「アルテミスから臨検艦が来るらしいぞ」
ブリッジで連絡を取っていたムウがキラにそう告げる。ムウの隣には、キラには見覚えのない赤髪の男がいた
「よっ。お前さんがあの“ストライク”のパイロットらしいな」
「その声…もしかして、あの青いモビルスーツの?」
「おうよ。ブルートのパイロットをしている、ゲイリー・ビアッジだ」
「は、はじめまして、キラ・ヤマトと言います!」
その野性味の強い雰囲気に当てられて思わず大きな声で返事をしてしまったが、ゲイリー・ビアッジを名乗る男はそれを笑って許す
「おうおう、随分お元気なこって」
「す、すみません」
「構わねえさ、これから同じ釜の飯食うパイロット同士だ。よろしく頼むぜ『ストライクの坊主』」
「! …よろしくお願いします、ゲイリーさん!」
キラはゲイリーのその言葉に安心する。少し怖そうな人だと思ったが、ムウさんと同じで面倒見の良い人なのかなと感じたからだ
そうやって互いに自己紹介していると、ムウが普段とは違う神妙な顔つきでゲイリーに聞く
「なあゲイリー、お前が言ってたことが本当にあると思うか?」
「無いならそれで良いんだがねぇ」
「そうか………キラ」
「はい、なんですか?」
「ストライクの起動プログラムをロックしておくんだ。キラ以外誰も動かす事が出来ないようにな」
「え…どうしてですか?」
ムウの急な提案に、キラは質問する
「どうもアルテミスの司令官はきな臭いらしくてな、最悪アークエンジェルやストライクのデータを抜き出された上で奪われるかもしれん。それを防ぐためだ」
「そう、ですか……あれ?あの、ゲイリーさんのモビルスーツはロックを掛けないんですか?」
そう、ブルートもストライクと同じく『G』に属する最新兵器のMSだ。ならばストライクのみならずブルートにも強いロックを掛けるべきではないのだろうか?
しかし、ムウは首を横に振ると隣のゲイリーを見る
「ブルートのプログラムはロックを弱くするんだよ。ゲイリー曰くそっちの方が都合が良いらしい」
「…?」
キラには一体何の話をしているのか分からなかった。ゲイリーも薄く笑ってるだけだが、とりあえず言われたことはやろうと思い、キラはその場から離れて格納庫に向かった
格納庫に移動したキラを見送ってから数分後、アルテミスの傘──全方位光波防御帯が解除されてアルテミスに入港するアークエンジェル
アークエンジェルがドックに固定されたと見るや、周囲から銃を構えたユーラシア連邦の軍人達がアークエンジェルへと殺到してくる。少ししてから控え室の扉が勢いよく開き、宇宙服を身につけた男たちがこちらに銃口を突きつける
「よし!そのまま動くな!」
男の言葉に従い、静かに両手を上げるサーシェスとムウ
「氏名と階級を名乗れ」
先頭の男がそう命令する
「ムウ・ラ・フラガ大尉だ」
「ほう、エンデュミオンの鷹か…そっちのお前は?」
「ゲイリー・ビアッジ。階級は同じく大尉だ」
サーシェスがそう答えると、男は少し考えた素振りを見せる
「なるほど……ではフラガ大尉とビアッジ大尉は私たちと一緒に来てもらおう。言っておくが、無駄な抵抗はしない方が身のためだぞ」
「了解…」
静かにそう同意すると、2人は男たちと共にアルテミス内に司令室の前に連れて行かれる。そこにはすでに連行されていたマリューとバジルールがいた
「フラガ大尉、それにビアッジ大尉…」
「大変なことになっちまったなぁ、艦長さんよ」
サーシェスは白々しくそう言う
「本当に、このままで良いのね…?」
「ああ、さっき連中が格納庫に向かうのを確認できた。おそらくストライクとブルートのデータを抜き出すためにな…」
小さな声で確認し合う。そして兵士に促されて部屋に入ると、いかにも偉そうな態度の軍人が椅子に座っており、隣には副官と思わしき人物がいた
気味の悪い笑みを浮かべるこの男こそが、宇宙要塞アルテミスの司令官を務めるジェラード・ガルシア少将だ
「私がアルテミスの司令官であるジェラード・ガルシアである。アークエンジェルの艦長はどちらかね?」
「はっ!アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス大尉です!」
敬礼と共に名乗り出るマリューを見て、ガルシアは驚く
「君が本当に艦長なのかね?まだ若い上に女性ではないか」
言葉は柔らかいが、そこには侮蔑と軽蔑の感情がありありと表れており、同じ女性であるナタルは内心嫌な感情を抱いた
「まあいい、本題に入ろう。宇宙要塞アルテミスは地球連合軍の軍事施設だ。入港は許可したが、あの艦には軍の識別コードが確認されていない。よってアークエンジェルと艦内のモビルスーツは我々が管理することにした」
「な…お待ちください!我々はヘリオポリスでザフトの襲撃を受け、やむを得なくアークエンジェルを出港させたのです!識別コードは登録されていませんが我々は確かに軍属です!」
マリューは焦った様子でガルシアに言う。続けてサーシェスが静かな物言いで進言する
「ラミアス艦長の言う通りです。それに御言葉ですが少将殿、アークエンジェルや『G』は連合軍でもトップシークレットにあたる代物です。管理が目的とはいえデータの抜き出しなどを行ってしまえば、最重要機密の漏洩に繋がってしまいますよ」
「貴様…我々を脅すつもりか」
副官がサーシェスを睨みつける
「まさか、そんなつもりはありませんよ。ただ警告させていただいただけです」
「忠告は感謝する。しかし無駄なことだと言っておこう。すで2機のモビルスーツのうち、片方のモビルスーツはデータの作業が行われているとの報告があった……もう片方の方は相当固いプロテクトを掛けていたようだが、どうやら間に合わなかったようだな」
ガルシアはサーシェスの浅はかな策を嘲笑した
だが、サーシェスはその言葉を待っていたと言わんばかりに口の端を歪める
「随分と行動がお早いようで。しかし、そうですか…残念です、ガルシア司令」
そう言うと目に見えぬ早さで懐から黒い物体…拳銃を取り出してガルシアに突きつける
「ビアッジ大尉!?」
「なっ…!?き、貴様!!どういうつもりだ!?」
「どうこうもありません。あなた方はやり過ぎたんですよ」
狼狽する副官も意に介さず、サーシェスは言う
「あなたはアークエンジェルや『G』には識別コードがないから軍属の兵器ではないとおっしゃいましたが…今あなたの部下がデータを抜き出したブルート、実はあれ、アズラエル財団の主導で建造されたモビルスーツでしてね」
「な、なんだと…!?」
「残念ながら、ブルートは識別コードが登録されてるんですよ」
そう、ブルートはアズラエル財団の手によって、すでに10日前から地球連合軍のデータベースに登録されている。私財を使ってまで造らせたMSが他国の手に渡らないようにする為、万が一に備えてアズラエルが掛けていた保険だった
だが、ガルシアは識別コードが登録されていないアークエンジェルをユーラシア連邦への土産にしようと目が眩んでいた。だからこそ起動プログラムのロックが脆弱なブルートも、強固なプロテクトが掛けられていたストライクと同じ未登録兵器だと都合良く認識した
それが仕組まれた罠であるとも気づかずに…
「大変不本意ですが致し方ありません。ガルシア司令官殿、あなたを機密漏洩の容疑で拘束、強制連行させてもらいます」
「貴様…!計ったなっ!?」
「何をおっしゃいますか。我々はあなたに警告しましたよ。モビルスーツからデータを抜き出すことは最重要機密の漏洩に繋がると」
しかし、その警告を無視して、あまつさえ銃を突きつけて脅迫してでもデータの抜き出しを強行したのは、紛れもなくガルシア自身に他ならない
銃をガルシアに向けつつ周囲の兵士に目を向ける
「銃を下ろしたらどうです?このままではあなた方もガルシア司令の機密漏洩を共謀した罪に問われることになる…一生を牢屋で過ごしたくはないでしょう?」
サーシェスのそのセリフには不思議な重みがあり、聞いていた兵士たちは狼狽えながらも顔を見合わせて…両手を銃から離して、上に上げて降伏の意思を示す
「き、貴様ら、何をやっとるか!!」
「さて、後はあなた方だけです。言っておきますが…無駄な抵抗はしない方が身のためですよ」
先ほど、自分たちを拘束した兵士の言葉を意趣返しと言わんばかりにガルシアに告げるサーシェス
今にも怒りで爆発しそうなほど顔を真っ赤にするガルシア。するとサーシェスは銃を下ろして後ろを向き、ナタルに話しかける
「ところでバジルールの姉ちゃん。アンタ抗命罪を犯した奴がどんな刑に処されるか知ってるか?」
「え…な、何をいきなり」
「軽罰から重罰まで色々あるが、そん中でも1番重いのが…」
パァン!
突如響く火薬が破裂する音
それはガルシアのその眉間に向かって、振り向くことなく銃弾を放ったサーシェスの拳銃の音
腰に右手を当てたままガルシアは目を見開いて硬直し、その姿勢のまま、デスクの上に倒れ伏した
「───強制連行に抵抗した際の銃殺刑だ」
ドサ!
「なっ!?」
「お前!?」
「し、司令!?」
パァン!
再び撃ち込まれた銃弾が副官の足元を穿つ
「ひぃ!!」
「おっと、動くなよ」
人を、しかも上官にあたる人物を銃殺したというのに、サーシェスは顔色ひとつ変えることなく言う
「たった今、ジェラード・ガルシア少将は機密漏洩による地球連合軍への反乱罪、及び抗命罪によって死刑に処された」
「あなた、なんて事を!!」
司令官を撃ち殺すという暴挙にマリューが非難の声を上げるが、サーシェスはガルシアの死体に近づき、右手を掴んで見せつける。その手には拳銃が握られ、トリガーには人差し指が添えられていた
「ラミアス艦長、こいつァ俺たちを殺して大西洋連邦の秘密兵器を強奪しようと試みた反逆者だ。俺が殺らなきゃ、アンタらの誰かが死んでたかもしれないぜ?」
「ッ……!」
「だからって、何も殺すことは…」
「このままこいつを放置すれば、連合内での大きな内乱に繋がる可能性がある。そんなことになったらプラントとの戦争どころじゃなくなるぜ…?」
サーシェスのそんな言葉に、もはや何も言い返せないマリューとムウ。ナタルに至っては未だに状況を飲み込めないでいた
「さてと、そこの副官殿」
「ヒッ!」
怯えた表情で床に座り込む副官。サーシェスはすでに銃を仕舞い込んでいるが、そんなことは何の慰めにもならなかった
「今のアンタには、死んだガルシア司令の代わりにこのアルテミスの指揮権を行使できるようになっている。元司令は俺たちの艦とモビルスーツを接収しようとしていたわけだが──アンタはどうする気だ?」
「───ッ!!」
もはや声にならない悲鳴すら上げる副官。しかし、ガルシアのような惨めな死に方だけは絶対に避けたかった副官は必死に恐怖を抑え込んで…
「ぜ、全兵士に通達…!ガルシア司令官は反乱罪を企てたため死刑に処された…全兵士は、アークエンジェルからた、退艦せよ…!」
部屋にいる兵士に震えながら命令するのであった