柱島泊地備忘録   作:まちた

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九十三話 提督とは③【提督side】

『――という事は、練度そのものが改装に関係しているとお考えなのですか?』

 

「これは私の見解であり、確実ではないが、その可能性が高いであろうと考えている。駆逐艦であれば練度が二十から三十もあれば改装に十分な練度であると言えよう。もちろん、それ以上に練度が必要な場合もあるかもしれんので、そこは工作艦の明石や兵装実験軽巡の夕張と言った艤装に詳しい艦娘とよく相談すべきでもあるが……」

 

『閣下、もう一つ質問を』

 

「……なんだ」

 

 軽巡棲鬼を撃破した報告の後、俺はモニターの向こうにいる軍人達から質問攻めにあっていた。

 中には艦娘を研究している者もいた様子で、基本的な知識以外にも専門的な観点から気になっている事まで幅広く質問されてしまい、抜き打ち試験されている学生のような気持ちになりながらそれらに分かる範囲で答えていた。

 それもこれも、艦娘本来の能力、という言葉が引き金になっていたようだった。

 

 俺の中にあるものはゲームの知識であって、現実の艦娘に対する知識ではないため、俺は必ず「私の見解では」と前置いて言う。個人的、とは違って自分が調べたわけではない上に、半分どころか殆どが攻略サイトやゲーム内図鑑で見られるような知識ばかりなのだから、現実世界に持ち込んだところで通用するか否かなど言わずもがな。

 これではまるで俺が艦娘を個人的に調べているみたいではないか! と思わなくもないが、質問に答えられないとなれば今の今まで熱弁をふるった言葉が嘘になってしまう。仮に全てに言葉を返さなくとも、分かるところ、思いのあるところに対しては誠実に返答すべきだと考え、ペンを指示棒のように振りながら声を交わすのだった。

 

『私を含め、大勢が未だに()()なるものの存在を目にした事がありません。だから信じていないというわけでは無く……しかし同時に、説明のつかない現象を見たことがあるが故の質問であるとご理解いただきたいのですが――妖精は、存在しますか』

 

「存在する」

 

 これには、間を置かずにはっきりと答えた。

 私の見解でもなんでもなく、事実であると。

 

 モニターには映っていないのかもしれないが、くるくると室内を飛び回っている妖精や、軍帽を休憩所とでも勘違いしているのか、どこからか持ってきた座布団を敷いて、その上でお茶を飲んでいるセーラー服の妖精もいる。こいっつほんと……。

 怪我しても必死に働いてるんだから、お前らも働けオラァッ!

 

 と、そのまま言葉にはしなかったが、俺は手に持っていたペンを虚空へ掲げて言った。

 

「見えないものを証明する事は難しいが、間接的に存在を知らしめる事は可能だ。妖精が見える者と見えない者の違いは分からんが――妖精自身が、自らを晒せる相手を選んでいる可能性は考慮すべきだろう」

 

 意図を察したセーラー服でお茶を嗜む妖精がふわりと浮かんで掲げられたペンを掴む。

 俺がそのまま手を離すと、妖精はペンを持ってその場で静止する。

 

『なん、と……それは……』

『ペンが……』

『それは閣下が指示したのですか!?』

 

「いや、指示はしておらんが……どう証明すべきか、という話をそばで聞いていたのだから、察してくれたのだろう。諸君らにはこのペンが浮いているように見えるのか?」

 

『い、やぁ……どこから見ても、浮いているのですが……!』

『これではオカルトを織り交ぜたプロパガンダと言われてしまいますぞ……』

『海軍の体制変更に際して広報にでも使えたらと考えましたが、艦娘や妖精を前面に押し出す広報は無しですね。艦娘ならば触れられる上に話せますが、妖精となると、途端に信じがたく……』

『陸軍にも艦娘は所属しておりますでしょう。陸海軍の協力はより強固なものとなったとでも銘打って――』

『ふぅむ……であれば、大本営で事務に埋もれている艦娘にも新しい仕事を回せるでしょうが、そうすれば人員の不足に繋がりかねませんぞ。おいそれと建造するのは閣下の意に背く可能性もあります。今いる人員を如何に活かすかを考えた方が建設的でありましょう』

『艦娘を広報に使うのだから、それはそれで人を集められる気がするが?』

『私もそう考える。彼女らの見た目からして、なあ』

『それこそ国民の意見が割れましょう。海軍の一部とは言え、反対派の発言によって悪いイメージを持っている者も少なくはありません』

『立場や環境の改善……となると、難しいところですな。数年の歳月をかけて固められた印象を百八十度変えろというわけでありますから。我々、と一括りにしては語弊がありますが、少なからず私は彼女らを少女として見ては仕事にならんと、兵器として線を引いて扱っておりましたし』

『しかし、人類を脅かす存在と口汚く罵られてもあきらめず戦う少女達が、誹られたままで良いわけがありません。我々とて動くのならばそれだけの覚悟を持たねば』

『威信をかけた大改革でありますからな……せめて、先人の戦いに泥を塗らぬ働きをせねばなりますまい』

『先人と、艦娘……さらには、我々の意義にかかわります』

 

『……くくっ』

 

 モニターの向こうでひそひそと会話をしている様子が見えたが、小声で話すのは止めて欲しい。聞こえないので。

 井之上さんは周囲が話し合っているのを口元を綻ばせながら眺めているだけだし、ちょっと、働いてくださいよ井之上さんよぉッ!

 

『わたしたちが、おかるとだといっています。失礼しちゃいますねえ!』

 

 話している内容が聞こえていたらしい妖精が簡潔に教えてくれたが、オカルトなのは否定しない。オカルトだもの。小人だし飛んでるし気づけばいたりいなかったりするしお前らなんなんだ本当に。

 艦娘は過去の軍艦が少女になったもの――妖精は、軍艦の魂そのものなんていう説があった気がするが、最初の頃は公式にさえ名は無かった。

 

 もともと設定という設定が固められていないゲームであるが故とも言えるが、妖精と呼び始めたのは俺を含む艦これプレイヤー達――提督なのである。

 ゲーム内のあちこちに姿をあらわしては、建造や開発、出撃中にいたるまで必ずどこかに彼女らはひっそりと登場していた。

 

 建造に至っては数時間で艦娘を一人生み出すほどの技術力を持ち、開発では艦載機、主砲、副砲、機銃となんでも作ってみせる存在である一方、ぬいぐるみを作ってみたり、艦娘と共に出撃して艦載機を操ったり、主砲にくっついていたりと、血なまぐさいはずの戦争をポップなものとして柔らかな印象を抱かせる重要な存在でもある。これをオカルトと呼ばずしてなんと呼べばよいのか。

 

「まぁ、オカルトだからな」

 

『まもるまでそんなことを……! ひどいや! わたしたちはこんなにもがんばっているのに! おに! あくま! しゃちくぅ!』

 

「……」

 

『こ、この……えっと……おゆかぶりへんたい!』

 

 不名誉な異名やめろッ!!

 思わず口をついて出そうになる言葉をぐっと呑み込み、ペンを持って浮かぶ妖精を指でつまんで頭の上に戻す。相手に見えていないのなら間抜け面にならないと思うので大丈夫です。

 

 俺の頭の上に戻されて何故か機嫌の直った妖精は、ぶつくさ言いながらではあったが、再びお茶を啜り始める。

 

 短い間であるのに、今や目の前で自由にふるまう妖精は艦娘はおろか、俺にとって切っても切れない存在になりつつあるのも、確かにオカルトに思えてくるのだった。

 

 そこでふと思い出す。

 

「……むつまるはどうした」

 

 夢の中で部屋から連れ出したむつまるの姿が無い。

 俺は途端に不安に駆られて頭上の妖精や、病室内を飛び回る妖精達に向かって問う。

 

『むつ……? 閣下、それは戦艦の陸奥でありますか?』

『戦艦陸奥がどうしたのでしょう』

 

「違う、妖精だ。妖精のむつまるだ」

 

『妖精にも名前が?』

『いや、閣下が名付けた可能性もあるが……』

 

 体温が奪われていくような感覚が全身を襲い、痛みや吐き気から来るものとは違う汗が額から噴き出す。

 俺をこの世界へ呼び戻したむつまるが居ない事に気づいた俺は――

 

 ――もぞ、と軍服のポケットが蠢いた。

 

「……」

 

 恐る恐るポケットへ手を突っ込むと、むに、とした柔らかな感覚。

 それとかさりとした紙の感覚が指先に伝わった。

 

 それをつまんで引き抜くと――

 

『あ』

 

「……何をしているんだお前は」

 

『え、えへへぇ。まもるを呼びにいってたりしたから、おなかへっちゃって……へへ……』

 

 ほっぺを金平糖で膨らませたむつまるがいた。

 ビビらせんじゃねえよッ!!

 あ、い、いやビビッてねぇし。別に気にしてなかったし。

 

 確かにむつまるが居なかったら俺はこの世界に来てないし?

 いろんなことを助けてくれたから感謝してるけど、だからといって別にむつまるがいようがいまいが、俺にとっては関係無いことで? いたら、まぁ、助かるけどぉ?

 

 こいつ俺に仕事ばっかさせてくるし?

 

『しんぱいかけてごめんね? でもむつまるはだいじょうぶだよ』

 

「……そうか」

 

 は? 心配してねえし? は? はぁ? 思いあがるなよほっぺ膨らませやがって可愛かったら許されると思ってんじゃねえぞてめぇ。

 

『こんぺいとう、おいしいね』

 

「うむ……」

 

 くそが……可愛くねえし……けど許す……。

 

『か、閣下……?』

 

 スピーカーからの声にはっとして顔をあげた俺は、すまない、とむつまるをテーブルの上におろしながら言った。

 

「いつもいる妖精が見当たらなくてな。いらん心配をかけた。どうやら腹が減っていたようで私のポケットに隠れて金平糖を食べていたようでな――」

 

『金平糖を? はっはっは! 自由な存在でもあるようだ』

『妖精が空腹を……ふむぅ……艦娘とも深くかかわりのある存在で、見えずとも食事をとる、と』

『ポケットに隠れられるサイズと言えば、数センチ程度か?』

『数センチと言ったら。ペンよりも小さいでは無いか。踏みつぶしてしまいかねんぞ……』

『ペンを浮かせていたのを見るに飛行が可能であるのでは? 妖精の安全上必要であると思われる軍規の制定を――』

 

 待て待て! お前ら生真面目過ぎるだろ! 妖精に軍規って!

 話が脱線した会議はさらに進んで行く。俺を置いて。

 

『見えないものに対して軍規を制定するとなれば、また難しいところも出てきましょう。例えば入隊してきた新兵に対しても説明が――』

『だがかつての日本軍はパイロットの適性を調査するのに手相を見ていたなんて話もある。それが真実か否かは論ずるまでもないが、オカルト国家であるのは否定できん。妖精に関する軍規があっても、艦娘が存在している今、否定に足る材料もあるまい』

『士官以上の者に限れば問題無いでしょう。艦娘と間接的にかかわりを持つ者は多いが、せいぜいが出入港に際しての手続き上でかかわる程度です』

『ならば妖精には地上高一メートル以上の飛行を規定し、地上での活動を制限致しましょう。そうすれば我々が踏みつぶしてしまうこともありません』

『この大本営にも妖精は存在するのだろうか?』

『それは、わかりかねますな。艦娘に聞いてみては?』

『今の今まで仕事だなんだと冷たくあしらってきた彼女らに聞けますかな?』

『……確認は、追々するとしよう。まずは妖精に対する軍規の詳しいところを――』

 

「待て。目下進めねばならんのは深海棲艦の撃滅だろう。それから、楠木とやらの出頭についてではないのか」

 

 これ以上妖精をのさばらせないでくださぁい! まもるの仕事が増えますぅ!

 どうして詳しいところを知らない俺が軍議の舵取りをしなければならないのか……。

 

 しかし、俺の一声によって会議室の空気はぴりりと一変し、再び緊張感のあるものとなった。

 

『失礼いたしました閣下。深海棲艦の撃滅に関しましては閣下の艦隊が進行中でありますから、我々はそれをもとに各拠点へと連絡を回しましょう』

 

 そう言った軍人が、おい、と言えば、秘書らしき艦娘――香取が画面に映り込んだ。大本営に勤めている香取の表情は、柱島にいる香取よりも緊張に強張っているように見えたものの、どこか会議室に流れる空気に戸惑っているようにも見えた。

 

『西日本での警報レベルの引き下げを検討しているという旨を各拠点へ伝えてくれ。だが、未だ閣下の艦隊が作戦行動中であるため、緊急出動が出来るようにだけ構えておくようにと』

『かしこまりました』

『ところで香取』

『っ……はい』

『――まともに名を呼んだのは初めてなような気がするな。お前も聞いていただろうが、閣下の預かる泊地のように……教導をしてみたいという気はあるか?』

『え……?』

 

 一人の軍人が言うと、別の軍人も会話に参加するように口々に言葉を発し始める。

 

『香取といえば純粋な練習巡洋艦の艦型だったと学んだな』

『練習巡洋艦であるどころか、彼女は潜水艦隊を率いた旗艦だろう』

『あぁ、ミッドウェー海戦の伊号潜水艦の』

『第百六十八だろう? まさかあれの教導は――』

 

 香取は目を丸くしたまま、ええ、と頷いた。

 

『教導ではなく私は独立旗艦でした。確かに、彼女達は私の指揮下におりましたが……』

 

『ほう! なれば教導にはもって来いではないか!』

『閣下のお考えである教育機関への参入も視野に入れて、大本営から出向してみんか、香取』

 

『えっ? あの、私は……あのぉ……!?』

 

 これは再び脱線してしまうかもしれないと俺が声を挟む前に、井之上さんの声がそれらを止めた。

 

『これ以上話を躍らせても仕方あるまい。まずは、楠木らをここに立たせねばいかんのだ』

 

『――失礼いたしました。元帥閣下』

 

『貴官らがやっと()()()()()()()()事は喜ばしいが、片付けるべき問題からだ。楠木と連絡が取れた者はおらんのか?』

 

 井之上さんの問いに声は返ってこなかった。誰も楠木という男を捕まえられていないらしい。

 そもそも、俺にとって楠木など、顔も知らないような男である。名前を何度か耳にした程度で、海軍では少将という立場であり井之上さんも過去にはそれなりに信頼していたような話くらいしか知らないのだ。俺に出来ることは少ないかもしれない。

 

 楠木少将――諸外国と連携して艦娘や深海棲艦を研究しているのだったか。清水か山元か忘れたが、言っていたような気がする。多分。

 

『南方に位置する拠点……トラック泊地に関しましては別動隊として深海棲艦撃滅に尽力しておりますので除外しますが、パラオ泊地、ラバウル基地、ブイン基地、ショートランド泊地では動きが掴めていないとの事です』

 

『うぅむ……海原が派手に動いた事もある。察知されたのやもしれんな……』

 

 えっ。なんですかそれ。働いてたのに怒られるんですかァッ!?

 

『井之上元帥が情報部を抑えたから良いものの、呉の不正に続き出向させた鹿屋の中佐までも閣下に押さえられましたからな。一将官に部署そのものが先んじられたとあれば不満も噴出するでありましょう。井之上元帥が動かれたと聞かされた時は我々とて耳を疑いました。……っと、閣下に他意のある発言ではありませんのであしからず』

『話からするにどのような鬼が出てくるかと戦々恐々としておりましたからな。爆発事故に巻き込まれた翌日に軍議に参加するようなお方であるともくれば、致し方ないことかと。いやはや失礼、これも表面的なイメージの話でありますので』

 

 数人が、ふふん、と半笑いで頭を下げた。

 俺は憤慨してしまいたかったが、ここで逆切れしてはいかんと理性的に「構わん」とだけ言って顔を伏せた。

 嫌味を言われたのかもしれないと泣きそうになっているわけではない。

 

『なにか報告は上がっておらんのか?』

 

 井之上さんが顎を撫でながら問う。

 

『ラバウル基地とブイン基地の両方から深海棲艦の出現数に異常がある、との報告が上がっておりますが、全て撃滅可能な範囲であると。直近の出現数から二割ほど増えているようですが――閣下の艦隊の撃滅数を聞いた後ですから、調査するまでもなく虚偽はないかと』

『ふむ……』

 

 最近では会議などで見られることは少なくなった光景が、モニターの中にはあった。

 なんてことはない、ただ軍人がそれぞれ煙草を取り出して火をともして煙をくゆらせたり、手元にあるカップを傾けたりしているだけだ。

 井之上元帥も煙草を吸い始め、画面にうっすらとフィルターでもかけられているかのように白む。

 

 俺の手元には金平糖しかない上に、術後という事もあって口に含んで良いものか分からなかったので手持無沙汰にペンを弄るだけだったが、部屋の中にいたと思っていた曙はいつのまにやら出入りしていた様子で、俺のもとへ飲み物を持ってやってきた。

 小さな声で「飲み物は大丈夫だそうです」と言ってくれたのを見るに、医師か看護師に聞いて来てくれたのだろう。

 なんて出来た子達なの……山元はこんな子にクソって言われてるのか……うらやま――けしからん奴だ本当に……くそ……。

 

 カップに視線を落とせば、湯気を立ち昇らせるコーヒーだった。

 

 一口ゆっくりと口に含むと、ほのかな苦みが吐き気を緩和して、香りが心を落ち着けてくれる。

 

『ラバウル基地はビスマルク海の防衛を主にしており、報告での撃沈場所も殆どがビスマルク内海に集中しております。ニニゴ諸島が怪しいと見ているようで、ブイン基地との防衛線を確立でき次第、そちらに偵察部隊を送ると』

 

『わかった。ではブイン基地の報告を』

 

『っは。ブイン基地は開放後よりソロモン海を周回している様子ですが、閣下の艦隊が撃滅して回った作戦もありますので、出現数としては増えているものの、特筆すべき強力な深海棲艦は見られていないとの事です。閣下が独自に遂行した作戦でありますから、ブイン基地から応援要請が無かったことに機密保持すべき作戦であったのかと問い合わせが……』

 

『で、あるか。ここにいる将官らに言うまでも無いが、機密保持が必要でありそうか?』

 

『それは――』

 

 軍人たちがカメラ、もとい俺を見る。

 コーヒーを飲みながら軍帽のつばの下から視線を合わせれば、全員がさっと俺から目を背けた――わけでは無いだろうが、すぐに井之上さんへ顔を向けた。

 オッサン同士仲良く出来るかと思ったのにこの仕打ちである。酷い。

 

『――区別で言わば、軍機でしょう』

『それ以外にありえませんな』

『待っていただきたい。それでは我々の頭に銃口を突きつけることと同義ですぞ。軍機となれば官僚の殆ども閲覧不可能――首相や防衛に際する者の一部しか――』

『戦線での一挙手一投足を官僚らが知りたがる理由など、それこそたかが知れているだろう。情報の共有をしないとは言っていないのだから、黙らせるしかない』

『そもそも閣下のご尊顔を見た瞬間から、我々に逃げ道が残っているとも思えん』

『……はぁ。返す言葉も無いとはこの事ですな』

『逃げ道とは、まるで及び腰ではないか』

『言葉のあやですとも。ここまで話を聞いておいて逃げだすような性根であればこの椅子にも座っておりません』

 

『ならば、本作戦を含め、南方開放に関する事項は軍機であるとして返答しろ』

 

『了解しました。ブイン基地はラバウル基地と共同で防衛線の確立の作戦を模索している現状であるとの報告です。南方海域どころか海が安全であるとは言えない今、二つの拠点が連動して作戦を遂行することを拒否する理由もないかと考えております。閣下は如何でしょうか』

 

「……」

 

『閣下?』

 

「……う、うむ?」

 

 必死に話を聞いていたものの内容の半分くらいしか分からなかった気がする。

 ラバウルとブインが防衛線を張るって話だよな? と壁に貼られた海図を眺めながら、俺は話を合わせた。

 

 南方海域を防衛するならどうすれば効率的であるのか、すらも分からない。

 

 ペンを持って、空中越しに壁の海図へいくつか線を引くように動かすも――分からない。海という広い戦場でどうやって安全を確保しろというのか。

 しかしそれを言い出しては元も子もないので、素人意見であろうが、笑われてしまおうがとにかく防衛にはこれくらい必要ではないのか? と自身で考えられる範囲で発言をする。

 もちろん言い訳もセットです。すみません。

 

「すまない、防衛に関してならばどうすべきかと、考えていて……」

 

『い、今ですか? なんでしたら、まずは防衛箇所を絞り――』

 

 うるさいよ! 今必死に考えてるんだから黙ってて!

 

「ラバウルとブインが共同するのならば、ショートランド泊地とも共同させるべきだろう」

 

『ショートランドも、ですか……?』

 

 言葉を組み立てながら、戦略らしい戦略は何かなかったかと艦これの海域マップを思い浮かべたり、さらには過去に催されたイベント海域などを思い返す。

 海図を眺めていると、細かな島々が目に入るのと同じくして、軽巡棲鬼という特殊な個体を思い出して、一つの案が浮かんだ。

 

 防衛線というくらいなのだから、突破されてしまうと戦況が変わってしまう重要なラインであるなど然り。

 戦況を変えず、強固に守らねばならないのならば相応に資源が消費される。

 

 艦娘達が戦えるように資源を補給できるようにするには――集積地が必要である。

 

 過去のイベントに出現した集積地棲姫というボス級の深海棲艦が同じような事をしていた記憶がある。あのタフさ、超火力、ふざけた航空戦力には頭を抱えたものだが、今は同じ事が可能であるのだから使わない手は無いだろう。

 俺に限った話だが、一度は攻め落とした事だってあるのだから、対策だって考えられる。

 

 大発動艇や対地噴進砲、迫撃砲を持ち出されたとしても、俺よりも知識のある会議室の軍人達ならば対処を知っているはずだ。

 

 もしも却下されたら別の案を考えてくれるだろうしな!

 

 他力本願って言うな。

 

「ラバウル基地とショートランド泊地から艦娘を派遣し、タンガ諸島、リヒア諸島を集積地として利用するのだ。資源の移動はブイン基地が行えばいい。陸上を移動するならば海上よりもよっぽど安全だろう。ラバウル基地の北にあるニューアイルランド島は防衛に適した地形をしている。住民がいればニューブリテン島へ避難させればより安全に生活も守れる」

 

 壁に貼ってある海図から、手元の海図へ視線を落として、キャップがはまったままのペンで島をなぞりながら言えば、会議室は、しんとした。

 

『……閣下、続きを』

 

 つ、続きぃ!?

 えー……と、ですねぇ……!

 

「南方に防衛線を張れば、攻め落とす場所は必然的に絞られる」

 

 いかん、何を話してるのか分からなくなってきた。

 だが誠実に、真面目に仕事をしなければいけない。これは艦娘のみならず人命がかかっているのだ……!

 じいちゃん助けてぇっ……!

 

 もう何回転したか分からない手のひらをひっくり返すような思考が言葉になって口からこんにちはしてこないように必死に考えながら、ポーカーフェイスを保って俺は言った。

 

「――そうすれば、トラック泊地やパラオ泊地と言った拠点が目標となるだろう」

 

 ああ、もうだめだ。これだとトラックやパラオを生贄にしろとしか聞こえないじゃないか……と、前言を撤回する前に、テーブルの上のスマホから声が上がった。

 

《――こちら連合艦隊旗艦、大淀》

 

 長門をちらりと見れば、スマホと俺を交互に見て頷かれる。

 会議を中断する事になるがこれも仕事なんでね、という顔をして「失礼」と言った後に大淀に応答する。

 

「どうした」

 

《トラック泊地東側の海域に海軍の艦艇を確認しました。種別は――》

 

 スマホの音を聞くために手元に引き寄せたことで、会議室へも通信の内容が聞こえた様子で、全員に緊張が走る。

 しかし会議室でそれぞれが反応を見せてくれた事で俺は逆に安堵していた。

 

 俺の周りには有能な者しかいないのである。素晴らしい。

 俺の仕事なのにすみません。

 

『トラック泊地の東側に艦艇を出した記録は』

『いえ、今のところはありません』

『では拠点側が哨戒に出したのか?』

『艦娘の随伴があれば可能性はありましょうな』

 

《え……》

 

 多くの声が聞こえて来たから驚いたのか、はたまた別の問題でもあったのか、大淀の戸惑ったような反応。

 

「大淀? 何か問題でもあったのか?」

 

《い、いえ……空母機動部隊に偵察機を出してもらっていたのですが、そこで発見された海軍と思しき艦艇に艦番号が見当たらないようで……》

 

「ふむ。少し待て」

 

 なんというタイミングであろうか。たった今、丁度分かるであろう人達が揃ってるんですよここにぃ! 助かったぁ……ッ!

 しかし俺が仕事をしていないのではないかと不安を抱かせるわけにもいかないので、スマホをそっと手の平で押さえた状態で会議室の面々に向かって問いかける。

 

「私の艦隊が艦番号の見当たらない艦艇を発見したようだが――」

 

 艦番号とは、説明するまでも無く、軍に所属している艦に割り振られる番号だ。

 管理しやすくするためでもあるそれが見当たらないとなれば一般の船である可能性もあるため、もしかするとここでは分からないかもしれないが。

 

『南方に出られるような艦艇など限られておりますからな、調べればすぐに分かりましょうが、番号が無いとなれば抹消されたものか……』

『おい、鹿島、調べてくれ』

 

 画面に映っていないだけで、鹿島もいた様子の会議室。

 高い声の返事が聞こえたあと、ぱたぱたと足音が遠ざかっていく。

 

 足音すらも可愛いと思えるのは、やはり鹿島という艦娘が――

 

『閣下』

 

 あっはいすみません。セクハラは考えていません。

 

『その艦艇に、心当たりがある様子ですな』

 

 はぁ? あるわけないだろ、何を言ってるんだオッサン……。

 俺は軍帽を被りなおしながらコーヒーをもう一口飲み、空になったカップを長門へ差し出して「お代わりを貰えるか」と言ってから、モニターへ顔を向けた。

 長門はあっという間に新しいコーヒーを淹れて戻って来る。

 

「私は知らんが」

 

 大淀は知ってるかもしれない。

 

『……』

『知らん、と……』

『確定事項ではないという意味でしょうか?』

 

「確定もなにも、どんな艦艇であるかも分からんだろう」

 

『……』

 

 全員がこちらを訝しむように見つめる。

 大淀助けて。オッサン達に睨まれてる。まもるの危機だよ。

 

 ……大淀ォッ! 今、調べに出て行った鹿島でもいいから助けてってェッ!

 

 俺の祈りが届いたのは数分後の事だった。

 鹿島が走って戻って来たのがスピーカーからかすかに聞こえる足音で分かった。

 

『現在、抹消された艦艇はありませんでした。大侵攻の折に沈んでしまったもの以外は、再登録されているはずである、と……』

 

『万が一も考えたが……やはり、そうであろうな』

 

 井之上元帥は艦番号を全て覚えているわけではなくとも、心当たりは無かった様子で言う。

 俺は手の平をスマホからのけて大淀へ伝えた。

 さらなる情報があるなら、会議室へ繋がねばと問うことも忘れない。

 

「番号が抹消されている艦艇は今のところ海軍に存在しないそうだが、その艦は一隻のみか」

 

《はい……一隻のみです》

 

「分かった、少し待て」

 

 俺が伝えずとも会議室には一隻のみという情報は大淀の声として届いており、またも声が飛び交う。

 

『一隻のみの艦艇が南方を航行中とは意味が分からんが、作戦中でもあるまいに』

『通信を試みるべきだろう。南方の一部だ、楠木の管轄ということもある。アメリカの艦艇であるかもしれんぞ』

『可能性としてはあり得るが……どちらにせよ、研究目的の航行であれ報告も無しというのは問題だろう』

『……待っていただきたい』

『どうしたのかね』

『出頭命令が出たのを知ってか、命令が出ることを予想して、研究者かその関連の者が南方からの離脱を図っているのだとしたら……?』

『な、なにを……将官が逃げる理由は揃っているが、さしもの楠木とてそこまで馬鹿ではあるまい。出頭命令は裁判が前提にあるが、出頭せねば無条件の敗訴だぞ。賢い男ならば、法廷に立って弁明する方がまだ賢明であることくらい理解しているはずだ』

『八代の件をお忘れか』

『……まだ確定はしておらん。疑わしきは罰せずだろう』

『八代や舞鶴の金森がかかわっていることも調査中だ。それらを明確にすることが優先されるべきではないかね』

『深海棲艦の艤装の一部を使用したとの目撃証言がある上に、大艦隊が南方で撃滅した特殊個体のこともある。百が揃っても一の不明瞭があるから不問に処すとしてきたから現状があるのではないか』

『……うぅむ』

『八代が使用したとしても、それが楠木に繋がるというのは短絡に過ぎんか』

『艦娘の研究に手を貸している代表の二人であろう。短絡ではない』

『データの提出を積極的に行っているだけでしょう。データ収集に関しては海軍全体で行っていることであり、まずは公平に取り扱うべきだ』

 

 交錯する会話に、井之上さんの重たい声が落ちる。

 

『様々な意見があって結構――しかし決定的な証拠が正式に提出されるか、この作戦終了後に八代が大本営に出頭せねば話は前に進められんだろう。いずれにせよ――全てを一気に片付けることなど不可能――』

 

《てっ、提督……艦艇に、人が確認出来ました……!》

 

 井之上さんの声を遮った大淀の震える声に、会議室から音が消えた。

 

「人か。海軍の者か」

 

《お、おそ、らく……しかし、その、甲板に……》

 

 泣きそうな声、泣いている最中の声、大淀から色々な声音を聞いてきた俺だが、恐怖に震えあがるような声は初めてで、緊張で身体に力が入る。

 危機的状況であるのはそうだが、それ以上に、深海棲艦が出現する海域で人が船に乗ってのんびり航行しているわけでもなさそうで、状況を知るべく俺はさらに声をかけた。大淀を落ち着けるには、俺が慌てるわけにはいかない、と声音は変えないよう、出来る限りいつも通りに、と。

 

「大淀」

 

《あ、あの……え、と……!》

 

「大丈夫だ。落ち着いて、一つ一つ対処すれば問題じゃない。今、何が見える」

 

《二航戦のお二人に、広域偵察を行ってもらっており……その最中に見つかった艦艇の甲板上に、人が、いて……》

 

 同じことを話していたが、これも自分を落ち着け、頭を整理するためなのだろうと俺は声を挟んだりしなかった。

 

「うむ。それで」

 

《甲板にいる人は、海軍の、軍服を着用しているようです……それに、隣に……深海棲艦と思しきものが見えると……!》

 

「……ふむ」

 

 深海棲艦が人と一緒に船に乗っている?

 うーん……ちょっと……。

 

「意味が分からん光景だろうな」

 

 意味が分からないですよねぇ……。

 

《て、提督! これはどうすれば……!》

 

『軍の者が深海棲艦と艦艇にぃ!? どういうことだ!』

『早く通信を試みるべきです、閣下!』

『いや待て、ここで通信しては近辺にいるであろう艦隊が危険に晒されてしまいかねん!』

『百を超える深海棲艦を撃破する艦隊を抱えておいて背を向けるほうがおかしいでしょう!?』

『そっそれはそうだが……!』

 

 お、おおおちちち、落ち着け落ち着けまだ慌てる時間ではあわわわわ……。

 会議室の混乱が俺にも伝播してしまうようで、そわ、と両腕が粟立つ。

 

 俺は長門がお代わりにと持ってきて置いてくれていたコーヒーを一気に飲み干してから大淀へ言う。

 

「通信を飛ばせるか。もし危険であると判断した場合は、全力で撤退することを許可する。艦に乗っているのが深海棲艦か否かも確認せねばなるまい。もしもそうであれば、人型なのだろう、それは」

 

《は、はい、今から通信を――》

《提督っ! あれは深海棲艦だよ! 絶対に!》

 

 きーんとするような蒼龍の声がスマホから響いた。

 会議室へも大音量で響いたらしく、全員が肩をすくませて耳を押さえた。

 

「蒼龍、落ち着け。まずは通信を試みる」

 

《っ……わか、ったけど……でもっ……!》

 

 深海棲艦のみが相手ならばいざ知らず。人までいるのだから彼女達も混乱しているのかもしれない。

 だが俺は彼女らを安心させられる手札がある。

 

 ――軍議に参加している大勢の軍人という手札が!

 おう。そうだよ。他力本願だよ。文句あるのかむつまる俺を睨むんじゃねえ。

 

「井之上元帥以外に、多くの将官と会議をしている最中でな。何があってもここで解決させられるだろう。もし出来なくとも、対処くらいは問題無い」

 

 ですよね? と視線を向ければ、モニターに大勢が頷く様子が映る。

 

《通信を、試みます……提督に繋いでいても……?》

 

「ああ」

 

 俺なんかで良ければなんでも押し付けてください。

 難しい事は会議に集まってるオッサン達が何とかしてくれます。

 もちろん俺だって一生懸命働きますし、考えますから。

 

《――こちら、柱島泊地所属、連合艦隊旗艦、大淀。応答願います》

 

《ザザッ……ザ……》

 

《こちら、柱島泊地所属――》

 

 数分、ノイズに対して声をかけ続ける大淀の声だけが場を支配した。

 そして――

 

《ザッ――そちらから出向いてもらえるとは光栄だ、柱島の艦娘》

 

《ッ……!?》

 

 スマホから聞こえて来たノイズ雑じりの声は、疲れたような男の声だった。

 

『この、声は……!』

『間違いありません、これは』

『閣下は行動を読んでおられたとでもいうのか!?』

『南方の防衛線に、ブインかトラックと的を絞った物言いからして、そうであるとしか言えんだろう!』

『待て待て、出頭するために出た可能性もある!』

『だが――!』

 

 一気に混乱していく会議室と通信、そして病室。

 ぽかんと間抜け面をしているのは俺だけで、長門や曙、潮、それに憲兵隊の面々は顔を青から白へ変えて固唾をのんでスマホを見つめている。

 会議室は議論をしていたわけでもないのに紛糾の様相を呈す。

 

 大淀から件の男の声に返答は無く、ならば俺が代わってやらねば、と声をかけた。

 

「大淀に代わり失礼する。柱島泊地を預かる、海原という者だ。現在、そちらの海域は深海棲艦の出現もあり危険なのだが、あなたは海軍の者か?」

 

 軍服を着用していると聞けど、確認はね、一応ね。

 

《っはは、白々しい男め。少し、声が変わったか?》

 

 何だこいつは……声が変わった……?

 もしや、俺の前にこの世界にいたじいちゃんを知っているのかもしれない。

 

 それにしても、祖父のように真面目にしか見えない人を知っている相手が艦娘を虐げているかのような話しか聞かない男であるのが信じられず、俺は祖父の顔に泥を塗らないようにしつつも訝しみが隠せない、低く唸るような声が出てしまうのだった。

 

 もちろん、この場には知らない者も多いため、はっきりとは口に出来なかったが、井之上さんならば俺が場違いな事を言っても意味は分かるだろうと、言葉を紡ぐ。

 

「……世話になったな」

 

《ッ……ふ、ふはは、そうか、やはり気づいていたか、お前ほどの男ならば……くくく……!》

 

「気づく? 何をおかしなことを――」

 

 じいちゃんとの話を指しているのなら分からないです。

 関係性を知らないんですもの……ごめんね……。

 

「そこは作戦中の海域なのだが、どこへ移動しようとしていたのか聞いてもよろしいか」

 

《――本土だ。もう目的も分かっているのだろう》

 

 その声に会議室はさらに騒がしくなった。

 

『やはり出頭のためだったのだ!』

『ならば同乗しているものは何なんだ!』

 

 その声をスマホのマイクが拾ったようで、相手の男――楠木から、気の抜けたような《は……?》という声が漏れる。

 すみませんずぼらな仕事してて……会議と作戦とを並行してるんです……しかもベッドの上でコーヒー飲みながら……これじゃじいちゃんに怒られてしまう……。

 

「私も仕事でな。形式的で申し訳ないが、名前を伺ってもよろしいか? それと、同乗している者の名前も教えていただきたい。本土へ行く理由如何によっては、艦娘を同行させる」

 

《な、ん……海原、貴様ァッ……どこまでも、俺の邪魔をッ……!》

 

「すまんな。これが仕事なのだ」

 

《真正面からしか、戦わん気だな……その、その貴様の姿勢が、気に入らん……気に入らんかったのだ……全てを救えるような、貴様の振る舞いがッ……!》

 

 何を言っているんだこいつは……。

 

 職務質問をする警察官とかってこういう気持ちだったのかな……違うだろうけども……。

 頭の隅でそんな事を考えつつ楠木の声を待っていると、ばちん、という激しい音と共にザザー、というノイズ音が流れた。

 

「……どうした」

 

 俺が問えば、さらなるノイズの後、大淀の声が返って来る。

 

《て、偵察機が撃墜されました! 甲板の上にいた者から艦載機が――あれは深海棲艦で間違いありません!》

 

 え、えぇっ……!? まさか本物の深海棲艦と一緒に……?

 もしかすると見間違えただけかもしれない、などという希望的観測を交えた思考が回るよりも、会議室の軍人、そして井之上さんに判断を仰いだ方が早いと視線を向ければ――全員が硬い表情をしていた。

 

「こういう場合は、どうするべきでしょうか」

 

 単純な問いに、井之上元帥は顔を伏せた状態で額をおさえたまま言った。

 

『……自軍への攻撃行為を認める。深海棲艦を撃滅し、可能な限り、楠木の捕縛を試みろ』

 

 俺が頷くより前に、スマホから大淀の《了解!》という声が聞こえた。

 続いて――スマホの画面が切り替わり、ぴこんと音を立てる。

 

 よく見れば、待ち受け画面の上部にあるステータスバーに通知の表示があり、スワイプして確認してみると、一枚の画像ファイルが届いていた。

 俺のスマホじゃないと分かっていたのだが、その時、何も考えず自然とタップしてしまった。

 

 そこに表示されていたのは――上空から撮影したと思しきぶれた画像が。

 

 確かに、深海棲艦――見たことのあるもので――俺から漏れた声が、会議室の緊張をより大きなものにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「これは、深海海月姫じゃないか……――!」

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