種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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フレイの共感

フレイがいなくなった後もナタルはさらに指示を飛ばす。ラクスを医務室に連れて行かせたり、カガリに余計なことをしないよう釘を刺す中、マリューはタラップの上を見上げながら言う

 

「降りてきたらどう?フラガ少佐」

「あらら、バレちまってたか…っと!」

 

顔を出した気さくな男を見てため息を吐く。素早くタラップから飛び降りたムウにマリューは聞く

 

彼ら(監視員)を止められるのは私達を除けば先に行った貴方しかいないわ。…ねえ、どうして2人を止めなかったの?」

 

そう、本来ならラクスが叩いた時点で止めに入るはずの監視係が動かなかった理由がこれだ。ラクス、そしてフレイの問題行動をわざと見逃したムウに嘘は許さないと視線を投げかけると、ムウもまたため息を吐きながら言う

 

「以前、フレイが姫さんを叩いた話はしただろ?…先遣艦隊が墜ちてから、お嬢ちゃんは明らかに情緒が不安定だ。そんな状態で爆発した感情を中途半端に止めたら、この先、発散されなかった気持ちが取り返しのつかない形で暴走すると思ったんだよ」

「だから見逃したと?」

「姫さんの方が先に手を出したのには驚いたがな。もちろん、本当にヤバいと判断したら俺自ら止めに行ったさ…俺達は戦争に関係のない奴らを戦いに巻き込んでおきながら、自分達のことでいっぱいいっぱいになってロクにメンタルケアもしてやれなかった。キラの奴を見たか?寝たきりになってから、ずっと飲まず食わずで痩せこけているのにギラギラした目をしてやがった」

「ええ…危ういわね…」

 

無論、間が悪かったという意見も出るだろう

 

寝たきりから目を覚ました時は低軌道上での撤退戦の最中、その後の気絶から目を覚ませば砂漠の虎の襲撃と、ほんの僅かに休む間もなく戦闘が起きたのだ。しかもキラの力が無ければ無事でいられなかった事を考えると始末が悪い

 

しかし、それを言い訳に正当性を主張するのも間違っているとマリュー達は理解していた

 

「俺達が出来るのは、せいぜい自分自身の心を整理しようとするあいつらの邪魔をせず見守ってやることくらいだ…ほんとロクな大人じゃねえぜ、俺って奴は」

「それを言うなら私もよ」

 

キラ…いや、キラとキラが守ろうとするサイ達の存在がなければ、ストライクだってヘリオポリスの時点で破壊或いは奪われていた可能性も十分にあった。そうなれば連鎖的にアークエンジェルも轟沈していただろう

 

「ま、後は若い奴らに任せて、俺達は艦の中に戻るとするか」

「待ちなさい」

 

気兼ねなくなったとタラップに登ろうとするムウを呼び止めるマリュー。振り向くとそこには美人艦長の眩い笑顔がムウの目には映っていた…いっそ、寒気を感じるほどに

 

「あなたの理屈はよく分かったわ…でも、艦の中で不和を残すような事態を見逃したあなたを放置したままじゃ、部下達に示しがつかないし艦長としても見過ごせないわ」

「マ、マリュー?」

「というわけで、あなたには3日間トイレ掃除の罰を与えるわ。もちろん、1人で全部やるのよ」

「ちょ、ちょっと待てよ、俺はむしろ皆が仲良くできるようにだな…」

「やるわね?フラガ少佐」

 

その氷の笑みはどこまでも恐ろしく、美人な分感じる恐怖も倍増だった

 

「…了解しました、艦長殿…」

(女って怒らせたら(こえ)えな…)

 

フレイ、ラクス、そしてマリューの姿を思い返しながら、力なく敬礼するムウであった

 

 

 

時は経過して夜…

 

「痛った…」

 

営倉に入れられたフレイは砂埃で汚れた身体に不快感を覚えながらも、張られた頬や引っ張られた髪の痛みに呻きながら膝を抱えて寝転がっていた

 

「…なんなのよ、アイツ…」

 

思い出すのはこの(ふね)に乗っているプラントのコーディネイターの事だ。父を目の前で失った自分と違って、ロクに辛い思いもしてない能天気な箱入り娘の癖に、自分を引っ叩いて説教してきたのだ

 

「…………」

 

愛されることがあった。羨まれることがあった。妬まれることがあった。叱られることもあったし気持ち悪い視線を受けることもあった

 

でもあんな風に叩かれて怒られることなど、今まで1度も経験したことがなかった

 

「ママがいないからかな…」

 

フレイには、フレイを産んで間もない時期にこの世から去った母親がいた。原因は当時急激に広まった流行病(はやりやまい)である

 

『S2型インフルエンザ』。C.E.56年にS型インフルエンザが突然変異したウイルスであり、従来のワクチンが通用しなくなった結果、多数の死者が出てしまったのだ

 

この多数の死者の中にはコーディネイターの存在が確認されないと報道され、結果、ナチュラルが「コーディネイターによる陰謀」と噂し、断定。C.E.58年にプラントから増産したワクチンが地球に供給されるも、身体が丈夫で疾患に罹りにくいが故に薬学に関する研究がナチュラルよりも遅れているコーディネイターがあっさりとワクチン開発に成功した事は、余計に一部ナチュラルからの上記の噂が真実なのではないのかとの疑念を煽ってしまうのであった

 

家族が1人もいない悲しみに暮れる中、カタリという音が背後からなる

 

「フレイ様、ご夕食をお持ちしました」

 

そして聞こえてきたのは忌々しい女の声。勢いよく振り向いてみれば、格子越しにラクス・クラインの姿が見えた。格子の隙間からサンドイッチの載っている皿が中に入れられている

 

「…アンタ、何のつもりよ」

「…わたくし、罰を受けましたの」

 

口元の横に貼られたガーゼが痛々しく歪む

 

「保護した民間人とはいえ今回はやり過ぎだと艦長に怒られてしまいまして…その罰として、フレイ様に食事を持っていくようにと頼まれました」

「何が罰よ。元を辿ればアンタが引っ叩いてきたのが原因じゃない」

「…感情任せに叩いたことは謝ります。ですが、あそこまでしないとあなたが話を聞いてくれないと思ったのも本当のことです」

 

その凛とした表情や態度が気に食わなかった。

自分達(ナチュラル)とは根本的に違う生物なのだと見せつけられているようで、普通の少女らしいラクスを何度も見ていた分、そのギャップが非常に気持ち悪かった

 

「だったらなんだっていうのよ!?アンタが何を言ったって、アンタ達が殺したパパも…ママも帰ってこないのよ!?コーディネイターなんかに私の気持ちなんか一生分かんないわよ!!」

「お母様も…?」

「そうよ!私が産まれてすぐ、アンタ達(コーディネイター)が広めたS2型インフルエンザでママは死んじゃったのよ!もう私には家族がいないのに…!どうしてパパとママを奪ったコーディネイターはのうのうと生きているのよ!!だから許せないのよ!!」

 

フレイが語った両親の死に、ラクスは手を胸に当てて黙りこくる

 

「まさか、そんな…」

 

憎しみの炎が再燃してきた赤髪の少女は、なんとかこの女を殺せないものかと頭の中で考え込む中…

 

「フレイ様も…()()()()()()()()()()お母様を亡くされていたなんて…」

「………え?」

 

小さい唇から出てきた言葉に、思わず憎悪の火を鎮火させてしまった

 

「ちょっと…何、言ってるの…?アンタのママも、あのウイルスで死んだっていうの…?」

「はい、その通りです」

「デタラメ言ってんじゃないわよッ!アンタ第二世代コーディネイターでしょ!?だったら両親はどっちもコーディネイターのはず…ナチュラルにしか(かか)らなかった病気がコーディネイターに効くわけないじゃない!!」

 

そんな困惑した声に対してラクスは告げる

 

「いいえ、そもそもその認識が間違っています。お父様やそのお知り合いの方から聞いた話ですが…当時、S2型インフルエンザの脅威はプラント、地球問わずコーディネイターにも襲い掛かり、少ないながらも疾患者と犠牲者が出たそうですわ」

「でもおかしいじゃない!だったら何で『コーディネイターには誰1人感染してない』なんて報道されて…」

「お父様は、連合が民衆の世論を反コーディネイター思想に染め上げる為に報道規制をしたのでは、と言っておられました」

「……うそ……」

 

フレイの中の固定概念の1つがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。それほど、ラクスから聞かされた真実は衝撃的であった

 

頭の中では嘘をついているのだと言い聞かせるフレイであったが、1度その話を聞いてしまった以上、S2型インフルエンザの原因はコーディネイターだと決めつけることが出来なくなってしまっていた

 

それに…

 

(こいつも…私と()()で、病気でママが死んじゃって1度も会ったことがないのね…)

 

婚約者のサイにも、数少ない女友達のミリアリアにも、父親のジョージにも理解されなかった母親がいない事への孤独感。そんなフレイと似た境遇である少女がコーディネイターである事には思うところが大きくある

 

が、それでも、ただの憎い敵だと見れなくなるほどに、フレイはラクスに対して()()()()()()()()

 

「…………」

 

足元に置いてある皿に目をやる。卵だけ挟まれたサンドイッチを手に取って、口に入れて咀嚼する。相変わらず保存目的に大きくウェイトが傾いた不味い艦内食だ。ボソボソとした食感を飲み込む

 

「…ねえ」

「なんですか?」

「さっきの話…やっぱり変よ。連合はウイルスの事件をプロパガンダに利用したいから黙っていたのは分かるけど、じゃあなんでプラントは黙ってたのよ」

 

そう、ラクスの語る真実はそこが矛盾しているのだ

 

今の話を本当のことと仮定するならば、丈夫な肉体を持つ故に薬学関係が弱かったプラントがワクチンを開発出来たのも納得がいく。コーディネイターの未来が掛かっているのだから当然だ

 

しかし、それならば何故プラントのコーディネイターは自分達が疑われてでも真実を公表しなかったのか、それだけが理解出来なかった

 

「わたくしも詳しくは知りません。しかしお父様曰く、コーディネイター至上主義の者達がコーディネイターの優位性を維持する為にそれらの意見を封殺した…らしいです」

 

だが、ラクスが語ったあまりにもトンチンカンな理屈にはフレイも少しの間固まってしまった

 

「…何それ?たかがインフルに罹らないってだけでプラントが有利になるとでも思ったってこと?自称新人類が聞いて呆れるわね」

 

あまりにもバカバカしい理由にそう呟いたが、笑みも浮かべず顔を俯かせる姿を見るに向こうも思うところがあるのだろうとフレイは思った

 

「フレイ様は…これからどうするつもりですか?」

「…変わらないわよ。パパの仇を討つ為にコーディネイターを殺す…殺してやるわッ」

 

自分に言い聞かせるように言う。そうしなければ、この黒い感情がどこかに霧散してしまいそうだから

 

フレイがそう考えていると、急にラクスが格子の隙間から営倉に手を入れ、フレイの手を優しく包み込んだ

 

「ッ、ちょっと、何を」

「あなたは優しい人です」

 

拒もうとした手が動きを止める

 

「あなたはご自身のお父様を深く…深く愛していたからこそ、奪ったわたくし達(コーディネイター)を強く憎むのですね」

「……」

「しかし…だからこそ、その優しさをもっとサイ様達にも向けてあげてください。あなたは、あなたは…まだ、孤独ではないのですから」

 

本当に……こいつは意味が分からない。自分達を殺そうとしている相手に、どうしてここまで優しくしようと思えるのだろうか

 

何より、今はそれに気持ち悪さじゃなく…心地良さを覚えるのは何故なのだろうか?

 

これ以上知れば溺れてしまいそうな感覚から逃れるように手を払いながら、営倉の奥に引っ込む。横になって、もう話しかけてこないようにする

 

カチャリ

 

皿を拾う音と立ち上がる気配を背後で感じ取り……最後にあいつはこう言った

 

「おやすみなさい、フレイ」

 

その言葉を最後に、ラクス・クラインは営倉の前から立ち去り、完全に気配が消える直前…フレイは口を動かす

 

 

 

「おやすみ……ラクス」

 

 

 

この日フレイは初めて、父が死んだあの日の悪夢を思い出すことなく夜を過ごした




本作ではC.E.54年に起こるはずの「S2型インフルエンザ流行」が2年ズレてC.E.56年に起こったことになっています。フレイ、ラクスの母親の死因に関しても特に詳細な情報がなかった為こちらの都合のいいように設定させてもらいました。ご了承ください
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