柱島泊地備忘録   作:まちた

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七話 提督が鎮守府に着任しました【艦娘side】

 船上での提督は私や夕立に気を遣っていたのか、柔らかく優しい印象だった。

 欲していた言葉を唐突にかけられたであろう夕立はすぐに提督に懐いてしまい、出会った頃のような天真爛漫さの一部を取り戻したように思う。

 

 距離が近いのは上官と部下としてどうなのかとも思うが。

 それに提督も提督だ。私も夕立も欠陥品として弾かれた艦娘――本来なら警戒して然るべきであり、欠陥品とまで呼ばれたのだから命令に逆らう可能性もあると考慮すべきだ。

 なのに全くの無警戒で夕立を手放しで褒めるわ、頭を撫でるわ……っは、私は何を。

 

 ……それはともかくとして。

 

 鎮守府に到着してから、夕立の案内でまずは提督が休めるようにと執務室に向かった。

 私の思惑を感じ取ってか、ぐだぐだと鎮守府を回ることなく一直線に案内してくれた。

 

 入室したのち、まずは休んでいただいて、着替えもお持ちしなければと考え始めたが、ふと提督の横顔を見て、目が離せなくなった。

 

 ぐるりと部屋を見回す提督は、ふむ、と一声漏らして、懐かしむような表情をしていたのだ。

 ここは柱島に新たに建てられた鎮守府――懐かしむこともできないだろうに、と思ってしまう。

 

 しかし、提督は用意された新品であろうデスクを撫で、息を吐く。

 いや、よく見れば新品ではない……?

 

 小声で夕立に「ここにある備品はどこからです?」と問えば、

 

「夕立が来た時にはもう……持ってきたのは、憲兵さんっぽい」

 

 と小声で返ってくる。

 憲兵が持ってきた……? おかしい。

 海軍省内の秩序維持部隊であり、戦闘支援兵科の憲兵隊がいち鎮守府の、それも呉鎮守府の海路くらいにしか扱われない雑用の溜まり場が如き場所に何故……提督は、まだ何か隠しているのかもしれない。

 

 「……」

 

 ぎぃ、と音がなり視線を向ける。

 そこには、椅子に座って私たちを見る提督の姿。

 

 提督が鎮守府に着任した――私たちの、新たな提督が――。

 

 回りかけた思考の歯車が止まる。

 提督が目頭を押さえ、何かを考え込む仕草を見せたからだ。

 

 何を考えて……いや、まずは休んでいただきたい。

 私に会う前だって一悶着があったのだ、少しでも休息をとっていただかねばと口を開きかける。

 

「ていと――」

 

「鎮守府の現状を把握したいが、まずは召集できる者を頼む」

 

「は、はっ!」

 

 や、休まないつもり……!?

 ここに来るまで都合数時間。私に会う前にも内陸を長時間移動していただろうに、一切休む気配が無いじゃないか……!

 まだ血に濡れたお召し物さえ替えていないというのに――!

 

「ですが提督、その、早速ですが……よろしいのですか?」

 

 思わず出た言葉に、私の横にいる夕立も不安そうに提督を見た。きっと夕立も同じく休んでほしいと思っていたに違いない。

 私たち艦娘は人間の体を持ち、艤装を装着していない時は通常の人となんら変わりない力しかないものの、頑強さは比べるべくもない。

 数日の不眠不休、それに加えて激しい戦闘にも耐えうる体なのだ。銃でさえ私たちに傷ひとつ負わせることはかなわないだろう。

 だが提督は違う。船上で聞いた話と資料での記録、私の予想していることが頭の中で交錯する。

 

 失踪していた元大将――その失踪していた年月、実に六年。

 

 私の予想では失踪では無い。

 海軍省の一部から《逃亡》し、船上で見せてくださった羅針盤……あの技術の悪用を防ぐべく《秘匿》し続けていたのだ。

 一般人ならいざ知らず、軍内で根も葉もない噂が流れるなどという可能性は低い。艦娘のうちでも流れた暗殺説は全てが間違っているわけではなく、一部違っただけだとしたら、彼は暗殺されかけたが《生き延び、逃げおおせた》のだ。

 そうして六年もの間、完全に身を潜め誰にも見つからずに生きてきたのだろう。

 

 どうして再び横須賀に現れ、まして軍法会議にさえかけられず降格処分と異動で済んでいるのかは分からないが――それこそが、提督が未だに隠している秘密であるのかもしれない。

 いつ、どこで捕まるか分かったものじゃない状況を六年も続け、軍に戻ってきたと思えば一切の休息無く今度は欠陥品と呼ばれた私たちを指揮するに至るなど、艦娘の私でさえ倒れてしまう。

 

 よろしいのですか、と聞いた手前だが、やはり少しでも休んでいただきたいと言いかけた私にかけられた声。

 何気ない日常の風景が如く、私を、夕立を気遣う声。

 

「このままでも良いと言うなら、無理にとは言わないが……」

 

 このままでも良いと言うなら……。

 

 ああ、やはり提督は分かっている。私たちがどのような境遇にいたのかを。私が何を考えているのかを。

 自らのことよりも艦娘を優先し、励まそうとしている。同時に、一人の軍人として、上官として、お前はそれで良いのかと問うておられる。

 私は提督の命令ならば何を差し置いても優先するつもりがある。だが、はたしてそこに信用や信頼があるのか?

 違う、あの海の上で揺さぶられた感情だけでは提督の言葉の深くにある真意には届かない。

 

「い、いえ、失礼しました。提督のお考えもありますでしょうから、すぐに集めてまいります」

 

 今はまだそれでいいのかもしれない、と、私はかぶりを振って言う。

 いつか、私が提督のお言葉一つ一つの意味にたどり着けた時、きっと何かわかるのだろう。

 

「そこまで多くなくてもいいからな。夕立、大淀を手伝ってやってくれるか?」

 

 ……どこまでも優しいお方だ。

 

 来たばかりの私では、所属する艦娘とは言え、反発される可能性を考慮なさったのだろう。もしかしたら召集に応じない艦娘も出てくるかもしれない、と。

 先に配属されて顔を見られている夕立を連れていけば多少は話を聞いてもらえると踏んでのご判断――たった一言か二言の間にどこまで思考されているのか。

 

 それに、手伝ってやってくれるか? と夕立に選択肢まで。

 提督ならば、手伝え、で良いというのに、彼は夕立の自由意志を尊重している。

 

 夕立は優しくかけられた声に、嬉しそうに口元を緩め、どんと胸を叩いて見せる。

 

「そーんなご用事、夕立の手にかかればぽぽいのぽいっぽい!」

 

 流石に失礼すぎやしないだろうか……!

 慌てて咎める私に、提督は小さく笑って「気にするな、自然体でいればいい」と言う。

 

「提督が、そう、おっしゃるのでしたら……」

 

 駆逐艦はずるい。私はそう思った。

 って、だから私は何を考えているの……!

 

 わけのわからないことを考えているとバレてしまうかも、と私は夕立を連れて足早に執務室を出た。

 

 

* * *

 

 

「大淀さん、ごめんなさいっぽいぃ……」

 

 部屋を出て、艦娘たちにあてがわれたらしい寮へ行く道すがら、夕立がしょんぼりとして言った。

 

「提督が気にしなくていいとおっしゃったのですから、私も気にしてないですよ」

 

 嘘である。本当は私だって提督に撫でられ……っは、また意味の分からないことを私は……!

 

「そ、そうだ! 大淀さん、あのね! 大淀さんは提督さんを迎えに行くのに別々で出ちゃったから教えられなかったけど、赤城さんや加賀さんも来てるっぽい!」

 

「一航戦のお二人が――! それは心強いですね……まずはそちらに向かいましょう」

 

「っぽい!」

 

 思考を切り替え、夕立についていく。

 執務室のある中央棟から出て暫く歩くと、少し離れた位置にアパートのような外観の建物が見えた。

 あれが艦娘の住まう寮だろう。

 

「夕立のお部屋と大淀さんのお部屋は離れてるっぽい……でもでも! 憲兵さんが色々用意してくれたっぽい! シャワーもあるっぽい!」

 

 また憲兵――いや、今はいい。ともかく、提督のもとへできる限りの人員を集めなければ。

 

 夕立は勝手知ったるという風に寮へ入っていく。

 寮の見た目こそアパートだったが、内部は新築ということもあってか、かなり綺麗だった。

 ニコニコとしている夕立の心持ちも察することができる。

 

 私と夕立、そして未だ会えていない一航戦の二人が所属していた鎮守府では、寮こそあったがボロボロの倉庫を改造したような酷い場所だった。

 風呂のような設備は無く、私たちが温かな湯に浸かるなど夢のまた夢。損傷修復のためにある入渠設備さえ冷水だったのを思い出し、溜息が出る。いいや、溜息しか出ない。

 

 夕立がきゃっきゃと嬉しそうに話す声が廊下に響く中、立ち並ぶ扉の一つがかちゃりと開いた。

 扉からそっと顔を出したのは、話題に上がっていた一航戦が一人、赤城さんだった。

 

「夕立ちゃん、あまり大声で話さな――大淀さん……!?」

 

「赤城さん、お久しぶり……です」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 加賀さん! 大淀さんが……!」

 

 赤城さんはすぐに顔を引っ込め、扉が慣性で閉まる前にがっと手で止め、部屋の中へ声を届ける。

 室内から聞き覚えのあるくぐもったもう一つの声。

 

「赤城さん……何を……大淀さんは捨ててやったと、提督が……」

 

「捨てられたのだと思うのならこちらに来て見てください! 早く!」

 

 普段から物静かな印象だったもう一人の一航戦、正規空母――加賀。

 廊下にうっすらと届く声音は物静かどころか、今にも切れてしまいそうな糸のように細かった。

 それから、たっぷりと数十秒かけて再び顔を出した赤城さんの横には、虚ろな目をした加賀さんがいた。

 ゆるゆるとした動きで瞳を動かし、赤城さん、次に夕立を見て、疲れたように、はぁ、と息を吐く。

 

 だが、次に私を見た時、幽霊でも見たような顔をしてぱくぱくと口を動かす。

 

「おお、よどさん……!? ほ、本当に……? あな、あなた、生きていたの……!?」

 

「加賀さん、お久しぶりです。前提督にどのように言われたんですか……まったく」

 

 生きてますよ、と腰に手を当てて眼鏡を押し上げてみせると、加賀さんは転びそうになりながら私に駆け寄り、手をとって早口でまくし立てた。

 

「提督から邪魔だったから捨ててやったと聞いて、私、私……! あなた、どこで何をしていたの……!」

 

「新規鎮守府に着任する私たちの新しい提督を迎えに行ってたんです。異動の手続きも何もかも放り出されたので、私が自分で諸々の準備をしていたのですよ。元の提督が私に用意したのは現提督を迎えに行くための船一隻のみでしたからね」

 

「そう、だったの……でも、良かった……また、生きて会えて」

 

「……はい」

 

 握り合う手に力がこもる。生きて会う――当たり前のようで、当たり前じゃないこと。

 あの鎮守府で酷使され続けていた空母勢の中でも、一際強く八つ当たりされていた一航戦は自分たちの信念を決して曲げない強い艦娘だ。二人を育て上げたある空母から受け継いだ性質か、前提督の無理難題に対してもできる限り穏便に、しかし真っ当に意見していた。

 当然、前提督は一航戦に激しく怒り、そこから事あるごとに一航戦に罵声を飛ばしていた。

 

 誰が聞いても気分の悪くなるような言葉の羅列は、前鎮守府のヒエラルキーをより明確化した。

 下劣な命令でも喜んで従い前提督の味方をする艦娘は何をせずとも戦果を得る。

 敗北しながらも何とか生還し、こうすればよかったかもしれない、ああすれば状況は変わったかもしれないと真面目に報告書を作り意見した艦娘は反乱分子として扱われる。

 

 無論、私も、夕立も、一航戦の二人もヒエラルキーの最下層にいた。

 

 故に、生きることに対しては何よりも執着した。

 

 それなのに、生きて会えて良かったという加賀さんから生気を感じられなかった。

 どうしてと問う前に、加賀さんがぽつりと洩らす。

 

「もう、思い残すことは無いわ……私は、これで……」

 

 続く言葉は予測出来た。だから、力のこもる加賀さんの手を小さく振って言う。

 

「一航戦のお二人が必要です」

 

「大淀さん……あなた、なんで、まだ……」

 

「まだ終わっていないからです。私たちの新しい提督が、召集をかけておられます。提督は無理にとは言わないとおっしゃられましたが、私は行きます」

 

 確固たる意志を込めて言うと、加賀さんは今にも崩れそうな表情で私を見る。

 私の言葉に追いすがる夕立の声。

 

「夕立も行くっぽい! 赤城さんも、一緒に行きましょう?」

 

 赤城さんはあからさまに嫌そうな顔をして、目を伏せる。

 

「私たちは、もう……守るべき人など……」

 

「いいえ、居ます」

「いるっぽい!」

 

 私と夕立の声が重なる。

 

「提督さんは、あの提督さんと違うっぽい! ま、まだ本当に、良い人かは分からないけど、でも……でも、夕立に、帰ろうって言ってくれたの!」

 

 そう、彼は誰よりも優しい心を持っている。

 

「お二人は新しい提督がどのような方だかご存知ですか?」

 

 二人に問えば、こくりと頷きが返ってくる。

 赤城さんが、思い出すようにして言う。

 

「海軍省付の元大将……ですよね。それも、艦娘を故意に轟沈させるような……!」

 

 後半につれ強くなっていく語気だったが、私は首を横に振る。

 

「お二人も相当にやられて、正常な判断がつかないのですね。一航戦のお二人ならば、すぐに冤罪だと分かりそうなものですが」

 

「「冤罪……?」」

 

 二人の視線を受け、確証はまだ無いが、と前置いて提督の来歴を話した。

 

 ある技術を発見してしまい、身の危険を感じてその技術を秘匿すべく軍から姿を消したこと。

 それは私たち艦娘と密接な関係にある、かつての艦の魂そのものとも呼ばれた妖精が操るものでもあり、下手をしなくとも現在の戦況がひっくり返るような代物であること。

 二人も知っての通り、艦娘反対派の存在する海軍の一部には決して渡ってはならないものであり、提督は挺身して技術と、ひいては艦娘を六年もの間守り通したこと。

 私と出会ったときも、悪あがきに暴力を振るわれたであろう提督は、血に塗れても決して折れず、揺るがず、軍規と仁義に従い前を見ていたこと。

 警戒していた夕立に臆すること無く、頭を撫で、任務に従事したことを褒めたこと。

 

 話しながら熱が入ってしまった私の声に反応したように、視界に入る夕立の目が潤んだ。

 両手で自分の頭を触り「あれは、嘘じゃないっぽい……」とつぶやく。

 

「一目でいいのです。どうか、提督に会っていただけませんか」

 

 沈黙。それから――

 

「……分かりました。連合艦隊を率いたあなたが言うのなら、従うわ」

 

 加賀さんの言葉に、赤城さんが続く。

 

「そうですね……。それに、私たちは艦娘……死地へ出向くのも、戦場へ出向くのも、変わらないですもの」

 

 まだ虚ろな目をしている赤城さんだったが、私は確信していた。

 あの提督を見れば、必ずその目に光が戻るだろうと。

 

「提督は多くを集めなくても良いとおっしゃられましたが、私は総員を集めたく思っています。一航戦の力を、貸してください」

「ゆ、夕立からも、お願いするっぽい!」

 

「それは良いですが……その必要は無いかもしれないわ」

 

 加賀さんが視線を泳がせた。それを追うようにして顔を動かせば、廊下に並ぶ扉のいくつかから顔が覗いていた。

 一人は、歴戦の軽空母――鳳翔。

 

「今の話は、本当、ですか?」

 

「鳳翔さん……はい、私の推測もありますが、冤罪については間違いないでしょう」

 

 もう一人……一瞬、覇気が無さ過ぎて目を疑ったが、制服を見るに間違いなく……戦艦、長門。

 

「騒がしいと思ったら、新しい提督だと……? ふん、どうせ変わらん……また、仲間を沈めるような輩だろう……」

 

「長門さん……ですよね……? いいえ、あの方は決してそのような事はしません。この大淀が保証します」

 

「お前が保証したからと言ってどうなる……? 私が、お前を信用しているとでも?」

 

「それは……。いや、あの方は違うと断言出来ます。もし長門さんの仰るような方であらば、私の身を如何様にもしていただいて構いません!」

 

「ほう……?」

 

 提督を見てほしい。そして、知ってほしい。

 一言でもいい、話して欲しいという一心だった。

 

 たかが六年、されど六年、提督はたった一人で艦娘のために戦っておられたのだ。

 私の身一つ程度では対等にさえならないと思うが、それで召集に応じてくれるならいくらでも差し出そう。

 

 説得とも呼べない、身も蓋もない懇願に近い言葉に、長門さんも、鳳翔さんも、ふむ、と逡巡を見せる。

 そして、

 

「……分かった。他の戦艦たちは私が連れて行こう」

 

 長門さんの目には「違えれば、分かっているな?」という暗い光があったように見えるが、私は頭を下げる。

 

「ありがとうございます。では、一航戦のお二人は……」

 

 と、私が空母を誘って欲しい旨を伝えれば、了承を得られた。

 鳳翔さんも「赤城ちゃんや加賀ちゃんが行くなら、私が行かないなどとは言えませんね」と渋々ながら応じてもらえた。

 

「助かります、鳳翔さん。残りの艦種は私と夕立さんで回ってきますので、集合場所は広いところで――」

 

「講堂があるっぽい! そこならみんなが来ても大丈夫!」

 

「――では、講堂で待機をお願いします。全て回ったら、提督をお呼びしますので」

 

 ただ召集をかけるだけでこの労力。なんて重たい一歩か。

 しかし、この一歩が必要なのだ。なんとしてでも提督に繋げねばと気合を入れ直す。

 

「夕立さん、次の場所へ案内を」

 

「軽巡と、重巡と、駆逐艦と……潜水艦と、あっ、あと明石さんも!」

 

「……随分と、捨てられてしまった艦娘が多いですね」

 

「……ぽいぃ」

 

「同じ艦でも、自分の言うことを聞く艦娘の方が良いのは当然、ってところでしょうか」

 

 自嘲気味に笑ってみせたが、夕立にいらぬ不安を与えてしまったかと謝罪する。

 

「すみません、夕立さん。提督はそんなことしない方ですから、ね?」

 

「そう、よね……だよね! 夕立は提督さんを信じてみたいっぽい!」

 

「っふふ。私もです。さぁ、まだまだ回りますよ」

 

「っぽい!」

 

 私達のやり取りを見ていた鳳翔さんが、小さな声で呟いた。

 

「そんな方が、本当にいればよいのですが……」

 

 いるんですよ、と返したかったが、私はあえて何も言わず、提督の任務を遂行すべく寮を行く。

 これは、私へ課された試練。

 そして、提督の器量を見るためのものでもあるのだから。

 

 

「……きっと、提督ならば――」

 

 

 変えてくれるはず。私たちを。運命を。

 人類が危機に瀕する、戦争そのものを。


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