アークエンジェルがアルテミスに拿捕されていたその同時刻…
ヴェサリウス(ナスカ級高速戦闘艦)の後方に陣取るガモフ(ローラシア級MS搭載艦)の艦内…
その更衣室の中でベンチに座り込んでいたイザークは、これ以上ないほどに苛立っていた
「イザーク」
そんなイザークに声をかけるのはニコルだ。水分補給のための飲料水が入った容器を手渡しながら言う
「少し落ち着いたらどうですか?」
「落ち着け、だとぉ…これが落ち着いていられるか!!ディアッカがやられたんだぞ!!」
努めて優しく諭すように伝えるニコルだが、今のイザークにはその優しさすらもストレスを溜める要因でしかなかった
ブルートのファングはバスターのコックピットをギリギリ掠めていたが、ディアッカの命自体に別状はなかった。しかし、コックピットの左端を貫いたファングのビームサーベルはその箇所を溶かし尽くして蒸発させ…
「アイツの「左腕」を見なかったとでも言う気か!お前は!!」
結果───ディアッカは肩から先の左腕を欠損する重傷を負ったのだ
イザークたちはプラントの士官学校で成績が上位10名の卒業生のみに支給される赤いパイロットスーツ…赤服を着ることが許されたエリートなのである。唯一自分より上の成績で卒業した主席のアスランは何かと気に食わないことがあるが、それでも自分たちは選ばれたエリートなのだと自負していた
それが先の戦闘ではどうだ?突如乱入してきた青いMSに4人がかりで翻弄され、損壊を受け、挙げ句の果てに戦友がやられたにも関わらず逃げ帰る始末…これが誇り高き赤だと?
「あの青いモビルスーツのパイロット…ナチュラルかコーディネイターか知らんが絶対に許さんッ!!あの青い奴は俺がやる!!」
「イザーク」
「ニコル、お前とて邪魔をするならば容赦は…」
「落ち着いてくださいイザーク!!」
「!?」
徐々に怒りのボルテージが上がっていくイザークをニコルが叱責する
もしこの場にアスランやディアッカがいたとしても、ニコルの様子に1番驚いたのはイザークであろう。普段からイザークはニコルのことを、実力はあるくせに気弱な軟弱者だと思っていたからだ
「イザーク、僕だってディアッカがやられて怒っているんです。でもあの青いモビルスーツは、おそらくストライクよりずっと強い。怒りに任せて、侮って戦っては次にやられるのは僕たちになります」
「何…?」
「アスランだって同じ気持ちです。いや…彼は僕たちの隊長だから、もしかしたら1番思い詰めてるかもしれない」
「…………」
自身の思いの丈を話すニコルの姿に、イザークも黙って聞くことを選ぶ
「僕たちで倒しましょう。みんなで無事に帰ってきた方が、きっとディアッカも喜びます」
「…フン、お前に言われるまでもない。奴を完全に叩きのめしてこそコーディネイターなのだからな」
しかし、肝心の青いMSと戦うにしても1つの問題点があった
「だが、あの要塞の防御をどう突破するつもりだ?
「その事に関してですが…実はすでにクルーゼ隊長に話を通してありまして」
「何?」
思いもよらぬ返答に目を細めるイザークに、ニコルは微笑みながら言った
「ブリッツの力を使います」
一方、反乱因子の排除の名目でガルシアを始末したサーシェスは、アークエンジェルのMSデッキに移動していた
辿り着いた格納庫は整備班の人間や前世代のMA“ミストラル”が慌ただしく動き回っており、ストライクの開かれたコックピットの中には目的の人物がいた
「精が出てるな、ストライクの坊主」
「あ、ゲイリーさん」
中にいたのはキラ・ヤマトだ。プロテクトを組み上げた後は、アルテミスに連れて行かれた4人以外のアークエンジェル艦員全員と共に銃を持った男たちに食堂に連れて行かれ監視されていたのだが、なぜか30分ほど経つと兵士たちに混乱が生じて、そのまま訳も分からないうちに解放されたのだ
そしてラミアスたちの帰還と同時に、酷く怯えた様子の男の指示の元、現在アルテミスはアークエンジェルの補給活動を行っていた
キラはストライクの起動プログラムを簡易なものに直していたところなのだが、思わず作業の手を止めてサーシェスに聞く
「あの…聞きたいことがあるんです」
「ン?なんだ?」
重い雰囲気のキラとは対照的に、サーシェスは軽い様子で聞き返す
「…艦の中で噂になっているんです。アークエンジェルが解放されて補給活動が行われているのは、ゲイリーさんがここの司令官を撃ち殺したから、だって…」
それを聞いたサーシェスは内心舌打ちする
いまさら人殺しがどうこう言われても毛ほども気にする気がないサーシェスだが、ストライクのパイロットであるキラに不信感を抱かれるのはマズい。人殺しを忌避する甘っちょろいガキだが、アークエンジェルではサーシェスの次に戦力になるのだ。指示を聞かれない可能性が増えるのは中々面倒臭いことに直結する
ゆえにサーシェスは、少しだけ考える素振りを見せてから、悩ましい感じで話し始めた
「あ〜………いや、間違っちゃいねえ。確かに俺はガルシア司令官殿を射殺した。ラミアス艦長たちの目の前でな」
「そんな…同じ軍人で仲間なのに、どうして」
「軍人だからこそだ」
悲壮感を醸し出すキラを諭すように語り始める
「ここだけの話だけどな、実は俺は正規の手続きで軍に入ったわけじゃないんだよ」
「え?」
「元々は傭兵として世界各地を渡り歩いていたのさ。本当ならただの傭兵として連合に参加してたんだが、気がつけばどういうわけか新型モビルスーツのテストパイロット…世の中分かったもんじゃねえなぁ」
「そうだったんですか…でも、それとさっきの話にどんな関係が?」
投げかけられた質問に対して、サーシェスは自嘲気味に答える
「俺は傭兵として多くの人間を殺してきた。敵ならば女子供だろうが命乞いしてくる奴だろうが容赦なく、な…情報を吐かせるために拷問だってしたこともある」
「なっ…!」
そのあまりに凄惨な事実に絶句するキラだが、サーシェスは「けどな」と付け加える
「ガルシアの野郎はお前さんら民間人に手を出すという超えちゃならねえ一線を越えようとした。戦えない市民を守るのが軍人の仕事であるはずなのにな…」
「………」
「いいか、ストライクの坊主」
サーシェスはキラの顔を真正面から見つめる
「世の中には超えちゃならねえ一線というものを平気で踏み越えていく奴だっている。そういう奴を野放しにしてたら、いつかお前さんの家族やダチも犠牲になるかもしれねえ」
「ゲイリーさん…」
「ダチを守るために戦ってんだろ?…負けんなよ」
「……はい…!」
決意を固めた表情で頷く。きっとキラの頭の中では、友達を絶対に死なせないという、戦争をナメきった甘い考えを
(麗しい友情だな…まったく笑えてくるぜ)
そうやって目の前のガキを嘲笑っている、その時だ
ビィー! ビィー! ビィー!
『総員、第一戦闘配備、繰り返す。総員、第一戦闘配備』
アラート音と共に、ブリッジからの通信が格納庫内へと響き渡った
「! 敵襲だとッ!」
「どうして…?ここの要塞は、敵も攻撃も寄せ付けない防御壁で守られているはずなのに」
“アルテミスの傘”の話を聞いていたキラは不思議に思うが、正確には全方位光波防御帯は常時起動しているわけではなく、敵艦・敵MSの接近を確認した場合のみ動かしているのだ
「なるほど、ブリッツか」
その仕組みを理解していたからこそ、サーシェスはどうやって敵が奇襲を仕掛けてきたのかが分かった
「ザフトが攻撃を仕掛けてきたなら補給は打ち止めだ。ストライクの坊主!お前はランチャーストライクに乗って、艦の上で砲撃戦に備えとけ!」
「あ…ゲイリーさん!?」
それだけ言うとサーシェスはパイロット控え室に移動し、即座にパイロットスーツに着替えると格納庫に蜻蛉返りする。ブルートに乗り込み、出撃準備を進める
『ブルート、カタパルトデッキへ』
ミリアリアの通信が響き、ブルートがカタパルトデッキへと移動させられる
『ビアッジ大尉、聞こえますか?アルテミスにブリッツが張り付いているようです。それと、艦長があまり艦から離れないようにと!』
「だろうな…了解!ブリッツはこちらが引き受ける!アークエンジェルはアルテミスから脱出しろ!」
それが伝わるとアークエンジェルの左脚部分が開き
「ゲイリー・ビアッジ、ブルート、出るぜ!!」
リニアカタパルトによる射出で、ブルートがアークエンジェルから出撃した