キングビョーゲンに取り込まれて消えたダルイゼンは、
気がつけば自分の始まりの日にいた。
このままでは、どのみち末路は同じだ。どうする?
その焦りと恐怖が、思わぬ道を拓いていくことになる……
※一話完結です。一気に駆け抜けます。

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ダルイゼンは実際横暴であった、だが考えて頂きたい。あそこまでされる謂れは無い!

ダルイゼンに香典を包んでやりたかっただけなんや……
悪いやつなんだけど、救われる道を夢見ずにいられんかったんや。



オレの証・わたしの証

自分が死んだことを、ダルイゼンは覚えていた。

キングビョーゲンが無敵になっていく様を、

身も心も消化されながら実感していたのだ。

もう、あれに勝てるはずがない。

いくら、あのプリキュアたちと言えども……

地球は、貪り食い尽くされてしまったんだろうな。

他人事のようにそう思うダルイゼンは、心地よい闇の中にいた。

自身の死を実感していた彼は、とくに何も考えず。

なつかしい暖かさの中を、ただ揺蕩っていた。

どれだけの時間が経っても、同じ。

死んだ後でまで何を気にするというのか。

だが、それが叩き壊される時は、唐突に来た。

 

『目覚めよ』

 

忘れるはずもない声が呼んだ。

ダルイゼンを殺した犯人の声。

かつて、こう言われて目覚めた自分は、

気だるげに宿主を離れ、歩き去っていったはず。

この声は、なんだ。

 

「…………まさか」

 

ダルイゼンはこの時初めて、己の存在を実感した。

自分が心と体を持って、現実に存在しているということを。

耳を澄ます。全身の感覚をも研ぎ澄ます。

…知っている。オレはこれを知っている!

オレが取り込まれる間際まで、欲してやまなかった温もりじゃないか!

出たくない。出たら失ってしまう。だが、確かめなくては!

かつての自身と同じように、だがためらいつつダルイゼンは『外』に出る。

『外』に出て、見たものは。

 

「キュア……グレー、ス…」

 

全身のあちこちを医療機器につながれ、

呼吸すらも自力ではままならない、やせこけた少女の姿だった。

それは、記憶のままであり、だが記憶とは違う。

 

「微妙に…小さい……どうして?」

 

ああ。口に出しながらも、ダルイゼンはすでに理解しているのだ。

ここは、過去だ。オレのすべてが始まった場所なのだ、と。

ビョーゲンズであるならば、すでにやることはひとつ。

キングビョーゲンの元に馳せ参じて、

まずはヒーリングガーデンを攻め落としに行くことだった。

 

「……それで…オレは……どうなる?

 たとえ、もっとうまくやったって……しまいには…

 むざむざ消されるだけじゃないか!」

 

だがすでにダルイゼンは知っている。

何がどうあろうと、行き着く果てはキングビョーゲンへの吸収だということを。

最初からそのつもりしかなかったのだということを!

 

「消えてたまるか…どうする?どうすれば…」

 

その場から一歩も動いていなかったダルイゼンは、

すぐに目の前を意識することになる。

ビョーゲンズとして、当然の答えがそこにはあった。

 

「テアティーヌにやられた後のキングビョーゲンなら…弱い。

 このまま戦いをやり過ごして、その間にオレが強くなっていれば…

 逆に、キングビョーゲンを喰ってやれる。そこに賭けるしか、ない!」

 

なにひとつためらうことはなかった。来た道を戻るだけ。

少女から苦痛の声が漏れた。一度は消えた病原が、またしても根を張る音だ。

だが悲しいかな、少女には悲鳴を上げる力もない。

かすれた声は深夜の病棟にかき消され、誰の耳にも届かない。

他ならぬ、ダルイゼンその者以外には。

 

「時間が足りない。あそこまで強くなるのに…急がなきゃ…

 強くならなきゃ、オレは、消える!」

 

張った根をさらに強くしていく。でなければ間に合わないからだ。

血も、肉も、骨も、より強く奪う。すべては生き残るために。

搾取は、もはや物理的な音すらも伴った。

 

『自分さえ良ければいいの!?』

 

吐息じみた悲鳴に交じって、幻聴が聞こえた。

当たり前だろ。オレは生きたいんだよ。

お前だって、結局はオレを見放したじゃないか。グレース!

オレがお前を見放して、何が悪い!

思った言葉に応えるように、あのときの声が蘇って響く。

 

『あなたを受け入れたら、わたしはどうなるの?』

『いつまで?元気になったらどうするの?』

『わたしたちを苦しめないの?』

 

「……黙れ」

 

枯れ枝のような身体のすべてが、ダルイゼンに問いかけていた。

当然、こんなものは幻覚だ。なんの力もありはしない。

今のこいつはプリキュアでもなんでもない。

無力な中でもさらに無力をきわめた人間にすぎない。

わからないはずがない。ダルイゼンがそうしたのだから。

 

『あなたを助ける気には…なれないッ!!』

『自分の都合でわたしを利用しないで!わたしはあなたの道具じゃない!!』

『わたしの心と体は、わたしのものなの!!』

 

「黙れ!!」

 

怒声をあげて、ダルイゼンは声を振り払う。

 

「無力なくせに、這いまわる力もないくせに!

 オレの生命(いのち)の…ジャマをするな!!」

 

ダルイゼンはこの時、らしくないミスを犯した。

宿主から生命を喰らうビョーゲンズだからこそ、

宿主の生存には細心の注意を払わなければならないのに。

またそれは、生命に寄生したビョーゲンズならば出来て当然のことなのに。

そのすべてを、この時のダルイゼンは忘れた。

そして、そのツケは、あまりにも早く訪れることになった。

24時間後。容体、急変。

少女は、自力でのあらゆる生命活動が不可能の領域に達した。

医師が付きっ切りとなり、やがて家族が張り付くことになる。

 

「し……しまった……

 中で強くなり続けるはずだったのに…

 だいぶ強くはなれたけど、こんなんじゃあ、足りないッ」

 

もう、この時点でダルイゼンの計画は破綻した。

もっとも相性がよく快適な宿主を、自らの手でぶっ壊してしまったのだから。

他の宿主を探したところで、遅れを取り戻せるはずもない。

なんという皮肉!ダルイゼンは、自身の希望に自身でトドメを刺してしまったのだ!

 

「のどか、のどかっ!?

 しっかりして、応えて!目を開けてぇ…」

「どうしてだ?どうしてなんだ?のどかが何をしたっていうんだ!?

 ただ『生きたい』っていうのが、そんなにいけないことなのか!?

 なんだって、のどかばっかり、こんな…奪われなくっちゃあいけないんだよぉぉ」

 

「うるさい!オレが言いたいんだよ、そんなこと!!

 どうすればいい?どうすれば生きられる?どうすれば消えずにすむ…?」

 

もう、そんな答えなどないことはダルイゼン自身がよくわかっていた。

だがそれでも、しがみつかずにはいられない生命だった。

その、しがみつく先が、ぼろぼろと崩れていくのを現在進行形で見つめている。

周りの人間の動きが、変わった。

 

「薬剤の投与を…停止します。

 これ以上は、患者の体が耐えられません」

「停止したら…どうなるんだ?

 今までだって、のどかを助けるためにやっていたんだろう!?」

「賭けるしかないんです。

 患者ご本人の力で、持ち直すことに……」

「のど、かぁぁ……っ、お願い、お願いよぉ…

 お母さん、のどかがいれば何にもいらないわ。

 わたしの生命と、全部の幸せ、あなたにあげる。

 だから、起きてっ……」

 

「黙れよぉっ!!

 なにが、わたしの生命と全部の幸せだ!!

 オレを見放すこいつがそんなにもらえるっていうんだったら、

 オレは一体なんなんだよ…オレにも、くれよ!!

 誰も…誰も、そんなものくれない!!

 キングビョーゲンが、オレを喰うためだけに作ったんなら!!

 オレは…なんのために」

 

ダルイゼンは、だが途中で黙らざるをえなかった。

感じたのだ。宿主の意識が、唐突に覚醒したのを。

ありえないことだ。すでに、死に引きずられていくだけの体なのに。

目を見開き、ぷるぷると震えながら顎を上げた少女は。

声にならない声を、つむいだ。

 

「おか、あ…さ…ん……お、とう、さん……

 やだ、よ………きえ、たく、な…い。

 生きたい……いき、たい…………いき…た、い…

 お、かあ…さっ………とう……さ……」

 

ほとんどが、かひゅー、かひゅー…という雑音にしかならない。

ダルイゼンにしか、その声は聞こえなかった。

今度は、いつぞや自分が言ったセリフが頭の中にそのまま蘇った。

 

『結局、お前も同じじゃん』

 

「オレと……同、じ。

 お前は、オレと……同じ…」

 

頬を、気が付けば水が伝う…やはり、不浄な水だった。

なぜなら彼は、ビョーゲンズなのだから。

人間とは違う…だが、ダルイゼンは知った。理解した。

『のどか』の絶望と痛みに、心がピタリと重なったとき。

まるでダルイゼン自身の痛みであるように、全身にそれが伝わっていった。

 

「同じだって、いうんなら……グレース!

 オレは、お前の生命をもらう」

 

ダルイゼンは、蝕む手を、止めた。

 

「どうせ消えるしかないんなら。

 オレに残された道がそれだけだっていうのなら!

 お前が行けよグレース。オレと同じお前が!」

 

『逆』を始める。やり方なんかわからない。

考えたこともなかったからだ。

それでも、返せる限りを返す。返せた生命はほとんどない。

なぜなら彼は、ビョーゲンズなのだから。

蝕むしか能のない種族は、だが心臓を必死で押し込んだ。

助けにならなければ、助からない!

 

「オレを無駄にするな、グレース…のどか!!

 お前が生きれば、オレの意思は生き残る!!

 キングビョーゲンに取り込まれようが、これだけは消せないだろ!?」

 

「っ……!?

 心拍…心臓が持ち直しました!?」

「の……のどか?

 そうだ、のどか!頑張れ、のどか!戻ってきてくれッ……

 一緒に生きるんだよ、明日も、明後日も、ずっと!!」

「一緒よ、のどか!お母さんも一緒だから!

 頑張りましょ?一緒に、明日に行きましょう?のどかッ!!」

「呼吸が…呼吸もわずかに戻った!?

 …誰かが、何者かが内側から手を貸しているとしか思えない…!?」

「助けてくれ!誰でもいい…のどかに明日を見せてくれぇぇーーーッ!!」

「わたしの…わたしとたけしさんののどかを、助けて!!」

 

「お前は……オレの、『証』になるんだよ!!」

 

ダルイゼンは自らの意思で、道をゆずった。

『のどか』の復活に、生きた意味を見出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、半年後。

 

「あーあ。バッカみたい。何やってんだろ、オレ」

 

テラビョーゲンから脱落寸前に弱体化したダルイゼンは、

真夜中にこっそりと病院から立ち去った。

花寺のどかは、もう大丈夫だった。

すでにヒマを持て余し始め、回りの人間とおしゃべりをしているのだ。

あとは勝手に回復していくことだろう。

あれから結局、ただの一度も蝕まず。むしろ体を助けてやるばかりだった。

 

「もう、おしまいだな…オレは、取り込まれるだけ……

 なら、せめて」

 

向かった先は、ヒーリングガーデン。

攻め入った経験があるのだから、場所もわかっている。

ビョーゲンズの一斉攻撃が始まっていない現在では、

強力なヒーリングアニマルでごった返しており…

当然ながら、瞬く間に取り囲まれた。

 

「逃げないし、抵抗もしないよ。

 テアティーヌに会わせてくれない?

 このまま消すっていうなら、それもいいけどね」

 

望み通りにしてやる、と襲い掛かられたところで、

どこから聞きつけたのか…テアティーヌ本犬が現れた。

取り押さえられ、ひざまずかされたまま、顔だけを上げて見る。

 

「…様子が、違うようですね。

 わかりました。まずは話を聞きましょう」

 

かねてからの予定通り、ダルイゼンは全てのネタバラシをかました。

自分自身が、未来から過去に戻ってきた体験に始まり。

これからビョーゲンズとヒーリングガーデンが辿る未来について。

キングビョーゲンの真なる狙いについて。

すこやか市をどうやって攻撃し、どうやってキングビョーゲンの完全復活につなげるのか…

キングビョーゲンに吸収された時、ダルイゼンにも逆にいくらかの記憶が流入していた。

本人の記憶なのだから、信憑性はきわめて大だ。

 

「なるほど。ビョーゲンズ以外の何も通さないシールドですか。

 知ってさえいれば対策できます」

「信じるのですか、テアティーヌ様?

 こやつは他ならぬビョーゲンズ、罠だとしか」

「そうですね……では、ひとつ聞きましょう。

 あなたは、この後、どうするのです?」

 

質問に面食らうダルイゼン。考える必要もないと思っていたからだ。

面倒は嫌いなので、そっくりそのまま伝えるだけ。

 

「別に……消されるんじゃないの?オレ…

 正直、そのつもりでオレは来たけど?」

「何か、惜しむものはないのですか?」

「キングビョーゲンに取り込まれるくらいなら、

 オレはオレとして消えたい。…それだけ。

 もう、やりたいことは…やったんだよね」

「……そうですか」

 

テアティーヌが近づいてくるのを感じ、目を閉じる。

不思議な満足が、そこにはあった。まもなく消えるというのにだ。

キュアグレースに徹底的な拒絶を突き付けられ、ボロ雑巾のようになった挙句に

キングビョーゲンに取り込まれて『死に』…

どういうわけか、未来の見え透いた過去に戻ってきて、

結局はいらない苦労をしただけだった。

だが、たどりついたここが最期の場所なら…悪くはない。そう思えた。

浄化の覚悟を決める。もう抵抗しなくていいのだ。

…その時は、しかし、いつまでも訪れなかった。

テアティーヌが、ただ、ダルイゼンの頬に顔を寄せてきただけだったのだから。

 

「誇りなさい。あなたはビョーゲンズを超えたのです」

「……超えた?何を…」

「過去に戻ってきたと、あなたは言いましたね?

 それは…きっと、あなたが、あなた自身を救うためだったのでしょう」

「結局、失敗したけどね」

「失敗なものですか。

 誰かを死ぬほどまでに追い詰めたことは、確かにしてはならない失敗です。

 ですが…それでも、あなたはぎりぎりで気づくことができました。

 相手の痛みを感じて、助けたいと思う心に気がついたあなたの、何が失敗ですか。

 助けようと手を伸ばしたあなたの、何が失敗ですか。

 一人で立てるまで守ってあげたあなたの、何が失敗ですか」

 

ダルイゼンは、軽く頬をなめられたのを感じた。

きらびやかな光と力が全身を走ってゆき、

ビョーゲンズの力がごっそりと消え去っていく。

目を見開き、思わず体を見下ろす。浄化されたのに、消えていない。

角が、尻尾が、抜け落ちて灰になった。肌の色が、まるで人間だった。

 

「…これは?」

「あなたは消えません。

 これから、あなたは自分で気がついた心の、その先を知るために生きるのです。

 そして…私、テアティーヌは。やさしいあなたの味方ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テアティーヌが言うには、ダルイゼンはあの後、

ビョーゲンズすべてを取り除いてもなお残った、確固たる心の形になったのだとのこと。

要するに魂だけみたいなものである。

少し油断したら風に溶けて消えていくダルイゼン自身を守るために、

テアティーヌ直々に稽古をつけられる日々が続いた。

それからしばらく経つと、一緒に稽古を受ける面々の中に、見覚えのあるヤツが現れだす。

 

「お前がテアティーヌ様に近づいたビョーゲンズラビ?

 ラビリンの目が黒いうちはダマされないラビ!」

「ペェ……コワイペェ。…アレ?あんまり怖くないペェ?」

「よぉーーーッ、今日もネムそーなツラしてんなー。

 ノリがワリーとシケッちまうぜー?」

 

知っていた。ラビリン、ペギタン、ニャトラン。

元々、名前を覚えるつもりなんか無かったのに、

戦ってるうちに覚えてしまった、いまいましいヤツら……

そんな連中も、なんの因果か…ここでは、味方になってしまった。

 

「あーあ、ウッザ」

 

なんともメンドくさいヤツらで、

とくにラビリンには、しょっちゅう絡まれてはトラブルになった。

ただでさえ、非好意的なヒーリングアニマルの多い中である。

やがてダルイゼン排斥派を束ねた事件になることは、最初から目に見えていたのかもしれない。

 

「グスッ……グスッ、ごめんラビ…

 こんなことにするつもり、なかったラビーッ…

 ヒドイことばかり言ってごめんなさいラビ~~ッ」

「……いいよ。もう。

 お前が謝ったんなら、それで終わりじゃん」

「背中…ラビリンを、かばって……グスッ。

 ラビリンが、バカだったラビ」

 

排斥派に取り囲まれ、叩きのめされるダルイゼンの姿を目の当たりにし。

こんなのおかしいラビ!と叫んだラビリンはダルイゼンの側に立ち…

ダルイゼン自身が驚いたことに、

気がつけばラビリンを腹の下に抱えてうずくまっていたのだ。

この騒がしいヤツらが、いつの間にか自分自身のように…

いや、それ以上に大切になっていたことを自覚させられることになった。

そして……ラビリンたちが揃っているということは。

キングビョーゲンの侵攻は、それから間もなく始まった。

 

「…………は?」

「ダルイゼン。あなたから、あれだけお膳立てされておいて…

 この私、テアティーヌが勝てないとでも思いましたか?」

 

驚天動地の拍子抜けが、そこにはあった。

何も知らずノコノコ攻めてきたキングビョーゲンに対し…

テアティーヌはみっちりと準備を整えた上で、

徹底的にメタを張った異様な軍勢を揃えて、手ぐすね引いて待ち受けていたのだ。

ダルイゼンが伝えた、ビョーゲンズの力以外通さないシールドなど、早々に対策済みだった。

ビョーゲンズ全面攻勢が成功し、ヒーリングアニマルがほぼ壊滅した『前回』ですら、

テアティーヌはキングビョーゲンと相打ちになっているのだ。

それが、切り込むきっかけさえ得られずに撃滅されていくビョーゲンズなら、どうなる?

 

「こんな、バカな…バカなァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」

 

結論だけ言おう。キングビョーゲンは、開戦後数分でテアティーヌにすり潰された。

壊乱するビョーゲンズは押し寄せるヒーリングアニマルの波に呑み込まれてゆき、

わずかに逃げ延びた残党も、すでに逆侵攻されていたビョーゲンキングダムで取り囲まれ、

戦力比40対1の絶望的な戦いの末に総ヒーリングッバイすることになった。

ダルイゼンは、テアティーヌの近くで、ラテの面倒見ながら見てただけ。

そういえばシンドイーネもいた。

キングビョーゲンのついでに、テアティーヌに踏んづけられて消えた。

グアイワルは…不明。どこにいたのやら、ついに不明なまま終わった。

わかっているのは、ビョーゲンズは誰一人として生き延びなかったことだけだ。

 

「なに、怖がってたの?……オレ。

 怖がって、バキバキに吸い取られたのどかの立場は?

 この気分、どこに持っていけばいいんだか」

「わぅ……?」

 

確認されうる限りのビョーゲンズを浄化しきったヒーリングガーデンは、

その視線を今度は人間界に向けた。キングビョーゲンが何らかの仕込みを行っている可能性が

未だ否定しきれず、調査のためのメンバーを必要とした。

その中の一角に、ダルイゼンとその仲間たちが含まれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは、力の抜き方がとても上手ですね。

 ですが、もう少し周りに興味を持ってもいいかもしれません。

 人間のお金をあげます…少ないですが。

 今日は、花火というものが見られるようですよ。楽しんでいらっしゃい」

 

さらに数か月経って、人間界…すこやか市の調査業務にも慣れたダルイゼンは、

テアティーヌに大きめの硬貨十数枚を握らされて、休暇を過ごすことになった。

正直、あまり気は進まない。『過去』の経験から、この頃すでにすこやか市には

のどかがいることはわかりきっており…

業務中でも、かつていた覚えのある場所は避けて動き回っていた。

ビョーゲンズの価値観が過去のものになってしまった今となっては、

『どのツラ下げて』の思いが強く、とても対面する気になどなれなかったのだ。

ラビリン、ペギタン、ニャトラン。それにラテがいるので、

祭りの屋台とやらで適当な食べ物を買い与えてやり……

 

「これだけ人がいりゃ、こっちには来ないよね」

 

丘の上のハートの展望台に上って、花火の時間を待った。

一応は考えてこっちに来たが、思ったよりも人がいて。

すぐに場所を変えようかと思い直しはしたものの、

食べ物にガッツいている三匹に、水を差すのも気が引けて。

メンドくさいと思う一方で、そんな気持ちがどこか心地よい彼がいた。

晴れた夜空を見上げる。満天の星。

澄み渡った空気に、散りばめられた大小さまざまな光点がきらめく。

思えば、久しく口に出していなかった、あの言葉が思わず漏れ出た。

 

「あー、生きてるって感じ」

「ふわぁー、生きてるって感じ」

 

声が、ハモッた。

 

「……………、えっ?」

 

振り向いた。

振り向いた先にいたヤツも、振り向いた。

心に焼き付いたままの彼女の姿が、そこにはあった。

 

「お前ッ…………」

「その、声……もしかして…

 ううん、間違いないよ。忘れたことなんか、ないもん」

 

彼女の後からついてきていた二人が、

凍り付いてから我に返った。

 

「えっ……ちょっ……のどかっち?

 男子?男子ナンデ?

 意味深に見つめ合っ…………恋バナ!?運命の出会い!?

 のどかっちに春来てムグッ」

「あっちに行くわよ。いいから、ひなた!」

「ムグーッ、ムグーッ!?」

 

去っていく二人は早々に視界から消え。

ダルイゼンの眼前にいるのは、花寺のどか、一人。

近くで何か出し物があったようで、周囲の人も離れていた。

 

「何を、覚えてるっていうの…?」

「ずっと、わたしを励ましてくれてたよね。

 一人で、心細くて泣いちゃったときも、

 あきらめそうになっちゃったときも…

 どこからかはわからないけど……ずっと、そばで」

「……ハハ。何を言い出すかと思えば」

 

のどかの潤んだ目は、ダルイゼンを刺し貫いていた。

感謝の色しかない言葉は、ダルイゼンを焼き焦がした。

到底、耐えられるものではなかった。

かつてのオレなら、どうだったのかは知らないが。

少なくとも、今のオレには…苦しくてたまらない!

ふるえた声で、やんわりそれを退けようとしたダルイゼンだったが…

 

「そんなわけ…ないじゃん。物理的に無理だって、わかってる?」

「そんなことない!」

 

のどかは、それをさらにはねのけた。

 

「そんなこと、ないの。

 わたしが今、生きてることが証明なの!

 あの声がなかったら、わたし、きっと……」

 

本人にとっては何気ない言葉だっただろう。

だが、のどかが今言った言葉は、ダルイゼンのド真ん中だった。

苦しめるものではない。今度は逆だった。

内側を満たし、溢れさせる言葉だった。

 

「証明……そうか。

 お前は、オレの『証』になったんだな?

 オレの、望み通りに……」

「えっ?」

 

だからこそ。

正さずにはいられなかった。

 

「そんな目で、オレを見るな!!

 オレは、お前を蝕んだ病魔だぞ!!

 オレは、お前の人生をメチャクチャにしたんだぞ!!

 憎め!!オレを憎め!!憎めよぉッ!!」

 

今日までの日々が、ダルイゼンに理解させていた。

テアティーヌに、ラテに、ラビリンに、ペギタンに、ニャトランに…

腕の中に抱えきれない熱たちが、すでにダルイゼンに教えていた。

彼自身が、花寺のどかの何を壊してここにいるのかを。

あの日の、のどかの父母の悲鳴が、遠い遠い回り道を経て、ダルイゼンに届いたのだ。

壊される痛みが、今まさに彼自身を引き裂きそうだった。

のどかの手を取り、無理やりにダルイゼン自身の首に回す。

 

「…ほら、ここにいるぞ。

 お前の仇が、ここにいるんだぞ。

 とれよ……お前の人生の、仇を!!」

 

首を、絞めてほしかった。

いや。魂だけの存在である今のダルイゼンなら、

本人が防御しなければ、綿菓子よりもたやすく引き裂けるだろう。

今のダルイゼンは、それをこそ望んだ。

『証』は残った。なら、あとは。オレという存在の清算だ。

 

「あなたが……仇?

 わたしが、病気で死にそうだったのも…

 お母さんと、お父さんが苦しんだのも…

 全部、あなたのせい……?」

 

言葉は、はっきりと伝わっていた。

のどかは、嘘だとは受け取らなかった。

あの日の体内に響いていた声が、真実であることを裏付けたのだろう。

喉に、指が軽く、少しずつ食い込んでくる。

オレはきっと、これを待っていたのだ。

どこで何をしようとも、胸の奥をチクリと刺すこの苦しみを、

目の前の彼女が終わらせてくれるその時を。

目を閉じる。今度こそ、その時を待てるだろう。

……その、はずだったのに。

 

「わぁうぅぅーーーッ!わぁうぅッ!!」

 

いつの間にか足元に駆け寄ってきたラテが、

嘆き悲しむような声でのどかに吠えた。

ふたりの動きが止まった隙に、ラビリンが突っ込んできた。

のどかを突き飛ばすために。

尻もちをついたのどかを見下ろしたラビリンは、涙ぐんでいた。

 

「ダメラビッ!!

 たとえ、言ってるのがホントだとしても…

 ダルイゼンがカタキで、カタキを討つ権利があっても……

 ラビリンはイヤラビ!!許さないラビーーーッ!!」

 

そして、突き飛ばされたのは、のどかだけではなかった。

ダルイゼンの頭上にも、ふたつの影が降ってきた。

 

「ダメだペェーーーーーッ!!」

「この、バカヤローーーッ!!」

 

蹴転がされたダルイゼンの腹の上で、二匹がわめく。

わかりきったこと。ペギタンとニャトランだ。

 

「ダルイゼンは、ビョーゲンズだったけど…

 それより前に、ボクの友達だペェ!

 いなくなるなんて…させないペェ!!」

「お前、バカだよ。

 あいつにンなコトさせて…おめーが良くても!

 おめーがそれで忘れてもよぉ、今度はあいつが忘れねぇーぞ!?

 トーゼンッ、オレだって忘れねぇ!忘れてなんか、やらねぇ!

 ずっとずっと、苦しんでやるんだからなッ…覚えとけ!!」

 

ふんすッ、とふんぞり返る二匹。

ぼんやりと見ているのどかは、よくわからないものと向かい合うことになった。

合わせて四匹ににらまれ続けたのどかは…

やがて、穏やかに微笑んで、立ち上がった。

 

「ダルイゼン、っていうんだね。あなた」

「うん?…………ああ」

 

手を貸して、ダルイゼンも立ち上がらせたのどかは、

まだにらみ続けてる四匹を見回して、すぅ…と深呼吸。

立ち上がらせたはいいが、握ったままの手を放していない。

 

「今から、仇を取ります。

 あなたは、わたしの人生を奪ったんだよね?

 小学校も、遠足も、運動会も…」

「…そうだけど?」

 

わかりきったことを聞くな、とばかりのダルイゼンの返事に、

苦笑気味な表情をしたのどかは、一息、区切って先を続けた。

 

「なら…わたしも、あなたの人生を奪うよ。

 あなたは、これから…ずっと、誰かにやさしくするの。

 あなたが、わたしにしてくれたみたいに。

 くじけた人や、泣いてる人。もう起き上がれないくらい傷ついた人たちを…」

 

握ったままの手を合わせて、のどかの両手が、さらにそれを包んだ。

目を閉じて、祈るように微笑む彼女。

 

「あなたの…この、暖かい手で包んであげて」

「……バ…バカじゃないの、お前?

 お前は、それでいいの!?」

「それがいいの。ほかになんにもいらない」

 

手を離せないまま狼狽えるダルイゼンに、

のどかは、ただ笑顔のまま答えた。

 

「わたしに、あなたを誇らせて?

 わたしの大切な人生を、あげてよかったーって思わせて?

 あなたは、わたしの『証』になるんだよ!!」

 

夜空に、巨大な光の花が咲いた。

花火が始まったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーリングガーデンにある、古のプリキュアの像。

ダルイゼンにとっては、キュアアースと呼ぶべきそれの前で。

彼はひとり、ひざまずくように座り込んでいた。

蘇るに任せた思い出に、ただ身を任せている彼だった。

 

『人のために頑張って、何になるんだ!』

『自分のことだけ考えてる方が、幸せだろ!?』

 

かつての彼には、それが真理だった。

そこに、正面から返された言葉を、結局、彼は理解できなかった。

 

『あなたには分からないかもしれない……』

『けど、私たちは助け合ったり、支え合ったり…』

『そうやって、生きてるんだよ!!』

 

とうに冷めてしまっただろう手の温もりを抱きしめたまま。

ダルイゼンは、しずかに一人、つぶやいた。誰も聞く者のいないここで。

 

「キュアグレース……

 オレが、間違ってた。ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒーリングっど♥プリキュアのスタッフの皆さん。
一年間、素敵な物語をありがとうございました。

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