種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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あけましておめでとうございます

長らくお待たせしました最新話です


束の間の安息

バナディーヤ。アンドリュー・バルトフェルドが本拠地とする砂漠に囲まれた大きな街であり、その街道をキラ達は3()()()歩いていた

 

キラが苦笑いを浮かべていると、自分の前で歩いている2人の少女の内の1人、フレイがツンとした顔で言う

 

「…なんでコイツと一緒に行かなきゃいけないのよ」

「ハ、ハハハ…」

 

そんなキラの顔には思いっきり叩かれた痕が残っており、不機嫌なフレイともう1人の存在を合わせれば、傍から見れば痴話喧嘩の直後のようにも見えた

 

フレイの嫌味たっぷりな言葉に、もう1人の少女…カガリがジロっとフレイを睨みながら言い返す

 

「この街の事をロクに知らないお前たちの案内をしてやるって言ってるんだぞ?虎の住処だから死ぬ可能性だってある。なんだその言い草は」

「ま、まあまあ」

 

これ以上彼女(フレイ)を刺激しないでくれという意味を込めてカガリを宥めるキラだったが、やや遅かった

 

「初対面で案内する相手を引っ叩くのがアンタのやり方?随分野蛮なレジスタンスの案内人ってことね?」

「あっ、バカ!虎の連中に聞かれたらどうする気だ!?」

 

『レジスタンス』というワードにカガリが焦りを見せる。自分や皆を野蛮扱いしたことにも真っ先に抗議したかったが、フレイが明けの砂漠内でも徹底されているNGワードを発したことのヤバさの方が上回ったのか、一旦怒りを飲み込んで叱責する

 

ちなみにフレイの言う「初対面の相手を叩いた」という話は、案内人として合流した際に再会したキラに詰め寄り、話の流れでキラがストライクに乗っていることを知ったカガリがキラを引っ叩いたことを指す。その理由はカガリにしか分からない

 

父を守り切ってくれなかったコーディネイターのキラに対してどこか複雑な感情を抱いているフレイだが、だからといっていきなりキラを殴ったカガリに良い感情を持つことがフレイに出来るはずがない

 

「アンタにだけはバカって言われたくないわよ!このバカガリ!」

「バカガ…!?い、言って良いことと悪いことがあるだろお前!!」

「お、落ち着いて2人とも!ここ街の中だから!」

 

そのまま掴み合いの口論にでも発展しそうなところで、キラが喧嘩っ早い2人を止める

 

そして不機嫌な雰囲気を隠さないまま、フレイとカガリはそっぽを向いて歩き出していった

 

(僕、気晴らしの為に街に来たはずだよね…?)

 

だと言うのに何故こんなに疲れなければいけないのだろう?

 

そんな事を考えながら、キラは2人の後を追うように走り出すのだった

 

 

 

同時刻、アークエンジェル格納庫ではちょっとした事件が起きていた

 

「やめろ坊主!お前じゃ無理だ!勝手に動かすとどうなるか…おわぁッ!?」

 

大声を上げて「それ」を止めようとするマードックだが、「それ」の誤った挙動から次に何が起こるか察したマードックは部下と一緒に退避する

 

ズシィン…!

 

「それ」の正体であるバクゥが壊れた玩具のような挙動で動いており、歩き出そうと踏み出した前脚が着地に失敗して、MSスーツの中で横転する

 

『うわあああ!!』

 

外部スピーカーから男の悲鳴が流れる。埃と工具を撒き散らして倒れ込んだバクゥの右前脚は衝撃で装甲が凹み、これは今日の作業は徹夜になるぞとマードック含む整備班はゲンナリとした表情を浮かべた

 

やがて騒ぎが大きくなる中、バクゥを無断で動かそうとしたパイロットは悔しさのあまり涙を流す

 

『クソッ!どうして!…どうしてフレイに動かせて俺には動かせないんだよ…!!』

 

涙と共に、サイ・アーガイルは心に溜まった毒を吐き出した

 

 

 

場面は戻ってバルディーナ…

 

買い物を終えたキラ一行はパラソルがつけられた丸テーブルを囲むよう椅子に座り、床に大量に商品が詰め込まれた紙袋を置いた

 

「やっと買い物が終わったわね、疲れた〜」

「なぁ〜にが「買い物が終わった」だよ。お前が化粧品とか探すから時間がかかったんじゃないか、こんな砂漠の街にある訳ないのに。しかも荷物持ってたのコイツ(キラ)だぞ」

「僕は気にしてないから」

 

苦言を呈するカガリだが、キラは持ち前の優しさと気の弱さ、そしてフレイに対する強過ぎる罪悪感からやんわりと彼女を庇った

 

「何よ、エリザリオの乳液とか化粧水とか探さなかっただけ大分ましでしょ?これでも相当我慢したのよ」

「エリ……なんだって?」

「…バカガリには分かんないか」

「あー!!また言ったなお前!?ここに来るまで何回それ言ったんだよこの……!!」

 

売り言葉に買い言葉で、カガリが立ち上がってまた喧嘩に発展しそうになるが、道中で叫び過ぎていたのもあって喉が渇いていたカガリはそれ以上の言葉を呑み込んで、ついでと言わんばかりにお冷の水を喉に流し込むように飲み込んだ

 

そうしている間にウェイターがキラ達のテーブルにやってきて、大きい生地の上にスライスした肉、レタス、輪切りのトマト一切れが乗った3人の前に置いていく

 

一風変わった料理の登場にフレイが呟く

 

「何これ…?」

「何だよ、お前ドネルケバブを知らないのか?」

 

誰が見ても嬉しそうなのが丸わかりのカガリは赤いチューブボトルを手に取りながら説明する

 

「この店で1番美味い料理さ!あー、疲れたし腹も減った。ほら、お前達も食えよ。このチリソースをかけてぇ…」

「──あーいや待ったぁ!ちょっと待ったぁ!ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースをかけるのが常識だろうが!」

 

そうしてチリソースをかけようとした時、テンガロンハットを被ってサングラスを掛けた怪しい褐色の男が静止の声を上げた

 

せっかくの良かった気分に水を差されたカガリは、年頃の少女とは思えないドスの効いた声で褐色の男に威圧する

 

「ああ?」

「いや、常識というよりも…もっとこう…んー…そう!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」

「…何よいきなり…」

 

急に話しかけてきた男にジロっとした視線を向けるフレイ

 

「なんなんだお前は!見ず知らずの男に、私の食べ方をとやかく言われる筋合いはない!ハグッ!」

 

そう言うと素早い動きでケバブにチリソースをかけ、切り分けたケバブを一息に口に放り込む

 

「あ───なんという……」

「っんま────い───!ほぅらお前らも!ケバブにはチリソースが当たり前だ!」

「だぁぁ待ちたまえ!彼らまで邪道に堕とす気か!?」

「何をするんだ!引っ込んでろ!」

「君こそ何をする!ええい!この!」

「ぬぅぅぅ!」

 

赤と白のチューブボトルを持った2人が、テーブルを挟んで取っ組み合いを始める

 

互いに忌むべき相手を押し退け合いながら、好みのソースをかけようとした結果…

 

「あっ」

 

一言漏らしたキラの視線の先…赤髪の少女に配られたケバブにチリソースとヨーグルトソースがこれでもかというほどかけられた

 

先程までいがみ合ってた2人は赤と白に彩られたケバブを仲良く眺めて、そして…

 

「アンタ達、何すんのよ───!!!」

 

フレイはこれでもかと言うほど絶叫した

 

 

 

店の近辺で、怪しげな集団がキラ達を…正確にはキラ達に混ざった謎の男を見ている

 

「そろそろ始める時間だ」

「あのテーブルに居る子供は?」

「その辺のガキだろ。どうせ虎とヘラヘラ話すような奴だ」

『待ちな』

 

銃器を手に男達が動こうとした時、手元のトランシーバーから特徴的な男の声が響く

 

『虎の近くにいるガキ…おそらく赤髪と金髪の嬢ちゃんが混じってんだろ?』

「え?どうして分かったんですか、隊長?」

『そいつァ俺が虎を(おび)き寄せるために用意した囮だ。茶髪の男の方は使えるから怪我ひとつさせんじゃねえぞ』

「はぁ…」

『だが女の方はまとめて殺っちまいな…赤髪の奴はモビルスーツを動かせるからなぁ』

「何…!?」

「あのガキ、コーディネイターか!」

 

並々ならぬ殺意を、自分の皿を男の皿と無理やり取り替える赤髪の少女に向ける面々

 

「では行くぞ、開始の花火を頼む」

「ああ。魂となって宇宙へ還れ!コーディネイターめ!」

 

 

 

「いやぁ、悪かったね〜」

「ええ、まあ…ミックスもなかなか…」

 

フレイのワガママで皿を無理やり取り替えられたキラは、特に文句も言わず赤白のソースが混ざり合ったケバブを口にする。ちなみにフレイは明らかに不機嫌そうな顔で何もかけてないケバブを頬張っていた

 

そして男はキラ達の足元にあるたくさんの買い物袋を見ながら3人に問いかける

 

「しかし凄い買い物だねぇ。パーティーでもやるの?」

「五月蠅いな、余計なお世話だ!大体お前は何なんだ?勝手に座り込んでああだこうだと…!」

 

それに対し、この不審者のせいで要らぬ怒りを受けたと思っていたカガリは質問を拒絶する

 

『!』

 

しかしその瞬間、男の方は経験から複数の気配を、キラは戦場で否応なしに培われた感覚から殺気を感じ取った

 

「伏せろ!」

 

男は唐突にテーブルを自分達の盾となれるよう倒す

 

「うわっ!?」

「キャア!?」

 

その際、テーブルの上に乗っていた皿やコップの中身をフレイは頭から被ることになったが…テーブルを倒さなかった場合の自分の末路を知れば、この程度はずっとマシだったと考えるだろう

 

ダダダダダダ!

 

「キャァァー!」

 

直後、銃声と通りすがりの女性の悲鳴が往来に響く。テーブルを素通りした弾丸や跳弾が無関係の市民に命中する

 

「無事か君達!」

「な…なんなんだ一体…!」

「死ね!コーディネイター!宇宙の化け物め!」

「青き清浄なる世界のために!」

 

突然の出来事に混乱するカガリだが、銃を乱射する男達が口にする文言を聞いてその正体に気づく

 

「ブルーコスモスか!」

「ブルーコスモス…!?」

 

フレイはそのワードを聞いて驚く

 

ブルーコスモスの事が知らないわけではない。むしろよく知っているくらいだ。他でもない、フレイの父自身がブルーコスモスだったのだから

 

「うわぁぁ!!」

「構わん!全て排除しろ!」

 

考えている間に状況は一変する。キラ達を守った男が号令をかけると、周辺から現れた武装集団と一緒にテロリスト(ブルーコスモス)を蜂の巣にする。人がゴミ屑のように死んでいく様に吐き気を覚えるキラとフレイ

 

だが、キラとフレイと男達は、死に損なったブルーコスモスの一員が拳銃を向けていることに気づくのが遅れた

 

バァン!

 

弾丸はフレイの頭部に向けて一直線に放たれ

 

「ぐぅ!」

「えッ」

 

直前にフレイを庇ったカガリの肩を貫いた

 

「うう…!」

「カガリ!?」

 

そして、それを間近で()()()()()()キラが思い浮かべたのは、ストライクのモニター越しで見ていた人の死に様

 

「…! お前ェ!!」

 

護衛にと持たされた拳銃をホルスターから取り出す。激情に駆られたキラに躊躇はなく、()()()()()()()()()銃口から飛び出した銃弾は死にかけの男の右胸に見事直撃した

 

「ぐえ!」

 

ビクン!ビクン!と生々しく痙攣しながら、ブルーコスモスの男は怨嗟の篭った眼光でこう言い残した

 

「コーディ、ネイターめ……くたばれっ」

 

血を流して地獄に堕ちるブルーコスモス。それはターゲットの男とフレイに向けられた言葉だが、何も知らないキラは自分に向けられた言葉なのだと錯覚し、その怨みを受け止める

 

「…ぼ、僕が、やったのか?……うっ!」

 

あまりの呆気なさにキラは思わず唖然とし、そして思い出したかのように込み上げてくる吐き気に身を任せ、消化しきれてない胃の中のケバブを吐瀉物として地面に吐き出す

 

ストライクに乗った時とは違う、自らの手で殺人を冒した感覚に得も言われぬ不快感があった

 

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの…?」

「初めて人を殺したんだな、少年」

 

すると、サングラスの男がキラに近づき背中を優しくさする

 

「初めて人を殺せばこうもなる。例え『モビルスーツに乗って敵を殺した事があった』としても、な」

「! なんでそんな事を知って…」

「隊長!ご無事ですか!?」

 

何故キラがMSに乗っていることを知っているのか聞こうとした時、銃を持った若い男、ダコスタがサングラスの男に近寄る

 

「ああ、私は無事だ!しかし彼らを巻き込んでしまってな…怪我人もいる。案内するぞ!」

 

そして肩の痛みに悶えるカガリは、サングラスを取った男の顔を見て、思わず呟く

 

「アンドリュー・バルトフェルド…」

「え…?」

「砂漠の虎…」

 

カガリの視線を追うようにフレイはその男を…“砂漠の虎”バルトフェルドを見るのだった

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