種芽吹く世界を戦争屋は駆る   作:ジャギィ

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明日を生きる為に

アルテミスから脱出して約1週間

 

アークエンジェルはローラシア級の追撃を振り切るべく、息を潜めながら行動していた。そして……

 

「半径5000に敵艦の反応は捉えられません。完全にこちらをロストした模様」

 

C.I.C.の通信員からの報告に、ブリッジに安堵の雰囲気が広がる。特にミリアリアなどの民間人はずっと張り詰めていた空気を弛緩させていた

 

「アルテミスが敵の目を上手く眩ましてくれたようね」

「しかし、補給の問題が残っています。ビアッジ大尉曰くブリッツのミラージュコロイド・ステルスでアルテミスの傘を攻略したらしいですが、そのおかげで補給が中途半端な形で終わっています」

「特に水が、なぁ」

 

ナタルの緩んだ空気を引き締めるような言葉に「同感だ」と肯定するムウ

 

「整備の方にも問題が出てきています。パーツ洗浄機の使用も極力控えるようには言っていますが、それだとて完全という訳ではありません。それにストライクとブルート、メビウス・ゼロはこのアークエンジェル防衛の要です。整備用機械の節約をしすぎて実戦で使い物にならなくなっては本末転倒です」

「まいったわね…地球までまだまだ時間がかかるというのに、このままだと道中で力尽きてしまう…」

 

補給のことを考えれば、アークエンジェルが向かう次の目的地は「月」だ。地球軌道圏内に入れば、少なくとも地球軍からの援助も受けられるし、機密であるアークエンジェルの行先も定まるはずだろう

 

しかし、その航路はあまりにも険しい

 

「これで精一杯か!?もっとマシな進路は取れないのか!?」

「無理ですよ。例えばそのルートの進路上はデブリ帯と重なっているんです。でもここのルートをこう回り道すれば、時間はかかりますが確実に月に着けます」

「どうしても通れないのかしら?私たちには時間がないわ」

 

困ったような表情でマリューは聞くが、操舵手であるアーノルド・ノイマンも困った顔で言う

 

「デブリ帯に突っ込めば、この艦もデブリの仲間入りになりますよ?」

 

暗に「無茶苦茶なこと言わないでください」と答えるノイマンにマリューは深いため息を吐く

 

近道を通ろうとするとこの艦が沈むことになり、遠回りすれば間違いなく途中で行き倒れる

 

どう足掻いても詰みと言っていい絶望的な状況…しかし、そんな現状でムウはしきりに呟く

 

「デブリ…デブリねえ……」

「…? どうしたの、フラガ大尉」

「いや、思っちゃったのよ」

 

暗い雰囲気を吹き飛ばすように、ムウは言う

 

「つくづく“不可能を可能にする男”かな、俺って」

 

 

 

「デブリベルトから物資を補給する?」

 

居住区内にある食堂で、テーブルを挟みながらキラたち学生組がムウに聞き返した

 

「ああ。今、俺たちはデブリベルトに向かっている。そこには戦艦・モビルスーツ・モビルアーマーの残骸とかがあるから、弾薬や修理に必要な鋼材の補充に使える」

 

デブリベルトは小惑星が集まってできた帯状の宙域であり、周辺の宇宙のゴミが多く流れ着いていることもある。そこにあるジャンクなどを集めて地球までの必要物資とした再利用するのが今回の目的だ

 

「それに、デブリベルトにはユニウスセブンの残骸も流れ着いている。氷の塊を拾うことができれば、水不足の解決にも繋がる」

「学生のあなたたちには、補給物資の運搬をする際の船外活動を手伝ってもらいたいの」

「でも、そのためにデブリベルトを漁るなんて…」

 

マリューの提案にキラたちは互いに顔を見合わせて言う。先ほどの話、ユニウスセブンのことも考えれば、その補給活動は宇宙のゴミ漁りどころか墓荒らしとも言える行動だ

 

なかなか了承の返事を返さない中、食堂に男の独特な声が響く

 

「悪いが迷ってる暇はねぇぜ、ストライクの坊主」

「あ、ゲイリーさん」

「誰だ、キラ?」

 

そう問うのはサングラスのようなメガネをかけたキラの友人の1人“サイ・アーガイル”だ。それに答えるのは、アークエンジェルブリッジでCIC管制官の手伝いをしている女友達の“ミリアリア・ハウ”だった

 

「ゲイリー・ビアッジ大尉よ。ほら、キラの“ストライク”とは別の“ブルート”、あのモビルスーツのパイロットをしている人なの」

「パイロット?……てことは、もしかしてこの人もコーディネイターなの?」

 

ミリアリアの説明を聞いた赤髪の少女“フレイ・アルスター”が心底嫌そうな顔でサーシェスを見る。その表情には、コーディネイターへの強い嫌悪の感情がありありと見て取れる

 

「初対面の嬢ちゃんに随分嫌われちまったようで…」

「そう気落ちすんなって。お嬢ちゃんも早とちりしないことだ。ゲイリーはコーディネイターじゃない」

「えっ、本当?」

「この艦の設備で調べたことだから本当よ。ビアッジ大尉の体はコーディネイトされていないわ」

 

ムウとマリューがフォローをすると“トール・ケーニヒ”と“カズイ・バスカーク”がサーシェスに聞く

 

「じゃあ、どうしてモビルスーツを動かせるんですか?」

「しかもザフトと互角に戦えるなんて」

「才能なんじゃねえのか?」

「……ヤな人……」

 

言い切ったサーシェスをそう評するフレイ

 

「コラ、フレイ!」

「ごめんなさい、ビアッジ大尉…」

「ハハハハ!正直でいいじゃねえか」

 

婚約者でもあるサイがフレイを叱り、ミリアリアが謝るのをサーシェスは笑って流す

 

「さてと、話を戻すぜ。デブリから補給するのが嫌みたいだがよぉ、このまま補給もせずに宇宙を彷徨ってたら、俺たち全員お陀仏だぜ?」

 

無論、そんな事態になれば物資をかっぱらってブルートで逃げるだけなのだが、アズラエルの依頼はアークエンジェルと『G』の護衛だ。逃げるのは本当に最後の手段にしておかなくてはならない

 

「死んじまったら何もできなくなるだけだぜ?命あっての物種ってな」

「その通りよ。それに、失われた者たちを漁り回ろうというんじゃないわ。ただ、ほんの少し今の私たちに必要な物を分けて貰おうというだけよ……生き残る為に」

 

マリューにそう優しく諭されては学生組のみんなも首を横には振れず、結果として補給作業の手伝いを了承するのだった

 

 

 

「ったく…戦争屋のこの俺が、補給活動なんざすることになるとはな…」

 

全壊したドレイク級戦艦の一部をブルートで運びながら、通信の切ったコックピットの中でサーシェスはぼやく

 

本来ならば、サーシェスはこんな面倒事をせずにアークエンジェルで待機しているつもりだったのだが、人手が1人でも多く欲しいというマリューのありがたいお言葉のおかげでブルートを動かせるサーシェスが駆り出されることになったのだ

 

断ろうとも考えたのだが、そうすると学生組が反感を覚えて補給活動の参加を取りやめる可能性がある。「偉そうに説教垂れといてお前は何もしないのかよ」という意味だ

 

ビームサーベルでユニウスセブンの凍り付いた水を切り分けながら、ミストラル上部の作業用ポッドにパスする作業を繰り返す

 

「ん?」

 

そんな時だ。ブルートの活動宙域とは反対側の宙域でビームが何本か迸り、遅れてMSの爆発と思わしき光が見えた

 

「ストライクの作業宙域か?」

 

補給を止めて爆発の発生源へとブルートを動かす

 

目的の場所に辿り着くと、ストライクがデブリと一緒にただただ宙を漂っていた。動き出すような気配が感じられない

 

ストライクとの回線を繋ごうとするがどうも通信が切れているようで、仕方なくマニピュレーターでストライクに触れて接触回線で話しかける

 

「何やってんだ?ストライクの坊主」

『ゲイリー…さん…?』

「通信なんざ切って何してやがったんだ?」

『す、すみません。でも、ちょっと……あれ?』

「あん?」

『あの、前方に何か………救命ポッド?』

 

キラの見る方を向いてみると、確かにブルートのモニターには緑色の救命ポッドが映っていた

 

「救命ポッドだぁ?…おいストライクの坊主。お前さっきモビルスーツを墜としただろ?なんだった?」

『え?…ええっと、強行偵察型のジンでした』

「強行偵察型?…俺たちを追ってきたローラシア級の速さなら直接追いかければ良い。それをわざわざ長距離航行能力のあるモビルスーツで偵察に出すだと………ストライクの坊主」

『はい、なんですか?』

「あの救命ポッド、拾ってくぞ」

『え!?』

 

サーシェスから出てきた言葉に心底驚くキラ。ゲイリー・ビアッジとしての過去を聞いていたキラからすれば、こういう事には興味がないものだと思っていたのに

 

「なんだ?見殺しにでもしたかったのか?」

『そんな、見殺しなんて!でも、どうして急に?』

「ま、ここで見殺したら、さすがの俺も夢見が悪くなりそうだしな」

 

もちろん、そんな事は全くもってあり得ない。サーシェスが救命ポッドを拾おうとした理由はただ1つ

 

(こいつァ戦争の匂いがするぜ…!)

 

戦争屋としての勘が告げていたのだ

 

これは、さらなる戦争の火種になる()()なのだと

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