種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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少女達の激情

カガリが部屋から退出したちょうど同じ頃…アークエンジェルの足元で1つのイザコザが発生していた

 

「ねえフレイ!もうやめて!!それ以上続けたら、あなた本当に体壊しちゃうわよ!」

 

日が傾き始めた夕刻の峡谷。大声で止めるよう説得するミリアリアの視線の先には、フレイ・アルスターの姿があった

 

しかし、そこにかつてカレッジで注目を集めていた可憐な美少女としての面影はない。荒れた肌、ボサボサの赤髪、闇を煮詰めたようなグレーの瞳…まるで幽鬼のような変貌を遂げていた

 

ミリアリアの背後にはサイ、トール、カズイの姿もあり、特にサイはミリアリア以上に婚約者の姿に困惑していた

 

「フレイ…」

「…何よ。みんなには関係ないでしょ」

「友達を心配するのは当然じゃない!フレイ、宇宙(そら)で戦ってきてから何か変よ!!」

 

必死に訴えるミリアリアだが、再び憎悪を募らせるフレイの目に4人の姿は映っていない。自分を痛めつけるようなトレーニングを繰り返すフレイを無理やり止めようとするが…

 

「フレイ!お願い!」

「…邪魔しないでッ!!」

「きゃあ!?」

 

友人の制止を、フレイは暴力で返す。勢いよく身体を押されたミリアリアは砂の混じった大地に強かに叩き付けられる

 

「いったぁ…!」

「ミリィ!」

 

地面の上で痛がる恋人の姿を見てトールが駆け寄る

 

「フレイ!ミリィはお前の事を心配して…」

「余計なお世話って言ってるのが分からないの!?これ以上私の邪魔をするなら、アンタ達でも容赦しないわよ!!」

 

興奮した様子のフレイはサイに言う

 

「アンタと仲良くしてたのだって、パパが決めた婚約者だったから仲良くしてやったのよ!ちゃんとパパの言う通りにしてれば褒めてくれるって思って…そうじゃなかったら、わざわざ他人のアンタに甘えてやったりしないわよ!!」

「な…!?」

 

絶句するサイ

 

かつて自分に甘えてくる少女の姿はどこにもなく、それどころか嘘であるとすら断じられた。怒りよりも悲しみが湧き上がるほど衝撃的な宣告に、サイは静かに項垂れる

 

負の感情を吐き出したフレイはもう用はないと4人を振り切り

 

カツン…

 

「フレイ様…」

 

直後、ドレスのスカートをフワリと揺らしながら、ラクスがフレイの前に現れた

 

元々艦内でもハロのハッキング能力で自由に色んなところを出入りしていたが、彼女は脱走などの試みは行わなかった。それにプラント議会議長の娘でもある以上下手な扱いは出来ない

 

結果、軽い監視が彼女につくことになった。艦の外に出られているのもどこかで監視が見張っているからだろう

 

閑話休題(それはともかく)

 

突然出てきたプラントの歌姫に対して、フレイは意外なことにそこまで強い敵意をすぐに抱かなかった

 

あの惨劇を共に間近で見た親近か、惨劇のキッカケとなってしまった事に消沈していた姿に対する憐憫か、それとも…

 

そこまで考えてフレイは胸の奥の感情を抑え込む。相手は憎いコーディネイター、それも“エイプリルフール・クライシス”を扇動していた奴の娘なのだ、そんな気持ちを抱くのは無意味で無駄に他ならない

 

無視して通り過ぎようとするが、するとラクスが防ぐように前に出てきてフレイと相対する

 

「アンタ、邪魔よ」

「フレイ様、なぜあの様なことを言ったのですか?サイ様もミリアリア様も、純粋にフレイ様を心配しただけなのですよ?」

「だからなんだって言うのよ。アンタには関係ないじゃない」

 

そう吐き捨てるフレイに対し毅然とした態度で言う

 

「謝ってください」

「ハァ?」

「貴女は私が憎いのでしょう。だから貴女が私に何を思っても私は強く咎めるつもりはありません。…しかし、貴女がお二人にやった事は酷い事です。だからお二人に対して謝る責任が貴女にはあります」

「何よそれ?アンタに言われたからって謝るなんて冗談じゃないわ!まっぴらよ!大体さっきも言ったじゃない!アンタには関係──」

 

パァン!

 

フレイの端麗な顔が横を向く。左頬には赤い腫れて、ジンジンと痛みを放っている。サイも、ミリアリアも、トールも、カズイも、目の前で起きたことに一瞬唖然とした

 

──あのラクス・クラインが、フレイの顔に向かって思いっきり手で(はた)いたのだから

 

「いい加減にしなさい!!」

 

おっとりとした印象の彼女からは想像もつかないほど気迫の篭もった声が張り上げられる

 

「関係ならあります!サイ様達は艦の中で、今日という日まで色々な事を助けてくれました!貴女もわたくしをアスランに引き渡そうとしたあの時…わたくしを引っ張って命を助けてくれました!…皆様はわたくしの恩人です。その恩人が困っているならば助けてあげるのが、間違っているならばその道を正してあげるのがわたくしの出来る恩返しなのです」

 

俯いて小さく震えるフレイの前に立ち、ラクスはもう1度フレイに言い聞かせるように言う

 

「謝りなさい、フレイ・アルスター。貴女を大切に思ってくれる彼らの気持ちを蔑ろにしては…」

「……ったわね……」

 

しかし、そんなラクスの言葉を遮るように、叩かれた頬を手で押えながらフレイは呟く

 

そして上げた顔には…怒りで歪んだ表情があった

 

「よくも、よくもぶったわね……パパにもぶたれたことないのにッ!!」

 

バキィ!

 

複雑に絡み合った様々な感情が一気に爆発する。フレイは自身の真っ赤な髪を激しく揺らしながら、ラクスの顔面に向かって右拳を打ち付けた

 

「フレイ!?」

 

サイが驚きの声を上げる。ヒステリックなきらいはあったものの、こうも原始的な暴力を彼女が振るった事実にサイのみならず他の3人を思わず固まってしまう

 

ラクスが地面に倒れ伏すのを見ると、そのままフレイはラクスに馬乗りになり、両手で躊躇なく殴りつける

 

「アンタ達コーディネイターが悪いんじゃない!!全部、アンタ達が!!」

「やめろフレイ!!やり過ぎだぞ!」

「邪魔って言ってるでしょ!!」

 

サイが羽交い締めにしてフレイの動きを止めるが、華奢な少女のどこにそんなパワーがあるのか、拘束を振りほどいてサイの体を後ろに押し出す

 

グイッ!

 

そうして自由になったことで再び拳を振り下ろそうとするフレイだが、襟首を掴まれ思いっきり横に引っ張られる。唐突に横向きに引っ張られたことで姿勢を崩され、フレイもラクスと同様地面に横たわる

 

「このッ!」

 

パシィ!

 

「うッ!」

 

平手打ちが右頬を打ち抜く。見れば、先程とは逆にこちらにマウントを取ってくるラクスの姿があった

 

そこからはもう、小さい子供のようなケンカの始まりだった。相手に乗っかっては殴り、相手に乗っかられては叩かれ、しまいには髪を引っ張り合ったり頬を引っ張り合ったり…

 

お嬢様であるフレイもそうだが、淑やかさと優しさが絵になって飛び出してきたような存在であるラクスが取っ組み合いのケンカをするなど、目の前で見なければまず信じられない出来事である

 

予想外の光景にサイ達が唖然としている中

 

「おい、何やってるんだお前ら!!」

 

アークエンジェルを見に来たカガリが怒った様子でその場所に乱入してきた

 

「え…だ、誰?」

「そんな事はどうでもいいだろ!目の前で殴り合いが起きているのになぜ止めようとしないんだ!?お前達の仲間なんだろ!?」

「それは…」

 

サイ達は後ろめたさから目を伏せたが、ケンカを止めない理由には何となく気がついていた

 

そう考えてる間にカガリはフレイとラクスの間に割り込み、仲裁しようとする

 

「ええい、もうやめろ!これ以上無意味に殴り合って何になるってんだ!」

「邪魔すんじゃないわよ!!」

「どいて下さい!!」

 

だが、完全にヒートアップした2人を止めることは出来ず、同時に押し出された手で突き飛ばされる

 

尻もちをついたカガリをよそ目にケンカを続けるフレイとラクスの姿に、カガリ自身も顔色を怒りで染め始めた

 

「お前らぁ!!」

 

殴り掛かろうとするカガリをサイが羽交い締めにする。ジタバタもがいて逃れようとするが、フレイの時と違いサイの拘束を振りほどくことが出来ない

 

「この、放せコノヤロウ!」

「そっちまで殴り合いに混ざってどうするんだよ!?落ち着けって!」

「放せよー!」

「貴様ら!!何をしている!!」

 

ラクスを監視していた艦員が来ることもなく騒ぎがどんどん大きくなる中、戻ってきたマリュー達がその騒ぎに気づき、ナタルが声を張り上げる

 

「アルスター准尉!プラント国民とはいえ保護した民間人に暴行を振るうとはどう言うつもりだ!?事と次第によっては死罪も免れんのだぞ!!」

「私は…!」

「言い訳は無用だ!監視員、このバカを営倉に叩き込んでおけ!!」

 

タラップから降りてきた軍人2人がフレイの前に立つ。抵抗しても立場を悪くするだけだと悟ったフレイは振り向いてラクスを見て…少し経ってから男たちについて行くようにアークエンジェル内に消えていった

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