深い暗闇の底から意識が浮上してくる
布団の中で目を覚ましたフレイは飛び跳ねるように起き上がると、置いてあった時計を見る
時間は
真っ暗な部屋から明るい廊下に出て、パイロットの控え室に向かって歩を進めるフレイ
その胸中に存在するのは不安と寂しさだった。手筈通り作業が進んでいるなら、今頃サイやミリアリアたちはメネラオスにある脱出艇まで移動し、乗り込んでいるはずだ。死ぬ気はない…でも、もう二度と会うことが出来ないかもしれない…
「…あ!フ、フレイ!」
「見つけた!探したわよ、フレイ」
「……え?」
だからこそ、曲がり角で
「サイ!?それにミリアリアと、トールにカズイ、なんでまだここにいるのよ!?」
しかも、4人とも連合軍の軍服をその身に包んでいるのだ。その理由を前に出たサイが答える
「フレイ、実は俺たちも地球連合に志願したんだ」
「フレイやキラを置いて、私たちだけオーブに帰るなんて出来ないでしょ?」
「キラ…?」
ミリアリアから思わぬ名前が出てくる
「キラ、まだ目が覚めないらしくてな。あんな状態で脱出艇に乗せれば容態が悪化するかもしれないから、アークエンジェルに乗せ続ける必要があるって言ってたんだ…」
「もしかしたら一生の別れになるかもしれない。2人が心配だからみんなでアークエンジェルに残るって決めたの」
「だからって」
「フーレイッ」
そんな理由で死ぬかもしれないこの場所に残るのか。そう言おうとしたフレイだったが、ミリアリアが急に両手で頬っぺを挟んだことで台詞を無理やり中断させられる
「私にはフレイがどうして急にモビルスーツに乗るなんて言い出したのか…その気持ちは分からないわ。でも、私はフレイにもキラにも死んでほしくない。だからここにいるのよ」
「ミリアリア…」
ミリアリアの言葉を噛み締めるように受け入れるフレイ。これがミリアリア以外の人間だったら、或いはもしキラがフレイの立場だった場合、例えサイたち男友達が同じことを言っても話が拗れるだけで終わるだろう
女友達という、不思議なシンパシーを感じ取れる関係だからこそ、フレイはミリアリアの言葉を素直に受け止めることが出来たのだ
「もうっ、分かったってば」
「あっ」
手を解いて、いつまでも居たくなるそこから振り切るように、フレイは床を蹴ってその場を後にする
食堂で手早く朝食を済ませ、作戦時間までに少しでもMSを動かせるようにMSデッキのジンの中でシミュレーション訓練を行う。最初は動かすことすら叶わなかったMSの操縦も、今では少なくとも致命傷(コックピットなどへの直撃)を避けれる程度にはジンを動かしていた
…もっとも、殺気もプレッシャーもないシミュレーションでその程度の動きしかできないのだ。最前線で
30分後、訓練を終えて控え室に辿り着いたフレイが赤いカラーリングのパイロットスーツに着替えていると、そこに1人の人物が入室する。着替えている最中のフレイが扉を見ると、その目付きを憎悪と嫌悪に満ちたものに変える
「フレイ様……」
扉のそばにいたのはラクスだった。気まずそうに顔を俯かせる姿に苛立ちを覚えながらも、理性で湧き上がる感情を抑えながら、罵倒以外の言葉を絞り出すように吐き出す
「…なんでアンタがここにいるのよ」
「その…フラガ様に、着替えるならここがいいと教えていただき…」
着替えるというのは宇宙の作業用スーツのことで間違いないだろう。MSによる受け渡しを提案する以上、ラクスを手渡しする際に必ず宇宙空間に出る必要があるのだから
「だからって、なんで私なのよッ」
1週間ほど前にラクスを引っぱたいたのは私だ。ラクスに暴行を加えた自分にラクスの世話を任せるとは、フラガ大尉の判断には正気を疑う
まさかこれを機に仲良くなれば…なんて考えているの?冗談じゃない。こんな脳天気なコーディネイターの女と仲良くだなんて想像しただけで怖気がする
しかし、今はどうもその脳天気さがなりを潜めてるそうに見える。むしろ、どこか申し訳なさそうな様子で私を見ていて…
「あ、あの……フレイ様…?」
「ッ……!」
激情に駆られる。もう1度引っぱたいて…いや、そのコーディネイトされた整った顔と綺麗な声を出す喉を引き裂いてやればどれほどスッキリすることか
しかし、もしそんな事をすれば、昨日の口答えの際に胸ぐらを掴まれた時以上の処罰が待っていることは想像に難くない。最悪MSに乗せられないと言われる可能性だってある
「……そこのロッカー。その中に入ってるわ」
「え?」
「1人で勝手に着替えなさいよ。私は知らない」
だからこそ、フレイは感情を抑え込む。これじゃ拗ねた子供じゃないと思いながらも、無心になって着替えることで忘れることにした
「……ありがとうございます」
後ろから掛けられた言葉も、どうでもいい事だと聞かないことにした
「アスラン・ザラ、出るぞ!」
2月13日
それが今現在の日付と時刻であり、ヴェサリウスから飛び出したイージスの搭乗者…つまりアスラン・ザラが動き出す瞬間であった
母艦の周囲には複数のジンの他にもデュエルとブリッツが待機しており、眼前の地球軍に対して激しい敵意と警戒を抱いている
前方の展開されている地球軍の艦隊軍。10数機の戦艦と30機近くのメビウスの編隊が並んでいるが、敵艦内に存在するMAも含めれば100機以上の物量になるだろう
それでもこちらには多数のジンに高性能機のジン・ハイマニューバと隊長機のシグー、更にヘリオポリスで鹵獲した『G』もある。仮に戦闘になったとしても第8艦隊は問題にならない。1番気を付けねばならないのは…
「青い『G』か…」
『アスラン、PS装甲があるとはいえ油断は禁物ですよ』
「分かっている、ニコル」
『ナチュラル共に交渉などと日和った作戦を提案したんだ。必ず連れて帰らんと許さんぞっ!』
「ああ、任せてくれ」
仲間たちの説得、特にイザークを宥めるのには本当に苦労したものだ。ニコルがフォローしてくれなかったら殴られていたかもしれない
さて、交渉する相手は誰だとアスランはアークエンジェルを見る。現状判明している地球軍のMSはストライクとブルートだけだ。無論、ブルートのように秘密裏に建造されたMSが出てくる可能性もある訳だが、この様な交渉の場でそんな物を晒すなど愚か極まりない。確率はほぼ0%と言っていいだろう
そして、いよいよアークエンジェルの脚が開き、そこから人型の機体が姿を現した
「ジンだと!?」
が、出てきたのはストライクでもブルートでもなくまさかのザフトの量産MSだったのだ
アスランは、交渉相手をMSに限定すれば出てくるのはストライクか青い『G』のどちらかが出てくると予想していた。ストライクならばキラが来たと判断してラクスの受け渡しを行い、あわよくばキラに再度プラントに来るよう呼びかけるつもりだった
反対にブルートが来たならば、それはパイロットが戦争に悦楽を覚えるあの男である可能性が高い。戦争を望む奴がとても大人しく受け渡しに応じるとは思えない。交渉を台無しにしていきなり不意打ちをしてくる事だって十二分に有り得る。だからこそ、青い『G』が来た場合は最大限の警戒をするようにとイザークとニコルにも伝えておいた
しかし、蓋を開けてみれば出てきたのはまさかのジンなのだ。ブルートやメビウス・ゼロも続くように出てきてはいるが、決してジンに着いていくことなくアークエンジェルの守りを固めている
肝心のジンのパイロット、操縦自体に問題はなさそうだが、ところどころ動きが止まる事からMSの操縦ではなく
(もしやラクスだけを乗せて操縦させているのか?いや、流石にナチュラルといえどそこまでバカな事をするとは思えない。それに全てのコーディネイターが訓練もなしにモビルスーツを動かせるわけではない…)
しかし、乗っているのがラクス1人だとしたらジンごとザフトを攻撃できるというメリットはある。ブルートを警戒しながら近づいてくるジンにも注意を払う
そしてジンがいよいよ到着すると、通信がイージスのコックピットに響く
『そこの赤いモビルスーツ!アンタが引き渡し相手でいいのね!?』
「女!?」
聞こえてきたパイロットの声は女、それも自分たちと同じ年頃と思わせる少女のものだった。アスランの驚きの声が伝わったのか、少女が苛立ちを声に乗せて言う
『女だったら悪いわけ!?』
「あ…い、いや、すまない、俺が悪かった…」
今まで出会ってきた数多くの女性をその甘いマスクで(無意識に)メロメロにしてきたアスランは、女に黄色い声を上げられても怒声をぶつけられた経験は1度もなかった。怒りの声にアスランはたじろぐ
「…確認させてもらうが、本当にラクス・クラインを連れてきているのだな?」
そう言うとジンのコックピットが開き、その中にいる人物の顔がアスランの瞳に映る
「ラクス…!大丈夫だったか!?」
「安心してくださいアスラン。私は何もされていませんわ」
本当は自分をここまで送ってくれた少女…フレイから平手打ちを受けて罵られもしたのだが、そんな事を言えばフレイの立場が悪くなる。だからラクスは1つ嘘をついた
「…アンタたち、知り合い?」
「アスランはわたくしの婚約者です」
「婚約……」
『婚約者』というワードにフレイの表情が歪む
「キラ…キラはどうした?俺はあいつが来ると思っていたが…」
「キラ?なんでアンタがあいつの事を知ってるのよ」
「教えてくれ!」
「……前にアンタたちと戦った時に怪我をして、それからずっと寝ているわ。1度も起きてない」
「なっ…!?」
前回の戦闘から1週間以上は経っているにも関わらず、未だ昏睡状態から目覚めてないという事実にアスランは困惑する
「そんな…!」
「そっちこそ答えなさいよ!キラ・ヤマトの何なのよアンタ!」
「キラは…キラは俺の…!」
アスランが口を開くその時だった
ドカァァッ!
急加速したメビウスがイージスのコックピットに突き刺さったのは
「何をしているメビウス4号機!即座に機体を停止させよ!」
一方、メネラオスのブリッジは喧騒に包まれていた。待機中のMAがいきなり動き出したと思えばイージスに向かって加速し始めたのだ
命令を飛ばすも止まる気配を見せないメビウスを見て、ハルバートンが直接回線を繋げて命令する
「応答せよ!これは重大な命令違反──」
『…これは、世界を救う聖戦である』
すると、回線からある声が聞こえてきた
「何…?」
『神が定めた、人間のあるべき自然の摂理から逸脱した異端者であり、世界を破壊する悪魔を滅ぼす為諸君らは神に選ばれたのだ』
聖歌を唄うように、つらつらと口上を述べる男の優しげな声
だが、ハルバートンは気づいたのだ。この声の主が誰なのか、この特徴的な、
「この声…!」
「て、提督?」
『諸君らの命がコーディネイターを滅ぼす炎となり世界はあるべき姿へと戻るであろう』
「まさか…まさか、あの男がッ!!」
そして、イージスに密着したメビウスのパイロットはスイッチを取り出し──
『そう、全ては……』
「青き清浄なる世界のためにィィィィィィィ!!!」
ドカァァァァン!!
直後、メビウスは自ら爆散した
サブタイを見て嫌な予感がしたあなた、大正解です