「アイシャ、本当に君も出るのか?」
橙色の角のついたバクゥ系統MSの下でパイロットスーツに身を包んだバルトフェルドが恋人に問う。視線の先のアイシャも白いパイロットスーツを着ており、兵士や戦士には似つかわしくない優しい表情をしている
「これだけ入念な準備をして、最後の一押しとして出撃してなお、僕たちには十分死ぬリスクがある。それを…」
「アンディを独りで死なせないわ」
そもそもMS操縦者としての適性がないアイシャがこの場に居ること自体が異質なのだ。だからこそバルトフェルドはアイシャにこの場から去るように説得するが、彼女はセリフに被せて言う
「寂しいじゃないの」
「…まっ、僕も死んでやる気はサラサラない。……こうなったら、何がなんでも生きて帰るぞお!!」
『ハッ!!』
自分自身が、何よりアイシャを生かして帰す為に
部下たちを鼓舞するついでにバルトフェルドは決意を口にMSに乗り込んだ
地雷原に敷き詰められた罠が次々と爆破していく
「イーゲルシュテルンでスカイグラスパーを援護しろ!それとウォンバットの装填を早く!!」
入念にアークエンジェルとブルートを潰しに来た砂漠の虎の兵士に油断は一切なく…というよりは、大半の兵士が低軌道上で仲間をやられた怒りで徹底的にナチュラルを潰そうとしている、と考えているのが正確か
とにもかくにも、レジスタンスの仕掛けたトラップなど歯牙にもかけず通り抜け、アークエンジェルから見て左舷方面からバクゥ部隊は迫ってくる
「“ウォンバット”、てェー!!」
側面から発射されたミサイルが大気を掻き分けてバクゥに向かう。ターレットに装備されてるミサイルとレールガンではこれらの破壊は叶わず、回避し切れなかったバクゥのパイロットはコックピットの中で絶叫しながら爆死していった
「バレットォォ───!!」
「構うなッ!今は敵を倒すのが先だ!…足付きを墜として、あいつらの手向けにするぞ!!」
戦友の死を振り切りながら、濃青の獣は砂漠を滑り背中のミサイルポッドを発射させる
回り込まれた事で迎撃の弾幕が薄くなり、そこを掻い潜ったミサイルが数発、アークエンジェルの側面に着弾する
ドォォォン!
ブリッジの中で全員の悲鳴が上がる
「くうっ…左側面上部に被弾!!損傷は軽微!!」
(同じ箇所に何度も攻撃を受けたらマズイわ!)
「左舷30度回頭しつつ迎撃!!」
マリューの指示にノイマンが操縦桿を切る。アークエンジェルが30度左回転する様子を見てもバクゥたちの動きに淀みはなく、砂丘による高低差を利用しながら一塊になってミサイルを撃ち放つ
「ちょっと!急に動かないでよ、もう!」
突如アークエンジェルが動いたことでミサイルのロックを外した状態で撃ってしまったフレイが文句を言うが、矢継ぎ早にストライクを取り囲んでいく敵の姿に、返答を聞かずに戦闘態勢に戻った
一方バクゥの編隊は開けた場所で距離を取りながら攻撃を繰り返す。大部分がアークエンジェルの豊富な武装で撃墜されるが、幾つかの攻撃はすり抜けていき、敵に軽微ながらもダメージを与えていく
「効いてるぞ!」
「このまま適切な距離を維持しつつ、回避を優先しろ!砂漠の戦いは我々に分がある事をナチュラル共に思い知らせてやるぞ!!」
『ところがぎっちょん!!』
ズガァン!!
突如、1番後ろにいたバクゥが真上にジャンプする
否、ジャンプしたのではない。宙に浮いている…正確には、砂の大地からいきなり飛び出してきたひと振りの大剣にコックピットを貫かれ、宙ぶらりんになっていたのだ
「バ、バクゥ部隊の中心から熱源確認!!」
レセップスのクルーが叫ぶ
貫通した部位からバチバチと紫電が走り、ピンクのモノアイが輝きを失う。剣がゆっくりと動き、ゴミを捨てるようにバクゥを放り投げた。落ちたバクゥが血のようにオイルを垂れ流し、灼熱の太陽で白く輝く砂地を染め上げる
そして、大剣を埋めていた砂が爆発したかのように飛び散って大きな布と一緒に宙を舞い…砂漠の真下から鉛色のMSが姿を現し、その身を寒色系のカラーリングに染め上げていく
「バ、バカな!?」
「砂の中にモビルスーツを──」
その言葉が最前線の兵士全員の心を代弁していた
確かにアークエンジェル側は一方的な防衛戦を強いられており、これを覆すには奇襲からの母艦を墜とす作戦が1番効率がいい。そして遮蔽物も砂丘もない砂地である以上、MSを隠せる場所は遥か上空か地下しか存在しない
『G』は宇宙空間での運用も前提とされている。だからコックピット内の環境は整えられているし、パイロットスーツを着込めば数日分酸素は確保できる
だとしても、一体誰が想像できるだろうか?いつ来るか分からない敵の為に、地面の中のMS、そのさらに中でずっと待機するなどという常軌を逸した作戦など
そして襲撃者がバクゥと睨み合うのも最初だけ、次の瞬間にブルートは防塵用のマントを踏みつけながら身を翻し、バクゥが出撃してきた方向に一目散に走り出す
「何……?」
「…! 奴の狙いは母艦か!行かせるかよっ!」
それを見た2名のザフト兵がサーシェスを追い掛けようとするのをリーダーのオリヴァーが止める
「待て、足付きに背を向けるな!!」
が、その忠告はもう遅い
「えっ、うっ、うわあああああ───」
「な、リナル───」
その忠告を聞いた直後にはバクゥに突き刺さったミサイルの信管が作動し、強烈な光と共にMSを木っ端微塵に吹き飛ばした
「リナルドとマルクまで…!ええいっ!!聞こえるかレセップス!?今そちらに例の青いモビルスーツが向かっているッ気をつけてくれ!我々はこのまま作戦通りに続ける!!」
『こちらでも確認が取れた!』
オリヴァーはコックピットの中で1人ごちる。自分を含めて2人だけになった部隊を見て心を痛めながらも、自分のすべき事を優先して実行に移す
そんなやり取りの最中、ブルートは砂漠をバクゥのように駆け抜け、敵艦隊の右翼側面を狙う。正面突破は艦隊の集中砲火を受け危険と判断した故だ
『来たぞ!』
『よくも仲間を…!仇を討ってやるッ!』
ピートリー級を守る為に置かれたザウートの砲塔が火を噴く。同じく近い位置の戦艦2隻もMS1機には過剰な砲撃やミサイルを撃つが、ブルートはこれらを一切喰らわないし、そもそも喰らったとしてもPS装甲に守られてる以上ダメージを与えるなど夢のまた夢だ
「喰らえっ!」
当然無傷のブルートはビームを戦艦に向かって放つ。しかし、ストライクたち前期GAT-Xの標準装備であるビームライフルよりも小口径であるブルートのビームハンドガンは火力がビームライフルに比べ少々弱い為、緑光は戦艦に届く前に熱気で掻き消され、霧散した
「何!?」
この出来事には流石のサーシェスも驚愕するが、すぐ様ビームが消えた理由に当たりをつける
(宇宙じゃ問題なく撃てた…前に砂漠でやった時も撃てたがあの時は夜だった…熱か?)
『ビームが撃てないのか、アイツ!』
『今だあっ!!』
そんなブルートの失敗を見たザウートのパイロットはチャンスと捉え、肩の2連キャノン砲、右腕の重突撃機銃、左腕の2連副砲を一斉に撃ちまくる
「へっ!」
だが、ブルートは砲弾と弾丸の雨あられを尽く躱す。着弾の衝撃でブルートの周辺に砂埃が舞い散り自然の煙幕を掻き分けてザウートの目の前に立つ
『ああ!?』
「どりゃァ!!」
ガギャアア!
斬る、というよりは叩きつけるように上段の構えから重斬刀でザウートを唐竹割りにする。火花が散ってから数秒後、黒煙を上げてザウートはバラバラに吹き飛んだ
『こ、こいつぅ!』
戦友が殺られた怒りに任せて突撃銃を青いMSに向けるが、次の瞬間ザウートのメインモニターはブラックアウトし
『何が───』
「ぎっちょん!!」
何が起きたのか確認する暇もなく、パイロットの意識も爆発に飲まれ永久にブラックアウトした。真っ二つになった
傍にいる振り切った姿勢のブルートの手にはビームサーベルが握られていた。サーシェスはあの一瞬でビームサーベルをザウートのメインカメラに投げつけ破壊、そのまま近づいて柄を握り、流れるように切り捨てたのだった
『撃て!!撃てえ!!』
命を次々と刈り取っていく死神を殺るべくピートリー級が攻撃するも、対戦艦用砲塔では小さい的であるMSに命中させることは困難だった
『何をしている!!たかがモビルスーツ1機に!』
無責任な艦長の言葉に反論したくなる砲撃手達だったが、その時既にブルートは艦上に着地していた
ガチン
そして甲板にハンドガンの銃口を密着させて、サーシェスは呟く
「これなら熱は関係ねえよなぁ?」
1回、2回、3回
引き金を引く度に無情な光が艦内を蹂躙し、やがて爆発と共に戦艦は沈黙した
直後、流星のような軌跡で降り注いできた砲弾。サーシェスはレバーとフットペダルを即座に動かしてブルートを横っ跳びに移動させ、ピートリー級の残骸を盾に砲撃を防いだ
「チッ、面倒な……」
だが砲撃は絶え間なくやってくる。既に残っていたもう1隻は中央のレセップスと合流してブルートを集中砲火で狙い、多くのMSとヘリを吐き出してから左翼のピートリー級2隻と共にアークエンジェルを取り囲み始めていた
レセップスから飛び出したMS群の中には、バクゥの発展型とでも言うべきオレンジ色の機体もあった
光の刀剣で両断されたバクゥが砂の大地に落下する
「これで、9機……!まだ…ハァ、ハァ…まだ残っているのか…!?」
ピー! ピー!
バッテリーのレッドアラートが響くコックピットの中で珠のような汗を流すキラの視界には、まだ5機ほどMSが残っていた。しかも遠くから更に新しい
『いい加減落ちろよストライクッ!』
「ぐう…!…うおおおっ!!」
しびれを切らしたバクゥが飛び掛かりながら背部のレールガンを撃つ。消耗しているキラは2発受けてしまうが、着弾と同時にPS装甲の相転移が発動し、電力を消費した。その防御力で無理やりバクゥに接近し、サーベルで切り倒す
『うわああ───』
「ハッ、ハッ、ハッ…!」
まさに鬼神が如き活躍を見せるストライクとキラ。しかし、その代償はすぐに支払う事となる
ピ───!
「バ、バッテリーが…!?」
鮮やかなトリコロールカラーが装甲から消え失せて灰色になり、ビームサーベルの刀身もプツリと消えて柄だけが残る。“フェイズシフトダウン”が起こってしまったのだ
こうなれば完全な物理耐性もなくなる。無傷で耐えてきたあらゆる攻撃が致命の一撃と化す
ドオオオン!
「ああああああッ!!」
すんでのところでシールドでミサイルの爆風を防ぐも、衝撃が肉体と精神を摩耗させる
敵は未だに数多く残っている。母艦も囲まれている。援軍も望めない
完全に詰みの状況にされてしまった事を悟ったキラは、絶望のあまり操縦桿を緩やかに手放し…
「……?」
その時だった。メインカメラを通して映ったモニターに、見覚えのない飛行機が映ったのは
それは通常の飛行機よりも大型に造られた輸送機であり、機体には地球連合軍を表すマークが大きくペイントされていた
それが何なのかキラが考える暇もなく、殺気だっているザフトの標的になったそれはアジャイルのミサイルにロックされ、放たれた弾頭を避けることも出来ず宙で爆散した
「ああ…!」
そして…炎に包まれ崩壊していく輸送機
ドビャァ!
その中から飛び出した光の破魔矢がヘリを貫いた
「え───」
バクゥとの戦闘中にも関わらず、キラは爆散する複数のアジャイルを見て静止してしまった。いや、キラだけではなく、キラやアークエンジェルを取り囲んでいたザフトのパイロット達も予想外の光景に唖然としている
砂漠の地熱をものともしない高出力のビームが雲ひとつない青空の彼方まで飛んでいく。火炎を撒き散らす輸送機がモウモウと吐き出す黒煙
そこから──1機のMAが飛び出した
それは灼熱の太陽光も意に介さず反射する漆黒の体色。背には大きな翼があり、下部には猛禽類の脚を想像させる2本の大きなクローアーム
だが、何よりキラの目を引いたのは…
「ガ…ガンダム!?」
機首には特徴的なガンダムフェイスが…ガンダムの頭部がくっついていた
猛スピードで突っ込んでくる正体不明機の姿にようやく正気を取り戻したザフト兵達は、バクゥで、ザウートで空の敵機に一斉射撃する
しかし、その機体は全く速度を落とさずに軽い横運動で弾丸とビームとミサイルの雨あられを躱し…
『撃滅!!』
そのまま人型に、MS形態に変形すると、左手に握られた棘付きの鉄球をバクゥに射出する。高密度の質量に上半身を粉砕されたバクゥは爆炎と共に散る。鉄球は引っ張るワイヤーに従い、MSの手元に収まる
突然の襲撃に混乱するザフト軍を見下ろしながら、謎のMSに乗っているパイロットは通信が接続されたコックピットで笑う
『誰かなぁ?誰から死にたい?アハハハハハ!!』
“クロト・ブエル”は型式番号GAT-X370──“