サーシェスは自分の中の高揚感を存分に堪能しながら、ザフト軍を殺し回っていた
途中、
「元々死んでもらう予定だったが、こりゃあプランを修正する必要がある…なぁ!」
ズギャギャァ!
邪悪な思考を張り巡らせてサーシェスは口角を上げる。重斬刀でシグーを真っ二つにしたところで次の獲物を狙おうとし…高速で迫り来る1機の反応を確認する
『貴様ッ!コーディネイターをナメやがってェ!』
「ほう、“デュエル”か!」
最も基礎的な能力、汎用性能を重視されて作られた
“GAT-X102 デュエル”。マリューたち連合技師士官が造り出したPS装甲を導入して、最初に完成されたガンダム。それがビームサーベルを片手にブルートに迫っていた
対ビームシールドで無ければ防ぐことの出来ない一撃、それをブルートは機体を上下に回転させる事でスルリと躱す
『ふざけてるのかぁ!!』
曲芸染みた回避に激昂するイザーク。デュエルは振り下ろした右腕を、そのまま斬り上げる形で敵機に向けて振り上げる
「ぎっちょん!」
バキャァ!
だが、その素早い追撃をブルートはオーバーヘッドキックのような蹴りで対処する。予想外の方向、角度から放たれた蹴りがビームサーベルを握った右拳に衝撃を与え、サーベルを失った柄が無重力の海に流れていく
『何ィ!?』
コックピット内で薄い青色の目を見開いて驚愕する
ブルートの機体性能自体はデュエルと同程度だと言うのが、アスラン、ニコルと戦闘データを見直して出した結論である。イザークからすれば業腹な事この上ないが、ブルートのパイロットの技量は間違いなくこちらより遥かに上だ
それでも、例えデュエルより性能の良いMSを渡されたとしても、今ブルートがやった芸当を真似出来るとは、自信家のイザークと言えどとても言い切れなかった。上下逆さまの姿勢で的確にMSの拳だけ蹴りつけるなど、とても
「ズリャア!」
『くっ!』
体勢を戻したブルートが重斬刀で唐竹割りの動作に入ったのを確認したイザークは、両腕とシールドを使ってガードする。衝撃を堪えていると接触回線から下卑た笑いが伝わってきた
「サーベルが無い程度で白兵戦も出来ねえんじゃ俺にゃ勝てねえぜ!デュエルのパイロットさんよ!」
『クソ!調子に乗りおってェ!』
「しかしお前らと違って俺は仕事で忙しいんでな」
ズガン!
拮抗した状況の中、デュエルの横っ面に叩き込むように蹴りを入れ、体勢を崩させる。そこにビームサーベルを取り出したブルートが斬り込む
「くたばっちまいなッ!」
突き刺さればイザークごとコックピットを蒸発させる一撃は、しかし闇の中から突如現れたビームによって中断させられる
「下から!?」
至近距離からの奇襲にも関わらずサーシェスは攻撃を躱してみせる。しかしコックピットなどの致命的な箇所ではなく、脚部を狙われた為に回避が間に合わず、2本の内1本のビーム光線が脚の関節を掠める
結果、ブルートは右膝から煙を吹き上げ、右脚の機能を十全に発揮できなくなってしまった
「ブリッツのミラージュコロイド・ステルスか!」
サーシェスはデュエルから距離を取りながらビームが現れた場所に頭部の機関砲を撃ち込もうとするが、攻撃するより先にPS装甲を展開して姿を見せたブリッツがアンカークローを射出する
舌打ちしながら素早く且つ的確に操縦する。頑丈なワイヤーに繋がれたまま飛び出す鋭い爪を左手の重斬刀で受け流し、そのまま右手のビームサーベルでワイヤーを断ち切る
『くっ…片脚だけか!』
「やってくれたな…しかし!」
重斬刀を納刀してハンドガンでブリッツを狙う。ニコルは右に移動して回避するが、サーシェスは回避先にもビームを撃っており、躱すことが出来ないと判断したニコルはトリケロスの盾でビームを弾く
『射撃の腕もいいなんて!』
『これ以上やらせんぞぉ!!』
コーディネイターの自分がいいようにやられてる事態にプライドを刺激されたイザークは、ビームライフルを撃ちまくりながらブルートとの距離を詰める
『イザーク、迂闊ですよ!』
『うるさいっ!!こいつは俺が仕留める!!』
仲間の制止を無視して加速するデュエルに、右手のビームサーベルで迎撃をするブルート
左腕に取り付けられた対ビームシールドでピンク色の光刃を受け止めるが、それはサーシェスの『誘い』だ。即座に左手のビームサーベルがデュエルを斬り刻むべく振るわれる
『ッ、ナァメるなあああッ!!』
それを見たイザークは怒りの雄叫びを上げた。ライフルを投げ捨ててマニピュレーターを開き、迫るビームサーベルの持ち手を掴むことで二振りのサーベルを凌ぎ切る
『ニコル、やれぇ!!』
『はい!!』
動きを見定めていたブルートが一瞬止まったその隙に、デュエルに当たらぬよう角度をつけてブリッツはビームを放つ
標的の青い『G』の動きが制限されている上、シールドの類がない以上この攻撃を防ぐ事も避ける事も出来ない。イザークもニコルもそう確信していた
「
バチィ!
『なッ!?サーベルでビームを弾いた!?』
だが、サーシェスはシールドで防がれていたビームサーベルを神がかりなタイミングで振ることで、光線をビームの刀身で相殺して消滅させたのだ
『こいつ、人間か!?』
『おのれぇぇぇぇぇ!!』
もはやなりふり構わずに盾でブルートを殴ろうとするイザーク
それを見たサーシェスはビームサーベルを仕舞ってアーマーシュナイダーに持ち替えると、サーベルとは違った小回りの利く動きでデュエルのシールドをすり抜け、コックピット付近に振動する剣先を突き立てる
ギャチチチチチッ!
『装甲の隙間を!』
『バ、バカな…!?俺たちは赤服なんだぞ!!こんな奴にィ!』
レッドランプの点灯で赤みが増した操縦席でイザークが信じ難いとばかりに狼狽する
PS装甲のおかげでギリギリ内部まで入りんでいないアーマーシュナイダーだが、何かの拍子で衝撃が加わればコックピットにまでダメージがいくことは明らかだ
『離れてもらう!』
誤射に気をつけながらニコルはビームを撃つ。対してブルートは動揺して動けないデュエルの左腕を掴み、引っ張り込む事でシールドを自身の前面に持ってくる
『デュエルを盾に!?』
幸運なことに、ビームの殆どはシールドに命中して霧散し、残りの緑光も2機のMSをすり抜け、後方の闇に消えたことでフレンドリーファイアは免れた
…しかし、振り回されているイザークの危機が去ったわけではなかった
「いただきィ!」
ガキィン!
ブルートはブリッツが受け止められるようにデュエルを勢いよく蹴飛ばした。…当然、突き刺さった超振動ナイフに脚がぶつかるように
ドォン!
『ぐわああああっ!?』
正面のコンソールがショートし爆発。その衝撃はヘルメットのシールドを割り、飛び散った破片がイザークの顔を切り裂く
『イザーク!?大丈夫ですかイザークッ!!』
『痛い…痛い、痛いィィッ』
ブリッツを操作してデュエルを受け止めると、ニコルは接触回線で仲間に向けて呼び掛けるが、イザークは顔の痛みでまともに返事する事も出来ない状態だった
『アスラン、イザークが!!』
『何!?イザークに何が…ッチィィィ!!』
数少ない味方機のイージスに通信を飛ばすが、肝心のアスランが戦闘に気を取られて援護は望めそうになかった
『ガモフは…まさかやられているのか!?ディ、ディアッカ…!』
イザークの負傷に続いて、母艦の反応がない事からディアッカも戦死したと理解したニコルは青褪める
それでも自分を見失わないように叱責しながら、クルーゼ隊長が乗るナスカ級戦艦に向かって撤退を試みる
ビュゥン! ビビュウ!
『うわっ!』
それを阻む者がいる。サーシェスだ
この青いMSを無視してさっさと戦闘宙域から脱出したいニコルだったが、片手にデュエルを抱えている以上、激しい戦闘が行えない。これを見通して、サーシェスはパイロットを殺さずにデュエルをブリッツに蹴り飛ばしたのだ
『こいつ、コックピットを狙っていない…!?』
『動くんじゃねえぞ。コックピットに、当たるからよォ!!』
『また遊んで、ぐぅ!!』
執拗な責めが体力を消耗させる。ザフト軍は連合の特攻とブルートによってほぼ壊滅寸前、イージスとヴェサリウスの援護は期待出来ず、サーシェスの悪辣な罠でブリッツとデュエルは逃げる事も出来ない
『ニ、ニコル…俺を置いて、お前は行け…』
『何弱気なことを言っているんですか!?あなたらしくもない!!』
『早く行け…!足手纏いになるくらいなら死んだ方がマシだ…!』
『僕は嫌です!意地でも貴方と一緒に帰ります!』
『クソッ…!』
時たま、デュエルを庇いながらも必死に生き残ろうとするニコル
しかし、不意打ちする為に使用したミラージュコロイドのツケが、死の感覚と共に訪れた
ピー! ピー!
『パワー残量がもう…!』
エネルギーが切れればすぐさま殺られる。目の前の敵に必要なエネルギー量を計算しながらMSを動かすニコルは、極限の疲労状態によるミスで体勢が崩れる
『しまっ!』
「ファングだよぉっ!」
それを見逃さないサーシェスは残る2機のファング全てを射出し、真っ赤な彗星の如くブリッツとデュエルに飛ばす
『あ…』
景色がスローモーションに動く中、ファングに対して何も出来ないニコルが頭の中に思い浮かべたのは…優しい母親の顔
『母さん…僕の、ピアノ───』
ドオォォン!
真っ直ぐ突き進んだファングは…ブリッツとデュエルに突き刺さる目前で爆散した
『えっ…?』
「何だと!?」
原因は側面からファングに向かって撃ち込まれた高出力ビーム“ 超高インパルス長射程狙撃ライフル”によるものだ
そしてそれを撃てるMSは、1つしかない
『グゥレイトォ!!我ながら良い腕だぜ!』
『ディアッカ!!』
『艦長も無茶させるぜ…そのおかげで生き残れたけどな』
巨大デブリと化したローラシア級…その影からバスターガンダムが姿を現した
ガモフ艦長であるゼルマンは艦の敗北と悟るとすぐさまディアッカに呼び掛け、バスターに搭乗させて脱出させた
艦の爆発には巻き込まれたものの、PS装甲で損傷を負わずに済んだディアッカは片腕でのバスターの操作を慣らし、ようやく慣れたところで飛び出してファングを撃ち抜いたのであった
『でも、片手でバスターを動かすのは…!』
『片手で動かすくらい訳ねえよ!赤ならなぁ!』
額に玉のような汗を浮かべながらもディアッカはブルートに狙いを定めて撃ち放つ
素早い射撃の雨を躱しながらサーシェスは呟く
「邪魔な野郎だ…ん?」
ピー! ピー! ピー!
見れば、ブルートのパワー残量も残り少なくなっていた。最後に使用したファングにかなりエネルギーを持っていかれたようだった
「チッ、潮時か…」
楽しい狩りを邪魔されて不機嫌なサーシェスは、しかしこのままでは分が悪いと判断するとアークエンジェルに向かってブルートを動かした
『に、逃げたのか…?』
『全く、片腕でモビルスーツを動かすっつうのも、疲れる、なぁ…』
男から向けられた邪気が消えた事で、やっと一息がつけるとニコルはシートにもたれ掛かろうとしたところで、イザークが負傷していた事を思い出した
『ハッ、そうだ!早くイザークをヴェサリウスに連れて行かないと!』
ブリッツに肩を借りる形で引っ張られるデュエルのコックピット内部
普段はウジウジしてる癖にどうしてこういう時は頑固になるんだと思う反面、自分を見捨てなかったニコルに、あくまで心の中で感謝するイザークだった