ラクス・クラインを保護してから数日が経った
アークエンジェルは先遣艦隊と直接通信が出来るまでに距離を縮めており、目的地である地球まであと少しといったところだった
そんな中サーシェスはどうしていたのかというと、MSデッキのコックピットが開いたブルートの前にいた。中を覗き込んだ先にはシートに座ったキラがいて、凄まじい速度でキーボードを叩いている
カタカタカタカタカタカタ……
「どうよ、調子の方は?」
「調整はうまくいっています。…でも、こんなOSであれだけの戦いをしていたなんて…」
「鹵獲したジンのOSをそのまま流用したらしいからな。まあ、動かしやすくするように多少は手を加えていたらしいが」
そう、サーシェスはキラにブルートの戦闘用OSの調整をさせていた。正確にはストライクの調整をしていたキラが「ブルートも」とサーシェスに提案し、それを快諾したのだ
「それでも、やっぱりこれだけの機体を流用したOSだけで動かすのは並の技術じゃできませんよ。僕でもストライクのOSを自分で書き換えて、ようやく闘いになっているのに」
「戦えりゃ何でも構わねえよ。俺は戦ってナンボの傭兵だからな」
そうやって調整も最終段階に入ろうとした、その時だ
『総員、第一戦闘配備、繰り返す。総員、第一戦闘配備』
「敵襲!?」
「チッ!ザフトの野郎共、追いついてきたのか!」
「そんな…OSの調整がまだなのに!」
突如やってきたザフトの襲来にキラは狼狽えるが、サーシェスは落ち着いて指示を出す
「ストライクの坊主!俺が先行して敵を撹乱する!パイロットスーツに着替えてくる間にお前はOSの調整を終わらせておけ!」
「わ、分かりました!」
ブルートから飛び降り、控え室に走るサーシェス。その僅かな時間すらも惜しいとキラはモニターに向き合い、先ほどよりも早くOSを書き換えていく
一方、控え室に辿り着き、パイロットスーツを着替え終えるサーシェス。そこにムウがやってくる
「もう着替え終わってんのか。早いな」
「言ってる場合じゃねえぜ。敵さんが来てやがんだ、とっととやらねえとこの艦が沈むぜ?」
『フラガ大尉、ビアッジ大尉、聞こえますか?』
艦内放送からマリューの艦長としての声が聞こえる
『敵MSに、ジン3機の他にイージスを確認。私たちを追っていたナスカ級のものと思われます』
「クルーゼか…!」
忌々しげにムウが敵の指揮官の名を呟く。因縁のような何かを感じさせる言い方だ
「遅れました!ゲイリーさん、OSの調整は終わりました!」
「先遣艦隊が墜とされたら面倒だ。先にブルートで先遣艦隊の護衛に向かう!お前さんたちも早く来いよ!」
「おう!」
「はい。…あの、ゲイリーさん!」
格納庫へ向かおうとするサーシェスにキラが話しかける
「なんだぁ?時間がねえんだぞ」
「その、イージスなんですが………い、いえ、イージスには気をつけてください」
「? まあ、任せろや」
それだけ伝えると、サーシェスは控え室を後にした
1番の親友と頼れる上官が命をかけて戦う。その事実が、それを止められなかったことが、キラに自責の念を抱かせる
クルーゼ隊による連合艦隊への奇襲。イージスが3機のジンを僚機として連れて、第8艦隊先遣艦隊に攻撃を行っていた
変形したイージスの“スキュラ”が戦艦を容易く貫く。MSサイズでありながら戦艦を一撃で撃沈させる火力は圧巻の一言だ
搭乗者のアスランが通信機を操作してジンに回線を繋げて指示を出す
「よし!各機、聞こえるか?」
『ハイ』
「このまま地球軍の艦隊を墜とす。足付きと連携を取られると厄介だ、一つ一つ手早く──」
瞬間、宇宙の闇に紛れて光る何かがジグザグの軌跡を描いて3機のジンのうち1機に迫り
ズガンッ!
…そのコックピットにビームサーベルを突き立てた
『えっ…ジョ、ジョシュ──』
「各機、散開して回避運動ッ!!」
唐突に訪れた仲間の死に隣のジンのパイロットは動揺するが、アスランは有無を言わせぬ命令を飛ばして残りのジンを無理やり動かすと、マニピュレーターにビームライフルを握らせながら虚空を見つめる
「今の攻撃…!ディアッカをやった奴か!」
飛来した何か…ファングがパイロットの肉も血も涙も蒸発させてこの世から消滅させると、アークエンジェルの方向から現れた藍色のMS“ブルート”のサイドアーマーに帰還する
『今度はテメェが相手してくれんのか?ガンダムさんよぉぉ!!』
イージスに狙いをつけたブルートがビームハンドガンを撃つ。アスランは質より量で降り注ぐビームの雨を冷静に対ビームシールドで防ぎながら、反撃のビームを撃つ
だが、緑光の線はブルートに全く当たらない。アルテミスの時よりもずっと滑らかな動きで回避運動を行い、徐々に距離を詰めてくる
「バカな…!以前ニコルが戦った時よりも反応がいいなんて!?」
ブルートとイージスの距離が50mよりも小さくなった時、ブルートは急な方向転換をする。その先には先ほどコックピットを貫かれたジンが漂っている
「あいつ、何をする気だ!」
無闇に電力を消費できないイージスはそれを見ることしかできず、やがてジンの元に辿り着いたブルートは、その腰にマウントされた重斬刀を手に取る
「な、何…?」
『どうもビームサーベルってのは性に合わねえんだよ………なぁ!!』
まるで達人が刀の相性を調べるように軽くブンブン振り回すと……急加速でイージスに接近する
彼我の距離が急激に縮まっているにも関わらずブルートはビームを容易く躱し、右手の重斬刀をイージスに振り下ろした
ガギャァン!
「ぐああ!!」
PS装甲によってイージスは傷一つ付かないが、その強い衝撃はコックピットを貫き、アスラン本人を消耗させる
『アスランッ!!』
「俺の事は気にするな!!それより俺がこいつを抑えている間に敵艦を墜とせ!!」
『ッ……了解!』
部下たちは苦渋の決断だったが、自分たちではあの青いMSとの戦いで足手纏いにしかならないと理解したゆえ、2機のジンは先遣艦隊の方へ向かう
「うおおおお!!」
イージスはMA形態に変わると、蛸のように開かれた4本足の中央から“スキュラ”を放つ
ブルートはそれを回避するが、アスランは射線上にブルートと先遣艦隊が重なるように撃っていて、極太のビームが距離の遠い戦艦の1つに直撃し、撃沈させる
「よし!このまま…!」
敵艦隊と足付きを墜とす
しかし、目の前の戦争屋はそれを許さない
『行けよぉ、ファングゥ!!』
サーシェスは遠隔の牙を4機飛ばし、それぞれ2つずつがジンを狙う
「やらせるか!!」
それを見たアスランは、イージスの両手両足のクローに仕込まれた4本のビームサーベルを起動して、ブルートに斬り掛かる
しかし、腕と脚のビームサーベルによる攻撃の悉くを、ブルートは重斬刀と体術を交えた動きでサーベル部分に触れる事なく往なし続ける。さらにイージスと切り結びながらもファングの動きには一切の淀みがない
『クソォ!』
『こんなもの!』
2機のジンは重突撃機銃でファングを迎撃しようとするも、赤服が乗った『G』でさえ撃ち落とす事が叶わなかったファングをただのジンに落とせるはずもなく…
『ナチュラルのくせに!ナチュラルのくせにッ!』
『う、うわあああああああ!!』
ズガガァ!
最期にパイロットたちが見たのは、高速でやってくるビームサーベルの刀身だった
「ハワード!ダリル!」
再びこの世から溶けるように消えていった仲間たち。それを見ている事しかできなかったアスランは怒りに震え、目の前のブルートに語りかける
「お前たちナチュラルはッ!どうして
『分かり切った事聞いてんじゃねえ!戦争する為に決まってんだろうがよ!』
直後、返ってきた男の声。一度聞いたら忘れられないような特徴的な声がそう答える
『どいつもこいつもナチュラルだのコーディネイターだの下らねえ御託抜かしやがる!!理由がなきゃ戦争しちゃあいけねえっつうのか!ええオイ!?』
「…! そうやって、どれだけ戦争に無関係な人間が犠牲になったと思っているんだ!!」
『知ったこっちゃねえよ!死ぬ奴がいねえと楽しい戦争にならねえだろうがよォ!!』
アスランの胸の内に激情が迸る。これほど、これほどまでに誰かを許せないと思った事はなかった
後詰めのジン部隊が、クルーゼ隊長の乗ったヴェサリウスが地球軍の艦隊に猛追を仕掛ける。その攻撃を受ける敵の中にはキラの乗ったストライクもいた
「キラ!」
アスランはストライクへ向けてイージスを動かす。この男は危険だ。こんな男と一緒にいては、キラにどんな事が起きるのか想像もつかない
だがブルートはキラを連れて行こうとするアスランの前に立ちはだかる
「邪魔するな!キラを、キラを返してもらう!」
『お前、ストライクのガキの知り合いか?』
「キラは…俺の大事な友達だ!!」
アスランのその言葉を聞いたサーシェスは…………笑った。心の底から、腹が痛くなるまで
『ハハハハハハハッ!!こいつァ傑作だ!!ダチを守る為にダチと殺し合ってたってことかストライクのガキは!!おもしれえなぁ……これだから戦争はやめられねえぜ!!』
「貴様ァァ!!」
自分とキラの、友達と戦いたくない、だけど互いの守るものの為に戦わなければならない苦悩を、戦争を盛り上げるスパイスとして侮辱された
それが堪らなく不愉快だった
「お前のような人間が戦争を広げるというのなら…俺は、お前を墜とす!!」
輝く4本の光刃と共に、ブルートに向かってイージスは攻撃を再開した