アークエンジェルがアフリカの脱出に苦心している一方、
そのプラントの首都であるアプリリウス市にある『プラント最高評議会』の査問会では、議長を始めとした数多くの議員が集まり、その中心には説明役として呼ばれたアスラン・ザラとラウ・ル・クルーゼの姿があった
彼らはヘリオポリス崩壊、そしてラクス返還の際に起きた状況を現場の視点から伝える役割として査問会に召喚された身だ。そうでなければ、白服と赤服とはいえ一軍人でしかない2人が評議会に呼ばれる事などない
「……つまり、ラクス・クラインの返還の最中に連合が奇襲を行い、結果互いに尋常ではない被害が出た、という事実に間違いはないと?」
「はい。付け加えれば、ラクス・クラインによって1度は停止した戦闘が再び激化した原因も、先ほど述べた青い新型の攻撃によるものです」
議長の重苦しい視線にも意に介さずアスランはスラスラと補足を付け加える
その言葉を聞いて議員たち…特に戦争の勝利を望んでいる「
「なんと卑怯で卑劣なことを…ナチュラル共め!」
「これでハッキリとした!奴らに和平の意思などない!我々が勝たねばプラントの、ひいてはコーディネイターの未来はないぞッ!」
「しかし、これをナチュラルの総意と捉えて事を起こすのはあまりにも早計な…」
「何を悠長な!!そうやって判断を先延ばしにすれば、更に奴らの好き勝手に──!」
「静粛に!!議員方、静粛に…!」
急進派と穏健派の討論が熱くなってゆくのを議長が鎮める。アスランはそれを冷たい眼差しで見つめながら考える
(会議は踊る、されど進まず…だな。なるほど、今ならば父上が戦勝に固執していた意味も少しは分かる。『あれ』はダメだ。あの男が、そしてあの男を使役する人間がいる限り、ナチュラルはいつまで経ってもこの不毛な戦いをやめようとはしない。いくらこちらが和平を唱えても…。ならばまずはコーディネイターの自由と平和を守るためにも、連合という悪を除かねば…)
その為にはあの
(いや、キラは連合に、あの男に騙されているだけだ。改めて説明すれば、キラだって分かってくれる…)
それは願望…否、懇願に近い妄想だ。そうであって欲しい、そうであってくれという過去の想い出に縋った少年の女々しい望み
「…ラウ・ル・クルーゼ、
そうこうしている間に落ち着いたのか、議長がクルーゼに、あの忌々しい青い新型に対して説明を求めていた
「分かりました。しかし、あの青いモビルスーツ…我々の方で『
「…では、アスラン・ザラ、聞かせてもらおう」
「ハッ!」
議長たちに敬礼すると、アスランはブルートの性能、武装、パイロットの能力…そしてあまりに危険過ぎるその思想を口にしていく
特にパイロットの戦争屋としての一面に対しては、気をしっかり保たねば、その危険性を伝えねばと今にも叫んでしまいそうな程だったが、その必死さは議員たちに嫌というほど伝播していく
更に公開された戦闘データの動画を見れば、アスランの信じ難い言葉が虚実でも誇大表現でもないと理解できた
「なんだこの動きは!?本当にこれをナチュラルが動かしているとでも言うのか!?」
「信じられん…」
「この特殊な武器、我々の技術部門で開発中の“ドラグーン”と同系統の物ではないのかね!?」
「ビーム砲を縮小するのではなくサーベルに変えることで小型化に成功させたのか…ナチュラルめ…」
「そのパイロット、本当にナチュラルなのか?」
「裏切り者のコーディネイターと?」
「そうでなければ説明がつかん」
「連合の子飼いか、あるいはオーブの…」
「有り
「しかしそのようなパイロット、中立国が抱き込むにはあまりにも現実味がないのでは…」
「だからこそ、連合とオーブは裏で繋がって…!」
「それよりも思想が危険だ。こんな者を利用するなど、ナチュラルは何を考えているのだ」
ヒートアップしていく議論。合間合間に議長が鎮まるよう呼び掛けるが、投じられた一石による波紋はその程度では簡単に収まるはずもなく…
「心の底から戦いたがる者など誰もおらん。我らの誰が、好んで戦場に出たがる?平和に、穏やかに、幸せに暮らしたい。我らの願いはそれだけだったのです」
立ち上がったある者がその場の全員に問うように口を開く。この場で議長の次に発言力がある人間…それはアスランの父親だった
「だが、その願いを無惨にも打ち砕いたのは誰です。自分達の都合と欲望の為だけに、我々コーディネイターを縛り、利用し続けてきたのは!我らは忘れない……あの、『血のバレンタイン』…ユニウスセブンの悲劇を!!」
その言葉は特に力強く発せられていた。アスランもギリギリと拳を握り締める。それほど、あの日あの時に奪われたモノは大きく、替えのきかない存在だったのだから
「24万3721名…それだけの同胞を喪ったあの忌まわしい事件から1年。それでも我々は、最低限の要求で戦争を早期に終結すべく、心を砕いてきました。だがナチュラルは、その努力をことごとく無にしてきたのです。我々は、我々を守るために戦う。戦わねば守れないならば、戦うしかないのです!」
(父上…)
最終的に、パトリックのその演説めいた弁論によって、議論は収束していった
「アスラン」
聞き慣れた声に呼ばれてアスランは振り向く。廊下の中心に優しげな視線の男が立っており、ともすれば自分の義父になるかもしれない者だった
「クライン議長閣下」
アスランは敬礼と同時に議長…婚約者ラクスの父親であるシーゲル・クラインをそう呼んだ
「そう他人行儀な礼をしてくれるな」
「いえ、これは…」
なんと返すべきか迷う。しかしシーゲルはそれ以上の悩みと迷いを抱えている表情をしていた
「ようやく君が帰ってきたと思えば、ラクスは地球に降りた…か…」
「…申し訳ありません。全ては自分の甘さが引き起こした結果です…」
「自分を卑下しないでくれ。少なくとも真正面から戦っていれば今以上の被害が出ていたやもしれぬ。それにただ最新の連合艦を墜としていれば…ラクスは地球に降りることすらも出来なかった…」
「……」
「中立派だったエルスマン議員が急進派に移った。まだカナーバやアマルフィが
「何故それを自分に?」
確かにシーゲルからすれば、アスランは愛娘の婚約者だろう。しかしそれ以上に、穏健派と対立してる急進派を率いているパトリック・ザラの子息という側面の方が強い
その弱みを何故自分に言うのか、理解できないアスランにシーゲルは諭すように言う
「確かに私と君の父は立場故に対立している。しかし、それでもパトリックは苦楽を共にしてきた盟友であるし、私に…いや、我々にとって大切なのは、敵を滅ぼすことではなく未来に何を残すかだ。もうすぐ私達の時代は終わり、君やラクス、そして多くの若者達が新たな未来を生み出す。それを君達にも分かってほしいのだ…」
「…シーゲル殿。その気持ちは俺も同じです」
先ほど父上が述べたように、誰だって好き好んで殺し合いたいわけではない。平穏を享受できるならそれだけで本当に良かったはずだ。しかし、連合はそれを良しとせず、プラントを骨の髄まで搾取しようとした。そしてそれが出来ない今、こちら側を滅ぼそうとしている
何より、許し難い
「だからこそ、俺は連合を、あの男を倒します。そしてキラとラクスを取り戻す…!」
イザークの治療が終わればニコルと共に、自身を隊長としたザラ隊として足付きを追撃する。ディアッカは再生治療を受けず義手を付けることになった故に、1人遅れはするが後に合流する手筈になっている。その時こそが雌雄を決する時になるだろう
親友と将来の伴侶を奪還する。
踵を返して任務に赴くアスラン
シーゲルはその背中に…