柱島泊地備忘録   作:まちた

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八十四話 実見②【艦娘side・大淀】

 提督を乗せた多用途ヘリがばらばらと音を立てて空へ浮かんでいくのを見上げながら、震えの止まらない両手で、未だ唇に残る冷たい感触を確かめるように触れていた。

 通信統制をすることによって辛うじて繋ぎ止められている理性や冷静さといったものが、提督が離れて行くにつれて一緒に飛んで行ってしまうように感じられ、私は無意識のうちに「う、ぅぅ」と呻いていたようだった。

 

 私の隣ではあきつ丸が数名残った憲兵達に事情を説明しており、そのついで、工廠の隅に立てこもっている八代少将を明らかな反逆行為であるとして怒鳴っていた。

 

「大将閣下の謀殺を企てた将官など、国に牙を剥いた事と同義であります! 深海棲艦と繋がりのあろう者をどうして庇い立てするのでありますかッ!!」

 

「庇っているわけではなく、我々にも踏まねばならぬ手順があって……」

 

 怒鳴られている憲兵のうちの一人、まだ青年になったばかりに見える若い男が自動小銃を肩にかけたまま、あきつ丸を止めるように手の平を向けた状態で無線機に向かって言う。

 

「あー、こちら泊地派遣の飯塚、泊地派遣の飯塚――現場の艦娘より証言あり」

 

 冷たい物言いに、()()()()()()()()()()、全てが敵になってしまったのではないかという考えが過り、事の成り行きを見守るしかできず、通信から聞こえ続ける戦闘の音もまた、遠く聞こえるのだった。

 

「飯塚殿と仰ったか。これは海軍のみならず国を脅かす大事でありますよ! 諸君らも無関係ではありませんッ! 少将を拘束しないというならば――自分らの手で――!」

 

『まぁ待てあきつ丸殿』

 

「その声……松岡隊長……!」

 

 若い憲兵があきつ丸へ無線を突き出してそっぽを向く。

 それがどういう対応の仕方であるのか意味を考える間もなく、矢継ぎ早に声が飛ぶ。

 

「松岡隊長、今どちらにおられるのか! そちらで調査を進めるとの事で自分は呉の資料を持ち帰るだけにとどめたというのに!」

 

『調査はした。今や世は海軍に頼り切った風潮だが、あきつ丸殿は陸の者であったろうに、我々を信用しておらんのか?』

 

「何を悠長に――!」

 

『悠長ではないとも。そちらが切迫している事は否定せんが、内海に出現した深海棲艦に対する警報が呉を中心に中四国と九州の東岸で鳴りっぱなしなのは考えずともご理解いただけるな? その対応に追われる身なのだ、こちらも』

 

「っ……」

 

『……ご理解いただいているようで結構。では、無線越しながら失礼して話をさせていただく。海軍元帥閣下とは連絡をとられたか?』

 

「大佐殿が、大将閣下を緊急搬送する許可を貰う際に、一度。それに、艦娘の改装に関して、予定があるのならば艦政本部を通すのは待て、と……」

 

『であるか。では、山元大佐はそちらにおられるか』

 

 工廠近くの広場にいる私やあきつ丸、多くの艦娘が声を聞いて首を回せば、工廠からワイシャツを失った状態で上着を羽織り小走りでやってきた山元大佐が目に入った。

 大佐は憲兵達に敬礼とも呼べぬ恰好で手を上げた後、一人の憲兵があきつ丸に突き出している無線を見つけて言った。

 

「松岡殿は来ておらんのか?」

 

『おお、山元大佐。暫く……でも無いな。閣下の容態は部下から確認した。緊急手術の用意も手配出来ているから、呉へ到着次第、対応出来るだろう』

 

「ありがたい――! 元帥閣下よりまだ広島におられると伺ったが、処理の方は終わっておられんのか」

 

『一週間程度を予測して動いていたのでな。これでも最短で見積もったつもりだが、いかんせん、閣下の速度には追いつけなかったようだ。これが現陸軍と海軍の限界……というところか。だが、手続き上の事は終わっているのでな、()()の行使は可能だ。首の皮一枚……だな』

 

「良かった――では――!」

 

『まあ待て、順序がある。あきつ丸はまだそこにいるか?』

 

「……こ、ここに。松岡殿! 一体何の話をしておられるのでありますか!」

 

 痺れを切らして怒鳴ったあきつ丸は、まるで周囲の艦娘達を代弁するかのような様相だった。その通りに、私以外の艦娘は全員が無線や憲兵達を睨みつけており、さらには工廠で八代少将の前に立ちはだかり逃走を阻止している者達からも、怒鳴るような声が消えている。

 先ほどまでは「動くな!」という長門の声が聞こえていたのに、今はぱったりと止んでいる。伊勢や日向の声も、金剛のまくし立てるような英語も聞こえない。

 

 現実味も無く、本当に、映画か何かのワンシーンを遠くで見つめているような気持ちだった。

 

 伊勢や日向は提督とさして会話をしたことが無いのに、爆風に吹き飛ばされた後の、倒れ伏した彼の力ない顔を見てしまったのだから無理もないのかもしれないが。

 それに金剛も、カタコトの日本語でにこやかに話していたあの雰囲気は一切失せ、スラングであろう英語を何度も吐き出していた。金剛の怒りに霧島や比叡が手を出さないようにと押さえていたくらいだ。榛名は八代少将と金剛の間に立ち、庇っているのか、逃がさないようにしているか分からなくなっていたほど。

 

 柱島が壊れてしまう。この鎮守府が消えてしまう。

 そんな非現実が、現実と入れ替わろうとしているみたいで、私はまた冷たい唇をかみしめた。

 

『あきつ丸殿や川内殿が仰った、大淀殿の予測、というものを調べていたのだ』

 

 声は無く、反応も出来なかったが、思考の先が無線の声に向いた。

 

「陸軍の、まして憲兵が調べられる範囲など――」

 

 あきつ丸の声を遮り、松岡隊長は静かに言った。

 

『あるのだ。海軍の補佐、という名目上で通っているが、我々陸軍の本分は内陸の守護にある。内陸が危険に晒される可能性があるとすれば排除する……という役目を担っているのはおかしい話ではなかろう。言い換えれば、我ら陸軍は海軍にとって目の上のたん瘤のようなものであるということだ。軍規を遵守しないのであれば、我々は元帥閣下であろうが軍法会議に出頭させる特権を持っている』

 

「まさか、松岡隊長、自分らを――!」

 

『ここで、本題を話そう。先日、自分はその元帥閣下すらも軍法会議に出頭させる権利を行使できる立場となった。――日本陸軍、西日本憲兵隊統括隊長、及び陸軍法務部中将となった、松岡忠だ。改めてよろしくお願い申し上げる』

 

「なっ……は、え……!?」

 

 あきつ丸の軍帽が頭から落ちて、ぱさりと音を立てた。

 山元大佐は険しい表情のままだったが、口元だけ笑っており「仕返しもそこまでにした方が良いかと思いますよ、松岡殿」と咎めた。

 

『失礼、あきつ丸殿に陸軍の本分を説教されたので、ムキになってしまっただけだ。そのような場合では無いことは重々承知している。して、あきつ丸殿、事情を話そう。海軍元帥は陸軍大臣と協議をしていたのだ、水面下でな。陸軍……中でも憲兵の報告に違和感があると見ていた者が少なからず存在していたらしいのだ。私のように見て見ぬふりをせず、報告を上げていたものもな。悲しいが自業自得で、私も大臣から疑われた身であったというわけだ。海軍元帥の働きかけによって知らぬ間に疑われた私は、知らぬ間に信用を回復したということになる……渦中にいると思っていた自分が実は蚊帳の外であったというわけだ。笑えてくるだろう』

 

 事情を呑み込むのに必死なあきつ丸だが、私だってそうだ。

 元帥閣下も独自に動いているであろうことは知っていたが、柱島にあきつ丸を送った張本人である元帥閣下が、そのあきつ丸に事を隠したままに動いていたとなれば、松岡が答え合わせのように話すのも理解できなくは無いが、どうしてこのタイミングで……と、いつの間にか恐怖と混乱を押し退けて浮かぶ疑問が私を支配していた。

 

 傍らの通信では、吹雪達が順調に深海棲艦を撃滅している声が響く。

 

《ザザッ――駆逐、一隻落としました! 次、来ますッ!》

 

《吹雪ちゃん、一度戻って! 重巡の砲撃範囲よ!》

 

《了解――天龍さん、お願いします!》

 

《任せろッ! うおらぁあああッ!》

 

 爆音、爆音、爆音。

 怒声、怒号、雷声。

 

 それらが思考を乱し、疑問への答えに続く道を不明瞭にしていく。

 

「では、松岡殿は、法務部中将になり、え? ど、どういう事でありますかっ!」

 

『事は複雑でな。時間をかけていたならばもっと単純になっていたであろうが……南方海域の閉鎖前に現地の警備に派兵された憲兵、及び楠木少将の補佐として協力にあたった者全てに出頭命令を出してある。楠木少将にも、そちらの泊地にいる八代少将にもだ』

 

「出頭、命令が……今になって……?」

 

 ようやく、私の口から零れた言葉を、憲兵の持つ高性能な無線機は拾い上げていたようだった。

 

『大淀殿もおられたか。……閣下は軍を挙げて必ずや救ってみせる、安心しろとは言えんが、どうか、待っていてほしい』

 

 松岡の言葉に、その場で私は崩れ落ちてしまいそうになる。

 

「あ、あぁっ……ぅ、あ……お、ねがい、します……どうか、どうか……!」

 

「それで、出頭命令の理由は! 松岡殿!」

 

 あきつ丸が吠えると、松岡は「しばし待て」と言って無言になり、数秒して話した。

 

『これらは巧妙に隠されていた、と言い訳しておこう。楠木少将はどうやら艦娘の研究データと深海棲艦の研究データの交換を条件に取引を行っていたとのことだ。丁度良く南方から帰って来た例の部下達が教えてくれたよ。閣下の手で死ぬか、法の下に身を晒し清めてから首をくくるかの二択しか無い部下達だ……今更、虚偽を話すわけもあるまい。海原鎮という元帥閣下の虎の子を警戒して暗殺を企てたという情報も手にしている。並びに、海軍中佐、菅谷という男の謀殺の証言も得た』

 

「菅谷さんの……!」

 

 提督がヘリに運ばれていくのを見守っていた艦娘のうちの一人、軽空母鳳翔が駆け寄って来て無線機を見つめる。

 

『これもまた憲兵の失態であることに変わりはない。閣下は()()()()()()()逃げおおせたようだが、六年越しに動き出した閣下に即応したところを見るに、隠れ蓑を捨てて姿をくらますつもりだろう。出頭命令を無視して逃走するであろう事は予想している。移動を考慮しても一か月以内の出頭、連絡が無ければ、A、B、Cとトリプルクラウンの戦犯となるわけだ。八代少将! 聞いておられるか! 貴官もトリプルクラウンだ! 喜べ!』

 

 松岡が大声を上げるも、工廠には届いていないだろうが、その声に込められた力は、さながら自らの無力を恨んでいるようだった。

 多くの人を抱える軍はどうしても端から端までを把握できない組織構造であり、上席とて例外では無い。

 

 楠木少将はそれを逆手にとって、全てをかき乱していたというわけだ。

 

 だが、そこにも一つ、いや二つ、楠木少将にとっての間違いが存在した。

 提督が神通に言ったことが、目の前で立証される。

 

『軍議の帰りに様子を窺おうとした一人の男がいてな……山元殿も良く知る男だ。これから基地に戻って会議を行うため話す時間は多くないが、声を聞いておかんか。かの男も国を守るために全てを差し出せる男だと井之上元帥閣下の御墨付きであるらしい。そも、山元殿から閣下が事故に巻き込まれたと聞いた時に憤慨したのは彼で――』

 

 無線から雑音が鳴り、続いて怒鳴り声が聞こえた。

 

『いつまで話している、陸軍の犬っころ風情が! 陸軍の憲兵は子どものお使いもまともに出来ん奴らだとは知っていたがここまで酷いものだとはな! 恰好をつけている暇があるならば動け! くそったれどもがのさばっていて、泊地に送ったうだつの上がらなそうな顔の馬鹿がようやく陸海軍を正してくれるのだと思ったのに艦娘の事故に巻き込まれただのと……あいつは本当に大将の器なのか! おい、山元! 聞こえているか! おい!』

 

 聞いたことのない男の声に、山元大佐は脊髄反射なのか、軍帽を脱いで気を付けの恰好で言葉を詰まらせながら驚愕した。

 

「がっ、ご……郷田少将!?」

 

 

* * *

 

 

 日本海軍少将――郷田航。

 私の記憶にある限り、彼は岩川基地を任されている者だったはず。

 

 どうして彼が、と思考しようにも、うまく考えがまとまらない。

 

 ただ話を頭に入れ込むことで、整理を後回しにすべきであると判断した私は、流れる涙を何度も拭いながら通信統制に集中する。

 

『あれだけ罵倒に罵倒を重ねたにもかかわらず、艦娘どもを連れて南方攻略に乗り出したと事後報告を受けた時は見上げた根性の持ち主だと思ったが……何だ? 事故で腹を吹き飛ばされただと!? 山元ォッ! 貴様は一体、何をしていたんだ、えぇっ!? そこに所属の艦娘はいるのか! おいっ!』

 

「は、はっ……! げ、現在、閣下を搬送したばかりで、まだここに……!」

 

『代表者を出せッ!』

 

 集まっている全員が私を見た。

 慌てて返事すれば、郷田少将は血管が切れんばかりの勢いで怒鳴り倒した。

 口悪く罵り、しかし、どうしてか私はその空気が、懐かしいような気がした。

 

『その声……軽巡洋艦の大淀だな! 貴様は、大本営からそちらに派遣された艦娘か! それとも欠陥でどこかから飛ばされた艦娘か!』

 

「まっ舞鶴鎮守府より異動となりました……!」

 

『舞鶴――金森のところのか……どいっつもこいつも……! 日本国に泥を塗っている自覚を持たんかこの間抜けどもが! 曲がりなりにも元は大将だからと情けをかけてやった結果がこれか! 柱島では即時活動出来るように全てを揃えてやっただろうが!』

 

「全てを、揃え……て……?」

 

 私の頭の中で、ぱちんと小さな電流が走った感覚がした。

 柱島泊地にある鎮守府には、憲兵が運び込んだと聞いた記憶がよみがえり、その線の先には山元大佐と、その大佐に従っていた憲兵が繋がっていたのだが、電流の衝撃によって線が断ち切られてしまう。

 それが、新たな真実へと繋がる。

 

『我が日本が! 臣民が! 我々の内乱で脅かされる事があってたまるか! こんの、大馬鹿者どもが!』

 

『し、司令官さん、落ち着いて欲しいのです……!』

 

 無線機の向こう側から、少女の声が聞こえた。

 それが駆逐艦電である事に驚く間もなく、郷田少将が怒鳴り過ぎて咳払いして言う。

 

『くそっ……駆逐艦にまで宥められる始末か。んんっ、ごほっ……ああ、思い出したぞ。六年も動きを見せなかった無能を岩国くんだりまで迎えに来た艦娘は貴様だったな。大本営への足掛かりになった喜びから一発にとどめておいたが、こんなことになるのならばもう数発くらい殴ってから送れば良かったと後悔している。事が終われば挨拶に寄越せ。腹の中身をぶちまけてでも謝らせろ!』

 

「あっ……!」

 

 ぴんと糸が繋がった先には、私が提督と出会った海岸の風景。

 鼻血を垂れ流しながらも何かに憤っていた提督は、てっきり軍部の男――彼に対して怒りを覚えていたのかと思っていたが、その実、提督の怒りは常に《不義》に向けられていたのだと悟る。

 

 まぁ、いいか。

 

 提督の言葉は、郷田少将の中にある不義への収まらぬ怒りを理解してのものだった……!

 

 山元大佐の息のかかった憲兵が運び込んだ、それは間違いでは無かったが、正しくも無かった――山元大佐が動かせる、郷田少将の息がかかっている憲兵だったのだ。

 呉鎮守府という佐世保鎮守府と共に西日本の防衛を担う巨大な拠点を任されていたが故に私は見誤っていた。身の回りであるならまだしも、他鎮守府へ手を加えようなどという行動がとれるのは、かつて食堂で龍驤が言っていたように、重鎮に限られる。

 

 海軍少将、郷田航――海軍大将、海原鎮――重鎮達の言葉無き思索の交錯に、楠木少将は隠れ蓑として目を付けたのか――!

 

『それで、状況に変化は』

 

 落ち着いた様子の郷田少将の声に、山元大佐は直立不動のままに答えた。

 

「現在、柱島哨戒班が敵勢力を内海より引き離しており、南方海域を開放した際に編制された閣下の本隊をトラック泊地へと向かわせております! 周辺拠点へ協力を要請し、未確認の深海棲艦の撃滅を目標に――」

 

『はぁぁ……分かった。必要なものは』

 

「は、はい……?」

 

『っぐ……! その、撃滅に際して、必要な支援は、あるかと聞いているのだが。怒鳴った方が分かりやすいかね。戦果を求める時以外は、察しが悪いのか山元? ん?』

 

 怒りをおさえるような低い声に、山元大佐の表情は明るくなり――

 

「で、では! 僭越ながら航空支援の増派をお願いしたく――! トラック泊地まで敵を誘導しているのは哨戒班であり、継続戦闘能力に不安が残ります。手厚い航空支援があれば確実に拠点まで誘導し、そちらで本隊と、呉から出撃させた補給艦隊と合流出来ますので、準備が整い次第、攻略が可能であると愚考致します!」

 

『承知した。急ぎ岩川に戻り次第、増派しよう。ただし、今回の戦果は譲れん』

 

「それは、もちろんでありますが……!」

 

『大将に戻った男への支援なのだ。見返りはきっちりと元帥閣下に用意してもらうから貴様も口添えしろ。いいな』

 

「……っは」

 

 かの男、郷田の口振りは乱暴で、粗雑で、あんまりなものだ。

 だが私も、きっと周りの艦娘も同じ事を考えていたのだろうと思う。

 

 故に私は失礼を承知で、無線に向かってこう言った。

 

「郷田少将……一つ、質問をお許しください」

 

『なんだ? 話は終わりだ、すぐに戻って航空支援の手続きを取らねばそちらの兵器の数が減るぞ』

 

「は、はい、それは、もう。その……郷田少将は、艦娘を、兵器であると認識なされているのですよね」

 

『お国の役に立つかどうか、それが重要だ。それ以外に必要があるのか? えぇ?』

 

「では、そちらにおられる駆逐艦、電も――」

 

『当然だ。駆逐艦なのだからな』

 

「見返りの要求は、働きによる当然の報酬である、と」

 

『大淀、貴様……いくら上官の艦娘とて看過できん線は存在するぞ、口の利き方に気を付けろ』

 

「その見返りでさらに上に上り、郷田少将は一体何を――」

 

『日本国に兵器は必要無いのだ! 欠陥品ならばなおの事! 俺の目的は貴様ら兵器を尽く解体することにある! 無駄口を叩く暇があるならば戦え! 職務を全うしろ! くそっ……』

 

『あっ、司令官さん! 待ってほしいのです! あうっ……!?』

 

『あ、あぁっ、電殿! 大丈夫ですか!?』

 

 言いながら遠ざかった郷田少将の声に、追いすがる駆逐艦電の声。

 それに続く、どさりという音に、松岡隊長の声が、私達に無線の向こうに広がる光景を想像させた。

 

 嗚呼、彼は――提督と同じ軍人で――

 

『足元に常に気を付けろと言っているだろうが駆逐艦……! 何度転べば気が済む……貴様の趣味か? この欠陥が……膝を出せ!』

 

『ごめんなさい、なのです……うぅ……』

 

『転びそうになったら一部でも艤装を展開しろと再三再四言っているだろう、出さぬからいらん怪我をするのだお前は!』

 

『はいぃ……』

 

 ――平和を目指す、偏屈な男なのだ。

 この男もまた、波乱の前兆を察知して動いていたのだと分かった私は全身に力を込めて、提督が助かるように祈りながら戦うしかないのだと身を翻した。

 

「お、大淀殿! どこに行く!」

 

 山元大佐の声に顔だけ横に向けて答える。

 

「通信室へ向かい現場の統制を行います。あきつ丸さん、手を貸していただけますか」

 

「もちろんでありますよ。いやはや、海軍には閣下に負けず劣らずの変人がいたものでありますな……っと、もう無線は切れておられますかな?」

 

 あきつ丸に対して憲兵は微妙な表情をして無線を肩付近にひっかけ「切れてます」と言って自動小銃を持ち直した。

 おお、怖い怖い、と言いながらも、私と同じく目元を赤くしたあきつ丸が早足に歩を進める。私はそれを追いかけ、通信室へと向かった。

 

 一度だけ振り返った私が見たのは、憲兵達が銃を構えて工廠へ立ち入る光景だった。

 

 

 

 

「――陸軍憲兵隊であるッ!! 八代少将、ご同行いただこうか! 下手に動けば撃つぞ、松岡中将より許可がおりていることを心掛けろッ!」

 

「憲兵……! くそ、まだ、俺は――!」

 

「取り押さえろッ! 一班は艦娘達の容態を確認! 二班は現場の保存に回れ! ――松岡中将より派兵された、憲兵隊の飯塚です。貴艦はこちらの工廠の責任者か?」

 

「は、はいっ! 私、工作艦、明石です! この子はまだ動かさないでください、艤装の修理が――!」

 

「承知した、そちら以外の現場を保存させていただきたいが、よろしいですか」

 

「わかりました! あ、そっちは演習用の弾薬がまだ残っているので――」

 

「了解した。おい二班! そこの木箱に触れるな!」

 

「「了解!」」

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