘と人間の力の差は明らかで、駆逐艦が本気を出せば大の大人が数人がかりでも押え込めないというのに、軽巡洋艦の私に掴まれているはずの提督は、一歩として動かせなかった。
もしかすると、私が力を出しているつもりで、出せていなかっただけかもしれない。
しかしそれでも、その光景は異様だった。
「無知は罪という言葉を、私は常に痛感している。今この時もだ。知らなかったでは済まされないことが、世には溢れている。だから学んでほしいのだ。どのようなことであっても」
提督はアタシの感情の塊となった手に、白い手袋に包まれた手を優しく重ねる。
その手は……震えていた。
「私にまだ、言いたい事はあるか」
あぁ、まだ、これだけじゃないってことも、提督は知ってるんだね。
「……ある。まだ……いっぱい、ある」
「そうか。では、いくらでも聞こう。場所を変えるか」
「ん……うん……うんっ……」
ぽろぽろと零れる光が床へ落ちる。背後で大井っちや睦月達の心配しているような息遣いが聞こえた。
提督は大井っちに向かって「少し席を外すが、授業は続けてくれ」と言って、私の手をぽんぽんと叩いた。
「行くぞ、北上」
* * *
連れてこられたのは、執務室だった。
そこでは大淀さんが書類仕事をしていて、目を赤くした私が提督の上着を子どものように掴んで連れてこられたのに驚いた表情をしていたが、それも一瞬で、ぱっと立ち上がって執務室のさらに奥にある部屋へ消えていく。
応接用のソファに座らされ、部屋の奥からこぽこぽと水音がして、数分もせず大淀さんが温かなお茶を持ってやってきたところで、鼻をずび、と鳴らして一言だけ「ごめん」と漏らす。
「いえいえ。何か食べますか?」
「……ん、平気」
「そうですか。では」
大淀さんは秘書用のデスクへ戻ると仕事を再開し、提督はアタシの正面に腰を下ろして、いつも目深に被っている軍帽を脱いだ。
クマの目立つ目元に、どこでつけてきたのか、こけた頬に赤い傷。軍人らしい顔つきを見ると、かつての私に乗っていた人々を思い出してしまうのだった。
「さて……北上。お前は大井とともに随分な扱いを受けてきたと、記録を見ている。海軍に対して思うところもあるだろう」
「……」
「ならば、分かっているな」
……そりゃ、そうだよね、と胸中で諦めの笑み。
どんな理由であれ、アタシはいきなり感情的になって上官の胸倉を掴んだんだ。
処分は免れないだろう。
「大淀、意見書の準備をしてくれるか?」
「はい」
「えっ……?」
ふと頭が真っ白になり、何を言っているんだ? と赤い目のまま提督を見た。
「私に至らぬところがあったのかもしれん。お前達を不安にさせてばかりで、呉でも怒られてな……だが、仕事はやり遂げるつもりだ。どんな事があっても、立場を振りかざすことになっても、お前達の考えや思いは尊重する。だから……な?」
まるで泣いている駆逐をあやすような、困ったような、それでいて心配し、アタシを見てくれる目が、思考を貫いた。
「形式的で申し訳ないが、ルールはルールだ。しかし北上の意見は必ずや井之上元帥へ届けよう。責任は全て私が取る。お前に損が無いようにするから、思うところがあるのならば好きなように書くんだ」
数枚の紙を持ってきた大淀さんが、ペンと一緒に私の前へそれらを置く。
長い間溜め込んだ感情が爆発しただけなのに、ただそれだけで提督は、形にして届けてやろうって、そう言っているの?
理解が追い付かず、あの、とか、いや、とか言っていた気がする。
すると提督は顎に手を当てて唸りながら言った。
「井之上元帥に届けると言った手前、言い訳がましくて悪いのだが……意見が通るかどうかは別だ。望まぬ結果になることも留意しておいてくれ。それでも、北上がどうしても我慢ならない、という時は……私を好きにしていい」
ぴし、と音がした気がした。
視線だけを動かすと、書類仕事を再開していたはずの大淀さんの手が止まっているのが見えた。
きっと彼女は既に提督を信頼しているのだろう。だから、危害を加えられないかと警戒しているのだ。
感情が爆ぜた今、もしかするとそういった手段もあったのかもしれない。
でも、アタシは――それを選ばなかった。
「アタシの言うことを、聞いてくれるってこと?」
「……出来る範囲で、聞こう」
我儘でも? と続ければ、ああ、と短い返事。
「じゃあ……球磨姉達と、同じ部屋にしてって言ったら?」
艦娘を管理する上で、上限を設けて部屋を分けるのは軍規上重要な事項である、とは過去に聞いた話だ。
本を正せば原因は海軍にあるとアタシは思っているが、よからぬ事を企んで結託する可能性が高まるとして、海軍は基本的に艦娘を一塊にしたりはしない。
反旗を翻す意思も消し飛ぶほどに衰弱した艦娘ならばその限りでは無い――アタシと大井っち、大破したまま放置された駆逐がそうだったように――が、反乱の芽は徹底的に踏みつぶす、それが、反対派、なんて呼ばれている奴らのやり方だった。
アタシの行動は軍規違反だ。
提督へ突きつけたのは、アタシの感情という砲口そのもの。
もしもアタシが反乱を目論み、同型の軽巡洋艦を集めようとしていると見れば、軍規に則って却下され――
「ふむ……」
「……っはは。冗談だよ、冗談。やっぱりダメ――」
「やはり、姉妹艦は同じ部屋が良いか……?」
「えぁっ……?」
――提督は、思っていた事と違う事を言われた、という表情で眉を八の字にした。
初日に講堂で威圧の塊だったような人が、ただ、姉妹と一緒の部屋が良いと言われただけで。
「それは意見書を出すほども無いな……よし、分かった。本日から北上と大井を含め、球磨型軽巡洋艦は同室で過ごしてもらうとしよう。他の艦娘の中にも同じことを考えている娘がいるかもしれんな……北上、授業をするついでで構わないから、それとなく聞いてはもらえんか? その、こういうタイミングで言うのは情けない限りなのだが……」
「いや、提督、あのさ、アタシは――!」
「わ、わかっている! 本来ならば私が気づくべき事だったのだ! しかし、人の心を見抜くような目など持っておらんのでな……お前達を頼りっぱなしなのは良くない事とはわかっているのだ。だが、うーむ……」
なんだ、これは。
「私はどうも、要領が悪いのでなぁ……怒られるのも無理はないのだが……」
艦娘に対して、人の心……?
もうアタシは、馬鹿馬鹿しくなってしまい、
「あ、あっはっはっは! 提督ってば、要領が悪いとかじゃなくて、あは、あははは!」
止めどなく涙を流しながら、心の底から大笑いした。
「ぐ、ぐぅ……すまん……」
「な、なに、謝って、いやいや、アタシが馬鹿みたいじゃんか! あっはっはっはっは!」
気まずそうに身体を縮こまらせた提督は、軍人と呼ぶには細くて、今にも折れそうなくらい弱弱しかった。
アタシや大井っちを蹴り飛ばした、鍛え抜かれた軍人達の手にかかればあっという間に投げ飛ばされてしまいそうなくらいな姿なのに、誰よりも、何よりも大きく見えるのだった。
「はぁぁ……あー……提督ってさぁ……ほんっと……」
「う、うむ……」
「変な人だねぇ」
「うぐっ……わ、私個人としては、普遍的な、社会人であるつもり、なのだが……」
「いーや! 変だね! 変! すっごく、変!」
「北上、その、すまん、分かった。分かったから、勘弁してくれ……」
「あっはっはっはっは! アタシの事なんか適当にうるさーい! って放り出せばいいじゃんか。何で勘弁してくれーなのさ?」
「ほ、放り出す? お前は柱島の艦娘なのだから放り出すも何も……部屋から出したところで明日にまた会うだろうからな……」
「明日会うから怖いとでも言うの? あっはっはっはっは! 何それ! 馬鹿みたいじゃんか! あーはははは!」
明日にまた会う。アタシがずっと、目指していた、簡単なようで、どんなことよりも困難だったこと。
提督は、簡単にできちゃうんだもんなあ。
提督は、今まで見た人の中で、いっちばん凄いよ。
「いやぁ……笑った笑った……お腹いたー……はぁ。ごめんね急に! 記録見たんなら、もう知ってるんだよね? アタシも色々と大変だったからさ。大井っちと一緒にここに来られたのは、ラッキーだったねえ。大変そうだけど」
ニヤニヤと、大変そう、と区切りながら強調して言うと、提督はもっと縮こまってしまった。
「むぅ……そ、そう、なるかもしれん……」
「ね、提督。アタシもちょっとだけ――手伝っても、いいかな」
ずっと敵と闇しかなかった眼前には、今、提督がいる。
アタシの横には、大井っちだけじゃなく、たくさんの艦娘がいる。
まだまだ始まったばかりで、時間はかかるかもしれない。それでも、きっと提督なら、大丈夫。
「手伝ってくれるのか……?」
提督が一人じゃないと示してくれたように、アタシもきっちりと、示してあげなきゃいけない、と頷いて見せた。
「ま、大井っちと組めば最強だし? このスーパー北上様に任せときなよ。 ね!」
追:少しだけ加筆しております。描写不足でした。申し訳ありません。