カランコロン
総司と壬生は入店して、店員に案内された席に座ると、そのままドリンクバーを頼んだ。放課後直ぐだったのでお腹は空いておらず、店員が水を持ってくるとそのまま注文した。
「それじゃ自分が持ってくるんで、何にします?」
ここでも総司は下手に出る。壬生は申し訳無いと言うが、『外で待っててくれたでしょう。そのお礼です。だから気にしないで下さい』と笑顔で総司が言うと、彼女は照れながらリンゴジュースと言った。どうやら彼女は自分が慕われていると本気で思い込み始めていた。
総司は自分の分の飲み物と彼女のリンゴジュースを汲みながら現在の状況を整理する。
(壬生紗耶香。彼女の反応から褒められる事に慣れてないと推測出来る。そして簡単に信じてしまう。武術についても実力が無ければ直ぐにお世辞と気付き、警戒するのだろうが、なまじ実力を要し、更にそれを他人から認められない彼女の環境が警戒する事を拒んでしまっている。この性格は利用しやすい。乗せれば簡単に図に乗るからな。現に彼女は俺に慕われていると思っていい気になっているだろう。とんでもない嘘も、今なら信じそうな勢いだ)
壬生の性格からして、現在利用されていなくとも今後利用されるのは確実だった。
カランコロン
そんな事考えていると入店を知らせるベルが鳴った。その時、総司に電流が走る。入店したメンバーは知っている者だったからだ。咄嗟に振り向くと、入り口に、自分が壬生と会っているのを知っている4人がいた。しかもこちらが見ているのに気付いたというのに、誤魔化す素振りも見せず、手を振って来た。総司は一気にやり辛くなった。壬生を褒めていい気にさせるのをあのメンバーに見られながらやらなきゃいけないからだ。気を張り巡らせていればこんな事態にならなかった。自分はまだまだと自覚する要因にもなったが気分は最悪だ。
(何見に来てんだあの馬鹿共!猫被りを見られるじゃねーか!)
直ぐにでもあいつらに文句を言いたいが、戻るのに遅れては壬生に不審がられるので、しょうがなく重い足取りで自分の席に戻る。そしてしっかり笑顔を作り直すのは忘れずに。
「壬生先輩、リンゴジュース持ってきました」
「ありがとう悠木君。でも水で良かったの?」
壬生はドリンクバーを頼んでおきながら水を持って来た総司を不思議がる。。(水はドリンク必要無し)
「良いんですよ。あんまり喉乾いて無かっただけですし」
「それならドリンクバー要らなかったんじゃ」
「俺だけ頼まない事したら壬生先輩が頼みづらいでしょ。自分が飲まないからって壬生先輩まで巻き込む訳にはいかないです。自分実家の手伝いして小遣いそれなりに貰ってたんで、ドリンクバーの値段くらい安いもんですよ。だから気にしないで下さい」
総司の口からサラッとクサイ台詞が出た。彼を知っている人物が見たら精神魔法でも食らったか心配になるだろう。しかし壬生からしたらとても優しくて相手を労れる好青年にしか見えなかった。
(悠木君ってこんな人だったんだ。入学2日から問題起こしたって聞いてたから結構やんちゃなイメージだったんだけど結構意外。もしかして何か事情があってやった事が悪い風に捉えられちゃったのかな?もしそうだとしたら可哀想だな)
壬生はリンゴジュースをストローで吸い込みながら、同じくストローで水を飲む総司を見る。彼の出来事を勝手推測して、勝手に同情する。その間に3分の2程飲み干してしまった。総司が壬生の方にふと目を向けて、既にジュースがコップの半分を切ったのに気付くと自然に笑ってしまった。これが出会ってから彼女に初めて見せた、本心での笑いとなった。壬生は彼の視線が自分のコップに向いている事に気付くと顔がみるみる赤く染まる。
「ふふっ、リンゴジュースお好きなんですか?」
「うっ……良いじゃない、達也君にも言われたけど私は甘い物が好きなの!どうせ子供っぽいですよ!」
「いえいえ、年頃の少女っぽくて可愛らしいですよ。自分だってジュース好きですし」
「かわっ⁈……」
「先輩?」
「え?ううん、なんでもない」
総司が可愛らしいと素直に言うと今までに無い程、顔を赤くして俯く壬生。総司が呼びかけると壬生は何でもないと大袈裟に腕の前で手を振る。しかし誰が見ても明らかに照れて動揺している。見た目を褒められる事に関しては慣れてそうなのにと総司は心の中で思った。しかし先程からの総司からの褒めの言葉。そして止めと言わんばかりの可愛らしいとの言葉。壬生の中では考えがごちゃごちゃになってしまった。
(うぅ、なんなのよさっきから。何かあるごとに褒めて来て。しかも可愛らしいって、もしかして悠木君って私の事好きなのかな?もしそうだとしたらどうしよう。恋愛素人どから分からないよぉ。確かに悠木君優しいし気遣い出来るけど、まだよく知らないし。でもああやって直球で言われるのは凄く嬉しかったし、笑った時の顔は幼さが残ってて可愛かったし。でもーでもぉー!)
「総司君が、総司君が可愛いって」
それを見ていた真由美は今にも呪いの魔法を放つ雰囲気であった。可愛いという言葉以外にも、自分の知ってる彼の本当の笑顔が彼女に向けられた事への嫉妬も込められている。普段の彼女からは想像も出来ない。
「会長、大丈夫ですって」
「そうですよ、きっと彼女と親しくなる事で情報を聞き出そうとしてるんですよ」
真由美だってそんな事は分かっている。それでもまたあの笑顔を自分に向けて欲しいのだ。しかし周りからしたらそのまま彼等がくっついた方が幸せそうだなと思ってしまった。現に今の総司は一瞬とはいえ目的を忘れる程だった。
「えっと、気を取り直して、今回話したい内容なんだけど………新入部員勧誘週間で風紀委員会の真似事をした理由について聞かせてもらえないかな?」
「あれについてですか?」
風紀委員会の真似事というのは、達也を狙った者を捕らえた事のことだろう。しかし、理由と聞かれてもただ彼等の襲い方にイラついたとしか言えず、そう答えたら今まで彼女に抱かせた自分のイメージ壊しかねず、返答に困る質問となった。
「そう、司波君と協力して事に当たったらしいけど、貴方は入学2日目で達也君と喧嘩したわよね」
「あ………よくご存知で」
「仲直りしたと言ったらそこまでなんだけど、わざわざ危険を冒してまで手伝う程でもないでしょう。それに生徒会長と仲が良いわよね?」
「さぁ、それがどうかしましたか?」
「貴方の行動の一貫性が無いの。最初は問題児だったのに、会長と仲良くなって風紀委員会の真似事。そこで思ったの。もしかして会長に取り入ろうとしてないかしら?」
総司はこの言葉を言われてもあまり態度を変えなかった。今この場で言われるのはは驚いたが、自分がそう思われてそうだなと思っていたからだ。入学2日目で2つの問題事を起こし、教師に放送で呼び出される。そんな側から見たら不良生徒が生徒会長なんかと仲良くなる。明らかに不自然だ。しかもそんな生徒が風紀委員会の真似事をしている、これはポイント稼ぎと捕らえられなくもない。
「そういう気は無かったんですがね、そう見えますか?」
「まぁね、もしそうだとしたら先輩として忠告してあげるわ。辞めなさい」
壬生はハッキリとした目で総司に命令口調で言った。コップに向かっていた総司の手が止まった。
「そんな事する必要はないわ。まるで生徒会長のペットになるような真似なんて、自らの価値を下げる行為よ。そんな行為は2科生の差別を助長する事に繋がるの」
「差別?」
「そうよ、まだ日の浅い貴方だって感じた事があるはずよ。この学校の1科生と2科生の待遇の差を。何かある事に私達2科生を後回しする。教育の場でよ。私はそんなこの学校が許せない」
数分前までの、少しの事で顔色を変える壬生とは別人の様だった。彼女の目には強い意志が感じる。
「それで、結局のところ自分は何の為にに呼ばれたんですか?」
「貴方、私達と一緒に差別撤廃を目指さない?」
彼女が総司を読んだ目的、それはスカウトだった。それも達也とは違いストレートに。本当は総司の噂を知ってる壬生は、実際に話して総司を引き込んでも良い人材かを確かめようとしたのだが、彼の態度や気遣いを見て平気だと認識したのだ。しかしある違和感を総司は感じた。もしやと思った総司はある行動に出る。
「先輩、ちょっと良いですか?」
総司は一言彼女に言ってから、彼女の頭を触れた。すると彼女は急に意識を失い、その場に倒れそうになるのを総司が慌ててキャッチする。
「どうしたの総司君!」
それを見ていた真由美達が慌てて駆け寄って来た。
「彼女の会話に違和感を感じていたんです。強い意志なんですが、そこに何か混じっている感じがしたんです。試してみたらビンゴでした。彼女、催眠魔術を受けてました」
「え、魔術?」
「あ、………」
総司はやらかしてしまった。
ご愛読ありがとうございました。
では次回もお楽しみに、またね