「状況確認!」
「これは…!3方向より、この峡谷に向けてのミサイル攻撃です!」
索敵担当の“ジャッキー・トノムラ”軍曹の報告を聞いたマリューは苦虫を噛み潰したような表情で呟く
「してやられた…!こちらの潜伏場所は既に把握されていたということね…総員、第一戦闘配備!!」
「聞こえているな!?総員、第一戦闘配備!!
「全くね。…敵は『砂漠の虎』!少なくとも3つに分かれた部隊を展開していると想定!アークエンジェル、発進する!」
「アークエンジェル、発進!」
峡谷の中に潜んでいても、やがて攻撃で崩落して身動きが取れなくなる。そうなる前にアークエンジェルを発進させて、マリューは指示を飛ばす
「敵は必ずこちらが出てきたところを叩いてくる!それとメインエンジンが損傷したままだから戦闘しつつ動くことは出来ないわ!峡谷の出入り口を背にしつつ敵の迎撃に専念しなさい!!」
「イーゲルシュテルン及びコリントスの射撃準備を急げ!!」
「熱源反応、多数確認!!アジャイル、ザウート、バクゥです!」
「攻撃来ます!!」
クルーの叫びと共に降り注ぐミサイルの雨を、対空迎撃バルカンと対空防御ミサイルで次々落としていくが、如何せん数が多すぎた。アークエンジェルとその近辺を守れても、岩山の上部や奥まで飛んでいった高速物体までは止められない
結果として、明けの砂漠の多くのメンバーが崩落に巻き込まれ怪我を負い、死者も多数出ていた
「くそ、虎めぇぇ!!」
「狼狽えるなっ!負傷者を救護しつつアジトの隠し通路から脱出しろ!出る場所を間違えるな、蜂の巣にされるぞ!!」
「サイーブ!虎にこんな事をされたのにおめおめと逃げるのか!?」
陣頭指揮を取るリーダーだが、バルトフェルドに強い敵対心を持つ大人のメンバーが食ってかかる。他の面子、特に若者達がそれに同調する
「そうだ!ここまでやられて引けるものか!!」
「今まで死んでいった仲間達の弔い合戦だ!!俺達の故郷を取り戻すぞ!!」
「バカヤロウッ!!これだけ周到に用意された奇襲、量も質も何もかもが上だ!我々が奇襲しても勝つ見込みがない戦力と戦いをする気か!?何より今戦えば助かる見込みのある仲間達も死ぬんだぞ!?ここは引け、命令だ!!」
「それでいいのかよサイーブ!?」
死にに行こうとする仲間たちを必死に説得するサイーブだが、そこにカガリが口を挟む
「ここで引けば、一生
「カガリッ…!」
「私は行くぞ!例え力で負けていても、心まで負けてたまるものか!!」
「よせ、カガリ!!」
「カガリの言う通りだ!!」
「連合なんざ頼らなくったって、俺達は戦えることを見せてやるぞ!!」
『おぉっ!!!』
説得も虚しく、キサカの静止を無視してカガリを筆頭に残ったメンバーの半数近くが、それぞれ武器を手にバギーに乗り込んで死地に向かっていった
「ええい、あいつら!!」
「サイーブ、俺達はどうする!?」
「…まずは怪我人の救護を最優先!!避難が終わったら俺達も戦いに行くぞ!ただしアークエンジェルの援護だけにしろ!前線に出ることは絶対に許さんっ!!」
「了解っ!」
キサカを含めた残りのメンバー達は、急いで負傷者を治療して脱出させるべく動き出す
国の未来を担う若者達を、これ以上死なせない為に
一方、アークエンジェルはザフトからの砲撃を必死に堪えていた。左右前方方面にピートリー級が2隻ずつ、真正面からレセップスが砂丘を防護壁代わりにして艦砲撃とMS部隊の波状攻撃を行う
「2時の方向よりアジャイル2機確認!」
「“ゴットフリート”照準!てぇー!!」
火線が空を裂き、ビームに引き裂かれた戦闘ヘリが空気を押し出して爆ぜる
「左右から多数のバクゥとザウート、前方からアジャイルの部隊が接近中!」
「挟み撃ちで来たわね…!フラガ少佐は正面の敵を攻撃!キラくんとアルスター准尉は右から来る部隊を迎撃しなさい!」
『了解っと!』
『分かりました!』
『りょ、了解!』
命令を聞いたムウは、下部にランチャーパックを装備したスカイグラスパー1号機で正面切って戦いに挑む。キラはエールストライクの機動性で砂漠を駆け、フレイはアークエンジェル艦上で固定砲台として狙いを定める
「なんで私は後方支援なのよ…!」
『ボヤくなフレイ!これだけの大部隊だぞ、新兵が前に出るには危険過ぎる!』
『モビルスーツは僕がやる!君は敵をアークエンジェルに近づけないようにしてくれればいい!』
「っ……!」
不服極まりない発言だったが、今の自分ではどうにも出来ない現実に閉口している間に、ストライクはビームライフルを手にバクゥ達の部隊に突っ込む
ビームを撃ち放つストライク。回避性能が無いに等しいザウートには命中するが、バクゥにはビームが勝手に逸れる事もあって中々当たらなかった
「クッ!熱対流が強過ぎてまだ逸れるのか!?」
大気圏内では宇宙空間と違い、大気や熱、磁場による影響でビームの減衰が発生する。普通ならばライフルを多少調整すれば問題なく撃てるようになるが、生憎真っ昼間の砂漠地帯は
灼熱の太陽はもちろんだが、何より強い直射日光を吸収・反射し、とてつもない熱気を発する砂地が曲者だ。加えて現在進行形で敵の猛攻を受けていることもあり、限りある時間で少しずつビームの出力を調整することしかキラには出来なかった
最も、普通は戦闘中に機体の調整を行うなどコーディネイターでも行い難い行動なのだが、それをぶっつけ本番で実行出来るキラは、やはり非凡な能力を持っていると言えた
「これなら、どうだ!?」
今度こそと撃ったビームは逸れる事なく目標に直進し、エンジンを穿たれた四脚の獣は撃墜される
「よし!これなら…」
そう思い気を引き締め直した時だった。バクゥの軍団に向かう、砂埃を上げる複数のバギーを見たのは
「レジスタンスの…!?どうして!?」
混乱する間もなくRPGを発射する明けの砂漠だが、携行用バズーカではバクゥの装甲を凹ませる事しか出来ない
『鬱陶しいんだよ
「ぐわああああっ!!」
「アフメド!?み、みんなァ!!」
当然、その攻撃はザフト兵を怒らせただけに終わり、ターレットのレールガンやミサイルを使うまでもなく、その軽快な脚でバギーごと逃げ惑う人間を轢き殺し、踏み殺す
「バカ野郎ッ!どうして出てきた!?」
MSに蹂躙される生身の人間を見捨てることが出来なかったキラは、爆発させては周りを巻き込むと超振動ナイフを手に取り、ジャンプしてバクゥを抑え込むようにのしかかる
『なんだぁ!?』
「ウアアアアアッ!!」
そのまま首の後ろにあるコックピットの出入り口に向けてアーマーシュナイダーを突き立てた。2秒ほど押し込んだ刃を引き抜けば、刀身にこびり付いた死体が裂け、血と臓物を撒き散らす
「うわっ!…ひっ!?」
ストライクの直近にいたカガリがそれをモロに浴び、血の滑りと臓器の感触に悲鳴を上げながら尻もちをつく
『裏切り者のコーディネイターが!』
「そこを退けえええッ!!」
飛び交うミサイルをイーゲルシュテルンで撃ち落とすと、エールストライカーの推進剤を存分に使って急接近し、バクゥの首下からアーマーシュナイダーを突き刺した
コックピットのザフト兵が生きているはずもなく、無理やりこじ開けられた下部の穴からバラバラ死体の残骸がオイルと共に滴り落ちる
臓物とガラクタと、血とオイルが、数少ない生存者達の視界に映る砂地を彩る
「う、あぁ…」
『…なんで…』
「え…」
『なんで出てきたんだっ!!』
機械のはずが、幽鬼のような生々しい恐ろしさを感じさせるガンダムの姿にカガリが戸惑っていると、ストライクのスピーカーから怒気のこもった声が流れ出る
『相手はモビルスーツだぞ!?手持ちの火器じゃ装甲を貫けるわけないのに、どうして無意味に死にに来た!!』
「む、無意味だと…!?」
最初は怯んでいたカガリだが、仲間達を侮辱したその言葉には我慢出来ず、目を吊り上げて、涙を流しながら叫ぶ
「
『ふざけるなァ!!』
だが、それは何よりも許し難い言葉だった。戦いたくもないのに戦うしかないキラにとって
ストライクがあって、お膳立てされても尚、フレイの父親を守れなかったキラにとっては
『気持ちだけで……!気持ちだけで、いったい何が守れるって言うんだっ!!』
「………っ……」
血を吐くようなキラの叫びに生き残った誰もが口を閉じた。スピーカー越しに男の嗚咽のようなものが流れ、砂漠に溶けゆく
ピー!ピー!
しかし、戦いは非情である。感傷に浸る時間も与えず、砂漠の虎の眷属たちは大天使を墜とす捨て石としてストライクに迫る
「くそ…なんで…!」
カガリ達から離れるように前進して、手持ちを武器をビームライフルに切り替えながら、キラは返ってこない疑問をぶつける
「なんで死にに来るんだぁ───!!」
生き残るために、守るために
段々と重さがなくなり始めた引き金を、キラは再び引くのだった