種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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脱出劇

『メビウス・ゼロ及びジン、着艦確認!!』

「フゥ、なんとか薄皮1枚繋がった感じか…!」

 

アークエンジェルの出撃カタパルトから格納ブロックに移動したゼロとジン。その内、ゼロに乗っていたムウがヘルメットを脱ぎ捨てながら一息つく

 

「オイ、嬢ちゃんら!大丈夫か!!」

 

メビウス・ゼロから降りていると、隣に配置されたほぼ全壊状態のジン。その装甲が剥がされたコックピットの前でフレイとラクスに声を掛けるマードックの姿があった

 

「軍曹!フレイ達は大丈夫なのか!?」

「歌姫さんは気絶してるだけですぜ!しかし…」

 

なんとも言えない表情でコックピット内に視線を送る軍曹。訝しんだムウが中を覗いてみると、そこにはヘルメットを外したフレイがシートの上で膝に顔を埋めていた

 

初陣であれだけ凄惨な最前線にいたのだ。恐怖で心を病んでも仕方がないと思い、フレイの肩に手を伸ばす

 

「なあフレイ、大丈──」

「触らないでっ!!」

 

が、その手をフレイは反射的に(はた)く。それ以降も変わらずシートの上で蹲りながら呻き声を漏らすだけ

 

「やれやれ…こういうアフターケアは本来あいつの仕事だろうが…」

 

今頃ザフトと交戦しているだろう少女の復讐を肯定した同僚の姿を思い浮かべながら、ムウは頭を搔くのだった

 

 

 

「メビウス・ゼロ及びジン、着艦確認!!」

「パイロットも無事とのことです」

「よかった…フレイ…よかったぁ…!」

 

一方、アークエンジェルブリッジ内にて、2人のオペレーターが告げた報告にミリアリアが涙を拭きながら安堵の声を零す

 

そんな緩み始めた空気に対してナタルが叱責する

 

「各員、気を抜くのが早いぞ!まだ事態は好転していない!敵の反応はどうなっている!?」

「ジン・ハイマニューバ1機とシグー2機が残っています!それ以外の反応はほぼ全滅して……ッ!ナスカ級がこの艦に砲撃しつつ接近してきています!」

 

その報告を聞いたマリューは敵の狙いを悟る

 

「私達を何としても地球に降下させないつもりね…至急、アークエンジェルが現地点から大気圏突入した場合のコースを確認して!!」

「た、大気圏突入?」

「分かりました!」

 

困惑するクルーもいる中、ブリッジの各員が大気圏突入コースのデータを洗いざらい調べて始める

 

「総員に通達!!これよりアークエンジェルは、敵の追撃から逃れる為にアラスカに直接大気圏突入を行う!!」

「艦長!?正気ですか!?この攻撃の中、大気圏突入などを試みれば敵のいい的になるだけです!!」

 

ただでさえ寄せ集めの人間で地球降下という危険度が極めて高い事を行うというのに、迫り来るザフトに背を向けてそれを敢行するなど、自殺行為以外の何物でもない

 

だからこそナタルは無礼を承知でマリューの決断に反対したのだが、覚悟を嘲笑うようにオペレーターが声を荒らげる

 

「第8艦隊と戦闘を行っていたモビルスーツ群がこの艦に近づいています!!」

「何!?第8艦隊は!?」

「反応は確認できません。おそらく……」

「──ハルバートン提督…」

 

理解出来てしまった現実にマリューは目をつぶって思いに耽ける。そして即座に気持ちを切り替えて、先ほど反対してきたナタルを含めた全員に言う

 

「このまま戦闘が長引けば長引くほど、我々がこの宙域から逃げ出す事は困難となる!180°転回!大気圏突入シークエンスへの準備を進めよ!!」

「やむを得ん…!総員、大気圏突入シークエンスへの準備を進めろ!砲撃手は敵の迎撃に専念しろ!」

 

絶望的状況が眼前に迫った以上、ナタルも反対意見を撤回して自分に出来ることを進める

 

 

 

上段から迫り来るストライクの剣撃を対ビームシールドで殴りつけることで弾き返す。斜めに傾いた機体の左肩に向かって黄色いビームサーベルを振るうが、ストライクもイージスと同じようにシールドで防ぐ

 

「くぅ…!」

「アァスラアァァァァァンッ!!」

 

憤怒の入り交じった雄叫びがスピーカーとアスランの鼓膜を揺らす

 

ジンを操縦していたパイロットの少女の言葉を鵜呑みにするならば、キラは前回の戦闘から先ほどまでずっと昏睡状態であったはずだ。1週間以上も寝たきりであったならば筋肉は大きく衰えるし、MSを動かす感覚も鈍るのが当然だ

 

しかし、今のストライクは昏睡から復帰したばかりの人間が操縦しているとは思えないほどの動きをしてくる。それどころか時間が経つ度に動きのキレが増す始末だ

 

「どけッ!今はお前の相手をしている暇はない!」

「どくものか!アークエンジェルを沈めさせはしない!」

 

白と赤の星が光を携えて何度もぶつかり合う

 

状況は僅かにストライクの方が押していた。キラと戦うこと自体に迷いがあるアスランと違い、ある意味で迷いが無くなったキラに軍配が上がるとは当然の結果といえる

 

『キラ、聞こえる!?』

「ミリィ!?アークエンジェルに何かあったの!」

『こっちに敵艦と敵モビルスーツが接近しているの!それで、アークエンジェルは現宙域より離脱、アラスカに直接降下を行うわ!』

「ッ!? この状況で大気圏突入を行うのか!?」

『あなたも早くアークエンジェルに帰還して!ビアッジ大尉は既にこっちに向かっているから、後はキラだけよ!』

「分かった!すぐに帰投する!」

 

そう伝え通信を切ったものの、キラの目の前にいるのはイージスに乗ったアスランだ。下手に逃げる姿勢を見せれば、逆にこちらが殺られる可能性がある

 

ダダダダダダッ!

 

極限の緊張が張り詰める睨み合いの中、突如側面から機関銃の弾がストライクを襲う

 

「くっ!別方向から!?」

 

PS装甲で実弾が弾かれる甲高い音を聞き流しながら攻撃方向に目を向ければ、ジンとジン・ハイマニューバが1機ずつストライクに銃撃していた

 

『敵は1機だ!』

『あいつを墜とせば足付きの守りは!』

「邪魔するなぁ!!」

 

増援に対してキラは2発のビームを撃ち込む。寸分もズレる事無くコックピットに命中した2機はそれだけで火を吹き上げながらバラバラに散っていく

 

不意打ちには驚いたものの、それはアスランも同じだったようでイージスが墜とされた2機の味方機を唖然とした様子で眺めている。それをチャンスと捉えたキラは、フットペダルを強く踏み締めて猛スピードでアークエンジェルに向かって飛んだ

 

「キラ!?お前ッ!!」

 

数瞬経って、キラの撤退をアスランが気づく。即座に墜とされた2機を見た後にアスランの中で湧いた気持ちは混乱と怒りだった

 

それほどキラはザフトの人間を殺すことに躊躇いがなくなり、それだけこちらに敵意を向けていることに他ならない。その事実はアスランの心に友情を裏切られたという気持ちと、同時に裏切った親友に対する怒りの感情を抱かせた

 

ピー! ピー! ピー!

 

しかしその時、警告音と共にエネルギーゲージに赤い「ALERT(警報)」の文字が浮かぶ。イージスのバッテリー残量の限界が近づいてきたのだ

 

「クソッ!こんな時に!」

『聞こえるか、アスラン』

「! クルーゼ隊長!?」

 

背後を見てみれば、アークエンジェルを追い掛けるように高速で移動するヴェサリエスの姿が見えた

 

『残念な報告がある。どうやら足付きは地球への直接降下を目的としたらしい。距離も考えればこのまま彼らを逃す事になってしまう』

「!? そんな!あれにはまだラクスが乗っているんですよ!」

『そこで、君とイージスの力を借りたい。幸い足付きはこちらに背を向けている。その隙に足付きのメインエンジンを破壊するんだ。そうすれば速度を落とした足付きは我々(ヴェサリウス)と交戦せざるを得なくなる。無理やり降下したとしても、足を失ってしまえば地球圏内での追撃も容易くなるだろう』

 

クルーゼの提案は先を見据えた最適解といえるものだった。だが同時にそれは、万が一過剰な破壊でアークエンジェルが地球の降下を失敗すればラクスも死んでしまうリスクの高い作戦でもあった

 

そんなアスランの心の迷いを感じ取ったのか、クルーゼは強い口調で諭す

 

『君がラクス嬢を助けたい気持ちはよく分かる。しかし、あの足付きをここで止めねば必ず今後の脅威になる。何よりアレを墜とそうと犠牲になった者達に報いねばならん…私の言っている事が分かるね?アスラン…』

「…了解しました……」

 

力なく項垂れてそう返答するアスラン。しかし次の瞬間には強い決意を持った表情でこう返す

 

「しかし自分は…自分は必ず、ラクスを取り戻してみせます!」

 

切れる通信。MA形態になってストライクとアークエンジェルを追うイージスを眺めながら、クルーゼは微笑みながら呟く

 

「若いな。しかし、それ故に扱い易い」

 

その言葉を拾える者は、忙しないヴェサリウスブリッジ内では誰もいなかった

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