種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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リベンジャー・アベンジャー

忙しなく整備員がMSデッキを駆け巡る。否、整備員だけでなく、アークエンジェルのクルーが地球への降下の最中、各所のメンテナンスや現在地の確認、ザフトの警戒など寝る間も惜しんで働いていた

 

そんな中、サーシェスは1人の少女が入っているジンのコックピットブロックの前にいた。内心では苛立ちを覚えながら

 

(ったく…コーディネイターが憎いくせにあの程度の戦場で戦意喪失とはな…ガキの子守りはこれだから嫌なんだよ)

 

サーシェスは過去に、多くの人間に教育という名の洗脳を施した経験がある。その経験上、何も知らない子供や凝り固まった価値観を持つ大人は御しやすいが、逆に中途半端な自意識や価値観を持つ人間は扱いにくいと理解していた

 

その性質上、フレイ・アルスターはむしろ反コーディネイター思想が強い…というより、嫌悪感や恐怖による差別が強かった為、それを憎悪にすげ替える事でフレイをコントロールしやすくしたのだ

 

しかし、先の戦闘でその憎悪が恐怖に戻ってしまったらしい。こうなるともう1度憎悪の感情を燃え上がらせるのは難しくなる。最も、やるのが()()()()()()()()()()()、だが

 

コンコン

 

「オイ嬢ちゃん、聞こえるか?」

『…………』

「今は地球に降下している最中だ。ザフトの連中は着いてきてねえ、そろそろ外に出てきたらどうだ?」

『放っておいてよッ!』

 

コックピットにノックしながらそう語り掛けるサーシェスに対して、フレイはMS越しに怒鳴る

 

『もうイヤ!なんであんな怖い所に皆出てこられるの!?正気じゃないわよ!』

「もう戦いたくないのか?」

『そうよ!!』

「そうか………パパの仇は諦めるのか」

『……ッ!』

 

その話題を出した途端、感覚ですぐ分かるほどフレイの雰囲気が変わった。分かりやすいガキだと内心邪悪にほくそ笑む

 

こういった仇を取りたがる人間の多くは、殺された肉親や友人、恋人に対して並々ならぬ思いを抱いている。その死者を思う優しさを利用してやれば、こんなに簡単な話はない

 

「戦いが怖いなら仕方ない。お前さんのパパはもっと『怖い』思いをして『殺された』訳だが、戦うのが嫌なら仕方がないなぁ」

『パパも…怖い思いを…』

 

そぉら見ろ。恐怖の味が憎悪という樽で熟成され、やがて殺意という銘柄の極上ワインが完成する

 

「ま、そう言うってんならお前さんとの契約はもう無しだ。モビルスーツの修理もあるんだ、いい加減そこから出とけよ」

『待って!』

 

コックピットから背を向けて離れようとした時、フレイは大声でサーシェスを呼び止める。ゆっくり振り返ってみるとハッチが開き、そこから目を腫らしたフレイが出てくる

 

「やっぱり…パパの仇を討ちたい…!私、諦めたくない…!」

 

言い放つフレイ。しかし、目を血走らせて歪ませるその表情は、他者から見れば血に飢えた悪魔のようにも見えた

 

そんな少女の姿を見てもサーシェスはブレることなく、文字通り悪魔のような笑みを浮かべた

 

 

 

宇宙の闇の中を漂う幾つもの巨大な砂時計。この巨大な建造物の集まりこそがコロニー国家“プラント”である

 

コロニー10基ごとに1市の役割を担っているプラントコロニー、その首都であるアプリリウス市。プラント最高評議会が置かれているこの市内、とある建物のとある部屋に、本国から召還命令を受けたアスランはいた

 

「連合第8艦隊の壊滅…しかし、これほどのモビルスーツと戦艦を失うとはな」

「申し訳ありませんザラ国防委員長閣下。全ては私の不徳の致すところでございます」

「構わん。第8艦隊の壊滅自体は悪い事ではない。何より奪取したモビルスーツ、その技術を解析すれば、我々プラントの更なる有利に繋がる」

「寛大な心遣い、感謝致します」

 

アスランは目の前にいる2人を見る

 

1人はアスランやイザーク達を率いるクルーゼ隊の隊長、ラウ・ル・クルーゼ。クルーゼ隊長は失態だと考えているようだが、あそこまでこちら側の意志を裏切ってきたナチュラルの愚かしさを見抜けというのは些か無理があるというものだ、とアスランは思っていた

 

そしてもう1人は、白髪で染まってきた頭髪をオールバックにしたような髪型の男。威圧感のある顔つきのこの男の名は“パトリック・ザラ”。プラント評議会国防委員長にして…“アスラン・ザラ”の父親なのである

 

ヘリオポリス襲撃から低軌道会戦までに起きた出来事を纏めた報告書を手渡し、口頭で当時の状況を更に詳しく説明するクルーゼ。20分程経った辺りで報告を伝え終える

 

「私から伝えられることは以上となります」

「ふむ、ご苦労、下がっていい…ああ待て、お前は残れ、アスラン」

「え?」

「分かりました。先に失礼致します」

 

パトリックに敬礼をするとクルーゼは背を向けその場から去ろうとし、その際にすれ違ったアスランに小さく耳打ちをする

 

「せっかくの親子水入らずの時間だ。ゆっくり楽しんできたまえ」

 

それだけ伝えると、クルーゼは退室したのだった。そこにはアスランとパトリックだけが残され、息苦しい沈黙が拡がっている

 

アスランの母親…レノア・ザラを『血のバレンタイン事件』で失ってから、パトリックはナチュラルへの憎悪を激しく燃やし、それ以来アスランとは赤の他人同然の冷めきった関係になっていた。今更どんな風に接すればいいのかまるで分からず、長い沈黙が続く中、パトリックが口を開いた

 

「ヘリオポリスの報告を受けて以来だな」

「はい、父上も壮健そうで何よりです」

 

固い口調、固いやり取り。とても親子とは思えない会話で、パトリックから親としての情を感じられないのもいつもの事のはずだった

 

だが…この直後、パトリックの雰囲気が変わる

 

「アスラン、連合のモビルスーツ使いに殺されかけたと聞いた」

「え…?」

「本当か?」

「…俺の実力が至らぬばかりに、良いようにしてやられました…」

「そうか…怪我はないようだな」

 

アスランは困惑した。普段の父であればここから感じ取れるのはナチュラル或いは裏切り者のコーディネイター如きに負けた事に対する失望のはずだ。しかし今のパトリックからは、何か…そう、かつて母と暮らしていた時の暖かい何かを感じ取れた

 

「父上…?」

「1年前、卑劣なナチュラル共の核攻撃によりユニウスセブンは崩壊し…レノアは帰らぬ人となった」

「…「血のバレンタイン」…」

「そうだ…!!あの日、私は妻を、お前は母を亡くした。いや、プラントに居る多くの者達が大切な人間を失った。その時に誓ったのだ。地球にへばりつくナチュラル共にこれ以上コーディネイターの栄光と繁栄を穢されてなるものかと!!」

「それは…」

 

かつてのアスランだったら分からなかったかもしれない。だが、あの青い『G』に乗った怪物のようなナチュラルの男と低軌道会戦で行われた卑劣な作戦…あのようにおぞましく、理不尽な死があっていいはずがないのだ

 

「父上…俺は、先の任務でこの世界の歪みを見つけました」

「歪み?」

「戦争を楽しみ、戦う事に悦楽を覚える狂人です。あの男がいる限りプラントの…この世界の未来はありません」

 

あの男は何としても殺す、そんな強靭な意志を息子から感じ取ったパトリックは喜んだ。ようやくコーディネイターとしての誇りに目覚めたと歓喜する

 

「そうか。ならば、次の任務の戦果も期待するぞ」

「はいっ!」

 

初めて父を理解出来たかもしれない。家族の温もりに飢えていたアスランにとってその事実は何よりも嬉しかった事だったが、それが戦争屋の引き起こした悲劇によって齎された結果だというのだから、皮肉な事この上ない

 

 

 

本来の正しい歴史から徐々に物語は歪に綻び、歪みは新たな破壊と再生を齎す

 

その先にどんな未来が待っているのか…それは誰にも分からない

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