種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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『少女たちの激情』でサイがカガリを止めた理由が、今更ながら不自然だと思ったので修正しておきました。あまり本筋には大きく関わらない事柄なので、気になる方だけ確認してください

それでは本編どうぞ


過去の亡霊

トラブルに巻き込まれながらも、なんとかキラ達はサイーブ、ナタル達との合流に成功する。その際にドレスを着ている2人の少女に驚きもしたが、細かい話は後ですることになり、そのままバギーに乗って砂塵の中に消えていく

 

それを遠くから見ている者達に気づかずに

 

 

 

空がオレンジ色に焼けている時間帯に明けの砂漠の拠点に戻ってこられたキラは、アークエンジェルのブリッジにいる艦長たちと情報共有すべく対面していた。ちなみにフレイとカガリの2人はドレス姿は不味いということで現在着替えている最中だ

 

最初にムウがキラの肩を叩いて帰還を労う

 

「よく無事に帰ってきたなキラ。街でブルーコスモスのテロがあったって聞いた時は冷や汗をかいたぜ」

「ありがとうございます…」

 

そう返事をするキラの顔つきは強ばっており、それを見ただけでキラ達に何かがあったのだとムウやマリューは察した

 

「バジルール中尉から大まかに話は聞いたわ…敵の指揮官に会ったそうね」

「………はい……」

 

少しの沈黙を挟んでからキラは返事をする

 

言えない。そんな事より自らの手で人を殺してしまったと、苦しくて気持ち悪くて仕方がないと訴えたかった

 

だが、そんな訴えが取り入って貰えるとは思っていない。既にMSで人殺しを経験しているし、ただのMSパイロットでしかないキラの精神的不安より敵の情報の方が重要だという事を漠然と理解していた

 

だからキラは()()()心を抑え込み、何があったのかを事細かに説明するのだった。食事を取ろうとした店でバルトフェルドと出会ったこと、ブルーコスモスのテロに巻き込まれたが助けられたこと、彼の拠点まで招待され、今の戦争の話をしたこと…

 

そこまで話して、キラはある質問をする

 

「そう言えば、あの人が最後にこう聞いてきたんです。アリー・アル・サーシェスという名前を知らないかって…」

「アリー・アル・サーシェスだと?」

 

その言葉を聞いて、表面上唯一ムウだけが、中身も含めればゲイリーも反応していたが彼はポーカーフェイスで隠し通す

 

他の者はその名前に心当たりがなく、全員の代表としてマリューがムウに聞く

 

「知っているの、少佐?」

「…噂程度ならな… 最低最悪の戦争屋、コーディネイターを超えたナチュラル、大体はこんな感じだ」

「待ってちょうだい。そんな噂、私は1度も聞いたことがないわ」

「本官も聞き覚えがありません」

 

2人のそんな質問にゲイリーが割って入って答える

 

「噂の中じゃザフト兵を殺してジンを鹵獲したって話も聞くぜ。直接殺すところから考えるに、多分そいつァ常に最前線で戦っていたんだろうよ。それなら技術士官だった艦長やこの艦のクルーとして待機していた中尉に噂が届いてないのも納得がいく」

「随分詳しいじゃないか?」

 

「同じ最前線の兵士である俺でも知らなかったことを何故知っている?」と言外に言ってくるムウに、ゲイリーは観念したように口を開く

 

「…こいつは本来機密事項扱いなんだが、既に軍内じゃ公然の秘密だからな…俺が所属している連合騎兵連隊、その戦争屋はかつてそこに所属していた()()()

「え?」

 

苦々しい顔でそう言うゲイリーの顔は、まさに知られたくない汚点を知られてしまったと言わんばかりだ

 

男の珍しい側面を見てキョトンとするブリッジの面々だったが、ムウだけは違った。その隊に属しているにも関わらず曖昧な言葉をゲイリーが使ったからだ

 

「ちょっと待てよ。「らしい」ってのはどう言うことだ?そいつはもう機兵連隊にはいないのか?」

「………」

 

しばらく無言のゲイリーだったが、何かを決意したのか静かな口調で“真実”を告げる

 

「…死んでんだよ」

「…なんだって?」

「アリー・アル・サーシェスはとっくに死んじまってたんだよッ。俺が転属する前の、この戦争が開戦した当日にだ」

 

正確にはMIA(消息不明)扱いだがな、と説明するゲイリーにムウがあり得ない、矛盾してると叫ぶ

 

「ザフトのジンが戦線に投入されたのはちょうど開戦の時だ!噂とはいえ鹵獲したんだったら生きて帰ってきているはずだ!死んだならまだしも、消息不明ってのはどう考えてもおかしいだろうが!!」

「ンなこたァ俺も分かってんだよ!!だが上の連中(上層部)が死んだと言った以上余計な詮索はできねェ。…軍ってぇのはそういうとこだ。テメェが1番よく分かってるはずだぜ、『エンデュミオンの鷹』さんよ」

「……!!」

 

かつて、月面のエンデュミオン・クレーターにあるプトレマイオス基地がザフト軍の攻撃によって壊滅した『グリマルディ戦線』…そこでメビウス・ゼロに搭乗してザフトを迎撃したことにより、ムウ・ラ・フラガは英雄『エンデュミオンの鷹』として名を上げた…()()()()()()()()()()()()

 

事実はこうだ

 

地球連合軍側はメビウス・ゼロの精鋭部隊を投入して徹底抗戦の構えを見せたが、防衛線で地球連合軍の第3艦隊は壊滅し、施設破壊のため、レアメタルの混ざった氷を融解するために設置していたサイクロプス(原理は電子レンジにも用いられるマイクロ波によって敵を焼灼するもの)を暴走させ、ザフトを撃破する。しかし連合も基地を放棄せざるを得なくなり、結果としてグリマルディ戦線は崩壊した

 

この時の壊滅したメビウス・ゼロ部隊、そしてサイクロプス暴走から唯一逃れた生存者こそが、ムウ・ラ・フラガなのである

 

連合上層部は大敗の隠蔽と連合の戦意高揚の為のプロパガンダとしてエンデュミオンの鷹という偶像を作り上げ、真実を知るムウを口封じのため後方に追いやり、G兵器テストパイロット護衛の任務をやらされていたのだ

 

上層部の汚い部分を知っているムウだからこそ、ゲイリー・ビアッジの挑発にも聞こえる警告が理解できた

 

これ以上突っつくなという警告を…

 

「ゴホン!…話を戻していいかしら?」

「あ、ああ…悪い…」

「気にしないで。私たちが聞いたことなのだから」

 

わざとらしくマリューが咳払いをすると、話の軌道を修正する。そして休んでもらう為にキラを部屋に帰して、今後の対策を皆と練っていく

 

話し合って共有した情報は、エンジンの状態から激しい戦闘を想定した移動は現状できないこと、物資の補給はある程度目処がたったこと

 

後は航路と、砂漠の虎への対策だった

 

「航路はどうしますか?最短距離で進むことだけを考えれば大西洋方面を一気に抜ける方がよろしいですが…」

「無理だろうなぁ。そっちにはジブラルタル基地がある。強引に通ろうとすれば砂漠の虎と連携されてこの(ふね)は墜ちるぜ」

 

即座にゲイリーが否定するが、発言したナタルも同じ事を考えていたようで当然だと受け入れる

 

オーストラリアのヨーク岬半島とアーネムランド半島にまたがるカーペンタリア湾に位置するザフトの重要軍事基地。それがジブラルタル基地だ

 

ジブラルタルに建築されている基地にはザフトの地上戦力の大半、どれだけ安く見積っても1/3は現存しているのだ。最新鋭だろうと戦艦1挺とMS3体(内1体はガンダムですらない)だけでは絶対に陥落させることはできない物量が存在する

 

「それに、(宇宙)で追いかけてきた連中も気がかりだ。まだ俺達を追いかけてきているのだとすれば、間違いなくジブラルタルに降下してくるだろうよ」

「そうね、あそこにはマスドライバーもあるわ。いざという時に宇宙(そら)に上がれることを考えれば降りていると思う。大西洋を横断するのはリスクが高過ぎるわね…」

「そうなれば南アメリカ合衆国の南沿岸海域を通るルートもダメということですか…最悪カーペンタリアの戦力と挟み撃ちになる可能性すら有り得る」

 

そうなれば後はインド洋、太平洋を経由したルートしか残っていない

 

ちなみに海路以外、陸路も横断することは可能ではある。しかし、アフリカ連合国と隣接してる陸路はユーラシア大陸…つまりユーラシア連邦の縄張りである。アルテミス基地にいたガルシアの横暴を考えれば、みんなは自然と陸路を除外していたのだった

 

閑話休題(それはともかく)

 

「このルートなら道中には赤道連合やオーブなどの中立国も多い。中立国を敵に回したくないならザフトも追撃を慎重にならざるを得んし、中立国も連合と敵対したくないだろうから俺らを無下には扱えねえ。1番良いのが領海侵犯に対して警告だけで済ませることなんだが…流石にそいつァ高望みか」

「それは無理ってもんだろ。向こうにも中立国としての立場とメンツがあるんだからな」

「ったく、オーブといいスカンジナビアといい、日和見主義の癖にプライドの(たけ)え連中はこれだから」

「ボヤいてもしょうがないわ。とりあえずアラスカまでのルートが決まりね。なら、後は今の物資でどれだけ──」

 

その後も連合本部に辿り着くための話し合いは続く

 

──そして、牙を磨く虎が大天使の喉元に喰らいつこうとしている瞬間は、刻々と迫っていた…

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