異世界でパン屋をしたら英雄と呼ばれた件   作:紅乃 晴@小説アカ

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番外編は、主人公がアンゼの街から旅立った先で起こった出来事を書いていく予定です。もうしばらくお付き合いのほどよろしくお願いします。

※感想でガチパン職人さんからの指摘がありましたので修正しました。霧吹きなんていう便利なものがないのでとりあえず蒸気を出せる感じを!!パンはいいぞ!!


番外編
政治抗争?そんなことよりパン作りだ!!


 

 

その土地から発祥したパンは、その土地の性質と強く結びついている。それが俺の持論だ。

 

日本で言えば、パンと言ったら食パンやコッペパン。そういった風にパンと言えば慣れ親しんだものが頭をよぎる。

 

このアスレニア大国の南側に位置するランベルト領で連想されるパンの代名詞はトラディショネルだった。

 

トラディショネル。

別名、フランスパン。

 

ランベルト領内ではザックバーヤー、アスレニア大国首都ではショネルバッハーなど……俗称で呼ばれることもあるし、バゲットやバタール、カンパーニュといった種別の名で呼ばれ親しまれている。

 

フランスパンと言うものは、日本で親しまれている食パンやコッペパンなどとは異なり、皮は硬く、その生地ももっちりとした食感というよりはサクサクとした本質的な穀物類の焼成品目に近い口当たりをしている。

 

これは、欧州諸国の土壌や気候の関係から、生産される小麦の品質に関わりがある。

 

栄養価の低い土壌で育てられた小麦はグルテンが乏しく、欧州諸国のパンは日本やアメリカで生産される物のようにふっくらとしたものを作ることが難しかった。

 

そのため、フランスでは粘り気の少ない生地を使ったパンが主流。硬い外皮とサクサクした中身を持つ独特のパンが定着したのだ。

 

もっといえば、原始的なフランスパンはイースト菌のようなパン酵母を用いず生地を一度に混ぜて直火焼きしたものだった。

 

グルテンが不足した小麦で作るパンだ。そもそも発酵という工程にあまり重きがないという理由がある。

 

発酵とはパン酵母が生地内の糖分を分解し、炭酸ガスやアルコールを生じさせる現象であり、その時発生した炭酸ガスがグルテン組織に入って生地が膨らんで行く性質を待っている。

 

この発酵を一次、二次と行うことでふっくらとしたパンができあがるのだが、グルテン不足の小麦で発酵させても十全にふっくらとした食感を出すのは難しく、中途半端な生地になってしまうのだ。

 

ならいっそ、発酵による食感の柔らかさを捨て、サクサクとした食感を追求した方がいいんじゃないか?という結論に至ったのがフランスパンなのである。

 

フランスパンが現在のような形になったのは19世紀。

 

陸路と海路による交易が盛んとなったことと産業革命の影響もあって、酵母菌や製粉技術などの向上により、この頃から今日見られる多彩なフランスパンが作られるようになった。

 

ちなみに、もっとも知られるフランスパン種目の一つであるバゲットが普及したのは20世紀になってからだったりする。

 

さて、作り方だが材料はそこまで多くはない、

 

まずは強力粉、薄力粉を7対3の割合で塩と共に混ぜておく。

 

つぎに30度から35度程度のぬるま湯に砂糖を溶かして、さらにイーストを混ぜふやかしておく。

 

このイーストが厄介。

 

アンゼの街で使っているようなイーストだとこの土地の小麦に酵母割合が多すぎる。よって、若干量を減らして使うか、この土地で取れた小麦を原料に新たな酵母を起こすのが無難だろう。今回はテスト的に量を減らして扱う。

 

塩と混ぜ合わせた粉へ、イーストをふやかしたぬるま湯をまんべんなくかけ、切るように混ぜる。数回に分けてやるほうがダマも少なくまとまりも良くなる。

 

ある程度形になったら濡れた布巾をかけて暖かい場所に放置、一次発酵を待つ。成形した生地の大きさが2倍ほどになるのが目安だ。

 

膨らんだら生地全体を押してガスを抜き、二つに切って細長の楕円形にめん棒などで形を整えたら、布を畳むように折り込み、さらに縦へ半分に折って細長い形状にする。

 

ここで二次発酵。1.5倍程度に膨らむまで待って包丁へ油をつけクープ(フランスパン表面の切り込み)を縦方向で深めに入れる。

 

230℃から250℃程度に加熱したオーブンへ投入し、共に熱していた鉄鍋に水を投入。これで蒸気を打ち10分から15分加熱。そこから前後を入れ替え200℃くらいに火力を落とし更に10から20分ほど焼成。焼き上がったら粗熱を取って完成だ。

 

俺が今オーブンから取り出したものがフランスパン試作品5号目。

 

最初の1号は現地の住人から柔らかすぎると不評を買い、2から4号まで微調整しながらフランスパンらしくサクサク感と皮の旨みを追求してきた。

 

淡い狐色に焼き上がったパンを抱えて受取人が待つ部屋に入る。

 

 

「おおっ、待っておりましたよ。パン職人どの……では、議会を始めましょう」

 

 

俺がパンを持ち込んだのはランベルト領内の政庁。そしてそのパンをめぐり……今まさに空前絶後のクーデターが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

この話は、俺がアンゼの街を発って一人旅を始めた頃に遡る。当初は行く当てもなくただ街道沿いに向かって北へと進路を向けていたのだが、道中で懐かしい連中と再会を果たした。

 

俺を拉致して西側の魔族領内に連れ込んだ原因である傭兵集団だ。

 

彼らもアスレニア大国から雇われた兵隊たちであり、俺の拉致は大国の使者から提案された話だとは以前聞いていたので別段恨みを持ってるわけではないが、こんなところで再会するのは予想外であった。

 

なんでもエルフ族の襲撃により拠点が崩壊した後、アスレニア大国からの資金振りが悪くなって西側から撤退したのだとか。

 

ここで会ったのも何かの縁だったので、俺は彼らの拠点に赴きパンを振る舞った。久しぶりに食べる出来立てのパンに彼らも嬉しそうに齧り付いていて、互いの近況や状況を話しながら夜が更けていった。

 

そんな中で俺はなんとかなく聞いた。なぜアスレニア大国で雇われていたアンタたちがエヴロビ連邦内にいるのか?と。

 

すると、傭兵集団のリーダーの顔が険しくなった。他のメンバーたちが事情を話させまいとあれこれ話題をすげ替えようとしたが、リーダーが「お前は信頼できる.すべて話そう」と言って事情を説明し始めた。

 

簡潔に言うと、傭兵集団は元々アスレニア大国のランベルト領に仕えていた騎士団であり、そのリーダーはなんとランベルト領を取りまとめてる貴族、ブッケンハイム家の跡取りだったのだ。

 

ブッケンハイム家のお家騒動で家長の座を狙っていた弟の謀反に遭い、命からがらランベルト領を脱して、着いてきてくれた騎士団を率いて傭兵稼業をはじめたらしい。

 

その話を聞いて驚きよりも納得の方が早かった。彼らは騎士甲冑を脱ぎ去った兵士なのだから、通りでメンバーの顔つきに粗暴さがなかったわけだ。

 

そんなわけでお家の規律に縛られない気ままな傭兵稼業を続けていたらしいが、最近どうにもランベルト領がきな臭くなっているという情報を入手したのだ。

 

ランベルト領はエヴロビ連邦とアスレニア大国の国境にある領土で、もしエヴロビ連邦が軍を放った場合、アスレニア大国の水際となる重要な拠点でもあり、同時に国境に面しているため交易も盛んで、ランベルト領を治めるブッケンハイム家も交易商人として財を成した貴族でもあった。

 

そんな交易と防壁として機能するランベルト領で進められている政策が、市民からの反感を買って今にも反乱が起こりそうなほど領内の治安が悪化しているらしい。

 

事実の確認のための帰国と共に、弟の政治不信による転落を狙ったクーデターの話まで聞かされた所で俺は待ったをかける。

 

しがない流浪のパン職人にそんな話を聞かせてもしょうがないだろう?そう言うと、傭兵のリーダーであり、これからクーデターを起こそうとしている彼は穏やかな笑みを浮かべて言った。

 

 

「実はこの政治不安、ランベルト領とエヴロビ連邦から輸入される小麦が原因らしいんですよ」

 

 

その言葉を聞いて、思わず固まる。

 

元々痩せた地であったランベルト領で栽培される小麦では、アンゼの街で作られる柔らかな食感のパンを作ることはできず、必然的にサクサクとしたフランスパンといったグルテンを必要としないパン類が主流だった。

 

そこへ持ち込まれたアンゼの街で俺が改善に改善を重ねた結果生み出された高品質小麦が輸入され、パン食文化に多大なる影響を及ぼしたのだ。

 

しかし、輸入小麦は当然高い。農家や一般家庭が食べるパンはフランスパンであるが、貴族や上流階級の人間はこぞってアンゼの小麦で作った柔らかなパンを求めた。

 

結果、小麦の生産は輸入に頼って、ランベルト領では畑を潰して金物や武器の製造工場を建てようと言う貴族が出てきた上に、領主がその計画を承諾したと言うのだ。

 

結果、輸入小麦を使った高価なパンに手が届かない農家や市民が激怒。工場建設の撤回を求めて貴族との争いにまで発展していると……。

 

がっつり俺が戦犯じゃねーか!!

 

アンゼの街での小麦作りに本気を出しすぎた結果、知らぬ土地で争いが……それもフランスパンとコッペパンをめぐる争いが起きているというなら無関係ではいられない。

 

俺はこれからランベルトに向かう傭兵集団に同行を申し出るのだった。

 

フランスパンはフランスパンで美味しいと言うことを教えてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

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