種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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目覚める刃

時は少し遡る───

 

 

「ウオオオオオオ!!」

 

4本のビームサーベルを武器にブルートに突撃するイージス。それを見たサーシェスは楽しそうに口の端を歪める

 

『いいねぇ、やる気があって結構じゃねェかッ!』

「ハァァ!」

 

3機のファングがサイドアーマーに収納されると、ブルートは重斬刀を手に迎撃の準備をする

 

振り下ろされる右腕のビームサーベル。それをブルートは重斬刀を突き出し、マニピュレーターにぶつけることで攻撃を逸らすと同時に、そのままイージスのコックピットに鋭く突き刺す

 

ガァン!

 

「がぁ!くっ…このォ!」

 

衝撃を堪えながらもアスランはイージスの操縦に集中し、変形時に胴体が若干後退するのを利用し、もはや刃が潰れて鈍器のようになった重斬刀の横薙ぎを避ける

 

そして即座に目の前のブルートに向かってスキュラのビーム砲を撃ち放つ

 

『へえ、なかなかやるじゃねえか』

 

変形を使った回避、そこから繋げた真正面からのスキュラの不意打ち。並のパイロットならば絶対に避けられない

 

だが、ブルートはバク転するように後ろに倒れ込むことで高出力ビームを回避

 

「なっ──!?」

『それなりにはなァ!!』

 

そのまま勢いを乗せた斬り上げを、重斬刀でイージスのコックピットに叩き込む

 

ガギャァン!

 

「ぐあああああ!!」

 

まるでバットで殴られた缶の中にいるような揺れと衝撃。頭の中がグワングワンと揺れ、方向の感覚が分からない

 

(ニ、ニコル…ニコルは、『G』の中で1番戦闘能力の低いブリッツで、これほどの敵と戦っていたのか…!?)

「う、あぐぁ…!」

『なんだぁ?もう終めえか?これならブリッツに乗ってたガキの方がまだマシだったぜ』

 

動きが鈍くなったイージスを見てサーシェスはそう言うが、そもそもアーマーシュナイダーと重斬刀では質量の関係上、命中時に伝わる衝撃には相当の差がある

 

加えてサーシェスはブリッツの時とは違い、悪辣なまでにコックピットを狙って攻撃しているのだ。凄まじい消耗を強いられるアスランは死の淵まで追い詰められていた

 

(ダ、ダメだ、視界がブレる…このままじゃ、戦うどころかモビルスーツを動かすことすら…)

『本当ならバッテリー切れまで遊んでやるつもりだったが、ちょいと状況が良くねえからなぁ…なに、安心しな。お前さんの最期は俺が代わりにストライクのガキに言っといてやるよ』

「ッ!」

 

それを聞いたアスランは、気持ち悪い感覚の中でキラの姿を思い浮かべる

 

優しく、穏やかで、どこか頑固な節がある親友。月面都市コペルニクスの幼年学校で出会い、共に過ごした時期。優しい母も生きていたあの頃が、間違いなく1番楽しい日々だった

 

そのキラは今、地球軍の新型艦である足付きのMSパイロットとして、ザフトである自分たちと戦っている。そして目の前の戦争を遊びにしている男は、キラのコーディネイターとしての力を利用している

 

『逝っちまいな!!』

 

戦うのが嫌いなあいつを…キラを…!

 

 

「戦争に、利用させてたまるかァァァー!!」

 

 

パキィィィィン

 

 

その時、アスランの中で()()()が割れる

 

恐ろしい速度と脅威的な軌跡でイージスに牙を剥くファング。だが、ハイライトを失ったアスランの瞳には、躱すことさえ限界に近かったファングの動きが酷く緩慢に見えた

 

(なんだ…動きが見える…?)

「──これならばッ!」

 

宙を漂うだけだったイージスのツインアイが光る

 

正面から迫り来る2機のファング。その動きを見切ったアスランはイージスの姿勢を上下逆さにひっくり返して、右腕と左脚を貫こうとしたファングを左腕と右脚のビームサーベルですれ違いざまに両断する

 

『何…!?』

 

先ほどの鈍い動きから一転、回避と攻撃を同時に行ったイージスのあまりに大き過ぎる変化に戸惑いを見せるサーシェス

 

『けどなぁ!』

 

そんなイージスを見てもサーシェスは冷静に本命──背面の下から奇襲する3機目のファングでコックピットを背後から狙い…

 

ガキィン!

 

──しかし完全に不意をついたはずのファングは、イージスが変形したことで本来コックピットがあった位置の、何もない空間を貫き…

 

ドビュゥ!

 

流れるように撃たれたスキュラの高火力ビームに飲み込まれ、ファングは光の奔流の中に消えた

 

『何だとッ!?』

「オオオオオオ!!」

 

完全な不意打ちすらも凌がれた事でサーシェスは大きく動揺し、その動揺を狙ったアスランがMA形態のまま距離を詰め、接触直前でMSに戻ったイージスがビームサーベルを振るう

 

先ほどとは違う、洗練されたイージスの動きに対応するサーシェスだが、明らかに後手に回っている

 

『このガキ!!』

「お前のような奴がいるから、戦争は終わらないんだ!消えろ!!」

 

怒涛の斬撃がブルートを容赦なく襲い、ジワジワとサーシェスを追い詰めていくアスラン…だが…

 

『ザフト軍に告ぐ。こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル。当艦は現在プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している』

 

戦闘宙域全てに、アークエンジェルから発信されたナタルの声がオープンチャンネルで響き渡る

 

『偶発的に救命ポッドを発見し人道的な立場から保護したものであるが、以降当艦に攻撃が加えられた場合、それを貴艦のラクス・クラインに対する責任放棄と判断し、当方は自由意志でこの件を処理するつもりである事をお伝えする』

「ラクスが…足付きに…!?」

 

アークエンジェルから通達された内容に動きを止めて驚愕するアスラン。同じタイミングでブルートの回線が開き、アークエンジェルブリッジから命令が出る

 

『ビアッジ大尉、今のうちにアークエンジェルに帰投してください。なお、敵が再度攻撃を仕掛けてくるまで、こちらから攻撃を行うことは許しません』

『…チッ……了解した。ブルート、これよりアークエンジェルに帰投する』

『整備班!緊急着艦ネット用意、急いで!』

 

不服な態度を隠さず、しかしサーシェスは命令を受け入れ、重斬刀を手に持ったまま踵を返す

 

しかし、アスランはイージスの回線をブルートに繋げると、攻撃できない代わりにサーシェスたちを非難する

 

「救助した民間人を人質に取る、そんな卑怯な真似をするのがお前たちの正義か!」

『良い事を教えてやるぜ、イージスのパイロット』

 

それを聞いたサーシェスはアスランの言う『正義』を嘲笑いながら言う

 

『戦争に正義もクソもねえんだよ』

「ッ………彼女は助け出す!必ずだッ!」

 

決意の篭もった声で宣言するとイージスは背を向け、ヴェサリウスに帰投した

 

それを見ていたサーシェスは、コックピット以外は無傷のジンを幾つも引っ張りながら呟く

 

『全く、やってくれたぜあのガキ……さすがに肝が冷えた』

 

それはいつもの余裕で飄々としたサーシェスらしくない、疲れを滲ませた声音だった

 

 

 

パパが死んだ。アークエンジェルを追い掛けてきたザフトの攻撃を受けて、死んだ

 

胸に風穴が空いたように苦しい

 

パパとの最後の会話が嫌でも脳裏に浮かぶ

 

『パパ!!パパッ!!』

『フレイ……私はずっと、お前を家に置いて寂しい思いをさせてきた…不出来な父親ですまない』

『嫌!嫌ッ!死んじゃうなんて嫌ぁ!!逃げてよパパ!!早く逃げて!!』

『お願いがある。ナチュラルに良い人と悪い人がいるように、コーディネイターにだって良い人と悪い人がいる…相手がナチュラルだから、コーディネイターだからではなく、その()()の中身を見て仲良くしてあげて欲しい。ママもそれを望んでいる』

『パパァ!!』

『フレイ…私たちの娘でいてくれてありがとう』

 

その通信を最後に、パパの艦は墜とされた。自分が喉を痛めるほどの金切り声を上げているのを自覚できる

 

視界が滲んでいる中、ブルートに遅れて、ストライクとメビウス・ゼロがアークエンジェルに帰投したとの報告が聞こえた

 

それが聞こえた時、頭の中のゴチャゴチャした感情全てがキラ・ヤマトへの怒りに変わっていった。約束したくせに、大丈夫って言ったくせに、自分は平気で帰ってきたのか。何故か血相を変えてブリッジから飛び出して行ったサイやミリアリアの後を着いていくように、私も格納庫に向かった

 

嘘つきと、自分もコーディネイターだから本気で戦ってないと、パパを返してと、そう言おうと思っていた

 

言うつもりだった

 

 

「坊主!!しっかりしろ、坊主!!」

「クソッ、心臓が止まってやがる!!整備班、早くそこのAEDを持って来い!!心臓マッサージの準備を進める!」

「目元付近の火傷と突き刺さってる破片が不味い!このままだと失明する危険もあるぞ!」

「ピンセットを持ってきてくれ!!せめて破片だけでも取り除く!」

 

MSデッキに戻ってきた半壊したストライク…その足元付近で、大勢の大人たちが慌ただしく動き回っている。大人たちの中心にいる少年…キラ・ヤマトの命を救うべく

 

「キ、キラ…キラッ…!!」

 

パイロットスーツの上半分を脱がされ、今まさに心臓マッサージを行われようとしている…顔に重症を負ったキラの姿を見て、ミリアリアが表情を悲痛に歪ませながら泣き始める

 

「フラガ大尉、キラは、キラは大丈夫なんですよね!?」

 

サイが縋るようにメビウス・ゼロのパイロットに問うが、その返事は悲壮に満ちていた

 

「命は助かるかもしれないが、目がどうなるかは分からない…それに、あの火傷は完全には治らないだろうな…」

「そんな!!」

 

サイがそう言うが、それ以上に悔しい顔をしたフラガ大尉が壁に拳に叩きつける

 

「クソッ!!『エンデュミオンの鷹』なんて呼ばれていながらこのザマか、情けねえ…!!」

 

誰もがキラの姿を見て、嘆き、悲しみ、怒りに打ち震える。あんなキラの姿を見ては、本気で戦ってないなんて思うことはできなかったし、何より苦痛に歪んでいたキラの、コーディネイターの表情を見て湧き上がったのが…

 

何故か「可哀想」という気持ちだった

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