「180度回頭、減速さらに20%。相対速度合わせ」
マリューの指示により、アークエンジェルが180度回頭。つまり後ろを向いて第8艦隊の旗艦であるアガメムノン級…メネラオスの横へとその身を晒す
「しかしいいんですかね?メネラオスの横っ面につけて」
「ハルバートン提督が艦をよくご覧になりたいんでしょう。後程自らもおいでになるという事だし、閣下こそこの艦とGの開発計画の1番の推進者でしたからね」
マリューがノイマンの疑問にそう答える
「何事もなければいいのだけれど」
アークエンジェルの左足部分、その場所にブリッジクルー、整備員、へリオポリスの学生組が集まってある人物が到着するのを待っていた。その集団の中にはサーシェスの姿もあった
そして、やってきたランチ(小型の舟のようなもの)の中から現れたのは数人の将校。先頭になって出てきたのが第8艦隊の司令官であるデュエイン・ハルバートン准将ことハルバートン提督である
そのハルバートンが自分を出迎えるかのように集まっていたマリューたちを見て、顔を喜色に染める
「おお!」
そのまま嬉しそうな表情でランチから降り、マリューの前に立った
「いやぁ、へリオポリス崩壊の知らせを聞いた時はもう駄目かと思ったぞ。それがここで君達と会えるとはな」
「ありがとうございます。お久しぶりです、閣下」
マリューもまた、嬉しそうに返事を返して敬礼する。マリューはハルバートンのかつての教え子であり、また直属の部下でもあった。敬愛する上官との再会の喜びは誰より大きいだろう
「何度もザフトの追撃を受けたという報告も聞いた。大丈夫だったか?」
そう言って皆を見回すハルバートン。それを見ていたナタルとムウ、そしてサーシェスが一歩前に出る。
「ナタル・バジルール少尉であります」
「第7機動艦隊、ムウ・ラ・フラガ大尉であります」
「第4独立連合騎兵連隊、ゲイリー・ビアッジ大尉であります」
「おお、エンデュミオンの鷹と呼ばれる君がいてくれて幸いだった。バジルール少尉もよくラミアス大尉を補佐してくれたな」
「いえ、さしたる役にも立ちませんで」
「そして…」
それぞれに礼を言うハルバートンだが、サーシェスの方を振り向いた時…優しげな雰囲気と表情が引っ込み、歴戦の軍人としての顔つきに早変わりする
「君が、ビアッジ大尉か。君自身も、あのブルートの事もよく調べさせてもらった」
「かの『知将のハルバートン』閣下に覚えていただけるとは光栄です」
「
表面上は軍人としてのやり取りだが、実際は見ている方が緊張するほどの腹の探り合いを行うサーシェスとハルバートン
「アルテミスの報告も聞いた。…何故あのような事をしたのかね?」
あのような事、とは当然ガルシアを撃ち殺した事であろう
「ガルシア司令のことに関しては、私も残念で仕方がありません…しかし、彼は無関係な市民を人質にして、閣下が提唱した対モビルスーツ兵器を強奪しようと試みました。口封じに我々を殺すつもりで、です…ならば、例え味方であろうと銃を抜かぬ理由はありません」
「…………」
(白々しい男だ。ならば何故、彼女をモビルスーツに乗せるように仕向けたのだ。戦争に関係のない彼女を)
ハルバートンは視線をサーシェスの背後に向ける。そこにいた学生組の中にいる赤髪の少女、その瞳の中にある憎しみの感情を感じて、ハルバートンは若者の未来を憂いた
「閣下、お時間があまり」
そんな中、ハルバートンの副官であるホフマン大佐がそう言う。それを聞いたハルバートンは咳払いをすると、マリューを見る
「ラミアス大尉、事前に連絡したようにストライクのパイロット、そしてラクス・クラインと話がしたい」
「はい。しかし、キラ・ヤマトは未だ昏睡状態から目覚めてはおりませんが…」
「構わない、会わせてくれ」
「…分かりました」
マリューは少し考える素振りを見せてから、まずはキラのいる医務室に案内した
「待っていてくれ」
副官との2人だけでハルバートンは入室すると、ベッドまで近づいて見下ろす。キラ・ヤマトが昏睡しているベッドを
「…………」
「彼が、ストライクを操縦していたコーディネイターの少年か…」
「そのようですな」
ホフマン大佐が答える
顔中…特に目隠ししていると勘違いするほど目元は多くの包帯が巻き付いており、その痛々しい姿にハルバートンは歯噛みする
ハルバートンは地球連合の軍人であるが、多くの軍人が持つコーディネイターへの憎しみ、偏見の感情を持ち合わせていない数少ない人間でもあるのだ。いかにキラがコーディネイターでMSを動かせようと、ハルバートンからすれば彼はただの民間人の少年でしかない
「本来守るべき民間人を戦争に巻き込んで、戦わせて、挙句の果てにこのような目に遭わせるなど…私は軍人失格だ…」
G計画を発案し、地球連合軍上層部に提唱したのはハルバートンだ。プラントのMSに対抗するため、対MS用の戦艦とMSであるアークエンジェルとガンダムをオーブの企業と共に開発させた
だが、その結果戦争とは無関係だったヘリオポリスが崩壊し、キラを含めた多くのオーブ市民に不安と恐怖に満ちた日々を送らせている。それだけではなく、自身の部下である連合軍の軍人も多数死なせたのだ
その事実がハルバートンに強い自責の念を抱かせていた
「お言葉ですが提督、提督の『G計画』はプラントのMSに対抗するために必ず必要なものであったと私は思います。その為に多くの犠牲が出てしまったのは確かですが、その犠牲に報いるため、もう無用な犠牲を生み出さないためにも、我々は戦わねばならぬのだと考えます」
「…その通りだ。すまないホフマン大佐、どうやら少し弱気になっていたらしい」
深い眠りについているキラの手を握り
「君のおかげで多くの命が救われた…ありがとう、キラ・ヤマトくん」
誠実に、ひたすら誠実に、第8艦隊提督はコーディネイターの少年に対して、聞こえないと分かっていても深い感謝の言葉を告げた